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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


新興宗教ネコミミ教
「……で、それはなんの冗談なんだ?」
 目の前のソファに座った男の頭に鎮座しているネコミミを見て、草間武彦はため息をついた。
 たしかに、草間興信所は怪奇事件専門の、などと冠詞をつけられてしまうことが多い。
 だが、さすがに、ネコミミをつけた人間が訪れるのは、ありえないと言ってもいいような事態なのだった。
「いえ、冗談じゃないんです! お願いします! 僕の婚約者を……、救ってください!」
 男は今にも泣き出さんばかりの勢いで草間にすがると、ぽつりぽつりと、事情を語りはじめた。
 自分の婚約者が新興宗教にハマってしまって、すっかり人が変わってしまったこと。
 だが、その新興宗教はどうやらあまりたちのよくないものらしく、彼女は教祖の情婦にされてしまっているらしい、ということ。
 もしも逃げ出そうとしたとしても、教団の人間が大人数で無理に連れ戻してしまうため、自分の力では彼女を助け出すことは不可能に近いこと。
 そして――その教団では、ネコミミの悪魔を呼び出すためと称して怪しげな儀式を行っていて、生贄を捧げているという噂もあり、行方不明者も出ている、ということ。
「僕に魅力がないというのなら、あきらめもつきます。でも……こんな状態じゃ、僕、あきらめきれないんです! せめて、話し合いがしたいんです。その上で、ふられるのだったら、あきらめもつきます。でも、そんな危ないところに彼女がいるのを、放っておけなくて……。こんなことをお願いするのは申し訳ないんですが、お願いします!」
 一息に言い切ると、男は深々と頭を下げた。

「ネコミミ教、ですかあ」
 武彦に話を持ちかけられて、そういえば最近よくネコミミをつけた人を見かけるなあ、と如月縁樹は思った。
「ああ。潜入してもらうとなると、ネコミミとネコしっぽをつけてもらうことになるんだが」
「じゃあノイ、一緒に潜入しますか?」
 武彦の言葉を受けて、縁樹は抱いている男の子の人形に話し掛ける。
「もちろん行くとも!」
 まるで生きているかのように、その人形が口をきいた。縁樹の連れているノイは不思議な人形で、なぜか自分で動いたりしゃべったりするのだ。
「……とのことなので、ふたりで潜入しますね」
「あ、ああ。よろしく頼む」
 ふたり、という言葉に武彦は微妙に不思議そうな顔をしたものの、その疑問を口に出そうとは思わないらしい。
 縁樹はにこりと笑うと、大きくうなずいたのだった。

 他にも何人か潜入する人間がいるとは聞いていたが、まず、縁樹は先にひとりで潜入することにした。
 教団の本部はずいぶんとセキュリティが甘く、縁樹が「教祖さまに貢物をしたい」と入り口で告げたら、あっさりと中へ入れてくれた。噂ではいろいろとどす黒い話もあるようだが、一般信徒はもしかするとさほど悪い人間ではないのかもしれない。
「……ええっと、教祖の部屋ってどっちでしたっけ」
 入り口で説明されたはずなのに、すぐに忘れてしまって縁樹はつぶやいた。
 完全に人形のふりをしていてほしい、と頼んだため、ノイはそれに答えない。自分で頼んだことだというのに、縁樹はなんだか不安になる。
「誰かいないんでしょうか……」
 本部だというくらいなのだから、必ず他に人がいるはずだ。そう信じて、縁樹はきょろきょろとあたりを見回した。
 すると、通路の向こうからネコミミをかぶった和服姿の髪の長い女性が歩いてくるのが見えた。
「あ、すみませ〜ん!」
 駆け寄りながら、縁樹は女性に話し掛けた。
「あら、どうかしましたか?」
 女性は立ち止まると、おっとりと首を傾げる。
「実は、ちょっと道に迷っちゃったんです。教祖……さまの部屋に行きたいんですけど」
「あなたもこの教団の方……に決まっていますよね」
 自分で言ったことがおかしかったのか、女性はくすくすと笑みを漏らす。
「私も教祖さまの部屋はどこなのかわからないのですけれど……あの、教祖さまについてなにかご存知のことはありませんか?」
「え?」
 逆に訊ね返されて、縁樹は目をぱちくりとさせる。
「もしかして、草間さんから依頼されて?」
「あら……あなたも?」
 同じく、相手も目をぱちくりとさせる。
「僕、如月縁樹って言います。あなたは?」
「天薙さくらです。よろしくお願いいたします」
 言って、さくらはおっとりと微笑む。
「まあ……ちょうどいいところに来たようですわね」
 そこに、これまたおっとりとした声がかかる。
 見ると、黒い猫娘の姿をした髪の長い少女が立っている。
「わたくし、海原みそのと申します。草間さまからのご依頼で参りましたの」
「ああ、それじゃあ、お仲間さんなんですね」
 縁樹は笑顔で答えた。みそのは小さくうなずく。
「ちょうど、教祖さまのお部屋におうかがいしようかと思っておりましたの。よろしかったら、ご一緒にいかがでしょうか」
「あ、助かります!」
 すっかり道に迷った状態だった縁樹は、みそのの申し出にいちもにもなくうなずいた。

 一方その頃、曜は完全に迷っていた。
 自前の耳としっぽを隠さずに正面から堂々と潜入した曜だったが、教団本部はずいぶんと単調なつくりをしていたため、どこをどう曲がったのがいまいち覚えきれず……。
「まったく、どこに行けばいいんだよ」
 曜は小さくぼやいた。
 教祖のお気に入りの信者や幹部などをつかまえて、儀式の実態を確認しようとしていたのだが、まったく出会えない。
 部屋にはプレートがかかっていて、そこがなんの部屋なのかひと目でわかるのだけが救いだ。「ネコミミ保管庫」や「ネコミミ資料室」など意味不明な名称のプレートもいくつかあったけれど。
 そんなプレートにため息をつきながら歩いて行くと、「教祖とネコミミの部屋」というプレートのかかったドアに行きあった。
 どんな部屋だ、とツッコミを入れたくなる名称ではあるものの、多分、ここに教祖がいるのに違いない。
 部屋の前には先客がいた。ネコミミをかぶった銀髪の女性だ。信者にしては少々表情が険しい。
「……あなたもこの部屋に用があるんですか?」
 曜が声をかけようとしたところ、女性は先に振り返ってそう言ってくる。
「ああ、ちょっとね。あんたは?」
「教祖に少し用があるんです。……その耳、本物ですね? もしかして、この教団の幹部かなにかですか?」
 言って、女性は剣をかまえてくる。
 小柄な女性の身長ほどもありそうなその剣は、曜の目から見ても業物だ。
「違うって。俺は教祖を退治しに来たんだよ」
 とりあえず、幹部だろうと言って剣を向けてくるということはどちらかといえば味方だろうと判断し、曜はそう答えた。
 すると女性は剣をおさめ、ふぅ、と息を吐く。
「そうでしたか。あなたも、草間さんのところから?」
「ああ。ってことは、あんたも?」
「そうです。藤河小春と申します」
「俺は葛妃曜だ。それじゃあ、行くか?」
「そうですね」
 小春はうなずくと、ドアを開く。
 部屋の中には、なにやら怪しげなムードがただよっていた。
 室内は間接照明しかないためにやや薄暗く、香がたかれているのか妙なにおいが充満している。
 床には奇妙な魔法陣が描かれ、その上にはネコミミをつけた痩せた小柄な男が立っている。
「だ、誰だ!」
 男が甲高い声で叫ぶ。
「あんたが教祖だな!」
 曜は叫び返した。
 すると教祖は怯えたような表情で数歩あとずさる。
「どうやら、思っていたより小物のようですね」
 すらり、と小春が剣を抜く。なんだか物騒だなあ、と曜は思ったが、曜自身暴れる気でいるのだから人のことはいえない。
「あら、取り込み中ですかしら?」
 そこで、うしろからのんびりとした声がかかる。
 曜が振り返ると、猫娘姿の少女と、和服にネコミミというややマニアックなかっこうの女性、ネコミミの少年人形を抱えたネコミミの女性が入り口のあたりに立っていた。
「おお、いいところに! 誰か人を呼んでくれ!」
「困りましたね。多分、僕とあの子たちの目的って一緒だと思うんですよね。草間興信所から来た……んですよね?」
「ああ、そうだよ」
「やっぱり。よかったです。僕は如月縁樹。こっちはノイです」
 人形を抱えた女性がそう自己紹介する。
「わたくし、海原みそのと申します」
 言いながら、みそのが頭を下げた。
「天薙さくらです」
 最後に、和服姿の女性が言った。
「な、なな……!」
 教祖は壁際にはりつくと、意味をなさない言葉を繰り返す。
「女の子だけだからって甘く見ていると、痛い目にあいますよ?」
 そこに小春が追い討ちをかける。
「ぐ……」
 教祖がうめいた。
 だがそのとき、床に描かれた魔法陣が光を発した。
 そして――
「ふはははは!」
 その魔法陣から、ネコミミをつけたマッスルマンがせりあがってくる。
 そのあまりのビジュアルになにも言えず、曜を含め、5人は硬直した。
「我輩は猫魔王・海塚要である!」
「……キモ」
 曜は思わず正直に感想を述べる。
 要はショックを受けたように後ずさると、よろめきながら教祖に抱きつく。それもまたキモい。
「猫魔王さま……」
 教祖が要に向かって呼びかける。
 すると要は気力を取り戻したかのように顔を上げ、どこからともなく、肉球のついたグローブと猫しっぽを出した。
「さあ、これぞパワーアップアイテム……猫なりきりセットDX! 遠慮なく猫になりきるがよいッッッ!」
「猫魔王さま……わかりました!」
 教祖は感涙にむせびながらグローブとしっぽを装着する。かなり怪しい。
「さあ、それでは諸君……我輩と勝負だ!」
 言いながら、要は巨大な猫じゃらしを取り出す。そして、器用なことに、自分でそれを揺らしながらそれにじゃれついた!
「ふはははは! どうだ! 秘技『猫じゃらしにじゃれる猫さん』!」
「……」
 なにがどうだなのかわからないが、とりあえずどこからツッコミを入れるべきかわからず、曜は半眼で要を見つめた。
 小春がつかつかと歩み寄って、猫じゃらしを一刀両断にする。
 いくら巨大な猫じゃらしとはいえ、縦にまっぷたつにするのは難しそうだというのに、小春にとってはそんなことは大したことではないようだった。
「……それで?」
 地の底から響くような声で小春が訊ねる。
「ひ、秘技第2弾! 『おなかを上に向けて、あったかいところでゴロゴロ猫さん』!」
 要はごろりと床に横になると、おなかを上にしてごろりごろりと転げる。
「……」
 今度は無言で近づいていき、無言で要の上腕を踏みつけた。
「ぐ、ぐおおおおおおおっ!」
 要が、なんだか何十年も夢に見そうなほどの咆哮を上げる。
「とりあえず、これ、撃ってもいいですか?」
 縁樹がコルトトルーパーMkV6インチをちゃきりとかまえて周囲に訊ねる。
「魔王さまですもの、撃たれてもきっと平気なのではないでしょうか」
 みそのが明るく口にする。
「急所でなかったら、私が治療できますよ」
 さくらがおっとりととんでもないことを言う。
 どうやら、女性にはあのビジュアルは凶悪すぎたようだ。
「……とりあえず、人誅、ですね。私は龍族だから龍誅ですか」
 にこりとして小春が剣をかまえる。その笑顔は凶悪すぎるほどにすがすがしかった。

 すべてが終わったあと、要は地面でぴくぴくと震え、教祖は壁際でぷるぷると震えていた。
 依頼完了ということで他の4人は去ったが、まだ目的を果たしていないみそのはその場に残ったのだった。
「教祖さま」
 みそのは静かに声をかける。
 すると教祖は捨てられた子犬のような視線をみそのに向けてきた。
 みそのは嫣然と微笑むと、そっと、教祖の身体に腕をまわす。
 先日、サキュバスから教わった夜伽の技を試す機会を狙っていたみそのは、その実験台として教祖を使うことを思いついていたのだった。
「大丈夫ですわ。わたくしはなにも恐ろしいことなどいたしません」
 みそのはそっと、豊かな胸元を押しつける。
「さあ、参りましょう?」
 みそのは、教祖を奥の部屋へとうながす。
 教祖はにわかに自信を取り戻したのか、大きくうなずいた。
 そうして、ふたりは奥の部屋へと消えていった。
 床の上でぴくぴくしている要を残して――

 その後、ネコミミ教はネコミミをつけるのに特殊メイクや外科手術などに頼りだし、人々を恐れさせた。だが、そのすぐあとに教団は突然壊滅してしまう。
 どこからともなくあらわれたサキュバスとインキュバスの軍団のおかげで教団が壊滅した、と噂が流れたが――それらがすべてみそのの気まぐれのたまものだということは、誰も知らない。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
【1431 / 如月・縁樹 / 女 / 19 / 旅人】
【1388 / 海原・みその / 女 / 13 / 深淵の巫女】
【1691 / 藤河・小春 / 女 / 20 / 大学生】
【2336 / 天薙・さくら / 女 / 43 / 主婦/神霊治癒師兼退魔師】
【0568 / 守崎・北斗 / 男 / 17 / 高校生(忍)】
【2778 / 黒・冥月 / 女 / 20 / 元暗殺者・現アルバイト探偵&用心棒】
【0759 / 海塚・要 / 男 / 999 / 魔王】
【0888 / 葛妃・曜 / 女 / 16 / 高校生】

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■         ライター通信          ■
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 はじめまして、発注ありがとうございます。今回、執筆を担当させていただきました、ライターの浅葉里樹と申します。
 今回は少々コメディテイストのシナリオだったのですが、いかがでしたでしょうか。ネコミミ姿ともどもお楽しみいただけていれば、大変嬉しく思います。
 ところで設定を読んでいたらノイくんは50センチもあるそうで……。なんとなくイラストを見ていたらもっと小さいのかと想像していたのですが、意外に大きいのですね。
 家にあるビスクドールが20センチくらいなので、この2倍かあ……と思いつつ書かせていただきました。最近流行のSDなどと同じくらいの大きさでしょうか。あんな感じの人形が動いてしゃべって、なおかつネコミミ! となったらそれはものすごく可愛いかもしれない……とひとりで悶えてみました。あまりしゃべらせられなくて申し訳ないです。
 もしよろしかったら、ご意見・ご感想・リクエストなどがございましたら、お寄せいただけますと喜びます。ありがとうございました。