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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


不幸の写メール

●不可解な欠席者

 最近、休講する予備校生が増えていた。
 匡乃は、年間契約であちこちを転々とする大学予備校の講師で、わかりやすい授業と高い合格率で人気を得ている。
 今日も今日とて仕事に精を出していたわけだけれど、最近どうもおかしな感じだ。
 予備校を休む生徒が増えているのだ。最初は風邪でも流行っているのかと思っていたのだが、休んだ生徒はなかなか授業に復帰しない。
 生徒の話や同業者の話を聞いてみると、どうやらその現象はここでだけ起こっているわけではないらしい。
 授業に出てこない友人の見舞いに言ったという生徒は、休んでいたその子は風邪ではなかったと言った。
 ……眠っているだけだと言うのだ。
 ある日突然倒れて、そして――目を覚まさない。
 そんな不可解な現象が、中高生から大学生の若い者を中心に広がっているのだ。
 ここまでならば、原因不明とは言え、まだ医者の領域である。
 だが生徒たちの噂話にはまだ先があった。
 どうやらその原因はとあるメールにあるらしい。
 携帯に、添付ファイルつきのメールが届く。開けてみると、それはごくなんでもないただの画像――可愛らしい少女が描かれた画像だ。少なくとも、受け取った人間は誰しもそう思った。
 だが、そのメールを受け取ってから数日以内に、その画像を見た者の中に、倒れて意識不明に陥る者がいるというのだ。その法則性は不明であるため、添付画像付きのメールは開けないという者も出ているそうだ。
 ただの都市伝説と言ってしまえばそれまでだが、現実に倒れている者はいる。
 そして匡乃は、そういった怪奇現象について情報を得られる場所を知っていた。
「すみません、聞きたいことがあるんです。少しいいですか?」
 顔を出したアトラス編集部では、何故か。大歓迎された。


●アトラス編集部

 今回の調査のために集ったのは全部で五人。
 麗香から依頼をした――それ以前から今回の件は気にしていたのだが――天薙撫子。
 受け持ちの生徒が被害にあったため事件解決に乗り出した予備校講師の綾和泉匡乃。
 恋人が今回の事件の被害に遭い、原因解明のため、その情報収集のためにアトラスに顔を出した結城二三矢。
 学校でこの噂を聞いて、これ以上の犠牲者を出さないためにとやってきた樹神らいち。
 店の使いでアトラス編集部にやってきてそのまま仕事を依頼された鹿沼・デルフェス。
 顔を合わせた一行の話し合いはまず、携帯の実物を手に入れようという方向に向かったが、実物はすでに二三矢が持っていた。
「倒れた恋人のものなんですけど……」
 そう言って二三矢が出して見せたのは女の子らしい可愛いアクセサリのついた携帯電話であった。
「結城さんは中を見たんですか?」
 らいちの問いに、二三矢はこくりと肯定の意を示して頷く。
「それで、何か変わったことは…?」
 続くデルフェスの問いにも二三矢はこくりと頷いて。
「助けてって言う声を聞いたんですけど……」
「画像を見た時に、ですか?」
 告げた匡乃に二三矢は再度頷いて答えた。
「皆で見てみましょうか? 危険は伴いますが……直接見ないとわからないこともあるでしょうし」
 撫子の提案に反対する者はいなかった。
「噂通りなら倒れるまでに数日あるみたいですし、事件を解決する時間はあると思います」
 そして二三矢は、携帯を操作して画像を開ける。
 全員が顔を寄せ合い携帯の画面を見つめた。――そこにあるのは可愛らしい少女の画像。
 瞬間。
『助けて……』
 どこからともなく声が響く。
「まさか、この画像の子が……?」
「多分」
 すでに一度この画像を見ている二三矢が相槌を打った。
「どうすれば貴方を助けられるのですか?」
 撫子の問いに答えるように、また声が響く。
『お父様を――』
 言い掛けた声は、突然にブツリと途切れた。
「天薙様?」
 一人顔色が悪い撫子に気付いて、デルフェスが声をかけた。
「彼女も被害者みたいですね……」
「彼女も、メールのせいで倒れた一人なんでしょうか?」
 撫子に続いて、らいちが考え込むような様子を見せる。
「わかりません、けど……」
「けど?」
「他の意識不明者の方々は、鬼に襲われたのかもしれません」
 撫子はそう呟いて、再度画像の少女に目を向けた。


●お見舞い

 一行は、意識不明者の方から少女を探す組と、写メールの風景と少女の姿から場所を特定する組にわかれて行動することとなった。意識不明者にあたることとなったのは撫子と匡乃とらいちの三人。
「とりあえず、受け持ちの生徒の所に行ってみましょうか」
 それならばこれといって問題なく、意識不明者に会えるからだ。匡乃の提案にらいちと撫子はもちろん頷き、一行は病院へと移動した。
 眠りつづけているとはいえ、ただそれだけ。命に関わる病状というわけでもないため、面会謝絶にはなっていなかった。
「どうですか……?」
 一応病室に結界を張ってから霊視を始めた撫子に、らいちが控えめに訪ねる。
「やはり、魂が抜けているようです。ただ、魂がどこに行ったのかまではここからでは……」
「そうですか」
 俯いた匡乃と考え込む撫子を見つめて、ふいにらいちが口を開いた。
「あの、私がやってみます」
「え?」
「何か手があるんですか?」
「私、他の人の感情に同化できるんです。魂がここにないとはいえ、身体はここにあるわけですから……。もしかしたら同化が使えるかもしれません」
 方法があるのならばと、撫子と匡乃は、らいちの提案に頷いた。
 それを確認してから、らいちはゆっくりと意識を集中する。
 しばらく動きのなかったらいちの表情が、次第に恐怖の色へと変化していく。
 それでも最初は見守っていた二人であったが、
「あ……」
 らいちが声をあげかけた瞬間、匡乃が彼女の肩に手を置いた。
「大丈夫ですか?」
「……はい」
 顔色の悪いらいちを気遣っての匡乃の問いに、ようやっとといった感で答える。
「それで同化は成功したんでしょうか?」
 心配そうな顔をしながらも、撫子が話の先を促した。
「はい」
 らいちが、同化によって感じたものを説明する。
 それは、閉じ込められている恐怖と、ある男性に対する恐怖。
 話を聞き終えると、撫子は何かを考え込むような仕草を見せた。
「もしかしてその男性は、私が視た方と同じではないでしょうか?」
 そう前置きをして撫子が告げた特徴はらいちが視た男性のイメージとほぼ同じものだった。
「それじゃあ、今回の事件の原因はその男性ということですか」
「ええ、おそらく」
 問題はその男性がどこにいるか、なのだが――。
「それについては向こうがなにか掴んでいるかもしれません」
 二三矢とデルフェスは写真から場所を特定するために動いているのだ。その可能性は充分にある。
 匡乃の提案に二人は頷き、一行は一度合流するべく、行動を開始した。


●閉じ込められた魂

 それぞれに情報を交換しあい、五人は写真に写っている少女が住んでいたという家の前までやってきていた。
 少女は二週間ほど前に亡くなっており、現在この家に住んでいるのは少女の父親一人。
 念のためにと撫子が家の周囲に結界を張り、そして匡乃がチャイムを鳴らした。
 だがいくら待っても誰かが出てくる様子はない。
 しかし。
「人の気配はするんですけど……」
 らいちが家の中の様子を窺いつつ呟いた。
「仕方がありません。少し気は引けますけど、勝手に入りましょう」
 恋人のことが心配なのか、過激なことを言う二三矢に、だが反対する者はいなかった。
 家の中から発せられる気配――多少なりと霊感のあるものは、その暗い気配を確かに感じていたのだ。
 扉に鍵は、かかっていなかった。
 五人は家の中へと歩を進める。
 居間の方から、泣き声が聞こえた。男性の声だ。
「あの子の父親の声でしょうか」
 前情報から判断するとそういうことになるだろう。
 娘を失って悲しみに暮れる父親――が、感じる気配はひたすらに黒い。しかしその中に微かに、違う気配がある。
「二階のほう……ですね」
「ええ」
 最初にそれに気付いたのは匡乃と撫子であった。
 五人はとりあえず、二階のほうに先に行くことにする。
 ……気配を辿った先にあったのは、女の子の部屋だった。おそらくは、亡くなった写真の少女の部屋。
『お願い、助けて…』
 嗚咽とともに零れる言葉を聞いて、五人は扉を開けた。
 そこはほんの数時間前まで人がいたかのような――持ち主がもういないだなんて信じられない、部屋。
 そしてそこに、少女の姿があった。
 五人と目が合うと、少女は泣きながら頭を下げる。
『お願いします。助けてください。私と、そしてこの方々を』
 目を凝らして見れば、少女の周囲にはいくつもの魂が漂っていた。おそらく意識不明者のものであろう。
「どういうことなんですか?」
 二三矢の問いに、少女は目を伏せた。
 そしてぽつりぽつりと語り始める。
 少女は幼いころから体が弱く、少女の父親はそれはそれは少女を可愛がり大事に育ててくれた。だがしかし二週間前、少女はあっけなく此の世を去る。
 天へ成仏しようとした少女を妨害したのは、父の想いであった。我が子の死を認めず、此の世に留まることを願う意思。
 想いに縛られ困り果てた少女は、父の想いを断ち切り自分の成仏に手を貸してくれる人物を探すべく、自分の持っていた携帯電話を使ってメッセージを送ることにした。
 だが。
 父の想いは、それすらも妨害した。なんと、父は、少女の助けのメッセージを受け取った相手の魂をも閉じ込めたのだ。父の想いが篭もったこの家の中に。
『私の部屋はまだ私の領域なので、私の力の及ぶ限りはこちらに保護したんですけど……。でも、下手に帰したらまた父に襲われるのではないかと思うと、帰すに帰せなくて…。まだ父の妄執に捕われている魂もいますし…』
「お父様は自分のしていることを自覚しているのでしょうか?」
「無意識の生霊という可能性も考えられますね」
 少女の告白を受けた撫子の呟きに匡乃が答える。
「どちらにしても、本人に会って説得しなければ解決しそうにありませんわ」
 デルフェスの言葉に、一行は居間のほうへと移動することにした。

 扉を開けると、男がびっくりした様子で振り返った。
「突然すみません。チャイムを鳴らしても誰もお出にならなかったので」
 匡乃が礼儀正しく告げると、男も少しは落ちついたらしい。
「それで。何の用だ?」
「娘さんのご焼香をさせていただきたいんです」
 らいちが言った途端、男の表情が変わった。
「違うっ! あの子が私を置いて逝くはずがないんだっ!」
 搾り出すような叫び。
 だがここで怯むわけにはいかなかった。
「お願いだから、そうやって娘さんを縛りつけるのはやめてください。あの子は、苦しんでるんです」
 二三矢の説得にも、そして他の誰の説得にも、男は耳を貸さなかった。
 ただ出て行ってくれと繰り返すばかりで。
「わかってください……」
 らいちが、すっと男の傍に寄る――そして。らいちが少女から感じ取った感情をそのまま、男へと伝える。
 少女は確かに苦しんでいて、らいちが受け取ったのはその苦しみのほんの一部だろうけれど、それで充分だった。
 男が放心したように動きを止める……。
 静かに涙を流す男の様子を見つめ、五人はそっとその場を離れた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0328|天薙撫子 |女|18|大学生(巫女)
1537|綾和泉匡乃|男|27|予備校講師
1247|結城二三矢|男|15|神聖都学園中等部学生
2677|樹神らいち|女|16|高校生
2181|鹿沼・デルフェス|女|463|アンティークショップ・レンの店員

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 このたびは依頼にご参加いただきありがとうございました。

>撫子さん
 毎度お世話になっております。プレイングではいろいろと提案をいただいたのですが、さすがに全部実行するには文字数が足りませんでした…(TT)

>匡乃さん
 妹さんにはいつもお世話になっております。今回はご参加ありがとうございました。
 戦闘にならなかったため退魔の力を使う機会がなくなってしまいました。せっかくプレイングに書いてくださったのにすみません〜(汗)

>らいちさん
 初めまして、今回はご参加ありがとうございました。今回戦闘にならなかったのはらいちさんのおかげです♪
 無事平和的解決となりました。どうもお疲れさまでした〜。

>二三矢さん
 ごめんなさいぃ〜〜〜〜っ。後日談を入れる余裕がありませんでした(涙)
 らぶらぶを書くのは大好きなので、私自身もとても残念でした…。また機会があったときには、今度こそ! らぶらぶな二人を書きたいです(笑)

>デルフェスさん
 いつもお世話になっております。色々と推理していただきましたが、結果はいかがでしたでしょう?
 ちょっとひねくれた真相にしたせいか正解者はいませんでしたが、デルフェスさんの推理を読んでいて、こういうのもアリだなあと思いつつ楽しませていただきました。


 それではこの辺で失礼いたします。
 またお会いする機会がありましたら、その時はどうぞヨロシクお願いします。