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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


光の魔術師

●プロローグ
 ただいま、草間興信所には小さな、子供の狼・フュリースが居候をしています。

「なんだか最近、妙にきな臭いんだよなぁ‥‥」
 頭をかいて呟く草間武彦(くさま・たけひこ)によると、謎の機械仕掛けの魔術師たちがこの子供の狼を狙っているらしいのです。
 先日も、事務所の周辺で通り魔が現われました。
 襲われた被害者は誰もが犬を散歩させている人たちで、子狼と間違えての犯行ではないかと推測されます。
「被害者たちは、誰もが怪物を見たといっている。これ以上犠牲者が出るのも避けたいしな――」
 つまり、犯人を突き止めるための囮作戦。
 目撃談によると、巨大な怪物、三つ首の獣、そして光る人間――。
 現場には何かが灼かれたような跡があったり、光る男は消えたり現われたりしたなど、一般社会からは相手にされてない証言ばかりでした。
「怪物に獣に、光る男か」
 どうも危険な散歩になりそうです。
 ―――― 子狼の散歩係兼通り魔退治屋募集中。


●囮・通り魔・楽しい散歩

 夕陽に照らされた草間興信所はいつもと変わらない佇まいをみせている。
 全てが茜色に染まっていく街を見つめたその女性は、無造作に黄金色の髪をかきあげる。
 彼女、 海原 みたま(うなばら・みたま) は燃える様に赤い瞳をわずかに細めた。
 これから子狼・フュリースを連れて、通り魔からの囮として散歩に出かけるのだ。
 危険な散歩になるはずなので周辺への警戒にも気が抜けない。

 今回の通り魔事件解決のために子狼フュリースの散歩に集まったのは、 モーリス・ラジアル(−・−)、 尾神 七重(おがみ・ななえ) 、W・1108(だぶりゅー・いちいちぜろはち)、 里谷 夜子(さとや・よるこ)、海原 みたま、 シュライン・エマ(−・−)、 綾和泉 汐耶(あやいずみ・せきや) 、鈴森 鎮(すずもり・しず) の計8名。
 それに草間武彦も同行する。
「それにしても、こんな人数で散歩をしていたら‥‥通り魔のほうが警戒して出てこないのではありませんか‥‥?」
 手の中の木刀を確認しながら訊ねる夜子に、シュラインが答えた。
「ええ、直接フュリースの散歩係は、モーリス、鎮、私の3名。他の人は周囲を警戒しながら離れて同行してもらうつもりよ」
「3名ですか‥‥」
「とりあえずそう言う事だけれど、異議があるのかしら?」
 口ごもっていた夜子は顔を上げる。
「シュラインさん、あの、私も散歩する係に入れてもらえませんか」
 どうする? といった視線を武彦に向けるシュライン。
 視線に気づいて武彦は火を点けようとしていた煙草をしまった。
「ああ、別に問題は無いだろう。今回の通り魔――この場合の敵と言ったほうが正しいだろうが、多分こちらが何人で護衛していようと気にするタイプじゃないからな。この通り魔事件は明らかに俺たちの反応を意識しての挑発だ」
 だからこちらの戦力を隠しておくという意味でならともかく、一般人の散歩を装うといった配慮は無用だ。売られた喧嘩を買うんだから少しくらい目立って丁度いい――そう言って武彦はさっさと歩き出す。
「‥‥その、武彦さんは散歩に同行されないのですか」
「大丈夫。同行こそしないけれど、通り魔が現われたらすぐ駆けつけてくれるから。ね? そうでしょ」
 と横目で見るシュラインに、「分かりきった事を聞くな」と言って武彦は背中越しに片手を上げる。
 手を振る留守番の 草間零(くさま・れい) に見送られて全員は例の通り魔の出現ポイントへと向かって歩き出した。


 鎮が嬉しそうに子狼の隣を歩いている。
「わんこー! そんなに騒ぐなってば! うわっ!?」
 ‥‥という訳ではなさそうだ。
 キャンキャンとあちこちに行こうとするフュリースを引っ張るので精一杯で、小柄な鎮は一歩間違えると自分のほうが引き摺られそうだ。子狼とはいえ凄い力だ。
「それでもこの子、フュリースさんですか? ‥‥ちゃんと道はあっているみたいですので、本人にしてみるとこれでも力を抑えているのかもしれませんね」
 夜子は少し警戒しつつ、チラチラと物珍しそうに子狼の元気いっぱいな様子を観察する。
「そうですね。狼に限らず犬類は知能が高く、また方向感覚にも優れた動物ですから」
 モーリスが夜子の感想に同意した。
「特に狼は世間で思われている孤高やはぐれ者といったイメージとは逆で、群体行動に優れた社会性のある種族ですから」
「でも、今のわんこは‥‥群れや社会性とは、無縁みたいだけど‥‥! あ、また!? もう暴れるなー!」
 また引っ張られる鎮を見て夜子はくすくすと笑う。
「きっと散歩して貰えるのがよっぽど嬉しいんですよ、フュリースさん」
「まあねぇ、いつもは人目を避けて興信所の回りを歩かせあげるだけだから‥‥あら?」
 シュラインは静かにフュリースを見つめるモーリスに気づいた。
「ご執心なのね。狼がそんなに珍しい?」
「いえ、そういう訳では‥‥狼‥‥そう、日本狼は絶滅してしまったと云われていますので、外来種の狼の子でしょうかと思い。確かに興味はありますね」
「興味、か。‥‥この子が興信所に来たのも偶然が重なってのことだから。改めて言われると確かに事情がありそうね」
 シュラインから視線を外して、モーリスは声をひそめる。
「言いにくいことですが、何らかの実験生物かもしれないといった観点も含めてフュリースについて調べさせて頂きました。ですが、特にこれといった情報は見つかりませんでした‥‥それが不気味です」
 調査を進めるにもこれだけの敵を調べるには現状の手掛かりでは不足しているのか、足取りがつかめなかったり、つかめたとしてもすぐに途切れてしまう。
 二人が話している間を、またフュリースに引っ張られた鎮がどたどたと駆け抜ける。
「もう、それじゃあなたが散歩されているみたいよ、鎮」
「でもさ、このヒモは何とかならないの? わんこに紐をつけて引っ張るって抵抗あるよ‥‥わわっ!?」
「仕方ないでしょう。それとも鎮が抱えて歩いてくれるのかしら?」
 苦笑するシュラインに鎮はプーと頬をふくらませる。
「シュラインさんってさぁ、時々意地悪いこというよなっ。こんな暴れているヤツ、俺に抱いてられる訳ないじゃないかよー!」
「あら。時々じゃないわよ、ふふ‥‥」
 ――自分でも分かってるんだな。
 と、武彦がこの場にいたら呟いていたかもしれない。
「犬の散歩でもこういう暴れている犬って見かけますが、躾けがなっていないなと考える人もいますし‥‥その犬を思いっきり走らせて上げたくも思う人もいます‥‥紐や鎖で縛るのはそもそも人間側の事情、どちらも正論ですから」
 だから調和とは難しいのです――。
 そう自分から話を切り上げたモーリスは、地図を取り出すと、地図上の印をつけた部分と目撃現場で集めた資料とを見比べてる。
「話は変わりますが、犬の散歩コースをそのまま散歩すれば怪物をおびき寄せられるでしょう。すでに目撃報告例のある場所は全て調べてありますから、準備にも抜かりはありませんし」
「そうすると一番目撃現場が多い場所はわかるかしら?」
「散歩コースでもあと20分ほど歩いたところ‥‥開発区画となっている一帯でしょう」
「約20分? 意外と近いのね」
 シュラインに開発区画に関する写真を渡して、モーリスは注意を促す。
「ええ、出現率の高そうな場所から回れるようにコースを組みましたから‥‥日が落ちないうちに見つけられるのが理想ですから。人気がないという事は、向こうにとっても存分に力が震えるというメリットがあるわけですから、現場の地形や特徴などをよく心にとどめておいてください」
 とりあえずは、草間興信所の周辺に散在する通り魔発生地点を散歩コースにして、相手が姿を現すのを待つしかない。
 そのため敵の出方によっては長めの散歩になるかもしれなかった。


「ふふ、散歩組もどうしていい感じじゃない。ねえ?」
 みたまに話を振られて、七重は仕方なく口を開いた。
「‥‥まあ順調そうではありますね」
「あはは、何をブスっとしているかなァ、この子は」
 戦う主婦見習いにして女傭兵のみたまは、豪快にばしばしと七重の背中を叩く。
 七重は散歩の一行から距離をとって離れ、尾行する様にひっそり後ろからついていく‥‥はずだった。
 しかし、彼女の出現で予定していた護衛プランも大狂いだ。
「まあまあ、そう邪険にしないでおくれよ。私も娘に泣きつかれてこんな仕事引き受けることになっちゃったんだから、人生って言うのは何事も上手くいかないものさ」
「失礼だけど、それとこれとは関係ないと思います」
 対極な性格の割に息の合っているように見えなくもない。そんな二人を横目で見ながら、汐耶はふと疑問を口にした。
「ところで通り魔についでですが、これだけあからさまにやって何処も騒いでいないのはおかしいとは思いませんか? 何かしらの圧力でも掛かっているんでしょうか」
 そう言って資料を確認する汐耶に答える七重とみたま。
「推測の域は出ませんが、あのフュリースを狙っている組織はかなりの規模らしいですから、組織による隠蔽――その線は充分にありえるでしょう」
「七重の言う通りだね。私も同意見だわ。これにあと結界のような何かでも仕掛けてあれば、表世界じゃまず分かんないわね。組織がらみの事件だとよく使われる手法よ」
 確かに二人の言う通りだろう。
 ――通り魔の出現時間帯は、夕方から夜にかけての逢魔の刻。
 人気ない場所を選んで行われている。
 いくら狙われた人たちの散歩コースが襲いやすくて人気のないようなポイントであったとしても、通り魔がただの人間では完全な隠蔽は不可能だろう。
 汐耶は資料をしまい込んだ。
「社会面からの組織的な偽装工作と、超常的能力による隠蔽術‥‥その両面からでしたら今回の件をもみ消すことも可能でしょう。同時に、敵はそれだけの力を所有しているとも考えられます」
 今回の件を皮切りに、彼ら『ネオ・ソサエティ』を自称していた組織の一端でもつかめれば、彼らの動きを掣肘するカードにもなりうるだろう。
 唐突にみたまが足を止めた。
「‥‥バイパーの姿が見えないけれど、ちゃんと着いて来てるわよね」
 訊ねる彼女の気配は今までとは変わっていた。
 先ほどまでの異国の姫を思わせる雰囲気だったが、今のそれは美しき獅子を思わせる勇猛なオーラ。
「――そのネオなんたら、どれくらいの力なのか案外早く見られそうね‥‥」
 そう、傭兵としての勘が戦いの予兆を感じ取っている。前方では、フュリースたち散歩組が開発地区に踏み込んでいた。
「‥‥バイパーでしたら隠密行動及び近接戦闘を目的として作られたゴーレムのはず、気配を消してちゃんとついて来ていることでしょう」
 汐耶は動揺することなく、冷静に答えた。


●獣・巨神機・光学魔術

 夜子は、沈み始めた夕焼けの空を振り返った。霊的な感覚が訴えかける。

「――――――――何かが、来ます」

 ‥‥グウゥウゥゥ‥‥
 フュリースが目前の闇に向かって警戒の唸り声を鳴らす。
「あそこを! 前を見て!」
 丁度、建物の影が重なり闇が濃いその空間に何か動くものがあった。
 ――――三つの首を持つ巨大な獣。
 三つの首の一つは機械で出来ていて、巨大な犬を思わせるような体躯。
 影の中から確実に近づいてくる。
「その、あれが以前に草間興信所を襲ったという巨大な獣ですか‥‥本当に、大きい‥‥!?」
 初めて見る夜子は、その禍々しい容姿と大きさに驚きを隠せない。
 子狼を庇いつつシュラインが頷いた。
「そうよ。以前と変わらずの大きさね。でも、大丈夫、すぐに応援が来るから」
「これは、取材で見た実験生物とも同じ姿です。――あれがすでに実用化されていたのですか」
 前回興信所にいたシュラインに鎮、そしてアトラス編集部の取材で訪れた《生命−機械》融合の研究所でもこの機械の獣をすでに見ているモーリスだが、血のような夕焼けの中で見る三つ首の獣の姿は無気味で慣れられそうにない。
 獣に向かって鎮が飛び出した。
「ここは俺に任せて! わんこをお願い!」
「鎮さんだけなんて無理です‥‥! 私も残ります‥‥!」
 前に出る鎮と夜子。
 鎮は拳を、夜子は木刀をそれぞれ構えて。
 同時に、散歩組の異変に気がついて護衛組が駆けつけようとした瞬間、目前の地面が爆発したように砂塵を上げた。
「――――これは何!?」
 汐耶は腕で砂塵から身を守った。
 巻き上がる煙の中から姿を現したのは、禍々しい鎚を構えた巨大な人型の機械生命――人造ゴーレム。
 機械の力と融合を果たした魔導の巨人。
 汐耶は脳裏に蘇った言葉をつぶやく。
「通り魔の目撃証言にあった、獣に、巨大な怪物‥‥」
「やっぱりこちら側にも伏兵がいたか――足止め係といったところかしら? 今の感じだと見かけによらずスピードもありそうね」
 みたまは瞬時に分析しながら銃を抜き放ち様、鉄甲弾を連射する。金属製の肉体から弾丸を弾く澄んだ音が響き渡る。
「頑丈なことね。あっと、でも向こうには間に合わないかしら――」
 人造のケルベロスが咆哮を上げて跳躍した。
 空中から襲い掛かる獣の牙。
 鎮は隠し持っていたビンを取り出し投げつける――が、バリバリと頭の一つに噛み砕かれた。
「うわっ! あれにはワサビや唐辛子の粉をたくさん詰めといたのに!」
 二人の目前に着地をする獣だが、砕かれたビンから粉が中に舞って、ビンを砕いた首がキャンと悲鳴を上げる。
 だが首はまだ二つあり、残りの首が敵意の瞳を向ける。
「せめて、時間稼ぎには、ならないかなとは思ったんだけど‥‥」」
「私が‥‥行きます!」
 木刀を構えて踏みとどまる夜子。
 恐い、ここから逃げ出してしまいたいくらいに‥‥でも、後ろ向きになっても何も解決しない。私はここで逃げちゃ、ダメ‥‥!
 噛み付いてきた獣の牙を木刀に霊力を纏(まと)わせてどうにか受け止めた。
 だが、残り二つの首が食い千切ろうと牙と鳴らす。
 自分の顔のすぐほんの目の前にまで迫る魔獣。
「ひぁっ‥‥! やっぱり、こ、恐いです‥‥!!」

 ――――ザシュ!!

 突然、木刀に牙の感触がなくなった。

 横殴りに弾き飛ばされていく獣。
 二人のすぐ前には、変わりに漆黒のゴーレム――バイパーの姿があった。
「遅れて申しわけありません。お体の方は無事ですか?」
「え、あ――おかげさまで‥‥」
 夜子の無事を確認してバイパーは向き直る。
「‥‥なかなかに頑丈なボディでいらっしゃる。ボクの鉄球『ファフニール』を受けてまだ無事でいられるなんて」
 彼の言う通り、吹き飛ばされた獣は地面にバウンドしながら反転して、地響きを立てつつ、軽やかに身を翻すと再び攻撃の態勢をとった。
 だが、ダメージは少なくないようでその動きはぎこちない。
 みたまたちのいる方角からも派手な地響きが聞こえた。
「へぇ、スゴイ力を持ってるじゃない」
 みたまが目の前の光景に感心する。七重の“重力操作”により掛けられたGで、倒れた人造ゴーレムが地面に押し付けられているのだ。

 安堵から地面に座り込んだ夜子は、不意に辺りを見回した。
 ――おかしい。なにかがヘンだ。
 急に襲われた頭痛。
 頭が痛くなるほどに嫌な気分が広がっていく。
 夜子の霊感が一帯を包み始めた霊的力場を感じ取ったのだ。
「まさか、そんな!?」
 周囲に不思議な光が走り始めた。
 夕焼けの赤の中を走る白色光。
 地面に、壁面に、空中に。
 白い光の線は複雑な図象を描き出していく。
「貴方たちはおびき出されたのですよ。この私にね」
 倒れたゴーレムのボディにも白い光の魔術文字が浮かび、力が増幅されたように身を起こし始める。
 動きの鈍かった三つ首の獣も同様だ。
 モーリスは子狼が唸りを上げている方向を見た。

 光り輝く人影が立っている。

「‥‥あれが、光る男‥‥」

 それは魔法使いのローブを着た男が白い光を纏っている姿に見えた。
 光の魔術師はついと腕を上げる。
「抵抗は歓迎しないわ」
 一瞬にして狙いを定めて銃を撃ったみたまだが、弾丸は光の男を素通りした。みたまは軽く舌打ちする。
「――――成る程ね、そういうことか」
「私は古代魔導と光学技術の融合を目指す者。諸君の力量では抵抗するだけ愚かでしょう。さあ、その魔狼の子を置いて下がりなさい」
「はん、たかが立体映像の分際で偉そうに――!」
 光の魔術師はくつくつと笑った。
「ソサエティの四大魔術師であるこの私、光のセロフマージュを分際呼ばわりしますとは‥‥これだから愚者は困ります。よろしい。光の魔術、その恐ろしさの一部を垣間見せてあげましょう」
 魔術師の前の空間に一瞬にして光の魔法陣が出現し、そこから魔力の光線が解き放たれた。白い光の奔流は照射された一帯を灼く。
「どうですか? 通常魔術だけでこの術を使用するには、長い詠唱時間、複雑な儀式、そして膨大な魔力をかけなくては空間上に魔法陣を描けません。しかし、このホログラフィ技術と併用することで、こうやっていとも簡単にこの魔術を使用できるのです。さらに付け加えると、ここら一帯にかけている魔術陣は一種の結界でして、様々な効果を持つのですが、その一つに使い魔の強化という効果もあります‥‥ほらほら、私ばかりに気をとられていると我が使い魔に足元をすくわれますよ」
 もう一度腕を振った光の魔術師、セロフマージュは再び空中に魔法陣を描き白い魔術光を放つ。
 獣と巨人も邪な文様を浮かばせて立ち上がった。その動きは復活前よりも上がっている。
 汐耶が一帯に増殖を続ける白色光の魔術文字を見ながら、七重に何かを囁く。
「‥‥そんな事、本当に出来るのですか?」
「大丈夫だと思います。このモーリスさんの資料にシュラインさんの聴覚、そしてキミの能力があれば‥‥」
 子狼を守っているシュラインが視線に気づき、汐耶へとOKサインを出した。
 返事を確認した汐耶はみたまへと叫んだ。
「みたまさん! バイパーさん! 暫くだけあのゴーレムとホログラフィのお相手、お願いします!」
「ええ、任せなさい――私は戦闘のプロよ」
 みたまは粘着弾を換装すると、近くの物陰に身を隠して魔獣とゴーレムに狙いを定める。
「バイパー、行くわよ! 鎮に夜子もまだ行ける!?」
「私を誰だと思っておいでですか――そちらこそ足を引っ張らないよう」
 バイパーが二本のシザーハンド「ヴェート」を構え、夜子や鎮たちも戦闘態勢を整える。
 モーリスはセロフマージュに問いかけた。
「あなた方の魔術は危険です‥‥何を目指し、何処へ行こうというのです」
「我らが組織には様々な考えの人間が集まっています。よって目的はその人間それぞれにあるともいえますが、少なくとも私にとっては夢‥‥ 機械と魔法を 希望と理想で結び 新たなる時代を導く 静寂にして荘厳なる王 ――それになることが私の目的であり、すでに保障された未来なのです――」
 まるで詩でも読み上げるように光の魔術師は酔いしれる。光の破壊の力と共に。
 魔術師たちの攻撃が次第に押し始める。
「な、なにこれ‥‥! 再生をしてます!」
「ああもう、こいつらに弱点ってないの!?」
「さあ、降参しなさい。ここまでおびき出された時点であなた方のまけなのです――!」
 瞬間、圧倒的で計算された爆発連鎖。炎の赤が一面を埋め尽くしていく。
 火炎の中心で立った女性が、獅子のような黄金色の髪を風になびかせて。
「――――さてと、どちらがどちらを誘い出したのかしら? うふふ」
 巨大なバズーカ砲を肩から下ろして、みたまは今吹き飛ばしたばかりの人造ゴーレムを悠然と見下ろした。
 再生するゴーレムにさらに砲撃を浴びせて。
 彼女は襲撃予想された場所のいくつかに、いくつもの強力な大型火器を事前に隠しておいたのだ。
「少し遅れたかしら。それじゃ反撃の時間よ」


「まったく無駄なあがきを――!」
 開発地の戦闘を建物から見下ろして光の魔術師はつぶやく。
 その容姿は意外と若い。
「そいつはどうかな」
 シュポ。ライターで火をつけて草間武彦が煙草をくわえた。
「貴様! どうしてこの場所が――!?」
「俺に言われてもな‥‥ああ、この彼女たちに訊いてくれ」
 武彦がどくと、そこには二つの人影――。
 汐耶とシュライン。
「光の性質を利用して姿を隠しても『音』は消せないようね。私、聴覚には自信があるのよ」
 そう言ってシュラインは自分の右耳をとんとんと叩いてみせた。
「クッ、だが今さら私を見つけても遅い――光の結界が張られたこの場所では、貴方たちの敗北は変わりません」
「ですので、今からそれを破られていただきます」
 汐耶は武彦から携帯電話を受け取ると、七重と連絡を取った。
「‥‥ええ、中心が分かったわ‥‥そうよ。その地点と、横の建物の‥‥できそう? それじゃ、後はお願いするわ‥‥」
 ピッと携帯を切る。
「何をしているのですか、貴方たちは――」
「そう焦らないで下さい。すぐに分かることです」
 同時に、魔術師は動揺した。
 一帯の空間を埋めていた白い光線による魔術文字や図象が消え始めていく。
「こ、これはどういう事なのだ‥‥」
「簡単なことです。装置に頼って光線を描いているのですから、光線の軌跡から逆算して装置の位置を探り――それを七重くんに見つけて破壊してもらったわ。おおよその位置がわかれば、彼の探査能力で見つけ出せますので」
 次々に消えていく魔法陣の図象。
 効力が消えていくことで、再生が止まりケルベロスとゴーレムは倒れていく。

 ――――光の魔術師の結界は、破られたのだ。


●エピローグ
「いやー、人騒がせな事件だったねえ」
 みたまは久しぶりに草間興信所を訪れていた。
 あの光の魔術師との戦いから、数日後。
 白色光の結界を破った後、光の魔術師セロフマージュを名乗った男はあの場から逃げ去っていった。
 あの日以来、彼らの仕業とおぼしき通り魔事件は起こっていない。
 ただ、変わったことが一つ。

「わんこォ! せめて今日は大人しくしてくれよ!」
 と叫びながら毎日のように誰かが子狼の散歩をせがまれ引きずられていた。どうやら本日の犠牲者は鎮のようだ。
 あの日から、すっかり遠くまで散歩することがお気に入りになってしまったようで恒例の光景となりつつあった。

 草間興信所は今日も平和だ。







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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1449/綾和泉・汐耶/女性/23歳/都立図書館司書/あやいずみ・せきや】
【1685/海原・みたま/女性/22歳/奥さん 兼 主婦 兼 傭兵/うなばら・みたま】
【2291/里谷・夜子/女性/17歳/高校生兼封魔師/さとや・よるこ】
【2557/尾神・七重/男性/14歳/中学生/おがみ・ななえ】
【2586/W・1108/男性/446歳/戦闘用ゴーレム】
【2318/モーリス・ラジアル/男性/527歳/ガードナー・医師・調和者】
【2320/鈴森・鎮/男性/497歳/鎌鼬参番手/すずもり・しず】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 シナリオにご参加いただきありがとうございました。

 ワンちゃんことフュリースの護衛も無事に終えることができました。いえ、犬ではなくて狼ですけど‥‥。狼をヒモでつないで散歩ってイメージとして違和感がありますね。狼を自由と孤高の象徴としたイメージで捉えているからかもしれません。
 さて、消え去った光の魔術師セロフマージュについてもその内、関連シナリオでまた登場させたいと思います。
 また今回の事件で明らかになった情報も《異界〜剣と翼の失われし詩篇〜》で一部アップしていく予定ですので、興味をもたれた方はぜひ一度遊びに来てみてください。例の如く更新が遅れるかもしれませんが‥‥(汗)

 では、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。