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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


=学校童(がっこうわらし)=神城心霊便利屋事件簿:弐


「神城さんは…”学校童(がっこうわらし)”ってご存知ですか…?」
 便利屋に訪ねて来た女性は、事務所の椅子に座るなりそう切り出した。
お茶を出しながら、神城・由紀はいいえ、と聞き返す。女性は、そうですよね…と小さく笑みを浮かべて。
「私の母校の中学なんですが、今年、卒業生を送り出すと廃校になる事が決まっているんです…
子供の人数が減っていたり、不景気で運営も困難になったのが理由らしいのですが…
私は”学校童”が原因なんじゃないかって思うんです」
「はあ…」
「学校童って言うのは学校に住んでいる子供の幽霊の事で守り神みたいなものです。
私の中学に昔から伝説として語り継がれてきた存在なのですが…
その学校童が怒ったり居なくなると、学校は廃校になってしまうという噂なんです」
 女性は、お茶を静かに飲んで徐に鞄の中から1冊の本を取り出した。
それはどうやら卒業アルバムのようだった。女性は数ページ送り、あるページを開く。
卒業生全員と職員の集合写真が掲載されているそのページの一部を女性は指差した。
「ここに映っている女の子見えますよね?これ、この子がそうなんです…」
「ずいぶんとはっきり映ってますね…」
「ええ。この写真は私が卒業した十五年程前のものなんですが…こっちを見て下さい」
 女性は、別の写真を数枚取り出してテーブルの上に並べた。
「見て下さい…右から、十年前、五年前、三年前、去年、そして今年の写真です。
どれも同じ場所で同じように撮影した写真なんですが…」
 十五年前にはっきりと映りこんでいた”学校童”の姿は、
十年前、五年前までは同じような場所できちんと映っていた。
しかし三年前、その姿はどこか後ろを向いているようで、去年の姿はほぼ見えなくなっていた。
そして…。
「…今年、いないじゃないですか?」
「そうなんです!お願いします!だからこちらの便利屋さんのお力をお借りして、
学校童がどうしていなくなったのか…いえ、いるかもしれないけれど…
どうして姿を見せてくれなくなったのか調べて欲しいんです…だって…母校が廃校なんて悲しくて…」
「調べて…それでどうなさりたいんですか?」
「できることなら…学校童の力でもう一度かつてのにぎやかな学校の姿を…」
 果たして本当にその”学校童”が学校の廃校に影響しているのかどうかはわからない。
しかし、依頼人の切な願いでもあり…由紀は仕事を受ける事にした。

〓壱〓

「こんにちわ。この度はお仕事のご連絡いただきまして…」
『いらっしゃいませ!お待ちしてました、冠城さん!』
「どうも。翼さんもお元気そうで」
『元気ですよー!もちろん!』
 翼はバサリと背中の羽根を動かして、”元気”をアピールする。
その様子を、どこか成長する娘を見る父親のような心境で、微笑ましげに見つめる琉人だった。
『また今日もお仕事になっちゃってゆっくりできませんね…』
「そうですねえ…でも、お仕事も大事ですから」
『うん…お仕事無いと生活していけないし…』
「大変そうですね…」
 かなり真剣な顔つきで言う翼の様子に、琉人は少し額に汗しつつ答える。
あまり生活に切羽詰ってようには見えないのだが…
周囲からはわからないだけで、実は家計は火の車なのかもしれない…と。
「翼さん、私に出来る事ならなんでもお手伝いしますからね」
『は、はい!お願いします!』
 琉人は思わず真剣な表情で言ったのだった。
翼に案内されて神城便利屋の客間兼事務所に向かい、そこの戸を開く。
と、同時になんともかぐわしい薔薇の香りと、紅茶の香りが混ざり合って鼻腔をくすぐる。
琉人にはこの紅茶の香りには覚えがあった。
それは前回の仕事を終えて、全員で一息入れていた時に嗅いだ紅茶の香りに違いなく…
「いらっしゃい…おや?確かキミは…」
「お久しぶりです…先日のお仕事ではどうも…冠城・琉人です」
「由紀さんの待ち人はキミだったのか…改めて挨拶するよ、西王寺・莱眞だ」
「ええ、しっかりと覚えておりますよ」
 にこにこと笑みを浮かべて、琉人は頭を下げた。
「あの、冠城さん…」
 二人で挨拶をしていて、その陰に隠れていた由紀がためらいがちに声をかける。
慌てて琉人は由紀に挨拶をして…今日も手土産におすすめのお茶を手渡した。
「仕事が終わってから皆さんでいただきましょう」
「いつもありがとうございます!」
「それで、早速お仕事のお話をうかがいたいのですが…」
「はい。それじゃあ説明しますね」
 由紀は琉人をソファに座らせると、莱眞を交えつつ…
今回の事件の調査内容を説明したのだった。


〓弐〓

 依頼人佐々木に案内されて向かった先は、都内でこんなところがあったのか…という風な、
田畑の広がる場所にある、小規模ではないが決して大規模でもない中学校だった。
佐々木の話によると、現在の全校生徒数はだいたい300名いるかいないか程度。
極めて少ないという事は無いのだが…年々、減少の一途を辿っているとの事だった。
「へぇ〜!なんか思っていたより都会ねー?木造校舎イメージしてたけど、違うのね」
 校舎を見上げながら意外そうにそう呟いたのは花瀬・祀り(はなせまつり)。
「そうだね…この校舎のどこかに”学校童”ちゃんがいるんだね…」
 何故かその祀にだけ微笑みを浮かべながら言うのは西王寺・莱眞。(さいおうじらいま)
「それじゃあとりあえず手分けして学校童さんを探しましょうか?」
 にこにこといつもと変わらない笑顔を浮かべる、冠城・琉人(かぶらぎりゅうと)。
「あ、見つかった後、ちょいと俺は別行動したいんだけど、いいかな?」
 片手を挙げて全員に許可を取る、相澤・蓮(あいざわれん)。
何か考えでも?と全員が視線を彼に向けるが、蓮はニッと意味深な笑みを返すだけだった。
「さて。今回は翼さんと瓜亥さんにお手伝いに来ていただいたんですが…」
『はい!あの、アタシ飛べるし…実体化してないから壁抜けも出来るので、
皆さん、呼んで下さればすぐにそちらに向かいます!ヨロシクお願いします!』
『………えっと…瓜亥、よくわかんないけど…頑張るね』
「可愛らしいレディに手伝ってもらえるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろう…」
 にこっと微笑みを浮かべて二人の間に立つ莱眞。
そしてさらにちょうど目の前に立つ祀にも視線を向けて…
「両手だけじゃなく目の前にも可憐な華が…なんていい日なんだろう」
「ちょっと莱眞さん…仕事しようよ、仕事!」
 呆れた顔で言う祀だったが、莱眞はすっかり自分の世界に入っていたのだった。
「あのよ、俺って皆みたいに変わった能力ってのがないから…
瓜亥ちゃん連れて行動したいんだけどいいかな?」
 不意に蓮が再び挙手をして全員に問い掛ける。
「ええ。構いませんよ?私は」
「あたしもいいわよー☆個人的に家から連れてきてるしね」
「そうだな…瓜亥ちゃんと離れるのは名残惜しいけど…仕方ないな」
 快諾する琉人に、なんだか気になる一言付きな祀、そして相変わらずな莱眞の三人から了解を得て、
蓮は瓜亥と共に行動する事になった。ちなみに依頼人の佐々木はロビーで待機する事になった。
「それじゃあ捜索を開始いたしますか…?見つけ次第、連絡するという事で」
『了解』
 声をそろえて琉人に返事をすると、それぞれ思い思いの方向へと散っていった。



「さて、そんなわけで翼さん…お手伝い宜しく頼みますね?」
『ハイ!』
 琉人と翼は、学校の裏庭の捜索にあたることにした。
ネクロマンシーを使って、周囲の浮幽霊たちに協力させる事も忘れずに、だ。
翼は上空と、同じ霊体という点から全体的に調べる。
琉人は細かいところ、例えば植え込みの間なんかを覗いて見たりしながらの捜索をはじめた。
途中で、翼は他の人の所に移動したり戻ってきたりを繰り返していて…
 それから…5分、いや10分くらい経過した頃。
「いたわよー!」
という祀の叫び声が琉人の耳に届く。
それは、校舎の中からのようで、琉人はぱっと顔を上げ、急いで校舎内へと駆け出したのだった。


〓参〓

 ”学校童”を前にして…琉人、莱眞、祀の三人は正座していた。
中学校にしては珍しく畳敷きの茶華道室があり、そこでじっと見詰め合っていた。
式霊の翼も一応、三人の後ろにちょこんと正座して待機している。
 しばしの重く静かな時間が流れる中、最初に沈黙を破ったのは、琉人。
ちょうどポットがあってお湯が沸いているのを見て、懐から”マイ・ティーパック”を取り出し、
慣れた手つきで人数分のお茶を入れて差し出す。もちろん、”学校童”にもだ。
そしてさらに、どこからともなくお茶菓子を取り出して並べた。
四次元ポケット!?と、思わず祀が呟いたツッコミに、くすっと小さく”学校童”が笑う。
今までずっと無表情だった”童”の笑みに…ほっとした空気が流れた。
「ええっと…自己紹介しておきますね。私は冠城・琉人と申します」
「俺は西王寺・莱眞。某学校で給食のおにーさんをしてます…宜しくね?」
 莱眞はそう言いながら、”童”の手を恭しく取り…軽くキスをする。
少し驚いたような表情を浮かべた”童”だったが、すぐに楽しげな笑みを作った。
「あたしはもう自己紹介済みだから…いいかな」
 微笑みながら言った祀に、”童”は微笑んで頷いた。
『我は随分と久しく誰かと話すことが無かったから…嬉しいぞ…』
 そして、透き通るような声が”童”の口から聞こえてくる。
思っていたよりも子供に近い声だったのだが、話し言葉には年月を感じさせる雰囲気があった。
「さて…早速ですがお茶でも飲みながらお話でも致しましょう?色々と積もる話もあるかもしれませんから…」
「そうだよ?何か悩み事でもあるなら俺に聞かせてくれると嬉しいな…?浮かない顔よりキミの笑顔が見たいからね」
「大丈夫!みんな本気であんたの事心配してるから!ね?話してみなよ!」
 三人のその言葉に、驚いた顔をしてそれぞれの顔を見つめる”童”。
そして何か言おうとが口を開こうとした時―――ガラッと茶華道室のドアを開けて、蓮が顔を出した。
蓮は全員が揃っていることを確認すると…なにやらニコニコとしながら入って来た。
瓜亥もそのあとをついてきて、蓮と並んで和室に座る。”童”を中心にして半円を描くような形で全員が揃った。
「今まで何してたの?蓮さん?」
「ちょっとした野暮用ってヤツさ♪それよりえっと…きみが”学校童”ちゃん?俺、相澤・蓮!
いやー、俺ってさ、ここにいる他の皆みたいに何か能力あるってわけじゃないんだけどさ…
俺でよかったらなんでも相談乗るからさ!遠慮なくなんでも話してくれよ?聞くからさ!」
 蓮は笑顔で一気にそう話すと、ポケットから名刺を取り出そうとした自分に気付き手を止める。
そしてそれを誤魔化すようにポリポリと頬を掻いて視線を彷徨わせた。
『面白い方々よ…こんな我の為にわざわざ…』
 ”童”は全員の目をしっかりと見つめながら、小さく呟く。
そして、ポツリ、ポツリと…自分の”思い”を言葉にして紡ぎ始めた。
 昔は純粋な子供たちが多く、自分の存在を誰もが知り、認めてくれていたと。
時には一緒に遊んだり話したりすることも出来たし、教師をはじめとする大人も認めていた。
それがいつの頃からか…どんどん”学校童”の事を信じなくなる者が多くなりはじめ…
その存在自体を知る者も居なくなり…存在をわかってもらおうとして姿を見せてみても、
見た事を否定して、信じない者ばかりになってしまった…と。
『それに時間が経つごとに…子供たちが姿を消していくのだよ…我の前から子供がいなくなっていく…
あんなにもたくさんの太陽のように輝く子供たちに囲まれていた頃が…懐かしい…』
 遠い昔を思い出すように、どこかここには無い景色を見るような目をする”童”。
しばらくそうやって思い出に浸っていたようだったが、不意にその表情を曇らせて…
『しかも大人達の事が我は信じられぬ…子供が救いの手をのばしてもそれを見ぬふりをする…
見ても振り払う…我の言葉も否定し…かつて自分が子供だった事すらを否定する…
昔はそうではなかった…子供達も先生達も一緒になって…笑いあって…信じあって…』
 寂しげにそこまで話すと、それっきり”童”は黙り込んでしまう。
話したいことは全て話したのか…もう話す気分にはなれないのかわからなかったが、
ただ沈黙が過ぎるだけと言うのもいたたまれず、莱眞が一つ咳払いをして。
「…ストレスは美容の敵だね…早く悩みは解決した方が”童”ちゃんの為にもいい…
こういうのはどうだい?俺はね、愛する人となら…サッカーチームが出来る程の子供が欲しいと思う…
今は子供が少ないけれど、その俺の子供達が大きくなるまで待っててくれないかな?
それにね…教師だって捨てたもんじゃないんだよ?たまたま、ここの教師がちょっとヒネてるだけで。
少なくとも俺の知ってる教師は、真っ直ぐで生徒にも慕われてる可愛い奴なんだ。
俺にはキミが希望を持てるよう祈るしか出来ないけれど…もう少し見守ってくれると嬉しいな…」
 とっておきの微笑みを浮かべて、莱眞は”童”の顔をじっと見つめる。
少しうつむいていた”童”の顔が少し上がって…楽しげに小さな笑みを浮かべた。
『莱眞殿の子供達が大きくなるまでか…悪くはないのう…しかし…』
「えっと…あの、現在の生徒さんたちに”童”さんのことを教えるのに…こういう手段はどうでしょう?
夜のうちにこっそりと学校全体を掃除してピカピカにしておくんです!
もちろん、掃除には私がネクロマンシーの術を使ってたくさんの人手…霊手ですかね…で手伝います…
そして綺麗にした後、人の手では不可能な目立つ場所にこう書くのです…”学校童参上!”どうでしょう?」
 両手で湯飲みを持ちつつにこにこと微笑み言う琉人の提案に、祀は一瞬「は?」という顔をする。
どこぞの族じゃあるまいし!とツッコミを入れたい気持ちはやまやまな彼女だったのだが…
いたって本気で言っているらしい琉人の様子に、あえてツッコミはしなかった。
逆に蓮はどうやらその案が気に入ったらしく、「いいねえ!」を連発する。
そして本人である”童”はと言うと…
『書いたところで…我の事だと気付いて信じてもらえるだろうかの…』
 まんざらでもない様子だった。
「えっと…次、あたしいいかな?」
 祀が、とりあえず許可を得てから話を始める。
「あたしもさ…実はその…妖怪を邪険にしてた時期があって…うん…だから他人事じゃないのよね…
あたしの場合、家にね…いるのよ。いっぱい。そりゃもう尋常じゃないくらい…ずっと昔からね。
だけどあたしは普通でいたくって、それを”見えない、いない”そう思うようにしてた…
本当はその存在をいつも気にしてて認めていたのは他ならぬあたしだったのに、ね?
そんなあたしだったけど、今じゃそのいろいろな妖怪達とすっかり打ち解けてるのよね?ここにもいるし!
別に何かたいしたことがあったわけじゃない…ただ、妖怪達が凄く積極的にあたしに触れてきたんだ…」
 話しながら、祀はどこかその時のことを思い出すように嬉しそうでくすぐったいような表情になる。
祀の話には、”童”だけでなく、琉人や莱眞、蓮も「へえ…」と聞き入っていた。
『―――我も積極的に動けば良いのだろうか…』
「そうよ!じっとしてたってダメだっての!自分から動かなきゃ!!」
『けれど、我もむかし自ら動いた…それでも…誰も認めてはくれなかった…我はもう…』
「諦めるのは、ちょっと早いと思うぜ?」
 寂しげに瞳を揺らしていた”童”の言葉を遮ったのは、蓮だった。
立ち上がって、部屋の窓から外を見下ろしながら…意味ありげに笑みを浮かべる。
「俺は琉人や莱眞や祀ちゃんが言ってた事全部ひっくるめてやってみたらいいと思うぜ?
そうだな、莱眞の子供が大きくなるまで、ひたすら学校の掃除して”参上!”ってやり続けるとか!」
「ええ?…毎日だとさすがの私も厳しいですよー?相澤さん…せめて週に一度ですね」
「いいじゃない!あたしも手伝ってあげる♪」
「まあこの俺に子供が出来て学校に通うくらいに育つまでそう遠くない未来のはずだから…」
 わいわいと盛り上がる四人を、”童”は嬉しそうに目を細めて見つめた。
そして、すっと立ち上がると…四人が見つめる中、丁寧に頭を下げて。
『みなの気持ちはしかと受け止めた…ありがとう…嬉しい…』
「え?それじゃあ…」
『しかし…承知の事だと思うが…この学校はもうすぐ無くなるのだよ…』
「―――やっぱり…そうなんですか…?”童”さんの力では…」
 琉人がためらいがちにかけた問いに”童”は寂しげに首を左右に振って。
『みな、勘違いしておるのだ…。我の力で”学校”が栄えるのではないのだ…
そこに集う子供や先生たちが我のことを感じ、見て、親しんでくれるからこその”学校童”…
子供達の気持ちがあってこその我の力なのじゃ…それが無い今…我はただ消えるのを待つのみ…』
「いや、そうはならねえかもよ?」
 いつの間にか、部屋の窓から外に身を乗り出していた蓮が不意に”童”に言う。
そして”童”に窓の外を見るように言うと…ニッと、嬉しそうな笑みを琉人たちに向けた。
窓の外に何が?と、”童”を筆頭に、全員が窓際に詰め寄る。
身を乗り出すようにして見たもの…それは…
”いたー!!いたよ!!童ちゃんがいたー!!”
”やだ!まだ見えるんだ!嬉しい!こっち見てるよー!わらびー!!”
”見えてるよ…俺にもやっぱ見えてるし皆も見えてるし!”
”久しぶり〜!元気ー!?”
 口々にこちらを見ながら手を振っている、老若男女の姿だった。
そこには依頼人の佐々木の姿もあって。それが一体何の集団だと、疑う余地もなく。
その者達の姿を目にするや否や、”童”は表情をパッと輝かせて…窓から飛び出したのだから。
「―――蓮さん…なーんか企んでると思ったら…!」
「こういう事だってんですねえ?」
「なるほど…俺ともあろう者がそこまで気がまわらなかったよ…」
 三人に、なんとも微妙な笑みで誉められて蓮はへへっと笑いを返す。
「いやー…ほら、過去に”童”ちゃんの事が見えてたヤツが絶対にいるはずだ!と思ってさ…
資料室の卒業名簿を片っ端から電話しまくってたわけ!”皆で気持ちを伝えませんか?”ってな!
どれくらい来てくれるか…そもそも一人でも来てくれるのか正直不安だったんだけど…
ま、結果は見ての通りって言うか!卒業生ってのも捨てたもんじゃないだろ?」
「いろんな年代の人が来てるじゃない!なんか、つい去年卒業したばかりって感じのコもいる!」
「皆さん本当は”学校童”の事、見えていたり気付いていたりしてたんですねえ…
だけどきっと、それは自分だけなのかもしれないと思って誰にもいえなかったんでしょう」
「うん、きっとそうなんだ…見えてたのに認めなかった…昔のあたしと同じだね…」
「ふむ…しかし、これだけの数の卒業生が集まって”学校童”の事を思っているのなら…
それは”童”ちゃんの力になるんじゃないかな…?今ここに集っているあの人たちも…
通っていた時代は違えど、この学校の子供には違いないんだからね」
 窓の外、日暮れが近づいて遊具が長い陰を作り始めた校庭で。
”童”はかつての”子供達”に囲まれて、幸せそうに微笑んでいた。
今はもう子供ではなく、大人としての道を歩いていたり、歩き始めたばかりだったり…
まだ、その一歩手前にいる者達だけれど…”童”にとっては、大好きな”子供達”に変わりは無い。
その”子供達”の思いがあれば、今の子供達とも…打ち解けられるような、そんな気がした。
自分から動かなければ、何も変わらない。
希望を持って…自分が”ここにいる”事を…今の子供達に伝えよう…
もしそれでも駄目で、学校が無くなってしまったとしても…
『我はずっとここに残る…この校舎が消えてしまっても…
我はここで…ここで過ごしたたくさんの子供達の思い出を守っていく…きっと…
そしていつかその子供達がここへ帰ってきた時…その思い出を手渡してやろう…』
 校舎の中と、校庭で。
離れていたはずの”童”と、四人。
しかし、四人の耳には…はっきりと”童”の透き通ったあの声が聞こえてきたのだった。



〓四〓

 学校での一件を終えて、神城便利屋に一旦集合する事にした四人だったのだが、
帰り道の交通手段を各自好きなように選んだせいで、
結局集合できずに個別でそれぞれが挨拶を済ませ帰途につくことになった。
 琉人はというと…交通手段というか…
「いやあ…夜空から見下ろした眺めはなかなかですねぇ…」
『そうでしょー!?一度、冠城さんに見せたかったんです』
 翼の飛翔の能力で、空からの帰還としゃれ込んでいた。
なんでも、実体化した翼の羽根を身につけて翼の近くにいれば誰でも飛べるらしい。
実に便利な能力なのだが、難点は、自分の意思で移動が出来ないということ。
全てを翼のコントロールに従わなければならないのが欠点だった。
 まあそれもこうやって”遊覧飛行”をするだけならば特に問題はないのだが。
「こうやって見ると東京もなかなかの景色ですね」
 翼の羽根を帽子にさして、琉人はにこにこと微笑んだ。
ちなみに、瓜亥は翼の背中でうとうととしかかっている。
「夜景を見下ろしながら…お茶をいただきたいものです」
『あ、それいい!でもお湯が無いですね…』
「こんな事もあろうかと、私はいつでも用意してるんですよ」
 琉人はふふっと得意げに笑みを浮かべると、
どこから取り出したのかコートの中から魔法瓶を取り出す。
中身は先程、学校の茶華道室でポットのお湯を拝借していれたばかりのお茶だった。
『さすがー!お茶の伝道師ー!』
「あはははは…いいえ、少し違いますよ?」
 琉人はニコっと微笑むと、徐に魔法瓶を翼に預け。
「『お茶の使者』です!」
 東京の夜空で、ポーズをキメたのだった。
『えー!?こうですか?』
「いいえ、こう、ですよ」
『むずかしいなあ…えっと…こ、こう?」
「もうちょっと手を少し上げてください?そうそう!いいですよ翼さん!」
『こうですね!』
「そうですそうです!その調子です!」
 和気藹々と、二人で”お茶の使者”ポーズ講座を繰り広げる二人。
果たしてそれに意味があるのか?と第三者にツッコミを入れられてしまいそうなのだが、
二人はその時間を実に楽しんでいた。

 その頃、地上で。
空の上から宇宙人がメッセージを送っている!と騒ぎになっている事に、
そんな二人が気付くはずもないのだった。





<終>

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2209/冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)/男性/84歳(外見20代前半)/神父(悪魔狩り)】
【2295/相澤・蓮(あいざわ・れん)/男性/29歳/しがないサラリーマン】
【2441/西王寺・莱眞(さいおうじ・らいま)/男性/25歳/財閥後継者・調理師】
【2575/花瀬・祀(はなせ・まつり)/女性/17歳/女子高生】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。この度は『神城便利屋』第二回に参加いただきありがとうございました。
前回に続いて参加して下さった方、今回初めて参加して下さった方、
どちらも感謝してもし足りないくらいの嬉い気持ちでいっぱいでございます。
 今回は学校にいる”学校童”を題材にしたのですが、
皆様のプレイングでなんだか思っていた以上にいいお話に仕上がった気がします。(笑)
PC様あっての作品だなあとつくづく実感いたしました。本当にありがとうございます。
 少なくともライター本人は心から楽しみながら執筆させていただきましたのですが、
参加して下さった皆様にも楽しんでいただけたら幸いです。

 今後も、神城便利屋のエピソードをご用意していきますので、
宜しければまたご参加いただけると嬉しいです。

>冠城・琉人様
こんにちわ。神城便利屋二度目のご参加ありがとうございます。
今回もラストは翼とのやりとりで〆させていただきました。
翼は冠城さんの事を少し歳のはなれたお兄さんのように思っているようです。(笑)


:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>