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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


護珠

●序

 アンティークショップ・レン。そこに集まる様々な商品の中でも、一際目を惹く物があった。蓮は「おや」と呟き、にやりと笑う。
「頭角を示してきたんだねぇ。……こちらとしては、やっとかいって思うけどね」
 蓮はふふ、と笑ってそれを見つめる。それは、直径2センチくらいの丸く小さな水晶のような透明な珠のついたペンダントだった。きらり、と柔らかな店内の光を反射し、輝く。
「これを持ってきた彼に会いたいのかい?」
 ふふ、と再び蓮は笑った。きらり、と光る珠。蓮はくつくつと笑い、珠を見つめる。
「残念だけど、こっちはそんなに暇でもないんでね。……あんたの相手は別の人にして貰う事にするよ」
 蓮はそう言い、珠を見下ろして微笑んだ。このペンダントを持ってきたのは、児玉・厚志(こだま あつし)という大学生の青年だった。厚志はこのペンダントを露天で見つけて購入したものの、その次の日から全身の虚脱感に襲われたのだという。時々、危険な場面に遭遇し、何とか切り抜けた事もあるそうだ。一週間は気のせいだと思っていたが、ついにこのアンティークショップ・レンに持って来られる事となってしまったのだ。
「さて……最終的には、あんたには売り物になってもらわないとねぇ」
 蓮はにっこりと笑いながらそう言った。珠は再び、きらりと光るのであった。


●集

 蓮がペンダント対策に張り紙をしておくと、6人の男女がそれに反応し、集まってきてくれた。
「これが、そのペンダントね」
 シュライン・エマ(しゅらいん えま)は青の目を大きく開き、じっとペンダントを見つめた。黒髪がはらりと揺れた。
「確かに、水晶のようですね。水晶のような鉱石は大抵何らかの不思議な効果があると信じられてますからね」
 セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ かーにんがむ)は良くは見えぬ青の目をそっと細め、ペンダントを見る。銀の髪がそれに伴い、ふわりと揺れた。
「僕は気の向くままにぶらりとしていただけなんですが……面白そうなものに出会えてよかったです」
 黒の目を細めながらにっこりと笑い、綾和泉・匡乃(あやいずみ きょうの)は言った。笑いながらペンダントをちらりと見、小さく笑って黒髪を揺らす。
「見た感じ、普通の珠にしか見えないけど……」
 赤の目でじっと見つめ、八雲・純華(やくも すみか)はそう言った。そして小さく「あ」とだけ呟き、茶色の髪を揺らした。そして口を噤む。尤も、その呟きは誰の耳にも届かなかったようだが。
「やっとこさ頭角を現したんだ。最近になって、やっとね」
 蓮はそう言って、小さく笑った。その言葉に、石和・夏菜(いさわ かな)が緑の大きな目でじっと蓮を見つめ、首を傾げた。
「蓮さん、頭角ってどういう事なのでしょうか?予想ついてたって事ですよね?」
 黒髪のポニーテールを揺らし、夏菜が尋ねると、蓮は苦笑する。
「うちの店に来るものが、ありきたりのものである事の方が少ないからねぇ。何かあると思っていたんだよ」
 蓮がそう言うと、突如影崎・雅(かげさき みやび)が「あ」といい、黒の目を細めてにかっと笑った。
「そーいや、俺ここに来るの初めてだわ。蓮さん、お初と宜しくー」
「今更だけどねぇ」
 雅の言葉に、蓮はくつくつと笑った。雅も黒の髪を揺らして笑い、それからペンダントをじっと見る。
「これってさ、厚志くん限定なのかな?それとも、購入者に対しては無差別なのかな?」
「それに、虚脱感というのも夏菜は気になるの……」
 夏菜の言葉に、皆が頷く。
「持ち主に訪れた虚脱感分だけ持ち主の守りになるのかもしれないし、己を鍛える為にわざと危機を呼んでいるのかもしれないしねぇ」
 うーん、とシュラインは口元に手を当てながら悩む。そして、蓮の方を向いて尋ねる。
「ちなみに、蓮さんは何か効力があるとかは知らないのかしら?」
「それが分かれば苦労しないんだけどねぇ。うちに来る商品が一筋縄ではいかないという事くらいしか分からないねぇ」
 蓮はそう言って苦笑した。
「夏菜ね、最初は悪い気を吸い取っているのかと思ったんだけど、全身に虚脱感って事は無差別っぽいし」
「児玉氏に本当に悪い影響を及ぼしていたかの判断は、児玉氏にしか分からないことですからね」
 夏菜が心配そうに言うと、セレスティも頷きながら言葉を続けた。
「直接会うのが早そうですね。出来事の原因は、この珠だけでなくその青年の方にもありそうですから」
 匡乃が提案するように言うと、皆が頷いた。
「ペンダントを購入した時の様子とか、どこで買ったかも知りたいし」
 純華はそう言ってペンダントを再び見つめる。雅も同様に見つめていたが、不意に何かを思いついたようににやりと笑った。
「蓮さん。このペンダントさ、俺が購入したりとかしちゃ駄目か?起こる現象を見極めたいんだ」
「そりゃいいけどさ。……多少値が張るかもしれないよ?」
 意地悪そうに蓮が笑うと、雅も負けずに含んだ笑みを浮かべる。
「いや、別に構わないけど。なんなら後で売却するし」
 雅が言うと、蓮は大笑いし、手をひらひらと振った。
「いいよいいよ、持っていきな。で、後で返してくれたらそれでいいからさ」
 皆、顔を見合わせて苦笑した。雅はにかっと笑って懐にペンダントをしまいこむ。
「じゃあ、児玉さんに会いましょうか。蓮さん、連絡は大丈夫なんでしょう?」
 匡乃が尋ねると、蓮はにやりと笑う。
「ああ。……ほら、これを持っていきな」
「あ。身分証明書なの」
 夏菜は蓮が差し出した紙を受け取り、小さく呟いた。売却時にとっていた、学生証のコピーだった。早速シュラインが電話をし、約束を取り付けた。
「いいみたいよ。じゃあ、行きましょうか」
 シュラインはそう言ってにっこりと笑った。そうして厚志との待ち合わせ場所に向かう為、一向は蓮の店を後にするのだった。


●憩

 厚志との待ち合わせは、大学の近くにある公園だった。そこで、打ち合わせを始める。
「私、思ったんだけど。まずは珠が危機を招いたのか、彼自身が危機に陥っているのかを見極めた方がいいと思うの」
 シュラインが提案すると、それぞれが頷く。
「どちらにしても、早く解決した方が良さそうですね」
 セレスティはそう言い、皆を見回す。「分かれて行動した方がいいのかもしれません」
「確かにそうですね。こんな大人数で児玉さん一人に聞きまくっても申し訳ないし」
 純華はそう言って小さく笑った。
「まず、児玉さんに話を聞くのはとりあえず全員でしますよね?」
 匡乃が確認するように言うと、それには全員が頷いた。皆、まずは厚志に話を聞いてからでないと、動きようがないと感じていた。
「俺は、露天とかも気になっているんだよな。そこの露天で何か分かるかもしれないし」
 雅が言うと、シュラインは頷き「そうね」と呟く。
「それに、児玉さんの交友関係なども聞いたほうがいいわね」
「ついでに言うと、彼の血筋も聞きたいんですよね。児玉、だなんて何となく意味深じゃないですか」
 にっこりと笑いながら匡乃は言った。思わず皆も小さく笑う。
「夏菜は、児玉さんについててあげたいの。最悪、夏菜がフォローできるかもなの」
 夏菜はそう言ってぎゅっと手を握る。
「じゃあ、こうしましょう。まずは児玉さんにお話を皆で聞いて。影崎さんと八雲さんは露天に行って貰って」
 シュラインが言うと、雅は「了解」と言ってにやりと笑い、純華は「分かりました」と言ってにっこりと笑う。
「セレスティさんと夏菜ちゃんは児玉さんについていてあげて」
 シュラインが言うと、セレスティは「分かりました」と言って小さく頷き、夏菜は「了解なの」と言ってぎゅっと握りこぶしを作る。
「私と綾和泉さんは、児玉さんの周辺を探って見ましょうか」
 シュラインがそう言って匡乃の方を見ると、匡乃は「分かりました」と言ってにっこりと笑った。
 と、そうこうしていると向こうから厚志らしき大学生が現れた。腕に包帯を巻いている。
「ええと……アンティークショップからいらした人ですか?」
「そうです。……あなたが、児玉氏ですかね?」
 セレスティが尋ねると、こっくりと頷く。
「その腕は、どうしたんですか?」
 夏菜が尋ねると、厚志は少し照れたように苦笑する。
「恥ずかしいんですけどね、ペンダントを売った後すぐ、こけてしまって。ちょっとした捻挫なんですけど」
 厚志の言葉に、皆が顔を合わせる。
「それで、そのペンダントは何処で買ったんだ?」
 雅が尋ねると、厚志は「ええと」と小さく呟き、一方向を指差す。
「あっちの、駅前に出していた露天ですね。学校に行く前に、妙に目に付いてしまって」
「妙に、ですか?」
 純華が尋ねると、厚志はこっくりと頷く。
「不思議だったんです。俺、そんなにアクセサリーには興味無い方なんだけど、妙に目に付いてしまって」
 厚志の言葉に、純華はじっと考え込む。
「そうそう、ペンダントを購入して一週間の間、何回か危機に見舞われたとの事なんですが」
 セレスティが尋ねると、厚志は頷き、苦笑する。
「渡ろうとした横断歩道が、赤信号なのに何故か青信号のような気がしたり……あと、いきなり頭上から植木鉢が落ちてきたりしましたね」
「それに心当たりはないんですか?」
 シュラインが尋ねると、厚志は「ううん」と考え込み、俯く。
「特に……無い気がするんですけど」
「丁度、ペンダントを買った時からそれは始まったんですか?」
 匡乃が尋ねると、厚志は「そうだな」と小さく呟く。
「大体、その頃からなんです。だから、何だか俺、恐くなっちゃって」
 厚志はそう言い、苦笑する。皆は頷き、それから厚志に向かう。
「今から、そのペンダントについて何とかしてみようと思っているんです。宜しければ、ここで少しだけ待っていてもらえませんか?」
 シュラインが言うと、少しだけ厚志は考えてから頷いた。
「夏菜とセレスティさんが一緒にいるから、安心しても大丈夫です」
 夏菜がにっこりと笑う。その笑みに、どうやら厚志も安心感を覚えたようだ。
「では、また再び後でお会いしましょう」
 セレスティが言うと、皆頷きながら公園から出発する。それぞれに使命を胸に抱きながら。


●情

 シュラインと匡乃は厚志の大学に来ていた。
「さて、どうやって探しましょうか」
 匡乃が言うと、シュラインは「そうねぇ」と呟く。
「雑誌のインタビューとかどうかしら?『最近、不幸な目に遭っている人は誰ですか?』とか聞いてみたり」
「ああ、そうですね。確かに、最近不幸な目に遭っているのは児玉さんくらいでしょうから……」
「先生!綾和泉先生じゃないですか!」
 シュラインと匡乃の言葉を遮り、突如後ろから女子大生の声が聞こえた。匡乃は振り返ると、確かに見覚えのある顔の女子大生である。
「ああ……確か、戸田さんでしたか」
「そうですぅ!先生のお陰で、大学生ですよぉ!」
 きゃっきゃっと嬉しそうに匡乃の肩をばしばしと戸田は叩く。
「僕の勤めている予備校の元生徒さんなんです」
「ああ、なるほど」
 ぼそり、と耳打ちする匡乃にシュラインは納得する。
「そうだ、戸田さん。ちょっと聞いてもいいでしょうか?」
「なんですかぁ?」
「最近、妙に不幸な目に遭っている人とかいませんかね?」
「不幸な人?」
 戸田は「うーん」と小さく唸り、それから「ああ」と言って手をぽんと打った。
「そういえば、あたしと同じ学部の男の子が最近可哀想って話よ」
「その人の名前を教えて貰ってもいいかしら?」
 シュラインが尋ねると、戸田は頷く。
「児玉・厚志って言う人。今、捻挫もしているみたいだし」
 シュラインと匡乃は顔を見合わせた。間違いない。
「それで、どうして最近そう言う目に遭っているのか分かるかしら?」
「どうしてって?」
「何か趣味とか交友関係などの関係で」
 首を傾げる戸田に、シュラインはいくつか並べてみた。
「ああ、そうそう!何かね、ペンダントを買ったって聞いたけど……」
「でも、ペンダントを売ってすぐに捻挫したんですよね?」
 匡乃が言うと、戸田は「そうよねぇ」と呟く。
「じゃあ、ペンダントは関係ないんですかねぇ?でもね、ペンダントを買った時から変な事が続くって言っていたんだけど」
「それまでは、何も無かったという事ですか?」
「そう」
 匡乃の確認に、戸田は頷いた。シュラインと匡乃は顔を見合わせる。
「やっぱり、あのペンダントが関係あるみたいね」
「ですが……妙に腑に落ちないんですよね。あのペンダントは危機を招いたのかもしれません。ですが、同時に守りもしています」
「そうよねぇ」
 シュラインと匡乃は互いに「うーん」と考え込む。
「そういえば、綾和泉先生の恋人とかなんですかぁ?」
 戸田の疑問に、二人は顔を見合わせて笑う。
(それは無いわねぇ。絶対に、それだけは)
 そっと、シュラインは心の中で思う。
「残念ながら違うのよ」
「そうなんですかぁ。……まあ、いいや。綾和泉先生、また予備校に遊びに行ってもいい?」
「ええ、いいですよ」
 匡乃が言うと、戸田は嬉しそうに笑って手を振った。
「何だか若さを感じるわねぇ」
 くすくすとシュラインは笑った。匡乃も「そうですね」と頷く。
「さて、公園に行きましょうか。多少なりとも情報が得られましたから」
「そうね」
 シュラインと匡乃は互いに頷きあい、再び公園へと向かった。その途中、匡乃は一瞬振り返って大学を見、また踵を返すのだった。


●守

 再び6人は公園に集結した。それぞれが手に入れた情報を纏めると、厚志に変わったことといえばやはりペンダントを購入したという事くらいしかなく、またそのペンダントに引き寄せられるようにして買ったということくらいだ。
「ああ、あとさ。そのペンダントの珠って、露天の兄ちゃんが拾ったものらしいんだ」
 雅はそう言い、そっとペンダントを取り出す。きらり、と光を反射するペンダント。
「そして、妙に確信があったそうです。これは、絶対に誰かが買うって」
 純華も付け加えて言う。
「それはやっぱり、児玉さんのことなんでしょうね」
 シュラインはそう言って、厚志をちらりと見た。厚志はペンダントに引き寄せられるようにじっと見つめている。
「でしょうね。……今も、主張しているみたいにしてますしね」
 セレスティはそう言って小さく笑った。
「……解決にならないかもしれないけど、児玉さんに渡してみたらどうでしょう」
 ぽつり、と夏菜が呟く。それに匡乃も同意する。
「そうですね。ペンダントを手放してから捻挫をしたのであれば、虚脱感だけを我慢すればいい気もしますし」
 厚志はその言葉にはっとして首を振った。今までじっとペンダントを見ていたのが嘘のように。
「あのだるさを我慢しろって言われても……」
「だってさ。……あんた、どうする?」
 雅はそう言い、ペンダントをひらひらと振った。
『……守らないと』
 ふと、ペンダントから小さな声がした。女性の声のようだ。
『守るわ。数多の危険から、守るわ』
「やっぱり、守っているの?」
 夏菜が呟くように言う。だが、ペンダントの声はそんな純粋なものではない。
「……私の気のせいなら良いんですが……あまりいい波動を感じませんね」
 セレスティはそう言い、ペンダントをじっと見る。
『守るから。守れば、いないと困るでしょう?』
「ええと、質問。それって、あんたが危険を引き寄せてるって事?」
 雅が問うが、ペンダントは答えない。
『いないと困るでしょう?恐いでしょう?』
「今のあなたの方が、よっぽど恐いと思うんだけど」
 純華が言うが、やはりペンダントはただ光るだけだ。何とはなしに、嫌な気を放ちながら。
『恐いでしょう?手放したくないでしょう?』
「それは……あなたが危険を引き寄せてあなたが守っているのね」
 シュラインが言うが、やはりペンダントは聞いてはいない。こちらの問いに答える気など全く無いようだ。
『持っていて。手放したりしないで』
「捨てられたくない訳ですね」
 きっぱりと匡乃が言うと、その時初めてペンダントが光り輝いた。
『捨てないで、守るから!恐くさせないから、持っていて!危険な事なんて、全部退けてあげるから!』
「それは勝手なの!あなたが引き寄せている事がまず間違いなの!」
 夏菜が叫んだ。ペンダントから意志が伝わってくる。声ではなく、心に直接問い掛ける意識として。
『守るから守るから守るから……離れないで!』
「……取り憑いている訳じゃないみたいだな。これは、石自身だ」
 雅が呟く。石から流れ込む感情は、ただただ自分を大事にしていて欲しいというものだけだ。
 露天商は、この石を拾ったのだという。ならば、この石はまず一度捨てられているのだ。無意識のうちに、ともすれば意識的に。そうして悟ったのだ。もう二度と、捨てられないためにはどうすれば良いのかと。
「……危険を呼び寄せて、守ればいいと思ったのね」
 シュラインは呟く。危険な目に遭い、それを守ることによって自分の存在意義を主張する。それはある意味正しいのかもしれない。だが。
「それは根本的に間違っているの……」
 夏菜が呟く。それが正しいと思っている事が、第一に間違いなのだ。
「もっと、他の主張方法があったでしょうに」
 セレスティが呟く。石はそのような考えには至らなかったのだろうか。
「何かせずにはいられなかったんでしょうね」
 匡乃が苦笑しながら呟く。一つの思いつきにしがみ付いてしまったのだろう。
「そんな事しなくても、良かったのに」
 純華はそう言ってじっと石を見た。悲しそうな光を放つ石。
「虚脱感は、引き寄せて守る力の為に厚志君の気を吸ったためだな」
 雅はそう言い、大きく溜息をついた。歪んでしまった思い。狂ってしまった当初の目的。どこかでずれてしまった、石としての思い。
 皆、どうしていいのかが分からなかった。石としての希望は、再び捨てられる事の無い場所の確保だ。だが、危機と回避による石の主張は、恐らくやむ事は無い。だとすると、方法は一つしかなかった。
 そんな中。厚志はそっと石に近付いて手に取った。皆の目が、厚志に注目した。
「……俺に捨てられたくなかったのか……。こんなことしなくても、捨てる気なんて起こらなかったのに。純粋に、一目ぼれだったんだし」
(それは石がそうさせたんでしょうけど……)
 シュラインはそう思ったが、言わなかった。あえて言うことではなかったのだから。石は大事にしてくれると思った厚志の手に、渡る事を願っていたのだから。
「だから……こんな事、本当に必要だったのか?」
 厚志がそう言った瞬間、石の表面にヒビが入った。最初は小さく。次第に大きく。そうして、ぱかっと二つに割れ、見事にばらばらに砕け散ってしまった。厚志は目を大きく見開きその様子を見、それから手に残った石の欠片をじっと見つめた。
「……俺、こういう結果になるの、望んでなかったんだけど」
 厚志は苦笑してそう言い、欠片をゴミ箱にぱらぱらと捨てた。誰も、何も言えなかった。その時言うべき言葉は、何処にも見当たらなかったのだった。


●後

 再び蓮の元に返ると、蓮は待ち構えたように皆に手を伸ばした。
「あのペンダント、どうにかなったんだろう?」
 皆、顔を見合わせた。既に欠片となってしまったペンダントは、その欠片すら公園のゴミ箱の中だ。それを蓮に告げると、蓮は手にしていた給料袋を再び机の中にしまった。
「……売り物にもできなくなったんなら、仕方ないだろう?」
「そりゃそうだけど。苦労料は無し?」
 雅が言うが、蓮はにやりと笑うだけだ。
「無いねぇ」
「まあ、いいじゃない。ともかく終わったんだし」
 シュラインはそう言い、「ね」と言って皆を見回す。
「そうなの!終わりよければ全て良し、なの」
 夏菜はそう言って笑う。
「蓮さんの手元にあってもどうにもならなかったんですから、むしろ良かったんですよ」
 フォローになっているようななっていないようなことを、匡乃はにこにこと笑いながら言った。
「それはちょっと違う気が……」
 純華は苦笑しながら言った。何となく、寂しそうな目だ。
「今頃、綺麗に月が出ているでしょうから、あのゴミ箱はさぞかし綺麗でしょうね」
 セレスティがふと呟いた。皆、想像する。ゴミ箱に捨てられた石の欠片達は、今頃輝いている事だろう。
 自らが発した光ではなく、柔らかな光を反射して。

<ゴミ箱はきらきらと光を放ち・了>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 0086 / シュライン・エマ / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0843 / 影崎・雅 / 男 / 27 / トラブル清掃業+時々住職 】
【 0921 / 石和・夏菜 / 女 / 17 / 高校生 】
【 1537 / 綾和泉・匡乃 / 男 / 27 / 予備校講師 】
【 1660 / 八雲・純華 / 女 / 17 / 高校生 】
【 1883 / セレスティ・カーニンガム / 725 / 財閥総帥・占い師・水霊使い 】

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■         ライター通信          ■
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 お待たせしました、コニチハ。霜月玲守です。このたび「護珠」に参加して下しまして、本当に有難う御座います。初めてのアンティークショップ・レンでの依頼でしたが、如何だったでしょうか。
 バッドエンドのようにも見えますが、ちゃんといい終わり方をしております。珠にとっては、これが望んだ事だったのだと思われます。
 シュライン・エマさん、いつも参加してくださって有難うございます。今回、一番真相に近かったと思われます。凄いです。プレイングを見た瞬間「凄い」と呟いてしまいました。有難う御座います。
 少しずつですが、今回も個別の文章となっております。宜しければ見比べてみてくださいませ。
 ご意見・ご感想等心よりお待ちしております。それでは、またお会いできるその時迄。