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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


人の灯り、心のあかり (B)

○オープニング

草間 武彦は上機嫌だった。
その依頼人は、珍しく、本当に珍しく怪奇以来ではない依頼をこの事務所に持ってきたからだ。
北岡 隆と名乗ったその人物の真新しい名刺には「北岡商事代表取締役」と書いてあった。

「まだ、私一人の会社です。リストラに近い形ですが、職場をやめました。独立して仕事を始めようと思って準備しているところです。」
そう言って彼は、山村の地図を差し出した。
「この土地は、私の父の持ち物で、近いうちに譲ってもらう予定になっています。父は現在入院中でして…。」
彼が指差す土地は、範囲二キロほどは一件の家以外には何もない土地で、上質な木々が産出される場所だと言う。
「ここを売って父を東京に呼び寄せる予定なのですが、ここを見に行った不動産屋とかが、怪しい人影などを見たそうなんです。
泥棒や、犯罪者が父の留守に家に入り込んでいたり、山で何かしているかもしれません。そこで調査をお願いしたいんです。」
「それは、構わないがもし、犯罪者とかがいたらどうするんだ?」
「追い出してください。警察には通報しないでかまいません。彼らがそこからいなくなればいいんです。」
言葉の後ろに何かを感じるがとりあえず、交通費は向こう持ち、滞在場所はその家を使用していいと言うことなので引き受けることにした。

依頼人が帰った直後、窓を見た武彦は目を丸くする。
そこには、この都会にどこから集まったのか、と思うほどの鳥が集まっていた。
まるで、某映画を思わせるほど。
彼らは、こつこつと嘴で窓を叩く。窓を開け、外を見るとそこには、一人の少年が立っていた。
武彦は慌てて外に出た。
「君は…一体?」 
「僕は 光。父さんの依頼を受けないで。父さんのためにも、お祖父ちゃんのためにもならないんだ…。」
父、祖父。この少年がさっきの依頼人の息子であることは解った。だが…。
「そういうわけにもいかない。一度受けた依頼はな。」
「そう…。じゃあ、僕はみんなと邪魔をするよ。」
「お、おい!!!」
周囲の鳥がいっせいに羽ばたく。ほんの一瞬目が離れる。
次に目を開けたとき、武彦はため息をついた。
呼び止めることも、話しかけることもする間なく少年の姿は消えた。

「また…オカルトネタかよ。」

なんとなく、やる気は失せた。
もし、興味がある奴がいるなら行ってみないか?
必要なら、もちろん手伝うから。一緒には行くから…。

武彦はソファの上で背と、依頼書を投げ出して、そう言った。

○依頼の裏側、表側

「この依頼、いろいろ裏がありそうね…。」
シュライン・エマは小さく息をついた。武彦の体質からして今回もあまり儲け話にはなりそうにない。
でも、これからの依頼のためにも不利に働かないように事前調査はしておいたほうがいい。
そう思った。
今回の件は記憶をいくつか刺激する。
ゴーストネットの謎の書き込み、碇編集長のところで聞いた少年の話の断片…。
これらは、おそらく一本の糸で繋がるだろう。
依頼人の背後関係も調べておこう。彼の会社が本当に成立可能かどうか。調査費が払ってもらえるかどうかも。
カンとしてはあまり儲け話になりそうにないが、ちゃんとした依頼になればそれに越したことはないから。武彦の為にも…。

○事前調査

目的地はいわき市の一角にあった。
そこに向かうタクシーの中でシュラインは調査結果を検討していた。
「これは…やっぱり止めた方が、いいかもしれないわ。」
武彦が別の依頼で来れなくなった代わりに、東京での調査を総て担当してくれた。
その調査書類を見てみる。目的地の土地を現在の所有者は譲渡予定は無くむしろ勝手をしそうな息子を止めるために別の人物に依頼しているらしい。
また、依頼人の息子はアトラスの情報員たちと出合った時に「父親はリストラされた。さらに罠にかけられる。」と言っていたらしい。
名前は透、武彦の聞いた名と違うが、別の名を名乗った可能性もある。異能力者であることからしても同一人物であるだろう。
依頼人の前の勤め先、これから立てようとしている会社も、なにやらきな臭いところがある。
この依頼、依頼人の望みを全うさせることは良い方向にはいかないのでは、ないだろうか…。
「とりあえず、土地の所有者に話を聞いて、相談してみるのが先ね。」
丁度病院についた。シュラインは病室を訪ねるべ受付に向かったが、そこで驚く事を聞く。
「えっ?いない?」
話によれば、病状が急に良くなり外出&外泊届けが出たという。
「お孫さんがお見舞いに来たみたいですよ。おうちに戻られる、と言ってました。」
看護士に礼を言うとシュラインは病院を出て携帯を開けた。かける場所は草間興信所。
「あ、武彦さん?依頼人に電話を。大至急こちらに来て欲しいと伝えて。」
事情を説明し、携帯を閉じたとき彼女は決心していた。もう、下手な小細工はしない方がいい。
これは、家族の問題なのだから。

○対決?

駅前のロータリーで雪ノ下・正風は、改札に依頼人を迎えに出た仲間を待っていた。
「ああ、こっちだ…。」
手を振ると、それを感じたのだろうか。黒服の海原・みそのが足早にやってくる。背後には背広の依頼人 北岡・隆がいた。
少し遅れてやってきた綾和泉・汐耶と、エマもさっき合流したので、これで連絡があった人物は全員のはずだ。
仲間達を促し、正風は車を出した。ワゴン車はまだうっすらと雪の残る道をゆっくり走り出す。
「お孫さんらしい人が、あなたのお父様を連れ出した。と病院から聞いています。お父様はすでに自宅にお戻りのようですね。」
エマは、いくつかの報告書を出しながら依頼人にそう告げる…。
「…透か…何故?」
(おかしいわね?彼は、まだ…。)
軽い疑問を口にせず、汐耶は別の事を問うた。
「良質の木材が採取でき、なおかつ人の手の入っていないところ、などそうあるものではありません。何か理由があるのではないですか?禁域とか…。」
事前調査ではその辺の調査は限界があった。だが、依頼人は首を振る。
「いえ、先祖代々の当主が頑固だっただけですよ。その山に住まい、その山を守る。そう生きてきた。古臭いほどに…。」
「山は懐かしいな、祖父さんと死んだ親父と三人で修業しましたよ。大事な思い出です。」
正風の言葉に隆は鼻をならした。
「そんな言葉は、いつか別の場所に帰る人間の言葉ですよ。山の生活は楽しいばかりじゃありません。友達とも自由に遊べない。学校に行く以外のことはほとんど何もできないほど遠い道のり。山以外何も無い生活。私はそれを15年繰り返しイヤになりましたよ。心底ね。」
その言葉も、また真実。否定することさえ出来ず、探偵達は口をつぐむ。
「だから、息子や家族にはそんな苦労はさせたくなかったんです。その為に一生懸命働いてきたのに…。」
俯いた彼にエマは封筒を渡した。
「今、見なくてもかまいません。後であなたの選択肢を増やす参考にしていただければ。とりあえず、今はお父様と話し合ってみてください。」
「あの地で待っている方もいるはずですから…。」
もう、勝手に土地を売ることはできなくなった以上、仕方ない。依頼人は頷いた。みそのの意味深げな言葉を彼らは心に残しながらも流れていく風景を見つめ続けていた。

「ん?何だ??」
もうじき家が見えようか、というところで、正風は車を止めた。
さっきまでとは違う雰囲気が山を、取り巻いている。影のような魑魅魍魎が地を渦巻き、風の流れのような幻覚が「帰れ、近づくな…」と彼らに告げる。
「これは、一体?」
今まで過ごしてきた山と違う雰囲気に依頼人は明らかに怯えていた。
「皆さんが見た、という人影とはこれらではありませんの?」
みその問いに依頼人は首を振る。解らない。自分は信じていなかったと。そんなことは無いと思っていたと。
だが、探偵たちは怯えてはいなかった。なぜなら彼らは感じていなかったのだ。異形の、本当に危険な者達がもつ「それ」を、目の前の彼らは持っていない。
曰く、敵意…。
「覚悟を問うているのさ。こいつらは。多分、あんたの親父さんが戻ってきている。あんたに親父さんの思いと対するだけの意思があるのか?手ごわいぜ。山は親父さんの味方だ。」
近寄ってくる魍魎を気の力で吹き飛ばしながら正風は問う。彼にはこれを放ったものの意思がわかる。
(ったく…祖父さまがいるな…。)
「どうしますか?戻りますか?それとも共に行きますか?どちらにしても、我々は、あなたを守りますが。」
守る以上のことはしない。とみそのは言外に言う。彼らの言葉を受けて、依頼人、北岡・隆は前を向いた。
「父に、会います。最初からそうしなければならなかったのですね。」
彼の決意にエマと、汐耶も頷く。そして歩き出した。魑魅魍魎と意思の流れの向こう側へと。

正風が、魍魎を、みそのが幻影の流れを散らしていく。
その先に彼らは待っていた。
魑魅魍魎や幻影に足止めされることなど彼らは、信じて、いや望んでいなかったろう。
老人が二人、後は少女に近い女性達…。
自分の背後、仲間から小さな驚きの声と、やっぱり、というような嘆息の息をエマは感じた。
依頼人を庇うようにして、彼らの中で最年長に見える存在に一礼する。
「お初にお目にかかります。我々は、こちらの依頼人の意向に合わせて動いています。でも、できればお話し合いください。家族の話でもありますから…。」
エマの言葉に促され、決意したように隆は前に歩み出た。
「お久しぶりですね、お父さん。」
「…隆。お前、一体何をしにきた。わしが病院にいる間に、何をしようとした?」
「…お金が、必要なんですよ。会社を立てて、家族を守るためには。だから、ほんの少しお借りしようと…。」
「借りる?売るの、盗むの間違いだろう?勝手わしにとって、ここがどんなに大事かわかっておろう?」
「私にとってだって、仕事と、家族が大事です。妻や息子の生活を守るためにも、ここは譲れません!」
彼らの言い争いを止めるように少女達が割り込んだ。背後に立つ老人も何かを説得するように隆の父を止める。
「ほっといてくれ。」
と、彼らは言わない。第三者の言葉に親子は反論の言葉を紡ぐことをしない。
ただ、譲れず、にらみ合う二人。その間に黒い影が横切った。
「誰だ!?」
親子と、7人の探偵たちは身構えた。そうしなかったのは、汐耶、唯一人。彼女は二人の間に立つとゆっくりとこう告げた。
「…出て来たのね…。お二人とも。もう一人の話を聞いて頂けませんか?これは、家族の問題なのでしょう?」
横切った影は黒い烏。彼らがそう気付いたとき、どこから現れたのか。一人の少年が立っていた。
「お父さん、お祖父ちゃん…。」
「おまえは…。」
「…透…。」
「ちゃんと…話そうよ。みんな、間違ったことは言ってないけど、間違ってる。ぶつかるのが怖くて逃げてたんだ。でも、それじゃいけないって、僕も教わった。だから、ちゃんと話そうよ。」
最初こそ、おずおずと話していたその少年、透の声はどんどん大きくなっていく。彼に勇気を与えたものは何か。
それは、誰にも解らなかった。
だが、少年の言葉に親子は頷いた。お互いに、何年ぶりかにお互いの顔を、深く見つめて…。

竜爺の家は探偵たちに開放され、彼らは呉越同舟で山の夜を迎えた。
その夜、3人が何を話したかは解らない。
正風は、供された地酒を祖父と酌み交わし、みそのは、妹がかつて嬉しそうに語ったて聞かせた温泉に共に入り、雪だるまを作る。
汐耶は持ってきた本を読みながら、エマは報告書を整理しながら、静かな夜を過ごした。
あえて、話を聞こうとはしなかった。
彼らを見守る、真っ直ぐな心たちに囲まれたことが、3人の話を静かに支えていた事を館を見守る存在たちは感じていた。

次の日、隆は4人に依頼を取り下げる。と告げた。
父の友人達も、帰りここの魍魎たちも消えるという。「あれ」が山を守るために放たれたものであることは解っていた。
そして、話がついた今それの必要はもう無い。
「父と話し合いました。息子とも語り合いました。引きこもり何も話さなかった息子がどれほどの思いを抱えていたのか、まだ私には解りませんが…。」
話し合ってみないと、解らないことはある。
少なくとも今回のことがきっかけになったと、隆は言った。
「ご迷惑をおかけしました。結局親子喧嘩に巻き込んでしまったのかもしれませんね。」
苦笑した隆は社会人としての伸びた背筋で、深くお辞儀をする。そしてこう言った。
「ありがとうございました。」
と。

○心の明かり、人の明かり

彼らが戻って数日後、それぞれの元に、一通ずつの封筒が届いた。
白い封筒に達筆で書かれた差出人の名は北岡・竜之介。
それが依頼人、北岡・隆の父からの物であると気付くまで、早いもので1分、遅いものでたっぷり20分かかったという。
中に入っていたのは、事件の顛末と、その後の話し合いの結果を説明する手紙。
そして、温泉旅館の招待券が二枚づつだった。

今回の報告書を書きながら、エマは思う。
結局のところ、彼らは仲直りしたかったのだと。
頑固で自分の気持ちを、譲らないものを抱えていたがゆえにすれ違ってしまったが、彼らは似たもの親子だ。
依頼人は自分の報告書を見て、会社を起こすにあたり人や相手を選んだようである。
引きこもっていたあの少年も、祖父と暮らすことになったという。これで何かが変るであろう。
後は、彼らの問題だ。親子問題にこれ以上口を出す必要は無い。
ただ、家族の絆を取り戻すための手伝いができたことには満足している。
ちゃんと振り込まれた調査費にも。
自分に贈られた「これ」はボーナスとしてもらってもいいだろう。
これを口実に彼をデートに誘うのもいいかも…。
そんなことを考える自分の頬がほんの少し緩んでいる事を彼女は知らない。

結局のところ、どんなお化けも、能力者の力もきっかけに過ぎない。
人を変えるのは、人なのだ。人の心に明かりを灯すのもまた、人。
ファイルを閉じながら、そう、武彦は思った。

草間探偵事務所 事件報告書
依頼人 北岡・隆
持ち山の不審者探索  完遂
現在依頼人は東京在住 父の援助により会社経営を続行。
山は依頼人の父と息子が管理をする。
調査費 無事入金。

調査書には照れくさそうに笑う親子の肖像が添付されている。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 0086/シュライン・エマ  /女性 /26歳  /翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0391/雪ノ下・正風  /男性 /22歳  /オカルト作家 】
【 1338/海原・みその  /女性 /13歳  /深淵の巫女 】
【 1449/綾和泉・汐耶  /女性 /23歳  /都立図書館司書 】

【 NPC/草間・武彦   /男性 /30歳 /草間興信所所長(私立探偵) 】
【 NPC/北岡・竜之介 /男性 /88歳 /土地地主】
【 NPC/北岡・透   /男性 /14歳 /中学生 】
【 NPC/北岡・隆   /男性 /45歳 /会社経営 】


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■         ライター通信          ■
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お待たせいたしました。
こっそり続けてきたシリーズ 完結です。
お付き合いくださりありがとうございます。

皆様が真っ直ぐに対してくださったため、スムーズに話を進行することが出来ました。
心から感謝いたします。
同じ事件を違う視点から見たらどうなるか、やってみたいと思い、こういう展開になりました。
楽しんで頂けましたでしょうか?
事前調査と、エピローグはそれぞれ変えてあります。
それぞれの行動があっての成功です。よければ他の方のもご覧ください。

エマさん、ご参加ありがとうございました。
前の依頼も頭に入れて動いてくださったこと、心から感謝いたします。
正統派の探偵として動いてくださったので話がスムーズに進みました。
病院での「孫」は透ではありませんでしたが、病院に来て、すれ違うことで「依頼人」を呼び出す口実ができたと思いました。
そうでないと、彼は来なかったかも。また別の結果になったかもしれません。

このシリーズとしては終わりですが、登場人物は異界その他に出てくるかもしれません。
またご縁がありましたらぜひ、よろしくお願いいたします。

では、本当にありがとうございました。

追記
竜爺の孫の少年の名は透です。
オープニングに光と書いてしまいましたがそれは偽名だったということで(実は純粋にミス)辻褄を合わせてしまいました。
ご容赦ください。以後気をつけます。(_ _)