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<東京怪談・PCゲームノベル>


インタレスティング・ドラッグ:2『追跡』


 退社時間はとっくに過ぎている。フロアには他に人はいなかった。
「塩酸フルオキセチンだと……? SSRIか。……いや、しかしこの量だと、実質、効果はない……」
 ブルーの瞳で、モニタを見つめながら呟く。
 ケーナズ・ルクセンブルクは、すっかり冷めたコーヒーを口に含んだ。
(予想通りとはいえ……化学的な分析ではここまでが限界か。……当然だな。人間に超能力を与える薬品など、そう簡単に造られては困る)
 赤と青のツートンカラーのカプセル――『ギフト』と呼ばれる薬。モニタに表示されているのは、その分析結果だった。
 背もたれに体重をかけると、ぎしり、と椅子が軋む。ケーナズの目が中空をさまよった。
(しかし、それよりも、問題は……)
 まるで内心の想いを見透かしたように――携帯電話の呼び出し音が鳴り始めた。

 そして――
「驚いたなあ」
 少年の笑みはどこまでも屈託がない。
「ケーナズがあんなにゲームが上手だなんて思わなかった。対戦で負けたことなんてなかったのに」
 雑多な電子音の飛び交うゲームセンターだ。
 金髪碧眼、すらりとした長身にジャケットをひっかけたケーナズは、こういう場所ではあまり見かけないタイプかもしれない。対して、そんな彼にやけに「親密そうに」している少年は、いかにも遊びなれた風である。
「あ、コレやっていい?」
 言いながら、返事も待たずに、クレーンゲーム機に飛びつく。
 ふたりを見たものは、いったいどういう関係の連れだろうかと首を捻ったかもしれない。
「僕、コレ得意なんだよね。見てて、あそこの『かわうそ?』取ってあげる」
 少年のはしゃぐ様子は、デートに浮かれる女の子のようにも見えたし、それを見守るケーナズの目は、保護者のような暖かみを持っていた。
「なあ、リョウ。このあと、食事につきあってくれるだろう? 話したいことがあるんだ」
 ケーナズは言った。
「いいよ。でも、ちょっとだけ静かにしてて――」
 少年はゲームに集中している。その横顔を見つめるケーナズの瞳に、かすかな陰影が差したのに、気がついたものはいなかった。

■ バビロン ■

 一望のもとに見下ろすは、新宿の夜景。
 ケーナズ・ルクセンブルクのもとに、リョウこと沢木僚一という少年から連絡があったのは一昨日のことだ。そして、ケーナズは、この店を予約しておいたわけだが。
「僕……ちょっと場違いじゃないかな……」
 少年は、おどおどと、伏目がちにいった。
「そんなことはないさ」
 対面に坐ったケーナズは、言いながら、優雅な所作でワイングラスを口元へ運んだ。そのワインのボトルが、いったいいくらするものなのか、リョウは知らない。ワインリストが日本語ではなかったせいで、読めなかったからだ。
 つい今しがたまで……少年はケーナズを連れ回して、新宿の繁華街の、ゲームセンターを遊び歩いていたのである。そこでは、まさに水の中を泳ぐ魚のようであったのだが。あの煙草の煙がたちこめるゲームセンターの連なる通りと、この高級レストランのある高層ビルとが、ごく狭い新宿という土地を共有しているのは、不思議なことだった。
 いうなればそれは、ケーナズとリョウそのものを象徴していたかもしれない。
「リョウ」
「な、なに」
 名を呼ばれて、びくりと顔をあげる。
「場違いかどうかを決めるのは人じゃない。自分なんだ」
「ケーナズはお金持ちで、こういうところに慣れているからそう言えるんだ。……僕には二丁目のうらぶれたクラブがお似合いだ」
「今度はリョウが店を紹介してくれ」
「え……」
 少年の瞳に、翳りが差した。十代の後半と見えるリョウだったが、そうした表情には、よるべない子どもの抱く寂しさと、諦めることを覚えた大人の顔とが同居している。
「……また、こんなふうに会ってもらってもいいの」
「もちろん。言っただろう。もう嘘はつかない、と」
「でも! 本当にわかってる? 僕と『約束』するってことは、僕の『ギフト能力』に影響を――」
「リョウ、そのことだが」
 ふいに、真剣な面持ちで、ケーナズが少年を見つめた。
「きみはその能力で、人を死なせたことがあるな」
 リョウは黙り込んだ。
「過ぎたことをとやかく言ってもしようがない。だが、それが罪だということが、わからない年齢でもないだろう」
「……ケーナズ」
 ぽつりと、呟くように。
「ケーナズは、やさしいんだね」
「私は……」
「『ギフト』が広まるのを止めたいと思っているんだね」
 思いのほか、大人びた口調だった。
「……いいよ。でも、今夜だけは、もっと楽しい話をしよう」
「リョウ」
「せめて……十二時になるまで。ね。十二時を過ぎたら、『ギフト』の秘密を、教えてあげる」
 そして少年は微笑むのだ。月の光に照らされたような、どこか寂しげな微笑で。

 藍原和馬ははっと顔を上げた。
 そしてゆっくりと頭をめぐらし、ゴールデン街の雑踏を歩く、その男の背中を見つめた。
 くん、と、鼻をひくつかせる。
(カタギじゃねえな。硝煙の匂いがしみついてやがる)
 和馬と立ち話をしていた男が、彼の視線を追ってその人物を見るや、顔色を変えた。和馬が目で問いかけるか、男はぶるぶると首を振る。和馬がげんこつをふりあげると、渋々、
「張暁文(チャン・シャオウェン)だ。流氓(リウマン)の“殺手”だよ」
 とだけ、言った。
「ほう」
 流氓と呼ばれる中国系の犯罪組織が年々、増加しているのは、和馬でなくとも知るところだ。かれらは大陸における出身地ごとに派閥を組むが、新宿を根城にするのは上海系が多いと聞く。殺手とは、平たくいえば、かれらの使う殺し屋のことである。
「近頃『ギフト』にご執心な連中だな」
 和馬はすでに歩き出している。その眼光は、前をゆく男――暁文の背中をとらえて離さない。
「本人に聞いてみるのが早いわな」
 ふらふらと、さまようように歩きながら……時には露天をひやかしたり、立ち止まってなにも見えないはずの夜空を見上げたり……そんなことをしながらも、不思議と和馬は、目標を見失うことなく歩き続けていた。
 やがてたどりついたのは古びた雑居ビルだ。得体の知れない金融会社やら麻雀屋やらの看板が出ているが、まともに営業しているふうでもない。のっそりと、うす暗い建物に足を踏み入れた。
「…………」
 建物の奥から人の声がかすかに漏れてくるのを、和馬は耳にする。
 声のするほうへ一歩を踏み出し――
「ちっ。またかよ」
 毒づいた。
 死角から、暁文と呼ばれた男が和馬の頭に銃をつきつけている。黒星(ヘイシン)――大陸製のトカレフだった。
「何者だ。犬みたいに人をつけまわしやがって」
 低い声で暁文が問うた。驚くほど冷たい声だ。
「おれの尾行に気づくたぁ、やるね」
 不敵に口元をゆがめる和馬。
「だがおれは犬じゃない……」
「貴様――」
「……狼さ」
 トカレフが火を吹くよりも早く、和馬は身を沈めて蹴りを繰り出す。だが、銃を外したと悟った暁文も、人間離れした動きで身をそらし、その攻撃を避けていた。
「物騒だな、オイ! おれはただ聞きたいことがあっただけだ」
 問答無用、とばかりに、暁文が撃鉄を起こした。
「その態度――うしろめたいことがあるって証拠だぜ!」
 獣の動きで、和馬は駆けた。
 埃の積もったコンクリ剥き出しの床の上を転がるようにして、奥の戸口をくぐる。
「……おっ」
 そこには男が一人、いた。
 まだ若い。
 さきほど、和馬が聞いた声はこの男のものだったようだ。――ぶつぶつと、わけのわからないことをつぶやいている。その目はうつろで……あきらかに正気ではなかった。
 男は床にぺたんと座り込んでいる。その傍らには水と――
「何……!?」
 瓶いっぱいの錠剤があった。
 赤と青の、ツートンカラーのカプセルである。

■ 実験室のネズミ ■

「すごいすごい!」
 リョウはベッドの上に身を投げ出してはしゃいだ。
「ふっかふかだ」
「気に入ったか」
「最高! 眺めもばっちりだし」
 スイートルームなのだからそれもそのはずだった。
 今度は窓にはりつき、目を輝かせて夜景を見下ろす少年の肩を、ケーナズがそっと抱いた。不思議なことに、そうすることがいかにも自然に感じられるふるまいだった。
 ちらりと、気づかれぬように時計に目をやる。日付が変わるまで、あと一時間。
「すこしフライング気味だが……」
 ささやくように、ケーナズは言った。
「前に聞いたことがあったな。“どうして『ギフト』を手に入れたいのか”――“特別な力が欲しいのか”――って」
「…………」
「リョウはどうなんだ。力が欲しかった?」
「それはね」
 少年がケーナズに体重を預けてくる。
「……なにかがある人はいいよ。お金でも、才能でも超能力でも。でもそういうのがない人間は、どうしたらいいと思う? ケーナズは僕がどんなふうに生きてきたか知らないんだ」
 黙っていたが、本当はとっくに調べてあった。
 沢木僚一は高校を一年で中退したあと家を出て、二丁目近辺で浮き草のような生活を送っていたらしかった。
「いろんな人がいたけど、殴る人もいっぱいいた。嘘をつく人はもっといっぱいいた」
(その心に、つけこんだのが『ギフト』というわけか)
 苦々しく、ケーナズは思った。
(というよりも……そうしたリョウの心が形をとったものが……嘘をついた人間を攻撃する彼の『ギフト能力』になっている。リョウは比較的、自分の力を制御できているほうだが、『ギフト』が他にも能力者を生み出しているとすると――)
「だから、やっぱり『ギフト』は僕にとっては贈り物だったんだよ……」
「そうだろうか」
 ケーナズは慎重に言葉を選んだ。猫は臆病だ。すこしのことで逃げ出してしまい、そうなるとまた捕まえるのに骨が折れる。
「私は薬を開発するのが仕事だと言ったね。……薬は必要に応じてつくられる。人にはなくてはならないものだが……でも、薬を使うのはあくまでも人間なんだ」
「…………」
「薬の力が先にあるんじゃない。それに支配されてしまっては、いけないのだと思う」
 少年がなにか言いかけた。
 ――が、そのとき、まさにかれらの眼下、地上の新宿の街で閃いた火炎の輝きが、かれらの意識をそらした。
「えっ!?」
「爆発――?」
「なんだろう。事故かな」
 振り返ったリョウは、ケーナズが真剣な面持ちで、窓の外をじっと睨んでいるのを見た。
「……様子を見て来る」
「えっ、でも」
「十二時までには、戻ってくるさ」
 そして、ふっと笑った。伶俐な、彫像のような顔立ちは厳しくひきしまれば精悍なくせに、破顔すればなんと甘やかであることか。
 蝶が止まるような、軽いキスを、さりげなく頬に残し、ケーナズは地上二十階のスイートルームから姿を消したのだった。

「『ギフト』だと……」
 呻くように、和馬は言った。
「なんだこれは。こいつをどうした」
「そんなもの、タダでいくらでも手に入るさ」
 暁文は薄く笑った。
「こいつは餌だ」
 シャツの胸倉をつかんで、男を立たせる。
「どうだ。“特別な力”は身についたか?」
 男に向かって行った言葉は日本語ではなかったが、和馬はなんとなく意味を悟った。
「『ギフト』にハマったやつらが姿を消している。おれはそいつらの一人を追っているだけだ。……邪魔するなら殺す」
「って、殺る気満々だろうが! 邪魔なんてしねえよ!」
 暁文の銃口はまっすぐに和馬を狙っていた。
「どうかな。あんたちょっと……危ないニオイがするんでね」
「お互い様だ」
 犬歯の隙間から、和馬は言った。
 そのときだ。
「……!」
「何」
 ――そこにいたのがこの二人でなければ避けられなかっただろう。
 もうもうと舞う土煙。和馬は、考える前に身体が反応したとでもいうような状態だったため、何が起きたのか理解できていなかった。
「薬が効いてきたようだな」
 いつのまにか、傍らに暁文が立っている。
「『ギフト』か! ……『ギフト能力』だな!?」
 男の目はうつろだ。ゆらりと、立つ姿はどこか幽鬼じみている。
 その頭上に――“穴”が開いている。
 ぽっかりと、空間に開いた穴――そうとしか呼べないものが、ひゅんひゅんと奇妙な音を立てながら、そこに浮かんでいるのだ。よく見れば、土埃がものすごい勢いでそこに吸い込まれていっているのがわかる。
「ブラックホールの小型版といったところか」
「冗談じゃねえ」
 ごう、と、唸りをあげて、それが宙を飛んだ。
 和馬が横飛びに避け、暁文は――忽然と姿をかき消した。
「きたねえ。テレポーターかよ」
 こいつは分が悪い。和馬の勘が告げていた。
 あたれば骨が折れるとか、身を切られるとか、そういった類の武器を、彼が恐れることはない。だが、あれは――おそらく、ふれたものを無に帰すか、どこだかわからないところへ吸い込んでしまう奈落なのだ。
 がりがり――と音を立て、和馬の想像通り、壁といわず天井といわず、その小ブラックホールはその通り道に存在するものを削りとりながら進んでいる。その跡は、虫が食ったように……いや、最初からその部位がなかったかのように部分が欠損したコンクリートが残る。
 男は、和馬に注意は払っておらぬようだった。それどころか、まともに周囲の状況を知覚しているのかも疑わしい。おぼつかない足取りで、彼がふらふらと歩き出すと、そのブラックホールも彼を守るようにその周辺を飛び回りながらついていく。
「なんだよ、アイツは!」
「組織の下っ端だが」
 暁文が、唐突に、和馬の後ろにいた。
「もともとヤク中でどうにもならなかったんでな。実験台にしたまでだ」
「街に出ると騒ぎになるぞ。責任取りやがれ」
 和馬が怒鳴ったが、暁文は面白そうに笑うばかりだった。

■ 塔 ■

 路肩で、車が炎上している。
 先ほど見たのはこの炎だったのだろう、とケーナズは思った。
「…………」
 検分するように、道路や、建物や、車にできた奇妙な「穴」や「へこみ」を眺めた。まるではじめからその部分が存在しなかったように、物体の一部が消え失せているのだ。
「危ないッ」
 声にふりむくと、その黒いものが、ごう、と音を立ててケーナズをかすめた。引力にひかれるように、ケーナズの金髪がひっぱられ、肌がちりちりするのを、彼は感じた。
 ふらふらと道を歩いてくる男がいる。
 人々ができるだけ彼から遠ざかろうとしているところを見れば、彼がこの災禍の中心なのだ。あの黒いものは、衛星のように、男を中心に旋回しているように見えた。それが形あるものに触れたとたん、蒸発するように、そのふれた部分だけが削りとられていた。
「なるほど」
 状況を飲み込んで、ケーナズは独り、頷く。
 男の後方から、彼を追ってくるものがいる。黒服の、背の高い男だ。
「さて、どうしたものか。かかわりあっているヒマはないが、この有様を見て放っておくのもな――」
 妙に冷静に、ケーナズは考え込んでいるふうだったが、ふいに、はっと目を見開く。
 惨状を遠巻きに眺める群集の中に――
(『ボウシヤ』)
 あの山高帽の男がいたのだ。
 おもわず、一歩を踏み出す。……と、男の進路を、ケーナズがふさぐ格好になった。
「逃げろ!」
 誰かが叫んだ。
 猛スピードで襲い掛かってくる、中空に開いた虚無へとつづく深淵。
 黒い獣が、ケーナズを道に押し倒さなければ、半身を奪われていたかもしれなかった。
「……っ」
 獣と見えたものは、黒スーツの男だった。
「出血大サービスだぜ。普通は男は助けねえ」
「す、すまん……」
 応えながらも、目では山高帽の姿を追う。だが、目指すシルエットは、もう群集にまぎれてしまっていた。
「暁文ッ! いるんだろうがッ!」
「大声で名前を呼ぶな」
 近くの車の影から、別の男が顔をのぞかせる。
「泳がせて相手方の接触を待つつもりだったが――ここまで騒ぎが大きくなればそうもいかんな」
 そして張暁文は、平然と言ってのけたのだ。
「殺すか」
「おい……」
 ケーナズが言いかけるより早く、胸ポケットの名刺入れを取り出すかのようになにげない動作で懐に手を入れた暁文は、黒光りする銃を取り出すや、無造作にひきがねを引いていた。
 ぷしゅ、と、いささか間の抜けた音。
 特に狙いを澄ましたわけでもないのに、その一瞬で、男はこめかみから血の噴水を噴き上げ、どう、と地面に倒れ伏していた。
「振り出しか。ったく」
 銃をすばやく懐に戻し、ぱっと身をひるがえすと、暁文はもう姿を消していた。
「……どいつもこいつもイカレてやがる」
 和馬は首を振った。気がつくと、彼が助けた金髪の外国人も姿が見えなかった。
 遠くからサイレンの音が聞こえてくる。
 和馬もまた、この場を立ち去るべく歩きかけて――
(!)
 その常人離れした視覚ははっきりととらえた。
 走りさる車――そして、その後部座席に乗った、忘れもしない少女の横顔を。

「遅くなってすまない」
 ドアを開けながら発した言葉は、しかし、行き場を失う。
「リョウ……?」
 スイートルームの広い部屋は、がらんとしている。
 机の上のメモを、ひったくった。

  ケーナズへ
  今夜はつきあってくれてありがとう。
  いろいろ考えたけれど……
  やっぱり僕には『ギフト』が必要なんじゃないかって……
  ううん、違うな。
  正直言うと、よくわからなくなってきたので、
  それを自分で確かめようと思います。
  約束だから、『ギフト』のことを教えるね。
  あれをつくったのは、シルバームーン社っていう
  会社のひとたちです。
  そこで研究をしている鍵屋智子ちゃんっていう
  女の子(でも博士なんだって)がいて、
  前から研究所に来るように言われていたので
  僕はそこに行きます。そして『ギフト』のことを
  もっとよく聞いてみたい。
  どういう結論が出せるかわからないけれど……
  またデートしてくれますか?
  また連絡するね。
  ――リョウ

 あまり巧い字ではなかった。
 ケーナズの瞳に、光が宿る。それは、温度のない冷たい炎のような輝きだった。
「やれやれ――」
 ため息まじりに。
「世話の焼けるシンデレラだ」


 三日月の形をデザインされたロゴが、街灯の明りを反射している。
 もう日付もかわる時間だというのに、ちらほらと明りがついている窓も見受けられる。
 そびえたつ塔のような、近代的なビルディングである。
 その前に、一人の男の姿があった。
「お? ……寄寓だな」
 和馬の声に、ケーナズが振り返る。
 その青い瞳が、和馬を見た後、その肩ごしに彼の背後へ視線を映した。
「今度はあんたが尾行される番だったな」
 暁文が、コツコツとアスファルトに靴音を響かせてあらわれる。
「おれは勘がいいんでね。あんたが追ったあの車。この会社に入っていったが……『ギフト』に関係あるんだろう?」
「さあてね。ここがラスボスの城なのか、それとも……」
 そして、三人の男たちは、物も言わずに、その建物を見上げていた。かれらの思いは、三者三様だったろう。
 だが、あの一粒のカプセルが、かれらをここへ導き、三人の運命を結びつけていたのである。
 そして夜に屹立する巨塔は、ただ沈黙しているばかりだった。

(第2話・了)

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0213/張・暁文/男/24歳/自称サラリーマン】
【1481/ケーナズ・ルクセンブルク/男/25歳/製薬会社研究員(諜報員)】
【1533/藍原・和馬/男/920歳/フリーター(何でも屋)】

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■         ライター通信          ■
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リッキー2号です。
お待たせいたしました、「インタレスティング・ドラッグ:2『追跡』」をお届けします。

キャンペーンシナリオの第2話にあたる本作は、それぞれのPCさま個人の事件としてはじまったものが、しだいに交錯しはじめる……という形で、3名様ずつ×4ヴァージョンのノベルとして作成されています(冒頭のパートのみ完全個別です)。
よろしければ、他のヴァージョンもお読みいただくと、事件のまた別な側面があきらかになっていると思います。

さて、ケーナズさん&和馬さん&暁文さん(はじめまして!)のチームでは、
ちょっといろいろなことが起こって(笑)なんだかなだれ込むような展開になってしまいました。

よろしければ、第3話もおつきあいいただけるとさいわいです。
ご参加ありがとうございました。