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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


魔法少女☆ポルテ〜ミルクの巻〜

★おーぷにんぐ!

『まじかるミルクで!ホイップ・ホイップ!
あなたのハートをゲッツしちゃう!魔法少女☆ポルテ!来週もお楽しみに!』
「ホイップ・ホイップね…」
「―――そんな趣味があったんスか…草間さん…」
くいっ、くいっ、とボールペンを持った手を無意識に動かしていた草間は…
背後から突然かけられた声に驚いて振り返った。
誰もいないと思っていた興信所のソファに…いつの間にやら大黒屋・平太が座っていた。
草間は慌てて、今まで見ていたテレビの画面を隠した。
平太は「うわぁ…」と何か汚いものでも見るような眼で草間を見つめていた。
「な、なんだ…今日は呼んでないはずだが?」
「あの、俺別にそういうの好きでもいいと思いますけど…
いや、悪かないッスよ!?ホント!
でもなんとなく草間さんだけはそういうのに興味無いと思ってた…」
「ち、違う!待て、誤解だ!これは仕事に関係する資料で!」
「魔法少女☆ポルテって、今、子供の間で人気の実写アニメですよ?
それがここの仕事と何の関係があるんですか?」
「いや、だから…実はだな…」
草間はコホンと咳払いをして話し始めた。
それは2日前のこと。
草間興信所に、1人の女性が訪ねて来た。
女性は不自然なほどの覆面をしてコートを重ね着してかなり周囲を警戒していた。
そして、こう言ったのだ。
「ポルテの変身ステッキを探して欲しいのです…」
期限は次の撮影がある一週間後という事だった。
女性の名前は、佐倉・翔子(さくら・しょうこ)。ポルテを演じている女優である。



「そう言う事だから…茉莉奈さんは私と、春海ちゃんを調べに行く事でいいかしら?」
「はい!お願いします!」
「え?シュラインさんと一緒じゃないんですか…」
「孝さんは俺と一緒ッスよ!男同士、仲良く悟さん調べに行きましょう!」
 草間興信所の前で、シュライン・エマ、楠木・茉莉奈(くすのきまりな)、
天音神・孝(あまねがみこう)、大黒屋・平太の四人はそれぞれ二手にわかれた。
 依頼人の翔子から、”疑わしい人物”が三人いる事、そして、その三人のうち誰かが、
翔子演じる”魔法少女☆ポルテ”の撮影用ステッキ取っていった可能性が高いとの事を聞き、
シュラインと茉莉奈は、翔子の親戚・知里(6歳)の幼稚園仲間である春海(はるみ)の調査に向かう事にした。
ちなみに、孝と平太は大のポルテマニアの、悟という男性の調査に向かっている。
残りの一人は、ポルテの敵役の女優、真知子(20歳)であるが、
年齢や、撮影に支障が出ることを考えても、女優としての立場から犯人である可能性は薄いと判断し、
今回は二人だけに調査の対象を絞ったのだ。
お互いに進展があればその都度、連絡を取り合う事を約束して…興信所を後にした。
「翔子さんには自分でもう一度探して貰っているから…とりあえず、
先に連絡を入れてもらっている知里ちゃんからの話を聞いてみようかしら?」
「そうですね…当時の様子とか、聞いた方がいいでしょうし」
「意外と近所みたいね…歩いて行きましょう」
「はい」
 
★みっしょん!

 依頼人・翔子の親戚の知里の家はマンションの一階にあった。
そう大きくもなく、かといって手狭というわけでもない広さのマンション。
そもそも今回、この知里に頼まれて、翔子が勝手に撮影の小道具”ポルテステッキ”を持ち出したのが始まりだ。
翔子にはシュラインもその点きちんと反省するように言い、本人も軽率な行動を深く反省しているようだった。
「こんにちわ。知里ちゃん」
 マンションのリビングに通され、シュラインと茉莉奈は知里の母親も同席する中、
最後にステッキを確認した場所であるスタジオや楽屋での出来事を聞いてみる事にした。
知里は劇中のポルテと同じように、髪を長く伸ばしてカールさせていて、よほど好きなのだという事が見て取れる。
服装もそれっぽく、思わず微笑ましくなる様子なのだが…そうも言ってはいられない。
「知里ちゃん、春海ちゃんがステッキが欲しいって言っていたのはほんとう?」
「―――知らない!」
「でも…春海ちゃんが欲しいって言ったから、知里ちゃんは翔子お姉ちゃんに頼んだんだよね?」
「知らない!知里なにもしらないもん!」
 頑なに、シュラインの問いかけを断固拒否する知里。
茉莉奈はふと、床の上に置いていたファンシー系デザインのキャリーバックを膝に移動させた。
小さく開いた小窓から…一匹のかわいらしい猫が顔を覗かせる。
それに気付いたとたん、知里の表情がぱっと緩んだ。
「猫!おねえちゃん、猫抱っこしたい!!」
「いいよ?でもマンションは動物禁止だから、少し抱っこするだけだよ?」
「うん!!わかった!ねえねえ、名前はなんて言うの?」
「マールって呼んであげてね?」
 微笑みながら黒猫のマールをバックから取り出し、茉莉奈は知里の腕にそっと乗せる。
嫌がる様子も逃げる様子もなく、マールは大人しく抱かれると「にゃあ」と茉莉奈に語りかけるように小さく鳴いた。
「ねえ知里ちゃん、春海ちゃんとポルテを見に行ったんだよね?」
「うん。行ったよ!翔子お姉ちゃんが連れて行ってくれたの!」
「その時…春海ちゃんとどこに行ったのかな?誰かに会ったりした?」
 シュラインが優しく声をかける。マールのお陰で警戒心が解けたのか、
知里は先ほどと違って「うーん」と考える様子を見せる。しかし、何も思い出せないのか首を左右に振った。
「あのね、でもね、知里ね、翔子お姉ちゃんに「ここで待っててね」って言われて…お部屋にいたんだけど…
おトイレに行きたくなって外に出ちゃったの…でも春海ちゃんはちゃんと部屋にいたよ?」
「そう…」
 シュラインと茉莉奈は顔を見合わせた。
今の話で、少なくとも、春海が一人になった可能性がある事は確かになる。
その時に何かがああった可能性が高い。春海が犯人かどうかは別として、である。
「ありがとう知里ちゃん。じゃあお姉ちゃんたち、今度は春海ちゃんにお話聞いてみるね」
「あのね?外に出たのは知里なの!春海ちゃんはちゃんと部屋にいたの!悪いのは知里だよ?」
「わかってる。大丈夫よ。翔子お姉ちゃんもポルテも…二人共怒ったりしないから、ね?」
 怒らない、という言葉に、知里はほっとした様子だった。
そして、二人が帰宅の用意を始めると…マールを茉莉奈にそっと手渡す。
茉莉奈は優しく微笑んで知里の頭を数回撫でた。
「おねえちゃん、なんだかポルテみたいだね」
「え…?そうかな?」
 知里に純粋な目で見つめられて、茉莉奈は少し恥ずかしそうに笑う。
当たらずとも遠からず…ポルテではないが、確かに茉莉奈は…
「きっとマールがいるからだね」
 ポルテにも劇中で、マスコット的な動物キャラクターが存在している。
そう話題をはぐらかすように言葉を返して…茉莉奈は知里の家を後にしたのだった。



 春海の両親には、知里の母親から予め連絡を入れてもらっていたために、
二人が家に着くと母親が快く出迎えてくれた。
シュラインの気遣いから、春海の両親には『間違えて仕事道具を持ち帰ったかもしれない』と伝えてある。
興信所から派遣された者だと知ると警戒されるかもしれないという事も案じて、
翔子のマネージャーと友人という事で話をする事にした。
「うちの子、ほんと馬鹿みたいにポルテが好きなんですよ」
 母親は笑いながら二階へとシュラインと茉莉奈を案内する。
知里の家と違い、こちらは一軒家で二階建てで、春海に個人部屋を与えているようだった。
「春海、春海ちゃん。お客さん…ほら、翔子ちゃんのお友達の」
『――春海、何も知らないよ!』
「あのね、春海ちゃんが間違えてお仕事の道具持って帰っちゃったかもしれないからお話聞きたいんだって」
『知らない!春海、何も持ってない!見てない!知らないもん!!』
 部屋のドアごしに春海は母親の言葉に怒鳴り返す。
知里よりもややヒステリックな感じがして、母親は苦笑いを浮かべて恥ずかしそうに頭を下げた。
「あの…もしかして子供部屋に鍵をつけていらっしゃるんですか?」
「え?ええ。防犯の為に…」
 さも当然のように答える母親だったが、シュラインは少し眉を寄せた。
ある年齢になれば鍵があってもいいとは思うのだが、6歳程度の年齢だと鍵をつけてしまうと、
色々と危険な面も出てくる事に母親は全く気付いていない様子だった。
「…鍵は外から開けられますか?」
「ええ、一応。でも鍵、春海が中に持ち込んじゃってるから…今は無理ね」
肩を竦めながら言う母親に、シュラインはますます不安を感じた。
しかし、今はとりあえずそういった話をしている場合ではない。
とりあえず、ドア越しでも話ができれば…と、茉莉奈がまず声をかけてみる。
はじめは返事すらせずに何を言っても無視をしていた様子だったが、
今回も黒猫のマールに活躍してもらい、興味をひいて少しだけドアを開いてもらうことには成功した。
ほんの、十センチほど。その隙間から春海は外を覗いて、マールに手をのばした。
「こんにちわ。春海ちゃん。私が茉莉奈、こっちが猫のマールよ」
「―――知らないよ。春海は知らない」
「ねえ春海ちゃん、私はシュラインって言うの。少しだけお話聞きたいだけなの。
知里ちゃんと一緒に翔子ちゃんのところに行った時、何があったのかな?誰も怒らないから話してほしいの」
「……怒らない?」
 知里と同様、怒らないという言葉に反応する春海。
やはり二人共その点が一番気になっている事なのかもしれない…そう思い、シュラインがもう一押しと口を開いた時…
「あのね、あのねっ…春海、きっとポルテに怒られると思うの…だから…」
「大丈夫よ。ポルテは怒らないから、ね?」
 茉莉奈が優しく微笑んで、ドアの隙間から春海の手を取る。
その手をポンポンと軽く叩くように撫でて、気持ちを落ち着かせた。
「それより、春海ちゃんが持って帰ったものを返さないと、ポルテが変身できなくなっちゃうの」
 わかるよね?と、シュラインが問い掛ける。
しかし、春海はその言葉を聞いて、がばっとドアを開き。
「違うよ!春海じゃないもん!!」
 両手に力をこめて精一杯の声で叫んだ。
見えた部屋の中には、ポルテのポスターや玩具、子供用に作ったポルテの服、絵本、マクラ…
ありとあらゆるポルテグッズが並べられていた。
ぱっと見た限りではその中に、撮影用の小道具らしきものは見えない。
ポルテステッキとよく似たステッキはあるのだが、どこからどう見ても市販の子供向け玩具だった。
どこかに隠しているという可能性もあるのだが…
「嘘をついているようには思えないわね…」
 シュラインがぽつりと呟く。
茉莉奈も春海の様子を見て、そんな気がしてきた。しかし、そうなると…悟か真知子が犯人という事になる。
悟の方は男二人が調査しているはずで…。
「じゃあ春海ちゃん、春海ちゃんが知っている事…聞かせてくれる?なんでもいいの?ね?」
「ポルテを助けるためなの。わかってくれるよね?」
「ポルテを…?」
 春海はぎゅっとスカートの裾をにぎって、小さく呟いた。
小さいその心の中で、色々と葛藤しているであろう事は誰が見てもわかる。
それを見て、まるで少しでも気持ちを落ち着かせようとしているように、マールが自分から擦り寄っていった。
「…あのね…翔子お姉ちゃんに秘密だよって、ポルテのお家に連れて行ってもらったの…
翔子お姉ちゃんはね、ホントはポルテなんだけど、お家がバレちゃったら魔法の国に帰らないといけなくなるから、
三人だけの秘密なんだよって…春海と知里ちゃんをお部屋に連れて行ってくれたの」
 おそらく、春海の言う”家”とは”スタジオ”のことで、”部屋”は”楽屋”のことなのだろう。
どうやら翔子がポルテを演じている女優というのではなく、本当にポルテなのだと信じている様子だった。
「お部屋から出ちゃダメだっていわれたんだけど…知里ちゃんがおトイレ行くって出ていっちゃったの…
その時にね、あのね…ガルボがお部屋に来てね…それでねっ…」
 春海は突然、両目にいっぱい涙を浮かべてぽろぽろとこぼし始める。
頬を伝う涙をマールがなぐさめるようにペロっと舐めた。
ガルボ、と言うのは…ポルテの劇中での敵の親玉の名前で、つまり…もう一人の容疑者、真知子の事を意味していた。
「あのねっ…ガルボが、ポルテのステッキを持って行っちゃったの!!春海ね、止めたんだよ!
追いかけたんだよ!!そうしたら、ガルボが春海に言ったの…ポルテに言ったら、春海を魔界に連れて行くって…」
「―――シュラインさん…」
「ええ、決まりね」
 顔を上げ、茉莉奈はシュラインと目で合図し、頷きあう。
男性二人からの報告を待つまでもなく、次の調査対象は決まったのだった。
「ありがとう、春海ちゃん!話してくれて!大丈夫、魔界になんか連れて行かせたりしないわ」
 シュラインは春海の頭を撫でながら微笑みを向けた。
「ほんとう?ガルボ、春海のとこに来ない?」
「大丈夫。もし来ても…お姉ちゃんが倒してあげるから!だってお姉ちゃんも魔法少女なんだから」
 茉莉奈は、ウインクを一つ。不思議そうに見上げる春海に、そう告げたのだった。

★えんでぃんぐ!

『今、もう一組からも連絡は貰った…調査可能なら向かって欲しい』
 草間興信所への連絡を入れた二人へ、草間武彦はそう返事を返した。
次は、現在、別のドラマの撮影中である女優の真知子への聞き込みに向かう。
おそらく…彼女が犯人で決まりであろう。しかし素直に謝るかどうかはわからない。
マスコミが騒ぎ始めると、収集がつかなくなってしまう。
できることなら大事にならないようにまとまればいいのだが…と、誰もが思っていた。
「あら…シュラインさん、どちらへ?」
「ええ、少しだけ野暮用なの…すぐに後を追うから、先に駅に行っていてくれる?」
「はい。わかりました」
 シュラインは茉莉奈にそう告げると、彼女が駅に向かうのを見てくるりと踵を返す。
再び、春海の家へと向かい…気になっている事を、春海の母親に告げるつもりだった。
今回の仕事とは何の関係もないし頼まれても居ない、ただのおせっかいかもしれないが…
どうしても放ってはおけなかった。
 春海の家へと戻って行く彼女の背中を、茉莉奈は振り返り…
どこか嬉しそうに見つめていたのだった。



<つづく>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家・幽霊作家+草間興信所事務員】
【1421/楠木・茉莉奈(くすのき・まりな)/女性/16歳/高校生(魔女っ子)】
【1990/天音神・孝(あまねがみ・こう)/男性/367歳/フリーの運び屋・フリーター・異世界監視員】
NPC
【***/大黒屋平太(だいこくやひょうた)/男性/18歳/フリーター】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。この度は、依頼に参加していただきありがとうございました。
タイトルとか色々とふざけているのですが(笑)参加していただけて嬉しいです。
前後編という事で、今回は解決には至っておりません。
皆さんのプレイングを拝見して、犯人を変えようと思っておりましたので、
今回、犯人は真知子さんという事になりました。
次回は解決編となります。
またご参加いただけるのを楽しみにしております。<(_ _)>

:::::安曇あずみ:::::

>シュライン・エマ様
こんにちわ。またお会いできて嬉しいです。参加していただきありがとうございました。
今回、部屋や鍵のエピソードが入っているのですが、
これはシュライン様のキャラクターを執筆していて自然に生まれたエピソードです。
シュライン様のキャラクターが生きているんだな…と言うことを実感しました。
楽しんでいただけていたら幸いです。またお会い出来るのを楽しみにしております。

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>