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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


差出人のないバレンタイン・チョコ
■オープニング
 放課後。怪奇探検クラブの部室を、高等部二年の柴田明と名乗る生徒が訪ねて来た。どうしても腑に落ちないので、調べてほしいことがあるのだという。
 彼の話はこうだ。
 彼には、中等部二年の時、ストーカーまがいにつきまとって来る同級生を、手ひどくふった過去があった。だが、その同級生・成田真由美は一向にめげることなく、まるで彼の恋人きどりで更にしつこくつきまとって来たのだという。ところが三年の時、彼女は交通事故で死んだ。しかもその日はバレンタインで、彼女は風邪で熱があるにも関わらず、柴田に手作りチョコを渡すため無理を押して登校する途中で事故に遭ったのだという。
 その時彼女が柴田に渡そうとしていたチョコレートは、奇跡的に無事だったのだが、昨年と今年、それとそっくり同じものが、バレンタイン当日の朝、教室の彼の机の中に入れられていたというのだ。
「俺、なんか気味悪くって。この学校って幽霊話にこと欠かないしさ。真由美の幽霊かもって思うと。そうじゃなく、人間がやってるにしても、やっぱ嫌じゃん」
 柴田は、話し終えて行った。
 つまり、これが幽霊の仕業か人間の仕業なのか、人間ならば誰がやっているのか調べてつきとめてほしいと柴田は言うのだ。
 副部長のSHIZUKUの「面白そう」の一言で、結局、怪奇探検クラブはこの調査を引き受けることになった。
 柴田が立ち去った後、SHIZUKUが一同を見回して問う。
「さてと。誰がこれ、調べるかな? あたしは今、ちょっと動けないから……誰か、手の開いている人に、お願いしちゃいたいんだけどな」
 やはりそう来たか、と一同思わず溜息をつく。だが、引き受けた以上は、やるしかないのだった。





 海原みあおは、愛らしい顔に真剣な色をみなぎらせて、いくつかの集合写真の載ったアルバムを睨みつけていた。
 一見すると六歳ぐらいに見える彼女は、神聖都学園の生徒ではない。だが、自分で調達した制服のせいで、知らない者が見ればこの学園の小学部の生徒と思うだろう。肩までのショートの銀髪に銀の目の愛らしい顔立ちの彼女には、学園の制服はよく似合っている。
 部外者である彼女が、なぜここ神聖都学園・怪奇探検クラブの部室にいるのかといえば。好奇心旺盛な彼女は、日ごろから今と同じくここの制服に身を包み、生徒のふりをして学園に忍び込んでは、中を散策して回っているのである。都内の一画のかなりの広さを占領しているこの学園は、彼女のように好奇心の強い人間にとっては、まさにおもちゃ箱も同然の場所なのだった。
 その散策の途中で、たまたま今回怪奇探検クラブに持ち込まれた話を聞き、調査を引き受けることにしたのである。他の部員たちは、さすがに部外者に調査を任せることをためらったが、結局SHIZUKUの一声でそれは決定した。
 調査を引き受けたみあおが最初にしたのは、依頼主である柴田明から、もう一度話を聞くことだった。事の顛末についてもむろんだが、彼がもらったというチョコレートについて、彼女はいくつか聞きたいことがあったのだ。
 まず、いつどんな形でチョコレートを渡されたのか。なぜそれが成田真由美が作ったものと同じだとわかったのか。そしてそのチョコを柴田はどうしたのか。もしもまだ手元に残しているなら、実物を見せてもらって製造年月日などを知りたいとも思っていた。
 翌日の放課後、SHIZUKUが部室に改めて彼を呼んでくれたおかげで、みあおは話を聞くことができた。去年のものは捨ててしまったらしいが、今年のはまだ持っているということで、実物を見せてもらうこともできた。
 実物のチョコレートは、両手で囲めるほどの大きさの丸い箱に入れられており、ピンクの包装紙と赤いサテンのリボンできれいにラッピングされていた。柴田は、気味が悪いからと中を開けてもいなかったのだ。彼の了承を得てみあおが開けてみると、中には箱よりやや小さめの丸いチョコレートが収められていた。チョコの上には「愛をこめて」と文字がデコレートされている。どうやら手作りらしく、賞味期限などを書いたシールはどこにも貼られていなかった。
 ちなみに、彼女の問いに答えた柴田によれば、チョコは去年も今年もバレンタイン当日の朝、彼が登校して来たところが教室の自分の机の中に入っていたのだという。そしてそれは、箱の大きさといい、ラッピングといい、真由美が用意していたものとまったく同じだったのだ。
 それらを聞いて、みあおは改めて確信した。
(差出人は、やっぱり人間だね。しかも、ここの生徒で成田の友人か親族。……どっちかっていうと、親族、それもきっと妹あたりだね)
 胸に呟き、大きくうなずく。
 彼女がそう考えたのには、いくつか理由があった。まず、この学園の生徒、それも柴田に近い位置にいなければ、彼の教室や席の場所を知ったり、机にチョコを入れたりできないというのがある。それから、チョコのことだ。死んだ真由美が柴田に渡そうとしていたチョコは、彼女が死ぬほどの事故に遭っても奇跡的に無事だったらしい。しかし、その無事なチョコを目にすることができたのは、当事者である柴田と親族ぐらいなのではないだろうか。
 親族と考えると、可能性としては姉というのもありかもしれないが、なんとなく妹の方が可能性が高いという気がする。
 ともあれ、そんな確信を得た彼女は、その確信を現実にするために、柴田と真由美の同級生たちに聞き込みをして回り始めた。
 だが、どうにもめぼしい情報がない。そもそも、真由美に兄弟がいたという情報がないのだ。
「おっかしいよねー。ぜ〜ったいに彼女の親族の仕業だと思ったんだけどなあ」
 数日後、放課後の怪奇探検クラブ部室で小さくぼやくみあおに、SHIZUKUが面白いものがあると持って来たのが、今彼女が睨みつけている集合写真の載ったアルバムだった。
 それは、毎年クラス替えがあるたびに年度始めに撮影される、各クラスの集合写真を収めたもので、今年の高等部の分だった。普段は職員室に置かれ、教師たちが管理している。が、SHIZUKUはどうやってかそれをこっそり持ち出して来たらしい。
 その写真を一枚一枚丹念に眺めていたみあおは、ふいに眉をひそめる。
「この人……」
 それは、二年A組の集合写真だったが、その中に、柴田から念のためにともらってあった真由美の写真に、どことなく似た女生徒の姿を発見したのだ。
 彼女は慌てて上着のポケットから、真由美の写真を取り出した。そこに写っているのは、髪を背中までのロングにした、細面の明るい感じの少女だった。一方、集合写真に写っているのは、少年のような短い髪に、きりっとした印象のある少女だ。しかし、顔立ちが微妙に似ている。
 みあおは、しばらくの間、二つの写真を睨むように交互に眺めた。だがやがて大きくうなずくと、アルバムを閉じて、写真をポケットにしまうと立ち上がった。

 三日後。
 夕暮れ時の生徒の姿もまばらになった校門を、足早に通り抜け、すぐ傍のバス停へと急ぐ女生徒の姿があった。
 彼女の名前は高橋美咲。
 みあおが集合写真の中に見つけた、真由美と顔立ちの似通った少女である。
 彼女は、バス停で立ち止まると、携帯電話のディスプレイで時間を確認した後、ついでのようにメールを打ち始める。
 それを校門の塀の上に腰かけて見下ろしていたみあおは、身軽にそこから飛び降り、ゆっくりとそちらへ近づいて行った。
 この三日間、みあおはもう一つの姿である小鳥になって、美咲を偵察して回った。その結果、彼女が真由美の双子の妹であることが判明したのだ。
 周囲の人間がそれを知らなかったのは、二人の両親が早いうちに離婚し、彼女たちが別々に育てられていて、中学まで美咲は違う学校に通っていたせいだった。姓が違う上に、ぱっと見の印象が違うため、誰も二人の血のつながりを疑う者はいなかったようだ。
 真由美と美咲は、両親の離婚後も交流があり、真由美が事故死するまではメールや電話でやりとりしていたらしい。小鳥になったみあおは、美咲が真由美から来た最後のメールを、何度も携帯のディスプレイに呼び出しては、読み返しているのを見た。
 ちなみに、なぜそれが真由美からの最後のメールとわかったかといえば、美咲はその時たまたま自宅の庭にいて、みあおはその上空を何度か低空飛行して、文面を全部ではないものの、盗み読みしたためだった。内容は、バレイタインのチョコレートのことで、「おいしいのが作れたら、明が考え直してくれるっていうから、がんばる」といったような文章が並んでいた。
 「高橋」
 美咲に近づいたみあおは、メールを打っている彼女に声をかけた。美咲が、携帯の画面から顔を上げる。そして、怪訝な顔になった。
「どうしたの? 小学生が、こんな時間に」
 気を取り直したように訊いて来る彼女を無視して、みあおは更に言う。
「みあおは、柴田に頼まれて、バレンタインチョコの差出人を探しているの。彼にチョコをあげたのは、高橋なのよね?」
 途端、美咲の面が一瞬こわばった。
「なんのこと? お姉さん、何言ってるのか、わかんないわ」
 それでもすぐに笑顔になって返したのは、相手がただの小学生だと思っているためだろう。
「しらばっくれてもだめよ。だって高橋は、成田の双子の妹だよね。……なんで、柴田にあんなチョコを渡したの? それも、二年も続けて。まさか、柴田が好きとかじゃないよね」
「あなた……」
 なおも続けて言うみあおに、美咲の顔はふいに色を失った。まるで幽霊でも見るかのような目で、彼女を見詰める。
 話しているうちに、夕闇は更に濃くなり、その闇の中にみあおの銀の髪と銀の目、白い顔がくっきりと浮かんで見える。そのさまは、まさに美咲の目には自分を脅かす幽霊のように映っただろう。
「あなた、なんなの? ……柴田くんに頼まれたって言ったわね。私を、どうするつもり?」
 ややあって、彼女はみあおを見据えたまま訊いた。
「とりあえず、みあおが何者かは、気にしないで。それはこの際関係ないから。高橋をどうするかは……う〜ん、柴田に話してみないとわかんないな。とにかく、みあおが頼まれたのは、チョコの差出人を探すこと、だからね」
 みあおは、彼女の感じている怯えなど、まったく無視して答えると、再度訊いた。
「で、教えてくれる? なんであんなチョコ渡したの。柴田に。……成田のこと、忘れてほしくなかった、とか?」
 美咲は、またしばらくの間、みあおを見詰めて立ち尽くしていた。が、やがて小さく肩を落とすとかぶりをふった。
「それもあったけど……チョコを受け取ってほしかったの。去年のも今年のも、作ったのは私だけど、レシピやラッピングは、真由美のものよ。真由美が作ったものじゃないけど、でも、そのつもりで受け取ってほしかった。だって……真由美は、あのチョコのために命を落としたようなものなのに……!」
 半ば叫ぶように言った彼女の頬には、いつの間にか、涙が白く光っていた。
 そうして、彼女がぽつぽつと話したところによれば。柴田と真由美は、実際にはつきあっていたのだという。真由美は、美咲から見ても驚くほどけなげに、柴田の好みに合わせようと努力していた。ところがある時柴田が、真由美に別れ話を持ちかけた。そしてそれを承諾しない彼女に、「おいしいチョコを作ってくれたら、二人のことを考え直す」と条件を出したのだ。だが。
「柴田くんって、チョコが苦手なのよ。それも、小さなかけらを口に入れても吐き出すぐらいに。……そんな人が、おいしいチョコを作ってほしいなんて、嫌がらせみたいなものじゃないの! 私、真由美からそのメールをもらった時、やめろって言ったの。すぐに電話して、そんな奴、こっちからお払い箱にしてやれって。でも真由美、『だめなの。すごく好きだから』って。だから、チョコを作って渡すって言ったのよ。そして……それが最後の私たちのやりとりだったわ……」
 美咲は、小さく鼻をすすり上げながら、そう話を締めくくった。
 一方、話を聞き終わったみあおの眉間には、険悪なしわが出来ていた。
「なにそれ。じゃ、結局悪いのは、柴田じゃないよ! 柴田がそんなこと言い出さなきゃ、成田は事故にも遭わなかったかもしれないじゃない」
 怒りに燃える口調で呟くと、そのまましばし考え込んだ。が、ふいに大きくうなずくと、美咲を見上げる。
「高橋。明日の放課後、怪奇探検クラブの部室に来て。柴田を呼び出しとくから、言いたいこと、言ってやるといいよ。大丈夫。みあおも行くから、危ないことなんかないからね。じゃ」
 一方的に話を決めると、彼女はそのまま踵を返す。
「あ、待って……!」
 美咲が慌てて声をかけた時には、その小さな後ろ姿は闇に紛れて見えなくなっていた。

 翌日。
 みあおは約束どおり、柴田と二人、怪奇探検クラブの部室で美咲を待っていた。
 悩んだ末に、結局やって来た美咲を見た途端、柴田の顔に怪訝な表情が浮かぶ。それを見やって、みあおは言った。
「この人が、チョコの差出人。高橋美咲っていうの。成田の双子の妹だよ」
「真由美の、妹?」
 柴田も初耳だったのか、驚きの声を上げる。それへみあおは、二人の姓が違う理由を話してやり、更に自分が調べた結果をも告げた。
 それを聞いて、柴田はまじまじと美咲を見やった。だがやがて、がっくりとその場に膝をつく。
「許してくれ……! 俺……俺……怖かったんだ。真由美が、あんまり俺に夢中で、何も見えなくなって行くのが。だから、別れようって言ったんだ。でも、聞いてくれなくて……」
 低い嗚咽と共に彼が語ったのは、こんな話だった。
 真由美は、彼に好かれたいあまりに、彼の理想の女になろうとした。彼の好きな女性タレントの髪型や話し方を真似、彼が好きだと言えば苦手なものでも好きになろうとした。
 それは、恋するこの年頃の少女ならば、当然の行動だったかもしれない。だが、彼女のそれは少々度を越していた。柴田にとっては、理想は理想でしかなく、真由美の真由美らしいところが好きだったのに、それがどんどん失われて行くようで、それが悲しくもあり辛くもあり、そして怖くもあった。
 それでも最初は、柴田は彼女のそうした行動を止めようとしていたのだ。自分にとって、真由美はそのままで充分なのだと言って。だが彼女は聞き入れないどころか、最後には「どうして私が明の理想に近づこうとするのが、いけないなんて言うの?」と泣き出す始末である。とうとう柴田は耐えられなくなって、別れ話を切り出した。
 しかし彼女は、別れ話も聞き入れようとはしない。そこで彼はチョコの件を持ち出した。彼女が一生懸命作ったチョコを、目の前で吐き出せば、「こんなひどい男」と彼女も自分を諦めるかもしれないと。
「でも、それがあんなことになって……俺……どうしていいかわからなくて……」
 柴田は、話し終わって嗚咽しながら言った。
 そんな彼の告白を、美咲は目を見張って呆然と聞いていた。その頬にも白く光るものが流れている。
「真由美のバカ……」
 低い呟きが、その口から漏れる。そのまま彼女は、両手で顔をおおって肩を震わせた。
 そんな二人を、みあおは黙って見詰める。実はもらい泣きしそうになるのを、必死でこらえているのだ。ここで彼女までが泣き出してしまっては、収集がつかない。
 何度か小さく深呼吸して、みあおは、そちらへ一歩足を踏み出した。
「二人とも、泣き止んで。うまく言えないけど、柴田も高橋も、成田のことすごく大事だったんだと思うのね。だから、二人が成田のこと忘れないでいて、それから幸せになれば、きっと成田も満足じゃないかなって思うの」
 彼女の言葉に、二人が涙に濡れた顔を上げて、こちらを見やる。みあおはそれへ、励ますように強くうなずいた。

 一月後。
 みあおは、塾からの帰り道、花束を抱えて近くの墓地へと向かう柴田と美咲にすれ違った。二人の方は、みあおに気づかなかったようだ。が、彼女は二人を覚えていた。
 花束の他に、柴田の手には、いつか見たのと同じラッピングのチョコと思しい包みがあった。もしかしたら、彼はそれを墓の前で食べてみせるつもりかもしれない。墓はきっと、真由美のものだ。チョコが苦手な柴田は、やっぱり吐き出してしまうかもしれないが、それでも最後まで食べようと努力するだろう。
(柴田と高橋が、成田の分も幸せになるといいね)
 去って行く二人の後ろ姿に、みあおはそっと呟き、小さく微笑んだ――。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1415/ 海原みあお/ 女性/ 13歳 / 小学生】 

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■         ライター通信          ■
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ライターの織人文です。
調査依頼に参加いただき、ありがとうございます。
今回は、一人一人個別に書かせていただき、チョコの差出人についても
書いていただいたプレイングに沿って、
人か幽霊かを個別に書かせていただきました。

●海原みあおさま
はじめまして。参加いただき、ありがとうございます。
チョコの差出人について、たくさん予想していただきまして、
どうもです。
結果は、ご覧のとおりですが、いかがだったでしょうか。
少しでも楽しんでいただければ、幸いです。
では、また機会があればよろしくお願いします。