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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


二人



■ オープニング

 空気の流れを操る、風使いは最近その街を荒らしまわっていた。
 風使いは男性、線の細い青年で性格は荒唐無稽。とにかく、好戦的である。
 彼の力の源は魔力によるものではなく、もっと異質な何かであった。
 青年には連れがいる。彼より一回りも小さな少女で、いつも黒いマントを羽織っている。見た目はどこにでもいる少女。だが、少女もまた力を宿していた。魔物を使役する能力だ。性格は冷徹この上ない。人を平気で殺める。
 ゼロスとリノス。二人はそう呼ばれていた。風を操るのがゼロス、黒いマントの少女がリノス。
「と、言う話なんですよ。我々も信じられないのですが、手に負えないこともまた事実でして…」
「なるほど…。それでは生身の人間では相手にならないでしょうね」
 刑事の話を訊いた草間はタバコに手を伸ばした――が、切れていた。仕方なく、零が入れてくれたお茶を口にする。
「相手の目的は何なんでしょうか?」
 お盆を両手に持った零が刑事に尋ねた。
「残念ながら不明です。ただ、あの街には昔から魔女がいる――そんな都市伝説があるんですよ。少女の方はそれに近い風貌だと聞きます。ですが、とにかく、二人を捕まえて欲しいのです。動機を聞くのはそれからでも遅くはありません」
「確かにそうですね。ところで、相手の出現場所などに心当たりは?」
「あ、はい。”気楽街”という治安の悪い地域があるのですが、その一帯に出現するようです。ヤクザやマフィアなどがいる危険地帯なんですが、彼らも手を焼いているようです」
 若い刑事はそこまで一気に話すとお茶で口の渇きを潤した。
「分かりました、引き受けましょう…」
 今日はまともな調査(危険だが)だな、と草間はほくそえんだ(よく変な依頼と同時に変な依頼者が迷い込んでくるのだ)。



■ 気楽街

 昼間でも薄暗い街。気楽街と呼ばれているその街は危険度の高い区域だ。明らかに雰囲気が普通ではなく、たまに見かける人間もどこか異質な感じが漂っていた。
「ありゃ、化け物さ。訳の分からない力を使ってくるしよ」
「彼らとは、どこで遭遇したのですか?」
 尾神・七重(おがみ・ななえ)が訊く。調査に参加した人物の一人だ。
「……まあ、この辺一帯だな。だいたい、夜になると現れるんだ。俺たちの組は奴らには一切、手を出さないつもりだ……。あんたらも無茶をしない方が身のためだぜ」
 ヤクザ風の男はそれだけ答えると去っていった。
「なあなあ、風使いってどんな奴かなあー」
 参加者の一人、伍宮・春華(いつみや・はるか)が息を弾ませながら言う。彼も同じく風を操る能力を持っているのだ。ただ、春華は風使いの男、ゼロスと戦いたいがためにこの調査に参加しているため、事前調査は完全に人任せで、先ほどからそわそわしているだけだったりする。
「風か……。力の源が気になるな」
 真行寺・恭介(しんぎょうじ・きょうすけ)が呟いた。
「真行寺、お前、自分の研究の材料にする気だな?」
 最後の参加者、九重・蒼(ここのえ・そう)が恭介に向って訊いた。
「……ただの好奇心だ」
 四人はゼロスとリノスの出現場所を洗っていた。
 最初は被害に遭った人物などを探して話を聞いていたが、その殆どが係わり合いになりたくないと訴えていた。
「子供に話を聞くというのはどうでしょうか?」
 七重が提案した。
「いいかもしれないな。子供だとまた違う視点で世の中を見るし。そのリノスという少女は風貌がまだ幼いようだから、実際に会った子供がいるかもしれない」
 蒼が同意する。
 というわけで、四人は移動し、子供がいそうな場所を探してみることにした。
 場所が場所なだけに、子供の姿は見つけにくかったが、路地裏で遊んでいる子供を数人見かけた。話を聞いてみると、リノスの方はたまに見かけるということだった。どうやら、子供には危害を加えないらしい。
「子供には手を出さない……。つまり、大人がターゲットということか? いや……この気楽街という場所を考えると、単純に強い相手を求めていると考えることもできるな……」
 恭介が分析する。
「動機は不明な点が多いですね。これ以上は、相手を捕獲して聞き出す以外にないかもしれませんね」
「そうだな」
 七重の言葉に蒼が頷く。
「ねえねえ、まだかな、まだかな?」
 常識知らずで、調査も苦手な(実戦は得意)春華は終始はしゃいでいた。



■ 戦闘1

 深夜――暗がりの中から人影が突如として浮かび上がった。
 通りは暗いが月明かりが照らしているため幾分かマシであった。
 強烈な疾風が巻き起こる。
 相手はこちらに気づくといきなり襲い掛かってきた。
「よし、俺が相手だ!」
 春華が一人、風を操る男、ゼロスに向って走り出す。
 手には日本刀。それを、走りながら振り上げた。
 ―――ガキィィィーン!
 ゼロスは刀の軌道を瞬時に読み、右へ避けた。刀はマンホールに突き刺さり耳障りな金属音は辺りに響かせた。
 そのまま、春華はゼロスを追う。
「僕たちはあちらを!」
 少女がゼロスとは反対側の通路に走り出す。
 残りの三人はそちらを追った。
「まてー!」
 春華が男を追う。
「――――くくっ」
 ゼロスが立ち止まり不敵に笑う。
 左手をこちらに翳す。
 すぐに相手の意図を理解した春華は相手の攻撃の発動に合わせて突風を発生させた。
 風と風がぶつかり合い微小な竜巻をいくつも発生させる。
 埃やゴミなどが舞い上がり、視界を曖昧にさせるが夜目の利く春華はそれを物ともせずに相手に向っていく。
 刀を振るが相手は上手くかわしていく。
 相手は接近戦が苦手というわけではないが、どちらかといえば風の能力に自信を持っているのかもしれない。春華とは若干の距離を置いて戦う。
 しばらく攻防が続いた。
 力は拮抗していた。勝負は中々つかない。
「たぁぁぁぁ!!」
 敵が怯んだ瞬間に、刀を一閃。
 ゼロスの服を切り裂いた。
 それと同時に出血。
 膝をついた。
「やったか……?」
 しかし……。
 目の前にいた男は数秒後、消滅してしまった。



■ 戦闘2

「挟み撃ちにしましょう、僕はこちらから!」
 七重が路地を折れる。蒼と恭介はそのままリノスを追う。
 昼間に子供から路地で迷わないための歩き方を教わっていたので、七重はだいたい、地形を把握していた。この先の路地を右に折れると先回りできるはずだった。
 角を曲がると案の定、リノスがいた。
 しかし、彼女は薄く笑いながら口元で何か呟いた。
 魔物が数体、姿を現す。
 そして、躊躇なく襲ってきた。
「はああ!!」
 七重は魔物を指差す。彼の能力「重力操作」だ。
 魔物は動きが鈍くなった。その隙に七重はリノスに向って走った。
 だが、魔物も黙っていない。
 その時、
 ―――パァァーン!!
 銃弾は魔物を直撃した。
「――雑魚は俺たちが引き受ける!」
 恭介が鋭い視線を魔物に投じる。
「しっかり援護しろよ、真行寺……」
 面倒くさそうに蒼が呟いた。両手で剣を持ち、蒼は地面を蹴る。
 襲い掛かる魔物を次々に斬っていく。すると魔物は一閃で消滅。
 どうやら、魔物は実体ではなく魔力か何かで構成されているようだ。
 だが、数がかなり多い。
「――くっ!」
 恭介の援護で蒼は何とか魔物を振り切る。囲まれると厄介だ。
「魔物を使役している奴を捕らえなければ無意味か……」
 恭介が苛立ちながら呟く。
「やああ!!」
 七重がその使役する少女――リノスを捕らえようとしていた。
 自身にかかる重力を軽減させて空中を高く舞い上がる。
 同時に、相手にかかる重力を増加。
 落下地点はリノス。
「――きゃあああ!!」
 少女を捕らえたまま地面を転がる。
 ―――シュウゥゥゥ!!
 それと同時に魔物が完全に消滅してしまった。



■ 動機

「おーい、風使いの奴、消えちゃったぞ?」
 数分後、三人の元へ春華が小走りで姿を現した。
「今、こちらも彼女を捕らえました」
 七重が状況を説明する。
「…………」
 リノスは黙ったままだ。
「何が目的でこんなことをやったのか教えてくれないか?」
 まず蒼が訊いた。
 しばらく沈黙が続く。
 だが、それなりに落ち着いたのか、リノスは四人の顔色を窺いながら喋り出した。
「……私は魔術師の家系です」
「魔術師?」
 恭介が腕を組みなおした。
「この年齢になると、ある儀式が行われるんです。それをクリアーした者は、一人前の魔術師として認められますが……それ以外は破門となり力を剥奪されます。私は、儀式で失敗し破門にされました……。ですが、私は納得できなかったのです」
「確かに、これだけの力があれば……」
 七重が首を傾げる。
「養子なのです、私は……。魔術師になれるのはその家系で一人だけ。全部、姉の陰謀だったのです……」
「ひどい話だね、それはー」
 春華が同情を示す。リノスは話を続けた。
「私は力を剥奪される前に逃走しました。ですが、相手も黙っているはずもなく、刺客を送り込んできたのです。寝る暇なんてありません。敵味方の判別もつきませんでした。だから、貴方たちも敵だと誤認してしまいました」
「だから、大人ばかりを狙っていたんだね?」
 蒼が訊くとリノスは頷いた。
「ここなら、一般人に被害が及びにくいからな……。だが、どうしてそれほどまでに力に固執するんだ?」
 今度は恭介が質問した。
「……これです」
 リノスが両手を上空に伸ばした。
 すると…。
「え、こいつさっきの?」
 春華が驚く。
 四人の前にゼロスが突如姿を現した。
「この人は私の父です。父も魔術師だったのですが、禁術をかけられこのような姿に……。通常は置物のように動かない存在なのですが、私の使う特殊な術――それも禁術なのですが、それによって私は父を使役していました。いえ、使役ではなく、父の意思力で動いていると言ったほうが正確です。ですが、理性などは崩壊していますから……やはり、普通の人間ではありません」
 あらかた話し終えると、リノスは動かない父親を小さなペンダントの中に戻した。どうやら、小さくして持ち運んでいるようだ。
「貴方たちは警察関係の方々ですよね? 私はどうなるのですか?」
「魔術ならば……調べられないことは……。どうだ、真行寺?」
「知り合いに当たれば何とかなるだろう」
 蒼と恭介が何やら相談を始める。
「事情を話せば……きっと、分かってもらえますよ」
「そうそう」
 七重と春華が少女に語りかける。
「……皆さん、ありがとうございます」
 目を潤ませながら少女は頭を垂れた。
 その後の話だが、リノスはかなり精神的に危うい状態だったらしい。一種の錯乱状態に陥っており、見るもの全てが敵に見えていたらしい。また、父親のゼロスの方は制御不能なことが多く、人を殺めていたのはゼロスの方だった。
 刺客はその殆どが魔術師。ゼロスには禁術が掛かっている。それが公になると不味いと思ったのだろう、その魔術師一家は躍起になって二人を探していたようだ。時には一般人を消すような出来事もあったようで、それが最初にこの街へやってきたゼロスとリノス仕業であるように仕向けられていたとの事だ。
 父親の禁術は解かれたが、すぐに警察に出頭したらしい。元々、魔術師一家に手を貸していたようで、しかも、犯罪的な行為を繰り返していたらしい。
 魔術師一家は逃亡。未だに足取りは掴めていない。
 リノスは力を捨て、普通の暮らしに戻った。
 彼女は待っている。
 いつか戻ってくる父親を……。



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2557/尾神・七重/男/14/中学生】
【2479/九重・蒼/男/20/大学生】
【1892/伍宮・春華/男/75/中学生】
【2512/真行寺・恭介/男/25/会社員】

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■         ライター通信          ■
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調査依頼「二人」にご参加いただき有難うございます。
戦闘メインだったのですが、オチの方がやや整合性に欠ける面があるかと……。
今後もこのようなスタイルの調査依頼を増やしていこうと思っています。
それでは、これにて失礼させて頂きます。

 担当ライター 周防ツカサ