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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


バニーガールDEお餅つき

●プロローグ
「なんだかとんでもないモノが見つかっちゃってねえ」

 アンティークショップ・レンの店主、碧摩 蓮(へきま れん)がプハーと煙草の煙をくゆらせる。
 それは『強制的にバニーガールにさせられてしまう呪いの杵臼(きねうす)』
「だれか! 助けてくださいぃっ!!」
 臼の横で泣きそうな顔をしてしゃがみこんでいるのはバニーガール姿になってしまった神聖都学園の鶴来理沙(つるぎ・りさ)。
 うっかりこの杵臼に関わったのが運の尽きだ。
 呪いを解くには最後までオモチをつかなくてはならず、さらにそれを最後までちゃんと食べなくてはならないらしい。
 男性はちゃんと女性化するのでご安心を。


●バニーさんがいっぱい☆
「きゃあ!!」
 一体何が起こったのだろうと、 牧 鞘子(まき・さやこ) は目を瞬かせた。
 ぼうんと魔法使いにでも妙な魔法をかけられてしまったような感覚に襲われ、そのままぺたりと座り込む。
 アンティークショップ・レン。
 店内には広めのスペースが作られて、その中心に一組の臼と杵が置かれていた‥‥よくお餅つきで見る光景だ。
 それにしてもこの違和感はなんだろう――体がいつもよりスースーするけど――恐る恐る視線を自分の体へと下ろしていく。
 編みタイツにバニースーツ。
 理解するまで数十秒。
 うん。自分は夢でも見ているのだろうか。途端、両肩を抱いて顔が真っ赤にする。
「‥‥臼に触ったらバニーガール姿に‥‥は、恥ずかしいよ」
「わーい、お仲間さんがまた増えたね☆」
 頭のウサ耳がぴこんと揺らしながら、鞘子と同じくウサ耳を生やした 石神 月弥(いしがみ・つきや) が嬉しそうに抱きついた。
「えへへ、一緒にお餅つきをしよ?」
「‥‥この姿にお餅つきってなんの冗談‥‥ あなたは‥‥」
「蓮さんがね、うすにかかった魔法なんだって言ってたよ。それでうすでお餅をついて食べると元に戻れるんだって」
 鞘子が顔を上げると、店主の碧摩蓮が「よお」と挨拶代わりに手を挙げてみせる。
 バニーガール姿で煙草をふかしながら‥‥。
 わぁ――
「これは夢よ‥‥! ええ、きっと悪い夢、と誰か言ってください、お願い‥‥」
 頭はパニックで店内の風景もぐるんぐるんとしている。
「夢ではないわ。あなたには残念ですけれど、ほら、手伝って」
 店の奥から声をかけたのは日本人的なかわいい美人の新たなバニーガール、 雨柳 凪砂(うりゅう・なぎさ)。
 凪砂は餅つきの準備道具を運んでいて、一緒に緑の瞳をしたナイスバディの田中 稔(たなか・みのる) も神聖都学園の小柄な鶴来理沙を抱きよせて、軽くウインクをしてみせる。
「ま、ここは一つスッパリと気持ちを切り替えちゃって、お餅つきを楽しみましょう、ね♪」
 やっぱり2人とも着ているのはバニーガールの衣装――。
 なんて世界。もうバニーガールぞろぞろのバニーガールだらけでここはバニーガールの天国なのか地獄なのか。
「うぅ、気持ちは分かりますから。私も泣きたい気分なので‥‥」
「もうー、りさぴょん、可愛い格好していて暗い顔しちゃだめでしょうほら」
「そうだよ。元気を出してね。えい、ウサギのダンス☆」
 中性的な少女のような(でもバニーガール)月弥が恥ずかしそうな理沙の手をとると、軽やかにステップ。
 月弥だけが黒色のウサ耳に丈の短い着物姿をしているけれど。
「ねえ。それにしてもなんで月ぴょんだけ着物なんだと思う?」
「えへへ、似合う? 和風の黒バニー☆」
 不思議そうな稔に月弥は、ミニの着物で袖をつかんでぴょこんとジャンプしてみせた。
「きゃーんっ、月ぴょんラブリー」
「でも‥‥私この格好、可愛いというより‥‥屈辱的だと思います‥‥っ!」
 消え入りそうな声で異議を唱える理沙。
 真っ赤な顔で反対する理沙だが、彼女を見つめる月弥と稔の様子がヘンだ。
「理沙、かわいー!」
「うふふ‥‥恐がらないで、お姉さんが可愛がって・あ・げ・る」
 手をわきわきさせた月弥と稔にムギュッと抱きつかれ、きゃーっと腕を振って悲鳴を上げる理沙。
 稔は女性だし、月弥は性の決定していないつくも神なので、ほぼ同性同士のじゃれつき合いで済んでいるのが不幸(?)中の幸いなのか。
「早く準備をしてください‥‥っ。あたしだってちょっぴり恥ずかしいんですからね」
 めっと叱りつける凪砂に、稔と月弥は揃ってえーっと駄々をこねた。

 一方、少しだけ離れたテーブルから 田中 裕介(たなか・ゆうすけ) もこの光景を眺めていたが、しばし額に手を当ててシリアスに顔をあげる。
「‥‥何か面白いことになっているな‥‥」
「というよりも、どうして裕介さん!?」
 鞘子と裕介は顔見知りである。
「蓮さんに頼まれていた曰く付きの洋服を引き取る仕事が終わったのでもって来たのだが」
「いえ、そうじゃなくてつまり‥‥!」
「ん? ああ、なんで俺はバニーガールにならないかって?」
 そう、裕介は卑怯なことに唯一人バニーガール化の回避に成功しているのだ。
 バニーガールの群れの中で悠然と普段着で紅茶を味わう男性一人、別の意味で違和感この上ない光景――。
「それは呪い除けの術を織り込んだ護符と――後は気合だな、はは」
「なんだかそれってズルイですよ。一人だけ呑気にくつろいで紅茶まで美味しそうに飲んでいて‥‥」
「いいじゃないか。俺も見ていて飽きないしな。それによく似合っている」
「だから、そんなに見ないでください‥‥!」
 鞘子の抗議をさらっと受け流して、裕介は紅茶を味わいつつ事もなげに微笑する。
 不意に、祐介は凪砂を指さし忠告した。
「そこ気をつけて。人が来るぞ」
「え?」
 丁度入り口の側を通りかかった凪砂だが、ドアを開いて店に入って来た人影と真っ正面から衝突した。
 しがないサラリーマン、 相澤 蓮(あいざわ・れん) は、突然現われたバニーさんに驚き戸惑う。
「な、なんでこんなアンティークショップにバニーガールがっ!? え? 実はそういう店?」
「‥‥。馬鹿なこと仰らないでください」
「バニーガールの店ならそうと言ってくれればッ‥‥って、違う?」
「断じて違います!」
 いや、間違えても仕方がないともいえるけど。
 要点をかいつまんで手短に説明する凪砂に、蓮はふむふむと頷いた。
「餅つき? おし、よくわからないけど俺も餅をつくの手伝うぜ! こんな可愛いウサギちゃんたちをほおっておいたら男が廃る――」
 ハハハ、と誤魔化すように笑うと蓮はさわやかに前髪をあげ、臼の縁に手をついた瞬間――、
 ぼうんっ。
「って‥‥あの、これが‥‥」
「――はあ、やっちゃったわね‥‥」
 自分の身に異変を感じて、蓮は自然と横にある姿見の鏡を見た。
 映っているのはきれいなバニーガールの女性で――どことなく自分に似ている‥‥いや、もしや。
 右手あげて。
     ‥‥鏡のバニーガールも右手をあげる。
 左足あげて。
     ‥‥鏡のバニーガールも左足をあげる。
(−熟考中−)
「‥‥ってコレは俺かよ!?」
「ようやく気づいたかい。鈍いねぇ。ま、手伝ってくれるんだから、丁度いいんじゃないか」
 肩をこきこきと(バニーガール姿で)鳴らしながら目を細めた店主のほうの蓮に、女性化した蓮はいまだ事態を飲み込めないようだ。
「なんで俺の体がおかしなことなってんスか‥‥なんか、胸あるし、声おかしいし、レオタードだし、耳あるし‥‥呪いの杵臼?」
 聞いてないんですけど‥‥と、耐え切れずにぶわっと涙を溢れさせる。
「嗚呼もぅっ!! は、早く呪い解かなきゃ、だなッ! とにかくッ! 餅作って食べれば呪いは解けるんならやりましょう!!」
「そうさっきから言ってるだろう。だから、さっさと手伝いな」
 カラン。
 ちょうどそこへ、新たな犠牲者――もとい来店者が入ってきた。
 その姿に全員がゴクリとつばを飲み込む。
「なんだお前ら‥‥そんなにこの俺が珍しいか」
 それはごつい機械と兵装によるメカの体をもった戦闘用ゴーレム――形式番号は『 W−1106(−・−) 』通称『バルガー』
「――――――――ロボット?」
「あのな、俺はロボットではない。ゴーレムだ‥‥」
 ――き、機械の身体もバニーになるのだろうか‥‥と湧き上がる当然の疑問。どうだろう? 興味深々、誰もが顔を見合わせた。
 ‥‥。
 見たい。ぜひ見てみたい。でも待った。人の道としてやはりここは注意するのが筋なのでは、しかしそうすると結果が見れない訳で――‥‥ああホント気になるー!!!

「おまえら何を無言で身悶えてるんだ? 不気味な奴らだな」

 誰のせいだ! と全員心の中で突っ込んでいる間に運命の時は訪れてしまった。
 ぼうん。
 ゆっくりと視線を上げるバルカー。
「‥‥なあ、これはどういう事態だ。教えろ」
 銀髪でセクシーなバニーガールの姿――バルカーがその場にいる全員に睨みを利かせる。
「‥‥なるほど。機械の人はちゃんと人間の女性にもなるんですね」
「便利な呪いなんだね‥‥ま、つくも神の月ぴょんもかかっちゃう訳だから、ある意味納得だけれど、それより――」
 理沙の呟きに答えた稔は、スッと視線と鋭くする。
 ‥‥アダルト雑誌にでも載っていそうなスタイル‥‥洋風美女のバニーガールのバルカー‥‥。
 そう、私と同じセクシー系――。
「でも! 負けないわよ、バルりゅん!!」
 稔はナイスバディ同士、瞳にメラメラ対抗意識の炎を燃え上がらせた。
 何故バルカーが外国人風のバニーガールなのかはおいておくとして、バルカー本人は無感動につぶやく。
「‥‥女とは分からん生き物だな」
 バニーガールだらけの室内を見回し、店主の蓮は面倒くさそうに頭をかいた。
「あー、とりあえずこれ以上犠牲者が増えないよう、今日のとこは閉店にしとこうかね」


●ウサギのお餅つき
 ――――『アンティークショップ・レン、閉店中』
「これでめったなお客さんじゃない限り大丈夫だよ☆」
 楽しそうに戻ってきた月弥の頭を稔がぽふぽふとなでる。
「さて、お餅つきの準備ですが、食材がまだいくつか足りないようですね」
 そう言って、凪砂は買い出しに出かけることを告げた。
「買い出しって、なぎりん。そんな格好で大丈夫なの?」
「ええ、一応コートを持っていますし‥‥それを羽織っていけば大丈夫だと思いますから」
 ぼうん。
 臼の呪いは甘くなかった。
 凪砂がコートを羽織った瞬間、変身と同じ力でコートは消えてしまい――いえ、消えたわけではなく、あらたな別のバニーガール衣装に変わってしまったようだ。レオタード部分の衣装が黒から白に変わっている。
「わあー、白バニーさんだ!」
「や、ちょっと、なんですかこれ!?」
「つまり呪いは衣装の変更も認めないってことだろうねえ。なかなかのこだわり具合だ」
 のんきなコメントの蓮だが、凪砂はそれどころではない。食材がないとお餅が作れずお餅が作れないと元の姿に戻れない。イコール元の姿の戻るためには、この白いバニー姿で街を歩かなくてはいけないのだ。
「(いや、それだけは出来ない‥‥!!)」
 凪砂はしくしくと壁に手をつく。何を間違ってしまったんだろう。そう、元々不吉な気配は察していたので店に足を踏み入れた時、引き返すことは可能だった。でもお餅つき準備のいい匂いに誘われてしまい‥‥。
 そう、凪砂が同化している『魔狼フェンリル』の“影”が空腹を訴えたので――それが原因!?
 ‥‥しくしくしく‥‥。
 見かねたのか、凪砂の肩に鞘子がそっと手を置く。
「泣かないで、凪砂さん‥‥私も一緒に行ってあげるから‥‥」
「仕方がないな。これを貸してあげよう」
 ただ一人運良くバニー化を免れている祐介が手にしているのは、メイド服。
 鞘子は立ちくらみで倒れそうになりながらも訊ねずにいられない。
「裕介さん、なにを持ち歩いているんですか!?」
「わからないか? メイド服だ。しかも『一日メイドさんの仕事をしないと脱げない』メイド服だ。他にも転んでしまうメイド服やお皿を割ってしまうメイド服もあるが」
「そうじゃなくて、なぜメイド服を――」
「今回の仕事で偶々ね。このメイド服にも同様に呪術がかかっているため運がよければ呪いの相殺も可能かもしれない」
 私、この人がわからない――。
 とかなんとか、祐介が凪砂と鞘子にさっとシーツを被せて、取り去ると同時に2人の服が可愛いフリルのメイド服に変わっている。
 ウサ耳はそのままだが‥‥。
「これって、一応よくはなったんですよね?」
「私的にはグッドよ。マニア度もアップしてる感じがナイスね」
「わーい、メイドさんバニー☆」
 好き勝手を言う理沙、稔、月弥から視線を鏡にうつして「白バニーで出かけるよりはましです」と大切な何かを諦めると、凪砂は力なくドアノブに手をかける。
「‥‥では、行ってきます」


 店内にはもち米やその他の料理のいい匂いが広がっていた。
 銀髪バニーガール美女のままバルカーは淡々と餅をつく。つかれた餅に横から水で打ちながらこねるのは餅将軍を自称する稔だ。
 そう、今やこの場は、稔とバルカーによる一騎打ちの真剣勝負!!
「どう、バルりゅん。ずっとお餅ついてて疲れない?」
「自分でありつづけるために戦う‥‥それだけだ」
「うわっ、渋いね。‥‥でも餅将軍といわれたこの私に勝てるかしら」
 餅つきも戦いなのか。ある意味自分を取り戻すための戦いといえば当たらずとも遠からずだけど。しかし、家で毎年餅つきをしていた稔も、知識と経験も豊富。鍋奉行ならぬ餅奉行と化して、厳しくこの場を仕切っていた。餅をこねながら同時に、厳しいチェックも飛ばす。
「ほら、そこー! アンコの準備はできた!? それとレンレン! もっと働け!」
「働いてるっス。いやマジで、信じて‥‥」
 その時、淡々と機械のような正確さで餅をついていたバルカーが訊ねた。
「‥‥お前は、どうしてここに来た」
「散歩してたらさお餅のにおいに誘われちゃってね」
「‥‥‥‥‥‥そうか」
 会話こそ普通だがその目は、互いを認め経ったもの同士の熱い視線。まるで長年のライバルの如く闘志の火花を散らしつつ、阿吽の呼吸でお餅をつくバルカーと稔。
「すごい‥‥これがお餅つき」
「りさぴょんも、ハイ、ぼっとしてない!」
「きゃうぅ! ‥‥うぅ、稔さん、ある意味呪いより恐いかも」
 じーと餅つきの様子を見つめていた理沙だが、背後から声がかかった。
「あの、私もお餅をついていいかしら」
 そこに立っていたのは、買い物から帰った凪砂だ。
 肩で息をしながら、もう一つ用意してもらった杵を握り、凄まじいオーラで断わり難い雰囲気をまとっている。
 正直、こっちも恐い。
「‥‥えっと、それでは左右から交互に二人でついてみては。稔さん、どうですか?」
 冷や汗を流して訊ねる理沙に親指を立てる稔。
「ええ、参戦上等よ。なぎりん、いつでもいらっしゃい!」
 凪砂は、何かを吹っ切るように魔狼の力を解放した!!
「 そ う さ せ て い た だ く わ 。 」
 ――よっぽどメイドバニーの姿で買い物イヤだったんだな、と思いつつ理沙は稔・バルカー・凪砂の3人により戦場と化した修羅場から離れることにした。
 バニーさんたちがせわしなくお餅料理を作る花のある店内を眺めながら、裕介は隣の店長の蓮に話し掛ける。
「ま、被害にあった奴は嬉しくないだろうが‥‥だが、何故バニーガールになんだ? 『月の兎』と掛けるにしては呪いがおかしいが‥‥あの臼の過去を詳しく訊いてもいいか?」
 そこに何かしら呪いを解く鍵があるかもしれない。
「過去ねえ‥‥元の持ち主から聞いた話だと、最初は普通の由緒ある杵臼だったんだそうな。それがある日一枚の紙っ切れがが入ってて、それからこんな杵臼になっちまったんだとさ」
 その紙は消えてしまったそうだが、紙に書かれていた文章の一部はメモしてあったらしく、蓮はその写しを取り出した。
『 踊る 踊る。  兎たちは 踊る。
  店主 青剣 影狼 異族 巫女 機械人形 月石 仙人 気功士
  陽は月に 総ては兎に
  増えた兎は  華やかに
  宴会をひらきて  総てを喰らい  朝を迎える ‥‥ 』


「ねえ、お餅の方はどうだったー?」
 抱きついて訊ねた月弥に理沙は笑顔で答える。
「うん、あの調子だと無事につきあがりそうかな。‥‥ちょっと恐かったけど。あ、お料理も進んでるね」
 メイド服を脱いで、バニー姿にエプロンをした鞘子が最後の仕上げに取り掛かろうとしているところで、鞘子も理沙に気がついたようだ。
「おしることお雑煮の準備もほとんど終わりましたし、後少しでお料理も万全だから」
 おしるこ、お雑煮、アンコに黄な粉、大根おろし、焼き餅用の砂糖醤油。そのほか色々に各種飲み物。様々な料理やお餅がつきあがった後の準備は整っているが、それにしてもこの量は――。
「‥‥ね。でも、これってちょっと多くないかな?」
「ええ。なんでも、凪砂さんと同化されている狼の影という方が多く食べたいと言っているそうなので。あと同居人さんの分も持って帰りたいそうですから、今日は多めに作ってみたのよ」
 幸せそうに手に持ったオタマをクルクルさせる鞘子だが、えへへーと笑って月弥が言った。
「でもさ、呪いってエプロンはへーきなんだね」
「そう言われると呪いってどういう基準なのでしょう‥‥あ、そうだ。お皿とって来ますね」
 そう言って料理場を離れた鞘子は、途中でひときわ大きい全身を映せる姿見の鏡を見かけた。
 丁度周りに人はいないので、まじまじと観察してみる。
(でも‥‥このバニーガールの衣装‥‥いい生地ですね‥‥それにこんなの着たことないから‥‥)
 なんだろう。恥ずかしい姿をしているのにドキドキしている。
 鏡に映ったいつもと違う自分の姿を見ていて動悸が激しくなってくる。
(ちょっとポーズをとってみたり、わ、ハズカシイな‥‥でもドキドキが止められない‥‥)
「さーやみん♪」
「きゃああぁ!!!」
 悲鳴をあげて振り返ると、稔が覗き込んでいた。その背後からはみんなも顔をみせている。
 料理の準備が整ったのだ。
「ねえ、お餅食べちゃったら元に戻っちゃうんでしょ? その前にみんなで写真撮ろうよ」
 月弥の提案に全員は顔を見合わせる。
 凪砂が優しく月弥を見つめて、そっと頭をなでた。
「そうですね。せっかくの機会ですし‥‥撮りましょうか」
 全員がなんとはなしに頷いた。

 蓮の店内にあるカメラで全員で記念撮影をして、そして、美味しく作りたてのお餅を食べた。


●おまけのエピソード
 元の姿に戻った稔がうーんと背伸びをする。
「あ〜あ、元に戻っちゃったね」
 それはまるで一夜の宴会のような。
 終わってしまうと祭りの後のような淋しさを感じる。
「案外バニーガールも悪くないですね」
「うん、実は楽しかったりしたから♪」
 月弥は手でウサ耳を作ると、軽くジャンプしてみせた。
 場がなごみかけていた時、皿に箸をおいて裕介が言った。
「ご馳走様、と言いたい所だがそのなんだ、何かを忘れているように思えるのだが」


 時間を食事前までさかのぼる。
 全員が姿見の鏡を離れて持ちつきの部屋に戻った後、誰かがコッソリ戻ってきた。
「いや、これが最後だから一応な――」
 相澤蓮はゆっくりと鏡を覗き込む。
 鏡面に映るのは、蓮の面影を残した美しいバニーガール。
 ‥‥あれ? 俺って結構‥‥イイ感‥‥じ?
 なんていうかこの気持ちを表すとしたら、うーん‥‥‥‥うっとり?
 ‥‥。
「って、『うっとり♪』じゃねーーーっ!!! 俺はノーマルだ、普通の素敵スーツマンで、普通の性癖の持ち主なんだー!!!」
 頭を抱えてのたうち回る相澤蓮29才。
 ‥‥。
 でも、もう一度ポーズをとってみる。
 鏡の中には可憐な素敵バニーさん。
 ――オイオイ、いけてるじゃん俺――
 きれいだ。可愛い。いやなんていうかバニーさんな俺サイコー!!
 色んなポーズを試してみる。
 うわ、これはヤバイです。嵌る。ハマリすぎですよ? 俺。


 ‥‥こうして蓮は一人取り残されてお餅を食べ損ねることになった。
 彼が元に戻れるのはこれからもう少し時間を要した後だという。








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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1098/田中・裕介/男性/18歳/高校生兼何でも屋/たなか・ゆうすけ】
【1847/雨柳・凪砂/女性/24歳/好事家/うりゅう・なぎさ】
【2005/牧・鞘子/女性/19歳/人形師見習い兼拝み屋/まき・さやこ】
【2269/石神・月弥/男性/100歳/つくも神/いしがみ・つきや】
【2295/相澤・蓮/男性/29歳/しがないサラリーマン/あいざわ・れん】
【2407/W・1106/男性/446歳/戦闘用ゴーレム】
【2603/田中・稔/女性/28歳/フリーター・巫女・農業/たなか・みのる】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 シナリオにご参加いただきありがとうございました。
 シリアスを書いてると突然、お遊びモノを書きたくなってしまう病にかかってしまう雛川ですが、ご参加してくださる方がいて本当によかったです‥‥みなさん、バニーガールや女性化って好きなんですね(笑)

 雛川は異界《剣と翼の失われし詩篇》も開いてます。興味をもたれた方は一度遊びに来てください。更新は遅れるかもしれませんが‥‥(汗)
 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。

>石神月弥さん
 ご参加ありがとうございました。
 もっと中性的なかわいさを出せたらとは思うのですが、いかがでしたか? それとやたら抱きつかせてしまってごめんなさい〜。そんなイメージが浮かんだのです(汗)