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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


鬼の居る村

Opening
碇宛に、手紙が届いた。
「私たちの村は本当の鬼と暮らしています。其れはもう仲良くです。節分の時には鬼が私たちの村を襲って、私たちが豆や術具を使って追い払うという行事をやっています…」
はぁ…と何となくため息をつく編集長。
要するには村おこしをアトラスで取り上げて貰いたいと言うらしい。確かに一般大衆新聞で鬼が居ますと言っても誰も信じないだろう。
「どうかされました?」
と、似非猊下、本屋のブラックリストとも知られるユリウス・アレッサンドロが首を突っこんできた。
「ほほう、たのしそうでじゃありませんか」
「何行く気なの?」
嫌そうな顔をする碇。出来ればこの仕事は桂に頼むべきかと思ったが、あいにく彼は何時現れるか分からないし、パニックになったときの後始末が問題だ。
「じゃあ、ユリウス」
「はい?碇さん?」
「あなたがこの取材に手を貸すというなら…代わりに草間に残している依頼料1件分だけ代わりに払ってあげるわ」
「本当ですか!助かります♪」
「し・か・し、まともな記事が書けたらね!没だったら、逆に必要経費払って貰うから!いい!」
「そ、そんな、お、横暴ですぅ」
しかし、碇の威圧に負け、首を縦に振るしかない似非枢機卿。

教会に帰って事の話を星月麗花に告げると、意外な言葉が…。
「節分の村おこし?…昔はよく楽しんだから、言っても良いかもしれませんわね」
と、にこやかに旅支度を始める。どうも出かけるつもりらしい。
「他の方々もお呼びしてお祭りに参加しましょうよ、猊下♪」
麗花に何があったというのだろう。ユリウスは本能で、麗花がリバウンドでヒステリーを起こさないことに恐怖を感じた。


1.猊下、教会に戻る前に
アトラス編集部にある、白王社ビルの入り口先にはかわうそ?が弁当を売っている。時間は昼ほどだった。
「幾らかしら?」
見た目30代の和服の女性が、ナマモノの存在をあたかも当然と認識して訊いている。
「弁当500円」
「頂くわ」
「まいど〜」
「お疲れ様♪」
と、女性は意気揚々と白王社に入っていった。
「美人〜♪」
かわうそ?は実は美人が好きだったりする。ま、そんな事はどうでも良いだが。
―シッケイニャー(かわうそ?の突っ込み)。
次ぎに見覚えのある人達がアトラスに向かっていくのをコレは見ていた。
鈴代ゆゆ、田中裕介、白里焔寿、海原みあおだ。
4人とも一応顔見知りなので、挨拶だけを交わして中に入っていった。
「仕事?仕事、それは良い事」
ナマモノは納得したようにウンウン頷いている。
冬だというのに、春を感じさせる陽気であった。

先ほどの30代の美人は宮小路綾霞。宮小路家副総裁とか大きな肩書きをもつ万年新婚状態のお気楽極楽陰陽師らしい。着物姿にほかほか弁当というミスマッチな出で立ちになるのだが、何故か様になるのは不思議だ。これぞ宮小路家における七不思議である(歳の割に若い事とか色々)。彼女の目的とは、息子の宿敵と言わんばかりの碇麗香を一目見ようと今日の多忙なスケジュールから抜けだし、お忍びでやってきたのだ(当然実家はパニックらしい。息子もその影響を受けている、困った家族だ)。
編集部の入り口で、なにやら男の情けない声を聞く綾霞。其れをあまり気にすることなくノックし…。
「失礼します。碇編集長はいらっしゃいます?」
と、元気にしかし丁寧にドアを開ける。
すると、受付が暫くお待ち下さいと、応接間に案内される。
アポなども必要なのだが、碇はネタになるものならば急遽予定をも変更するということから、来客に対しては寛大である。本当につまらないネタならば、「丁寧に」つまみ出すこともするが、大抵受け持つ事が多い。また、依頼の助手としてきた人かもしれない。あの“三下”を雇っているのだから其れぐらいの心の余裕がないとやっていけないだろう。

その後に続いて、例の4人も応接間に案内される。未だ話を続けている様だから、待ってくれと受付嬢は言ったのだろう。
「結構言い争っているというか…、言い負かされているね、ユリウス」
と、ジュースを飲んでお気楽に待っているみあお。
「どんな事話しているんだろうなぁ」
わくわくしているゆゆ。
「先生はいつも困った事を…。はぁ、俺としては…ブツブツ」
元気のない裕介。
「お話しが終わるまでお待ちしましょう」
結論に達している焔寿。猫は連れていないので、新鮮かもしれない。
裕介は、ふと前の仕事や事件でであった女性が応接間に居るのをみて、
「お久しぶりです、宮小路さん」
「あら、田中君お久しぶり。どうしたの?」
「お知り合いですか?」
焔寿が尋ねた。
「ええ、幾度か一緒に仕事をしましたので」
裕介が綾霞を紹介し、皆自己紹介し始める。
「そうなんだ。じゃ、此処に用事ってことはみあお達と同じように取材の助手?」
「多分、そうなるわね。よろしく」
和気藹々と談笑モードになった。
それから、30分。
「話し長いなぁ」
ゆゆが、何故か配られたメッコールの味に耐えながら呟く。丁度、何か面倒くさそうな顔をしたユリウスと碇が、応接室に現れる。
「皆、待たせて済まなかったわ」
麗香は、まるで今居る人物がユリウスの助手である事を決定事項として喋り始めた。
「鬼ヶ丘と言われている、鬼の末裔と一緒に住む長野の県境にある村で行われる祭りの取材よ。ユリウスがそのレポを書く事になったわ。彼にとって良い取引って事かしら?ま、その辺はもう其処の似非枢機卿から訊いた方が早いから。鬼ヶ丘は交通の便は良い方だけど、死角となっているのよ。だから村おこしのために取り上げてくれと手紙が来たの」
麗香は、淡々とユリウスを無視して話を進める。
「確かに鬼の末裔と人間が共存しており、産業は農業と林業とイノシシなどの狩り。地酒銘『鬼宴』はかなり旨い。淡麗辛口も濃厚甘口(濁り酒)があるそうよ。ユリウスの助手をしながら、祭りを楽しんでいてもOKだから。…他に質問ある?」
と、一旦話を止めた。綾霞は彼女の仕事ぶりに感心している。村の情報を訊いて、綾霞は少し目を光らせた。そう、地酒の『鬼宴』に食指がうごいたのだ。どうも、宮小路と天薙の血は酒がお好きならしい。
一方、悄気ているユリウスは弟子の裕介に慰められているようだった。
「えー!?レポート没ったら逆に費用を払えって?」
「そうなんですよ…反対しようとしたんですけどねぇ」
「…まったく先生は…」
そして、影を落とす人物が1人増える。
ゆゆは、鬼がいるという事で少しビックリしたのだが、今では鬼の友人が出来たので、さほど怖くないようだ。みあおは、ユリウスの姿をみて笑っている。また、麗花と遊べるかもしれない期待を持っている。焔寿はと言うと、少し考え事をしているようだ。
「特にないようね…じゃ、ユリウスと皆さん頼んだわ」
と、麗香は自分の持ち場に戻ろうとしたとき、
「ユリウスさんですか」
「はいぃ?」
綾霞の声に元気なく答える似非猊下。まるで三下並みの気弱さオーラを醸し出している。
「何か色々事情があるようだけど、話してくれないかしら?」
「ええ、良いですけど…」
と、取材の報酬とその罰を遠回しに長ったらしく話し始めるユリウス。
「成る程ねぇ。じゃ、私が其れをすこし肩代わりしても良いかしら?それならやる気が出るってものでしょ?」
綾霞の爆弾発言。麗花は少し眉間に皺を寄せていた。
「え?ほ、本当ですか!」
「ま、私も慈善事業じゃないから、貴方次第だけど?でも、必要経費ぐらいは半分持ちするわね」
「あ、ありがとうございます。コレで麗花さんにも話ができますよ!」
と、感激しているユリウス。
「れ、麗花さんに言うのですか先生!」
「そうですよ。彼女に言わなきゃ…何を言われるか…」
「まぁ…確かに」
裕介の狼狽ぶりを無視し、ユリウスは答える。
「面白そう♪」
そのやりとりをみてみあおとゆゆは笑っていた。
「じゃ、きまりね」
綾霞は、少し不機嫌な顔をしている碇に対し不敵な笑みをみせていた。
それを何時の間にか一部始終覗き見しているナマモノが居る。
ソレから言わせれば、こうだ。
「…何故、あの美人優越感持っているの?」

と、言うわけで、ユリウスは少しブルーな気持ちを持ちながら(多少軽くなったが)教会に助手(?)を連れて教会に帰るのである。
そして、麗花の参加表明で、裕介は不安がり、みあおは嬉しがった。
「猊下はお仕事頑張って頂いて、皆さんで楽しみましょうね」
と、麗花は天使のような微笑みをみせて、無意識に裕介の手を握っていた。
ソレを見逃すはずのない、女性陣はニヤリとほくそ笑む。ユリウスは責任(いや取材という面倒さ)で鋭さを失っている。
後から付けていた、例のアレも笑っていた。


2.鬼ヶ丘に
まず、各自旅行の準備をするため一旦家に戻ることになり、集合場所はこの教会となった。
気苦労の絶えない裕介、後はお気楽に遊ぼうと考えていたりするゆゆとみあお、何か手がかりを掴みたいと思っていたりする焔寿。あと、元気な奥様は携帯で暫く休暇を取るという事を連絡し又実家を大騒ぎにしているようだ。
「でも、鬼ヶ丘について分かるところは調べてちょうだい。明日出発だから」
[えー!…わ、わかりました]
何か無茶な注文しているようである。
裕介は、麗花の霊媒体質を気にかけており、ユリウスと彼女と行動する事と決めた。

そして、集合。
アトラスから借りたマイクロバスで出発。運転手に皆目を見張る。
そう、例のナマモノだ。
「かわうそ?が運転するの?」
ゆゆが不安そうに訊くが、
「運転手のバイト」
平然と頷くナマモノ。
「ふ、深く、か、考えるのはよしましょう」
「だ、だよね…ユリウスより安心できるから」
「そんな私って、かわうそ?以下ですか?」
「うん。ユリウス、鬼ヶ丘までのアクセスルートとかしっかり調べてないでしょ?」
「…」
どうもユリウスは下準備らしき事前調査をやっていなかった。
「ダメじゃないですか、先生」
裕介はため息をついた。
麗花はやっぱりナマモノの存在に恐れおののき、パニックになっていた。
「な、何故動物がバスを運転できるんですか!猊下の仕業ですね!…猊下!」
「ち、違いますって!それはアトラスの碇さんに仰ってください!」
「いーえ、こんなおかしな真似するのは、猊下しかいません。猊下!正直におっしゃって下さい!いい加減にしないと…」
「まって…まってください、れ、麗花…さ…ん」
と、信心深きシスターに首を絞められている情けない似非猊下。
「待って下さい、麗花さん…これは」
裕介達は何とか麗花を宥めるため話をした。
「そ、そうですか…。皆さん達がおっしゃるのなら。そうなのでしょうね…大変失礼しました」
と、何とか理解(?)して、失神寸前、霊魂が口から抜け出しかけのユリウスの首を絞めるのを止めた。
「楽しい旅行になりそうね」
「ですね〜」
のんびり構えるのは、綾霞と焔寿だった。
「では皆、鬼ヶ丘までご案内〜」
と、ナマモノは何事もなかったように皆を乗せてマイクロバスを走らせた。

道のりは順調。渋滞にも巻き込まれず、悪天候でもなく。鬼ヶ丘に付く。
「隠し村の結界が生きていたのね」
と、綾霞が道中に気が付いた事を口にした。
「というと、鬼ヶ丘は術師も居たのでしょうね。今はどうか分かりませんが」
「でしょうね」
焔寿と綾霞は鬼との共存がどういったものかを推測しながら話をしている。
ユリウスも、この隠れ蓑の結界が少しだけ生きている事を感じているし、麗花も裕介も分かる。
「在るべきかなくすべきか、村が考える事ですね」
と、裕介が言った。
鬼ヶ丘の入り口らしいところにバスが止まる。
「到着〜」
時刻は夕刻だった。山側に藁葺きと瓦葺きの家があり、大通り側には現代住宅が並ぶ見た目200世帯かと思われる田舎だった。まずは手紙を出した人物に会うべく、通りの人に声をかける。
その人物はすこし人より身長が高く、がっしりしており、人間では持ち運べないような荷物を片手で運んでいる。
「その人なら、この道をまっすぐだ」
と、親切に教えてくれた。
「どうもありがとう」
教えてくれた人に礼をして、皆は手紙を出した人の家に向かう事にする。
瓦葺きの大きな屋敷で、武家屋敷を思い起こさせる。
「大きなお屋敷ですね〜」
「ユリウス。感激する前にすることする!」
「わかりましたよ〜」
みあおに急かされ、ユリウスにベルを押させた。
暫くすると小さな門が開き、割烹着をきた女性が現れた。
「どちら様でしょうか?」
「アトラス編集部から、取材できましたユリウス・アレッサンドロとその助手一行です…」
と、ユリウスは珍しく自己紹介と用件を簡潔に女性に伝える。
「どうぞ、どうぞ。お館様が待っております故」
と、女性は案内してくれた。
「雨降りそう」
と誰とも無くユリウスを知る者が言った。

真ん中に囲炉裏がある広い居間でゆっくり待つ。
「よう来て下さった。助かります私がこの村の代表、眞上でございます」
と、手紙の主、眞上健五郎という大柄の人物が現れた。身の丈6尺は越すだろう。どう見ても鬼の血を引いているしか見えない。
「「「「はじめまして」」」」
「初めまして皆さん。ま、長旅で疲れたでしょう。食事しながらどうですか?」
と、気さくに声をかける辺り、昔の村の排他的な考えを持っていないようである。
「賛成です流石に長時間座っていると」
苦笑するユリウスと一部の人々。
「ここのイノシシと酒は旨いですからな」
と、いきなり宴が始まった。
話しと言っても、手紙に書いて在る通り、数日間節分の祭りをするということと、簡単に歴史を教えてくれたぐらいで、夜は更けたのであった。


A.〜鬼ヶ丘の歴史説明と、一般的な鬼の違い〜
村の歴史は至って単純だ。
鬼と人が争う中、共存しようと志す者もいる。そうして何百年もかけてできた村が鬼ヶ丘という。険しい所に移り住む事で、外敵から身を守りやすくする。鬼の力強さと人の知恵を合わせて、極端派、退魔師の類を退ける事にずっと成功していたのだ。もちろん。死にかけた鬼や人を手厚く保護して、仲間にし、近隣の村々とかなり交流があったらしい。ただ、村が出来たときは厳しい時代だった故に隠れ蓑の結界をはったのだ。江戸時代から徐々に知られていったが、又戦乱の時代に入った明治大正昭和初期の長い年月、争いを嫌う村人は結界を更に強化し、失われた村として細々と生き抜いていたのである。そして、今は過疎化問題が起こり、アトラスに取材という形で依頼してきたのだ。
また、鬼は鬼でも、悪鬼と自然の鬼は違うという。鬼というのは妖精種と考えられ、亜人間であると位置づけられる。自然の鬼は実際おとなしく、山でひっそりと住み、自己鍛錬などに励み、知識と知恵を人と交換するという力ある賢者、修験者だというのだ。悪鬼というのが、悪意や魔に染まった鬼のこと全般である。もし魔に染まった鬼や人ならば、この隠れ蓑結界を見破る事は出来ないという。鬼が恐れられる理由は人を食う事である。しかし、その理由は食物連鎖で簡単に片が付く。人間より大きな力を持っている鬼とは、より栄養を必要とするのは当然だ。肉食の妖精種ならばその中でも魂というのが大きな栄養素となる。吸血種や幻想種が何故人を糧とするかも同じなのだ。霊長の魂と血肉は最高の栄養となる。しかし、自然種、特に妖精種の鬼はよほどの事がない限り人を食さない、いや、食してはならないという掟が存在する。人間を食すると、寿命を延ばす事が出来るし、更なる力も身に付くのだが、その分、ある『枠』が外れ、自分の居る環境が激変するのだと。そのために悪鬼になった鬼の周りでは悲しい出来事が絶えないというのだ。また、そう言った掟が在る以前に自然種の鬼とて知恵があり会話できる者を食したくないし、自然の管理人であり修行者であるのでソレを禁ずる事が多い。人間に似た良心が存在しているのだ。悪鬼は、単に快楽や空腹のために人の魂や肉を食う。趣味で人を殺める。この事柄は人間の倫理観に似ているだろう。
この時代まで残った鬼ヶ丘は、自然と共に生きた者の成果、また鬼という存在は元々害無き存在であるということだろうか?


3.おまつり開始前。
心地よい朝日で目覚める一行。まず、皆は顔を洗い、朝食をいただく。
「まず此処の村での祭りを詳しく説明しましょう」
と、眞上が言った。
極普通の節分と違い、自然種の鬼と人間の友好を深めるため、神輿を担ぎ、自然界の神々に豊作などを祈願するという良くある祭りなのだ。当然、他の村との交流の遺産ともいうべき豆まきが存在するが、それは村人の成人式に使われている。塩で人の身を清めるというように、豆を投げつけるのでなく、振りかけるという。
「なるほど〜。流石に豆まきで鬼を痛めつけるのは行けませんね」
ユリウス一行は感心していた。
皆感心する。鬼を崇拝する村なら、鬼に当てなくても豆をまく事は当然あったりする。しかし、ここでは違っているようだ。
「そうよね。鬼を追い出すようなまねごとは出来ないよね」
ゆゆや綾霞は納得している。豆の効果は悪鬼を払う力があるが、只の妖精種に効果すらなければ、只の石を投げているに過ぎないし、鬼を追い出す理由が此村にはない。
「かなり昔はそう言う行事はなかったのですが、交流ができたことにより…手紙で書いた豆まきはごっこ遊びのように楽しむ感じで行っておりますよ」
と、眞上はにこやかに言った。
「最後には、神輿に厄をため込んだ人形や札などを積んで燃やします。その時にも火に向かって豆をまきます。このときが一番大きなイベントになるでしょう」
と、眞上は言った。

大体の事を教えて貰えば、子供は遊ぶに限る。とはいっても、しっかりお仕事をこなそうとする辺り、ユリウスとはえらい違いだ。ゆゆはすっかり鬼との混血や人の子と混じって豆まきごっこに参戦しているし、みあおは、デジカメを持って、鬼の末裔の人に話を訊きに行っている。焔寿はというと、眞上に、
「文献など過去の書物などはありますか?」
と、訊いていた。
「この家の奥に倉が書庫代わりとしてあるよ。しかし昔の文字だから読めるかどうかは…」
「助かります」
と言って、倉まで案内され、色々と書物を読んでいる。
「皆さん、お仕事が早いですね〜」
ユリウスは、縁側で紅茶を飲んで一服している始末。麗花はというと…裕介と一緒にいて色々村を回っているようだ。綾霞は、コレといった悪霊の類が来ない事を安心してか単に祭りを楽しみにしている感じである。
「あー変わった動物だ〜おいかけろ〜」
「いやー」
この所、ナマモノは目立つみたいだが、アレはアレでそれなりに楽しんでいるようだ。

「あー裕介、麗花ばかりと居るなんてずるい〜」
と、一仕事終えて麗花と遊ぼうと思ったみあおの声。
「え?え?」
麗花は何かよく分かっていない。
「みあおちゃん、彼女の体質の事を知っているよね?」
「うん」
「その護衛なんだよ」
「そっか、でも…なんか…」
「??」
麗花はそれでも気が付いていない。
「お似合いだね♪お邪魔したのは不味かったな」
と、ぺこりと挨拶して2人から離れた。
「どうしたんでしょうみあおちゃん?」
「あーさ、さぁ…どうしてでしょうねぇ」
あまり理解していない麗花と、どもっている裕介。
その直後、裕介にピンポイントで豆がマシンガンにでも充填したかのような勢いでぶつけられた。
「いたたたたたた!」
「大丈夫ですか?田中さん!」
「美しい姫をさらう盗人発見、その男を退治だ!」
村の子供のガキ大将が、(どうやって豆を充填できるように改造したのか分からないが)豆まきエアガンの重装備で如何にも軍隊ごっこといわんばかりの姿を現した。
「ひ、姫!?」
「盗人?」
裕介と麗花は目を丸くする。そして互いに顔をみた。そして、村には良くいる悪戯好きなガキ大将豆まき軍と裕介のかなり危ないじゃれ合いが始まったのである。

ユリウスはと言うと、やっと重い腰を上げたのか、各所に回ってレポートを書くため取材を開始した。助手としてみあおが来る。
「ほうほう、では…こういう事なんですね〜成る程」
と、新品のメモ帳に使い慣れた面念筆でレポートをイタリア語で書いていく。報酬が草間の滞納と言う事だから熱が入るのだろう。
「あのね、他にも色々あるっていうよ、ユリウス」
「そうですか?どんなこと」
「豆まきの豆って大豆だけど…実はもう一つあるんだ」
その言葉に、ユリウスの顔は蒼白になった。
「そ、その場所には、あ、あまり行きたくないのですが…」
「でも、取材にならないって。此処って実は和菓子がとっても美味しいところなんだから!」
「だからソレは勘弁して下さい!豆腐ならまだしも!」
「そうよね、しっかり仕事しないとね」
綾霞もみあおの賛同。
「妹のお土産にいただかなきゃ。行きましょう、ユリウスさん」
「いやですぅ〜」
「仕事大事〜♪」
ユリウスにははっきり言って拒否権はなかった。そして、彼はあんこ臭い工房を体験し、更に顔面蒼白になって戻ってきたのだった。
みあおと綾霞はできたての暖かい饅頭と大判焼きを口にしてご機嫌であった。
「あ、あとで麗花に言わなきゃ」
麗花は甘み全般好きなのだ。
「そうだ、ユリウス、今度はお酒だね」
「そ…そうですね…」
ワインの方が良いのですけど…あんこより数倍マシですね。と、あんこ嫌いのユリウスは思った。
みあおは、未成年なので甘酒、大人2人は絞り立てをいただきながら酒造の取材を続ける。
「おいしいぃ」
「なかなか口当たりが良いわ」
「私も、食わず…いえこの場合、飲まず嫌いは行けないと思いましたよ」
この「鬼宴」の旨さにビックリする3人だった。
酒の旨さですっかりあんこの事など忘れてしまったユリウスは、豆まきの被害に遭いながらも、しっかり仕事をこなしていくのであった。

ゆゆは、村の子達と豆まきに参加している。鬼の末裔は仮面を被り、凄く怖い格好をして「悪鬼」になりきって襲ってくる。ソレをまめと術具で追い払う、遊びだった。
でも、ゆゆはそれでも可哀想だとおもってあまり鬼に向かって投げないで居た。
「お姉ちゃんそんなことじゃ、厄が取れないよ」
と、子供が言う。
「う〜ん。でも、いつも仲良くしているのにこのときに限って追い払われるってのって可哀想だなぁって」
「あの仮面や服装はしっかり豆の痛さをなくすように術が施されているから大丈夫。こっち(人間側)だって」
と、子供が指さすと鬼側が子供を捕まえ、思いっきり投げている。ソレに唖然とするゆゆ。
「あ…う…」
「昔の厳しさを体験するための遊びなんだって」
「でもソレやりすぎって、きゃー!」
鬼がゆゆを捕まえて、そのまま、藁を積んだ場所に放り投げた。
とうに教えている子供は未だ豆を投げる準備が出来ていなかったのか、逃げていく。
「あう〜」
「ごめんね、でも、この祭りは油断大敵だよ」
鬼役の鬼の子が、親切に彼女を救い出した。
「な…ハードな豆まき大会だね…」
フラフラになってゆゆはそう答えるのに精一杯だった。


B.〜鬼に関しての記述:焔寿が読んでいる古書物を現代訳したものより抜粋〜
妖精種としての鬼が崇拝対象神になる事はある。それは既に神域の力を手にしており、鬼もしくは人の集落に崇められる事で、その精神を力とする事からだ。崇拝対象となった鬼は人を食わずとしても更なる力を得る。しかし、悪鬼が崇拝すればどうなるか?もちろんその崇められる鬼が人を食わずとも、悪鬼の精神を得る事で己も悪鬼となる。例外は存在するが、大体の鬼は最終的に人を食う事になり、悪鬼となる。只鬼は個体数が少ないためと、自己顕示欲が強いために協調性がない。悪鬼になった者は何れ殺されるか封印される。また人を食わずとも、鬼と分かれば人に迫害を受け、隠れ住む。闘神として崇められる者は、悪鬼であろうと無かろうと、人にとっては驚異となるため、戦いになる場合が多い。反面、闇狩りという商いをする妖精種もしくは精霊種の鬼がおり、ひっそりと人の世界に活躍する者がいる。元から妖精種でなく精霊すなわち、魂のレベルが格段に違う鬼の場合…当然崇められやすいか危険視されやすい。そうして、神としてなった者の末路は…封印か戦い命を散らすの悲しき運命。良くて英霊として崇められ正当な神として認知される事になるのだろう。


4.倉から見える〈鬼ヶ丘〉
焔寿は、倉の中で書籍を読み疲れた身体を背伸びで回復させる、
倉の窓から一つだけ古墳に似た丘を見つけた。
「何かしら?」
急いで眞上に訊いた。
「あそこは、この村を築いた先祖の墓だよ」
眞上はにっこりと笑う。
「しかし、あの墓は飾り。本当は誰も墓など知らない。又先祖の鬼が死んだという記述も伝承もないですよ」
「連れってってくれませんか?」
「構わないけど、全く霊も感じませんよ?お嬢さん」
「でも、行ってみたいです」
眞上はため息をつき、古墳に焔寿は案内して貰った。
「確かに…霊も何も感じませんね」
只の土と石を組み合わせた人口の丘。其れには何も記述がされていない。それに、石棺まで通じる通路すら見あたらない。
「何もない丘ですが、この丘を手入れするのが此村の代表のつとめであります」
「何もないのに、ですか?」
「ええ、でも、しなくてはならないような気がするんですよ」
眞上の言葉には長き年月を思わせる言葉が込められていた。
焔寿はその重みの理由は一体何なのか分からなかった。


5.祭りも本番
神輿が担がれ、更に盛り上がりをみせる鬼ヶ丘の祭り。
思いっきり子供達と遊んだ裕介と麗花と、ゆゆ。みあおは又別の鬼の末裔と友達になって遊んでいる。ユリウスと綾霞は、酒を飲みながら祭りを楽しんでいる。焔寿は、屋敷からその賑わいの声を聞いている。
「子供って可愛いですね」
麗花は始終ご機嫌であった。鬼役に強制決定された裕介と其れに捕まえられた姫君というシチュエーションが楽しかったらしい。子供は手加減せずに裕介を狙いまくった。ゆゆもそこで合流し、其れはもう戦となっていた。
鬼の役目の服装は豆の痛さを無効化するので裕介も乗り気満々で
「麗花姫は俺の嫁になるのだ〜」
「そうはさせないぞ〜!」
とか、もう微笑ましい事限りない。が裕介は少し天空剣の気功術で対抗しているという…意外にマジになっていた。
「くそ!法具も豆も効かないとは!」
子供達も更にマジだったりする。コレでは締めの神輿の豆まきまで間に合わない。ゆゆは裕介鬼にたいして、在る幻術を使い恐怖に陥れ、一斉射撃でめでたく麗花姫を救い出す事に成功した。
「な…なぜ…あそこでハリセンとあの子が!」
謎の発言をする裕介。
「なにか憑いたんじゃないですか?本当に厄よけしますか?」
麗花は心配そうに訊く。目の前にゆゆが居たのでハッと気付く裕介…。
「大丈夫ですよ、麗花さん」
と、我を取り戻す裕介だった。

「でも迫真の演技でしたね」
「一寸本気になってしまいました」
なかなか仲の良い2人を、遠くでみる他一行。
「良い雰囲気だね」
「だね」
「茶化す事はやめておいた方が良いわね」
「…私はやりたいんですけど」
「麗花が怒るとさきに襲いかかるのはユリウスだよ?全くこりないんだね」
苦笑するみあお。

そして皆に豆が配られ、厄をため込んだ品々が神輿に積まれていく。
「クライマックスだね」
みあおが先に立ち上がる。其れに続いて皆が立ち上がり、村人と共に神輿に向かって豆をまいていった。
「福は内―」
というかけ声だけ木霊する鬼ヶ丘。そして勢いよく燃える厄を払う神輿だった。


Ending
祭りが終わったあと、眞上邸でイノシシ鍋と地酒で宴を楽しむユリウス一行。
イノシシ鍋も美味いし酒も旨く、大人はご機嫌だった。
みあおなど子供達の方はと言うと、眞上にイノシシの真空パックや地酒などを貰う手続きしている。なかなか手際が良し。ゆゆも地酒を貰ってうきうきしている。
ユリウスも麗花も自分と友人のためと思って地酒やらお土産などを手に入れる段取りをしている。
取材の仕事も終わったので、後は観光客気分。
後1日だけのんびりして帰る事にしたのだ。

アトラス編集部では…
ユリウスは冗句のつもりでイタリア語の原稿を出だした。碇はユリウスを怒ろうと思ったが、考えてみればユリウスはイタリア人。書きやすい方を好むのは、仕方ないことだ。それに彼なりにしっかり日本語で書き綴った原稿も後でうけとった。彼の特徴である長ったらしく言い訳じみた書き方でなく、しっかりとした取材レポートだった。それにみあおから貰った祭りなどの風景の写真データも揃っている。コレについては合格である。それに悔しいが、宮小路綾霞のバックアップのおかげで、アトラスの出費はかなり抑えられた。何せあの似非猊下の草間に対しての滞納は恐ろしい額だったのだから。下手すると赤字どころではないのだ。もう一つ原稿があった。コレは焔寿が纏めたものらしい。少しだけお借りする事にしようと考える碇だった。

更に数週間後のことである。
麗花とユリウスは少し後悔していた。
イノシシの肉は有る程度捌けたが、冷蔵庫にはまだ地酒が残っている。ワイン倉にも数ケースあるそうだ。
「この辺は2人で打ち合わせた方が良かったですね、猊下」
コレには麗花も責任があると思い猊下を責めない。
「2人揃って、同じ数を手に入れて…アトラスの方にはもう届けたし…ワインが恋しくなりました」
苦笑するユリウス。
「でも、お酒好きな方は、結構居ますから時期無くなりますでしょう」
「ですねお酒好きはいっぱいいらっしゃいますから。えーっとあの異世界の神様とかですね」
「ええ…金髪の方には合いたくないですが…銀髪の方なら大丈夫かと」
と、二人して項垂れていた。
一方、ユリウスの弟子のほうは、留守の間は忙しかったが、して充実している毎日だったらしい。なので今は女性とデートというおいしい休暇を貰っていたりする。


さて、例のアレというと…其れはご想像におまかせする。


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0428 鈴代・ゆゆ 10 女 鈴蘭の精】
【1098 田中・祐介 18 男 高校生兼何でも屋】
【1305 白里・焔寿 17 女 天翼の神女】
【1415 海原・みあお 13 女 小学生】
【2335 宮小路・綾霞 43 女 財閥副総帥(陰陽師一族宗家当主)/主婦】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『鬼の居る村』に参加して頂きありがとうございます。
今回は色々別行動などになりましたが、如何でしたでしょうか?
豆まきが実はサバイバルゲーム並と大仰になりましたが…、何も大きな事件もなかったです。
お気に召しますと幸いです。

宮小路綾霞様初参加ありがとうございます。


では、機会が有ればお会いしましょう
滝照直樹拝