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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


双璧



■ オープニング

 二つの洋館にはそれぞれ、宝玉が隠されていると言う。今までその洋館が発見されなかったのは、洋館が特殊な力で守られているからであった。深い山の中に現存する、その洋館は「眠りの館」と呼ばれている。
 館は、三十年に一度、しかも、一週間の間しか入ることは叶わない。
「遅い!」
 碇編集長は三下を怒鳴りつけた。
「…はい、すいません」
 三下が謝るのはいつものことだが、慣れすぎて碇は三下から誠意を感じることが出来なかった。
「分かってるの? あと、二日よ? 今から調査員を手配して、現場へ行って、一日あるかしら? ねえ、三下君どうかしらねえ?」
「…はい、すいません」
「貴方は録音したテープレコーダーなの? 違うでしょう? ちゃんと、脳味噌使って、結果で示して欲しいわねえ。まあ、館には三下君は入れないでしょうから、いつものように連絡係をお願いね?」
「…はい、すいません」
 三下は三度謝った。館が閉まるタイムリミットまであと二日。



■ 館前

 山の奥にひっそりと佇む二つの館。左右対称の造りだが、外観は少しだけ違う。西館は赤レンガだが、東館は黒いレンガが使われていた。大きさは普通の一戸だけての二倍ほどだろうか、非常に屋根の位置が高い。
 調査に参加した五人と三下は、まず周囲の状況を調べていた。
「結界の名残があるな」
 真名神・慶悟(まながみ・けいご)が辺りを見回しながら呟いた。脱色した金色の髪の毛が軽薄な印象を強めているが、彼はれっきとした陰陽師である。慶悟は調査後の影響(宝玉を取ることによって齎されるもの)を疑問視していた。そこで、予防線として現状維持―――つまり、空間を固定するための印を館の周囲に施すそうと考え実行しているところだ。
「宝玉って取らない方がいいんじゃないのかな?」
 変装し、朝比奈舞と名乗っているイヴ・ソマリア(いヴ・そまりあ)が全員に尋ねた。
「あの、あたし気になって調べてみたんですけど…。やはり、この館を調べにいって帰ってこなかった人がいるようです。三十年に一度ですから、死者は目立った数字ではないようですけど」
 古物珍品の収集などを行っている雨柳・凪砂(うりゅう・なぎさ)は古物商を営む知り合いから情報を集めていた。彼女の知り得た情報では、この館はこの地方に伝わる伝説であるらしい。館の主人は双子の姉妹で、死ぬ前に宝玉を両館に残したと言う話だ。
「や、やっぱり、危険なんですかあああ?」
 三下が慌てふためく。だが、調査を行うように碇から言われているため、調査を断念するわけにも行かない。もしかしたら死よりも恐ろしいことになるかもしれないのだから…。
「大丈夫だ。俺の力で宝玉を取る前に判断できるはずだ」
 高校生の堤・空也(つつみ・くうや)がそう言うと三下がホッとした表情を浮かべた。空也は「何となく解る」という便利な能力を持っている。この能力は直訳すると「予知」であるように思えるが、集中力を要するものではなく、閃きに近いものだ。しかし、便利な能力であることは間違いない。
「それぞれ、脱出の策を練っておけば問題ありませんわね」
 最後の参加者、穂景・カヨヒ(ほかげ・かよい)がその存在を顕現させる。見えるような見えない彼女は影を操る妖怪である。
「み、みなさん、宝玉も大事ですが、館事態の調査をやらないと記事になりませんのでお願いしますね。えっと、それでは、私は外で待機を…」
 そそくさと退散する三下。一番、頼りなさげであった。
―――残り時間、あと10時間。



■ 西館

 赤レンガの館。こちらの調査を行うのは三人。金髪の陰陽師である慶悟と、アイドル歌手で異世界出身者のイヴ(朝比奈舞で名乗っているが)、そして、好事家の凪砂だ。
 館の玄関は広く、二階まで吹き抜けになっていた。一階は左右に四つ、二階は二つ、それぞれ扉がある。奥へ進むとさらに入り組んでいる可能性も考えられる。
 凪砂がカメラで館内の写真を撮る。中はやや誇りっぽいが、それでも意外に奇麗な状態を保っていた。これも力の所為だろうか。
 室内には鎧や剣が飾られていた。絵画なども飾られていたが、多くが盗み出されてしまったのだろうか、絵の額縁だけが残っているものもあった。
「さて、探索と行こうか…」
 慶悟が言いながら式神を複数体、召喚させた。各部屋にそれら式神を送る。身を守るためさらにもう一体。そして、各部屋に送った式神と連絡をさせるための式神を最後に召喚した。
「館についてのことが分かる、いい方法がないでしょうか?」
「そうだね……あれ?」
 イヴが、気配に気づいた。
「どうかしたのか?」
「……隣の部屋から妙な気配がするの」
「どうします?」
「行こう。式神がすでに隣の部屋にいるはず……ん? やはり何かいるようだ…」
 連絡用の式神によると、隣に魔物がいるのは間違いないようだ。三人は気配を殺して移動する。扉の前まで着くとイヴがその扉を静かに開いた。
「これは…」
 慶悟が驚く。目の前には巨大な一角獣がいた。邪気を放っており、どうあっても歓迎してくれそうにない。
「大丈夫、まかせて!」
 そう言って、イヴは自慢の歌声を突然披露した。彼女は魔界出身者であり、魔物の扱いに慣れているのだ。一角獣はしばらく唸り声を上げていたが、そのうちイヴに懐いてしまった。
「…大人しくなりましたね?」
「あんた、やるな」
 慶悟が感心する。
「ふむふむ…へえ、そうなんだ」
 イヴがなにやら一角獣と会話をしている。奇妙な光景だった。
「何か解かりました?」
「宝玉は二階の右の部屋の隠し扉の奥にあるみたい。ここにいる魔物たちは、どうも住み着いただけみたいだね」
「隠し扉か…」
「あら、この本は?」
 凪砂が部屋の片隅に落ちていた本を手に取る。中身は洋書だった。すぐに、凪砂はその本の年代を鑑定する。洋書は三百年前のものであることが分かった。洋書自体は二百五十年前ぐらいだろうと凪砂は予想した。それは、見た感じの質感でそれはだいたい判断することができた。
 隠し扉を調べる前に三人は他の部屋も調べてみることにした。式神に作成させた館の見取り図を手がかりに、三人は右往左往する。
 館には物が圧倒的に少なかった。食堂の食器類までもが失われていた。もしかしたら、以前調査に来た者たちが持ち去ったのかもしれない。だが、宝玉はどうなのだろうか?
 調査に数時間を費やし、残り時間が5時間と迫ったところで隠し部屋の調査を行った。
「全然、見つからないな」
 殺風景な空間を模索する。慶悟は怪しい結界が張られていないかどうか注意深く調べていった。だが、あまり広くない部屋だったので、すぐに調べる場所がなくなってしまった。
「…あら?」
 凪砂が声を上げた。彼女は薄暗い部屋の中で懐中電灯をある部分に向って照らした。
「少し、色が違う?」
 イヴがその変色した床をトントンと叩く。やけに軽い音がした。
「これは、何か力を施してあるな…」
 慶悟は床に手を触れた。力の流れを感じた。どうやら、結界のようだ。慶悟は時間を掛けて結界を解いていった。強力な力のようで完全な除去に数十分を要した。
「この下? どうやって降りる?」
「あ、あたしロープを持ってきました。これ、使いましょう」
 凪砂がロープを下ろす。三人は順番に穴の開いた床から下りていった。
 その部屋はやけに広かった。そして、部屋にあるものは一つであった。赤く眩い光を放つ大きな宝玉が中央に備え付けてあった。



■ 東館

「どうします? この広さだと相当、時間が掛かりますよ?」
 空也は館の内部を見回し、隣にいるカヨヒに訊いた。
「そうですわね…やはり細部まで調査を行うべきですわ。宝玉がそう簡単に見つかるとも思えませんから。どうですか? それぞれ探索を行うと言うのは?」
「そうしましょう…。西館の調査が終わったら連絡が入るようになっているので、そこから、また、何かヒントがあるかもしれない」
 お互い頷き合うと、まずカヨヒが行動に出た。
 室内の影を伝い、移動を開始する。姿はもやは人間のそれではない。そもそも、彼女は人間ではない上に存在感が影のように薄い。というよりも影そのものかもしれない。
 彼女は、一階の調査を行った。二階は空也がとりあえず担当している。部屋はいくつかあり、中に入るとさらに奥にも部屋が存在した。数十分ほど室内を模索していると、蔵書が保管されている部屋を見つけた。カヨヒはそれらを丁寧に一つずつ調べていった。蔵書とは言え、小説や学術書の類が殆どで、屋敷内に関係のあるものは少なかった。それでは、いくつかの手がかりを見つけた。
 どうやら、この館の主人は「魔術師」だったようだ。双子の姉妹のうち、姉がこの東館の方に住んでいたようだ。妹の方は西館だが、妹は魔術師というわけではなかったらしい。骨董品に眼がなく、あちらの館にはそういったアンティーク品が多く飾られているようだ。東館は殺風景だ。最低限の物しかない。だが、本だけはやたらと転がっている。残念ながら魔術本の類は見つからなかったが、処分してしまったのだろう。一般人に知られないための配慮かもしれない。魔術師にありがちな行為だ。
「―――っ!」
 気配を感じたカヨヒは部屋の奥へと移動した。ドアの隙間から様子を窺うと、数匹の魔物の姿が目視できた。魔術師だった姉が使役していた魔物だろうか、それとも単に住み着いただけなのか。
 カヨヒはなるだけ戦いを避けようと思い、影を伝い玄関ホールへと戻った。
 一方、空也はどうかというと…、
「―――来るな!」
―――魔物に襲われていた。
 犬型の獰猛な魔物だった。低級だが、三匹いるのでこちらの方が分は悪い。空也はボクシングの経験を生かして、魔物と戦おうとするが、相手はやはり人間とは違う。どうにも戦いづらかった。
 空也は「何となく解かる」という自分の特殊な力を使い、敵の動きを読み、上手く攻撃をかわしていく。ちょうど、本棚があったので、それらを倒して足止めしようと思ったら、偶々命中し、一匹を撃退した。
 奥の部屋に逃げ込み、鉄の扉を思いっきり閉めると、ちょうどその硬質なドアに魔物が衝突し、二匹目も運よく撃退。だが、三匹目で手間取った。空也は部屋から部屋へと移動し、どんどん奥へと進んでいった。
 逃げ場がなくなった。とても困った。だが、すぐに自分は助かると何となく知覚した。力の所為だ。案の定、魔物から逃げることに成功した。
「―――くっ!」
 床が腐っていたらしく、二階から落下した。魔物とはおさらばできたが、ダメージは小さくない。
「あら? 大丈夫ですか?」
 寝転がる空也をカヨヒが上から見下ろしていた。
「あ、そうか…。ここは一階か」
「ですけど、この部屋に辿り着いたのは偶々ですわね」
「どういうことですか?」
「この部屋を見れば解かると思いますけど、ドアがありませんでしょう?」
 空也は辺りを見回してハッとした。部屋にはドアがない。窓も同様にない。というか、何もない。
「私も影を伝って入れたのです。恐らく、本当は何か方法があるのでしょう」
「…俺は本当に偶然だな」
 空也が呟く。二人は気を取り直して室内を調査し始めた。だが、特に怪しい場所はない。
「これは…」
 カヨヒがあることに気づく。
「どうしたんですか?」
「…影です」
 室内には空也が穴を開けた二階から光が差し込んでいた。そんな中、カヨヒはある影に違和感を覚えていた。光の方向などから考えても奇妙と言えた。
「…やはり、ここに何かスイッチのようなものが」
 影に触れると、その影は姿を変えた。床の中に赤いスイッチ―――いかにも怪しそうだった。
「俺が押します」
 空也が力を使い、危険性がないかを判断する。その後、スッチを押した。危険がないと判断できたからだ。
「…これは?」
 部屋の中央の床が開き、中から台座が浮き上がってきた。その上には光り輝く宝玉。どうやら、これが目的の宝玉らしい。色は青。眩い光を放ち、宝玉は透き通っていた。
 その時、ちょうど東館の調査を行っている三人から電話が掛かってきた。
「もしもし? あ、そちらも発見しましたか?」
 空也が宝玉を気にしながら話す。
『どうやら、間違いない。で、もう見たか?』
 慶吾が問いに空也は首をかしげた。
「……何の話ですか?」
『宝玉が備え付けてある場所に何か文字が刻まれているはずだ。それを読めば全部意味が分かる』
 空也は首を斜めに傾けまま宝玉を調べた。
「…どういう意味かしら」
 カヨヒがその文字を一早く発見したようだ。空也も覗き込む。台座にある文字が刻まれていた。

―――Jewelry of boast [自慢の宝玉]

『こっちは、Appreciation article [鑑賞品] と書いてありましたよ』
 電話から凪砂の声が聞こえた。隣でイヴの残念がる声も耳に入った。
 つまり、私たち姉妹の自慢の宝玉をじっくりと鑑賞しなさい、ということなのだろう。台座には他にも長い文面があった。それは、この館に宝玉を隠した経緯だった。どうやら、かなり珍しい宝玉だったらしく、現在の円に換算すると数億にもなるようだ。宝玉は決して手にすることができないようになっていた。空也も危険だということを肌で感じ取っていた。



■ 調査後

「三十年に一度だけ見ることのできる宝玉ってことだな…。館の主人もよっぽど変わり者だったんだろうな」
 慶悟がタバコの煙を上空に向って吐いた。
「てっきり、同時に取ると何かが起きるとかそういうことだと思ってました」
「誰も取れないんじゃ、ねえ?」
 凪砂とイヴがお互い顔を見合わせて溜息をついた。
 今まで、持って返ってきた者がいなかったのは、宝玉が隠された財宝ではなく、館の主人が自分の宝を他人に見せるために残した、鑑賞品だったからだ。そういう記録は残っていないが、恐らく、見つけた人間たちは呆れて物も言えなかったに違いない。だが、世にも美しい宝玉は他人を魅了する何かがあった。五人は、不思議なことに、このことを誰かに伝えようとは思わなかった。
「一応、調査はできたし、これで完了か?」
 空也が言った。
「屋敷が消えるまで残り数分といったところですわね。もう、これ以上の調査は危険でしょうね」
 カヨヒが時刻を確認する。
 館が姿を現すのは三十年に一度。
 宝玉を見ることができるのも三十年に一度。
「みなさん、ご無事で何よりです」
 待機していた三下が五人の前に姿を現す。
「それで、どうでしたか? 宝玉は?」
 五人は三下には特にあの事実は伝えたくないなと思ってしまった。館内の調査はできたし、宝玉も見たわけで、これは間違いなく良い記事になるだろう。
 だが、宝玉だけは見たい者だけがこの館に来るべきだ。
 館の主人の魔法か何かの所為だろうか。だが、しかし、全員がそう思った。
「ほ、ほうぎょくは? ど、どうだったんですか? 皆さん、黙っていないで教えてくださいよおおお!! ぼ、ぼく、編集長に殺されちゃいますよぉ!!」
 三下の悲痛な叫びと共に双璧をなす双子の館は見えなくなった。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0389/真名神・慶悟/男/20歳/陰陽師】
【1847/雨柳・凪砂/女/24歳/好事家】
【1548/イヴ・ソマリア/女/502歳/アイドル歌手兼異世界調査員】
【2679/堤・空也/男/17歳/高校生】
【2388/穂景・カヨヒ/女/999歳/蕎麦屋の店員】

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■         ライター通信          ■
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今回は、調査依頼「双璧」へご参加いただきまして、ありがとうございます。
双子の館の調査と言うことでメインである宝玉については、ああいう形のオチにしてみました。
また、戦闘に関しては省いた部分が多かったのですが文章量の関係上、あの程度に収めるに至りました。
楽しんでいただければ幸いでございます。それでは、また、次回お会いいたしましょう。次回以降から、戦闘物を増やそうかな…(独り言)。

 担当ライター 周防ツカサ