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<東京怪談ウェブゲーム ゴーストネットOFF>


ブラッディ・バレンタイン

●プロローグ

 ゴーストネットに次のような書き込みがあった。

***

タイトル:私、バレンタイン・デイに殺される
投稿者:NOZOMI

 こんな書き込みをしてしまってゴメンナサイ。
 迷惑かと思ったけれど、いえ、書き込んですらいけないことだけれど、どうしても自分の恐怖心に耐え切れませんでした。
 実は、私は未来予知ができます。私は2月14日に死にます。殺されます。
 決して、助けに来ないでください。
 誰もアイツを止められず、守ってあげると言ってくれたあの優しい人たちも次々とアイツに切り裂かれていって・・・。イヤ!! やっぱり書き込んでしmうのね私――
 ビジョンの私も書き込んでたこんな風に。誰かとめて、

 それでも、それでももし希望をもっていいのなら、
 でもお願いします・・・誰も巻き込みたくない。こないd


***

 一緒にリンク先がありつけてあり、取り壊し寸前の洋館の写真と地図、そしてその夜にはこの地図の場所に自分はいるとの内容が付記されていた。

 この書き込みを見て真っ先に浮かんだ言葉、それは
 ――――死のバレンタイン。



●洋館の令嬢

 書き写した地図通りにその場所を訪れると、写真とそっくりそのままの今にも崩れ落ちそうな洋館があった。
 周辺はうっそうとした森に囲まれて暗く陰鬱な雰囲気。
 何羽もの数え切れない黒い烏が澱んだ空を飛んでいる。
 まるで巨大な墓所を思わせられる館だった。

「さあて、来ちゃったはいいけど怖そうな洋館だな」
 陽気につぶやいて女子高生の 榊杜 夏生(さかきもり・なつき) は赤錆びた門を見上げた。
 公立高校2年生ミステリー同好会所属。こんなにも面白そうな事件に黙っていられるわけがない。
 「座右の銘:人生、行け行けゴーゴー」は伊達ではなく、気の早い夏生は予告日の前日からもうこの洋館へと来ていたのだ。
 鍵が壊れて半開きになっていた門から中に入る。
 蔦の絡まった大きな正面扉は、まるで暗黒を閉じ込めた封印のようで、手をかけるには多少の勇気を必要とする。
 夏生が手をかける前に、扉はギィッと鳴り自分から開いた。
 中から伸びる白い手。

「・・・・来てしまったのね。やはり・・・・」

 扉の奥から現れた白い服の少女は、清楚な令嬢といった雰囲気を漂わせていた。亜麻色のやわらかい髪が揺れている。
 ざっと見た感じでは、外観の寂れた様子と比べて洋館の中は意外ときれいだった。
「キミがNOZOMIさん? あたし、あの掲示板の書き込みて来ちゃったんだけど」
「ええ、そう。羽見 望(はねみ・のぞみ)。・・・・あなたは?」
 招きいれながら素性を訊ねる令嬢――望に夏生は答えた。
「あたしは榊杜夏生って言うの。よろしくね」
「夏生さん、2月14日は明日よ。どうするの」
 やることは色々とある。望から予知についての詳細を聞き、それに洋館の下見。
「話から犯人像や、犯行手段が判れば応戦もしやすいっしょ。こんな寂れた洋館に望さんが居なきゃなんない理由も知りたいし。明日ここに居なくてすむなら、それが一番だしね」
 夏生の言葉に望は寂しそうに微笑んだ。
 惨劇が起こるのは明日――それがビジョンの告げる未来。それまでの時間は協力することを約束すると、望は廊下を歩きながら言った。
「それじゃ、今日はこちらに泊まっていく?」


 2月14日は、無事何事もなく訪れた。
 豪奢な調度品で飾られた大広間。
「つまり、14日というのは今夜を意味すると考えていいですね」
 正午になっても薄暗い洋館に昼から訪れた銀髪赤眼の少年―― 尾神 七重(おがみ・ななえ) が考えを述べると、確認を取るように望に訊ねた。
「依頼は『守る』でも犯人を『倒す』でもなく『とめる』事ですね。承知しました。」
「――依頼というよりも、あの時は取り乱していたから。本心をいえば誰一人これからの惨劇に巻き込みたくはないし、むしろ今から引き返されても構わないと思っていて・・・・」
 七重は複雑な表情を作ると、テーブルについてコーヒーを飲みながら 夢琴香奈天(ゆめごと・かなで) がちらりと視線を向けた。
「とりあえず昨夜は、気の早い誰かさんのおかげで敵が姿を見せなかったのかもしれないわね。ふふ、泊まりごこちはどうだったのかしら?」
「もーベッドが大きくてふっかふか、二人で寝ても余っちゃってさ。気持ちよくてついぐっすり寝ちゃった」
 頭をかいてあははとごまかす夏生に、呆れたように長い髪にバンダナを巻いた派手な装身具の青年―― 真柴 尚道(ましば・なおみち) は肩をすくめてみせる。
「ま、あれだけ掲示板で煽っといて『殺されていたのは昨夜でした』なんて展開、笑い話にもならないだろうしな」
 望の身が気にかかっていた尚道だが、そんな自分を隠すようにおちゃらけた風を装った。
 とはいえ、そうなると今夜が殺戮の夜。
 尚道の背後で突然、ドアの開く音がした。
 洋館を見回っていた 芹沢 青(せりざわ・あお) だ。青髪に青い瞳の少年は丸めた館の見取り図でとんとんと自身の肩を叩く。
「七重の作った洋館の見取り図はほぼ完璧と言っていいな。間取りや敷地が正確に再現されていて、現状でこれ以上の見取り図は不要だ」
 どうも、と頭を下げる七重とその横で「あたしも手伝ったのよ」とアピールする夏生。
「とりあえず新しい客を紹介しないと。ほら、こっちだ」
 青の後ろから女性と間違えられそうな可愛い容姿をした少年、一緒に洋館を見回っていた 不城 鋼(ふじょう・はがね) が姿を見せる。
 だが、青の言っていた客とは鋼ではなく、彼の連れている白衣の男。
「館の周りでうろうろしてたんだが望の知り合いか? それとも掲示板にあった『アイツ』ってのがこいつか?」
「何度も言うようだが、わたしは挨拶する前に周辺を調べさせてもらっていただけでね。そう警戒しないでもらえないかな」
 その男、 城田 京一(しろた・きょういち) は飄々というより、どこか達観した雰囲気すら漂わせて手を挙げた。
「なに言ってるんだか。館の近辺でコソコソ怪しいそぶりをしていただろ」
「その方なら信頼されてもいいわ。私を守りに来てくださった一人よ」
 鋼に目だけでうなずく望。
「そいつは光栄――と言いたいところだが、そう安易に理解されてもかえって心配になるものだね。その信頼の根拠を聞かせてほしいものだが」
「ええ、だって『視ていました』から」
 望の一言にぞくっと鳥肌が立つ。
 予知のビジョンの中。
 つまり、京一が彼女を守り、そして殺される一人として――。
 鋼は望の説明を思い返した。

 ――――天使の瞳。
 それが彼女の力に付けられた名前らしい。
「・・・・この未来が視える予知の力に気がついたのはつい最近です。少し以前から未来のイメージが現在見ている風景の中で時々重なるように垣間見えて。気のせいだろうと思っていたのですがその未来のビジョンが次第にはっきりと意識されるようになりました・・・・その筋の方に相談させていただいたところ、天使の瞳による力の一種だろう、とそう言われたんです」
 天使の瞳とは、望の受けた説明の範囲で言うならば、最近世間で見られるようになった特殊能力の一種とのことだ。
 瞳とは、外世界と内面世界を視覚的に結ぶ窓口である。そのため魔術的にも魔力を宿らせたり不可思議な力を発動させる重要な器官であると考えられ、神秘の象徴として捉えられる場合も多々みられる。
 近年に入り、急速に瞳を媒介として力を行使する能力覚醒者たちが増えてきていた。
 この現象を能力の鍵であるのが瞳であることから一部では、誰が名づけたのか、天使の瞳の能力者――と呼称されるようになり始めた。
 ――天使の奇跡を宿した瞳――。
 天使の瞳を所有するものに共通する特徴としては、現在確認されている範囲でだが、近年に突然能力に目覚めたこと、瞳を媒介にして力を使うこと、個人特有の超常能力を使用することなど、一般の超常能力者――特に超能力系の能力者――との境界条件があいまいで、明確な定義による区別が困難ではあるが、実際に天使の瞳を持つものと接触経験のある者の話によると「出会ってみればそれらしい雰囲気がわかる」そうだ。

「と言われてもな、天使の瞳? なんつーか、あんたからは全然そんな感じを受けないんだけどさ」
「もう、そーやって望さんに突っかかっても意味ないじゃない。その雰囲気っていうのも話からだと個人差があるらしいし――今、問題なのって望さんの予知の力がホンモノっぽいってことでしょ?」
 尚道を止めるように夏生がにらむと、二人の話を引き取る形で七重が続けた。
「夏生さんの言う通りだと思います。これまでの話を聞く限り、望さんが予知されたことは必ず実現されているといって過言ではないから。今はその対策を練ることが先決でしょう」
 ――あくまで、彼女の話を信じればだけど、と七重は自分の心の内だけで補足する。
 今回の望の行動が狂言でないという証拠はまだないといってもいいからだ。
「後は、如何に殺されないようにするか。・・・・俺たち全員も含めて」
 青は不吉な予感を振り切るように顔を振ると、考え込むように黙っている望を見た。
「ええ、予知のビジョン通りだと今夜にはここにいる全員の命はないことになるから。引き返すなら今の内――」
 ガタン、と椅子の倒れる音。
「簡単に死ぬというな! なにがあるにせよ、徹底的にあがいて見せろ!! 何のために俺たちが来たと思ってるんだ!!」
 それは鋼の声だった。
 にらみつけるように望を見つめる。
「――そうですね。私があの掲示板に書き込んでしまったのも、鋼さんの言う通り、結局何かに逆らってみたかったからかもしれない・・・・」
「そうだ。それが人の意思であり、生きている証だ」
 ため息をついて、望はギュッと拳を握り締めると、夜になる前に言っておきたいことがある、と立ち上がり窓辺に立った。
「黙っているのはフェアではないから―― 一応、伝えておきます。天使の瞳を持つものには、はっきりと断言はできないけれど、もうひとつの特徴があるといわれているらしいの・・・・」
 あくまで噂よ、と付け加えて望は言う。

 天使の瞳に目覚めたものは、超常能力者を殺すモノになるらしい・・・・と。


●紅い夜

「ああ。なんかさ、ほっとけなくてね」
 それが真柴尚道がこの館を訪れた理由だった。
「普通に生きていたら知ることはない未知の力や不思議な現象があるのでしょう。私もそういう世界がすぐ隣にあることを今まで知らなかった。でも、その世界で生きているあなたなら、あの書き込みの危険性は充分にわかったでしょう?」
 それなのに理由がほっとけないからなの、ともう一度つぶやき、望は小さく笑った。
「真柴さん、よく変な人っていわれない?」
「うるさいっての。・・・・まあ、俺なら多少切り裂かれた所で死にはしないし、他の連中の盾にもなれるからな。運命っつうのは、予知があろうとも、不確定要素によって崩されるものだ、って俺は思うし?」
「不確定要素、か・・・・」
 表情にこそ出さないが、望がすがるよう見つめる窓の外では最後の夕陽が落ちようとしている。
 心なしか肩が震えている。
 望の手首にそっと何かが巻かれた。
 それは、尚道が自身の髪をひとふさ編んでブレスレッドにした範囲結界の術を施したお守りにしたもので、巻き終えた尚道は窓を見た。
「――――とうとう夜が来たな」


 洋館はかなりの広さがある。
 今、全員が集まっている客室の大広間以外にもいくつもの部屋があり、三階建ての建物の中央には吹き抜けにした礼拝堂になっている。
 大広間の柱時計が午後の10時を告げた。
「そういえば香奈天、遅いようだが」
 青髪青瞳の少年――青は時計を見上げた。
「すぐ戻ると言ってたのにな。念のため探しに行くか?」
 少人数だけで探しにいかせるか、半数に割って探すか、それとも全員で行くか―― 一同は、全員で探しに行くことを選択する。

 夢琴香奈天が廊下で倒れていた。
 背中を肩から袈裟斬りにされ、おびただしい量の鮮血が周囲に広がっている。
 床を紅く染めてぴくりとも動かない。
「死んでる? そんな、嘘」
 よろけて一歩後ずさる夏生。香奈天には部屋を出るときに危険だからといって、自分の幸運招来のピアスを渡してあったはず――。ピアスの加護が、効かなかった?
 膝がガクガクと震えている。神様憑きであり、神様がついているかのごとく異常に「運」が良い夏生だが――それと同じ幸運をもたらす力のピアスを持っていたのに、香奈天は真っ先に命を失っている。
 これは、悪い夢だ。

 周囲を警戒しつつ、鋼は望との会話を思い出した。
 望がこの館を離れられない理由と彼女の視たビジョンについて。

「――私にはこの洋館を守る義務があるんです」
 それは使命とも、託された願いとも呼んでいい。
 この広い洋館で一人だけで暮らしていた望は、両親とも死別して残されたのはこの寂れた洋館だけ。
 命日から数えて5年、その日まではこの館にいてほしい、それが両親の願いだった。
 その最後の日である今日にこの家を空けることは約束の破棄。それだけはできない。
「予知で視た光景では、はっきりと『アイツ』が見えていたわけではありません・・・・ただ、黒い殺意と、みなさんが切り裂かれ、倒れていく様子は覚えています・・・・」
 そして、最後に自分も殺されたのだ。
 無気味に笑う『アイツ』に貫かれて・・・・。

「そうか! 見てくれ、この館の構造に鍵があったんだ」
 見た目はただの洋館にすぎないが、中央の礼拝堂を中心にした儀式を執り行う場になっている。洋館の見取り図を広げながら青が指摘するとおり、各部屋の配置比率となる数字に神秘数が使われていたり、方位に対してもきわめて霊的な配慮が見て取れる。
「・・・・これは、神呼びの術式に似ているようだね。私も詳しいわけではないのだが」
 京一によればこういったタイプの儀式は超越的存在――神に対して代価を払うことで霊的保護を得る、そのために捧げ物を送るための儀式だという。
 簡単にいうと――生贄を捧げる聖なる祭壇。
 生贄は――
「そんな・・・・そんな話、私、聞いてない――!? 私はただこの家を守るように、・・・・いやあ!!」
「落ち着いて、望さん!」
 取り乱す望の頬を叩いて夏生が正気を取り戻させる。とりあえずこの館を出ることが何よりも先決だ。
 だがいくら走っても下へ降りるための階段が見つからなかった。
 パキン、パキン。
 廊下の電燈が次々と破裂して暗闇が覆い始める。大広間からこの香奈天が襲われた場所は3階。広い屋敷の中の同じ場所をグルグルと走らされて続けているような感覚で、もはや見取り図も役に立たない。
「待ちな! 七重の姿が見えねえ!?」

 尾神七重は一人動き回らずに、物陰と闇に身を潜めて『アイツ』を待った。
 この洋館に集まった人の身元は雫にメールで確認してあり、全員が怪しい人物ではないことはわかっている。
 後は、望を追っていくであろうソレの不意を討つ。
「それにしても『切り裂かれていって』・・・・あの掲示板にあった一文、守ろうとした人が切り裂かれた所を見たという事でしょうか」
 ご自分は無事で? と内心で思いながら遠ざかっていく望を盗み見る――少々腑に落ちない。
 この惨劇がすべて望本人による狂言だとしたら。
 ――計画的な犯人なのか、あるいは本人が二重人格なのか。
 ざく。
 え? 七重の首筋に灼熱感が走った。どろりとした感覚。手にべっとりとつく液体。
 目の前が暗くなり、七重はその場に崩れ落ちた。
「――あれか!? 俺が行くからお前らは望を逃がせ!」
 廊下の背後に現れた黒い影に向かい不城鋼は突っ込むように走り出した。
 特殊な歩法により一気に間合いを詰め、大地からの気を集めて全闘気を脚に集中させる。
 霊感はないが修羅場をくぐり抜けてきたことにより鍛えられた直感で敵の気配を的確に捉えると、全開の回し蹴りを放つ。
「四次元流格闘術、蛟竜雷閃脚!!」
 それは、長い槍を持った人影。
「あたしもいく――タアァァッ!!」
 鋼に続いて必殺の回し蹴りを繰り出す夏生。ふたりによる二段構えの蹴りが放たれるが――望の目前で二人が切り割かれた。
 蹴りが当たったように見えた瞬間、攻撃を当てたふたりが逆に鮮血をあげて吹き飛ばされたのだ。
「そ、んな――」

 絹を切り裂くような悲鳴を上げる望。
「こうなったら強引にいく――掴まってろ」
 青が望を引き寄せると、手を合わせて電撃を集中させた。
 迸る雷撃を迫り来る黒い影に放つと同時に、床を砕いて下の階へと飛び降りる。もうひとつ床を砕いて一階に降り立ち、まっすぐに走る。
 京一に尚道も後に続く。
「雷弾直撃でもやっぱ生きてるかよ、チッ!」
「とりあえず、足止めにはなるか? はは」
 顔を見合わせて、青と尚道は力を解き放った。
 青の開けた穴から降りてくる槍を持った影へと青の雷撃と尚道の破壊の力が影を捉えたが、影はこちらに向かってくる。
「ははは! 面白れえ! こうなりゃテメーも現場も全部、塵に還してやるぜ!」
 尚道が破壊の力を増大させようとした瞬間、渦巻く雷撃と破壊のエネルギーによる光が影を照らし出し――。
 軽やかにゆれる亜麻色の髪。
 青は、確かに見た。尚道も同じものを見たようで動きが止まり、刹那に槍が閃き、彼の胸に――尚道の心臓が槍で貫かれる。
 同時に、青は噴き上がる自身の鮮血を見た。

「――キミだけでも逃げてくれたまえ」
 京一は背中で震えている望にやさしげに言った。
 この場所は見取り図で見覚えがある。京一はここに訪れたとき、洋館にはすぐに入らずに、C4を仕掛けておいたのが生きそうだ。
 アレを吹き飛ばせなくとも、その壁に開いた穴で彼女をこの呪われた洋館から脱出させられるだろう。
 槍を持った影はゆっくりと京一に迫った。死の具現と化した影へ向け、望を突き飛ばすと、彼は自分の最後を受け入れるかのように腕を広げてみせる。
「死とは存外に、あっけないものかも知れないね」
 目の前で壁ごと爆発が起こり、影ごと京一を巻き込んだ。
 倒れた状態で衝撃波が収まった光景を呆然と見詰める望。
 うつろな瞳で無意識のうちに壁にできた、洋館の外へと開いた壁の穴を乗り越える。
 ――――あれ?

 そこは、吹き抜けの礼拝堂だった

 外ではなく洋館の中に――、空間が捻じ曲がっているのか。見慣れた礼拝堂を進み、聖母像の前に立つ。
 そこには、等身大の鏡があった。鏡に映っている、鮮血に染まった槍を持ち、不気味で、可憐な微笑みをむける自分の姿――。
 彼女の槍が、私の胸を突き刺した。





●夜明け 〜エピローグ

 不城鋼は、うっすらと目を開けた。

 白い光が差し込んでいる。
 陽光――朝の光だ。
「何で生きてるんだ・・・・確か、バレンタインデーの夜に――」

 カタカタカタ。
 夢琴香奈天がパソコンのキーボードを打っている音だけが静かな室内に響いている。
 ここは香奈天の事務所のようで。
「なに言ってるのよ? バレンタインデーはまだ先でしょ。寝ぼけておかしな夢でも見たんじゃ・・・・」
 香奈天の言葉が途切れた。
「あら? この書き込みは何かしら――」

***

  タイトル:私、バレンタイン・デイに殺される
  投稿者:NOZOMI

  こんな書き込みをしてしまってゴメンナサイ。
  ・・・



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0017/榊杜・夏生/女性/16歳/高校生/さかきもり・なつき】
【2158/真柴・尚道/男性/21歳/フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神)/ましば・なおみち】
【2239/不城・鋼/男性/17歳/元総番(現在普通の高校生)/ふじょう・はがね】
【2259/芹沢・青/男性/16歳/高校生・半鬼・便利屋のバイト/せりざわ・あお】
【2557/尾神・七重/男性/14歳/中学生/おがみ・ななえ】
【2585/城田・京一/男性/44歳/医師/しろた・きょういち】

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■         ライター通信          ■
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 こんにちは、雛川 遊です。
 シナリオにご参加いただきありがとうございました。それと作成が遅れてしまい申し訳ありません。
 悪夢のような雰囲気をめざした今回のシナリオでしたが、いかがでしたか? ホラーといえば13日の金曜日やサスペリアと答えてしまう雛川なため、こういう展開になりました。
 今回は恐怖をメインに執筆させていただきましたが、繰り返しの設定を生かしてもう一度このシナリオでの募集を考えています。続編と言うわけではありませんが、ミステリでいう解決編みたいな謎解きのノリでしょうか? バレンタインからは時間が経ってしまいますけれど。

 また明らかになった情報の一部も異界の受注用個室にてアップしていく予定です。例の如く更新が遅れるかもしれませんが‥‥(汗)
 では、あなたに剣と翼の導きがあらんことを祈りつつ。