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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


幸せを花束に+1(特別な想いは君だけに)

●オープニング
狐族の幽霊の銀狐。
彼の名は「狐族の銀」。
彼ら狐族は、悪霊退治・依頼をする存在である。
確実な依頼を届けに来ることでも有名だ。
なん度かゴーストネットで出会い、実際に会っている者たちもいるだろう。
『おいなりさん』には相変わらず目がない。



此処の所、花に関する本を真剣に見つめる銀の姿が矢鱈と目に映る。
それは先日の出来事だった。


「銀君、花売りのバイトしてみない?」
「・・・お花売り??」
「そう。もうすぐ待ちに待ったバレンタインよ。大切な人に感謝を込めて
チョコレートを贈るの・・」
瀬名・雫(せな・しずく)が感情を込め少し頬を赤らめながら胸に手を当て、
物思いに耽る。
「でも、花はチョコじゃないよ??」
銀の中では人間界の人々は2月14日にチョコレートを大切な人に贈る日だという
認識が強い。
「そんなことないよ。花には花言葉が在るの。一緒に送ると、より気持ちが伝わるのよ・・」


上手に話題作りをした所で雫は本題に入る。
「実は円が会って知り合った花屋のお姉さんがいるんだけど・・お手伝いを頼まれて、
以前、承諾の返事をしたのは良いんだけど・・・」
気まずそうに椅子に座り、銀を見上げる雫。
ふっと、銀の視界に雫の手元にある資料が目にはいる。
どうやら、急な仕事が入ってしまったようだ。

「いいよ。お花の事は全く知識がないって訳じゃないから・・だから大丈夫だよ!」
「じゃー、花屋の瑞奈さんに返事をしておくね・・」
頼み事をした雫だが、正直にいって心配だ。
そんな雫を余所に無邪気な笑顔で返事を返す。
そして今に至る。

「っでも・・・一人じゃ心配よね。人間達に触れるわけだし、狐族だってばれては
いけないわけだし・・」
やはり、正体がばれてしまわない様に銀には
『一人じゃ人手不足だし、大変だから・・・』
という理由をつけて、他の人たちにもお手伝いを依頼することにした。



●開店前に・・。
「瑞奈さん、このお花はこちらに置いて構いませんか?」
「ええ・・そうしてくれると助かります」
海原・みなも(うなばら・みなも)が花束を持ち抱え、種類別に仕分けしていく。
開店前とあって、忙しいうえにバレンタイン用にと、花の配置を考えて置かなくてはならなく、店内は慌しい。
「ふぅー。結構、お花を運ぶのは大変ですね・・」
白里・焔寿(しらさと・えんじゅ)は抱えていた植木鉢を持ち直そうと床に置き、一息つく。珍しくパンツルックの姿で動き回る。と言うのも、スカートだと動きずらく、花々の間を通り抜ける際に傷つけてしまわないようにと注意を払う、焔寿らしい気遣いだ。
「ごめんね・・ボクだけだと、人手不足らしくって・・」
「そんなことないですよ。『幸せのお手伝い』なんてとっても嬉しいですよ」
「雫さんにバイトを頼まれて受けたのは、花が大好きだし、銀くんは可愛いから手伝えるの、だから嬉しいわ」
優しく微笑みながら銀と会話をする焔寿の方へ硝月・倉菜(しょうつき・くらな)が近くで一緒に話しながら、最後の花を運び終える。
「焔寿さん、倉菜さん、こちら手伝ってもらえますか?」
みなもの声が表の方から聴こえ、焔寿と倉菜は銀の頭を軽く撫で、手伝いをしに向かう。


「出来たわ!」
都立図書館司書である綾和泉・汐耶 (あやいずみ・せきや)は暇な時間を利用して花言葉を調べだしていた。
その後、分かりやすいようにと一覧表にして貼りだそうと作成していた。
今日は偶々、休日で銀の手伝いをしに来てくれた。

「同じ花でも色によって意味が変わるんだね・・」
「ええ、花言葉は本によっても違うし、色でも異なりますから・・。事前に仕入れる物を聴いて、揃える花は分かてましたから」
出来上がった綺麗な文字で書かれた出来上がりの表を銀が感動しながら両手を伸ばして真剣に見つめる。
「この時期だと買っていかれる花も定番があると思いますからね・・代表的な花の名前を上の方に書いてあるわ・・。さぁ、表を貼りに行きましょうか・・」
銀の手を取り、汐耶は早速レジの方へ表を貼りに向かう。


「はぁ〜バレンタインデーですか。彼女はいないわ、実技試験を目前にしているわ、僕には全然縁のない日ですが・・」
レジの近くで作業をしていた葛城・樹(かつらぎ・しげる)が作業を終え、寂しそうに物思いに耽る。
「樹さん?上の空の様ですけど、大丈夫ですか?」
ラッピング用の生地を選んでいた倉前・沙樹(くらまえ・さき)が心配そうに窺いながら声をかける。
「えっ?あ・・大丈夫ですよ」
慌てながら振り返り、返事を返すと目線を再び元に戻す。
「・・わぁ!なっ・・銀君でしたか」
「ご・・ごめんなさい。驚かせちゃった?!」
「違いますよ。僕がぼーっとしていただけですから銀君のせいじゃないですよ」
その一言に嬉しそうな笑顔を溢す銀に一先ず安心して、お返しを込めて笑顔を返す。
「沙樹さん、この表を貼りたいので、手伝ってもらえないかしら?」
「はい。セロハンテープでいいですか?」
「ええっ・・私が押さえているから、貼り付けをお願いするわ」
汐耶は表を貼る目的を果す為にレジの傍で作業をしていた沙樹に声をかけ、手伝いを頼む。
「樹お兄さん、勉強の方は進んでるの??」
「ええ・・とりあえず試験勉強は順調ですよ。此間はセンター入試があって、後は肝心の実技試験です。気が抜けませんね」
言い訳がましく言った樹だが自分にやれる事はしっかりと頑張っている。
「樹お兄さんは夢に向かって頑張っているんだね。・・でも疲れてない?大丈夫??」
「1日くらい気分転換で銀君のお手伝いをしても良いかな〜っと思って来たんです」
受験勉強で疲れて、無理していないか心配そうに聴く銀に樹は優しく微笑みながら答える。
気分転換になると思ったのは強ち嘘ではないのだから・・。
「っと・・話をしている内に、そろそろ開店の時間かな??」
樹は最終確認を済ます。



●お花屋さんは大忙し。
「チャーム・・いい子だからおとなしく座っているのよ・・」
連れて来ていた猫のチャームに大きめのリボンをつけ、店の前へ座らせる。
「くすくす・・焔寿さん、それじゃーまるで・・・」
偶然、接客をしようと店の前に出てきたみなもが声をかける。
「どうです??招き猫みたいですよね!」
「ええ、とっても愛らしくていいと思います」
和やかな雰囲気の中、チャームもリボンを嫌がるそぶりも見せずに「「にゃーぉ」」と鳴く姿が愛らしい。

「あの・・このお花10本ほどいいですか??」
「あっ、は〜い!これですね・・」
みなもは客が来たことに気づくと、花を確認してレジへと誘導する。
「沙樹さん、後はお任せしますね・・」
「はい。分かりました」
一人目の客。
さすがにラッピングにも気合が入るが、慣れない作業に悪戦苦闘する。
「沙樹ちゃん順調?」
「あっ!瑞奈さん・・」
真剣に包んでいた沙樹は後ろから突然声を掛けられ、少し驚きながらもほっとした顔を見せる。
「あの、包み方が少し分からなくって・・」
「初めてだもの。無理ないわ・・。ここまで出来れば上等よ。手本を見せるわね・・」
慣れた手つきで花を包む瑞奈の姿を真剣な目つきで見つめる。
流石といった感じで、感動さえ覚えるほど短時間で綺麗に仕上げられていく。
「どう?覚えられそう??」
「何とか・・頑張ってみます」
「その意気よ。頑張って・・・」
指導を受けながら、少し時間がかかったものの、なんとか綺麗に出来上がった。
「お待たせしました・・」
「わぁ・・綺麗に包んでくれて・・ありがとう」
嬉しそうに言う客に少し照れてしまい頬をほんのりと赤くさせる。
沙樹はこの達成感がなんだか嬉しく思えた。


「銀君、なにしてるの?」
「えっ?あ・・うん。なんだか来るお姉さん達、嬉しそうだなって思って・・」
「お客さんの事?そうそう、銀君・・アメリカではバレンタインは男性が女性に花を送るのよ?」
「そ・・そうなの?!!」
少し吃驚した様子で倉菜の事を見上げる反面、興味を示す銀の反応が少し面白い。
「でも日本は女性が男性にチョコを送る日なのね。私はその事に吃驚したわ。それにお世話になった人皆に送るみたい。それも吃驚したわ・・」
「うん!ボクも初めて聞いたとき驚いたよ・・。ボクの種族にはそんな行事はないからね・・。だけど、甘くておいしいチョコが食べられるのはすごく嬉しい!」
率直な感想に思わず倉菜もくすくすと笑う。
「うん、そうね。私も、昨日は後輩からチョコを貰ったりしたのよ。料理研究会に入ってるからチョコも昨日から皆で一緒にたくさん作ったのよ。銀くんにもあげるわね。お世話になった皆に配ってるの」
「ボクに?わぁ・・本当に??」
目を輝かせなが受け取ると、倉菜にお礼を言う。それから幸せそうな顔でチョコをぎゅっと抱きしめる姿に倉菜は軽く微笑んだ。


「みなもさん、順調かしら?」
「あっ!瑞奈さん。順調ですよ」
混む事はないとはいえ、次から次へと花を買い求めて客が来る。
2月はまだまだ寒い。寒い中で笑顔でみなもと焔寿が接客をする。
会話をするのが好きな焔寿には向いている仕事であった。
みなもは動きに支障が出ないようにボディストッキングに、普段着にコートを着ている。
ボディストッキングをはいている為、お手洗いに困るところだがみなもはそれを承知で我慢することに心に誓っていた。
完全防備といわんばかりにマフラーを巻き、カイロを持ってきていた。
「忙しい時期に頼んでしまってごめんなさいね」
「いいえ、これもいい社会勉強ですから。でも、花言葉とかお花についての知識はあまりないですからお役に立ててるか不安です・・」
「大助かりよ・・。頼もしい助っ人に感謝してるわ」
客が来たのを発見し、みなもは瑞奈との会話を終え、接客に向かう。
入れ違いに沙樹に花を渡しに行った焔寿に出会い、焔寿の傍に近づき声をかける。
「焔寿さん、お疲れ様」
「まだまだこれからですよ!」
疲れた様子もなく、笑顔で応答する焔寿に瑞奈はつい微笑してしまった。
「花売りの仕事はどうかしら?」
「元々、花売りの仕事に興味をもっていたし、困っている人を放っておけずに受けたバイトですから・・。銀君にも言ったんですけど『幸せのお手伝い』はとても楽しいです」
来る客それぞれが特別な感情を持ち、おまけにバレンタインと言われる特別な日だけあって想いが強い人々が多い。
そんな人々を見ると、こちらも和んだ気分にさせられるものである。


「銀君・・だ・・大丈夫?」
倉菜の心配する目線の先には銀が映し出されている。
「倉菜お姉さん??・・だ・・大丈夫!!」
大丈夫だと言われても前が見えず、重たい花束をふらつきながらも懸命に花を運ぶ姿に、見ている倉菜と沙樹はハラハラさせられる。

「っわぁ・・っとと・・」
「気をつけないと危ないわよ・・」
重心が後ろにかかり、支えきれず後ろに扱けそうになった銀の体を汐耶が冷静な判断で、片手で軽く支える。
呆然とした様子で少しの間、汐耶を見上げていると、すぐに我に返りあせった様子を見せる。
「ごめんなさい!」
「もう少しでレジだから頑張って運ぶのよ」
汐耶に励まされ、レジにいる、花束を先に運びレジにいた倉菜と沙樹の元へと運ぶ。
自分でやり遂げたいという銀の気持ちを察して3人は手伝わず見守ることにした。
「ふぅ・・運べた・・沙樹お姉さん、はいっ!!」
「ご苦労様です。早速、お花を包みますね・・」
達成感を得たのか万遍の笑みで沙樹に手渡すと、優しい笑みを溢しながら沙樹は受け取る。
手先が元々器用な沙樹はあっという間に花束の包み方を覚え、的確に短時間で綺麗に包めるようになっていた。呑み込みが早く、瑞奈も納得するほどにまでに上達していた。
「はい、出来ました。あちらのお客様に渡してきてくださいね」
「うん。分かった」
「それから、転ばないように気をつけて運んでくださいね・・」
しゃがんで銀に包んだばかりの花束を穏やかな様子を見せながら沙樹は優しく手渡す。
意識させるように注意もちゃんとする。
銀を影ながら補佐しようと考えていたみなもは基本的に銀に頑張ってもらいたいと考えていた。
その為、怪我をしないように様子を窺いながら少し離れた所からついて行く。
何事もなく渡せた所で初めてほっと胸を撫で下ろすという、少し精神的に疲れる部分があるものの楽しくバイトをしていた。


●想いを込めて送る花束。
「すみません・・あの・・お花が決まらなくって・・」
偶々、店の前に出てきていた樹の前に女性が不安そうに声をかけてきた。

周りを見渡すとみなもと焔寿と汐耶は接客。
倉菜は生憎、忙しい沙樹とレジの方を手伝っているようだ。
「ボクで良ければ相談に乗りましょうか」
「いいんですか?私・・花言葉の知識とかってあまりなくって・・・」
恥ずかしそうに語る女性を不安にさせないように微笑し、樹は失礼のないように慎重に女性の相談に乗る。
まずは女性の心情から訊いてみることにしよう。
「好きな人がいて・・チョコを作るのは少し苦手なんです。少しでも気持ちが届くように花束を一緒に贈りたくって・・」
「告白・・・・」
基本的に愛の告白、あるいは感謝の気持ちを伝える日という事で、その事に関する花言葉などを色々調べてきた樹の頭に一つの花が思い浮かぶ。
同じ花でも色で全然意味が異なる為、ここは慎重に選ばなくてはいけない。
汐耶の作成した表も確認して改めて確信してからアドバイスを送る。
「赤色のチューリップはどうですか??『愛の告白』という告白には適した花言葉なんですよ・・」
「まぁ、素敵な花言葉ですね。じゃー、チューリップを頂いていいかしら・・」
「ありがとうございます」
調べてきた甲斐もあり、スムーズにアドバイスをする事が出来、樹は心が少しくすぐったい感じを覚えた。また、客の方も喜んでくれた為、喜びも二倍に膨れ上がる。
受験勉強の一休みに手伝いに来た樹には精神的に少し楽になり、気分転換がしっかりと出来ているようだ。
「ねぇー汐耶お姉さん、チューリップの色が変わるとどんな意味になるの??」
「表を見てみるとよく分かるわよ。えっと・・」
壁に貼り付けた表を見ると、チューリップの花言葉が色別に記させている。
「うーん。汐耶お姉さん・・ボク、漢字読めない・・」

一瞬、きょとんとした顔を見せた汐耶だが、読み方を教えながら花言葉を教える事にした。
「赤色は樹さんも言っていたけれど、『愛の告白』よ。だから黄色のチューリップから教えるわね。花言葉は『望みなき愛』、白は『失恋』、紫は『永遠の愛』よ」
難しい漢字が含まれているわけではないが、銀にとっては未知の世界と同じくらい難しいらしく、首をかしげながらも汐耶の話をしっかりと聴き、文字を目で追おう。
「でも、実は本によっては意味が違う事もあるのよ・・」
「同じお花なのに??」
「そうよ。例えば黄色のチューリップは他に『愛の表示』、白は『新しい恋』という意味も含まれているのよ」
汐耶の説明に納得しながらも同じ花には色々な意味が含まれていることを知る。
「花言葉を覚えるのも大変だけど、ボクには漢字を読むのも大変だよ・・。でも頑張って覚える」
「努力は大切なことよ。でも、何よりも一番大切なのは送る側の気持ちよ」
漢字を読もうと頑張る銀に汐耶はこう一言告げると、気難しそうにしていた銀は汐耶を見上げ、同感だという感じに笑顔を見せて返す。


接客に追われていた焔寿は屋敷に季節の花々がある為、花言葉には詳しく的確なアドバイスと途切れることのない会話を繰り広げていた。
「少々、お待ちください」
会話を終えると、レジへと向かい、花束を沙樹に包んでもらえるようにお願いする。
新しい包み方を教わった沙樹は実践してみる事にした。
高度な包み方にも関わらず着実にマスターしている。
「・・出来ました。焔寿さん後はよろしくお願いします・・」
先ほどの花束を沙樹から受け取ると焔寿は客の下へと花が傷つかないように気をつけながら運ぶ。
「お待たせしました・・」
「ありがとう・・」
焔寿は花を手渡す際に必ず告げていた言葉があった。
「花も生きてます。優しく語り掛けると応えてくれます・・」
それから最後に一言告げる。
「だから、お花も応援してあげてね・・」
想いを込め、微笑しながら手渡すと客は改めて考え直すのか、必ず感謝の意を表情に表したり改めてお礼を言う。
「ありがとうございました・・」
こんな具合に客を応援しながら送り出す。


●同じ気持ち。
「倉菜さん、少し手伝ってもらえるかしら?」
奥でなにやら作業をしていた瑞奈に声をかけられ、倉菜は瑞奈の方へと近づく。
人慣れしていない倉菜には接客は少し精神的にも体力を使うため一休みをしていた所だった。
「少し本数が足らなくなった花を補充したいの。花の茎を切りそろえてもらえるかしら?」
「ええ。もちろん・・この位の長さでいいですか?」
「いい感じ。出来る限り同じくらいにしてくれれば構わないわ。手が切れないように気をつけて作業してね」
瑞奈の手を見ると、毎日花の手入れや水仕事をしているせいなのか、手荒れをしている。
「手、大丈夫ですか?」
「これね・・。恋する女性としてはやっぱり辛いかしら。でも、花に触れられることが嬉しくて堪らないの」
花に対する思いやりが強いことが目にとって分かる程、眼差しをまっすぐ花に向けられている。
花を切りバサミで切り、作業しながら会話を続ける。
「私は楽器がとても好きなの。ジャンルが違っても想いは似ているわね」
「楽器を?是非、一度聴いてみたいわ。倉菜さんなら素敵な音楽を奏でるでしょうね・・」
「もちろんです。声をかけてくだされば、いつでも・・」
生まれながら音楽という環境に恵まれていた倉菜にとって、花を切る作業をする事はまったく異なっていても楽器作りをする時と同じ想いを感じた。
おそらく、瑞奈が気持ちを込めて一つ一つ丁寧に切り分けていく姿が、倉菜が楽器を作る際に込める想いと似ていたからだろう。
先ほどよりも倉菜は一本、一本、しっかりと想いを込めながら切っていく。


「そろそろ日も暮れるかしら・・」
客足も段々と落ち着き始め、接客と銀の補佐を重点的にしていたみなもの緊張も少し取れ、今までこなかった疲労が少しばかり圧し掛かってきた。
「私は接客の方はみなもさん程はしていませんが、流石に不慣れな仕事は疲れるわね」
表に出てきた汐耶は自分の肩に手を置き、こったような仕草を見せ、軽く自分の肩を揉む。
夕焼けが終わりを告げ、薄暗さが辺り一面に広がる。
「忙しい時は本気で忙しいとは思っていましたけど、立ち仕事だけあって大変でしたね・・」
「そうね。おまけに花を運んだり、花を取る為にしゃがんだりって花屋の仕事も甘くはないわね」
みなもと汐耶はお互いに苦笑しながらも、今日の忙しさは満更でもない充実した一日になった様だ。

「そろそろ閉める時間だわ・・。樹さん、シャッターを下ろすの手伝ってくれませんか??結構重たいのよね・・」
「もちろん。手伝いますよ」
樹はシャッターを閉める前にみなもと汐耶に声をかけ、外で座っていたチャームを中に入れる。
通りすがる人々がチャームを見つけては近寄ってきていた為、実は客寄せの効果も少しばかりあった。また、客もリラックスすることが出来ていた。
招き猫と呼ぶのは満更嘘ではないようだ。
「「シャーーー」」というシャッターを閉める音と共に店は閉店を告げる。


●閉店後のひと時。
後は最後の片付けだ。
「瑞奈さん、これはこの場所でいいのかしら?」
「ええ。汐耶さん、それを置いたら此方も頼みます」
花は手入れしなければ枯れてしまう為、軽く置きっ放しという訳には行かない。
必要なものだけ専用の倉庫に花を運びだす。
勿体無いが枯れてしまった花は新聞紙に包む。
「こんな感じでどうでしょうか・・」
「わぁ・・上手・・」
「そんな事ないですよ。倉菜さんもとっても器用なんですね・・」
楽器作りをしているせいか、倉菜も沙樹と同様、器用なところがある。
売り物には出来ないが飾るには十分な花は花瓶に生け、瑞奈が家に飾るのだと言う為、二人は花を綺麗に見えるように生けていた。
運び出しも大変だったが、片付けの方も結構大変のようだ。
慌しく、急ピッチに片付けは進められる。
「銀君、そっちを持ち上げて・・」
「お・・重たい・・」
大きな鉢植えを樹と一緒に持ち上げる。確かに重いが8割以上樹の力によって持ち上げられている。
鉢植えを割らない様に樹は銀を注意して見ながら一緒に運ぶ。
もしも放してしまっても大丈夫なように、がっちりと固定して運ぶ。
焔寿とみなもは床を掃いたその後に雑巾で拭いた。
「みなもさん、十分でしょうか??」
「綺麗になりましたね。やはり土足ですし、結構汚れるんですね・・」
掃除を終えて、店内を見渡すと掃除前と掃除後の床は違う。みなもと焔寿が懸命に床を綺麗にした為、心理的にもそう見せてはいるが、違うのは事実である。



「皆さん、今日はお疲れ様でした。お手伝いしてくださったお陰でとてもスムーズに終える事が出来ました」
改めて瑞奈は全員が集まったところで礼を言う。
「瑞奈さんの方こそお疲れ様」
一番働き、指導をしていた瑞奈に向けても樹の方からも言葉をかけ返す。
今日一日で夫々が色々な事を学んだだろう。
忙しい花屋のバイトはこうして無事に本当の閉店を迎えた。


●プラス・ワン−貴方に届ける花言葉。
みなも編。
「バイト代に花をプレゼントするわね・・」
「お花を?えっと・・・『好きです』という花言葉の花はありますか??」
花の知識があまりない為、みなもは素直に瑞奈に頼ろうと決めていた。
「そうね〜・・送りたい相手によって変わるけど・・誰に贈るのかしら?」
「お父さんに贈りたいって思ってます・・」
瑞奈は頬に手を当てた後、一つの花をあげる。
「それなら「サルビア」なんてどうかしら??『家族への愛情』を示す花なのよ」
「瑞奈さんのアドバイスの通り、サルビアをお父さんに贈りたいと思います・・」
「早速、包むから少し待ってね・・」
瑞菜は慣れた手つきで大人の男性に贈る用にと、花を大人っぽく包み上げる。
「はい。・・・どうかしら?」
「わぁ〜・・ありがとうございます」
花を受け取ると嬉しそうな笑顔で花を抱き抱えるみなもにつられて、笑顔を溢す。
「気に入ってもらえて良かったわ・・」
「はい。お父さん喜んでくれると嬉しいです・・」



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
1252/海原・みなも(うなばら・みなも)/女/13/中学生
1305/白里・焔寿(しらさと・えんじゅ)/女/17/
神聖都学園生徒/天翼の神子
1985/葛城・樹(かつらぎ・しげる)/男/18/音大予備校生
2182/倉前・沙樹(くらまえ・さき)/女/17/高校生
2194/硝月・倉菜(しょうつき・くらな)/17/女/
女子高生兼楽器職人(神聖都学園生徒)
1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)/23/女/
都立図書館司書
                      申込み順。

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■         ライター通信          ■
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こんにちは葵桜です。
お疲れ様でした。2月14日はバレンタイン。
皆さんもそれぞれのバレンタインを楽しんでくださいね。
実は私はチョコを食べると頭が痛くなる為、作ったり出来ないんですよね。
毎年、友達に私だけチョコが少なめのクッキーや飴など一人だけ配慮され、
感謝するバレンタインが多いです。

みなも様へ。
2月といえどもまだまだ冷えますね。
冷え性でおまけにしもやけになり易いので私は自転車で出かける際には
カイロは必需品です。
家の中にいてもシャーペンに熱を奪われ、手が冷たくなって上手に動かなく
なったりして冬は大変ですけど、雪が綺麗な冬は大好きな面もあります。

焔寿様へ。
コメントありがとうございます。
風邪の方はすっかり良くなり今は元気ですけど油断は禁物ですよね。
焔寿さんも風邪を引かれたそうですが、今は元気になりましたか??
確かに喉が酷くなるのは辛いですよね。
声が出ないで話が出来ない時は本当に困りますよね。


樹様へ。
受験勉強が進んでいるようで安心しました。
樹さんは夢に向かって頑張っている最中なんですね。
私も目標を持って頑張りたいと思います。
私の中で今は英語の勉強を頑張るというのが一番の目標ですよ。
(気持ちは)猛勉強(?)している所です。


沙樹様へ。
初参加ありがとうございました。
手先が器用だと聞いていたので羨ましいです。
私は・・不器用な方かなと思います。
短気な性格のせいもあるかなっと・・。
いろんな事に器用な性格でありたいなっと思う毎日です。

倉菜様へ。
花束を贈りたい相手がいるんですね。
倉菜さんが送る相手なら素敵な方だと思います。
私が今一番送りたい相手は・・・・家族や友達です。
恋人や好きな人に本気で贈りたいと思うのはまだまだ先っぽい
です(苦笑)


汐耶様へ。
帰りを誰かが待っているって素敵な事ですよね。
私は3月の末に引越しをするので家族と離れてしまいますが、
やはり誰かがいればな、っと思う気持ちがより強くなりそうです。
カスミソウはとても可愛くて綺麗な花ですよね。
贈る相手の方も喜んでくださるといいですね。