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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 帰ってきた男(前編)

 久しぶりというほど久しぶりではないのだが、草間興信所に訪れてみると、もうすぐ依頼者がやって来るらしく、どこか改まった気配が漂っていた。人探しの依頼なんだ、話はそのあとでなと草間が言うので、素直にそれじゃあ、あとで、実は用事というほどの用事ではないけれどと待たせてもらうことにしたところで扉が叩かれた。
 現れたのは、十五、六と思われる少女。大人びた中学生か、普通に見て高校生といったところだろうか。今時の少女にしては、少し地味な印象を受ける。やや思い詰めた表情で草間、そして何気なく見つめていた自分に頭を下げたあと、勧められるままにソファへと腰をおろした。
 草間が言うには人探しの依頼ということだったが、この少女はいったい誰を探してほしいというのか。会話をするにあたって気にならない距離を保ちつつ、耳を傾ける。
「兄が、帰ってきました」
 最初の言葉はそれだった。兄を探してほしいということはわかったが、しかし、その言葉。それというのは、つまるところ、依頼する必要がなくなったということではなかろうか。いきなり軽いジャブを食らったようなものかもしれない、どうする草間探偵と功刀は草間を伺う。
「……それは、よかったですね」
 草間は困ったような、どうにも複雑な表情で答える。よかったのだろうが、よくない。素直に喜べないというその表情がおかしくて、少し笑いそうになるところだが、探すべき人間が見つかったにしては暗い少女の表情が気になった。
「ああ、気にしなくても。問題が解決したならば、それはそれで……」
 場を取り繕うように草間は言った。
「いえ、解決はしていません。兄を……探してほしいんです」
 胸に手を添え、視線を伏せながら少女は震える声で呟いた。
「しかし、お兄さんは帰ってきたのでは?」
 不可解そうな表情で問う草間に少女は答える。
「帰ってきました……葬式の当日に」
「葬式? ……お兄さんの葬式当日?」
 草間の問いかけに少女はこくりと頷く。それを見た功刀は僅かに目を細め、身体の態勢を変えた。
「お焼香の席に兄が現れて……大変な大騒ぎになったんですが、白衣を着た人たちが現れて、兄を連れて行きました。その人たちが言うには、それは兄ではなくて、雑誌を見て兄にそっくりだから兄だと思い込んだとか……そのときは、もう何がなんだか……」
 少女はゆっくりと横に首を振った。そして、草間をじっと見つめる。
「だから、兄を探してほしいんです。あれは幽霊ではありませんでした。もしかしたら……もしかしたら、兄ではなくて、ただそっくりな人かもしれないけど……でも、はっきりさせたいんです」
 少女の気持ちをくむように、草間は頷く。少女が言うには、兄はタウン紙の三流記者で、二流を目指していたという。一流と言わないところが、己と現実というものを理解しているところなのか……だが、そこが少し気になるところだ。上を目指す気持ちは多分にあったということになる。
「……。いくつか、プライベートに関わることを訊ねても?」
 草間は少女の様子を確認しつつ、兄の葬式が出されるに至った理由を訊ねる。
「兄は、タウン紙の企画で冬の怪談特集をやるからと都市伝説や心霊スポットについて調べていました。実際に自分で足を運び、取材を敢行、その帰りに車が峠から転落、炎上して……遺体は、もう……」
 少女は辛そうに視線を伏せた。つまり、見るに耐えない状態であったということだろう。遺族としては辛いところかもしれない。
「そのときお兄さんが調べていたものがわかっているなら、教えてほしいんだが」
「冬の山に天使猫を見た?! ……というものです」
「……えーと」
 少女の答えに草間は戸惑っている。見ている功刀にも草間の動揺は伝わってきた。
「すみません、これ、兄の取材予定のメモです。私もなんのことだか……冬の山に天使猫というものが現れるという記事を書きたかったんだと思います……」
 少女は戸惑う草間にそう言い、気を取り直した草間は兄が取材に向かった場所について訊ねる。地図を取り出した少女と草間のやりとりを聞いている限りでは、かなり山奥の方だと思われた。
「見事に山の中だな。こんなところで誰が天使猫を目撃するんだ?」
「実は、この辺り一帯はアルカディアという企業の土地です。何もなさそうですけど、結構、拓けていますよ」
 兄が取材に訪れた場所なので一度だけ両親と行ってみたんですと少女は付け足す。
「もともとは、寂れた村だったらしいんですが、企業がここに工場を作ってから発展したとか。確か……化粧品を作っていると言っていたと思います」
「化粧品工場ねぇ……」
 草間は複雑な表情で呟く。そのあと、依頼は確かに引き受けたと少女に告げた。少女はお願いしますと頭を下げて興信所を出て行く。それを見送ってから、草間は振り向き、言った。
「自分の葬式に帰ってきたという兄は果して本物なのか、偽物なのか……その行方と真偽のほどを確かめることができれば、彼女の依頼は果たされる。もし、本物であるならば家に戻るように……戻れるようにの方が的確か……ともかく、そうすることができれば理想だろう」
 だが、その場合は陰謀めいた何かがあるということだから、事態は困難であるといえるがなと草間は付け足す。
「天使猫も気にな……あ、いや、まあ、そういうことで頼まれてやってくれないか?」
 草間が言い終える前に功刀が訪れる前から部屋にいた少女が出て行き、気づくとその場にいるのは、零と功刀だけになっていた。草間はきょろきょろと周囲を見回したあと、最後に功刀を見つめた。その目は何かを訴えかけている。が、その表情は微妙である。
「お兄さんの姿をした誰か、か」
 功刀は俯き加減に呟いたあと、顔をあげ、草間を見つめた。
「嫌ですねぇ、草間探偵。そう構えなくても。チケットよこせだなんて言いませんよ、今回は」
 にこにこと厭味なくらい穏やかな笑顔を浮かべ、功刀は言う。と、草間は引きつった笑みを浮かべた。
「なかなか興味深いではないですか。猫天使の調査をしていて事故死した兄、葬儀に帰ってきた男、それを連れ去る白衣……そして、アルカディアという企業の存在。真相究明に一役買いましょう……ということで、草間探偵、ひとつ質問」
 ハイと功刀は胸のあたりまで手をあげる。
「なんだ?」
「この件に関する調査は、僕ひとりですかね? いや、べつにそれはまったく気にならないんですけどね、一応、念のため」
 にこやかに功刀は問うた。場には零と草間、そして自分の三人。
「……」
「草間探偵?」
「……化粧といえば、女。女といえば、化ける。化けるといえば……」
 草間はそう言うと受話器を手に取る。どういう理屈なのかいまひとつわからないが、とりあえず、誰かを呼ぶらしい。なんだかねと小さく息をつく功刀の目の前にすっと湯飲みが差し出される。笑顔を浮かべた零だった。素直に礼を言い、湯飲みを受け取る。茶を飲みつつ、まだ見ぬ調査仲間を待つとしよう……。
 
 調査仲間は、最終的に三人となった。自分を含め、四人。
 ひとりは、城田京一と名乗った白衣を着た温厚そうな中年の男。透き通るような青の瞳が印象に残る。温厚そうな印象を受けるのだが、どこかうさんくさく感じてしまうのは何故だろう。
 もうひとりは、海原みたま。金色に輝く髪に紅の瞳が印象的な、二十代前半の可憐な娘。お茶でも如何ですかと言いたくなるところだが、その指には……指輪。どうやら、人妻であるらしい。しかも、娘から話を聞いてここに訪れたということだから……そこまで考えて功刀は小首を傾げた。確かに、依頼者が訪れたとき、ここには少女がいたが……その少女の母親だというのだろうか、目の前の彼女が。
 最後のひとりは、田中緋玻。草間が電話で呼び出した相手だ。二十代半ばだろうか。腰まで届こうというさらりとした長い黒髪に憂いを秘めた蒼の瞳。落ちついた物腰ではあるが、警戒心が強いのか、人見知りをするのか、軽く一瞥をくれただけで視線をあわせようとはしない。だが、どうやら彼女と城田は知り合いであるらしい。
「とりあえず、これが問題の兄だ」
 調査仲間が揃ったところで草間が差し出したのは写真が貼りつけてある履歴書だった。名前は常磐友成。写真は年齢にして二十代前半だろうか。可もなく不可もなくといった風貌。三流と思われる大学を卒業。資格および免許は第一種普通免許のみ。性格は温厚。健康状態良好。特技なし。趣味は映画鑑賞に読書。運動はテニスとある。当たり障りのないように、無難にまとめてみましたという印象を受けた。
「んー。素直に考えれば、アルカディアの研究施設を偶然見てしまったお兄さんを事故にみせかけて始末しようとしている……というところかな」
 みたまは履歴書を眺めつつ、うーんと唸っている。
「でも、生かしておく理由がわかんないなー」
 そう言いながら金色の髪を軽くかいた。
 確かに、兄が本物だと仮定すると、みたまの言うことは尤もだと思われた。消すよりも死んだと見せかける方が手間もかかるというものだし、リスクも高くなる。現に、兄は葬式に現れ、こうしてここに依頼を持ちかけられるに至っている。
「とりあえず、方向性としては、どう考えているのかな?」
 みたまは履歴書から顔をあげると、周囲を見回し、意見を求めてきた。
「この時点ではどちらとも言えませんが……本物のお兄さんであり、それを救出するということを念頭において行動する予定でいますよ」
 ……とはいえ、予定は未定ですがと功刀は答えた。
「そうね、あたしもどちらかといえばそっちね」
 緋玻は功刀の言葉に同意する。
「本物か偽物か……まあ、どちらであれそのアルカディアなる企業が怪しいことには変わりはないだろう。草間君、もう一度、確認を取るが、お兄さんに似た男を連れて行ったのは白衣の男……これに間違いはないかね?」
 城田は草間に向き直り、確認を取る。草間はこくりと頷いた。
「ああ。依頼者はそう言っている」
「そうか……ならば、行動は決まったようなものだ」
 うむと城田は頷く。
「さて、ここには四人いますが、今後の行動はどうしましょうか」
 功刀の言葉に皆が皆、場の面々を見回す。そして、誰もが同じ答えを出すに至ったらしい表情を見せた。それぞれが得意とする方向というものがありそうだ。ならば、個別に行動をした方がいい……そんな、結論。
「私は、そうね……とりあえず、アルカディアに関して調べてみようかな」
 みたまは言う。おそらく、誰もがそこから動くことだろう。
「では、僕も僕なりにそれについて調べてみます。皆さん、そこから始めるのでしょう? それでは……これを」
 功刀は携帯の番号とメールアドレスを草間を含め、四人に知らせた。個別に動きつつ、うまく連携をとるということは、依頼の早期解決へと繋がる。
「何かありそうな場合は連絡をとりあう、ということで」
「確かに、何かあってからじゃね」
 そういうこと。何かがあってからでは遅い、何かが起こる前に連絡を。功刀はその言葉に心のなかで頷く。お互いの連絡手段を整えたあと、それぞれに行動を開始した。
 
 さて、調査開始。
 気になるところはいろいろとあるところだが……まずは基本的なところから。功刀は表通りと裏通りの間、極めて日当たりが悪ければ、立地条件も悪いという雑居ビルの地下へと向かう。
 CLOSE。そんな札が下げられているが、それを無視して木製の扉を開く。薄暗い照明のそれほど広くはない空間に、カウンターと三つのテーブル。カウンター席は空いてはいるが、テーブル席にはそれぞれ先客がいる。
「あ。功刀だ。なになに、またもめごと? どんなん?」
 興味を示したのは、カウンターの中にいるエプロンをつけた中学生にしか見えない少年。とりあえず、これでいて現時点でのこの店の管理及び責任者だ。
「もめごとではなく、調べごと」
 功刀はさらりと答える。が、少年は納得しない。
「やっぱりもめごとじゃん。功刀が調べることっていったら、いつももめごとに関してだもん」
「いや、演劇についても調べてるよ。上映時間とか、上映期間とか、新作とか」
 そんな声が客席の隅から飛ぶ。ノートパソコンのモニターに視線を向けたまま中年の男が答える。
「まあ、そういうことで。ちょっと皆さんに伺いたいことがあるわけですよ」
 功刀は軽く場を見回し、言った。この店に集まっている者は、ある種の情報屋。それぞれに自分の得意とする才能、分野を持っている。それを日々の糧としているわけだから、基本的には有料なのだが、場合によっては無料で仕事をしてくれる。
「猫天使……いや、天使猫だったかな。それと、自分の葬式に帰ってきたけれど、連れ去られてしまった男の話……なんですが」
 功刀が問うと、客席からレスカ、コーヒー、抹茶フロートという声が飛んだ。少年はどうするというように功刀を見つめる。功刀がこくりと頷くと、少年は客席の注文の品物を用意しはじめた。
「羽根のはえた猫の話だろう? ちょっと前に猫好きの間で話題になってたよ。どこかで売ってるとか。山に出るとか出ないとか。あやふやな情報が飛び交ってたかな」
 モニターから顔をあげずに中年の男は言う。
「猫については知らないけど。葬式男のことなら知ってる。なんかどっかの施設のお偉いさんみたいだね。錯乱して乗り込んだけど、すぐに取り押さえられたって。で、おうちへ運ばれたって」
 真ん中のテーブルで暇そうに頬杖をついている青年が答える。気にかかるところは『どこかの坊ちゃん』という部分だろうか。
「見える、見えるわ……あなたに迫る黒い影が……」
 その隣のテーブルでわりと大きめな水晶玉に手を翳しつつ、女は言う。そうか、見えるのか、自分に迫りくる黒い影が……と、まて。それは訊ねたことに答えていない。
「抹茶フロート、却下」
 功刀がにこやかに言うと、女は顔をあげた。
「いやん、ちょっと待って。嘘よ、嘘。ちょっとした冗談。少し前に裏で競りが行われたの。幻獣博覧会とかいってね」
「幻獣博覧会……?」
「そう。でも、小さい博覧会よ。翼の生えた犬とか、頭が二つある蛇、角がある兎……伝説に出てくるような動物、あれがね、取引されるの。入場料だけでもそれこそ馬鹿みたいに高いんだけど。連れて行ってくれるっていうから、まあ、物は試しってことで行ったみたわけよ。そうしたら、ついてるのよねー、羽根とか角とか不必要なものが」
 なのに買っていく馬鹿がいるのよねーと女は付け足す。
「その妙な博覧会の主催者は?」
「どうしよっかなー?」
 悪戯っぽい笑みを浮かべながら女は功刀を伺う。功刀は少し考えたあと、にこりと笑みを浮かべ、答えた。
「アルカディアでしょう」
 女は一瞬、表情を歪める。そのあと、ぷんすかと怒ったような顔で顔を背けた。カマをかけるつもりで言ったみたわけだが、どうやら、それはアタリであるらしい。
「名前がわかっているなら教えて頂きたいのですが?」
「さあ、そこまでは。工場の副責任者みたい。どこの工場だとか、名前とかはわからないの」
 小耳に挟んだだけだからと女は続け、だからこれは無料情報と付け足す。しかし、功刀にはそれだけで十分だった。猫が目撃された付近にある工場の副責任者に決まっている。名前はわかったも同然だ。
「ねー、功刀。アルカディアについて調べてんの?」
 少年は功刀を見つめ、問いかける。すると、他の三人は何やら難しい顔で横に首を振った。あれは、それ以上は口にするなという顔だ。
「えー、言ったっていーじゃん。功刀、常連さんだし」
 払いをツケにしないしと少年は続け、ちらりと三人を見やる。三人は一瞬、たじろいだものの、ダメ、それがルールだと言わんばかりに横に首を振った。
「じゃあ、これ、俺の独り言。アルカディアについて情報を集めていた男がいたなー。功刀と似たようなことを訊ねていたっけなー」
 少年はそっぽを向きながらそんなことを言う。
「情報屋の風上にも置けないわねぇ。顧客の情報だけは喋っちゃいけないのよ」
「独り言だもーん。それに、俺は場所提供しているだけで、情報屋じゃないもんねー」
 少年は言い、あっかんべーと女に舌を出す。そのあと、役に立ったかなという顔で功刀を見つめた。功刀は頷き、財布から札を取り出し、釣りはいらないよとカウンターの上へ置く。少年は、だから功刀って好きと言いながら札を手に取った。
「あれ、かなり多いよ?」
「もうひとつ頼みたいことがあるんでね。さて、お三方。僕がアルカディア、葬式男や猫の件を探っているという情報を流しておいて下さい」
 情報屋で情報を集めるだけがその使い方ではない。功刀は乱暴なやり方だと理解しつつ、敢えてその行動を選ぶ。
「いいのか、功刀? 場合によっちゃ、かなり危険だぜ? ……そっか、了解」
 功刀の表情を見た青年はふっと笑みを浮かべ、椅子を立つ。そして、功刀の横を通りすぎ、店を出て行った。
「はい、功刀くん。情報、流しておいたよ。……結構、食いつきいいみたい」
「それはそれは。大いに期待できそうですね」
 功刀は答え、店をあとにした。
 
 情報を仕入れ、流したところで次の行動へと移る。
 車に乗り込み、向かう先は兄が事故を起こしたという現場。事故に関する検分を行おうというわけだが、車を走らせているうちに、ふとあることに気づいた。
 バックミラーに視線をやる。二台後ろの灰色の車。決して、背後にはつかない。しかし、一定の距離を保ちつつ、ついてきているような気がする。思い過ごしであるのかどうか……確かめるために、前方に見えてきた自動販売機のそばで車をとめてみる。缶ジュースを買うふりをしながら、横目で気になる車の動きを追った。
 速度を落とさず、こちらを見ることなく通りすぎる。功刀はそれを見送り、車へと戻り、運転を再開する。しばらく進んだところで、横道から現れた灰色の車が背後につく。……どうやら、待っていたらしい。尾行は、明白となった。
 しかし、尾行されているからといって、本来の目的を遂げないわけにはいかない。功刀は問題の場所で車をとめた。花束が供えられ、ガードレールの一角が姿を消し、とりあえずの処置なのかロープが張ってある。そこから谷底を覗き込もうとしたが、背後の気配に気づき、振り返る。サングラスをかけたスーツの男がいた。
「こんにちは」
 そう、動いてくれるのを待っていた。功刀は冷静かつ穏やかにそんな言葉を投げかける。男はそんな功刀を見定めるかのように眺めたあと、小さくため息をついた。
「功刀さんですね……?」
 断定的な言い方。功刀は答えずに男を見つめる。
「ここ数日、わが社について調査されていますよね。……ええ、否定なさっても結構ですよ。わが社に後ろ暗いことなどありません。ですが、このままではお互いのためにならないようなことが起こるかもしれません」
 後ろ暗いことはないと言いつつも、お互いのためにはならないことが起こるかもと脅しにも似た言葉を続ける。
「それはご丁寧に。ご忠告、痛み入ります」
 深々と頭をさげつつ功刀は言った。ただ、調査を開始したのは今日であって、数日も動いていない。それは自分ではない他の誰かの所業だ。
「率直に訊ねましょう。何が望みですか」
 功刀は男の表情を伺う。ここは攻めるべきか、退くべきか。それに気づいたのか、男はこうも言葉を続けた。
「内容によっては……お力になれるかもしれませんよ。そう、例えば……」
 男の言葉はそこで途切れた。不意に遠くからサイレンのようなものが鳴り響く。
「これは……施設の……失礼、功刀さん。このお話の続きは、またあとで」
 男は身を翻し、車へと戻る。そのまま村の方向へと去った。
 どうやら、何か不測の事態が起こったらしい。何かが起こる前に連絡が欲しかったところだが、まあ、そう都合よくはいかないものか。功刀は小さく息をつき、他の三人に連絡をつけてみることにした。

 −前編・完−


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2240/田中・緋玻(たなか・あけは)/女/900歳/翻訳家】
【2346/功刀・渉(くぬぎ・あゆむ)/男/29歳/建築家:交渉屋】
【1685/海原・みたま(うなばら・みたま)/女/22歳/奥さん 兼 主婦 兼 傭兵】
【2585/城田・京一(しろた・きょういち)/男/44歳/医師】

(以上、受注順)

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■         ライター通信          ■
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依頼を受けてくださってありがとうございました。
まずはぎりぎりですみません。最後まで前編で片をつけるかどうか悩んでいました。
相関図、プレイング内容、キャラクターデータに沿うように、皆様のイメージを壊さないよう気をつけたつもりですが、どうなのか……曲解していたら、すみません。口調ちがうよ、こういうとき、こう行動するよ等がありましたら、遠慮なく仰ってください。次回、努力いたします。楽しんでいただけたら……是幸いです。苦情は真摯に、感想は喜んで受け止めますので、よろしくお願いします。

こんにちは、功刀さま。
二度目のご参加ありがとうございました。地味に動くのではなく、敢えて派手に動く……男気を感じました。そういう行動もあるのですね。依頼を出す前にどういった行動が考えられるかとざっと考えるのですが、その行動は予測範囲外でした(もしかしたら、常套手段なのかもしれませんが)

今回はありがとうございました。予告したとおり前後編となりましたので、よろしければ後編もおつきあい下さい(後編は納品から一週間後の夜に開ける予定です)
願わくば、この事件が功刀さまの思い出の1ページとなりますように(とはいえ、前編なのでなんだか途中なのですが)