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<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


偽装恋人募集中!

オープニング

「結婚してくださいっ!!」
 アパートの玄関で土下座された。
 因幡恵美はさすがにその時は、その目を疑った。
 彼女は前代の管理人、祖母から憧れのあやかし荘を受け継いでから女手一つで細々とそれなりにボロイながらも都内のアパートを運営してきていた。
 短パン姿の柚葉がヒョイッとその大声を素早く聞きつけ、部屋から出てきた。
「どうしたんだ?」
 そう言われても恵美も応える術を持たない。というか、その余裕がない。そんなこんなことをしているうちに、天王寺綾まで出てきてしまった。
「なんやなんやお客さんか?珍しな。こんなトコに」
「……男」
 座敷わらしの嬉璃もひょっこりと床下から飛び出してきた。歌姫の悲しげな泣き声まで聞こえてくる。
(あ、雨がっ!!)
 と、思ったらもう遅かった。歌姫の特殊能力で外は雷鳴がかなり響いている。
「ご、ごめんなさいっっ。あの、そのお話はまた後で……っ!!」
 恵美はそう言って、外に出しっぱなしだった洗濯物を取りに行った。

「あの、すみません……。急にこんな押しかけてしまって……」
「あ、いえ、そんな……」
 一応客間である染みの跡もある畳の間に恵美は男を通して自分も正面に座った。
 随分と身なりのいい男だ。年は二十代後半というところか。だが、その年頃にありがちな軽薄な感じは全くしない。仕事ができそうな男だと思った。
 だが、そんな男が今自分の目の前に座り、焦りを隠せない様子で、何度もハンカチで額を拭っている。恵美は何だかおかしな感じがした。
「それで……どうしてそんなお話が?」
「あ、いえ、あの……どう言ったらいいのか……こんな年になってお恥ずかしいのですが、一目ボレ……してしまったんです」
 ガタッと後ろで巨大な音がした。大方、覗き見している誰かが盛大にコケたのだろう。恵美も危うく、飲みかけたお茶を噴き出しそうになった。
 ちなみに恵美は彼氏いない歴21年の示すとおり、顔は凡人並みである。
「あの、失礼ですけど、……誰かとカン違いなさってるんじゃ……?」
 それが天王寺財閥の令嬢、綾とかなら分かるが、自分がそういうことにまさか巻き込まれるとは思ってなかったので恵美はかなり動揺していた。
「いっ!!いえ、そんな貴方のような美しい女性は見たことがありませんっ!!」
 その上、両手までしっかりと掴まれてしまって恵美は本当に困り果ててしまった。

「――というのが、依頼の内容だよ」
と、一通り話し終った後で恵美の祖母が言った。
「可愛い孫をまだまだ私はそこらのガキにやるつもりはないからね。どっかからテキトーなヤツを連れてきてこの男を追い払って欲しい」




「あら、あらあら」
 隠岐・智恵美はその話を聞いて苦笑した。久しぶりに恵美の祖母とお茶を飲みに来ていた時のことで、なにやら不機嫌な顔の祖母にその理由を聞いたら、待っていましたとばかりに矢継ぎ早に言われたからだ。
 しかも、乱入者が現れた。
「本当のお話ですかっそれ」
「本当だとも」
「……っ。僕、恵美さんに確かめに行ってきますっ!!」
 こちらも忙しなく、祖母に確認を取るなり、恵美のいる一階の管理人室に走り去っていってしまった。時間にして三十秒も見れなかったが、多分奉丈・遮那。中学生くらいの可愛らしい少年だが、中身は大人に近く、占い師としての腕は一流、親の経営する占い店で働いている。そして恵美に惚れているらしく、顔つきが相当真剣だった。
「あらあら、まあ」
 智恵美はゆったりと笑う。それからお茶をズズーッとまた啜り、祖母に向き直った。
「まあ、祖母が孫を想う気持ちは分かりますが……だからと言って偽の恋人を立てて相手を追い払うのは……どうでしょう。それに、お婆様も簡単に恵美さんの許婚を決められていたでしょう?まずはその許婚の方々をどうにかされた方が……」
 にっこりと笑った。恵美の祖母はうっと少しひるんだ。
「だけど、私ゃ、自分のメガネに合った男しか選んでないよっ!!私が選んだ男じゃなけりゃ、あの子はやれないねっ!!」
 そこで今度は、恵美の祖母と智恵美の間の空間がひょっこりと歪んだ。嬉璃だ。ここの座敷わらしの彼女は、大人から姿を消すことも出来る。今も、急に現れたのではなく、必要に応じて姿が見えるようにしたのだろう。嬉璃は言う。
「また、来たらしいぞ」
「何っ!?」
 件の男性はここ一週間二日とおかず来ている。初めの時、恵美が煮え切らない態度だったので、脈ありと見て毎日プレゼント持参でアタックしているのだ。恵美の祖母は、腰を上げようとした。だが、持病の腰の痛みがあり、すぐにしゃがみ込んでしまう。
「まあまあ。私と嬉璃さんが行きますから。お婆様は、ゆっくりと養生なさっていて」
 智恵美が立ち上がる。恵美の祖母の、立った拍子でずれた毛布を掛け直し、嬉璃へと微笑む。
「では、参りましょう」
 智恵美と嬉璃はのんびりと一階へと向かった。




「何だね、君は?」
「何だっていいでしょうっ質問に答えてくださいっ!!」
 智恵美と嬉璃が客間の前まで辿り着いた時、既に応戦は始まっていた。天王寺・綾は大学のサークルの友人と遊びに行っていていなく、柚葉は遊びに出かけていてまだ帰ってきていない。歌姫は怯えているようで、自分の部屋で哀しみの歌を歌い続けている。よって外はずっと雨だった。
「あら…あらあら」
 智恵美は苦笑しながら、ふすまの中をそっとうかがう。さっき飛び出して行った遮那が男に突っかかっている。その後ろで恵美はお茶を出し終えて困っている様子だ。
 男は、身を乗り出している遮那の目をじっと見て、それから少し息を吐いた。唇の端が上がっている。笑んでいるようだ。そして遮那の真剣な目に応えた。
「僕が、彼女と会ったのは……イヤ、正確には見かけただけなんだけどね。そう、その運命の出会いは、僕がいつもどおり車で営業をしている時だった……」
 男は遠い目をしつつ語り始めた。最早手の内にある、温度を下げつつあるお茶には目もくれていない。
「僕はその時ね、営業先の人とちょっとトラブルがあって少し落ち込んでいた。折り悪く、天候も今日のように雨でね。でもそんな時、何気なく昼寝のために止めた車の外で美しい女神を見つけてしまったんだよ……っ!!」
「……女神?」
「そうらしいですね」
 二階からちゃっかりと持ってきていたお茶を音を立てないように口に含みながら、智恵美は嬉璃の疑問に答える。
 男は続ける。
「ああ、その女神っ女神こそが君、恵美さんなんだっ!!……その後、失礼ながら、後をつけさせてもらって、居場所を知る事が出来たんだっ!!」
「……ストーカー?」
「そうですね」
 嬉璃の突っ込み。智恵美も同意する。だがしかし、男の目は真剣そのものだ。というより、中にいる三人全員に緊迫感が漂っている。男は興奮して立ててしまった膝を改めて折り曲げ、遮那はその男の言動に少しも目を逸らさない。恵美は、居場所に困っていたが、悩んだ末、結局、遮那の隣にそっと正座した。男は、今日持参したバラの花束を横に避けながら、遮那に聞いた。
「それで君は?君は、一体その人の何なんだい?」
 遮那は一瞬ごくりとつばを飲み込んだ。そして、恵美の困ったように下がっている眦を見て、キッパリと言った。
「僕は、恵美さんの婚約者です」
 恵美は驚く。男は少し笑い、言った。
「嘘言っちゃいけないよ、僕」
 もてあますようにしていた長い指をポケットに入れ、恵美に視線で聞いてからタバコに火をつけた。フウッと軽く吐く。
遮那は、それに眉を顰めながら、続ける。
「いいえ、嘘じゃありません。その証拠に僕はあなたよりずっとずっと沢山恵美さんのことを知っている」
 遮那の指先は小刻みに震えていた。それに気付いた恵美はその手を握る。恵美は決心したように微笑んだ。
「ええ、そうです」
 男はその手からタバコを落とした。慌てて恵美がそれを拾う。その時、ピンポンと玄関の音が鳴った。恵美は、その拾った燃えカスを、準備してあった灰皿に置き、玄関に走った。智恵美たちが傍観しているところとは、反対側のふすまから今度はどうやら女の声が近づいてくる。
「あの、困りますっ!!今、来客中で……っ!!」
 恵美の声が聞こえる。それとともにふすまが開いた。蒼樹・海だ。黒髪、黒瞳の豊満なプロポーションの女性で、いつも面白い事を探してはふらふらとしている人である。
「あら……来客って今ウワサの恵美ちゃんへの求婚者さんかしら?」
「あ、はいそうですが……?」
 突然の闖入者に男もあっけに取られつつも普通に答えてしまっている。蒼樹は笑った。
「あら。それは面白そう……」
 くると遮那の必死そうな目を見て、後ろでオロオロしている恵美のおでこをつついた。
「きゃ……っ!?」
「わ……恵美さんっ!?」
 遮那が心配して駆け寄る。だが、その手を恵美は思い切り突っぱねた。
「え……恵美さん……?」
 呆然とする遮那。それにも目をくれず、恵美は、男の手を握った。
「あの、結婚いたします」
「えっ!? 」
 三人の声が重なる。遮那は声も出ないようだ。そこで智恵美はいつの間にか一つ増えた声に気付き隣を見た。三下・忠雄。いつも何かに怯えたように肩を竦め、誰かのパシリに使われている怪奇雑誌の編集部員だ。智恵美は微笑んだ。
「あら、いらっしゃってたんですね」
 三下は困ったように笑った。
「あ……いえ、また碇女史に何か面白いネタはないかと言われてあやかし荘に来たのですけど……その玄関前でふらふらと危なげに歩いている蒼樹さんを見かけたのでウッカリ声をかけてしまったのです……まさかこんな事になろうとは」
「ええ、まったくですね」
 智恵美も苦笑する。蒼樹は人の心に悪戯心や猜疑心を植えつけることが出来る能力者なのだ。その上、その能力を使って騒動を大きくする事が好きだったりする。
「ちょっと、おイタがすぎますよね……」
とチラリと遮那を見、蒼樹を見た。
 蒼樹はその視線にちょっと笑って、小首を傾げた。
「あら、やだ。怒ってらっしゃるのね……。そうねぇ。なら、三下君を女装させて、私が悪戯心植えつけてあげるから身代わりにさせちゃうってのどうかしら?それなら誰も困らないでしょう?」
「ええっ!?」
「あら…あらあらあら」
「ほほう」
「ええっ!?」
 三下君のいつもの叫びに面白そうな嬉璃と智恵美の声。そして、その三人に今気付いた恵美、遮那、男の声が同時に出た。蒼樹は満足そうに微笑む……が、不意に顔をコロリと変えた。
「んーでも、やっぱりやーめた♪面白そうだから、悪戯心そこら辺にばら撒いちゃおうっと」
 一同がその変わり身にええっと思う間もなく、蒼樹はヒラヒラとその腕に纏わりつかせている布を華麗に舞わせた。
 紫の煙がどこからか出る。智恵美はその瞬間、地面に六方星魔法陣を描き、結界を創った。遮那もタロットカード『教皇』を出し、恵美と自分を包んだ。蒼樹は笑う。
「あら。効かないヒトもいるようねぇ」
「少し、おイタがすぎると言った筈ですよ?……っ!!」
 ハッと何かに気付いた智恵美の顔が強張った。
「逃げて……っ!!」
 智恵美は叫んだ。だが、間に合わず、蒼樹は倒れてしまう。智恵美は彼女も包むように再度七方星を描いた。遮那もタロットカードを出そうとするが、召喚が間に合わない。気絶してしまう。恵美も気絶した。残っているのは嬉璃と智恵美のみだ。智恵美は、金色の結界に包まれながら、「それ」に向かって言った。
「こんなところにまでおいでになっていたんですね……G・ザニーさん」
 G・ザニー。大死霊を守る番人であり、墓場をうろつく暴食神の化身。外見は両生類や爬虫類に似ている。智恵美は、IO2に在籍していた事があるので、莫大な力を持つ大死霊と契約しているG・ザニーのことを知っていた。
「申し訳ありませんけれども……たとえあなたと言いましても、この方たちをお渡しするわけには参りません」
 智恵美は決然と言った。G・ザニーは身体を震わす。
「いや、違うんだな……」
 G・ザニーは続けた。
「G・ザニーは、以前恵美に食べ物をもらったことがあるんだな……助けに来ただけだなんだな……」
 智恵美は、少しだけ目を瞠り、それから笑った。
「あら…あらあらあら」
 G・ザニーは言う。
「必要なら、その男を喰うんだな」
 智恵美は笑んだ。
「いいえ。いいですよ。ありがとうございます」
 G・ザニーは智恵美の言葉を確認すると、どこからともなく消えた。




恵美は結界陣を解き、両手をほのかに照らした。G・ザニーは、民家の生ゴミやゴミ処理場にあるものまで食べているために、人間にとっては毒となるようなガスを常時発し続けているのだ。そのため、智恵美はその場に倒れている全員の毒抜きをするべく、心霊治療をしようとしていた。
「ハ……ッ!!」
 そうして、一番最初に遮那が目覚めた。真っ先に隣で倒れている恵美を見て、真っ青になる。
「恵美さん……っ!!」
 ブルブルと震える指先で彼女の頬にそっと触れる。
「ぼ……僕の占いにはこんな事は出ていなかったのに……っ!!」
と、呟いた。智恵美はその肩を優しく二、三回叩いた。その時恵美の唇から「ん……」と小さく零れた。
「恵美さんっ!!」
「あ……遮那君?どうしたんですか?何か、怖い夢でも見たんですか?」
 遮那は、その手を強く握りしめ、強く首を振った。
「ううん、ううん……っ!!」
 男や三下も次々と目覚めていく。男は恵美たちの様子に目を瞠り、俯いた。蒼樹は智恵美が目覚めさせていないので寝たままだ。
 智恵美は微笑む。そして恵美の肩を叩いた。
「今の自分自身の気持ち、間違えちゃダメですよ」
 恵美は遮那をじっと見て、男に向き直った。
「……ごめんなさい」
 男は力なく笑っただけだった。


エピローグ

 男が帰った後、遮那は「良かったの?」と聞いた。恵美は、「いいんです」と答え、笑った。遮那も微笑む。
「あ……っ!空、晴れた……っ!!」
 男がいなくなったことで歌姫の歌はやみ、空に光が差し込み始めた。
「あ、私、洗濯物干してきますね……っ!!」
「じゃあ、僕も手伝うよ」
 慌しく、客間を出て行く恵美と遮那の二人。

 その後、蒼樹も目覚めて、女装した三下君に帰ってきた天王寺・綾がクツで彼の頭を踏んづけていたのはまた別の話。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1974/G・ザニー/男性/18歳/墓場をうろつくモノ・暴食神の化身】
【2390/隠岐・智恵美/女性/46歳/教会のシスター】
【0506/奉丈・遮那/男性/17歳/占い師】
【2618/蒼樹・海/女性/25歳/天邪鬼】

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■         ライター通信          ■
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ご発注、ありがとうございました。
いかがでしたでしょうか?
少しでも楽しんでいただけたでしょうか。
今回は入れたいイベントが沢山あったので少々長めになってしまって申し訳ないです。
ご感想等、ありましたら寄せていただけると嬉しいです。
もしよろしければ、またのご発注をお待ちしております。

奉丈遮那さま
はじめてのご発注、ありがとうございます(^^)
遮那さんの過去話『彼岸花と血の赤』を拝読して、恵美と遮那さんの確かな絆を感じたので
こういうお話になりました。
「召喚」についてこちらで少し勝手な解釈をしてしまって申し訳ありません(>_<)
ですが、とても楽しんで書かせていただきました!
またよろしければ、書かせていただけると嬉しいです。