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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


学校なんか行きたくないっ!

「登校拒否ですか?」
「そうなのよ〜!一ヶ月前からなんだけど、電話をかけても出てくれないし…
家に行ってもね、門前払いなの。困ってるの…どうすればいいかしら?」
「それは…えっと…登校拒否の理由とかに心当たりは?」
「それがね、以前一度だけ話が出来た時に…『現実世界の人間みんな敵だ!』とか、
『現実世界の人間なんか誰も信頼できない』とかそんな事を言われたのよ?」
 響・カスミの相談を受けて、少し困り顔で神城・由紀は呟いた。
音楽教師のカスミと由紀は都内のカフェで知り合い意気投合した仲なのだが、
由紀が便利屋を営んでいるという事を聞いて…カスミが相談の為に音楽準備室に呼び出したのだ。
「あの、私が言うのもどうかなって思うんですけど…
そう言う事って…先生がなんとかするものじゃないんですか…?」
「それはそうなんだけど…!!」
 どうすればいいのかわからないから、相談してるのよ〜!と、
カスミは薄っすらと涙を浮かべて由紀の手を取った。
いじめとか、成績のこととかなら何とかできそうなものなのだが、
『現実世界』だとか言われてもカスミには何の事やらさっぱりわからないのだ。
由紀はなんとかしてあげたい気持ちはあるのだがあいにく便利屋の仕事が忙しく、
もし取り掛かるとしたら少し先の事になってしまう。
しかし、その間にも登校拒否をしている生徒の出席日数は減っていくわけで…。
「それじゃあ生徒さんに相談してみるのはどうですか?
ほら…その登校拒否の生徒さんの友達とかクラスメイトとかいるじゃないですか?」
「ダメよ…だって相談して無視されちゃったら、私…きっと泣いちゃう…」
「そんな事ないですって…ほら!」
 由紀は準備室の入り口で様子を窺っている者達に微笑みかけた。
そう、そこに居る者はみんな…登校拒否の生徒…カズトをなんとかしようと思っている者達だった。



 鹿沼・デルフェスは神聖都学園へ向かっていた。
友人である響・カスミからの相談を受けていて…その事についての報告をしに。
それは、ある登校拒否の生徒のことだったのだが、
デルフェスは以前、その生徒に会った事があり…パソコンの事やオンラインゲームを教えて貰った事があって、
他人事ではなく…ほんとうに心配して個人的に色々と調べていたのだ。
「失礼しますわ」
 デルフェスが音楽準備室を覗き込むと、カスミが机に突っ伏していた。
その後ろに、男子生徒が立っていて、カスミに来客が来た事を教える。
それまで力なくへたっとしていたカスミだったが、来客の顔を見るとぱっと表情を変えて。
「きてくれたのねー!」
「ええ。少し色々と調べさせていただきましたわ…その後報告ですの」
「今ね、ちょうど…カズト君の知り合いの女の子が、えっと…オンラインゲームにアクセスしてるの」
「そうなんですの?」
「そうなのよー…私にはよくわからないんだけどー…」
 カスミは苦笑いを浮かべながら肩を竦めた。
そして、デルフェスに話の先を促す。デルフェスは持参したノートパソコンを机の上に置き、
カスミと向かい合うようにして椅子に座った。
「…先程、とある呪術師に会って参りましたわ…まだ確証はございませんが…」
「え?じゅ…じゅじゅつし…?」
 きょとんとするカスミを他所に、デルフェスはノートパソコンを開くとインターネットに接続する。
そして、とあるオンラインゲームに接続したのだった。
それは…カズトがずっと入り込んでいるというオンラインゲーム。
スタート画面が表示され…デルフェスは登録してあるIDとパスワードを入力し…。


◆To the inside of an online game…


 問題のオンラインゲームは、よくある一般的なRPG。
キャラクターを自由に製作して登録し、冒険の旅に出るという内容。
戦いを求める者、ただ誰かとの交流を目的としている者…様々な者がそのゲームに参加していた。
そのゲーム世界の中で、カズトは【カート】という名の冒険者だった。
種族は、人間。年齢は実際の年齢よりも高く、26歳に設定していた。
剣での戦いを得意としていて…レベルは、96。ちなみに最高レベルは99であるから…
なかなかゲームをやりこんでいることは誰が見てもわかった。
 デルフェスは、以前作っていたキャラクターのままでログインする事にした。
名前はそのまま【デルフェス】。女王様風のボンデージを来た女性剣士。
完全な戦闘タイプのキャラで、現在のレベルは85。
 とりあえず、すでにログインしているらしき”もう一人”を探して酒場に向かうことにした。
酒場には昼間だと言うのにかなり多くの人がアクセスしていて、様々なキャラクター達でいっぱいになっていた。
パーティを募集しているキャラクターの上には、”募集中”アイコンが出ている。
たくさんいるキャラクターの中で、強そうで、パーティ募集しているキャラクターを探し、
うろうろと【デルフェス】は酒場の中を歩き回った。
 しばらくして、それらしきキャラクターをデルフェスは見つける。
相手のキャラクター情報を表示させてみて…確信を持った。
『こんにちわ。仲間をお探しですの?』
 画面の中のとあるキャラクターに【デルフェス】は声をかける。
それはまだレベル1の、回復魔法を少し使える程度の新しいキャラクターだった。
『そうなの。”黄金の砂漠”ってところに行きたいんだけれど、レベルが足りなくて』
 そのキャラクターは【デルフェス】の言葉にすぐに返事をする。
『わたくしで良ければお手伝いいたしますわ?』
『ほんとうですか?ありがとうございます』
『いいえ。わたくしも行き先が同じですから…わたくし、【デルフェス】と申しますわ』
『宜しくお願いします。私は【エミリ】です』
 そう会話を終えると、【デルフェス】は相手をパーティに加える作業をする。
すぐに相手は”OK”を出して…二人はパーティとなった。
【デルフェス】は、先に酒場を出て【エミリ】を先導する。
色々な街をつなぐ”ゲート”に辿り着くと、行き先を入力して下さいとの画面が出る。
先に【デルフェス】がゲートをくぐり、続いて【エミリ】がゲートをくぐった。

 ”黄金の砂漠”は、名前の通りの金色に輝く砂漠が一面に広がっていた。
ただ漠然と広い砂漠の真っ只中に、【デルフェス】と【エミリ】が姿を見せる。
それ以外のキャラクターの姿は見えず…【エミリ】はとにかく周囲を見渡した。
『エミリ様、行きますわよ?
この先にオアシスがありますから…そのオアシスで他の方に出会えますわ』
『わかりました』
 【デルフェス】にしたがって、【エミリ】は後を追いかけてくる。
途中、モンスターが出現したりするものの、【エミリ】が何もしないうちに、
【デルフェス】は相手を次々に倒していった。



 砂漠のオアシスには、6人のキャラクターがそれぞれ思い思いに談笑していた。
その中に自然に入っていく【デルフェス】。ためらいがちに【エミリ】もその後を追った。
『お久しぶりですわね』
『やあ!デルフェス!そちらの方は?』
『お仲間の【エミリ】ですわ』
 【デルフェス】はエルフのキャラクターに話し掛ける。
以前プレイした時に出会った事のある、よく知ったキャラクターだった。
無視をするわけにもいかずに、会話をしていると…
不意に、戦士風のキャラクターが【エミリ】に近づき、話し掛けているのがわかった。
そのキャラクターはデルフェスのよく知るキャラクター…【カート】。
 つまり、カズトのPCだったのだ。
【デルフェス】が他のキャラクターと会話をしているうちに、【エミリ】と【カート】は、
”プライベートスペース”に移動した。
この場所は言わばプライベートチャットで、指定したキャラクター以外は会話に参加できない。
 なんとか早々に会話を追えて、二人の会話に参加しようと【デルフェス】は、
キーボードを打つ手を早め…。
『そういえば、【タブー】の噂を聞いたかい?』
『いいえ?知りませんわ?』
『オフの話題で悪いけど、最近ほら、呪詛使いの呪術師の噂があっただろ?
あれが使ってたPLってのが【タブー】だったらしい…』
「そうなんですの!?」
 デルフェスは思わず、パソコン画面に向かって声をあげた。
呪術師と言うのは、デルフェスが会ってきたばかりの…呪術師の事。
その呪術師はオンラインゲームにアクセスして、呪詛を使っているとの噂があったのだが…
『ほんとうですの?』
『間違いないって』
 【タブー】というキャラクターには、デルフェスも覚えがあった。
直接、話した事や接触した事はないのだが…。
『申し訳ありませんわ。ちょっと仲間と話をしてまいりますわ』
 【デルフェス】はそう言って、エルフとの会話を中断すると…
パーティ同士でメッセージを送り合う事のできる”パーティメッセージ”を利用して【エミリ】に話し掛けた。
『エミリ様。宜しければカート様との会話に参加させていただけませんか?
カート様には了承を取りました。宜しければお願いします。』
 了承を取った…というのはもちろん嘘である。
しかし、この場合そう言わないと参加出来ないだろうとデルフェスはふんだのだ。
【エミリ】はしばらく沈黙したあと、【デルフェス】を会話に招待した。
『ありがとうございますわ。さあ、三人揃ったことですし、真面目にお話しましょう?
この会話はわたくしたちだけしか知りませんわ…【カート】様、いえ…カズト様』
『なっ…?!【デルフェス】さん!?』
『【デルフェス】って…まさか…』
『ええ。カズト様にオンラインゲームを教えていただいた、デルフェスですわ!
カズト様は以前このゲームで【タブー】という道化師のPCに出会いましたわね?』
『…俺のパーティメンバーだけど…』
『【タブー】のプレイヤーは呪術師ですわ!言葉に呪いの術をこめて…
色々な者をゲーム世界の虜にして衰弱死させてしまうという性質の悪い者なのですわ!』
 デルフェスは文字を打ちながら、カスミに顔を向けた。
「この【エミリ】様は校内にいらっしゃいますの?」
「え?ええ。片平・えみり(かたひらえみり)って言う子よ。コンピュータ室にいると…」
「それじゃあ…そちらに参りましょう」
 デルフェスはすっと立ち上がって微笑む。
パソコンはネットに接続したままで、器用に片手で文字を打ち会話を続けている。
カスミも慌てて立ち上がると…デルフェスを案内するように、コンピュータ室へ向かった。
 コンピュータ室のドアを開くと一人の少女と、高校生らしき男子生徒が座っていた。
二人共驚いてデルフェスを見ている。その隣に静かに座るとデルフェスは微笑んだ。
「こんにちわ。えみり様。わたくし、鹿沼・デルフェスと申しますわ」
「え…デルフェスさん…って…もしかして…?」
 慌ててえみりは画面に目を向ける。画面の会話は止まったままだ。
デルフェスはノートパソコンを開いて文字を入力する。
すると…止まっていた会話が進みはじめたのだった。それを見て、えみりは納得したようだった。
「わたくし、カスミ様とはよく知った間柄ですの。それにカズト様とも…
ですから今回の事はどうにかしてさしあげたいと思って、行動しておりましたの」
「そうだったんですか…」
「カズト様は先ほどもチャットで申しましたが、呪詛をかけられていたのですわ。
ですがもう大丈夫。呪術師はこらしめて参りましたわ!もう呪いは解けましたの…ですから…」
「でも…どうして呪詛なんか…」
「カズト様は元々、現実世界の何かが嫌になっていたのですわ…きっと…
その心に【タブー】はつけ込んで、もっと現実が嫌になるように仕向けたのですわ」
「じゃあ…やっぱりその呪いだけじゃなくてカズト君自身も…」
「ですから今から迎えに行って差し上げませんか?カズト様のご自宅まで」
 デルフェスは器用にキーボードを打ちながらえみりに微笑みかける。
えみりはじっとデルフェスの顔を見つめた後…こくっと真剣な表情で頷いて。


◆Two days after…

「ありがとう!お陰でカズト君も学校に来るようになったわ!」
 カスミは嬉しそうに微笑んで、デルフェスの手をぎゅっと握り締める。
デルフェスは恥ずかしそうにしつつも満足そうに微笑み返した。
 あれから、デルフェス達は数人のカズトの友人達と連れ立ってカズトの自宅に出向いた。
相変わらず誰との接触も取ろうとはしなかったのだが…
全員の心からの呼びかけに、カズトは応えて。
「なんかね、以前、係を決めた時に手違いでカズト君の名前だけなかった事があって。
その時すごくショックで…それからずっと疑心暗鬼だったみたいなのよ…」
「ええ、うかがいましたわ」
 長々と語ろうとしたカスミだったのだが、デルフェスにあっさりとそう言われ、
カスミは「あら、そう」と少し拍子抜けしたように呟き。
「まあ、兎にも角にも…あなたのお陰で解決できたわ…ありがとう!
これからも何かあった時は、よろしくね?」
「わかっておりますわ。でもカスミ様ももう少し、しっかりしてくださいませね?」
 微笑みながら言ったデルフェスの言葉に、カスミは両手で顔を覆いながら、
なにやら一人で悩み始めたのだった。

 翌朝、アンティークショップの外をほうきではいていたデルフェスは…
元気に登校して行く、カズトとその後を追いかけるえみりを見つけて嬉しそうに微笑んだのだった。



<終>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2181/鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)/463歳/女性/アンティークショップ・レンの店員】
【2496/片平・えみり(かたひら・えみり)/13歳/女性/中学生】
NPC
【***/新堂・愛輔(しんどう・あいすけ)男性/18歳/高校生・レクリエーション愛好会会長】

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■         ライター通信          ■
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 この度は、学校なんか行きたくない!に参加いただきありがとうございました。
お二方からネットゲームに参加しての調査というプレイングをかけていただいたので、
知らない同士としてゲーム世界でで会わせてみよう…と思い、
今回、ほぼ個別の内容に執筆させていただきました。<(_ _)>
 ゲームのキャラクターの会話だったり、実際の会話だったりと、
ややこしい個所が多くなってしまい申し訳ありませんでした。
 楽しんでいただけていたら幸いです。


また皆様にお会い出来るのを楽しみにしております。


:::::安曇あずみ:::::

>鹿沼・デルフェス様
こんにちわ。再びお会いできて幸いです。
この度は神聖都学園のエピソードにご参加いただいてありがとうございました。
カズトとの関係で、某ゲームのトラブルに関して触れて下さっていて、
嬉しく思いつつ…それを今回は生かせなかったのが心残りです。
またお会いできるのを楽しみにしています。

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>