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ＭＩ２ 〜エム・アイ・ツー〜
■鳴神・時雨編【オープニング】
海：ねぇねぇ聞いた？ 通り魔事件の犯人が、どっかのＢＢＳで犯行予告してるって話！
雫：もっちろん★ ゴーストネットももうその話題で持ちきりだよぅ〜
石：でも最初から予告してたわけではないらしいですね
雫：うんうん。新宿区・足立区・江戸川区って来て、その時初めて「次は北区だ」って
海：で、その通りに犯行が行われて、次に名指しされた葛飾区でも事件は起こった
雫：毎週月曜日の明け方に起こってるんだよねぇ？ だとしたら……
石：明日！
海：明日だね。どうする？ ……なんて訊くまでもないか
雫：もちろん行くに決まってるよ★
石：言うと思った……
雫：謎ある所に雫あり！ ってね♪ 次の犯行予告はどこなの？
海：待ってね。今例のＢＢＳのＵＲＬ探してくるから
そんな会話をチャットルームで目にするのは、別段珍しいことではなかった。それほどこの事件は多くの人の関心を集めていたし、同時に、犯行予告をしてまで惨忍な殺人を遂行する犯人に、早期逮捕を望む声が日増しに強くなっていた。
月曜日の明け方。ひと気のない路上で事件は始まった。
第１の被害者はＯＬ。新宿の自宅マンションに帰る途中、歩いている所を後ろから鋭い刃物で心臓を一突きにされた。即死。
その１週間後、第２の被害者は自営業の男性。店舗から自宅へと帰る数Ｍの間に、同じように後ろから刺され死亡。足立区での出来事だった。
さらに１週間後、第３の被害者が。今度は江戸川区の女子高生で、恋人の家から自宅へ帰る途中の悲劇だったという。殺害方法は同じで、即死だった。
事件はさらに続く。
第４の被害者は北区に住む老婦人。明け方の散歩を日課にしていた。
第５の被害者は葛飾区の小学生。門限を破ったため家に入れてもらえず、家の周りを徘徊していた時に殺された。
どの事件も殺害方法は一緒で、刃物の形状が一致していることから同一犯であるという見方が強まっている。また、どの事件も未だ目撃者は見つかっていない。
それを嘲笑うかのように、北区の事件から行なわれるようになった犯行予告。当然初めは誰も信じていなかったのだが、実際に北区で事件が起こってしまったことで、皮肉にも書き込み主は世間の信用を得た。
さて、今回の犯行予告は――
★
雫は表示されたＵＲＬを１クリックした。すると新しいウィンドウが開いて、某ＢＢＳの問題のスレッドが表示される。
通り魔事件 投稿者:ＭＩ２ 投稿日:2004/02/14(Sat) 22:19 No.414
次は新宿。注意されたし。
（えむ・あい・つー？）
その名前に、雫はＩＯ２のことを思い出した。
ＩＯ２とは、怪奇現象や超常能力者が民間に影響を及ぼさないように監視し、事件が起ころうとしている時はそれを未然に防ぐという役割を持った超国家的組織のことだ。しかしその組織は非公開組織であるため、それを知る民間人はかなり少ない。
雫がそれを知っているのは、これまで数々の事件に自らすすんで首を突っ込んできたおかげだった。
（今回の事件も、何か関係あるのかなー？）
頭の中で思考をめぐらしつつ、雫は明日の計画についてキーボードを打ち続けるのだった。
■時雨の推理【あやかし荘：自室】
知り合いのばーさんが殺された。
俺がそのことを知ったのは、次の被害者が出てからだった。
今最も世間の注目を集めている、通り魔による連続殺人事件。それは知っていたが、まさか自分の知り合いが被害者になっているとは思いもよらなかった。
ばーさんは第４の被害者となった。さらにもう１人被害者を増やした犯人は、未だ捕まっていない。
（いいばーさんだったんだがな……）
顔は液晶画面の方を向いているのだが、目はそれを捉えてはいなかった。意識の奥で、過去の記憶を探っていたのだ。
そのばーさんと知り合ったのは、１年ほど前のことだ。
（なんてことはない）
よくある出会いだった。
重そうな荷物を両手に歩いていたばーさんを、たまたまバイクで通りかかった俺が手伝った。それだけのこと。
ばーさんは酷く俺に感謝し、家へあがるようしつこくすすめてきた。俺はそのまま帰ろうとしていたのだが、俺の腕を掴むばーさんの力が思ったよりもずっと強く。
それに気づいた俺がばーさんの顔を見ると、ばーさんはにやりと笑った。
（なるほど）
もしかしたらその荷物は、ばーさんにとって”重くない”ものであったのかもしれない。
案の定ばーさんは、言われるままあがりこんだ俺に茶をすすめ、白状した。
「あんたの気持ちが嬉しくてねぇ。つい頼んじまったんだよ」
そうしてしばらく、他愛もない会話をした。会話をしたと言っても、俺から話題を振ることは一度もなかった。俺はただ合槌を打ち、訊かれたことには必要最低限の言葉で答えるだけ。
我ながらつまらない奴だと思うのだが、これが俺だから仕方がない。
しかしばーさんはそんな俺をいたく気に入ったようで、帰り際また来るようにと何度も言ってきた。俺とてつまらなかったわけではなかったから、近くを通った時など、たまに顔を見に行ったりしていたのだ。
しかし１週間ほど前、久しぶりにと向かったその家には”喪中”の看板が立てかけられ、一人暮らしだったばーさんの家に多くの人が出入りしていた。
（ばーさん、死んだのか……）
歳を考えれば、それはありうることだった。
そのまま帰ろうとした俺は、ふと、出入りする者の中に警官が混じっていることに気づく。
（おかしい）
寿命や病気で死んだものならば、警察など……
不審に思った俺は、通りすがりの他人を呼びとめて訊いてみた。さいわいそいつはばーさんの死因を知っていて、同情たっぷりに話してくれた。
「あのばーさんはな……殺されたんだ。最近流行りの通り魔ってやつにさぁ。可哀相にな……いいばーさんだったのに」
そうして俺はばーさんが第４の被害者になってしまったことを知り、この事件に興味を持ったのだった。
視界が再び、目の前のパソコンを捉える。
情報はこの液晶画面の中に揃っていた。それをもとに、俺なりの考えをまとめてみる。
（犯行現場について――）
まず第１の事件が起こった新宿が、第２〜第５の現場から離れているのが気になるところだ。
もっと詳しく見ようと地図を広げてみる。該当する場所にチェックを入れていくと、第１〜第５の現場は台東区を中心に円を描いているような気もするが……
（だからどうしたというんだ）
残念ながら俺に、それ以上の考えは浮かばなかった。
次に事件時の状況を考えてみる。
犯行は明け方、背後から心臓を一突きに……
（――しかしおかしいな）
考えてみると、ひと気のない時間帯にそう易々と背後に怪しい奴を近づかせるだろうか？ ――いや、誰もが俺のように常に警戒しているような奴ではないことはわかっているのだが、危ないことが前提のようなこのご時世だ。夜道の警戒くらいは誰だってするのではないだろうか。
（実際）
そうでなくとも、人間というものは多少なりとも殺気などの異様な気配は察知できるようになっている。
「それでも暗がりで、事件は起こる、か――」
何気なく口に出した。
（それならば）
俺は少し現実から離れねばならないかもしれない。
例えば明け方、昇ってきた朝日により被害者に影ができる。その影から、犯人が現れたりしたらどうだろうか。
現実性は皆無だが、”後ろから刺される”という事実を説明するには、最も自然な回答ではないか。
「…………はぁ」
そこまで考えて、俺は小さく息を吐く。
（何にせよ、まずは行動、か）
現場をおさえれば、すべてわかるのだから。
時計に目をやると、時刻は既に０時を回っていた。もう月曜だ。
俺はパソコンの電源を落とすと、立ち上がった。
（やはり俺には、こちらの方が向いている）
湧き上がる衝動に、改めてそう感じた。
■捜査開始【新宿：表通り】
作戦は決まっていた。だから当然、そのための準備もできている。
（これは囮だ）
自作の新装備・ミラージュアームを、左右各４機すべて放った。
ミラージュアームは、小型で遠隔操作が可能であり、リアルな立体映像を投影し各種センサーすら欺くことのできる戦闘補助装備だ。それ以外にも、その小さなサイズを活かした偵察機をかね、さらに小口径レーザーも内蔵している優れもの。
早速俺は自分の姿を投影させると、それぞれ違った方向へと移動させた。
他人から見て不自然ではないように、動かす方向なども考えなければならない。１人の人間の目に、同時に２人の俺が映るわけにはかないのだ。
俺自身はいつものバイクにまたがり、何かあったらすぐにその場所へと駆けつけられるよう準備していた。
（さあ……どこからでも来るがいい）
用意は万全だった。
しばらくは、ミラージュアームを操り様子を窺う。
（――ん？）
しかしやがて、不意に俺自身の視界の隅で何かが動いた。
（なんだ？）
人が走っている。物凄い勢いで。
その現象は、一体何を示しているのだろう。
（犯人に追いかけられている？）
それとも。
対象を追いかけているのか。
走りながら声をあげないところを見ると、後者かもしれない。
俺はミラージュアームをこちらへ向かわせながら、その不審な人影を追った。
■ＭＩ２の正体【新宿：ファレス(24時間営業)】
「――確かに私が、ＭＩ２です」
その人物は、あっさりと認めた。
24時間営業のファミレス内。客はやはり少ない。その少ない中でも俺たちが目立っているのは、それぞれの外見のせいだろう。
（一体何の集まりなのか）
その中にいる俺ですら、よくわかっていない。
その人物は水守・未散(みずもり・みちる)と名乗った。おそらく男、なのだろう。やけに女的ではあるが、口調や仕草は男のそれだった。
「（ＭＩ）×２、と云う意味だったのですね」
水守・未散という名前を聞いて、すぐに彼がＭＩ２であることに気づいた人物が口を開いた。この人物もまた、性別のわかりにくい外見をしている。
「そっかぁ。イニシャル、だね」
小さな女の子が告げると、その隣に座っている女の子と二回りほど違いそうな男が、「偉い偉い」と呟いた。
テーブルには他に、色黒の少年と金髪の男がいる。
何故俺たちがこうしてファミレスに来ることになったのかといえば――
あの時俺の目の前に広がった光景は、少々予想外なものだった。
着いた先には、複数の人間がいたのだ。そして皆一様に、驚いた顔をしていた。
（小さな交差点）
まるで無法地帯に滑り込んだ車のように、動けなくなっていた。
（なんだ……？）
様々な状態をした者たち。中には小さな女の子までいる。
（一体誰が犯人で）
一体誰が被害(予定)者なのか。
俺にはわからなかった。
互いに顔を見合わせ、静寂の時が過ぎる。
誰かが一歩踏み出せば、そこからバトルロイヤルが始まる。
そんな雰囲気が、辺りを包んでいた。
「――あのぅ……」
その静寂を破ったのは、俺が追ってきた人物だった。
「皆さんもしかして、ＭＩ２の書き込みを見て新宿へ来たんですか……？」
皆の視線を集めたそいつは、そう問い掛ける。
（！）
驚いたことに、俺を含め全員が頷いた。
「やはりそうですか……」
そいつはそう呟くと、今度はしっかりとした口調で。
「私は”犯人”ではありません。水守・未散――フリーライターをしています」
「では貴方が、ＭＩ２？」
すぐに反応したのは、その水守のちょうど後ろにいた奴だった。
（犯人ではない、ＭＩ２？）
つまりあれは”予告”ではなかったのか……？
しかし水守はその問いには答えず、俺たちをこのファミレスへと案内したのだった。
★
「――ひょっとしてきみは、事件を阻止せんとする予知能力者かね？」
冗談めかして問い掛けたのは、女の子の隣に座っている男だった。
男の問いに水守は首を振ると。
「いえ……阻止しようと書き込んだのは事実ですが、予知ではなく推理です」
そう答えた。
「私はフリーライターとして、これまで数多くの事件と関わってきました。その結果精神が揺らいでしまったりすることはありましたが、逆にそのおかげで多くの情報網を手にすることができたのです」
「つまり今回のあの書き込みは、その情報網から得たものを、未散さんなりに推理した結果であるということですか？」
色黒の少年の問いかけに、今度は頷く。
「そうです。しかし、真実に近いと思います。現に私が書いた２ヶ所と過去２回の犯行現場は一致しています」
（だからこそ）
多くの人間は、それを犯人が書いた犯行予告だと思いこんだのだろう。
（しかし――）
「ちょっと待て。ならば何故、ＭＩ２などと紛らわしい名前を使ったんだ？」
俺は口を挟んだ。名前らしくないそれは、この人物こそが犯人であると思わせることに一役買っていたように思ったからだ。
しかし水守は。
「それは私がいつも使っているハンドルネームですから」
意外なほどあっさりと、口にした。もっと大層な理由があるのではと思っていただけに、拍子抜けする。
水守は「それに――」と続けると。
「本名で書いたとしても、犯人と疑われるのは必至でしょう。それのおかげで私の身動きが取れなくなったら、こうして犯行を阻止しに来れなくなってしまいますから」
それが十分ありえる話であっただけに、誰もそれ以上水守を責めることはできなかった。
（おそらく）
水守が直接警察に告げたとしても同じことなのだ。疑われるのは水守で、水守の言うことなど信じないだろう。
（水守の行為は）
ある意味においては正しかった。
「――ところで、そろそろ訊いてもいい？」
「え？」
会話の途切れを見計らって、女の子が声を挟んだ。
「未散って、女なの？ 男なの？ ……ついでにそっちの人も」
そしてもう１人、性別不明な人物に視線を向けた。
２人は顔を見合わせ苦笑すると。
「そういえば、まだ私以外の方のお名前を聞いていませんでしたね。ちなみに私は男ですよ」
水守が答えた。ついで顔を合わせた人が。
「僕は刃霞・璃琉(はがすみ・りる)と云います。因みに僕も男ですよ。宜しくお願い致しますね」
にっこりと笑みを絶やさないまま告げた。
それを皮切りに、自己紹介タイムが始まる。
「わたしは城田・京一(しろた・きょういち)だ。医者をやっている」
女の子の隣の男が口を開いた。それに続けて俺も。
「俺は鳴神・時雨(なるかみ・しぐれ)。よろしく」
「私はモーリス・ラジアルといいます。ガードナーをしております」
次に金髪の男が自己紹介すると。
「がーどなー？」
女の子が不思議そうな声をあげた。まだガーデンという単語を知らないのだろう。
ラジアルはにこりと笑った。
「お庭を設計するのですよ」
女の子が納得したように頷くのを待ってから。
「俺はアイン・ダーウンです。未散さんが犯人ではないということは、他に犯人がいるんですよね？ 取り押さえなら任せて下さい」
色黒の少年が告げる。俺同様、腕力にはかなり自信があるようだった。
最後に残ったのは、女の子２人。しかし片方の瀬名・雫は、その筋ではかなり有名な人物だったので、紹介の必要もなく皆知っているようだった。
そこで隣の女の子に、視線が移る。
「みあおは、海原・みあお(うなばら・みあお)っていうの。よろしく〜！」
元気に自己紹介してくれた女の子――みあおに、その場が妙に和んだ。
■真相は如何に【新宿：裏路地】
水守がどんな情報を握っているのか。犯人は何者なのか。それは犯人を捕まえてから教えると、水守は約束した。何故なら水守が予想した犯人がもしも違った時に、酷い精神的ダメージを与えてしまう可能性があるから、だそうだ。
（水守自身、精神的に相当弱そうだからな）
その弱さは、外見からも十分伝わってくる。
だからこそ人の痛みがわかるのか、どんな悪人でも傷つけることを恐れているような感じがした。
（俺とは真逆の人物？）
――ただ。
「ＩＯ２？ ええ、知っていますけど……今回は関係ないと思いますよ。それよりも……、いえ、これはあとにしましょう」
雫の問いかけに、水守はそう言葉を濁した。ＩＯ２は俺も知っていたが、とりあえず今回の事件とは関係なさそうだ。
（そもそも）
関係を予想させるきっかけとなったＭＩ２は、ただのハンドルネームだったのだ。それがわかった今、関係がないのは当たり前だろう。
水守の指示に従い、俺たちは犯人を捕まえるための罠をはった。前回前々回も水守は仕掛けていたようだが、何しろ誰も水守を信用せず１人であったために、思うような成果をあげられなかったのだった。
（しかし今回は――語るべくもなく、だな）
腕っ節の強い男ばかりいるようだ。これならば、絶対捕まえられるだろう。
その予想に反さず、驚くほどあっさりと犯人は捕まった。
――しかし。
驚くほどあっさりと、そいつは逃げてしまった。
「虚無の境界に栄光あれ！」
そんな言葉を残して。
今の俺たちには決して手の届かない、”冥界”へと……。
★
「――つまり、テロであったということかね」
なすすべなく立ち尽くす俺たち。残された遺体を入念に調べながら、そう口にしたのは城田だった。
（虚無の境界……）
死んだ男はそう口にしたという。
それは世界人類の滅亡をはかる狂信的なテロ組織の名前だった。ＩＯ２と対極に位置する組織といってもいい。
「それよりも……」と水守が何かを言いかけたのは、きっとこのことなのだろう。
「――ええ。やはり私が得た情報は正確でした。今回の事件は、虚無の境界によるテロ事件です」
「奥歯に自害用の薬が仕込まれていたようだ」
水守の言葉を裏づけるように、しきりに口の中を調べていた城田が告げた。
その隙に落ちていたナイフをハンカチで拾い上げていたラジアルが、意外なことを口にする。
「なるほど。凶器は同型の物ではなく、本当に同じ物が使われていたのですね。血が……かなりこびりついています」
「!?」
（どういうことだ……？）
俺にはよくわからなかった。
しかし城田は最初から知っていたようで。
「遺体に残された刺傷は、形状が同じであり、心臓を狙ったという事実は共通していた。だが――それ以外に共通項は存在しなかったのだよ。同一犯に見せかけたければ、もっと賢いやり方がいくらでもあったはずなのだがね」
（なるほど）
「犯人は毎回違った、というわけか」
納得を、俺は口にした。
すると意外にも、次の問いを投げかけたのはみあおだった。
「――でも、虚無の境界の人たちって、ただ殺してたわけじゃないんでしょ？ だってそうだったら未散、次の犯行場所を予想できるわけないよね」
（確かに）
そのとおりなのだ。
もしも無作為に殺していたのなら、どこで死ぬかなどわかるはずがない。”月曜日の明け方”という共通項だけは、誰が見てもわかったはずだが。
俺たちが感心してみあおを見つめる中、それに答えたのは水守ではなく刃霞だった。
「あはは……では僕が気付いた事、合っていたのですね」
「気づいたこと？」
本人も信じられないようで、笑顔の中に少しの苦笑が混じっていた。
「東京都の地図を思い浮かべて下さい。事件のあった場所を、順番に線で繋いで行くと――星型に成るのですよ」
「?!」
「ですから僕は、中心に何か有るのか、若しくは”呪”の儀式なのではと疑って居たのですが……」
「正解です、璃琉さん」
応える水守の声は、少し沈んでいる。
「殺された魂は贄なんですよ。彼らは贄で陣を描いている。そしてこの贄の血で染められたナイフが捧げられ――すべてが彼らの思いどおりに成就してしまったら、その瞬間東京は……」
「待って下さい！ ではこの人は？ この人の魂でも、それは可能なんじゃないですか？」
「！」
ダーウンの言葉には、絶望が含まれていた。
（計画が失敗したことを悟って）
自らの身で代用した？
もしそうだとしたら――遅い。
こいつはもう、死んでしまったのだ。
「みあおたち、間に合わなかったの……？」
それどころか、東京の終末を早めてしまったのだろうか。
しかし水守は派手に首を振ると。
「いえいえっ。確かにこの死体でも代用は可能でしょうけど、陣はまだ完成ではありませんよ」
「え？」
「完成したのは星型だけです。これからそれを囲わなければならない。しかしすべての血を捧げられるはずだったナイフはここにありますし、この人の血はついていませんから……これさえ死守すれば、大丈夫だと思いますよ」
皆が、一斉に胸を撫で下ろした。
凶器のナイフを手に入れたことで、結果的に俺たちは、これから起こる予定だった犯罪を防ぐことに成功した。
（だが――）
これでばーさんが浮かばれるとは、とても思えなかった。
（哀しい）
そんな気持ちを少しずつ思い出していた。けれどこんなことで、それに気づきたくはなかった。
拠り所を、１つ失った俺は――
（ああ、これが”寂しい”なのか……？）
もう１つ気づく。
人間は、なんて複雑な感情からできているのだろう。
（――明日、花を買いに行こう）
それ以上気づくのが嫌で、俺はその決心にすべての感情を封じ込めた。
★
みあおの提案で、最後に皆で写真を撮った。その写真の笑顔の奥に隠された感情は、当然人それぞれなのだろう。
だが隠し切れない哀しみを、その写真は確かに捉えていた――。
■終【ＭＩ２】
■登場人物【この物語に登場した人物の一覧：先着順】
番号｜Ｐ Ｃ 名
◆◆｜性別｜年齢｜職業
1415｜海原・みあお
◆◆｜女性｜１３｜小学生
2318｜モーリス・ラジアル
◆◆｜男性｜527 ｜ガードナー・医師・調和者
2525｜アイン・ダーウン
◆◆｜男性｜１８｜フリーター
2585｜城田・京一
◆◆｜男性｜４４｜医師
2204｜刃霞・璃琉
◆◆｜男性｜２２｜大学生
1323｜鳴神・時雨
◆◆｜男性｜３２｜あやかし荘無償補修員(野良改造人間)
ONPC｜水守・未散
◆◆｜男性｜５６｜若返りフリーライター
※ＯＮＰＣ＝オリジナルＮＰＣの略です。
■ライター通信【伊塚和水より】
ご参加ありがとうございました。≪ＭＩ２≫、いかがだったでしょうか？
この物語は、水守・未散というＮＰＣが誕生した際同時に生まれた話でした。いつかやりたいと思っていた念願が叶って本当に嬉しいです。
今回は皆さまのプレイングによる連携プレイが見事で、全員の答えを１つにまとめるとちょうど答えが出るようになっておりました。それに気づいた時、私が小躍りしたことは言うまでもありません(笑)。素敵なプレイング、本当にありがとうございました。
なおこの作品は、１人が誰か１人を疑うという構造になっております。自分の疑われっぷりを見てみるのも面白いかもしれません。中にはＮＰＣを疑っていたり、年齢上疑われなかった方もおりますが、その辺はご了承下さいませ。
＞鳴神・時雨さま
いつもご参加ありがとうございます。結局どうやって犯人たちが被害者たちの背後をとったのか、今回はその点には触れませんでしたけど、虚無の境界の人々なら影から現れるくらいやってのけそうだというのが私の印象でした。それなら罠を張るのも簡単ですしね。きっとそうだったのでしょう！ その辺のことを詳しく書けなかったのが残念です。それと新装備、面白いですね。色々な場面で使えそうです。行列に代わりに並んでもらうとか(笑)。
それでは。またお会いできることを楽しみにしております＾＾
伊塚和水 拝
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