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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


『 St.Valentine In Wonderland 』


 紺青茶房店主、李晋は考えていた。
 寒風の吹く、如月。
 女性客の服装は日ごと春めいている気もするが。それはさておき。
 明日は、バレンタイン・ディ。
 茶房のメニューにも、季節限定のガトーショコラやチョコクッキーが並んでいた。
 冬には人気のココアも、「ホットチョコレート」に変える徹底ぶりである。
「――ええ、と」
 李晋は、カウンター席を見て溜息をついた。
 何度見ても、そこに座っていた少女が消えている。手をつけたばかりのガトーショコラと甘酸っぱい香りのハーブティを残して。
 そして、カップの横には1冊の本。タイトルは、『西洋菓子の規範』。
「これは――どうしたものでしょう?」
 その料理本に取り付いているモノのことを李晋は知っていた。ほんのすこし用心すれば取り込まれるようなモノではないから放っておいたのだが――対処しておくべきだったのかもしれない。
 思わず溜息がもれて、慌てて口元を抑えた。
 溜息をついてはいけません。幸せが逃げてしまいます。
 どこかで聞いたような教えを思い出し、李晋はさっくりと食器洗いに戻った。

「きっとたぶん、なんとかなるでしょう。ええ」と、嘯き。


     □  ■  □


 少し時間をさかのぼる。
 海原・みなも(うなばら・―)は、見慣れない店のドアの、目立たない店名と姉に渡されたメモを見比べて小さくうなずいた。
「お姉様に指定されたお店……ここですね」
 ドアを押せば、からんと鈴がなる。
「いらっしゃいませ」
 店の中から聞こえたのは柔らかな声で、みなもは少しほっとした。
 ――誰だって、初めてのお店に入るときは、少し緊張するものだから。
「おひとりですか?」
「あ、いえ。お姉様と待ち合わせをしているんです。ここで待っていなさいと言われたので……」
 どこに座ろうかと視線をめぐらせたみなもに、店主から「よろしければ、カウンターへどうぞ」と声がかかる。
 ちょうど人の少ない時間帯なのか、店内には殆ど人がおらず、どこへ座ってもよかったのだが――みなもは少し考えて、やはりカウンター席に腰をおろした。
 そこが、いちばん落ち着くような気がしたから。
「この時期はヴァレンタインに合わせた、ケーキセットが女性には好まれるようですが。みなもさんはいかがですか?」
 店主の柔和な笑みに、みなもはつられるように微笑んだ。
 名乗る前に、名前を言い当てられたことにも気付かず。
「食べたいんですけど……やめておきます。お姉様との待ち合わせですから。ひとりで食べるわけには……」
「仲がよろしいんですね。でしたら、御茶だけお出ししましょうか。外は寒かったでしょう?」
 ――ことり。
 みなもの前に置かれたティーカップには、ローズヒップの香のするピンク色のハーブティが入っていた。
「可愛らしい御客様へのプレゼントです」
「そんな……ありがとうございます」
 はにかみながら頭をさげると、ふと、カウンターの片隅に置かれたケーキの本が目に入った。

『西洋菓子の規範』

 なかなか古い本らしい。なぜって、横に書かれた文字が、右から左へ流れている。
 少し戸惑いながら、みなもは本に手をのばした。
 ぺらりと表紙をめくると、少し黴くさいような、古い本のにおいがした。
(……図書室のにおい)
 みなもは、こっそりと思う。
 随分と昔の本のようで、今のケーキなどよりも華美さに欠けるが、素朴そうな菓子の作り方が載っていた。
 年頃の少女らしい好奇心も手伝って、みなもはぺージをめくる。
 そのうち、みなもの心にひっかかるような、可愛らしいマジパンの作り方が載っていた。
 いたずらそうな目。ピエロの服装。
 みなもは、鞄からデジカメを取り出し、店主に声をかけた。
「すみません。ここのページ、写真にとってもいいですか?」
 店主が今初めて気付いたように、みなもの手元の本を見る。顔が硬張っていた。
「だめです。早くその本を――――」
 店主の言葉は遅かった。
 みなもは、いきなり本から発せられた光につつまれるように、意識を失った。



 それは、まるで夢の中。
 どこかに果てしなく落ちていくような感覚はあるのに、落ちている速度や恐怖は感じない。いっそ、うたたねしているときのような心地よささえある。
 が、その感覚も唐突に終わった
 ずべちゃっ、と。
 みなもには、あまり楽しくなさそうな音とともに。
 どうやら、何か弾力とぬめりのあるものの上に座っているらしいと気付く。
(ええと……あたし、あの本を開いて)
 光に包まれて意識を失って……。
 そこまで思い出したみなもが、はっとして顔をあげれば――――そこは、巨大なチョコレートケーキの上。
「きゃあっ」
 そのケーキの上に座っているのだから、当然、スカートはチョコレートクリームまみれだった。
「しかも失敗作ね。焦げ臭いわ」
 近くからした声にふりむけば、ピンヒールの美人が飾られた板チョコの上に立っている。
(あたしもあそこに降りたかったです……)
 みなもは心から思った。
 ピンヒールの美人は……何かしらの能力の持ち主なのか、まるで蟻地獄にのめりこんだように身動きのとれないみなもの傍まで、ケーキの上を平気な顔で歩いてきた。
 その間、カツカツという音がきこえないのが不思議なくらいに、ピンヒールは沈まない。
「大丈夫? ……て、聞こうかと思ったんだけれど。酷いわね」
「は、はい……」
 お気に入りの制服のスカートは、既にチョコクリームまみれ。
「あの店、ときどきこういうモノが置いてあるの。災難だったわね」
 長い髪をかきあげると、みなもをケーキの上へとひっぱりあげてくれた。
「ありがとうござ…」

「いっえーい☆ みんな、燃えてるかあ!」

 ぱちんとウィンク。腰に手をあて投げキッス。
 ポーズは完全に決まったあ!
 ……しかし、聴衆――たった2人――からの反応はない。
「いかん! いかんなぁ、若人よ。そんな呆けた顔をしておっては♪」
 人差し指を唇のよこにたてて、「ぴぴぴ★」と横に振ってみせた少女――は。
 緑色をしたカエルの着ぐるみに白いルーズソックスをはき、どこにでもありそうなセーラー服をきて、星型のかざりがたくさんついた魔法少女のような「鞭」を持っていた。
 あまつさえ、その鞭をびしばしと鳴らすたびに、オレンジやピンクのコンペイトウが飛びちる。
「ココはいったいどこかしら☆ そんな疑問をアナタも抱いているはずよッ」
「抱いてないわ」
 きぱりと言い切る女性を、カエル少女(?)は無視した。
「そんなアナタに、可愛く簡単に御説明♪」

  ここは、お菓子の本の仲。
  ほら、アナタが見た『西洋菓子の規範』。アレの中なの☆
  あたし? あたしは、メイコ。
  ちょっと恥ずかしいんだけどぉ〜、あんまり上級じゃない悪魔ってトコかしら♪
  あたしを打ち負かす御菓子を作ってくれないと、アナタを本の養分に食べちゃうの☆

「だってぇ〜、あたしが現役バリバリだったころには、バレンタインはやってなかったんだモン♪」
 ぷるぷるんっと可愛らしく頭を振ってみせる。
「だからって、ケーキの上に落とさなくたって……」
 呟くみなもは――なぜか、へびの着ぐるみ姿。
 上半身だけはセーラー服のままなので、腰の少し上のあたりで、へびの頭がたまっている。
「言っとくけどぉ。イマドキ、蛇に睨まれた蛙なんてはやらないわよ?」
「違うんですっ。これはスカートがクリームまみれになったから仕方なく……っ」
 ぴょんぴょんと飛びはねて抗議するみなもは、カエルなメイコよりも、はるかに可愛らしい。
(お姉様……もしかして仕組んだんですか? お姉さまの仕込みなんですか!?)
 みなもは、思わず心の中で姉に呼びかける。
 ……にっこり笑って、「そうですわ」と言われそうで、ちょっと怖い。
「とにかく、あたしのささいな嫌がらせなんだから。笑って許してぇ〜ん――って、あら?」
 メイコは、ふと視線を上に向けた。
 みなもと女性がつられるように視線を上にむけると……誰かが落ちてくる。

 ひゅるるるるるるるるうぅぅ―――すべちゃああっっ。

 そして、夏野・影踏(なつの・かげふみ)は、みなもとは比べものにならないくらい派手に激しく、チョコレートケーキにダイヴした。
「うわっ。これ、なんだよ。見境無く食うなよー」
 しかも、このケーキぼっそぼそ。思いっきり失敗してるよな?
 べたつくクリームをかきわけ、ぶつぶつ呟きながら、やっとのことで身を起こす。
 空中で交差する影踏とメイコの視線……。
「はぁ〜い! いっちめいさま、ごあんなーい☆」
「はあ? カエル女 !? さぶ……」
 おおげさに顔をしかめた影踏を、メイコが鞭でびしっと叩く。
 飛んだコンペイトウの角が、心なし他のものよりもとげとげしかった。
「あはん。教育的指導って重要ね♪」
 ぬおぉ…と、うめく声をバックに、メイコがあさっての方角をむいて爽やかに笑った。



「……なあ。現役バリバリって、そもそも死語だと思うんだけど」
 コンペイトウに刺され、痛む頬をさすりながら、影踏が特設キッチンに向かう。
 鞭を振りふり、効果音つきでキッチンが出現する様子は、なかなかシュールだった。
 気をつけないと、コンペイトウを踏んで転びそうだ。
「そう思わないか? えっと……」
「あ、みなもです。あたし、海原みなもっていいます」
 ぴょこぴょこと移動しながら、みなもが微笑む。へびの着ぐるみは足が出ないから、ちょっと動きにくい。
「お姉さんは澪子でいいわよ」
「オレは夏野影踏。よろしくな、どじょうちゃん。おばさ――」
 言い終えるか終えないかのうちに、影踏は絶叫するハメになった。
 みなもが、ひょいとのぞきこむと、ピンヒールの先が影踏の靴に突き刺さっている。
 突き刺さっているとしか形容できない状態になっていると言うべきか。
「……教育的指導って重要ね」
「はい」
 南洋系人魚にもかかわらず、どじょうよばわりされたみなもも、これには素直に同意した。

「メイコの3分クッキング♪」
「3分で菓子が作れると思ってるのか、カエル女」
 待ちくたびれているらしいメイコに、影踏が、ごく当然の突っ込みを入れつつ、料理は進む。
 料理は苦手なの、と断言した澪子が、それでもなんとか挑戦しているのは、チョコを混ぜたスコーン。
 わりと基本的な路線だが、ねばつくはずのない生地が手に貼り付いてうねっているあたり、既に失敗かもしれない。
 その隣では、みなもが小気味いい音をたてながら、アーモンドを砕いていた。
「あたしは、ただの中学生ですから」
 はにかむみなもが目指すのは、おいしいチョコレートケーキだ。間違っても、さっき埋もれた焦げかけ&ぼそぼそのケーキではない。砕いたアーモンドと苦みのあるココアを、手早く生地に練りこんでいく。
 上に飾る苺もセレクト。
 オーブンは、今ではあまり目にしないガスオーブンだったが、どうにか上手く使えそうだ。
 ただの中学生ですからと言い切るには、けっこう無理がある手際のよさだ。
「知ってるよな、かみなりおこし」
 そういって、餅米と粟を一緒に炊いているのは、影踏。
 こちらも、一般宅では使われなくなって久しい「おかま」を使っている。
「雷門の前の仲見世で売ってるだろ」
 メイコは、あからさまに「はあ?」と顔をしかめた。
「雷門の『前』って、ネゴト言ってるの?」
 ――ちなみに、明治時代に『雷門』はない。明治維新の少し前に焼失して以来、戦後の昭和35年にいたるまで約100年間、雷門は地名でしか存在していないのだ。寅さんでもおなじみの『雷門』は、意外と新しいのである。(マメ知識)
 よって、明治生まれの明子……もとい、メイコが知らなくても仕方ない。
「おまえ、遅れてるもんな。いいか? かみなりおこしは、現代の東京の最先端なんだよ、メイコ」
「……えいっ☆」
 ぴしんと鞭をうつと、影踏の頭上に大きなコンペイトウが出現した。そのまま自由落下。ざくりと刺さる。
 どうやら、「遅れてる」のひとことが、逆鱗だったらしい。
「この、カエル女……」
「激烈美少女のメイコちゃんて呼んだら返事してあ・げ・る♪」
「絶・対・に! 呼ばねえ」
 喧嘩になりかかる影踏とメイコ、放っておけずに止めに入るみなも。
 そんな光景が何度もくりかえされ、やっとケーキとかみなりおこしは完成した。
「漢字は禁止!」
 真剣な表情で詰め寄られたみなもは、少し考え、ケーキの上にアルファベットて「MEIKO」と書いた。
 ホワイトのチョコペンで可愛らしく。



 その後、試食会はなごやかに行われた。
 澪子の作ったスコーンは、中が生焼けで御世辞にもおいしいとは言えなかったが、みなもの作ったチョコレートケーキは可愛い上においしく、トッピングのチョコクリームにもホイップクリームをまぜてあるせいか、くどさのない甘さに仕上がっていた。
 ふんわりとしたスポンジと、練りこまれたクラッシュアーモンドの歯ごたえが、また絶妙だったりする。
 影踏のかみなりおこしも、ケーキやスコーンと並べると異色だが、これはこれでおいしい。
 ここは、雷門前でも浅草でもないので、これを「かみなりおこし」と呼んでいいのかどうか、ちょっと微妙なのだが――まあ、そのあたりは、ささいな問題である。
「うまけりゃいいんだ」
 胸をはった影踏の言葉が正しいということにしておこう。

 ―― そして。

 結局、メイコは3人を解放することにしたらしい。
「よく考えたらバカバカしいじゃないの。あたしがあげる側なんじゃない。食べる側じゃなくて」
「メイコ、気付くの遅すぎ」
 影踏が容赦なく突っ込み、またもや殺気立つメイコに、みなもが慌てて止めに入る。
「これ、あたしのケーキのレシピです。メイコさんも、ちょっと練習したら、すっごい上手になると思います」
「あたし、レンシューとかって苦手なのよねぇ〜」
 そう言いながら、ルーズリーフに書かれたレシピを受け取るメイコは、まんざらでもなさそうだ。
 菓子の本にとりついている悪魔が、料理音痴というのを、いちおう本人も気にしていたらしい。
「メイコさん。最後に記念写真をとらせてください」
 メイコは、ぎょっとして、みなもを見た。
「ダメよ! 写真なんてタマシイ抜かれるのよ!?」
「いつの時代の迷信だよ?」
 だいたい、魂を抜こうとしたのは、おまえじゃないのか?
 悪魔なのに、そんなところだけ古くさいメイコに、影踏はがっくりと肩を落とす。
「お姉様へのおみやげ話にもなりますし。せっかく会えたんですから」
「……あたし、アナタを餌にしようとしたのよ?」
「恨んでません。だって、メイコさん、おいしそうに食べてくれました」
 にこりと笑うみなもに、影踏も同意する。
「オレも、ぜんっぜん恨んでないって」
 とりあえず、生きたまま戻れるのだから、あまり不満は無いらしい。
「ほら。結構、楽しかったしさ」
 この期に及んで、メイコは、「かみなりおこし」が「時代の最先端」だと誤解したままなのだが。
 影踏に、その誤解をといておく気はないらしい。小さな意趣返しといったところか。
「オレがとってやるから、どじょうちゃんとメイコ、並べば?」
「へびなんですけど……」
 しくしくと泣きそうになりながら、みなもはしょんぼりした。
 どうせなら、みんなで撮りたい。
 せっかく、知り合ったのだから。
「あン。もぅ、しっかたないわね☆」
 メイコが鞭をふると、オレンジ色のコンペイトウがひとつ。みなもと影踏の前に落ちた。
「え?」
 にょき。
「うわっ」
 にょきにょき。
 コンペイトウに足がはえ、手がはえ、釣り目がぎろりと周りを見る。
「……おい、メイコ」
「メイコさん……」
 さらには、黒い羽をはやして、ばっさばさと飛び始めたコンペイトウ(?)の姿に、ふたりはメイコを見た。
「だってェ、あたし、悪魔よん♪ 使い魔の五十匹や百匹くらい♪」
「さっきから飛び出してたの、全部この謎生物なのか!?」
 影踏が叫べば、
「ただのコンペイトウじゃなかったんですね……」
 みなもが、しみじみと呟く。食べなくてよかった。
「このコは、コンペイトウさん17号。さっき、アナタの頭に刺したのは、コンペイトウくんαちゃん☆」
「どれかに統一しとけ。名前」
「ええと、じゃあ、写真お願いします。コンペイトウさん17号さん。この画面を見ながら、ここを押すだけですから」
「なんだかなー」
 ぼやく影踏の背を、澪子がぽんと叩いた。
「いいから、並びなさいな。お姉さんは仕事に戻らなきゃならないのよ」
 特設キッチンを背後にして、4人が並ぶ。
「ジュンビ、エエデッカー?」
 ……どうやら、この謎生物、喋れたらしい。
「ホンナラ、トラセテモライマスワー」
 シャッター音と同時にフラッシュが光る。
 眩しいと、一瞬、目をほそめた瞬間――――


     □  ■  □


「おかえりなさいませ、みなもさま。影踏さま」
 にこやかに、柔和に笑うのは、紺青茶房の店主、李晋だ。
「お戻りが遅いので心配しておりました。もう少しで、非常手段をとるところです」
 笑顔のまま、マッチ箱をカウンターの影へとしまう。
 気付けば、コンペイトウさん17号に預けたはずのデジカメも手の中にあった。
「あたし、夢を……」
「違いますよ。その証拠に、お姉様は2時間も待っていらっしゃいます」
 李晋が示した方を振り返ると、姉がにこやかに笑っていた。
 それほど怒ってはいないように見える。それどころか、とても楽しそうに……。
(きゃあああっ)
 そこで、みなもはやっと気付いた。
 まだ、下半身がへびの着ぐるみだと言うことに。
「これからお出かけになるのでしたら、ケーキを食べていただく時間はありませんね」
 恥ずかしそうにしているみなもに、微笑んだ李晋が、小さな箱を手渡す。
「私の不注意で、みなもさまには失礼をいたしました。どうぞ、お持ちください。当店のヴァレンタインメニューです」
「いえ。楽しかったです。メイコさんもいい方でしたし」
「そうですか?」
「はい!」
 みなもは、並んで写真に映ってくれたときのメイコの顔を思い出し、大きくうなずいた。
 嫌がるようなそぶりをしながら、少し目の下が赤く染まっていた。
「そのように仰っていただければ幸いです。よろしければ、またいらしてくださいませ」
 スカートをはくにもはけず、へびの着ぐるみのまま、まるで丘にあがった人魚のようにぴょこぴょこと飛びはねて、みなもは帰っていった。




 そうして、ヴァレンタインシーズンも終わりを告げて暫く、『西洋菓子の規範』をぺらぺらとめくっていた李晋は、巻末に、クラッシュアーモンドのチョコレートケーキと、チョコを練りこんだおこしの作り方が増えているのに気付くのだが。
 それは、また別の話。





                                  ― 了 ―



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     登場人物 (この物語に登場した人物の一覧)
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 【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 1252 / 海原・みなも / 女 / 13 / 中学生
 2309 / 夏野・影踏  / 男 / 22 / 栄養士

 NPC / 麻葉・澪子 / 女 / 年齢不詳 / 商社勤め

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     ライターよりのひとこと   (ライター通信)
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 初めまして。那季・契と申します。

 最初に思ったよりも長くなりました……4000字ってすごい短いですね。
 二度と4000字で書こうと思うことはないでしょう。
 たぶん、常に文字数オーバーのような気分がひたひたと。
 ……それもどうかと思うんですが。
 ちょっと色気にとぼしかったので、NPCをひとり、ピックアップしてまいりました。

 ※誤字・脱字には気をつけておりますが、もしも見つけた場合は、御連絡くださいませ。


◆海原みなも さま
 正真正銘、初めての依頼者さまになります。ありがとうございました。
 もしお気に召しましたなら、今後とも宜しく御願い致します。

 カエルだから蛇。しばらく気付きませんでした。蛇に睨まれたカエルですね。
 どじょうちゃんとか書いてしまいましたが、後ろ姿は意外と可愛いのではないでしょうか。
 個人的に、私は蛇が好きなので、問題なく可愛らしいと思います。
 本に食べられ、お姉様に食べられ、みなもさまは多難な方です。(苦笑)

 また、海原・みなもさまの方には、影踏さまが落ちる前のやりとりがございます。
 宜しければ、目を通してみてください。




        那季 契