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作れ、究極エビフライ！
「…おいにゃは思ったのにゃ。」
おいにゃの腕はまだまだなのかも知れにゃい…あの時、自信作のエビフライだったにゃが誰も…誰も喜んで食べてはくれなかった。
そこで考えたのにゃ！
究極のエビフライを作る！誰もが感動するような素晴らしいエビフライを！！」
根古はそう言って、ぐっと拳を握り締めた。
無くした指輪を探して欲しい…そんな一見マトモな依頼を受けたのが数日前。
実はその無くしたお店が普通ではなく…探しても見つからないわ、その癖腹を空かせた人間の前には前置き無く現れるわ、店主が猫（人間大）だわ、とんでもない店だったのである。
…極めつけには、店主の猫の作った料理は誰もが今までに食べたことがないと思うほど美味いのではあるが、ある一つの恐ろしい欠点を持っていた。
…彼の料理には魂が吹き込まれるのである。
普通の人間ならわからない程度なので問題ないが、見える人間には見えてしまうし聞こえてしまう。
『食べて食べてぇ〜んｗ』
『冷めないうちにお・ね・が・い。』
…そう言って身をくねらせる彼らに躊躇い無くフォークを突き刺すことのできるツワモノがどれ程いるのか。
いくら美味しくてもフォーク突き立てた瞬間悲鳴を上げられちゃ喜んで食べるなんて無理、と言うのが大方の意見だろう。
口に含んだ瞬間得られる至福、しかしそれまでには幾多の困難が待ち受けている。
まさに究極！
だが猫はそれでは満足出来なかったらしい。
多少（？）喋るからと言って客が引いたのは自分の腕が足りないからだと悩み、苦しみ。
それを打開するべく考えに考え抜いた末、この結論に達したのである。
外の世界に出て、様々な素材を吟味し究極の材料を集め、究極の料理を作ろう。
メニューは前回敗北したエビフライ。
誰もが喜ぶ、誰もが食いつかずには言られない究極のエビフライを作り上げよう。
「だけどおいにゃは外の世界はよくわかんにゃいんで手伝って欲しいのにゃ。」
巨大な猫はそう言ってにっこり微笑んだ。
『一度食べたらいろんな意味で忘れられない。』
そんな噂は聞いたことがあった。
何やら奇怪なエビフライが出るとか…しかしそれがどんなエビフライかまでは伝わっておらず、非常に興味はある。
勿論味や形状も然ることながらその良し悪しにも。
…人に仇名すようなものならほおっては置けないし、一度調査の必要があるかもしれない。
そうして出向いたシェラン・ギリアムが目にしたのは。
「いらっしゃいませにゃー。」
能天気な声で出迎えた猫（巨大）であった。
「………。」
…猫だ。
紫がかった灰色のような黒に近いような不思議な色合いの
喋っている。
二本足で立っている。
ついでにコック服を着てコック帽を被っている。
「…ま、まさか此処のシェフは猫だと言うのですか！？」
「根古と申しますにゃ、よろしくお願いしますにゃ。」
「あ、シェラン・ギリアムと申します。」
深々と頭を下げられて、つられて頭を下げるがその頭の中では疑問符が踊っていた。
…何故猫？猫が料理が出来るのか？どうやって？
あの手でどうやって包丁を握るのだろうかとか、調理師免許はどうなっているのだろうかとか、果ては猫舌の猫に羹の味見が出来るのだろうかと言うようなくだらない疑問まで。
「おいにゃはシェフとしてウン十年やって来たのにゃが、この頃自信が無いのにゃ…」
とりあえずと紅茶を入れ、他に客のいない店内で二人は向き合った。
そして猫は真剣な目つきでそう語り始めたのである。
「普通のお客様には好評にゃのにゃがおいにゃが猫に見える人…つまりは異能者の人達には非常に不評なのにゃ。」
落胆した様子で耳と髭を垂らす様はどこからどう見ても猫なのだが、両手をテーブルの上に組む仕草は人間そのものだ。
「そこで！究極のエビフライを作りたいと思ったのにゃ！おいにゃの腕もまだまだ、精進あるのみにゃ！！」
…顔が猫と言うだけで、心は人とそう変わりが無いのかもしれない…手も猫だから細かい仕事にはむかなそうだが。
「…なるほど…私に出来ることがあるのならお手伝いしましょう。」
料理人の心理と言うやつは良くわからないものの、出来る限りの手伝いはしてやろうと思い、シェランは持っていた鞄の中を探り始めた。
「まず私にしか出来ない助力をば！」
「んにゃ？」
「私は料理には詳しくありませんのでそちらの方面ではあまり役立てそうもありませんので、魔術で役立とうと思うのです。」
覗きこむ猫の前に、シェランは複雑な文様の描かれた符を差し出した。
「この護符！これを張るだけで料理の腕があがる！」
「にゃにっ！？」
「今なら一枚五万円、その金額であなたの料理の腕が上がるなら安い買い物の筈！！」
猫は真剣な目つきでそれを見つめていたかと思うと甲高い声で叫んだ。
「…三万！」
「四万五千！」
「三万五千！」
「………。」
「………。」
…静かな店内にやけに緊迫した空気が漂った。
この猫、とぼけた顔をしていて意外と出来る…。
「…なかなかやりますね。」
「ギリアムさんもにゃ…」
「…よし、わかりました四万で手を打ちましょう。」
「三万六千にゃ。」
「十枚で三十九万でどうだ！」
「三十七！！」
「三十八！！」
「買ったにゃッ！！」
…白熱するバトルの結果、大分まけさせられたものの十枚の護符を売り切り、それを手分けしてキッチンに貼った二人はその後、材料を集めるべく町へと繰り出した。
町に殆ど出たことの無い猫は今までどうやって仕入れをしていたのか…。
どうやら人間外のルートがあるらしいのだが今回はそれでは手に入らない、もっと鮮度が高いもの、もっとレアなものが欲しいのだと言う。
猫はシェランに案内を頼み、築地、アメ横へ中華街へと次々に足を運んだ…人間ではないのに大丈夫かと思ったが猫は普通お人間には凡庸な男の顔に見えるらしい。
そして手に入れた材料は…
大分県姫島産の車エビ。
半固型脂で安定性に富みフライ油に最適のマレーシア産パーム油。
地鶏の卵他、サワラク産胡椒、赤穂の天塩etc.究極と呼ぶに相応しい品々ばかりであった。
ちなみにパン粉とタルタルソースに使うピクルスは猫が前もって準備しておいた自家製と、随分な凝り様である。
それらの品々とともに猫が厨房に篭ること一時間あまり…。
猫が作り上げた黄金色に輝く大ぶりのエビフライは。
『はいしょー♪』
…踊っていた。
「……何か入れるとか何か唱えるとかしましたか？」
買ってきた材料は究極と呼ぶに相応しいが魔術的にはごくごく普通だったような気がするのだが。
「…食べてくれにゃいにゃ…？」
「…これをですか？」
いや、香りはいい。見た目も綺麗な色に上がって非常に美味しそうではある…動いてさえいなければ。
「………。」
「……た、食べます…。」
「………。」
「………。」
猫の視線に負け、フォークを手に取るも、なんとも…。
『〜♪』
一つ深呼吸をして自分を落ち着け、勢いをつけてフォークで突こうとした瞬間、それはひらりとフォークを避けた。
そして皿の上に座り込み、縋るような目で…実際には目は無いがそのように感じた…見つめてくるのである。
「……すいません、私には出来ませんっ！」
「…料理の腕あがらにゃかったのにゃー！護符代返すのにゃー！」
「料理の腕とかそう言う問題じゃないですよこれっ！」
食べ物が動くなんてなんとも卑怯である。
しかもあんな目で見つめられて食べれますか！？
『勝利♪』
…口論を始める二人の背後でエビフライがくるくるとターンを決め、ガッツポーズをしていたのだが二人はまったく気づかなかった…。
END
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【整理番号／ＰＣ名／性別／年齢／職業】
2133／シェラン・ギリアム／男性／25歳／放浪の魔術師
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■ ライター通信 ■
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ご参加ありがとうございました〜。
このエビフライ、またどこかで出てきたり…させてもいいですか（笑
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