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<東京怪談ノベル(シングル)>


助手のお仕事?


 先日行われた金魚のショーも無事終わり、しばらく立った頃にまた頼みたい事があると連絡が入った。
「あ、来た来た」
「こんにちは」
 場所は、みなもが金魚の衣装作成の時に使ったプールサイド。
 使い終わった後らしく、濡れたプールサイドを滑らないように歩いていく。
「今日はどうしたんですか?」
「うん、ちょっとお願いがあって、また衣装作成に付きあって貰おうかと思ってさ」
 喜々とした表情の先輩にみなもはふとした事に気付く。
「今日は二人なんですか?」
 前の衣装を考えた時は、もっと沢山人がいたはずなのだ。自分一人でたりるのだろうかと考えてしまう。
「それは平気、今回はもうほとんど考えてあるから、着てくれる子が必要だったの」
 ニコリと微笑む。
 この表情を目にするのは決して多くはないはずなのだが、それでも嫌な予感を感じさせるというのはなかなかの物だろう。
「前は金魚だったでしょ、それで新しいイベントはシャープな感じでイルカみたいに、すーーーっと泳げる様にって思ったのよ」
 試着も金魚のイベントのバイトもどちらも大変だったが、終わってみれば思い出されるのはがんばった後に得られる満足感だ。
 決して悪い仕事ではなく、何かを成し遂げると言う事は楽しい事だと解っている。
「どう、やって貰える?」
「はいがんばります」
 プールまで呼んで置いて断らせる気がなかったというのは、言わないお約束。
「それじゃあ衣装の準備してくるから、服は脱いで待ってて」
「は、はい」
 いつも通りうなずきかけ、ここでまた前と違うことに気付く。
 服を脱いで、と言ったのだ。
 着替えるではなく。
「水着とか……着替えるところは……?」
 振り返った先輩はニコリと微笑む。
「どうして何も言ってくれないんですか!?」
「言い忘れてたわね、今回は水着は無しよ。でも大丈夫、他に人はいないから」
 広いプールサイド、二人きりとは言っても流石に恥ずかしい物がある。
「あの……でも」
「やってくれるわね、みなもちゃん。じゃ取ってくるから、服はこれに入れて」
 話を聞かずに、椅子の上にかごだけ置くと行ってしまう。
 だがこれはまだまだ序の口だと言う事は、後から解った事だ。
「………ふう」
 先輩がいなくなった後、ため息を付いてから制服へと手をかける。
 横に付いているファスナーを上げ、脱いだ制服を畳んでかごに入れてからスカートのホックを外し下へさげると白い足が露わになった。
 下着姿のみなもにはヒヤリと冷たい空気。
 それに脱ぐのも恥ずかしいが、ためらったままで居るのもまずいと同時に考えてしまう。
「誰も居ないし……試着だから」
 そう言い聞かせてブラジャーまでは外したが、下着に手をかけたところで再びためらう。
「お待たせ。あれ、まだ」
「あ、ごめんなさいいま……」
「手伝おうか?」
「……遠慮します」
 彼女なら本気でやりかねない。
 最後の一枚まで下着を脱いだみなもに別に用意された長いすに座るように言う。
「で、これが今回の衣装なんだけど……」
 小物の入った箱を横に置き、先輩は塗料の入ったバケツを横に置いてハケで中を掻き回す。
 濃紺の光沢ある塗料は特殊なものなのだろうか、フチで余計な水気を切った先輩。
「さあ、腕を出して」
「………はい?」
 手を取られ、白い肌へとハケがなぞる。
「待ってください!」
 気付くのが遅いとは禁句だ。
 まさか夢にも思わなかったのだ、そんな……まさか、肌に直接塗料を塗るだなんて。
「これは衣装じゃないです!」
「衣装よ、イルカのシャープさとあの美しいラインを出すには余計な布なんて不必要だって解ったの!」
 ハケを持ったまま、力説する。
「そう、生き物の美しさというのは生まれたままの姿である事なのよ! 前にイルカをやったでしょう、その時にみなもちゃんも解ったはずよっ。多すぎるパーツはジャマにしかならないって……いま求めているのはシンプルイズベストの精神よ」
 まくし立てる先輩に口を挟む事も出来ないが……それでも何かがおかしいと言うべくタイミングを見計らう。
「えっと、その……」
「それとも何かな、みなもちゃんはここまで来てイヤとか言っちゃうのかな? 先輩の頼みとお願いを断るなんてそんな酷い事しないわよね」
 これ以上ないぐらいに肩を落として、今にも死にそうな顔でジッとみなもの目をのぞき込む。
「あの……」
「そうなったら私お仕事でき無くなっちゃう、困ったなぁー。首になったら路頭に迷って一人寂しく海に沈むしか無いのね」
 本当に……困った先輩だ。
「解りました……がんばります」
「やった、ありがとーー!」
 パッと明るい表情に戻り、喜々として塗料をかき混ぜる。
「良かった、みなもちゃんならそう言ってくれると思ったわ」
 手を取って、肩からスッとハケでなぞった。
 青く染められていく腕はヒヤリと冷たい。
「腕、少し上げて」
 言われたままに手を挙げると腋から腰へかけてとろりとした塗料で撫でられた。
「ひやっ!」
 身をよじったみなもに、ハケを持つ手が止まる。
「くすぐったかった? ごめん、次からはちゃんと言うから」
「いえ……」
 それよりも声が出てしまったほうがなんだか恥ずかしい。
 気にしないほうがいいと思うのだが、一度意識し始めると余計に気になってくるのだ。
「腕は終わったから背中塗るよ」
「はい」
 背後に回った先輩がみなもの髪を束ね、肩から背中にかけたゆっくりとハケでなぞる。
「んっ……」
 濡れた感触が背中のラインを辿り、降りていくたびにザワリとした物が背中をかけていく。
 腰に行くたびにゆっくりになるのは、気のせいだろうか?
「あのっ、くすぐったいんですけど……」
「すぐ終わらせるから、我慢してね」
「はい……」
 動くと歪んでしまうかも知れないと思ったら、下手に動けない。
 背中から蒼に染まっていく。
 目に見えない部分を塗られているためにドキドキしていたのだが……。
「じゃあ次は前ね」
 こっちも、ドキドキする。
「恥ずかしい?」
「いえ、そんな事……」
 言える訳がない。
「すぐに塗っちゃうからね」
 鎖骨から胸にかけて塗料をまんべんなく塗っていく。
 胸の膨らみがある分、背中のように真っ直ぐに塗ればいいという訳には行かなかった。
 何度かにわけて、ムラがないように綺麗に肌を染める。
「………ふっ」
 止めていた呼吸を吐き出すような、そんな吐息。
 そんな僅かな声が聞こえたのか、顔を上げた先輩と目が合い思わず苦笑する。
 それしかできなかったのだ。
「じぁあ次は足ね」
「は……えっ!?」
 頷きかけたみなもの前に膝を付き、足を抱えられ上げそうになって思わずたじろぐ。
「あ、あのっ!」
 いくら女同士だと言っても、流石に恥ずかしい。
「んー、流石に照れるか、じゃあこれ」
 渡されたのは張るタイプの水着。
 願わくば、もっと早く渡して欲しかった。
「絵の具の腕の部分はもう乾いてるから」
「助かります、早いんですね」
「特殊な塗料高だから」
 ホッとして水着を貼り付けてから、作業を再開する。
 全身をくまなく覆った光沢のある紺色。
 そして背中に貼りけられた背びれ、手にはずれないようにと腕の形に添ったヒレ。足には二つの足ヒレをくっつけたような形の物をしっかりと装着する。
 身につけている物はそれだけで、後は裸同然だ。
「さてとっ!」
 あまり身動きの出来ないみなもをたたせ、シャッターを切る。
「えっ……」
「資料だから、ねっ!」
 親指を立てられても。
「じゃあ次は泳いでみようか!」
「話を聞いてください〜」
「さあさあ、恥ずかしがらないでっ!」
 結局押し切られて泳ぐ事になったのだが……その間もシャッターは切られていたりする。


 ようやく終わりを告げられた頃には、本当に疲れていた。
「ご苦労様、これお駄賃ね」
「は、はい……」
 引きつったように笑うみなもに先輩はよしよしと頭を撫でる。
「また何かあったらよろしくね」
「………はい」
 疲れ果て帰宅し、ベットに入る頃になって……あの写真をどう資料に使うのだろうかと思った時にふと、一つの考えが浮かんだ。
 あれは本当に仕事だったのだろうかと。
「もしかして、遊ばれた?」
 その可能性は、あまりにも否定できなかった。