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<東京怪談ノベル(シングル)>


愛の告白集

 今、五代真には大きな悩みがある。
 人から見れば他愛のない、些細な悩みかもしれないが、本人にとってはとても重大な悩みが。
 その悩みとはズバリ、恋の悩み!
 恋のお相手は真の幼馴染の女性である。
 幼馴染として、友人として。それなりに仲良くやっているものの、真からの彼女への想いは『友情』ではなく『愛情』だ。
 できれば今以上の関係――幼馴染ではなく彼氏――になりたい、というのが偽らざる本音であった。
 だがいつもそれを言うタイミングを掴みかねて、言うに言えない日々。告白経験がないためにどうやって切り出せばよいのか、何て言って告白すれば良いのかわからないせいもあるが。
 悩み続けた日々はどれくらいであったか。ある日とうとう、真はひとつの決心を固めた。
 誰かに相談しよう!
 出口の見えない迷宮の中で延々と悩み続けていても状況はまったく進展しそうにないし。自分一人で解決できないことに、誰か他の人の手を借りるのも時には必要なことだろう。
 そんな結論に至った真が向かったのはゴーストネットOFFの面子がよく集まるネットカフェ。
 あそこにいけば誰かしらいるだろうし、男女問わず人の集まるあそこならば、女性の側からの意見も聞けるだろうと考えてのことだった。
 ネットカフェに入ると、そこにはちょうどタイミングよく、瀬名雫も訪れていた。
「よお」
 片手を上げて挨拶すると、雫はモニタから目を離して椅子ごと振り返った。パソコンの表示内容を見るに、掲示板チェックに来ていたらしい。
「こんにちわ、五代さん」
 さて、どう切り出そうか。
 数秒の逡巡ののち、
「……なあ、ちと相談にのってほしいことがあるんだ」
 ストレートに言ってみた。
 真にしては歯切れの悪い口調に雫は一瞬不思議そうな顔をしたものの、すぐに立ち直ってにこっと元気な笑顔を返す。
「あたしでよければ」
 その返事に礼を告げて、とりあえず雫の隣の席の椅子を拝借して腰掛けた。
 そして今度は、ちょっと開き直りも入ってきぱりと告げた。
「告白ってどうしたらいいんだ?」
 突然の、予想外の問いに雫はしばらく黙り込んだ。
 真から恋愛相談を受けるのも意外な展開ではあったが、だが。なにせ怪奇一筋でここまできた雫だ。彼女自身も恋愛経験はそう多くはない。人の恋路の手伝いをしたことがないとは言わないが、それらは全て女の子同士の会話の中から発生したもので――つまり、女の子の恋の手伝いしかしたことがないと言うこと。
「参考になるかどうかわからないけど……」
 雫が思いついたのは、いかにも雫らしい情報収集方法。
「あたしが知ってる恋愛サイトで、何かわかるかも」
 言いつつ、いくつかのアドレスを打ち込んでサイトを表示させる。
「ありがとな」
 率直に礼を告げると雫は、まだ役に立つ情報があるかどうかはわからないよと言って苦笑した。
 さて、開かれたページはいかにも女の子らしい、鮮やかな色使いのページであった。
 いくつか置かれている掲示板では恋の話が咲き乱れ、コンテンツには恋愛体験談だとかこんな告白されてみたいだなんて投稿記事が数多く掲載されており、なかなかに賑わっている様子だ。
 ざっと目を通していた二人の視線が、同じ場所で止まった。
 そのサイトの中にあったとあるコンテンツ――『愛の告白集』なるタイトルを発見したのだ。
「参考になるかなあ、これ」
 微妙に疑わしげながらも、雫がそのタイトルをクリックする。
 確かにそこには、たくさんの言葉が載っていた。
 だがしかし。
「……こんな恥ずかしい台詞、俺には言えねえ…」
 少女漫画でよく見掛けるような台詞から、ナルシスト一歩手前の歯が浮くような台詞まで。古今東西千差万別な告白の言葉。
 恋に恋する夢見る乙女ならば喜ぶかもしれない。
 だが真は思う。
 幼馴染の彼女はきっと、そんな誰かからの借り物の言葉での告白を良しとはしないだろうと。
 それになにより。
 こんな台詞を真面目に口にしたら――いや、冗談ででも――歯が浮きまくって総入れ歯になりそうな気がする……。
「五代さん?」
 一言の感想ののち黙り込んでしまった真に雫の声がかかる。
 はっと我に返った真はふっと小さく息を吐き、
「今日はありがとな、いろいろ参考になった」
 妙に吹っ切れた表情でそう告げた。
 あの恋愛サイトの言葉はなんの参考にもならなかったけれど。だがひとつ、大切なことをわからせてくれた。
 それはつまり、告白の言葉は自分の言葉でじっくり考えるのが一番良いということ。
 そんな結論に辿りつけただけでも雫に相談したのは正解だった。
 こうして悩みはひとつ減ったものの、やっぱりタイミングの掴み方も告白の言葉もなかなか上手くいかないことには変わりなく。
 真の告白の日はまだ遠い。