コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


調査コードネーム:ばれんたいん大作戦  〜お嬢さまシリーズ〜
執筆ライター  :水上雪乃
調査組織名   :草間興信所
募集予定人数  :1人〜4人

------<オープニング>--------------------------------------

「こんにっちわーっ☆」
「間に合ってます」
 元気よく入ってきた少女に、草間武彦が告げた。
「まだ何も言ってないよー」
 芳川絵梨佳が拗ねる。
 まあ、なんというか、いつもの会話である。
「仕事もってきたのにー」
「どーせろくな仕事じゃないだろが」
「んー けっこう楽な仕事かもー」
「はぁ? なんでお前にそんなことが判るんだよ?」
「えっとね‥‥」
 説明を始める絵梨佳。
 半年と少し前、怪奇探偵は卑劣な犯罪に遭っていた一人の少女を助けた。
 鈴木愛という。
 今回の依頼は、その愛の親からのものだ。
 世の中には、閨閥というものがある。
 富豪同士が婚姻によって結びつき、さらに力を増してくのだ。
 ようするに政略結婚である。
 鈴木の家もまた、それをおこなおうとしていた。
 むろん今すぐにどうこう、というわけではない。というのも、この愛という少女はものすごく頑固なのだ。
 親が決めた婚約者、などというものが現れたりしたら確実に反発する。
 もう、火を見るより明らかだ。
 だから、
「あー だいたい判ってきたぞ。自然な形で、その婚約者と知り合って、付き合うようにすれば良いんだな?」
「正解っ☆ 草間さんあったまいーっ☆」
「‥‥全然嬉しくないけどな‥‥絵梨佳に褒められても‥‥」
「ぶーぶー」
「それはともかくとして、だ」
 膨れる絵梨佳を横に置いて、草間が考え込む。
 どこが簡単な仕事なんだと突っ込んでやりたいところだ。
 たしかに荒事に発展するような気配はないが、こういう人間関係の機微というのが一番厄介なものなのである。
「あ、これ、相手の男の子の写真ね」
「ふん‥‥普通だな」
「そう? 割と美形だと思うけどー」
「俺の方が一五倍格好いい。そう思うだろ? 絵梨佳も」
「‥‥‥‥」
 事務所を沈黙が包む。
「お願い‥‥蔑むような目で見ないで‥‥」
 三〇男が哀願していた。
 
 










※お久しぶりのお嬢さまシリーズです。
※水上雪乃の新作シナリオは、通常、毎週月曜日にアップされます。
 受付開始は午後8時からです。

------------------------------------------------------------
ばれんたいん大作戦

「やっぱあれだろ。ここは王道で、愛って娘がチンピラに絡まれているところをその男が助けるっつー‥‥」
 右手にもったタバコを振りながら、巫灰慈がいった。
 まあ、陳腐というか、ありがちというか。
「でもって、俺がチンピラAな」
「じゃあ俺はチンピラB」
 笑いながら中島文彦が続き、
「ということは、俺がCですか」
 那神化楽がひきとる。
 けっこう楽しそうだ。
 野性的なハンサムの巫。そのまま裏社会でも通用しそうな危険さをもった中島。そして美髭が見ようによってはとても怖い那神。
「へへへっ。ねーちゃん、俺たちといーことしてあそぼーぜ」
「くせになるぜぃ」
「嫌がんなよぅ。おらおらぁ」
 実演して見せてくれる。
「怖すぎるわっ!!」
 すぱんすぱんすぱーん、と、景気のいい音を立てて、三連発ハリセンが炸裂する。
 振るったのはシュライン・エマ。
 草間興信所の事務員であり、所長の細君でもある女性だ。
「だいたい。中島くんと那神さんは愛ちゃんに顔知られてるでしょっ」
 腰に手を当てて憤慨している。
「冗句だよ。冗句」
 へらへらと中島が笑った。
「何語ですかそれは」
 事態の経緯を目を丸くして見ていた海原みなもも、つられるようにくすくすと笑う。
 深刻さがあまり感じられないのは、やはり芳川絵梨佳が持ち込んだ仕事だからだろうか。
「まったく‥‥真面目にやってよ」
 肩をすくめながら、美貌の事務員が写真と詳細資料を配る。
 ある意味、厄介な仕事である。


 男女の仲というものは難しい。
 誰かに教わることもできないし、唯一無二の正解があるというものでもないからだ。
 にもかかわらず、男は女を得ようとし、女は男を求める。
 遺伝子の呼び声にしたがって。
 身体だけの関係であるなら、欲望だけなら、むしろ話は簡単なのだ。
 以前に鈴木愛を助けたときと同じである。
 彼女に痴漢行為をしていた連中は、じつはターゲットは愛でなくても良かった。
 この美しい少女が抵抗せず、したとしてもそれは微弱で、大声を出すこともできなかったから、良い獲物だと目されていただけなのだ。
 あるいは必死に耐える表情が、より劣情を刺激していたのかもしれない。
 そういう低劣な男どもは、なんでも性欲の対象に見るのだから。
 そのときのスタッフの一人が、「そんな男は全員死刑にしろ」といったが、不穏当さは別としても多くの女性が納得するだろう。
「あのときも気になっていたんですけど、どうして愛さんはそんな目に遭ってまで電車通学を続けていたんでしょう」
 ふと、みなもが問いかけた。
 青味をおびた黒髪が揺れる。
「そこはそれ、頑固さゆえといったところでしょう」
 コーヒーカップを唇の直前で止め、那神が答えた。
 芳醇な香りが鼻腔を満たす。
 久々に堪能する絵梨佳の名人芸だ。
「頑固‥‥ですか」
「一度自分で決めたことだから、最後までやり通す。そう考えたんですよ。きっと」
「なるほど‥‥」
「だから今回も、ストレートに事情は話したら反発されるってことさね」
 中島が言った。
 余裕しゃくしゃくの態度だ。
 事務所に駆け込んできたときは、
「ずいぶん焦ってたのになぁ。絵梨佳が政略結婚させられると思い込んで」
 青年の様子を再現しながら、草間武彦が人の悪い笑みを浮かべる。
「‥‥てめーが嘘っぱちの情報をリークしたからだろうが」
「さーてなんのことかねぇ」
 ばちばちと。
 二四歳の青年と三〇男の視線が火花をあげて絡み合う。
 なんだか不倶戴天の敵同士みたいだった。
「まあまあ」
「押さえて押さえて」
 男どもの恋人や細君が、まるで平和主義者のように仲裁した。
 まあ、シュラインはともかくとして、絵梨佳になだめられるようではおしまいである。
 おしまいなふたりが、顔を見合わせて苦笑する。
「じゃ、そろそろ真面目に仕事をしようか」
 巫が席を立ち、
「はい」
 みなもも続く。
「どちらへ?」
 美髭の絵本作家の問いかけ。
「まずはその男に会ってみるさ。どんな作戦も、それからじゃねぇと立てられないからな」
「なんだ。結局セオリー通りかよ。つまらんつまらん」
 中島が、巫の言葉に反応した。
「言っとくけど。中島くん好みに事態を複雑にするつもりはないからね」
 シュライン女史が釘を刺す。
 肩をすくめ、
「へいへい」
 と、コートに手をかける青年だった。


 上流社会における政略結婚は、べつに現代においても珍しくない。
 かの稲積家だって閨閥の糸を政財界に張り巡らせているのだ。
 善悪美醜ということではなく、権勢を保つには必要なことだったりする。
 このあたり、権力を持った人のメンタリティーは漢帝国の劉氏や平安時代の藤原氏となんら変わらない。
「背負う家門もない俺は、気楽なもんだけどな。けど‥‥」
 張暁文は、自分の内心に語りかける。
 中島というのは偽名だ。それは、ごく限られた人だけが知っている。
 そして、絵梨佳も知っている一人だ。
 彼女は暁文の恋人である。
 同時に、政略結婚させられる可能性を秘めている女性だ。ああみえても芳川財閥の一人娘なのだから。
 もしそうなったとき、俺はどう行動すべきなのだろう。
 絵梨佳の幸福のためには、自分の存在は邪魔なのではないか。
 暁文が思うようになったのは、そう遠い過去ではない。
 裏社会の住人と金持ちの娘。
 映画やミュージカルで幾度も描かれてきたテーマを、まさか自分が演じることになるとは思わなかった。
 まさか映画のように連れて逃げるというわけにもいかない。
 現実はそれほど甘くないのだ。
「‥‥いざとなれば、俺が姿を消すさ‥‥あいつ泣くかな?」
 泣いたとしても、いつかは時間が忘れさせてくれる。
 いつかは、時間が癒してくれる。
 問題は‥‥。
「俺が耐えられるかってことだよな」
 そう。
 離れがたく思っているのは自分自身。
 いつの頃からだろう。この元気な少女が心に大きなウェイトを占めるようになったのは。
 出逢いはまるでコメディーのようだったのに。
「ハッピーエンドじゃねぇと‥‥コメディーっていえないけどな」
 黒い瞳のなかを流れてゆく景色。
 それが不意に止まった。
「ついたわよ。中島くん」
 シュラインの声が鼓膜を叩く。
「ああ」
 気だるげに応えた青年がそちらを向く。
 もう、中島文彦の顔だった。
 少年の名は、屋城咲也。一六歳というから、愛と同年である。
 家柄としては、ほぼ同等くらいだ。
 髪も黒いままだし、変なアクセサリーもつけていない。
 いまどきの高校生にしては、やや真面目すぎるような気もするが、顔立ちはきりりとしていて、なかなかの好男子である。
「昔の大名の小姓に居そうなタイプですね」
 割と的を射た那神の感想だが、いささか危ない発言でもある。
「小姓ってのは、性処理とかも担当してたのよ」
 困ったような顔で、シュラインがいった。
「そうそう。主君の夜の相手を務めるわけなんだが、そん時に屁なんか出たら大変だ。だからイモとか食うのは厳禁だったらしーぜ」
「‥‥なんでそんなこと知ってるんですか‥‥巫さん」
 当然の疑問を発するみなも。
「HAHAHAっ。小姓学の権威と呼んでくれ」
 怪しい笑い声を発する巫。
 やれやれと肩をすくめたシュラインが、
「でもまあ、武彦さんの方が格好いいわよね。うん」
 と、思った。
 むろん、口に出したりなどしない。絶対に。
 そんなことを言った日には、仲間たちが火が着いたようにからかってくること、万に一つも疑いないからだ。
 たとえ本人に対してだって言えるわけがない。
「さ。いくわよ」
 呼び鈴に手を伸ばす蒼眸の美女。
 その頬が軽く染まっているのに気づき、仲間たちの表情に疑問符が浮かぶ。


 屋城少年との面談は滞りなく進んだ。
 というのも、少年がすでに愛を知っていたからだ。むろん、まだ知己というわけではない。
「そうですか‥‥そんなことが‥‥」
 溜息をつく咲也。
 探偵たちから事情の説明を受けているのだ。
 どういう作戦を取るにしても、彼には話を通しておかなくてはならない。と同時に、いくつかのテストも兼ねている。
 この少年が愛をどう思っているのか。政略結婚についてどう考えているのか。
 性質や識見を、面談の中から読みとっているのである。
 もし彼が、顔だけ良くて中身が空っぽの最悪ボンボンであれば、探偵たちはこの依頼を失敗させる方向で動くだろう。
 成功させない方が良い依頼もある、ということを怪奇探偵たちは知っている。
「たぶん僕のせいだと思います。こういう話になったのは」
 ぽつりぽつり。
 咲也が語りはじめた。
 あるとき、彼は通学電車の中で愛を見た。
 同級生だろうか、先輩だろうか、痴漢に遭っている女生徒を敢然と庇っていた。
 屹っと痴漢を睨みつけ、
「このまま鉄道警察隊のところにいきますかっ!」
 と、宣言する様子は、まさに勇姿というべきだった。
 車内に拍手が起こったのも頷ける。
 咲也は手を拍ちつつも、気の強い女性だな、という印象を抱いた。むろん少年は、愛がかつて痴漢の被害に遭っていたことも、それをはねのける勇気を持ったのが遠い過去ではないということも知らない。
 愛が優しく慈愛に満ちた少女だと知ったのは、別の一件である。
 その日は朝から雨が降っていた。
 駅から学校へ向かう道は奇妙に薄暗く、爽やかな朝という表現とは無縁だった。
 傘をさして急ぐ生徒たち。
 なぜか道には空白地帯ができている。
 不思議に思った咲也だったが、解答はすぐに与えられた。
 猫の死体があったのだ。
 自動車に轢かれたのだろう。眼球や内蔵が飛び出した無惨な死体だった。
 おもわず咲也が目を背ける。
 その視界を、さっと何かが横切った。同じ電車に乗っていた、愛だ。
 死体へと駆け寄った彼女は、手や制服が汚れるのも厭わずに猫を抱き上げた。
 周囲のものが息を呑んで見守るなか、何処かへと歩き去ってゆく。
 巡礼へとむかう聖者のようだった。
 その後、一時限に遅刻した彼女の姿は酷いものだったと聞いた。制服は血で汚れ、両手は泥だらけだったと。
 おそらくは学校の裏庭にでも死体を埋めてきたのだ、と、咲也は推測した。
 なかなかできることではない。
 愛に興味を持った咲也は、彼女のクラスの連中から少しだけ話を集めてみた。すると、たしかにいろいろと逸話があったのだ。
 たとえば、クラスの生徒が問題を起こして退学か停学かで教師たちが話し合っている職員室に乗り込み、
「あなたたちが本気で指導するつもりなら、学校にこさせるべきだとおもいます」
 と、曰い、教師たちを萎縮させた。
 教師にそんなことを言える高校一年生はいない。
 咲也は心から感心したものだが、クラスでの愛の評価は分かれているらしい。
 利口ぶった、善人ぶった、生意気な女。
 たしかに表面だけ見れば、そういう解釈も成り立つのだろう。
 むろん、少年はそのようには思わなかった。
 同い年なのに立派だと思った。
 自宅で両親と食事するときなども、よく愛の話題を出した。
 彼の親たちも感心し、その少女を屋城家へと望むようになっていった。
「なるほどねぇ‥‥」
 少年の話を聞き終え、巫が腕を組んだ。
 彼だけは愛と面識がない。
「芯の強そうな娘だと思ってたけど、たいしたもんだぜ」
 とは、中島の評価である。
「えへへー さすが私の先輩でしょー」
「絵梨佳さんが威張ることじやないと思いますけど‥‥」
 みなもが、しっかりと冷静なツッコミを入れた。
 まるでシュラインのようだった。
「‥‥まあ、それはともかくとして、屋城くんはどう思ってるの?」
 青い瞳の美女が、肝心な事を訊ねる。
 穏やかな笑みを那神が浮かべた。少年の人格は合格ラインに達しているようである。
「僕は‥‥あの人に相応しいような立派な男じゃないです‥‥」
 咲也の答え。
「かーっ! 情けねえこといってんじゃねぇ! もがもがぁ」
「好きなら奪い取れっ! もがもがぁ」
 熱心に何かを主張しようとした巫と中島に、背後からみなもと絵梨佳が組み付いて口を塞ぐ。
「ど、どーぞー」
「お構いなく話を続けてくださいー」
 愛想笑いなんかを浮かべる少女たち。
 のしかかられた男どもが、嬉しそうな悔しそうな複雑な表情をしていた。
 見なかったことにしたシュライン。
「でも、気になっていることはたしかなのね?」
「はい‥‥」
「だったら、まずは知り合いからってことで良いんじゃないかしら。いきなり恋人だの婚約だのってのじゃなくて」
「そうできたら最高ですが‥‥」
「うん。あとは紹介するタイミングだけね」
 さすがは大蔵大臣という異称をもつ女は仕事が速い。
 実務的に、どんどん話が進んでゆく。
「そういうことでしたら、俺に少しアイデアがありますよ」
 優しげに目尻を下げたまま、絵本作家がいう。
 好々爺、といった風情だった。
 四〇歳にもなっていないくせに。
「どんなアイデア?」
「なに。こういうのは正攻法でいった方がえてして上手くいくものです」
 なんだか自信に満ちている。
 肩をすくめたシュラインが、話してみるように促した。


「お久しぶりです」
 愛が頭をさげる。
 絵梨佳に誘われ、以前に世話になった探偵の事務所を訪ねたのだ。
「久しぶりね、愛ちゃん。汚いところだけどゆっくりしていって」
 シュラインが席をすすめ、
「汚いってゆーなー」
「ゆーなー」
 夫と義妹が抗議する。
 むろん、一顧だにされなかった。
 那神や中島、みなもらも再開を祝す。
「妹がきてれば良かったんだがな」
 やや照れくさそうに挨拶するのは巫だ。
「妹さん、ですか?」
「ああ。せいらっていうんだ。アンタとはあったことがあるはずだぜ」
「じゃああのときの‥‥」
「そうそう。こーんなつり目のやつだ」
 黒髪の青年が指先で自分の目尻をつり上げてみせる。
 くすくすと笑う愛。
「はい。憶えていますよ」
 和気あいあいとした雰囲気。
 草間が心から哀しみそうなくらいアットホームだ。
「あ、そういえば」
 緊張が解れた頃合いを見つつ、シュラインが話題を投じる。
「愛ちゃんの学校の生徒でここに関わってるのってもう一人いるのよ」
「そうなんですか? 絵梨佳ちゃん以外で?」
 愛の言葉に、草間が心底いやそうな顔をした。
 言いたいことは山脈ひとつくらいあるのだろう。所長の表情を伺い、人の悪い笑みを中島と那神が浮かべた。
「ええ。いま外回りにでてるけど‥‥みなもちゃん。ちょっと呼んできてくれる?」
「はーい」
 元気に飛びだしてゆく少女。
 やがて、
「あれ? 屋城くん?」
 みなもに連れられてきた少年を、愛が目を丸くして見つめる。
 ちらりと。
 巫と中島が視線を交わした。
「あ‥‥ども‥‥」
 軽く頭をさげる咲也。
「しばらくまえから、ときどき手伝ってもらってるのよ」
 シュラインが紹介した。
 多少は脚色して。
 これが、那神のアイデアである。
 愛は探偵たちに対して良い感情を持っている。それは過去の事情を考えれば当然だ。
 したがって、探偵の知己に対しては自然に好感情を持つ。
 人間の心理とは、そういうものなのだ。
 世に、坊主憎ければ袈裟まで憎い、という言葉があるが、ちょうどそれの逆である。
「へぇ‥‥なんか意外だね」
「ちょっと縁があったから‥‥」
「私もなんだよ」
 咲也と愛。ふたりの親和力が急速に強くなってゆく。
 恋人だのなんだのというのは早計だが、良き友人にはなれそうな雰囲気である。
 それを眺めた絵梨佳が、
「良かったね」
 と、ウィンクした。
 探偵たちは、なぜか肩をすくめて応える。
 スチーム暖房が声高にレゾンデートルを主張する。
 テーブルの上のコーヒーカップから芳醇な香りがたち、事務所の中を回遊する。
 そんな、穏やかな午後だった。


  エピローグ

「ニュースニュース〜〜〜」
 絵梨佳が事務所に飛び込んでくる。
 二月の第二土曜日。
 まあ、ある人々にとっては特別な日だ。
「屋城先輩がチョコもらったってさっ! 愛先輩からっ!!」
 衝撃の報告。
 の、はずだったのだが、
「そうですかー」
「うんうん。良い感じじゃない」
 みなもやシュラインをはじめ、ほとんどのメンツが納得顔だった。
 頭の上に疑問符を浮かべる絵梨佳。
 その髪を、中島が撫でる。
「那神のオッサン。解説よろ」
「オッサンはやめてくださいよ。まあ、ようするに愛さんは屋城さんを憎からず思っているのではないか、と、俺たちは考えていたんです」
「えー? なんでー?」
「態度もありますが。彼の名前を呼んだでしょう? 会ったとき」
 微笑を絶やさぬまま解説する那神。
「そうだっけ‥‥?」
「観察力が足りねぇな。見習い探偵」
 言って、絵梨佳の髪をくしゃくしゃにする名島。
「むー」
「うはははは」
「文っちになんかチョコあげないからー」
 なんだかじゃれ合っている。
「じゃあ、代わりに私があげましょう」
 くすくすと笑いながら、シュラインが言った。
 怒濤の涙を流す草間と絵梨佳。
 事務所の壁に、仲間たちの笑いが乱反射していた。










                         おわり


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

0086/ シュライン・エマ /女  / 26 / 翻訳家 興信所事務員
  (しゅらいん・えま)
0213/ 張・暁文     /男  / 24 / 上海流氓
  (ちゃん・しゃおうぇん)
0143/ 巫・灰慈     /男  / 26 / フリーライター 浄化屋
  (かんなぎ・はいじ)
1252/ 海原・みなも   /女  / 13 / 中学生
  (うなばら・みなも)
0374/ 那神・化楽    /男  / 34 / 絵本作家
  (ながみ・けらく)

□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□

お待たせいたしました。
「ばれんたいん大作戦」お届けいたします。
ちょっと裏話をしますと、愛はもともとは準レギュラーで使おうかと思っていたんです。
でも、ちょっと良い子すぎて使えないんですよねぇ。
楽しんでいただけたら幸いです。

それでは、またお会いできることをを祈って。