コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


放火魔と呼ばないで
「ち、違いますよぉ! 僕、放火なんて……そんな怖いこと、絶対、やってませんっ!」
 青い制服姿の警察官に向かって、黒いローブを着た、黒い髪に金の瞳の、どこかまだあどけなさの残る容貌をした少年――朝野時人が顔を真っ赤にして抗議している。
「でもね、そんな怪しい格好で……事件現場にいたら、疑わないわけにはいかないんだよ?」
「あ、怪しいなんてひどいですっ! これは……このローブは魔法使いの誇りなんですよ!? それを……それを!」
「……誇りでもなんでもいいけど、あんまり一般的な服装じゃないからねえ」
「うっ……」
 警官にぼやかれて、時人は傷ついたように肩を落とす。
 確かに、自分はとんでもなく怪しいのだ。それは時人自身、よくわかっている。
 なにしろ、時人の得意とする魔法は炎の魔法なのだ。しかも新米のため、火力の調節がうまくできない、というオマケつき。
 疑われるのもムリはない。
「でも……僕、無実なんです!」
 だが、疑わしいのは本当だけれども、やっていないものはやっていないのだ。
 自分が連続放火魔だなんて――そんなこと、ない。それは時人が一番よく知っている。
「お願いします! 時間をください! そうしたら、僕……きっと、無実、証明して見せます!」
 時人は警官に向かって、深く深く頭を下げた。
「そんなこと言われても、逃げるかもしれないしねえ。とりあえず、そこの交番まで一緒に来てくれる?」
「そ、そんなっ!」
 今にも泣き出しそうな様子で時人がいやいやと首を振ったそのとき、影が差した。
「……そ、その」
 振り返ると、全身黒尽くめの服装で背中に長い刀を2本差した、燃えるような赤い髪と瞳の長身の男が立っていた。
「ん? なんだね、キミは」
 警官はけげんそうな顔で男を見る。
 それもムリはない話だった。事件現場に、こんな物騒なかっこうをした怪しい男がいたとしたら、疑わない方がおかしい。
「ボク……その。依頼、されてきました」
「……依頼?」
 警官がさらにけげんそうな顔になって訊ね返す。
 すると男は容姿に似合わないびくびくとした様子でうなずく。
「最初の家の……被害者の、子が。ボクに……犯人をつかまえてほしい……って」
「へぇ、犯人をねえ。それで、その背中の刀は?」
「……愛用の、刀……です」
「そういうことを聞いてるんじゃないと思うけど」
 ぽそ、と時人は突っ込みを入れた。男は困ったような顔で時人を見る。
「……キミ、犯人?」
 そしてその困ったような表情のままで時人にそう問い掛けてくる。
「ま、まさか!」
 当然自分は犯人ではなかったから、時人はぶんぶんと首を振った。
「ここは僕がよくお世話になってるクリーニング屋さんなんです! 昨日、コートを預けに来たらその直後に火事になったって聞いて……朝になって来てみたら、犯人扱いされた、ってだけです」
「……でも……怪しい」
「ち、違いますよ〜!」
「こちらにしてみれば、両方怪しいがね」
 ややいらだった様子で警官が言う。時人はぎくりとして、男へ目をやった。
 男も考えていることは同じだったのか、小さくうなずく。
 男は時人の腕をつかむと、
 時人は走り出そうとしたがそれどころではなく、男のとんでもないスピードに引きずられるようにその場をあとにしたのだった。

「……すみません、ありがとうございます」
 わけもわからぬまま、聞き込みやらなにやらに驚異的スピードで引っ張りまわされた時人は、次の標的になりそうな家のそばにあるブロック塀の隙間で、声に疲れをにじませながら言った。
「……いや」
 だが一方、男は少しも疲れた様子はなく、無表情に首を振る。
「頼まれたから……そのついで」
「……。そういうときには嘘でも見捨てておけなかったとか言ってください」
 正直な相手に、時人はがくりと肩を落としてつぶやく。
「あ、そういえば、すっかり聞くのを忘れてたんですけど……あの、お名前は?」
「五降臨……時雨。キミは……?」
「朝野時人です。よろしくお願いします」
 時人は塀に頭をぶつけないように頭を下げる。
「……そう」
 だが時雨はそれだけ言うと、次の標的になるらしい家に視線を向けた。
 こういう反応を返されるとどうしたらいいのかわからなくて、時人はそっとため息をつく。悪い人ではないようだけれど、つかみどころのない相手だ、とは思う。
 なにしろ、時人を連れたまま逃げたかと思うと、その足でいろいろなところを連れまわし、聞き込み――本人はあまりうまくしゃべれないので、まるで時人が通訳するかのような形になった――を行い、次に犯行が行われるのはここだと特定したかと思うと、狭いブロック塀の隙間に入り込んだのだ。
「でも、本当に来るんですか?」
 沈黙に耐え切れなくなって、時人は口を開いた。
 すると時雨は時人のほうを向き、大きくうなずく。
「……来る。……多分」
「多分って!」
 それでは困る。時人は思わず裏拳でツッコミを入れた。
 時雨はそれを難なく受け止めると、困ったような顔で時人を見る。
「……すみません」
 なんだか悪いことをしたような気分になって、時人は素直に謝罪した。
「……来た」
 だが時雨はそんなことは気にしていなかったようで、家の方を見ながらつぶやく。
 そちらを向くと、時雨の視線の先には、確かにどこか挙動不審な様子の、トレンチコート姿の男がいた。
「あ……!」
 時人は小さく声をあげた。
 あれはどう見ても怪しい。
「どうするんです?」
 時雨の方を向いてそう訊ねようとしたときには、時雨はもういなかった。
 ブロック塀の隙間から出て、すたすたと男の方に歩みよっていく。時人はあわててそれを追いかけた。
「……犯人……だな?」
 時雨が問い掛けても、男は反応しようとしない。それどころか、まるで時雨が見えていないかのように、マッチを擦る。
「わ、ダメ……!」
 時人は男の腕をつかもうと手を伸ばしたが、その手は予想に反して空を切った。
「あれ?」
 時人は自分の手と、男とを代わる代わるに見る。確かにつかんだと思ったのに、どうして触れないのだろうか。
「……幽霊?」
 時雨が首を傾げながら言う。
 ああそういうことかと、時人はうなずいた。
 触れない、ということは、つまり、人間ではないということだ。
 男はふらふらと家のほうへと近づいていく。時雨は無言で、背中の刀を抜いた。
「そ、そんな乱暴な!」
「……放火魔の幽霊……切るの、ダメ?」
「……う」
 迷惑なものなら、浄化してしまった方がいいに違いない、とは思う。そもそもこちらの言葉も通じないようだし、この場ではそれが一番いいのかもしれない。
 時人の答えを待たず、時雨は刀を男の背へと振り下ろす。
 男は避けようともせず、一刀両断にされる。切り口からは炎が上がった。
 高く上がった火柱は、離れた位置に立っている時人にまで熱を伝えてくる。
 だが血は流れず、死体も残らない。切り口から、男の身体は煙のようにしゅうしゅうと空気へ溶けてしまう。
「……これで大丈夫。解決」
 時雨が刀を鞘におさめながらつぶやいた。
「ええ、本当に解決……って、犯人がいなくなったら、僕の立場は!」
 そういえば疑われていたのだということを今さら思い出し、時人は声を上げた。
「……がんばれ」
 時雨がぽん、と時人の肩を叩いてくる。
 ありがたいやら、困るやらで、時人はがっくりと肩を落とした。

□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1564 / 五降臨・時雨 / 男 / 25 / 殺し屋(?)】

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
 はじめまして、発注ありがとうございます。今回、執筆の方を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹と申します。
 時雨さんは天然キャラということで、色々とボケたところを入れてみたのですが、いかがでしたでしょうか。
 男前な容姿の時雨さんがボケた発言を繰り返したりする様子は可愛いかも……などと思いつつ書かせていただきました。お楽しみいただければ、大変嬉しく思います。
 もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お寄せいただけますとありがたく思います。ありがとうございました。