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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


スーパー雪合戦【神聖都学園チームサイド】

●プロローグ

「ねえ、雪合戦に興味はある?」
 神聖都学園の夢琴香奈天(ゆめごと・かなで)が小首を傾げて訊いてきた。

 大雪が降ったその日、雪合戦の呼びかけが行われたのだ。
 同じく生徒の鶴来理沙(つるぎ・りさ)が大きくうなずく。
「私、したことがないからやってみたいです」
「そう? だったら神聖都学園側のリーダーをお願いするわ。私は審判をすることになると思うから」
 超常能力者による雪合戦なので能力の使用もOKとのこと。でも普通も人も参加できるというハチャメチャなルール。楽しければよし、の精神なのだ。
 対戦相手は瀬名雫率いる【ゴーストネットチーム】
 雪合戦は知的なスポーツです。集団戦だけあって力と技だけでなく、戦略とチームワークも重要となる。
 会場は神聖都学園の近くにある裏山。
 広場あり、林あり、池あり、岩場あり。雪玉をぶつけられたらアウト、相手を全滅させたチームが勝利。
 予定日には雪女の力も借りて雪をどっさりと降らせるので天候の心配はなく、策を練るなり、個人で奮闘するなりして、どうにか自軍を勝利へと導いてほしい。
「賞品はあるんですか?」
「温泉旅行ですって。負けチームのおごりで」
「‥‥おごり?」
 なんだか、楽しければよし、では済みそうになくなってきたけど‥‥。


●雪合戦の前に

「ねえねえ、降らせる雪ってこれくらいでいいかなぁ?」
 十歳位の少女の雪女郎、 氷女杜 六花(ひめもり・りっか/ゴーストネットチーム) に訊ねられて、リーダーである 瀬名 雫(せな・しずく/ゴーストネットチーム) は時計を見た。
「う〜ん、そろそろ開始時間なんだけどなぁ・・・・でも、もう少し雪もほしいかも〜・・・・六花ちゃん、もうちょっとだけお願い☆」
 と言って、雫は拝むポーズをとった。
 『ゴーストネットチーム』のチームリーダーであると同時に、雪合戦主催者の一人でもある雫は、そのため会場のコンディションをちゃんと整えておくのもお仕事だった。
「あの、なんでしたら私もお手伝いさせていただけませんか? 雪を降らせることなら私にもできますので・・・・」
 声を掛けた雪女郎を見て、六花はアッと驚いた。
 神聖都学園チームの雪女郎、 氷女杜 冬華(ひめもり・とうか/神聖都学園チーム) も口を押さえて驚いている。
「・・・・な、なぜお祖母様がここに・・・・?」
「・・・・それはこっちが言いたいのら。冬華がでるなんて聞いてねえのす」
 顔をよせあってひそひそ話をする二人に、不思議そうな顔をする雫。
 世間的にふたりは、冬華が姉で六花が妹ということになっているが、実は六花が冬華の祖母にあたる関係なのだ。
「・・・・わ、私は、ほら、お店が学園の近くにありますから、そこで顔見知りの生徒に『負けたら温泉代を負担させられる』と聞いて協力を申し出たんです。でも相手チームにお祖母様が参加していらっしゃったなんて・・・・」
「相も変わらずさ、面倒見の良い性格さしてらぁね」
 そこで、じーっと見つめる雫の視線に気づくふたり。
「そ、それじゃ急いで雪を降らせちゃおうね、六花ちゃん」
「うん! いつでもいいよ、冬華お姉ちゃん☆」

                            ☆

『はい、こちら実況兼審判を務めさせていただきます神聖都学園の夢琴です。本日は急遽決定された雪合戦【神聖都学園チーム】VS【ゴーストネットチーム】会場である神聖都学園の近辺の某裏山より放映させていただきます』

 雪合戦会場の観客用特別ステージ内に設置された巨大スクリーン。
 そこに映し出された夢琴香奈天により基本的ルールが説明された。とはいえルールは、
・雪玉をぶつけて対戦チームのメンバーを退場させる。
・全部退場させたほうが勝ち。
・勝ったら温泉旅行(料金は敗北チーム持ちで!!)
 ――――くらいを押さえておけばいい。
「それにしても超常能力の使用も許可するなんて思い切ったことをしたものですね」
 神聖都学園から借り出した休憩所としてのテントで銀縁の眼鏡をかけた女性、 綾和泉 汐耶(あやいずみ・せきや/神聖都学園チーム) に温かいコーヒーをさし出され、香奈天は「そうね」と苦笑して受け取った。それは熱すぎないけれど体の温まる、適温のコーヒー。
「雪合戦、楽しそうですね・・・・終わった後とか、お腹空いたり体冷えたりしてると思いますから、テントにアウトドア用品準備して防寒用のブロックを積んでおきました。簡易かまども中に設置できたし」
 つぶやいて汐耶は、目の前の一面雪の積もった銀世界を見渡した。
 そう、この広い裏山全体が雪合戦の会場なのだ。
 汐耶が同じく休憩所に座っていた モーリス・ラジアル(−・−/ゴーストネットチーム) にもコーヒーを手渡した。
「暖かいですね、ありがとうございます――綾和泉さんも参加されるのですか?」
「ええ、夢琴さんからのお誘いで。・・・・雪合戦といっても危険そうなので、一応備えておきませんとね、怪我とか。救急箱の準備なんかに」
「ふふ、私も医者なので、ケガをした人達は能力で治させてもらうつもりです」
 寒さの中での負傷は体力を消耗しますからね、とのモーリスの言葉に汐耶は嬉しそうに大きな鍋をかき混ぜる。
「体の温まる食べ物も用意しておきますからね。ん〜、豚汁かしら? 他にはお汁粉も良いですね。後は暖かいお茶とか」
 確か彼女、選手として登録していたはずよね・・・・と思いながら香奈天は手の中のコーヒーカップに口をつけた。
「ところで、雪合戦の中継ですが、どうやってあの巨大スクリーンに映像を流しているんですか?」
「ふふ、それはね、私が能力を使い精神をこっそりリンクさせてもらって、誰かが見ている視覚を拝借してあのスクリーンに投影しているのよ。だから本番も迫力のある絵が撮れると思うわ」
 ・・・・マインドハックの一種なのか。それはちょっと怖いような。
 一方、テント前では神聖都学園チームのワーウルフ、 久住 良平(くずみ・りょうへい/神聖都学園チーム) が雪の中を四足で駆け回っていた。
 【属性:わんこ(犬)】もよるのか「犬は喜び庭駆け回り〜♪」という歌のごとく猛然と雪煙をあげてはしゃぎながら、テントに向かって呼びかける。
「見てるか笑也ー! ほら! 雪だゆきー! ひゃっほー!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「雪だー!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
「ゆきゆきゆき、うおおぉぉぉっ!!!」
「・・・・・・・・・・・・・・・・」
 テントの中で同じく神聖都の 氷川 笑也(ひかわ・しょうや/神聖都学園チーム) はあらぬ方向を向いた。
「・・・・・・・・・・・・・・・・お茶、お代わり」

 そんな神聖都チームの二人を樹の影から見つめる少女がいる。
 彼女、坂乾 透憶 (さかいぬい・とうく/ゴーストネットチーム) はきらりと青い瞳を光らせる。
「にはは・・・・今のうちにはしゃいぐがいいよ、ふたりとも・・・・♪」
 獲物を見つけた野獣の目に、今はまだ二人とも気づいて――
「・・・・・・・・ん?」
 こちらを向く笑也にあわてて木陰に隠れる透憶。
「(ひー! 我輩、気づかれたかとおもったー!)」
 と、透憶はばくばくする心臓を押さえるのだった。

                            ☆

「雪合戦ね・・・・面白そうだな」
 その一言が、雪合戦開催が決まった話を聞いた時の 不城 鋼(ふじょう・はがね/神聖都学園チーム) の一言だった。
 面白い話だと思ったので何人かに話をしてメンバーに誘っていた。
 そして、今、この雪合戦会場に彼はいる。
「フレー! フレー! 鋼さま! らぶりーごーごー、鋼さま! きゃー☆」
 ・・・・そう、雪合戦の話が鋼のファンクラブなど各方面に伝わり、開始前には大きな応援団が出来てしまっていたのだった。
「うわー、やっぱり師匠ってすごいんだね。よかったね、師匠!」
「・・・・雷華、お前のその目は節穴か」
 応援団に対して困った顔を見せている――と自分では思っているつもりだが、二本の刀剣を持った彼女、 飛鳥・雷華(あすかの・らいか/神聖都学園チーム) の目にはどう映っていることやら。
「ん〜? かわいい顔だよ?」
 不城 鋼:身長153センチ45キロ。――女性と間違えられそうな可愛い容姿。
 ぶるぶると震わせた拳を振りあげる鋼。
「ストップ、ごめんなさいっ! 師匠!」
 ――――などなど。
 そこかしこで開始を待つ選手たちが自分たちに許された残り時間を過ごしながら雪合戦の開始を待ちわびている中、それらの様子をこまめにチェックしている人影があった
 ――服装を保護色の白で統一した怪しげな姿――。
「ふむふむ、師匠とか言っとるようやし・・・・あれが神聖都チームの師弟コンビみたいや」
「そこ、怪しいヤツ! なにやってんだ!」
 男の声がしてガシッと怪しい人影の肩をつかんだ。
「な、何するんやあんた!」
 振り返ったのは、背の高い少女。
 私立神室川学園、中等部1年の 大曽根 つばさ(おおそね・つばさ/ゴーストネットチーム) だ。
「・・・・何やあんた。うちがせっかく相手を調べてる時に、どこのどいつや?」
「おう! 俺の名は 竜笛 光波(りゅうてき・みつは/ゴーストネットチーム)!! 女にやさしいナイスガイだ!」
 相手が女の子と分かり、光波は白い歯を光らせんばかりのさわやか笑顔を見せた。
「あのな、うちはゴーストネットチームに所属しとるんや、せやからあんたの仲間。つまりチームメイトや!」
 と言って、つばさは人差し指を光波の鼻先に突きつける。
「うちよりも、あんたの方がよーっぽど怪しい格好や思うよ」
 光波はといえば、安全第一ヘルメットとジュラルミンの盾(入手経路不明)を装備しての完全武装。たしかに返す言葉もない。
「こ、これはまあ一般人代表としてのたしなみとして。・・・・それより保護色の服まで用意して来るとは、キミのやる気も相当なものだな! 感心するぜ!」
 光波の一言につばさは、ふふふ・・・・と低い笑いを漏らした。
 その瞳は熱く燃えている。
「・・・・やるか、やらんか聞かれたら・・・・やる! にきまっとる。 能力を使ってええんやろ、温泉旅行はいただきや!」
「ああ! 勿論いただきだぜ!!」
「よっしゃいくで! きばりやミッチー!!」
「ミッチーってゆうな!!」
 ずしんっ。
 二人が言い合っている中、突然に不気味な地鳴りが雪原を揺らした。
 そろ〜っと振り返った光波とつばさ。

 ふたりは、スゴい生き物を見た。

 外見は両生類や爬虫類に似ており、目は退化して、牙や爪を生やしている。
 その姿には、死と混沌の気配がしみ込んでいるようにも感じられて・・・・。
「き、着ぐるみかあれは!!」
「一応うちらと同じチームやけれど・・・・」
 彼、 G・ザニ−(じー・−/ゴーストネットチーム) がゆっくりと参加メンバーの控えテントへと向かう背中を、二人はただ無言で見送るしかなかった・・・・。


 ――――観客席の簡易スタンドから歓声が沸きあがる。
 巨大スクリーンに参加者メンバーが発表されたのだ。

【神聖都学園チーム】
 鶴来 理沙(チームリーダー)
 久住 良平
 氷川 笑也
 飛鳥 雷華
 不城 鋼
 綾和泉 汐耶
 

「今日の雪合戦の作戦だけれど、冬華さんから説明をしてもらいますね」
 メンバー全員が集まったところで理沙が目で合図し、冬華が会場全体の地図を広げて作戦の説明した。
「――えっと、全体としてはチームワーク重視でいきたいと思います。遊撃隊のような感じで、指揮をとる人からの指示に従っていただき、互いに連携しつつ相手を個別に叩いていく・・・・という戦い方がよいかと・・・・」
 そのためにチームを

 【飛鳥雷華&不城鋼ペア】【氷川笑也&久住良平】【鶴来理沙&氷女杜冬華ペア】

 という3班に分けて班単位の連動した動きを重視する。機能すれば攻撃防御において大きな効果を発揮するだろう戦術だ。
「ところで汐耶さんはどうされるのですか?」
「そうね、私は肉じゃが係? 怪我をしたり寒くなったらいつでもテントに戻ってきて」
 ルン♪ とエプロン姿で汐耶が頷いた。
 まあ、一応テントも会場内だし。
「ということでよろしいですね? 指示は私と雪華さんから出させていただきますから、みなさんは目の前の相手と全力で戦ってください!」
 まとめると、神聖都学園の採用した作戦概要は『状況に対して柔軟に対応する、故人の連携を重視した遊撃戦術』といった内容だ。
 理沙は立ち上がると、全員で円陣を作り手を重ね合わせた。
「それじゃみなさん! がんばっていきましょう!」


【ゴーストネットチーム】
 瀬名 雫(チームリーダー)
 G・ザニ−
 坂乾 透憶
 モーリス・ラジアル
 竜笛 光波
 氷女杜 六花
 大曽根 つばさ

「作戦だけどね、こんな感じでいったらいいんじゃないかな? それじゃ説明してね、六花ちゃん☆」
 と言って雫が六花に席を譲った。
「――それで、チームワークを重視するんだけれどね、まずはチームを二つにわけるの。そして守る人たちと攻撃する人たちの役割をハッキリとさせて、一気に相手の中心をつぶしちゃうんだよ」
「・・・・成る程なんだな・・・・防御班によるサポートをしつつ、攻撃班で本陣を叩く・・・・という戦法なんだな」
 G・ザニ−の補足に誰もが「おおー」と感心する。彼は外見に反して性格は温厚で、知性も高いのだ。
 ちなみに、

 攻撃班が【瀬名雫、氷女杜六花、大曽根つばさ、竜笛光波】
 防御班が【モーリス・ラジアル、坂乾透憶、G・ザニ−】

「うお! 俺の班女の子ばっか!?」
 と叫んだ光波が、ぼかっとつばさに殴られる。
「そんなバカなこというとると鉄拳制裁やからな!」
 いやもう飛んできてるんだけど鉄拳・・・・という突っ込みを光波は心の中にしまう。
「それじゃみんな、勝利目指してレッツゴー☆」
 エイエイオー!! という雫の掛け声に合わせて全員が腕を突き上げた。


 両チームが会場に散って互いに布陣が整うと同時に、雪合戦開始を告げる花火は高く、乾いた音を立てて打ち上げられた。


●スノー&ファイヤー

「・・・・雪合戦の王者といわれたこのボクに挑戦とは・・・・ふふふふ・・・・」
 新雪の中に飛び込んだ神聖都チームの飛鳥雷華は、準備時に作り上げておいた雪合戦にしては大きな雪壁とかまくらトーチカの中に立てこもる。
 だが、雪合戦が始まると同時に師匠である神聖都チームの不城鋼は、中央を真っ直ぐに直進して敵陣深くへと突っ込んでいってしまった。
「俺が出来るだけ人をひき付ける。他のヤツはその隙を突け!」
 見晴らしのよい開けた狙われやすい場所を選んで走り抜け、迫りくる雪玉を四次元流歩法――縮地と同等のスピードの歩法――で回避をした。
「チッ、四方八方から玉が飛んできやがる・・・・かわせないなら、――うおおおおおぉぉぉぉぉ・・・・ハアッ!!!!!」
 かわせない雪玉に対して、地面に拳を叩きつけ拳圧でまき上がる衝撃で叩き落とす鋼。
 そのまま勢いに任せた鋼は、かまくらトーチカにこもる雷華を残して常に攻撃の激しい場所へと突き進み、一人でどこかへ行ってしまう。
「師匠ー!! ま、待ってよー!!」
 雷華はトーチカを飛び出すとえぐえぐっと涙目になりながら鋼を追いかけていった。

 鋼ともう一人、猛然と雪煙を上げてゴーストネットチームをかく乱する人影が走り抜ける。
「くぅ〜、不城に負けてなんていられないな! 俺も思う存分かき回してやる!」
 見ててくれよ、笑也!
 ――と親指をグッと立てて見せた神聖都チームの久住良平だが、肝心の親友――と良平が一方的に片思い状態で思い込んでいる――神聖都チームの氷川笑也は、
「・・・・・・・・えっと、なに?」
 と、興味なさそうに適当に雪玉をよけている。
「俺の華麗な活躍、見ててくれってばよー!」
 ズポッと雪の中に埋まりこむようにずっこけた良平だが、どこからか地響きのするような機械音を聴きつけた。
「何だ、この音・・・・」
「見っつけたよー、久住良平に氷川笑也♪ キミたちふたりはこの我輩が倒してあげる」
 雪から顔を上げた良平が見つけたのは青い瞳の少女。
「てめえ、坂乾、またお前か! ・・・・というよりなんだよそれって!?」
「にはは。発明ならおっまかせー♪ 我輩が開発した会心の雪合戦用ロボ『サイバースペシャル雪投げ君4号』なのだ」
 ゴーストネットチームの坂乾透憶の横にある、洗濯機とピッチングシーンを合体させたような妙な機械。見た目にはセンスの欠片すら感じられない。
「雪投げ君シリーズ・・・・完成していたのか。って、1号から3号はどーしたんだよ」
「ふっふっふ、1〜3号はね・・・・にはは〜☆」
 透憶は頭をかくと、質問を無視して良平たちに攻撃を開始。
「てめー! 答えられないからって、にはは笑って攻撃すんじゃねえ! というか、うお、こいつ見かけによらずなかなか高性能だぞ」
 何とかかわす良平だが、野生の直感は新たな気配の接近を察知し、体を反転させた。

 そこには両生類や爬虫類にも似た謎の生物がいた。

 ゴーストネットチームのG・ザニーは、巨大な体でゆっくりと近づいてきた。
「・・・・G・ザニー・・・・おまえに、雪玉当てる・・・・」
 見かけこそ怖いG・ザニーだが、一度厚い信頼を寄せた仲間を決して裏切ることはない。
「――前門のマッドサイエンティスト、後門の謎生物かよォ。笑也!」
 助けを求めるように仲間の名を呼んだ良平だが、笑也はゴーストネットチームのモーリス・ルブランとほくほくお茶を飲み交わしている。
 流れ玉に当たってすでにリタイヤしていたのだ。
「笑也ー!?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・頑張って下さい」
 たった一人で格好の的になってしまった良平だが、さすがわんこ属性ことはワーウルフ、精神で体力にモノいわせて縦横無尽に駆け回って逆に相手を翻弄し、さらに神聖都チームの他班と絶妙の連携をとって積極的な攻勢に出た。
「いくぜ! 俺の必殺『ハイパースピード・シルバークラッシャースペシャル』を!!!」
 獣の腕で腕力にモノいわせた、要するに球速が早いだけのただの雪球だが、とにかく投げまくりな速球は恐るべし攻撃力となった。
「にはは!?」
「ぐもー!」
 雪玉が透憶とG・ザニーにあたるかと思われた直前、水になって宙ではじけた。
「流石にチームメンバーが危ないのは見過ごせませんので」
 モーリスの能力アークにより雪玉が元の水に還元されたのだ。
 こんな能力が相手にあるんじゃ勝ち目はないか、と思ったその時。
「・・・・・・・・・・・・・・・・お茶、お代わり」
「あ、はい」
 ぱしゃ。
 気が逸れた一瞬を狙い定めたように、偶然飛んできた雪球がモーリスに命中。
「はは、これは参りましたね」
 一気に戦線のバランスが崩れて戦局が動き出していった。
 良平の『ハイパースピード・シルバークラッシャースペシャル』がG・ザニーと透憶を捉え――命中!
 やった、と気のゆるんだ瞬間、良平が透憶にぶつける前に『サイバースペシャル雪投げ君4号』から発射されていた雪玉が良平を直撃する。
 神聖都学園:2名、ゴーストネット3名の脱落となった。
 だが、この戦いの意義は大きい。
 互いが相手チームの戦術をほぼ把握したのだ。
「相手の戦法が大体つかめたので、これで勝負のポイントが絞れましたね」
 つぶやく理沙。一方、雫もにんまりと笑う。
「攻略方法、み〜っけ☆」
 ――――ゴーストネットチームが指示を出している神聖都チームの本隊を潰し、個人の連携を破壊するか。
 ――――それとも、神聖都チームが密な連絡行動を保ち続けて、ゴーストネットチームを徐々に倒していくか。
 こうして戦いは新たな次元に突入していく。


「・・・・どうも、私たちが指示を出していることが見抜かれたようですね」
 飛んできた雪玉を、神聖都チームの氷女杜雪華が雪の壁で防御した。攻撃が指示を出している雪華たちに集中し始めているように思えるのだ。
 雪華に神聖都チームの鶴来理沙も同意する。
「私たちを攻撃しているということは、他の人には意識が向いていないということ。今の状況は伝えてありますゆえ、私たちが持ちこたえている間にうまく攻撃してくれることを信じましょう」
 理沙はやけに手馴れた答えを返した。
 攻撃が激しくなるだろうというのに、むしろそれをどこかで喜んですらいるような。彼女に意外な一面を見た気分だ。
 本陣が見破られたのは次のような状況からだった。

「連携さえ破壊してしまえば神聖都チームは意味のない班がばらばらに行動してるだけのなるよ。残りのみんなで全力で指示を出してる人たちをやっつけちゃうから」
 でも、その指示を出してるのはどこだろうね、というゴーストネットチームの瀬名雫に、同じくゴーストネットチームの氷女杜六花は気づいたことを言ってみた。
「六花、思うんだけど、さっきから会場でちらちら降ってる雪って不自然な振り方してるって思うんだよ。相手チームには雪華お姉ちゃんがいるんでしょう?」
 そうか、降らせる雪を信号に使っていたんだ、と雫は手を打つと、残った攻撃班をさらに二分させ、本陣への直接攻撃部隊と背後に回しての奇襲部隊に分けた。
 この攻撃で速攻で本陣を潰し、返す刀で残りの指揮系統を失ったもう一班を全滅させる。この作戦が成功すれば、神聖都チームは敗北したも同然だ。

「しっかし、まさかあんたとおんなじ班に回されるなんて意外やな」
 ゴーストネットチームの大曽根つばさは、雪華と理沙を正面から攻撃していた。
 パートナーはゴーストネットチーム竜笛光波だ。
「勿論だ! 俺の目的は、ぜひ勝利して温泉旅行を当て、雪合戦に参加したかわいい女の子達の入浴シーンを覗くこと! それまでは負けられん!!」
「威張ることかー!」
「あうッ!」
 ハリセンで突っ込むとさっさと戦闘モードに戻るつばさ。
 いくら女の子二人組みとはいえ甘い相手ではない。理沙も運動神経は目を見張るものはあるが、気をつけるのはもう一人だ。雪女郎である雪華にとってこの雪山は彼女のテリトリーも同然なのだ。
 つばさは、能力による鈍く光る壁3枚を玉除けとして前方に展開した。
「さて、身を低くして攻撃いうんがセオリーやろうけど。それじゃ、あかん。おもしろうない。防御に展開する壁は二枚。これをつこうて、相手の右側へ移動。側面から叩く。当てることよりも、当たらないことを優先して攻撃や」
 そう、つばさたちはある意味、奇襲が行われるまでの時間稼ぎともいえるからだ。
「しかし、何で俺の雪だまはあたらねーんだ!」
 隣で涙する光波ことミッチー。
 ヤローどもが相手だったら容赦無くガッツンガッツン雪玉を当てまくり、場合によっては雪合戦以外の技(コブラツイストなど)も披露しちゃうおうというサービスも考えていたミッチーだが、しかし相手チームはカワイ子ちゃん(死語!)二人だけなので当てられない。片や優しげなお姉さん、片や小柄で清楚な少女。当ててしまったら、それはもはやミッチーではないのだ。
「ミッチー! デレデレすな!」
 またもやハリセン。こっちもこのキツイ突っ込みがなければいい線いってるけどな、とは思っても死んでも口にしないのもミッチー。
 そんなミッチーを差し置いて、つばさは応戦された雪玉に対して三枚目を展開して防御をより硬くする。
「ここからが肝心や。うちもただ味方の奇襲を待ってるだけやない」
 展開した三枚の壁の向こう側で簡単な囮として雪だるまを作成使用・・・・と思ったが、時間節約のためミッチーを使用。その後、身を低くして相手の後ろへと移動を試みる。これで成功すれば奇襲部隊と合わせてのW奇襲となる。
「それにしても雫たち、なんでこんなに遅いんや?」

「はあ、これはちょっと困ったかな」
 元々は雪玉要員程度の協力だと思っていた氷女杜六花だけど、今は瀬名雫と一緒に神聖都チームからの猛攻撃に苦戦していた。
 ――神聖都学園の不城鋼と飛鳥雷華の師弟コンビは、いくら雪女郎の六花といえどかなり厄介な相手なのだ。
「行くぜ、飛鳥!」
「任せてっ! 師匠!!」
 雷華は持ち前の運動神経と速さと全開ESPをつかい、飛んでくる雪玉は1m以上前で念動によって撃破し、クレアボヤシンス(千里眼)を使って周囲の状況を把握したうえで、テレパシーで思考を読みつつ、先手を取るように次々と雪玉を当ててくる。
 一方、師匠の鋼も攻撃は普通の雪玉だが、但し四次元流歩法といった特殊な歩法で高速移動し隙あらば雪玉を直接叩きつけようとしていて、雪を操った攻撃で威嚇できなかったらあっという間に倒されていることだろう。
「うえ〜ん、これじゃ奇襲どころかこっちが危ないよっ!」

 疲れから雫が座り込んでしまった時、突然攻撃の嵐がやんだ。ESPの使いすぎた雷華が制御仕切れないモノを長時間使っていたせいで気が抜けたのだ。瞬間、六花の遠隔雪玉が数十個同時に命中した。
「・・・・え、ボク、リタイヤなの・・・・?」
 しばしの放心の後、雷華は大きな声で泣き出してしまった。ごめんなさい師匠と謝りながら。
 鋼は小脇に雷華を抱えると襲撃のなさそうな後方に下がる。
「馬鹿! こんなことで泣くんじゃねえ!」
「でも、ボク・・・・! ひっく、ふえぇ〜ん!!」
「あぁ〜もう、仕方ねえなぁ」
 泣きやまないどころか、さらに激しく泣き出す雷華に諦めた顔をして、鋼はハンカチを差し出すと、泣きやむまで優しく抱きしめ頭を撫でる。
「なんてゆーか、子供をあやす心境だな」
「来た、今や!」
 つばさの合図に身代わりになっていた光波が光の壁から無造作に飛び出し、冬華と理沙の集中雪玉攻撃を受けた。
 当然のようにクリティカルヒット食らって鼻から流血しつつ、どこか満足そうに前のめりになって大の字で倒れるミッチー。観客席ではあまりの男っぷりに拍手があがり伝説として語り継がれたという・・・・無駄な伝説かもしれないが。
「まさか直接対決になっちゃうとはね、雪華お姉ちゃん☆」
「おば・・・・六花ちゃん!?」
 雪女郎同士の雪の力が相殺し、拮抗した隙を突いてのつばさの攻撃で冬華と理沙は雪玉をぶつけられてしまった。
 そのまま、孤立してなおかつ頭をなでられたらはにゃーん状態になっている雷華を抱えた鋼も攻撃を避けることもできずリタイヤした。

「あら、鼻血が――大変ね。でも傷は男の人の勲章だと思うから」
 リタイア者の休憩場用で眼鏡のお姉さん・神聖都チーム最後のメンバー綾和泉汐耶は伝説の勇者ミッチーを治療していると、頭にぽふっと雪玉をぶつけられた。
 雫がくしし☆と笑ってブイサインを突き出す。
「ゴーストネットOFFの勝利だね☆」

 ピピーと試合終了の笛が鳴り、ゴーストネットOFFチームの勝利が宣言された。

「あら、これで終了? それじゃ後片付けもきっちりないといけないですね。ゴミ袋も準備っと」
 といって会場の後片付け用のゴミ袋を渡していく汐耶。
 眼鏡のお姉さんは最後までマイペースだった。


●温泉は舞い降りた 〜エピローグ

 神聖都学園の氷川笑也が静かにお茶を飲んでいる。
 しみじみ。
 白い雪舞う空を見上げた。
 ぽふ。
 どこからか飛んできた雪玉が偶々、笑也に当たった。彼がなによりも大切にしている左耳の後ろからたらしている付け毛に。
 笑也の目がぎらつく。
 ぶちきれ笑也による神降ろしの舞で火の神を降ろして、火炎放射の嵐は雪を溶かしまくるだけでなく地形さえも変える破壊を撒き散らし(予想以上の怒りだ!)、ついには温泉を掘り当てた! なんというか会場はいろんな意味で大パニック。逃げ惑う観客に怒りを発散して落ち着いた笑也は踏みつけにされた。

 数日後、神聖都学園のはからいによってそこは神聖都温泉として新しい癒しと和みの憩いのスポットとなる。
 雪合戦の記念にということで参加メンバーが温泉に招待され、これが優勝商品お変わりとなり、敗者ペナルティの料金払いはチャラにされて、全員で仲良く温泉を楽しんだという。


 さて、このときに女風呂の覗きにチャレンジした人物がいた
 我らが英雄ミッチーだ。
 結局バレて逆さ吊りにされ「我が人生に一片の悔い無し!」と叫んで、新たな伝説をまた一つ作ったという。
 神聖都学園の歴史がまた一ページ・・・・。




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【1449/綾和泉・汐耶/女性/23歳/都立図書館司書/あやいずみ・せきや】
【2053/氷女杜・冬華/女性/24歳/フルーツパーラー店主/ひめもり・とうか】
【2239/不城・鋼/男性/17歳/元総番(現在普通の高校生)/ふじょう・はがね】
【2268/氷川・笑也/男性/17歳/高校生・能楽師/ひかわ・しょうや】
【2381/久住・良平/男性/16歳/高校生/くずみ・りょうへい】
【2450/飛鳥・雷華/女性/16歳/龍戦士 兼 女子高生/あすかの・らいか】

※参考 『ゴーストネットOFFチーム』メンバー
【1411/大曽根・つばさ/女性/13歳/中学生、退魔師/おおそね・つばさ】
【1623/竜笛・光波/男性/20歳/大学生/りゅうてき・みつは】
【1974/G・ザニ−/男性/18歳/墓場をうろつくモノ・暴食神の化身】
【2166/氷女杜・六花/女性/370歳/越後のご隠居兼店主代理/ひめもり・りっか】
【2290/坂乾・透憶/女性/17歳/女子高校生&???/さかいぬい・とうく】
【2318/モーリス・ラジアル/男性/527歳/ガードナー・医師・調和者】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 シナリオにご参加いただきありがとうございました。それと今回はノベル執筆が遅れてしまい申し訳ありませんでした。複合シナリオは思ったよりも難しかったです(汗)
 このシナリオは【ゴーストネットOFF/スーパー雪合戦】との合作形式になっています。ある意味予定通りではありましたが、対戦相手の顔は見えたほうがいいかな、とも思いまして。おまけに温泉まで出来ちゃいましたが、そんなシナリオって需要ありますか? んー、微妙?
 さて、2月も中旬を過ぎてもう春の季節も目前ですが、ドタバタ雪合戦でしたが楽しんでいただけたなら嬉しいです。

 それでは、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。