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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


はじめての仕事(?)ストーカー撃退です。

Prologue
もしもし、草間零です。いつもお世話になってます。
(小声で)えっと、ですね、兄さんがいれば喜んで飛びつくお仕事のようなんですけど。
珍しく怪奇事件の依頼でないようですから、はい。
(声が戻る)単なるストーカー撃退の依頼なんです。

依頼主の方は、黒田由香里さん25歳。OLさんです。
ストーカーされていると気が付いたのは、此処に相談しに来る前の5ヶ月前と聞いてます。
証拠の品は、プレゼントや手紙、メールです。
どうも、復縁を求めているようですがどんどんエスカレートして、脅迫まがいになってます。
今のところ、大きな人身事故に関わるような事はないので、警察は未だ動いてくれないそうです。
完全なストーカー行為の証拠を見つけてストーカーを止めるという誓約書を書いて欲しいとのことです。
ストーカー容疑は黒田さんと昔付き合っていた彼氏、沖速人。25歳、フリーター。
普段はおとなしい様ですが、何かあると乱暴になるようです。
ドメスティックバイオレンスが酷いため、逃げるように別れたと黒田さんは言っております。
他にも何か在るみたいですが、確証はないようです。

いま、黒田さんは怖くて此処に避難してます。
この女性の敵、ストーカーの撃退の助っ人お願い出来ますでしょうか?
私も一生懸命頑張ります。こんな悪い人はお仕置きです(受話器越しなのにガッツポーズ)
焔「にゃ〜」(頭の上に焔が乗っているので受話器から聞こえたようだ)


1.おかしな点が多いわね(シュラインさん談)
他の仕事を引き受けていないときは、必ず興信所にいるシュライン。草間武彦の失踪から(彼女は既に何処にいるか知っているが)零の事が心配で殆ど零と寝泊まり状態だという。目下、草間が何処で休暇を取っているかの情報を探していると言っても良いだろう。仕事の更なる準備に取りかかる円を頭に乗せた零を見ながら、又依頼人の黒田の事情をまとめてどうするか考えている。焔が邪魔にならないか不思議でもある。
「これだけ証拠が揃っているなら、ストーカー規制法で警察が動けるはずなのに。おかしいわね?」
と、自分の持ち場で考えている。証拠品の数の多さだけでなく、詰めとなる証拠(モノ)が無いのだろうかと悩むところだ。
既にストーカー規制法が出来た事で警察がすぐに動く事はほとんど無いらしい。規制法が出来ても、やはり地域様々で厳しかったり甘かったり。どうも、結果、黒田曰く「殺傷事件発生」展開にならないと動かない癖が抜けきらないのだろう。サイトを調べた結果90%の抑止力はあるようだが、この沖というのは其れに漏れてしまっているのか。また、告訴した場合の黒田自身の精神的ダメージは更に重くなる。ドメスティックバイオレンス経験者は、仮に相手を裁いて貰おうとしても「いつか必ず仕返しされる」という恐怖を持つものだという。いじめで自殺もしくはいじめる相手に殺傷事件に発展する内気な子も「仕返し」が怖いので動けないのだ。非公式ではあるが、何かのパイプラインが彼女は欲しかったのだろう。
その事を話してくれたのは、偶々興信所の外で奇妙で可笑しく愉快な連中と遊んで、休憩で戻ってきた着流しに白衣の変な臨床心理士・門屋将太郎からだ。仕事はどうしたという突っ込みはおいておき、若き臨床心理士の考えはというと、
「警察は当てにならない」
だそうだ。
現状そうなのだから黒田は此処にいる。今門屋将太郎は、黒田のカウンセリングをしているようだ。さりげなく、彼女の肩を軽く触った後、ゆっくり彼女と話をしているようだ。意外な事に彼女が落ち着きを取り戻しつつありぽつりぽつり門屋に話をしている。将太郎は何のトリックを使ったか他の者には分からない。分かるとしたら、彼が師と仰ぎ、初恋の相手だけだろう。今のところ名前は伏せておく(門屋「つ、つまらない事書くな!!(赤面)」)。黒田が落ち着いてからは、まだ本筋を聞き出そうとしない門屋。いきなり本題、すなわちストーカー撃退ではなく、彼女の心の治癒を中心にカウンセリングしている。後に玄関に近い応接間より、零の仮眠室を借りる方向だ(将太郎「草間の仮眠室だと男臭いので行けないだろう?」)。
そして、四方峰恵が零と意気投合して、黒田の護衛役を志願してきている。狙いは確実に黒田。沖の性格面で危険と判断した彼女。サバイバルや一般人に対しての格闘なら大丈夫。万が一の事を彼女は想定している。
さて、メンバーが揃ったのかというと、そうではない。
「もうすぐしたら、将紀ちゃんがくると言ってますけど?」
と、零が門屋に訊く。
「なにー?!留守頼んでいるのに何故来るか!」
門屋は驚いた。
丁度ドアが開く。
「ちわー零姉ちゃん。って……おっちゃん何時の間に来たんやー?」
「お前は留守番しろって言っていただろ!」
「仕事やから、ボクも手伝おうと思ってな」
と、似非親子のやりとりが始まった。
「何か頼りがいがあるかどうか疑問だわ」
シュラインと恵はため息をついた。
しかし其れが効果あったのか、黒田はすこし微笑みを取り戻している事に誰も気が付かない。


2a.シュラインさん将紀くんの案につっこむ。
とりあえず、黒田と似非父親門屋将太郎は零の部屋に移った。この状況からすれば、ケアどころか混乱する。また将太郎も自分の今の「仕事」が出来なくなる。
で、将紀といえば。
「ストーカーを「おしおき」するんやな。なら簡単じゃない?」
「何すればいいのかな?」
恵は訊いてきた。零も興味深く耳を傾けている。
「やられたらやり返す!何とか法典やったっけ?アレと同じ事するんや」
「ハムラビ法典の事?」
「そうそうハムラビ法典」
「まずは、中身は本物顔負けの虫のオモチャをプレゼントで送ったり、不幸の手が見送ったりするんや」
「ふむふむ」
「それで、嫌な思いが相手に分かれば良いんだね?」
「そうそう。でもそれでも懲りないのなら、無理矢理デマな弱み握って「せいやくしょ」書かせたら良いんや」
と、胸を張って将紀は自分の考えを口にした。
しかしながら、耳の良いシュラインさん。興信所の真の支配者は、
「それすると、あたし達も犯罪者になるのよ、将紀くん」
「えー?どうして?」
「難しい話はしないけど、其れも人に迷惑をかける事になって、逆にストーカーから訴えられてこっちが弱みを握られるの。そうすると、事件解決も出来ないじゃない?」
と、シュラインは彼を諭した。

〜蘊蓄〜
ハムラビ法典『目には目を、歯には歯を』で有名である古バビロニア王国の法律。「もし目を損なったら、彼の目を損なわなければならない」「もし骨を折ったら、彼の骨を折らなければならない」という記述がある「復讐権」を明記した法律で有名だ。確かにその文章が存在する。しかし、加害者は被害者の持つ「復讐権」を「賠償」という形で買い取る、すなわち金銭などによる和解、何かの行為による贖いなど書かれており、当時はむやみやたらこの「復讐権」を行使しなかったらしい。また、人間の感情論でいえば、「目をつぶされ、復讐権を行使し、相手の目をつぶし返しただけで気が済む事なのか?」という事もある。普通はそうではないだろう。物が盗まれても、娘が殺されても、やはり犯人に憎しみ、殺意を覚えるだろう。しかし、復讐権を行使し加害者の腕を切り落としたり、殺したりして何になる?というのがハムラビ法典の言いたいところだと、色々な研究者は考えている(被害者の保護、加害者に対して慈悲:たとえば復讐権の大金での買い取り、そして国家の正義云々)。日本の今の法律と比べるとかなり実用性のある法律だと考える研究者も多い(先代の王が作った法律も活用しているからこそだが)。


と、蘊蓄はさておき…シュラインさんの優しくもやっぱりキツーいお説教を貰った将紀くんは…、
「ボク子供やもん。其処まで分からへん…」
と、子供らしい言い訳。
この後、将紀くんはどうなったかは皆さんのご想像におまかせする。シュラインさんのことだから更に将紀くんはキツーいお灸が据えられる事になるし、似非親父の将太郎から門屋一族直伝の「うめぼし」を食らう事だろう。
「全く解決にならないですね」
苦笑する零ちゃん、恵さんだった。


3.家宅捜査みたいですね(依頼人と零談)
門屋はまず、カウンセリング中に訊いた事の一部を話した。此は仕事と言っても、プロの癖で秘密保持が働いたのだろう。追々彼女から話す事もあるとみて、シュライン達は何も言わなかった(似非息子は似非親父の目を見ていたかもしれないが)。
まず、DVのきっかけとなったのは、失業の後の喧嘩がエスカレートした事。なので、沖が暴れ出すスイッチは仕事と現在の身分のことだろうと推測。あまりその話はしない方が良いと決めた。ストーカーとして重要な証拠となるモノは、独特の筆跡による住所のない手紙で、23区ランダムの消印。そして、今家に厳重に保管している留守電のテープ。プレゼントについては、中身が腐敗するモノばかりなので、中は破棄して出来るだけ現状を留めて保管しているそうだ。それと、電話番号などは非通知で、携帯からかけているらしい。自宅の住所などはストーカー行為をしてから引っ越ししているらしく不明となっている。

全ての証拠品は家に保管している事なので、全員で白い手袋をはめて密封保管する事になる。其れはシュラインの指示だ。下手に他の指紋が付いたら大変だからである。
しかし、その前に相手に気が疲れないようにするのが大事だ。
シュラインと黒田と共に行動。恵と零がその次、将太郎は極力黒田から離れている。将紀については、距離は関係なく自由に動いて良しとした。

先に、シュラインと黒田のみが自宅まで行く。一寸オシャレなアパートである。周りの音に注意した。
「静かに…」
念のために彼女だけで部屋をあらかたゆっくり探す。
「盗聴器…」
彼女は其れを3つ耳だけで見つけた。窓、風呂、台所だ。
「こんなものそちらに向かう昨日まで無かったのに…」
「昨日?」
「ええ、友人の助言で探知機を購入したんです」
「…強敵ね、沖という人…」
シュラインは盗聴器を壊さずに防音箱に収める。

そして、シュラインが「耳」で怪しい人物(特に沖)が居ないことを確認し、皆を呼んで黒田の家に入る証拠の保存と確認の作業が始まった。
「相手は結構用意周到だから、指紋残してねぇかもな」
門屋が、プレゼントの箱などを調べている。
「此が留守録ね」
シュラインはテープから沖の声を覚えてからパソコンのメールをチェックしている。
「見て、見て、此、懸賞に使えば何か当たるだけの量や」
「結構達筆な人なんだねぇ〜」
と、将紀と恵は、段ボール2箱はあろうかという手紙を確認して保存していく。
「確か習字を習っていたとか…あとボールペン検定」
不法侵入で荒らされても見付からない場所に隠している黒田もなかなかくせ者だ。会話しながら沖の特技を話し始めた。
「たしか、空手も習っていたと言ってました。確証は持てませんが」
「うわ〜武道たしなんで其れなの〜」
恵達は眉間に皺を寄せる。
「そうですよね…」
苦笑する黒田。
「ま、人間何かのきっかけで人が変わるってモノだから…この世の中、世知辛いものなのよ」
と、シュラインが言う。
「あー、プリペイド携帯だわ」
と、メールヘッダーを見てシュラインは言った。此ではメールの証拠はあちら側で隠滅されている。
「皆、ストップ」
恵が窓を見て皆を制した。
黒い服装の男が1人じっと黒田の家を見ている。
「目が良いならよく分かるんだが」
皆は、隠れて相手を眺めている。
どうみても挙動不審だ。誰かを待っているというのは分かるし、何かいらついている。
「見覚えある?由香里さん」
「はい…確かに…沖です」
「あ、ヘッドホンらしいものを捨てた」
恵が言う。
「盗聴器が使い物にならないと言うのが分かって怒ったんだろうな」
「さて、相手にも此方の行動バレたみたいかも…」
「出ようにも出ることが出来ないですね」
「もう、決定的証拠があるって事やん」
将紀が盗聴器の事を強調する。恵も頷いている。
「まだよ…慎重にしないと…」
シュラインが黒い服の男がその場から離れるまで待った。
「写真借りますよ?」
「はい」


4.尾行とおとり…で?(恵談)
シュラインの行動は、沖の住処の発見だ。それと黒田が未だ隠していることが気になる。其れをプロの「勘」で察した将太郎は、黒田に聞こえないよう小声で言う。
「黒田は、警察沙汰には本当はしたくないんだと。未練というか、己の愚かさを早く理解して欲しいとさ」
「…そう…優しいのね、彼女。やっぱ、惚れた弱み?」
「さあな。でも、難しいぞ…暴走した心の持ち主ってのは…」
「プロでもアンタが言うと信頼度半減するけど…」
「冗談言っている場合か?」
「半分本気」
「あのなぁ…」
着流し白衣は項垂れる。
「でも、あと頼りにしてるわ。行ってくる」
と、彼女は沖を尾行する為家を出た。
ため息吐いた彼に
「おっちゃん、信用第一やで、この仕事」
「お前に言われたくない!」
「いたい!いたい!」
追い打ちかけられた甥っ子に「うめぼし」をする着流しだった。

この場合シュラインが探偵としての経験がある。零ではこの尾行は務まらない。
もし気配などわかる空手使いというならば、危険でもある。あの「妹」は、尾行に向いていないのは充分知っている。中之鳥島で会ってから長い間興信所で一緒にいたのだから。
「とは言っても、あの子ったら…」
後ろで必死に尾行をしようと頑張っている妹が居る。
流石に「兄」に感化されたのか、感心してしまったシュライン。
「なんだ、心配して損したわ」
相手は、2人の気配に全然気が付いていない。
距離は5メートルほど、沖は黒田の家から20分程度の場所にあるボロアパートに入っていった。
「自転車なら近くじゃない…」
「ですね」
いつの間にか零がいた。
流石霊鬼兵、人間以上の機動力。耳で探知していたお姉さんは単に歩いていたと思っていた。実は零は歩いているが、人間の歩幅でこのスピードなのに足音の立て方が人でなかった。
やっぱり幾度も驚かされる。
しかし、
「で、依頼人ほったらかして良いの?零ちゃん」
「あ、うー…ごめんなさい」
素直で良い子はかわらない事に妙に安堵するシュラインだった。
「この近辺の人に聞き込みしましょう」
「はい」

黒田家に残った一行は一旦草間興信所に戻り、シュラインと零の帰りを待った。
「場所も突き止めて、零ちゃんと聞き込みして分かったわ。単純に言えば、印象のない人間みたいに振る舞って皆知らないと言うこと。フリーターなのは確か見たいよ。運送業のバイトよ」
シュラインが説明した。運送業と分かったのは、最終チェックで彼が運送会社の作業服に着替えて出てきたからだ。
「ということは…」
恵が珈琲を飲んでいう
「その範囲は、黒田さんの行動範囲ではありません。だから、近所の人も沖さんや黒田さんのことも知らない事が分かりました。しかし、運送業さんで訊いたところよく働いてまして、後々正社員にしようかという声もあります」
と、零の報告。
「ま、長屋でなきゃ人の繋がりってないもんだ。その長屋もなくなりつつある。近所付き合いの少ない昨今、人の繋がりの範囲はかなり限られるか極端な距離だ」
将太郎が言う。
「世知辛い世の中や」
甥っ子も同意。
「確実な証拠として囮で呼び出す方が良いかも。尾行は今からだと…」
恵が言う。
「そうだな…あの場所で現行犯という手もあったが、あの張り込んでいた時の苛立ちようだと話も出来なかっただろう」
門屋がため息をつく。周りからじわりと固めた方がやはり良いものだ。
「じゃ、良いかしら?」
「はい」
黒田は最後の決着を付ける意志を表した。

黒田の家に黒田本人とシュライン、零が待機する。その家の見える範囲で恵、将太郎が見ている。将紀は前の証拠保存の仕事時に子供と言う利点を活かしていたのか、その地域の子供と仲良くなっており近くで遊んでいたりする。
そして、電話が鳴った。
増確認のために、態と留守電を起動させる
罵声が聞こえた。意を決し黒田が受話器を取った。
「もしもし、速人…もういい加減に…」
相手の罵声は今も続く。怒りに燃える零をシュラインは制している。
「まって、電話では無理だから、いつもデートで使っていたあの喫茶店で話し合いましょう」
相手の罵声が止まって
[あ、わるい…大声だして…わかった…今からなら何時来れる?]
「私起きたばかりだから…2時間後」
[…わかった…待っている]
と沖は言って電話を切った。
震える黒田を支える零とシュライン。
一方、周りを見ている皆は沖が此処まで来ていないことは確認した。
「その喫茶店まで護衛します」
零は意気込んで黒田に言った。

「いつも言っている喫茶店ってメイド喫茶?」
シュラインは昔の事件を思い出したりする。悪夢ではないが、何かと場違いではないかと思う自分は何なのかと。
とは言っても、この店はオタク狙いではないようだし、単に店長の趣味かなにかで何かと休憩するには穴場らしい、と黒田は言う。
「落ち着いて居られるんですよ。制服もウェイトレスさんがステキで」
「うーん」
一同大いに悩む。メイド=萌え者、草間武彦の趣味疑惑ともう1人の有名人いう事柄でどうしてもぬぐえない物が多い。彼女と沖はそう言う意味で利用しているわけではないので深く突っこまないでおこう。
まず、黒田は店の裏口にて待機で零が付き添う。恵は一望できる隅の席に座る。門屋親子(?)はあるベストな席を確保、そして待ち合わせの場所にシュラインが居る。
そして、恵のアイサインで沖が来たことを確認。
「あれ?」
と、沖はキョロキョロしている。其れもそうだ。本人が居ないから。
「ごめんなさい、今彼女出かけているの」
シュラインが声をかける。
「あ、そうですか。初めまして沖と言います。ご友人ですか?」
「ええ、そうなの色々話がしたいっていうからあたしも」
「…ですか」
沖は、ぎこちなく席に座る。丁度、謎の着流し白衣の男と目があってしまうが、向こうは直ぐに目を背け、シュラインと何か話をし始めた。
しかし着流しには其れで充分である。完全に目標を補足したのだ。
もちろんパフェを頼んでいる大阪弁の子供も沖の目を見た。
「完全に攻撃態勢だな。復縁迫る気丸出しだったな」
「どうするん?おっちゃん」
「シュラインさんなら、言い負かせるからも…しかし俺も伊達にカウンセラーしてないぞ」
「ライバル心持ってどうすんねん」
耳に小型無線機を付けているシュラインは似非親子漫才に我慢しつつ、沖に色々話しかける。
「つい最近の事だけど…」
と、最初は他愛のない話から、徐々に本題に入っていき、ストーカー行為をしているか聞き出す。
「そ、そんなことしてないですよ」
やはり否定。しかし、門屋の目から逃れられない。
(「答えはNo。何故そんなこと知っているんだこの女?と驚いているな。アイツが教えたんだ…ということはあの時の盗聴器を壊したなっ…」)
と、隅々から相手の心を読む門屋。そして、不法侵入したことも読みとったのでシュラインに無線で
「交代出来ないか?」
と、訊くが、シュラインは、片手で門屋のみに見えるよう「もうすぐしてから」とサインを送る。
そして、シュラインが様々な物的証拠などを言い始めるも、相手は否定し続ける。そこで、
「じゃ、本人に来て貰いますか」
「あんた、一体何者?」
「それは後で教えるわ」
と、裏口から黒田と零が現れた。沖と正面向く形で彼女はすわる。そして門屋は彼が店から出ない形で、且つ、目を合わせる位置に座った。
「全て証拠はあるの…皆聞かせて貰ったわ…もうつきまとわないで」
「…お、おまえ…謀ったな!」
「そんなセリフいえる立場!?」
「なに強きになって!」
と、沖が怒鳴ろうとした時何かの「気」を感じた沖。それは2つだった。
奥にいた恵。そして…零から異常なほどの「気」を感じた。
―修羅場をくぐり抜けた者のみが発する気―
「あたし達は探偵なの。この状況はテレビで見ても分かったりするでしょ?」
シュラインが落ち着いた感じで正体を明かす。
と零が続いた。
「あんた、不法侵入など既に犯罪として扱われる行為をしているって分かっている。其れに証拠の消し方も、何処で盗聴器を手に入れたかもな」
と門屋が言う。流石に今のバイト先の話までは言わない。大きな弱みであるが、暴れ出すスイッチだからだ。
「何故其処までして…。ならもう警察に突き出せばいいだろ。だいたい…」
もう開き直ったか、沖が訳の分からない事をいいはじめる。しかし零が、
「今なら、以後ストーカーをしない「誓約書」を書くだけで警察沙汰にはしません。それは最後の、黒田さんが貴方を思っての事ですよ」
と、言った。その気迫と思いは、沖の心に突き刺さる。
沈黙が訪れる。
「…俺の?」
沖は昔の恋人を見る。黒田は沈黙しているが、肯定の意を持って頷いた。
「今なら、やり直しできるから…」
と、その場にいたたまれないまま、静かに泣く。
そして、
「誓約書…書きます。そして二度と彼女につきまといやストーカー致しません」
沖は今までやってきたことがとんでも無い過ちと今更ながら気が付いたように宣誓した。
門屋は其れがプロとしてその言葉が本当であると確信し、零の肩を軽く叩く。
そして、沖がその場で誓約書が書くこと、そして、黒田が門屋親子と恵に連れられてこの事件は幕を閉じた。

Epilog
1ヶ月後、零宛に黒田から手紙が届けられる。感謝状だった。
「頑張ったね、零ちゃん」
「はい」
シュラインと一緒に満面な笑みを浮かべる零。
恵や座敷童子、土地神、焔も彼女の活躍を祝ってくれた。
「でも、新しい恋をしたって?」
と、恵が疑問に思う。
事務所に居る方々は新しい門出を祝うことしかないが、タイミング的に妙じゃないかと首を傾げるばかり。

一方〈門屋心理相談所〉では…
黒田のカウンセリングが続いており、彼女の心の傷はだいぶ回復した。
ある日のカウンセリングで、
「私、好きな人が出来ました」
「ほう、其れは良かった」
何気ない会話。しかしなにか違う。しゃべり方とかが妙だなと気が付く着流し。
不安になって、
「好きな人ってま、まさか?」
「はい、先生です」
不意打ちです。イスからズレ落ちる将太郎。
―じょ、冗談…ではないな。
此は臨床心理士としての勘だ。流石に此を「読心」で確かめる事はダメだが、まさか自分の〈城〉で告白されるなんて思ってもなかった門屋さん。何処で惚れたのか聞きたいが照れるので止めた。まさか、興信所でのカウンセリングで?
教訓:軽々しく女性に触るのは止めましょう。
―先生、今度恋愛相談してもいいですか?


End


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【1522 門屋・将太郎 28 男 臨床心理士】
【2170 四方峰・恵 22 女 大学生】
【2371 門屋・将紀 8 男 小学生】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
『はじめての仕事(?)ストーカー撃退』に参加して下さりありがとうございます。
心や現実問題の話というのは、難しいものですね。
あと、人間関係問題は解決が難しいです。私も何かとその問題は苦手なものです。それでも何とかして生きていこうと、こうしてノベルを書いております。人との関わりは、信頼、友情、愛などのプラス面、絶交、敵対、復讐、マイナス面は色々あります。でも、どこかで決着を付けなければいけないのではと。
実際、本音をぶつけて合って毒気を抜いた方が良いのですけど…。世の中そうはうまくいかないのも一興でしょうか。
真面目なネタなのに、所々冗句が入っているのは、スタイルになりつつあるようです…。

門屋将紀様初参加ありがとうございます。

では、機会があれば宜しくお願いします。

滝照直樹拝