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誰もいない街を救えっ!!
オープニング
「また、一つ「異界」が出来ましたね」
IO2日本支部の幹部の一人が囁いた。
「ああ、今度のは、ただ一人の絶望的な「思念」から出来た世界だ」
向かいに座っている男も頷く。他の男たちも一様に首を縦に振った。
都内の某ホテルの一室。そのロイヤルルームを借り切って男たちは集まっていた。
「危険ですね」
「ああ、早急に対処しないと」
男たちの意見は一致した。
ただ一人の少女の抹消がここに可決された。
「これが指令書よ」
『阿部ヒミコ抹殺計画書
異界『誰もいない街』で
テロ活動を行っている少女とその仲間を抹殺する事
その手段は問わない』
「言っておくけど、受けるのもやめるのもアナタたちの自由。ただ、ホントに指令を受けるつもりなら、人数は揃えてね」
女指令はそう厳かに言い放った。
１．D・ギルバ、五降臨・時雨
「なるほどな……てめえで処理できねえもんを、コッチにまで廻して来たってわけか。……ケッ。っざけんじゃねえっての」
D・ギルバはその指令書を指で乱暴に弾いた。その横で時雨がフウと重いため息を吐く。
D・ギルバと五降臨・時雨。
どちらも超一流の暗殺者で、特に時雨はその道で有名だ。彼らはホテルの一室で女指令から話を聞いていた。女指令は黙っている。D・ギルバが再び口を開いた。
「……チッ。ったく、しゃーねえなあ。別に俺にゃカンケーねえけどよっ!!少しゃあ、ホネがありそうなヤツだし、大死霊にも言われてっからなっ!!引き受けてやんよ」
「……五降臨君は？」
「……仕事は‥欲しいけ‥ど」
「はい？」
「……」
「分かったわ。断るのね？」
こくりと頷く時雨。女指令は軽く首を振って、D・ギルバに向かい、異界「誰もいない街」への出入り口を示した地図を渡した。
「大体、仲間は十数人程度だと思うから、アナタなら大丈夫だと思うけれど、気をつけて。――今まで生還報告はないわ」
「ケッ!!今までのヤツが軟弱すぎたんじゃねえの」
「……まあ、アナタから見るとね。――他のメンバーはどうする？今のところ、色んなところに声をかけてはいるんだけど、みんな怯えているのか良い返事をもらえていないの。もしよければアナタの方で声をかけて集めて欲しいのだけれど」
「ケッ!!俺以外に誰かいたら逆に邪魔だっつうの」
「ま、それもそうね」
その時、時雨は、ホテルの出入り口に行こうとしてその良く滑る絨毯に転び、なおかつボーイに当たり、ワインを頭から被り、真っ赤な髪を更に赤くしていた……。
２．鹿沼・デルフェス
「こういったものが廻って来たんだけど」
いつものように仕事帰り、アンティークショップ・レンに立ち寄った茂枝・萌が言った。その手には、数行のメモと地図らしきものが握られている。
「ホントは、こういうことはしちゃいけないんだけど、デルフェスは特別だから」
鹿沼・デルフェス。アンティークショップ・レンの店員で、実はミスリル製のゴーレム。お姫様のようなドレスを好んで身に纏い、中世ヨーロッパの調度品や美術品に特に造詣が深い。彼女はしとやかにその細い指を絡めて紙片を受け取った。その顔色から血の気がみるみるひいていく。
「まさか、萌様お引き受けなさったんじゃ……」
「しないよ。デルフェスをわざわざ悲しませるような事、私がするわけないよ」
ホッとデルフェスは息をついた。
「ですが、これは放っておくわけには……」
「うん。デルフェスなら、そう言うと思ったから、地図も暗記して写しておいた。ソレ、「誰もいない街」の出入り口の場所だからさ。デルフェス、行ってみるといいよ。私も行きたいけど、今ちょっと厄介な仕事入って手離せないんだ」
「あ、いえ、そんな……っ!!ありがとうございますっ!!」
デルフェスは大きくお辞儀をしてすぐに店を出て行った。
３．鹿沼・デルフェス
デルフェスは、萌から教えてもらった地図の場所より無事、異界「誰もいない街」に入ったが、それからどうやってヒミコを探せばよいのか分からなくて当てもなくとぼとぼと歩いていた。
そこで不意に淡い小さい影が眼前を掠めた。夜の街のせいか、ネオンが弾けて顔がよく分からない。ただ、妙に直立不動なその姿勢と、白いダボッとした寝巻きが一つの切り絵みたいに違和感があった。
「あなた様は……」
デルフェスの言葉が終わらないうちに、その小さい手がにゅっとデルフェスの首を掴んだ。そして、ぐいっと強い力で締め上げる。
「敵……敵……敵……っ!!」
「ど、どうなさ……ったんですか」
デルフェスはゴーレムなので息苦しくはないが、やはり声帯系を締め上げられると、声は自由に出ない。そしてその影も、ある程度力を込めたところで、異常に気付いたようで、サッと飛びのいた。
「あなた……何」
ようやく光に慣れてきた瞳に映るのは、年端もいかない少女だった。十六歳くらいだろうか？長い髪を束ねもせずに垂らしている。
デルフェスは不思議そうに首を傾げる。
「わたくしは、わたくしですよ？」
「違うっ!!あなた、首が折れるはずの力を込められてもびくともしなかったっ!!あなた、何っ!!」
少女は完全に怯えている。歯をガタガタと震わせ、両肩を手で掴んでいる。デルフェスは優しく微笑んだ。
「それでも、わたくしは、わたくしですわ。阿部・ヒミコ様？」
「な……何で私の名前……」
「わたくしは、あなた様を守りに来たんですの」
その時、遠くから砲音が聞こえた。
デルフェスは、両手を咄嗟にヒミコに翳した。ヒミコが石化する。D・ギルバの大きな舌打ち。彼の攻撃によって、ヒミコとデルフェス以外、砂塵と化している。
「何だ、てめえ。てめえ、コイツらの仲間か？」
D・ギルバは銃口をデルフェスに向けながら言う。デルフェスは微笑んだ。
「いいえ。わたくし、IO2のエージェントの方から、ここのことをお聞きして、助太刀のために参りましたの」
「ハッ。そうかよっ!!」
つまらなそうにD・ギルバが銃口をデルフェスからそらすと、壊れ始める周りの景色に気付き、ぎょっとした。
「な、何だっ!?こりゃあ!!」
「わたくしの「換石の術」は、かけられた相手の意識を失わせることが出来ますの。これで、ヒミコ様の「絶望」は消えましたわ」
「……フン」
D・ギルバはつまらなそうだ。暴れ足りないというところだろう。その身体にかかっている返り血の量から言っても相当戦闘をしたのだろうに、彼は戦に飽きるという事がないのだろうか。デルフェスは、笑った。
「それでは、そういうことでIO２の方には報告しておきますわね。そしてこの「石像」の方ですが……わたくしの方で処分しても構わないでしょうか？」
「フン。勝手にしやがれ」
D・ギルバの興味は、完全にヒミコからそれたようだ。デルフェスはまた、笑った。
「分かりましたわ」
二日後、アンティークショップ・レンにて。
「んん……って、え、ええっ!?」
デルフェスが店内の販売員用の奥室にて安置していたヒミコに手を翳したところ、ヒミコの顔に急に生気が戻り、石色だった肌は、きちんと生の色に戻っていた。
デルフェスはそれが終わるな否やヒミコを抱きしめた。
「え、ええ……？」
前後の記憶や状況が曖昧なヒミコは更にうろたえるばかりだ。その上、デルフェスは泣いているようだった。
「あ、あの……」
「申し訳ありません。……怖かったでしょう？」
デルフェスは更に腕の力を強めた。
「な……なに泣いてるのよ……？」
「本当に、申し訳ありません。「守る」なんて大口を叩いて……わたくしに出来るのはこの程度なのですわ……。ですが、ヒミコ様、あなた様は決してお一人ではないのです。目に映るものすべてが敵というわけではないのですわ。わたくしがいます。わたくしは、こんな術しか扱えませんが、ヒミコ様を必ずお守りいたしますわ。ですからその……わたくしのお友だちになってくださいませんか？」
「な……なに突然言ってるのよ？」
「……ヒミコ様の生い立ち、過去……失礼ながらお友だちからお聞きして知っておりますわ。何故、テロ活動を行っているかも……」
「……」
「わたくしでは、ダメでしょうか？わたくしでは、ヒミコ様のお心の闇を埋めることは、できないでしょうか？」
デルフェスの喉にはまだ、ヒミコが締めた手首の跡が首に残っている。それを見てから、ヒミコはその温かい背中に触れた。
「……もう」
「はい」
「もう、あんなことはしないって約束してくれる？」
「え……」
「もう、あんな風に、私の意見も聞かないで石にしないって約束してくれるっ!?」
「え、ええっ!!それはもう、もちろんっ!!絶対に、もう、いたしませんわっ!!」
「……それじゃあ」
「はい」
「それじゃあ、「お姉ちゃん」って呼んであげるわよ」
「あ、はいっ!!ありがとうございます」
デルフェスはにっこりしてヒミコの手を握った。ヒミコはその、初めて知るぬくもりにしっかりと握り返した。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号 ／ ＰＣ名 ／ 性別 ／ 年齢 ／ 職業】
【2355/Ｄ・ギルバ/男性/4歳/墓場をうろつくモノ・破壊神の模造人形】
【2181/鹿沼・デルフェス/女性/463歳/アンティークショップ・レンの店員】
【1564/五降臨・時雨/男性/25歳/殺し屋（？）】
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■ ライター通信 ■
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