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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


 船のある空。

●国民行事?
 かつて人は空に夢を求めた。山よりも高く、地の果てよりも遠い。
 たとえ偽りの翼を手に入れた現在でさえ、その思いは変わらない‥‥のか?

「へんしゅうちょおおおう〜っ!」
 いつものように。いつものように悲鳴やら怒号やらの編集部。
「‥‥邪魔するなら帰れ」
「え〜っ? 国民行事を忘れてるっぽい編集長の代行なのに」
 斬馬刀片手の女の頭の上でサルが首を傾げる。その前には机を抱えて震える三下忠雄。
「国民行事?」 「鏡開き」 「しかるのち雑煮」
 女―井上―が目を光らせる。
「あのねえ‥‥」
 いつものように碇麗香はため息をつく。が。次の瞬間、編集部の窓が壁が弾けた。

「なんなのよ。本当に‥‥」
 しばらくして。瓦礫に埋もれる中で麗香は身を起こした。すぐに突っ立ったままの井上に気付く。
「どうしたの?」 「やられた」
 井上はじっと空を見ていた。そこには空に浮かぶ船がある。
「奴らに所長と具材を持ってかれた」

●コタツのある部屋。
 その部屋には二台を連結したコタツがあった。コタツの上にはそれぞれカセットコンロが一台ずつ。
 そこを囲むのは五人。
 一人は黙々とミカンの白い筋を取っている井上。
 一人は膝の上の白いサルと戯れている榊船亜真知。
 一人はコンロと襖(二つある入り口の一つ)を交互に見ているピュ―イ・デーモン。
 一人は何処となく居心地知が悪そうなW・1108。
 そして。一人が私、碇麗香。
 それはアトラス編集部上空付近に現れた船に乗り込んだ者たちだった。

「平和、ね」
 花柄の急須で湯飲みにお茶を注ぐ、麗香が呟く。
「そうなのか?」
 じっとミカンの房を見つめていた井上が、わずかに視線をW・1108に向けた。
「ボクが感知できる範囲では」
「なるほど」
 ぽいと口にミカンを放り込み、井上が頷く。
「‥‥そうじゃないでしょ! 私は、なぜ、どうして、ここで、こうしているのか、を聞きたいの!」
「お鍋が来るからぴゅ♪」
 ドン。
 嬉しそうなピューイへの返事は、勢いよく湯飲みを天板に叩きつける音。
「‥‥怖いピュ」
「まあ食え。それと、火傷はしなかっただろうな?」
「うるさい! いいから答えなさい!」
 脇のザルからミカンを一つ投げた井上と受け損ねて壁際までとりに行くピューイを順に睨む。
「まあまあ。確かに予想外の事態にイラつくのは分かりますが」
 ははは、と肩をすくめるW・1108。もっとも睨まれて笑いはすぐに止めた。
「そうそう。所長が無事だったんだし、問題なし♪」
「う、うにいい〜」
「‥‥無事でなくなったようにも見えますがね」
 ぎゅうっとサルを抱きしめる亜真知に、W・1108がぽつりと。
「ただまあ‥‥お聞きしたいことはいくつかありますね」
「ぴゅ?」
「そうか」
 井上は小さく笑うと新しいミカンを剥き始めた。

●仕事のある場所。
 W・1108がアトラス編集部に来たのは、依頼を受けてのことだった。
 どういうルートでその依頼が来たのかも不明ながら、その依頼が受理されるまでの経過時間の短さもまた異例。
『空に現れた船から所長と具材を確保せよ』
 その一文のみならばいつもと変わらなかったが、そのあと珍しい文が続いていた。
『なお、現地の関係者に連絡を取るように』

「あれですか」
 事件発生からしばらくが過ぎてはいた。だが、船はまだそこにあった。いっそ単身で乗り込む方が楽だとは思えた。
(まあ、依頼ですしね)
 とりあえず、編集部に顔を出すことにする。

「女性と子供、ですか」 「不満そうだな?」
 井上と名乗った女性がにやりと笑う。
「いえ、失言でしたね」
 その笑みに何か自分に通じるものを感じ、W・1108は頭を下げた。
 奪還作戦に参加するのはW・1108を含め、三人。女性が一人に子供が二人。もっとも能力が容姿とは無関係なことはよく分かっている。
「構わんさ。色々あるのでな」
「何か御存知ということですかね」
「推測だけならば。まあ、その推測からだが、光学迷彩は無駄だろう」
「ほう? ますます興味深い」
 薄い笑みを浮かべる井上を観察する。
(肩書きはさらわれた所長の部下)
「‥‥それも良いかもしれんな」
 W・1108の思考を呼んだかのように、井上の笑みが益々深くなった。

●理由ある殺陣。
「手違いが多すぎるようですね」
「色々あるということさ」
 背後の気絶した亜真知を庇い、井上に肩を並べる。
「なるほど、その一端を聞いてみたいものですね!」
 その途端に正面より真っ直ぐ伸び来た二本の触手をそれぞれ払いのけた。

『テレポートするぴゅ』
 船への潜入は、同行するピューイのその一言で完了した(なお、なぜか麗香も巻き込まれている)。その後、やる気にはやる少年少女の活躍(?)により、入り口が発見。以下現状に繋がってくる。
(攻撃自体は単調極まりない)
 動くものを叩くあるいは貫く。触手の動きはほぼその二つに集約されるだろう。ただそれだけに厄介とも言える。
(痛覚があれば少しはマシでしょうがね)
 何度弾かれようとも襲い来るところから、知恵も含めておそらくないだろう。かと言って荷物の多さもあり、下手に動くのも難しい。となれば。
「落としていくぞ、ロボ助!」
「その呼び名はやめて下さい。さもなくば‥‥」
 先んじて抜き身の斬馬刀で斬り伏せていく井上にならい、シザーハンド『ヴェート』を振るう。次々に襲い来る触手を次々に落としていく。落ちた触手はしばらく蠢き、またしばらくして動きを止めていく。
「キミの首も、落としますよ」
 そのペースが遅くなる中、W・1108は『ヴェート』を軽く二回鳴らした。

「なるほど。食料ですか」
「ええ、こう見えて食べる所は多いですから〜」
 この船の乗組員だという人物は、そう言うと自分の背丈よりも大きいそれをぽんぽんと叩いた。なお、触手の主はイカに近い生物のようだが、それにしては大きすぎる。
「と、いうことは誘拐犯?」
「ええ〜っ! そんなことしてませ〜ん」
「しかし、彼女はこの船の人間がさらったと言っていました。そしてあなたはこの船の乗組員の一人だという」 
「そうだけど。違いますう」
 あごの下に拳二つをあてて首を振る乗組員。
「ほう。私の記憶が偽りとでも?」
 抜きぱなしの残馬刀を突きつけ井上が詰め寄る。
「でも違うんですう。ええ〜ん」

「どうしますか?」
「いいわ。どうせ彼女が目を覚ますまでしばらくかかるだろうし」
 麗香が一つため息をついた。

●船のある空。
「聞きたいことは構わない。だが、まずはこちらから聞こう」
 皮から外したミカンを半分に割る。
「この部屋に何がある?」
「畳の間ですね。コタツが二つとカセットコンロが二つ。あとは特に」
 W・1108がよどみなく答える。
「うむ。そして、ここから考えられるものは?」
「お鍋ぴゅ♪」
 小さいとは言えミカンを丸ごと一つほお張り飲み込むとピューイ。
「残念。スキヤキかも知れん」 「ぴ、ぴゅう?」
 もう一度投げられたミカンを今度は受け取るも、ピューイは首を傾げていた。
「スキヤキ‥‥お鍋‥‥スキヤキ‥‥」
「それはどうだっていい話でしょ? つまり何が言いたいのよ」
「何、簡単なことだ」
 呆れた様子の麗香の前にミカンを一つおき、井上がぐるりと一同を見回す。
「そう、一家団欒」
 沈黙があった。もっともそう長くは無かったが。
「ばれたら仕方がない」
 沈黙を破ったのはサルだった。
「ちょ、ちょっと待ちなさいよ! つまり一家って言うのは」
「よりによって、そこですか?」
「そりゃ‥‥私だっておかしいとは思うけど」
「じゃあ、案内人さんは所長のお姉さん?」
 亜真知が天板に立ち胸を張る所長に尋ねた。
「ハズレ♪ おじさんっぽい」 「「ぽい?」」
「いや〜、よく分かんなくってさ〜」
 唱和した声に所長が頭を掻く。
「そういうものですか?」
「私に聞かないで。と言うより、帰らせて。お願いだから」
「あらあら。せっかく、お鍋の用意ができましたのに」
 いつの間に入ってきたのか、それよりもどうやってバランスを取っているのか、土鍋を二つ持った案内人が開いている場所に座っていた。
「ぴ、ぴゅううう♪ やっぱりお鍋ぴゅう♪」
 そう歓声を上げるピューイと。すでに所長の分を分け始めている亜真知と。どこかしどろもどろな麗香と。
「これが色々ある、ということですか?」 「まあ‥‥そうだな」
 W・1108の問いに井上は小さく笑った。

「あの。できれば餅を捌くのを手伝って欲しいのですが?」
「餅ですか? しかし餅を‥‥捌く?」
「良かろう。鏡開きついでに鍋に入れるのも一興だ」
「‥‥本当に食べる気だったの?」

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 年齢 / 性別 / 職業】
1593:榊船・亜真知(さかきぶね・あまち):999歳:女性:超高位次元知的生命体・・・神さま!?
2043:ピューイ・ディモン(ぴゅーい・でぃもん):10歳:男性:夢の管理人・ペット・小学生(神聖都学園)
2586:W・1108(だぶりゅー・いちいちぜろはち):446歳:男性:戦闘用ゴーレム
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■         ライター通信          ■
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 どうも。平林です。このたびはご参加いただきありがとうございました。
 2になってから始めての作業という事で、色々とかつばたばたといったところです。ええ。例えば、納入期限を勘違いしてたりとか‥‥やれやれです。
 手短ですが、ここいらで。いずれいずこかの空の下、再びお会いできれば幸いです。
(コタツ潜りな頃に/平林康助)
追記:何より、遅延を謝罪いたします。本当に申し訳ございませんでした。
   饒舌すぎたかもしれません。ところでシザーハンドは蟹な方向で良いのでしょうか?