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第二の不思議を探す前に〜限定チョコ探し〜
<1>
第一の不思議、というか……夜な夜な、食べれなかった生徒の怨念が食堂ですすり泣く、というのを見つけ、ノートに鈴夏はそれらを丁寧に書き込んだ。
「…こんなところかな…あ、あれ?」
ふと、鈴夏の瞳が部室内のカレンダーに釘付けになった。
「もうじき節分だけど、その後にそうか……バレンタイン、なんだ……」
また食堂兼購買でチョコを買う生徒が増えるんだろうか。
いや、その前に。
(今回は限定チョコ、誰が買えるんだろう?)
購買で2点ほどだが限定のチョコがある。
結構人気なので、どうやって手に入れるかで大変な騒ぎになるのだが……。
「好きな人と、一緒に過ごせる機会でもあるしね」
…とは言え、どのようなものかは鈴夏もお目にかかったことがない。
どう言うものなのかなぁ…と、ぼんやり考え込んでいると、コツコツと窓を叩く音が二度響いた。
「ん……?」
部室の鍵をかけっぱなしにした覚えは無い。
けれども呼ばれたような気がしてが、視線を窓へと向けると。
――見慣れた人物が其処には居た。
「…すっごい、久しぶり〜!! 元気だった?」
鈴夏は嬉しそうに駆け寄ると、窓を開ける。
その、人物と話をするために。
<2>
――あの人は……今…何処に居るのだろう――
まだ肌寒い空気を孕む街の中、御堂・譲は最近、とんと見かけなくなってしまったとある人物を思い出していた。
最後に彼女と逢った時、送って帰れば良かったのだと気付いた時、どれだけ悔やんだろう。
"仕事があるから"
そう、言われても送るべきだった――いや、何があったのか見届けるべきだったのに。
……彼女が、消えてしまってから話したいことが沢山ある様に思えた。
自分自身の事。
何を思い、何故彼女の事を心配していたのか、きっちりと伝えきれていたなら。
だが。
……決して、譲の言葉は彼女には……上手い具合に届くことが無いとも知っている。
鏡に映しているように良く、似ていたから。
お互いの容姿、ではなく……その持ち合わせた性質が。
――酷く、似通っていた。
だから、解る。
相手の誠意が解れば解るだけ――境界線を引いてしまう自分が居るのだ、似ていた彼女が、その時点で引いていなかったと言い切れない、から。
(……言いたい事も、話したい事も)
溢れては消えて、また溢れていく。
汲んでも汲んでも、尽きない泉のように、ただ――溢れていく。
そんな時。
譲は神聖都学園へ通う女友達から、学園限定のチョコがあるという話を聞いた。
しかも、この相手からチョコを貰うと幸福になれるらしい、とも。
実際、友達もその限定チョコにはお目にかかったことが無いらしい。
が、買えた人からは、上手く行った上に、更に名物カップルになるというのも、また本当らしく。
(ある意味レアアイテムの強みなんだろうか? ああ、でも……)
チョコは毎年、貰ってばかりで「ありがとう」とくれた人に感謝の言葉を伝えることはあったとしても、それ以上の事は無く、また……するつもりも無かったのに。
なのに、その話を聞いた途端。
(――たまには自分からあげる事があってもいいんじゃないか?)
不思議と譲の中に、そう言う考えが浮かんだ。
何の抵抗も無く、すんなりと――まるで自分の心の中に落ちてくるかのように。
「……探して、みようか」
確か、鈴夏があの学園に通っていた筈だ。
情報をくれた女友達を頼るのが本当は筋なのだろうが、一緒に校内を歩こうものなら……きっと。
(ひたすら彼女の友達から、はたまた友達の友達に顔見せをお願いさせられる気がする)
考えただけで疲労度がピークに達しそうになり頭を抱えてしまいそうだ。
…そう言うのは出来る限り避けたい。
その点、鈴夏ならば、すんなり目的の場所へと案内してくれるだろう――今までの行動からしても、信頼できる筈、だ……多分。
(多分って言うのは彼女に失礼かな?)
くす。
声に出てしまう笑いを堪え、ひたすら譲は神聖都学園を目指し歩く。
見つけられないものならば、見つけてみたい――そう、もしあの人に逢えるなら……。
――その時の、為に。
<3>
そして譲は「散策同好会」の窓を叩いた。
無論、警備の人たちには「弓弦鈴夏の親戚のものです、火急の用件がありまして」と言い、快く通して貰っている。
(…嘘も方便。入れないのなら、そちらから開けて貰えば良い訳で)
とりあえず、譲本人に急ぎの用があることは間違いではないし、全てが全て嘘と言うわけでもない。
鈴夏が居るだろう部室はすぐに解った。
窓から中を覗けば見覚えのある銀髪が見え、何かを書き込んでいるのだろうか、一生懸命腕を動かしている。
部室の扉を叩かなかったのは、窓から顔を見せた方が話が早いと踏んだからだ。
コツン、コツン。
窓を叩けば、軽い音を立て鈴夏が振り向いた。
「…すっごい、久しぶり〜!! 元気だった?」
「ええ勿論。ところで少しばかり聞きたいことがあるんですが……」
「何かな? あ、部室には鍵かかってないし、良ければ入って入って♪」
「じゃあ…遠慮なく」
そう言いながら譲は、扉の方へ回ると部室内へと入る。
机の上で、何かを書いているなとは思っていたが、予想通りノートには几帳面な文字で活動報告が書かれていた。
指でノートを捲り「へえ」と呟く。
「七不思議、探してるんですか」
「うん……あったら面白いじゃない? あ、そういや…どうやって此処まで入ってきたの?」
「…面白い…まあ確かに面白いと思いますけどね。此処までの進入経路は警備員のお兄様方に鈴夏さんの親戚と言うことで快く♪」
「…し、親戚!? ……いや、いいけど。そうね、私たち美形同士だし!」
…鈴夏のその言葉に、ちらりと譲は冷えた一瞥を投げた。
舌を出す鈴夏に、やれやれ…と肩を竦め、
「自分で"美形"と言うのもどうかと思いますが」
と、返した。
「え、でも言われない? ……私は言われないけど」
「どう…でしょう? ああ、それより。限定チョコって何だかご存知ですか?」
譲は言われないか、という問いに首を傾げながら単刀直入に切り出した。
きょとん、と鈴夏の瞳が一瞬丸くなり――そして。
「えええええええ!? 御堂君誰かに、チョコあげるのっ?!」
と、譲に勢い良くにじりよる。
思わず知らず譲は鈴夏のあまりの勢いに後ずさりしつつも「お、落ち着いてください鈴夏さん……」と言うに留まった。
「落ち着けって、落ち着けるわけ無いでしょ!? んー……じゃあ、チョコ探すなら…私も一緒に付き合うよ♪」
「勿論、それはお願いするつもりでしたよ?」
にっこり。
此処に鈴夏以外の女生徒が居たのなら間違いなく見惚れてから、その後頬を赤らめ走り去っていくだろう笑みを譲は浮かべ――鈴夏と一緒にチョコ探し、を開始した。
<4>
「……御堂君ってさ、通常じゃ茶色いんだね、瞳」
「おや? 言ってませんでしたっけ? ブルーの瞳はカラーコンタクトを入れてるから、なんですよ。学校では、そう言うのは禁止されてますからしませんが」
廊下を歩きながら譲はあちこち鈴夏に教えられる場所に相槌を打つ。
何処から探すかは解らないので、まずはポイントになるだろう食堂と購買に行こうと言う事で話は纏まったのだが――まず、譲がチョコ探しに行く際に最初にしなければならないこと――と言うのが。
何と言っても……神聖都学園の制服に着替えること、だった。
鈴夏いわく「親戚でも何でも私服じゃあ目立って大変っ」と言う事だったのだが……着替えさせようとした時の鈴夏の嬉々とした表情を思い出し、どうしようもない溜息が一つ、漏れてしまう。
それを耳敏く聞いた鈴夏がちらりと、譲を見た……先ほどとは逆、の状況である。
「そっかぁ。で、……何で、急に溜息つくのか聞いてもいい?」
「…いえ、先ほどの着替えの時に――嬉々としていた鈴夏さんを思い出して、つい」
「んー、だって面白かったから♪ ああ、此処が食堂ね。あ、……食堂のおばちゃんたちにも話、聞いてみようか?」
「そうですね……一応聞いてみましょうか」
鈴夏に言われ、譲もそのまま食堂へと入る。
すると、其処には威勢の良いおばさん方が数人居て。
「おや、弓弦ちゃん久しぶり! その男の子は?」
「親戚のお兄さんです♪ えーっと、あの……限定のチョコについて何か知りません?」
そう、鈴夏が言うが早いか。
周りから凄い勢いで譲も鈴夏も質問攻めにされた。
相手は誰だ、とか。ふたりで一緒に食べるのならテラスがいいよ!とか……何とも色々な噂話が大好きな彼女たちゆえの力強さと言うのだろうか……いつも出逢う女性たちとは違う、食堂のおばさん方のたくましさに譲は声を出せずに目を丸くするばかりだ。
が、暫くして。
食堂の奥の辺りからひょっこり姿を現した、如何にも食堂のおばさん達とは違う男性が、譲を手招きで呼び寄せる。
――天の助け、と言う訳ではないけれどこれ幸いと譲は素早く男性の元へと歩み寄った。
「……なんでしょう?」
「不躾かもしれないけど…もしかして君、チョコを探しているのかな?」
違ってたらごめんよ、と言いながら男性は人の良い笑みを譲へと向け、譲も少しばかり柔らかい笑みを向けた。
背後では、まだ鈴夏がおばさん方に囲まれている。
「いえ、あっていますよ。僕は出来たら……そのチョコを買いたいと思ってるんです」
伝えたいとか、両思いになりたいとか、そう言うことではなく。
純然に探したいと思い――もし、彼女への思いを形に出来るのであれば、それも良いと考えた。
逢えるのなら――いいや、逢いたいからこそ願いを何かにかけるのかもしれない。
譲の言葉を聞いた男性は興味深そうに頷き――そして。
「限定のチョコなら、今、購買部に渡してきたよ――もし、買うのなら今すぐに行くといい」
「はい……ご親切にどうも有り難う」
「どう致しまして。……幸福になれるよう、祈ってるよ」
「幸福」と言う言葉に苦笑しつつ、食堂から近い購買部へと譲は走り――どうにか、ギリギリのところでチョコを購入することが出来た。
綺麗に包まれたそれは、先ほどの男性の手作業だったのだろうか、まだふわりと甘い馨りが漂ってくるようにも思え……譲は息を、深く深く――吸った。
呼吸が整えられ、シン…と静まり返った校舎の中、グラウンドで部活動をしているのだろう生徒たちの声が聞こえてくる。
「――……結局、探して買ったとしても」
あげられない、商品ではあるのだ。
あげたい人は、ただ一人だけ――だが、今は目の前に居ないし、居たとしても彼女自身受け取れる状態ではないかもしれない。
それは解りきっていたことだし、解っていても動きたかったのは偽らざる本心でもある。
――ただ、何時の日か。
このような出来事があったこと、人のよい笑顔の男性が居たこと――話したいこと全て、ひっくるめて。
このチョコと一緒に彼女に届けられたら……良いと思う。
いつか、また彼女の心からの笑顔を見れるだろう、その日を願いながら。
・END・
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■ 登場人物(この物語に登場した人物の一覧) ■
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【0588 / 御堂・譲 / 男 / 17 /高校生】
【NPC / 弓弦・鈴夏 / 女 / 16 /高校生/式神使い】
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■ ライター通信 ■
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こんにちは、いつも本当にお世話になっております。
ライターの秋月奏です。
今回は、こちらの依頼に参加してくださり誠に有難うございました!
お久しぶりの御堂君にお逢い出来て本当に凄く嬉しいです♪
御堂君が、いつか「気になる人」に顛末話ができるといいのですが(^^)
それから。
この依頼から、御堂君に関しての鈴夏の感情が「友人」になりました。
いつもいつも、色々と鈴夏に付き合って貰っていますし、鈴夏も
男友達なら「御堂君」と即答できるからのようです。
今後とも、少しばかり奇妙な子ではありますが宜しくお付き合いいただければ幸いですv
それでは今回はこの辺で。
また何処かにて、お逢い出来ることを祈りつつ。
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