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<東京怪談ノベル(シングル)>


【鏡の中の学園】〜Contact〜

 ササキビ・クミノは、都会の街並みを見下ろすように、自室の窓際に立ち、外をぼんやりと眺めていた。
 都会の喧騒は窓を締め切ってさえいれば、この部屋には侵入しない。
 煌くネオンの輝き、ヘッドライトの灯りの列は、美しい絵画のようにカーテンを開け放した窓に輝いているだけだ。
「……」
 まだ幼い彼女は冷たい窓に、頬を押し当て、小さく息をした。
 その手には、小さな箱が握られている。
 オリハルコンと人口ダイヤで作られた小箱。特別な魔力がこもっているのが、持つだけで解る。
 
 その鏡は、未来を映す鏡。
 そして、絶望を移す鏡。
 
 その鏡によって『せかいのおわり』を見せられた学生達は、次々と姿を消した。
 『おわり』が恐ろしいものであればあるほど、それを阻止するために協力することを誓わされ、そして……。
 いずこともない場所へと連れ攫われたのだ。

 その事件以来、どれほどの時が流れただろう。
 それから後、あの姿を消した学生達が戻ってきたという話を聞いたことはない。
 ゴーストネットOFFにもその噂も上がらない。
 世間からは、忘れられた事件の一つになりつつあった。

「やはり……これか?」
 クミノは小箱を開いた。
 鏡は鏡面を下にして置かれている。もしも誰かがこれを開こうとするかもしれない。その時に覗き込まないように……。
 しかし。
 連れ攫われた者たちが、その中にいることをクミノは知っている。
「……」
 クミノは鏡を久しぶりに手にとった。
 そして瞼を閉じ、ゆっくりと鏡をめくった。白い光が鏡から解き放たれるように光り輝き、クミノの体を包み込んだ。



 学園?
 クミノはやたらに明るい日差しの中に立っていた。
 目の前には白い白亜の大理石で作られた、清潔で美しい学園風の建物があった。
 そして、そこに通う少女達の明るい声。
「……ここは?」
 まさか。
 あの学園?
 一度、鏡の中で覗き見た、世界の救世主を目指そうとする若者達を養成する学園。
 クミノはその校舎に向かい、歩き出そうとする。
 刹那。
 彼女の前に見えない障壁があることに気がついた。
「……なに?」
 掌で触れてみると解る。
 何か柔らかな壁が、目に見えぬ透明の壁が学園とクミノの間に横たわっているのだ。
「……」
「おひさし……ぶり……ね」
 少女の声が突然横から響き、クミノは目を見開いた。
 だぶだぶとしたパジャマ姿の長い髪の少女が、そこに立っていた。
「おまえは……」
「……またあえた……ふふ」
「……あの中に、彼女達はまだいるのか?」
「いる……よ……だってあそこは……わたしのたいせつな……ばしょ。だれにもわたさないの……」
 少女は柔らかく微笑みながら答えた。
「どうして……私は行けない?」
 壁に触れ、クミノが尋ねる。
 少女は微笑んだ。
「だって……わたしが、あなたにさきにあいたいっておもうから。ね……かがみ、かえしてほしいの」
「鏡?」
「あれは……わたしのものだから」
 少女の瞳が一瞬鋭く光る。
「……あなたがうばったものでも、ほんとうはわたしの……もの」
「渡すわけにはいかない……」
「だめよ……かがみがないとわたし……こまるの!」 
 少女の長い髪が宙に吊られるように浮いていく。放射線状に延びた髪が、クミノの身を捉えようと伸びる。 
 クミノは冷静に掌の中にリボルバーを召還した。そして、それで髪の毛をたつように撃つ。冷静さと射撃の筋のよさは、今更誉めようがないほど完璧なものだ。
「くっ!!」
 少女は舌をうち、クミノに背中を向け逃げ始めた。
「!?」
 ひどく違和感を感じる。
 以前にあったあの少女とは違うものか? 
 そう思いながら、その逃げる背中に銃口を向け、撃ち放つ。
 少女は悲鳴を上げて姿を消した。

「うまいのね」
「!」
 今度は背後から同じ声がした。
「あなたのことは大好きよ。学園に来て……?」
「世界を滅ぼすための学園にか……無理だ」
 クミノは吐息をついた。
 取り戻したいものが地上にまだあるから。
 学生という安寧とした日々を手に入れたのに、それを捨てて、こんな閉ざされた世界に来たいと思うはずもなく。
 ……彼女に惹かれてる。
 その気持ちを天秤にかけたとしても、まだ現実に対する未練の方が強い。
「残念ね……」
 少女は呟いた。
「でもあきらめないわ……わたしはあなたがすき……」

 ●

 電話の音で、はっと気付く。
 クミノは窓にもたれたまま、自室にいた。
「……!」
 掌の中にあった小箱の蓋はいつのまにか閉まっている。中を確認すると、鏡の鏡面も元の通りに裏向きになっていた。
 夢を見たには、あまりにもリアルで。
 小さな胸のつまりが彼女の表情を一瞬曇らせるのだった。
 それから、ようやく電話に手を伸ばす。
 コールは14回目。
 いい加減しつこいやつ。
 鳴り続くうるさいそれに手を伸ばし、頬に当てた。
「はい……」
「……よお、オレを覚えてるかい、ハニー?」
 陽気な声。……聞き覚えがあった。
「どうして今頃……かけてくる」
「用事があったからに違いないだろう……今度は逢ってもらえると嬉しいんだがね」
「……」
 ……招待状。
 クミノの意識にそんな言葉が浮かぶ。
 それが黒いカードか、赤いカードかはともかく。
 あの少女の思惑か……それともこの鏡を手にしたことが『予兆』だったのか。

「……どんな用だ」
 受話器を頬にあて、問い返すクミノの表情に何故か笑みが浮かんでいた。


++++おわり

 +++++++++++++++++++ライター通信
 お久しぶりです。遅くなっちゃってごめんなさい。
 ご注文ありがとうございました。鏡の中の学園、書かせていただいて嬉しかったです。
 コンテンツの誰もいない街は終了しておりますので、また違う形の再会を考えようと思います。
 とはいえ、ちょっと私自身の環境の問題で、その時期が曖昧ですので、もしお急ぎならば、
シングルシチュエーションノベルでのご注文で、これからもクミノさんのお話としてストーリーを続けさせて頂きます。
 ただ、その場合何回で決着がつくかが微妙なのですが(汗)

 わがままなことを言ってますね。ごめんなさい。
 もし、ご要望などありましたら、テラコンにてお願いします。

 それではまた。

               鈴猫 拝