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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


ロシアンチョコはいかがですか?


 バレンタインデー。
 なんて忌々しい行事だろう。チョコレート会社の陰謀にどいつもこいつもどいつもこいつもどいつもこいつも――――!
 彼はその妬み嫉み恨みからあるモノを発明し、そしてインターネット上で販売する事にした。
 商品名は「ロシアンチョコレート」。

――――「ロシアンチョコレート」好評発売中!
 一定の確率で惚れ薬が入っているチョコレートがあります。
 これさえ食べさせれば一発逆転、9回裏さよならホームランも夢じゃない!
 貴方も、このチョコに賭けて見ませんか!?
 注・害になる成分は含まれておりません。

 そんな注釈をつけた広告をネットショッピングのあるページに載せたところ、シーズン本番だけあって飛ぶ様に売れていった。
 そのチョコレートの発明者、轟教授は画面を見て咽喉の奥をくつくつ言わせながら笑いを堪える。
 惚れ薬というのは真っ赤な嘘。
 100分の1どころか全ての商品のなかに、惚れ薬ではなく“逆惚れ薬”が仕込まれているのだ。
 惚れ薬の入ったチョコレートの購買層は片思いもしくはまだ恋人以前の関係である者がほとんどだろう―――当然、その結果といえば……
「ふはははは……」
 轟は次第にその笑いを抑えきれずに大きな声で高笑いをしていた。


■■■■■


「で? あなたはその広告にまんまとのせ―――」
 目の前の女性に親の敵でも見るような目つきで睨まれて草間武彦は、ゴホンとわざとらしく咳き込んでから慌てて訂正する。
「―――騙されて失恋したと、そう言う事ですね?」
「えぇ。とにかく許せないのよ! ここに被害者の会から預かってきたお金があります。これで、あの男を懲らしめてやって下さい!!」
 机の上に置かれた紙袋の厚さは軽く3cm。
 乙女達の恨みの篭ったお金である―――が、お金はお金。
「判りました、引き受けましょう」
 別に誰の恨みがこもっていようが知ったこっちゃない。
 草間は被害者の会代表の女性の依頼を快く引き受けた。


■■■■■


 依頼者が帰ったのを確認して、草間はその紙袋を開け、
「これで今月の家賃はなんとかなったな」
そう言って、にんまりと笑った。
 そんな姿を横目で見ながら、
「もう、美味しいチョコをこんな風に扱うなんて信じられないわ!」
と、シュライン・エマ(しゅらいん・えま)はそう憤慨していた。
 憤慨していたのはシュラインだけでなく、、
「恋する乙女の純情を踏みにじるような輩はこの私が許さないわ!」
月に変わっておしおきよなどと言っている、ドイツ、アメリカ、日本と3カ国の大学を渡り歩いている大学生のウィン・ルクセンブルク(うぃん・すくせんぶるく)―――そんなアニメを見るような年齢の時には日本に在住していなかったのではないのだろうかという質問はこの際置いておく―――も同様だった。
「確かに、女性に対してその仕打ちは酷いね。僕的にも許せないなぁ―――被害に遭った女性達もそうだけど……こんな素敵な女性達を怒らせるんだから」
 ホスト相生葵(そうじょう・あおい)……どんな時でも女性を誉めることを怠らない男である。
 中でも1番怒っていたのはお元気暴走女子高生・丈峯楓香(たけみね・ふうか)だった。
 どれくらい、怒っているかというと、
「絶対に許せないっ―――!」
楓香がそう言って暴れている最中に興信所を訪れた楓香の友人である志神みかね(しがみ・みかね)が、
「こんにちわ―――楓香ちゃんに呼ばれてきたんですけど、居ま――――」
きっと『居ますか?』と続けようとしたのだろうが、楓香の暴れっぷりに最後まで台詞を続けることが出来なかったことでも判るだろう。
「ふ、楓香ちゃん落ち着いて! ね?」
 みかねは精一杯楓香を落ち着けようとするが、なかなか楓香の怒りは収まらないようだ。
「でも、みかねちゃんも酷いと思うでしょ!?」
「それはそうだけど……」
 いつになく眉間に皺の寄った楓香の顔が間近に迫り、みかねは思わずちょっと引いてしまう。
「でも作るほうも作るほうやけど、買う方も買う方やろ、そないな妙な薬の力借りたかて仕方ないやろ」
 至極冷静に、1番年下である中学生の今城理佳子(いましろりかこ)はそう言った。
「確かに、それもそうだけど良い趣味とは言えないわよ」
「でも、きっと、そんな事するなんて、単なる僻みだよねぇ」
と、葵が余裕な台詞を呟けるのは仕事上(?)自分が一杯チョコを貰ったから言える台詞だろう。
「こんな怪しげな薬入り飲食物販売している時点で警察に突き出せそうだけど……被害者の会の人たちはそれじゃ気がすまないのよね?」
「まぁ、とりあえず依頼者がすっきりするくらい懲らしめてやってくれ」
 草間は喧々囂々話あっている面々にそう言った。


■■■■■


 懲りずに今年も「ロシアンチョコレート」はインターネットで通販されていた。
 まずは実際の「ブツ」を仕入れる必要がある為、シュライン、ウィン、楓香、みかね、理佳子の5人の名前でそれぞれチョコレートを買い込んだのだが―――
「案外普通のチョコレートなんやな、見た目は」
 理佳子はそう感心したようにそのチョコレートを眺めている。
 郵便小包で届いたチョコレートは一見普通のシンプルな立方体のチョコだった。
 伝票にあった送付先は早々にシュラインが調べたのだが、何を考えているのか住所は都内の某私立大学のもので、大学前にある郵便局から発送されていた。
「でね、その郵便局で聞いたら、どうもその大学の理学部の轟っていう教授が送り主らしいのよね」
「大学の教授ですか?」
 シュラインの調査の結果を聞いて、みかねは少し安心したような声を出した。
 楓香に誘われたは良いものの、変な魔術的なチョコレートを作るような怪しい人だったらどうしようと思っていたので、きっと理学部なんて学部の先生をしているのだから怪しい儀式とかをやっているわけではなさそうだ。
 みかねはそう安心したが、儀式ではなくて怪しい実験などは繰り返していたのだから、いわゆるマッドサイエンティストと言う形容がぴったりなのだが。
 変な宗教に嵌っているのと自身がマッドな科学者(?)……まさに、どっちもどっちだ。
「これがその教授の写真なんだけど―――」
 そう言ってシュラインが差し出した写真を全員が集まって覗き込んだ。
「……えーと」
「これは、なんて言えばいいのかしら……」
「……なんちゅうか……」
「典型的というか、個性的というか……」
「こんな男がもてるわけないね」
 写真に映っている轟は真っ黒のぼさぼさの伸ばしっぱなしの髪、今時珍しい古臭い大きな分厚い眼鏡、髪がその眼鏡の半分を隠してしまっておりこれでは表情を伺うことすら容易ではない。
「人間見た目じゃないって言うけどこれはちょっとヤバイでしょ。今時こんな見るからに怪しい人居るの?」
と、楓香は苦笑いを浮かべている。
「まぁ、でもこれでこれでバレンタインへの恨みが原因の可能性が高くなったということか」
 そんな事だろうと思ったけどねぇ……葵はどこか勝ち誇ったような顔をした。誰に対してかは不明だが。
「轟教授って寂しい人なのね……でも、だからって許せることじゃないけれど」
 ウィンはこのチョコレートが届いてすぐにサイコメトリーで轟がバレンタインに対して尋常でない恨みを抱いていることを知っていたが、やはりだからといって彼のしたことが最低なことには変わりない。


 こうして轟の人生でもっともハードなバレンタインデーに向けて計画は進められることとなった。


■■■■■


 草間興信所の炊事場を使ってウィン、楓香、みかねの3人はそれぞれそのチョコレートを元に新たな復讐チョコレートの作成に勤しんでいた。
 ウィンはごくごく普通に自分が取り寄せたロシアンチョコを全て鍋に放り込んだ。
 しかも細かく砕いたりもしないし、当然湯煎でちゃんと温度を測って溶かすというチョコレート作りの基礎を敢えて全く無視しきって乱暴に作っている。
「あの、ウィンさん?」
 その様子を見ていたみかねが恐る恐る声をかけたがウィンの返答は、
「あんな男にそんな手間隙かけてやる必要はないでしょう?」
と、口調こそ柔らかだったが、まだまだかなり怒っているようだ。
 どろどろに溶かしたチョコレートを一応ハートの型に入れて、ウィンは駄目押しとばかりにすぐに冷蔵庫に入れてしまう。
「さ、一体どんな味になるのか……楽しみよね」
 にっこりと笑ったウィンの笑顔は、造作が整っているだけに目だけが笑っていないと極寒の地に居るようなブリーザードの幻が背後に見える。
 一方楓香はといえば、
「僻んでこんなことするくらい女の子からチョコを貰いたかったんなら、この丈峯楓香オリジナルスペシャルチョコをお見舞いしてやるから」
 楓香オリジナルスペシャルチョコとは、あげる人が居ないと楓香のことをあざ笑った楓香曰くの“バカ兄貴”にあげる為に考案したタバスコ、わさび、からし、そして極めつけに味噌を入れた『なんちゃってブランデーチョコレート』のことであった。
 そんな発案背景を説明しながら、楓香は湯煎して溶かしたチョコレートにどんどんタバスコだのわさびだのを入れていた。
「みかねちゃんも手伝って〜」
「う、うん」
 ある意味、轟の不届きなチョコを凌ぐ威力を持つであろう楓香オリジナルスペシャルチョコ作りをみかねは手伝う。
 確かに固形の物は入っていないので出来あがりはとっても普通のチョコに見えるのだが―――味は壮絶だ。なにせ、楓香の兄で実験済みらしい。
「そろそろ出来たかしら?」
 楓香とみかねがそのスペシャルチョコを作っている間に完成したらしい、ウィンのチョコレートもなかなかすごいものだった。
 直火にかけた為に完全に分離しかけており表面にはうっすらと白く粉が吹いたような状態になっている。
 見た目からしてかなり……ヤバめだ。
「予定通りね」
 そのヤバさ具合にウィンは充分満足したような口調だった。
 一見してヤバそうなチョコレートと、見た目はばっちり実は壮絶なチョコレート、この2つの他にも、実は罠を用意してあるのだが、それは当日のお楽しみ……だった。


■■■■■


 今年も、轟にとって1年で1番嫌いな日がやってきた。
 そう、バレンタインデーだ。
 だが、昨年から『ロシアンチョコレート』のおかげで、昔ほどの忌々しさはなくなっていたのだが。
 午前中の講義を終え、食堂で昼食を取っていた轟に、上司に当たる教授が声をかけてきた。
「轟君、ここ良いかね?」
「もちろんです」
 教授はカレーライスを乗せたトレーを席に置く。
 それの動作を見ていた轟は、教授のスーツの裾にわずかではあるが濡れていることに気付いた。
「教授、袖、どうされたんですか?」
「あぁ、これかね。さっき、女性とぶつかった拍子にちょっとついてしまってね。すぐにその女性が染みは落としてくれたんだが―――」
 そう言いながら、教授は1口2口とカレーを口に運び咀嚼して飲み込んだ。
「―――だと思うんですが」
 それまで談笑していた教授が、不意に黙り込んだ。
「……」
「教授?」
 轟が問い掛けると、教授は突然スプーンを乱暴にトレーに戻す。
「―――失敬。君の顔を眺めて食事をする気にはなれん!」
と、突然轟を睨み付けて足音も荒荒しく席を立つ。
「きょ、教授!?」
 慌てて轟は教授の腕を掴んだが、
「気安く触らないでくれないかね。虫唾が走る」
と、教授はその腕を大きく振り解いて別のテーブルへといってしまった。
 あまりに突然のことに、轟も近くのテーブルにいた生徒や事務員たちもびっくりした顔をしていた。
 唐突だということもあったが、その教授はとても温厚な人で、人に対してそんな態度をとっているところを誰も見たことがなかったからである。
 轟は、慌てて直前までの会話を遡って思い出そうとしたが、教授が突然腹を立てるようなことは何一つ言っておらず、ただただオロオロとするしかなかった。
 

 そんな轟の様子を遠くから眺めている視線が合った。
 シュライン・エマその人であった。
「どうやらうまくいったみたいね」
 同じテーブルにかけているウィン、楓香、みかね、理佳子、葵の5人ににっこりと笑って見せる。
 大学というところは不思議と部外者が入り込んでいても不信感を持たれない場所である。
 特に、轟が勤めているような私立の中高等部も併設している大きなところは特に、だ。
 それを利用して、6人は大学内へもぐり込んでいた。
 シュラインの調査から、被害者の会の女性たちは皆、目の前で相手がチョコレートを食べてくれ期待を持った次の瞬間に相手に手酷く振られたということであったため、そのチョコレートの成分を口にした時に視界に入った相手に対して嫌悪感を催すように出来ているらしいということが判った。
 そこで、シュラインが轟の上司にぶつかり彼の服を拭いたりする間にウィンがこっそりと、その上司の昼食の中に例のチョコレートを溶かしたものを加えたのである。まぁ、これだけ上手くいったのは偶然カレーライスであったこともあるのだろうが。
 そして、轟の前に上手くシュラインが誘導して先ほどのようなことになったのである。
「それにしても、あのチョコレートの効果って本物なんやなぁ」
 もしかすると、被害者の会の女性達の思い違いで、案外、彼女たちが好きな人にふられたのは偶然なのではないかと思っていた里佳子は、怒り出した教授の姿を見てすっかり感心したような口調でそう言った。
「少しあのチョコの効果を甘く見てたかしら? ちょっとやり過ぎだったかしらね」
 シュラインのその台詞を聞いて、楓香が大きく首を横に振る。
「全然そんな事ない! だって、被害者の人たちはみんな好きな人に目の前であんな態度とられたんだとしたら……あんなんじゃ全然足りないと思うもん!」
 楓香の力説に、みかねとウィンも大きく頷いていた。
「そやなぁ、確かにあんな態度好きな人に取られたらと思うとぞっとするわ」
 理佳子は自分が文字その立場だったらと想像したらしく、首をすくめる。きっと、そんな事を言われた女性たちはバレンタインに対して大きなトラウマを抱えかねないだろう。
「さぁ、第1弾は終了よ。次は第2弾ね」


 一体自分の何が悪かったのか判らないまま轟は自分に与えられている研究室に戻る為に中庭をとぼとぼと歩いていた。
 すると、
「轟先生」
と、聞き覚えのない若い女の子に呼びとめられた。
 振り向くと、案の定、見た事のない制服を着た女子高生が少し頬を染め息を切らしてその場に立っていた。
 そして、
「これ食べて下さい!」
と轟に持っていた紙袋を押し付けるように渡してきた。
「き、君、これは―――?」
 しかも、渡すだけ渡すとその少女は頬を染めたまま走り去ってしまった。
 去っていく少女の姿が見えなくなるまで、呆然としていた轟だったが、恐る恐るその紙袋の口から中を覗いて、更に驚いた。
「こ、こここここれは!」
 そう、今まで二十数年間、1度も貰ったことのなかったバレンタインのチョコレートのようだった。
 一瞬感激のあまり、涙を流しそうになった轟だったが、
「―――いや、いやいや落ち着け!きっと、何かの間違いに違いない、うん」
 期待して裏切られたことも過去に何度もあった轟はそうぶつぶつ呟きながら、先ほどよりもいつのまにか足早に研究室に戻った。
 何かに隠れるかのように、慌てて部屋に入った彼はそーっと袋からそのプレゼント包装された包みを取り出した。
 すると、一緒に入っていたらしいカードが机の上に落ちる。
 そこには、
『寂しい轟先生へ』
と記されていた。
 そこでようやく、間違いなくこれが自分宛だと確信し、そっと蓋を開けた。
 そこには燦然と輝くチョコレートが鎮座している。
「―――――っっ」
 感激はとても言葉では表現できず、轟は声にならない声をあげた。
 そう、彼は感激のあまりなんだか微妙におかしいカードの文章に気付かずに、震える手でそのチョコレートを摘んで口に入れた。
「う…うぅ……ぎゃぁぁぁ!!」
 次の瞬間、楓香オリジナルスペシャルチョコの威力が炸裂したようで、轟の研究室のある棟に響き渡った。


「っはぁ――――」
 慌てて給湯室に走り水を飲んで帰ってきた轟は椅子に腰掛けて大きく溜息をついた。
 本当にものすごい味だった。
 どれくらい凄かったかあらわせといわれても筆舌につくしがたい。
 先ほどの衝撃を思い出してしばらくうつろな目をしていた轟だったが、怖いもの見たさ(?)で再度生まれてはじめてもらったチョコレートを再び見ようとした時にさっきとは別の箱が机の上においてあることに気がついた。
 そのシンプルなその箱には郵便宅配伝票がついている。
 送り主の名前はない。
 轟が給湯室にかけ込んでいた間に助手の子が持ってきたのだろうとなんの疑問も持たずに包みを開けると……現れたのはまたしてもチョコレートだった。
 今度のチョコレートは良く言えばシンプル、悪く言えば味も素っ気もまして色気すらない箱に無造作に入っており大きなハートの形が――――4つほどに大きく割れている。
 しかも見た目も白っぽく変色していて尚且つ、なんだか色にも斑があった。
「……」
 ハートの砕け方がなんだか怨念めいていて、轟は今度は触れる事も出来ない。
「なんだって言うんだ、今日は……」
 突然教授が怒り出したり、生まれてはじめてもらったチョコレートはこの世のものとは思えないような味だし、かと思えば誰かが机に置いていったらしいチョコレートは本当に食べれるものか疑いたくなるような見た目をしているし―――
 机に突っ伏した彼の耳に、ドアをノックする音がした。
 精神的に参っていた轟は、何も思わずに、
「どうぞ」
と、入室を許可した。
 顔を上げると――――
「トードーローキーセーンーセ――――――」
 唸り声をあげながらハート型超巨大チョコレートが何故か入ってきて、そのまま轟に向かって突進してきた。
「うわっ!!」
 潰される!と、とっさに彼は目をつぶった。
 だが、いつまでたっても衝撃は来ない。
 恐る恐るうっすらと目を開けると、そこには見たことのない6人の男女が立っていた。


■■■■■


 楓香がしおらしく轟にスペシャルチョコを渡し、それを食べたらしい轟が悲鳴を上げながら給湯室へ走っていった隙を見計らって、今度はウィンの元ハート型ばらばらチョコを机の上に置く。
 そして、その後は駄目押しとばかりに楓香の能力で超巨大ハート型チョコで押しつぶす恐怖を味あわせてやった。
 そして、その巨大チョコに隠れて6人は面と向かって轟と対面したのだった。
「はじめまして、轟さん。私たち、あなたの作ったロシアンチョコレートによって被害を受けた方たちの代理のものです」
 そう言ってシュラインはにっこりと微笑んだ。
 その台詞を聞いて、轟は顔色を変え、とっさに立ちあがろうとしたが、男に机に押さえつけられた。
「貴方のしたことはこれくらいされても当然のことなのよ」
 ウィンが両腕を組んで轟を見下ろしている。
「やっぱり、こう言う事を続けていたら、きっと巡り巡ってまたあなたの所に戻ってくると思うんです。人を仲違いさせるチョコが作れるのなら、仲直りさせるものも作れますよね?」
 みかねがそう問いかけたが、轟は何も答えない。
「ちなみに、さっき貴方の上司が態度を急変されたのは貴方が販売していたチョコをカレーの中に混ぜたからなんですよ……それでも解毒剤はおしえていただけないのかしら?」
と、シュラインは食堂での一件のからくりを話した。
「なぁ、おっちゃん。あんたがこんなことしたんにもそれなりのわけがあるんやろ?聞いてやるから話してみるだけ話してみいや」
 理佳子が一応事情を聞こうと促すが轟はそれにも答えない。
 全く反省の色が見えない為、理佳子の頭で何かプチっと切れる音がした。
「えぇ、そんな話し聞いてやるの? 僕としては男の話しはどうでもいいなぁ」
と、葵は酷く不満そうな声をあげて、
「女性たちに対してキミがした仕打ちは万死に値するよねぇ……きっちりお仕置きしてあげるけど……選ばせてあげるよ」
 葵はそう言って、轟の机の上にあった小さな観葉植物の鉢に触れた。
 すると、あっという間にその植物は水分を奪われてしわしわのよれよれ茶色く変色する。
「水を奪われてこーんなふうになるのと」
 葵がそう言葉を切った次に、理佳子がその鉢植えの枯葉に触れた。
 すると今度は、ぼっ―――という音とともにその枯葉が燃え上がった。
「あ、あちっ」
 鉢植えを目の前に置かれていたため轟の長く鬱陶しい前髪か軽く燃えた。
「こーんな風に燃やされるんとどっちがええ?選ばしてあげるさかい、好きなほう選んだらええわ」
と、今度は理佳子にっこりと笑って見せる。
 優男と少女に脅迫されて、轟の顔からは血の気が引き真っ青な顔色になっていた。
「渡します渡します!中和剤も渡しますし、チョコを買った女性全員の分も中和剤を渡しますから許してくださいぃぃ」
 とうとう大の大人がそういって涙することになった。
 後日、草間興信所経由で被害に遭った女性全員の元に中和剤が送られ、一件落着となった。
 轟にとってバレンタインのトラウマが増えたのは言うまでもないだろう。
 バレンタインというよりもチョコレート恐怖症に近くなり、2度とそんなチョコレートを作ろうと思う気がなくなったのは言うまでもない。



 もし、インターネット上でそんな都合の言いチョコレートを見つけたら草間興信所までご連絡下さい。
 そう、もしかすると貴方が今年貰ったチョコレートの中にもそんなものがあるかもしれませんよ?


Fin

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086 / シュライン・エマ / 女 / 26歳 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】

【2152 / 丈峯・楓香 / 女 / 15歳 / 高校生】

【1588 / ウィン・ルクセンブルク / 女 / 25歳 / 万年大学生】

【1727 / 今城・理佳子 / 女 / 14歳 / 中学生】

【0249 / 志神・みかね / 女 / 15歳 / 学生】

【1027 / 相生・葵 / 男 / 22歳 / ホスト】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、遠野藍子です。
 この度はご参加ありがとうございました。
 今年もなんだか特に予定も相手もなくバレンタインも気がついたら終わっていたと言う感じです。
 世間では、義理チョコ、本命チョコの他に、友達にあげる友チョコとかいうのがあるらしいと先日初めて知りました。確実に世の流れから置いてかれつつあるな、自分……
 実際男の人でチョコが好きな人って言うのは多いんでしょうかね?貰うという事自体は嬉しいのでしょうけれど。
 まぁ、所詮バレンタインなんてお菓子会社の策略だ、という意見も正しいとは思うのですが、やっぱり女の子にとっては一大イベントには違いないんですよね。
 要約すると、食べ物と女の恨みは恐ろしい―――という事でしょうか。
 PLの皆様の要望どおりおしおき出来ていれば良いのですが……ご意見、不満、ご感想などお寄せいただければありがたいです。
 またお会いできる事を楽しみにしています。
 機会があれば、また、よろしくお願いいたします。