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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


君がそこにいた

1.
「お母さんを、助けて欲しいの」

防災頭巾にモンペを穿き、おかっぱ頭の少女・・・。
明らかにどこをどう見ても普通ではない。
草間武彦は頭を抱えた。
どうしていつも俺のところにはろくな依頼人が来ないのだろうか?と。
「私の大事なものをお母さんに届けて欲しいの」
少女はなおも続ける。
「私が死んだのは戦争のせいなのに、お母さん、自分のせいだと思っているの。私がお母さんを嫌いって言っちゃったから・・・。だから私の大事なものを見つけて渡して欲しいの」
草間は聞いた。
「その大事なものってのはどこにあるんだ?」
「お母さんが仕舞いこんでしまって、どこにあるか分からないの。きっとお母さんの家にあるはずなの」
「・・・とりあえず、探し物に強そうなヤツに頼んでやる。それでいいか?」

2.
観巫和(みかなぎ)あげはは草間興信所へ差し入れに行こうと思っていた。
と、甘味処・和(なごみ)に遊びに来た丈峯楓香(たけみねふうか)がたまたま一緒に行くと言うので一緒に行くことにした。
そして丁度この依頼の最初から最後までを聴いてしまっていたのであった。
話を聴き終わるとシュライン・エマは少女に訊いた。
「戦争時から随分経ってるのに…この事務所見つけるまでずっとさ迷っていたの?」
少女は首を横に振った。
「お母さんと・・ずっといたの」
そう言うと少女は俯いて、涙をこらえているようだった。
「このままというのは可哀想ですから、何とかしてあげたいけれど・・」
あげはは顔を曇らせた。
「見つけてあげよう!大事なものなんだから、見つけてあげなきゃ!」
楓香が力強くそういうと、あげはは「そうですね」と微笑んだ。
この元気なところが楓香のいいところだろう、とあげはは思った。
「まぁ、ちょっと待て。今、探し物に強いヤツに連絡してきた。そいつが来てからでも遅くないだろう」
草間は少し目を離した隙に電話をしてきたらしい。
「いくつか訊いてもいいかしら?」
エマが俯いて泣く少女に優しく語りかけた。
「お母様のお家に行くのはいいとして、急に私達が押しかけてしまっても大丈夫なのかしら?」
「お母さん、今病院にいるの。あの家にはもう、誰もいないの・・」
少女はますます顔を暗くさせた。
「ねぇ、あたしも訊きたい事があるんだ。あなたの名前、教えてくれるかな?」
楓香がそう言うと少女は『こゆき』と名乗った。
「大丈夫!お姉ちゃん達が絶対見つけてあげるから!だから、もう泣かないで?」
こゆきは楓香、あげは、エマの顔を順に見つめた。
目があうと、あげはは『大丈夫』と頷いて笑った。
こゆきに、微かに笑みが戻った。
「あのー、遅くなりましたが『お兄さん』も付け加えておいてください・・」
がちゃりと扉が開き、草間が呼んだ『探し物に強いヤツ』・柚品弧月(ゆしなこげつ)が立っていた。


3.
柚品に軽く説明をし、4人はこゆきの案内でこゆきの母親の家へと向かった。
母親の家はこの東京では数少ないであろう戦後すぐに作られたような古ぼけた長屋の一角にあった。
鍵は掛かっておらず、家の中も生活の途中で家主が突然不在になったであろうことを物語っていた。
入ってすぐに、あげはは持参のデジカメで念写を試みることにした。
だが、あげははこゆきの話を聞いたときから引っかかっていることがあった。

お母さんの大切なものは、何よりも彼女との思い出ではないのかしら・・?

あげはの中にそんな思いがあったからか、形も大きさもわからない大切な物だからなのか。
こゆきが生活していたわけでもないこの家の中では何度試しても上手く写らない。
仕舞いこんだという場所を特定できれば、あるいは・・。
あげはは少し家の中を見てみることにした。
「お母さん、突然倒れたの」
こゆきが誰に語るでもなく、そう言った。
「私、お母さんが倒れるのを見ていたの。でも、何もできなくて・・。近所の人が発見してくれるまで、お母さんはずっと私にごめんなさいって言って・・」
こゆきは言葉を詰まらせた。
「泣かないで。あなたの大事なものを探してお母様に届けてあげる。その為に私達はここに来たんだもの」
エマはこゆきの頭を軽く撫でた。
こゆきはゆっくりと深呼吸をして「うん」と頷いた。
「ねぇ、お母さんがどこに仕舞いこんだか分かるかな?なんか、手当たり次第探すの家捜しみたいだから」
楓香が家の中をざっと見回してこゆきに訊いた。
「押入れの中に入れたの」
「押入れは1箇所・・。ならば、簡単に見つかりそうですね」
楓香と共に家の中を見回ってきた柚品がニコリと笑った。
が、押入れを開けた柚品は前言を撤回せざるを得なかった。
なぜなら、押入れの中は崩れんばかりに押し詰められた物で埋め尽くされていたからだ。
「・・こ、これはすごいかも・・」
楓香からそのきっちり詰められた物に思わず素直な感想がこぼれた。
「千里の道も一歩から・・ですね。頑張りましょう、楓香ちゃん」
あげははポンと楓香の方を叩いて励ました。
ここにあると言うことがわかれば、念写の必要はもうないだろう。
あげはは腕まくりをして押入れの中の物を出し始めた。


4.
押入れの物は全てがダンボールだった。
表面には必ず中に入っている物が書いてあり、数個中身を見たが表記どおりのものが入っていた。
しかもよく見ると入れた日付が書いてあり、奥の物を出すほど古い日付になっていった。

こんなにいっぱい、全部1人で片付けたのでしょうか?

無駄にダンボールの中身を調べる必要もなく、押入れの中から次々にダンボールは運び出された。
と、突然柚品が声を上げた。
「これ・・無記入です」
押入れの奥が見え始めた直後、そのボロボロのダンボールは見つかった。
「・・開けますよ?」
慎重な面持ちで柚品がそう声を掛けたので、あげはは黙って頷いた。
ダンボールを開けると、中からは色々な物が出てきた。
手作りらしき人形、お手玉、おはじき。
小さな子供服に木彫りの手鏡、髪を梳いていたであろうクシや着物を崩して作られた小さなお守り。
柚品が一つ一つを手に取り、なにやら精神を集中させている。
この品物を念写すれば、あるいは何か写るかもしれない。
あげはは1つずつ、それらをデジカメに収めた。
「これ・・これ!私の大切なもの!!」
こゆきがダンボールに駆け寄った。
「これ、全部持っていく!そしたらお母さん、わかってくれると思うの!」
嬉しそうにこゆきが笑った。
だが・・・
「それは、やめた方がいいかもしれません」
柚品が静かに首を振った。
「・・どうしてかしら?何か問題があるの?」
あまりに唐突な柚品の言葉にエマは面食らったように言った。
「問題・・というか、お母さんにとってこゆきちゃんの大切にしていた物は少々思い入れが強すぎると思うんです」
柚品が一つ一つ言葉を選んでいる。
それは柚品がそれを言うか言うまいか悩んでいる証拠でもあった。
あげはも柚品が何を言おうとしているのかを待った。
「・・すべてのダンボールに内容物を記入するほど几帳面な人が、何故この箱だけ無記入なんでしょう?」


5.
「わからないよ!そんなの全然わからない!」
こゆきがブルブルと頭を振って泣きじゃくる。
エマは先ほどの柚品の言葉に何かを感じたらしく、ゆっくりと話し始めた。
「いい?あなたのお母様はあなたを亡くしたことで、とても大きな傷を負ってしまったの。そして、あなたの大切にしていたものを全てこの箱の中に仕舞って忘れてしまおうとなさった・・。でも、思い出と呼ぶにはあまりにも辛すぎて、あなたの名前を書くことすらできなかった。・・推測にすぎないけど、柚品さんはそれを見たんでしょう?」
エマがそう柚品に促すと、柚品は静かに首を縦に動かした。
「・・じゃあ、お母さん・・お母さん助けられないの?」
涙をポロポロと流しながらこゆきは、柚品とエマを見た。
「まだ、大切なものあるじゃない」と楓香がポツリと言った。
「私もそう思います」あげはがにこりと笑った。
2人はニコニコとしたまま、こゆきに言った。

「お母さんが大切にしてるのはきっと、こゆきちゃんの宝物じゃなくて、こゆきちゃん自身だと思うのよ」
「お母さんは貴女に逢う事が出来たらきっと喜んでくれると思うの。子供は何ものにも代え難い宝だ、っていいますから」

どうやら、楓香とあげはは同じことを考えていたらしい。
「お母さんのいる病院、わかりますか?」
柚品がニコリと笑ってこゆきに訊いた。
「わからなければ調べるだけよ。興信所事務員ですもの、それくらいは簡単だわ」
エマもニコリと笑った。
「でも、お母さん、私がこうしてここにいること信じてくれるのかな?」
こゆきが、不安そうに訊いた。
あげはは「もちろんです」と言った後にさらに続けた。

「だってあなたはそこに確かにいますもの。いくらでも私達があなたの口になって差し上げます」

4人は同時にその言葉を口にしていた。
あげはは、デジカメの先ほど撮った写真をモニターに写した。
そこには優しく笑う母親の姿と、その横で笑うこゆきの姿があった。

この写真を渡したら、きっとお母さんも信じてくださいますよね・・・?


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 /翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15 /高校生

1582 / 柚品・弧月 / 男 / 22 /大学生

2129 / 観巫和・あげは / 女 / 19 /甘味処【和(なごみ)】の店主

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■         ライター通信          ■
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観巫和あげは様

初めまして、とーいと申します。
この度は『君がそこにいた』へのご参加ありがとうございます。
久しぶりにシリアスなものを書いたせいか、少々自分を見失いつつ書いております。(笑)
物語は母親に会う前で終わっておりますが、皆様が少女・こゆきへ思いやりと優しさを持って接してくださった時点でハッピーエンドになっていると思います。
あげは様の能力を上手く引き出せずに申し訳ありません。
が、やはりお友達だからでしょうか?
楓香様と同じ『親にとっての宝は子供』というプレイングの部分を生かさせていただきました。
楽しんでいただければ幸いです。
それでは、またお会いできる日を楽しみにしております。