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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


滅びた村の横笛

 いつものことだが、その日も草間興信所は賑やかだった。
 まず興信所の主、草間武彦。それから興信所事務員のシュライン・エマ。学校帰りに立ち寄ったという香坂丹。仕事帰りに近くを通ったついでにとやって来た江戸崎満。久方ぶりにとここ草間興信所に顔を出した、海原みその――ちなみに、本日の衣装は漆黒の古代ギリシア風である。
 テーブルの上には人数分の湯のみとお茶が並べられているが、寂しいことに茶菓子はない。ちょうど品切れだったのだ。
 勝手知ったるとばかりに寛ぐ一行を気にせずに、武彦は――言いたいことはいろいろあるが、言っても無駄だと諦めている――テレビをBGMに書類の整理を続けていた。
『――で、古美術品が発見されました。この美術品が発見された村は、戦後突然起こった大規模な竜巻が原因で滅び、現在まで無人となっていました。今回ダムの底に村が沈むこととなり、事前調査に――』
「あっ!」
 テレビから聞こえるアナウンサーの声に過剰な反応を示したのは武彦が作業するデスクの片隅に置かれた、鳳凰の姿を象った桐彫刻だ。
 見るまに人の姿へと変化して行く桐彫刻――どう見ても普通ではないその少年の名は桐鳳。かつては神社に祭られていた神様である。
 桐鳳はデスクの上に乗ったまま、じーっとテレビ画面を凝視した。
「……邪魔なんだが」
 増えた面積の分デスクを占領されて武彦が不満げに言うが、桐鳳はまったく聞いていなかった。
「このニュースがどうかしたの?」
 桐鳳の様子に、ソファーで雑談していた面々もテレビの前に集ってくる。
「これ、この横笛」
「これがどうかしたのか?」
 満の問いに、桐鳳は大きく頷いた。説明のために口を開きかけたちょうどその時。
「こんにちわ」
 ノックの音に続いて聞こえてきたのは榊船亜真知の声であった。

 さて、亜真知持参のどら焼きを茶菓子に、一行はテーブルを囲んでソファに座っていた。
「さっきテレビでやってた笛なんだけどね、昔僕の神社に納められてたやつなんだ。元々は妖の里で作られた笛でね。でも彼らは人間に追われて散り散りになって、里もなくなったんだ。その時、里の妖の一人が僕のところにその笛を持ってきたんだ。僕のところで預かって欲しいってね」
「桐鳳くんのところに預けられたと言うことは……やっぱり、普通の笛ではないのよね?」
「もちろん」
 かつて桐鳳が御神体として納められていた神社は、曰く付きの品の供養・封印を行うことを主な仕事としていた。その神社は戦火のどさくさのなかで盗難に遭い、収められていた品のほとんどが散逸してしまった。だが、それらは全て一般に放置して置けるようなものでもないため、桐鳳はコツコツとかつて自分の神社に納められていた品の回収をしているのだ。
 そのことを知っているシュラインの問いに、桐鳳は何故か自慢げに胸を張って頷いた。
「どのような効果を持っているのですか?」
「風を操るんだ。さっきニュースで出てたでしょ? 竜巻で滅びたって。あれ多分、制御の仕方も知らないのに笛を吹いたせいだよ。
 美術館に納められたって言うからにはそうそう吹かれるようなことはないだろうけど……。もしもってこともあるからね。やっぱりきちんと回収した方がいいと思うんだ」
 そこまで言って、桐鳳はにっこりと子供っぽい無邪気な笑みを浮かべた。
「ここに居合せたのも何かの縁ってことで、ちょっと手伝ってくれないかなあ?」
「笛が吹けなくなればよいのですか?」
 手伝うかどうか、手伝うならばどうやって笛をとり返すか。
 そんな考えを巡らせ始めた面々の中で唯一、みそのだけが即座に言葉を返した。それもある意味では過激な意見を。
「んー……最悪それも仕方がないんだけど…」
 桐鳳は困ったように苦笑した。
「できたら、無事に取り戻して欲しいな。天災をもたらす危ない物かもしれないけど、でも使いようによっては役立つ物だし…。なにより、大事に造られて、守られてきた物だから……」
「わかりました」
 みそのはあっさりと告げて、早速相談事を始めている他の面子の輪に加わった。
 意見としては笛を偽物とすり替えるという方向に向かっている。本物そっくりの偽物を作れるという者もいることだし、それが一番妥当なのだろう。
 だがテレビからの情報で見る限り、笛はガラスケースの中に納められている。防犯装置をどう潜り抜けて笛を盗み出すかが問題だ。
 そんな話題に移行し始めたころ、
「それなら俺が不可視結界を張ろう。そうすれば普通の人間には異常がないように見えるはずだ」
 満の提案が出て、一行はその方向で作戦を定め、後日美術館に集うことにした。


 シュライン・エマ、香坂丹、海原みそのの三人は下調べのためにと、笛の力で起こされた竜巻により滅んでしまったという村の様子を見に来ていた。
 少し前までは閑散としていたのだろうが、もうすぐダムの底に沈むからかそれとも偶然に見つかった古美術品のせいか。村には数名のマスコミらしき人間がいて、無駄に騒がしかった。
「うーん、調べものもしにくわねえ、これじゃあ」
「マスコミの人に直接聞いてみます?」
 頬に手を当てて困ったように言うシュラインの声に、丹がひょいと意見を述べる。
「でも多分、テレビで言っていた以上のことはわからないと思うわ」
 それからシュラインは、みそのの方に目を向けた。
 すべての『物の流れ』を視る力を持つみそのの瞳には何か映し出されていないかと思ってのことだ。
 視線に気付いたのか、みそのがゆっくりと顔をあげた。
「あちらの方に……力が移動した跡があります」
「それを辿れば、もともと笛が置いてあった場所に行けるってことですか?」
「はい」
 丹の問いに簡潔に答え、みそのはゆったりとした足取りで歩き出す。二人もその後ろに続き、やってきたのは村の一番奥の一際大きな屋敷であった。
「村長さんの家ってところかしらね」
「こちらの方です」
 無人をいいことに、一行は家の中へと上がって行く。
 家の一番奥の部屋にタンスがあり、みそのの話によるとそこに、かつて笛が置かれていたのだという。
「この家に当時の資料でもあれば良いんだけど…」
 主の居ない家の家捜しというのもあまり気は進まないが、ここで突っ立っていても仕方がない。
 手分けして家の中を探しまわった結果、どうやら笛は、戦中この村に疎開した人間がお世話になったお礼にと置いていったものであるらしいということが判明した。
「村の方は何も知らずに吹いてしまったんでしょうね、きっと」
「ええ、おそらくは……」
 丹の呟きに、静かなみそのの声が返る。
 その後もしばらく探してみたが、他にそれらしき資料はなかった。
「今日のところはこれで解散かしらね」
 シュラインがそうまとめ、一行は後日の集合を約束して各々散っていった。


 草間興信所での相談から数日後。
 六人は揃って美術館のある町へとやって来ていた。
「一応、最初に交渉をしてみようと思うの」
「そうですね、平穏に話し合いでことが済めば一番良いわけだし」
「信じていただければいいんですけどね」
「難しいと思うぞ…。だがやってみる価値はあるな」
「ええ」
 だが難しいと言いつつも反対する者は誰も居なかったので、とりあえずは館長に会って話をすることとなった。
 アポなしの突然の訪問であったが、まあそう忙しい人ではないらしく、館長とはすぐに会うことができた。
 交渉の中心はシュラインである。笛の管理法や一行への対応、自然に対しての感情などなどをそれとなく遠回しに聞いてみたところ、悪い人ではないようだった。
 信じてもらえるかどうかと言えば、それはまったくの別問題であるが。
「それで、その笛なんですけど…。昔はある神社に納められていた物なんです」
 言いながら、シュラインが桐鳳を示す。
「彼はその神社の神主の子なんですけれど、できれば笛を譲っていただきたくて今日はこちらに来たんです」
 そういうと、館長は困ったような顔をした。私設の美術館ではない以上、予想できた反応だ。
「と言われましても、私はここの管理を任されているだけで、ここの品を自由にできるわけではありませんから…」
「でも、このままにしておくと危ないんだ」
 桐鳳がそう言い足したが、結局館長は取り合ってくれなかった。笛の力のことを説明しても、まったく信じてもらえなかったのだ。
 桐鳳が鳳凰としての姿を見せればまた反応は違ったのだろうが……。一応、桐鳳にも常識はある。鳳凰とは火の属性であり、常に炎を纏う者。
 狭い部屋の中で本性など見せたらあっという間に火事になってしまう。外に連れ出そうとしたがそれも失敗したし。
 結局。
「盗むしかないんですね」
 その方向での作戦も決めてあるとはいえ、できれば避けたかった展開に、丹は小さな溜息をついた。
「仕方がありませんわ。このまま放っておけばもっと大変なことになってしまいますし」
「大丈夫だ、バレないようにやるから」
 どちらかと言えば本物を回収し偽物とすり替える作戦を推していた満と亜真知はたいして困った様子も見せていないが。
 とりあえず夜まで時間を潰し、一行は再度美術館前にまで戻ってきた。
 まずはバレないよう、満が不可視結界を展開させる。
「これで外にはばれないはずだ」
 自信を持って言う満に続いて、今度は亜真知が自らの力を行使して笛の複製を作りあげた。
 ガラスケースを開けて――なんというか、無用心だが、ガラスケース自体には鍵はかかっていなかった。外からの出入口だけ鍵をかけておけば安心というものではないだろうに――あっさりと笛をすり替える。
「これで一安心ですね」
 多少の罪悪感を残しつつ、それでも笑顔で丹が言う。
「桐鳳様…少しよろしいですか?」
「ん?」
「わたくし、少しこの笛を吹いてみたいと思うのですが」
「わたくしもこの笛の音色には興味がありますわ」
 みそのの提案に亜真知も案外ノリ気で同意した。
「えええ? 大丈夫ですか?」
「私も、止めておいたほうが良いと思うんだけど…」
 丹とシュラインは止める側に回ったが、
「ま、結界の中なら被害もでないだろう」
 満はとくにどっちつかず。
 決定権を持つ桐鳳の答えは、YESであった。
「うーん…いいんじゃないかな。みそのさんならこういうのの制御は上手そうだし」
 『流れ』を視るみそのであれば『風の流れ』を視ることもできるだろうと思っての返答だった。
 桐鳳の答えに微笑んで答えたみそのは、ゆっくりとその笛に唇を寄せる。

 ――流れるは高くも細い、風の音。
 緩やかに、穏やかに。風が流れ、気持ちの良い夜風が髪を靡かせた。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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整理番号|PC名|性別|年齢|職業

0086|シュライン・エマ|女| 26|翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員
1338|海原みその   |女| 13|深淵の巫女
1593|榊船亜真知   |女|999|超高位次元知的生命体・・・神さま!?
1300|江戸崎満    |男|800|陶芸家(龍神“狭間の王”)
2394|香坂丹     |女| 20|学生

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ、日向 葵です。
 〆切ギリギリでもうしわけありませんっ!
 今月中にはどうにかして調子を戻したいです……(汗)

 さて、今回の依頼はどうでしたでしょうか?
 少しなりと楽しんでいただければ幸いです。

>みそのさん
 こんにちわ、お久しぶりです。
 いろいろと過激(?)な案が、読んでいて少し楽しかったです。
 今回はサポートと言うより探索で活躍していただきました。
 最後の笛のシーンは、私自身がなんだかみそのさんに癒された気分でした♪