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<東京怪談・PCゲームノベル>


辛夷の花

鈴代ゆゆは、エルハンド・ダークライツに何かお礼をしようと考えていた。しかし彼女は鈴蘭の精なため、一緒に何が出来るかという事に悩む。
人間に変身できるクスリのお礼、そして今までの事への感謝をするため、何かと気合いが入るのだが。
「うーんどうしよう」
ゆゆは、自宅で考えていた。
家の住人は、いつもの日常を送っている。そのやりとりはホームドラマのようだ。ゆゆは、鈴蘭の中で休憩をしているので家の者が彼女に気付くことはまず無い。
「お母さん、お菓子作りセットどこ〜?」
「あなたが片付けたんでしょ?しらないわよ?」
台所ではなにか親子が話しているようだ。
「なんだろう?」
すこし、姿をみせないで自分の本体である鈴蘭がおいている部屋を見渡す。
「あ、バレンタインの季節だ」
ゆゆはポンと手を叩くのだ。
「じゃ、出かけてくるかな」
と、彼女は姿を見せずにあやかし荘に向かって出かけたのであった。


一方、エルハンドはIO2の依頼で蓮の間を空けていた。
場所は、過去に大きなオカルトテロの痕跡を消す事と、目撃者の記憶消去だ。それは長時間も行われた。なにせ、過去を読みとり、逃げた人などを見つけ、その時の怪我や記憶を消さなければならないからだ。全く骨の折れる仕事である。
「道場はアイツに頼んでいるから問題はないが…蓮の間の猫はどうなっているのだ?」
と、独り言。
因みに、大通りで剣を振っているわけではない。そんなことをしたら普通の警察が黙っていない。記憶操作の魔術を発動させているだけである。
「今日はこれぐらいにするか」
休憩の為、見晴らしの良いビルに立つ。其処は父親と同じように東京ではお気に入りの場所だ。
朝の喧噪が始まるのを眺めている。
「ああ、そうか今日はこんな日だったな」
何かに「気が付いた」のだろう。
彼は独り言を言って笑っていた。携帯からIO2の東京支部に連絡し、
「私だ。急用だから、今日は休むがいいか?何、ノルマもこなしたし、今は平和だから問題なかろう。…ああ、君が言っている通りのことだ」
電話の相手はなにか皮肉を言っている。
「羨ましいか?」
その言葉で、相手は悔しがっている反応を見せた。
「じゃ、そう言うことで」
と、エルハンドはニヤリと笑って電話を切りお気に入りのビルから姿を消した。


ゆゆは、蓮の間にエルハンドがいないことを知ると、少し悄気る。
「でも、必ず会えるよね」
彼女は、何故かこの部屋に沢山いる猫に訊く。
「にゃ〜」
猫は肯定の意味の返事をしている様に鳴いた
彼女は確信していた。その理由は分からない。ただ、彼なら必ず来てくれると思ったのだ。
「固形チョコレートは、あたし食べられないから、ホットチョコレートを作ろう♪アレなら一緒に飲めるから」
そう、今日は2月14日のバレンタインデー。そんな日でもあるので、少し内容は変わるが、大事な日だ。告白以外でも感謝の気持ちを込めて何かを贈ることも良い。
あやかし荘の共同炊事場を借りて、材料の生チョコを溶かしと牛乳を鍋に混ぜていく。程よく混ざって良い香りがする。なかなかの出来だ。
「よし♪」
彼女はマグを2個用意して、出来立てのホットチョコレートを注ぐ。
そして、又蓮の間に向かうのだ。
其処には、
さっきまではいなかった、会いたい人がいた。
「おはよう、そしてお帰り、エルハンド」
「おはよう、ただいま、ゆゆ」
2人はこうして出逢うことが当然だった様に挨拶をする。
「外で飲まないかな?」
「そうだな」
2人は、蓮の間を後にする。猫も後から付いてくるようだ。


一本の梅の木の元でゆゆは、ホットチョコレートをエルハンドに手渡した。
「ありがとう」
「ううん、あたしの方がお礼言わなきゃ」
「先に言わせてくれ。朝早いのに来てくれた事が私にとって嬉しい」
エルハンドは優しい笑顔をみせて言う。
そして、梅の木の他様々な木々をみながら今までエルハンドと出会いの話、彼がいない時の自分の体験談を語った。
エルハンドは優しく笑って彼女の話を聞いている。
彼もゆゆの話に相槌をうったり、少しからかってみたり、感想を述べたりとゆゆの表情豊かさを楽しんでいる。でも、2人の心は落ち着いている。まるで2人はこの風景に溶け込んでおり、綺麗でそして暖かく感じた。
あやかし荘には梅の他桜、沈丁花など様々な木や花が生えている。そこで、ゆゆはエルハンドに…
「梅の花言葉は厳しい美しさ、艶やかさ。沈丁花の花言葉は優しさ、おとなしさ…今まで会った色んな人みたい。エルハンドは辛夷の花…かな。友情と信頼。もうすぐ咲くよ。たまに皆と同じ事が出来ない自分が悲しくなる時があるけど、私は花である事に引け目は感じてないし…それが真実だからね。それにエルハンドのお陰で叶った事もたくさんあるし…本当にありがとう」
笑って彼女は感謝の言葉を言った。
「そうか、私も礼を言わなければ」
「どうして?」
「ゆゆがいてくれたことが、私にとってかけがえのない事だ。君が私のおかげで願いが叶ったと言うならば、私も願いが叶ったことがある」
「神様なのに叶わない事ってあるんだ」
「ま、そうだな。神とて万能ではないからね」
微笑み、ゆゆの作ってくれたホットチョコレートを味わいながら飲むエルハンド。
「こうしてゆゆとゆっくり会話できて、心を落ちつける事だな」
「エルハンド?」
「親友以上の存在だよ…ゆゆは」
彼は、ゆゆの頭を撫でた。
その言葉にゆゆは固くなった。どういう意味か少し考えてしまったのだ。
「これからも宜しく」
エルハンドの微笑みは一段と美しかった。
答えは未だでないが、彼の言っていることは真実。
2人はゆゆがもうすぐ咲くという、辛夷の蕾をみていた。此が咲くとき、春を告げる花。桜と違って咲くと悲しく儚い花。しかし、花言葉にあるように友情と信頼が、彼と彼女をこの日に出会える事を結びつけた、のかもしれない。
猫たちは、遠くでまたは近くで2人を見守っている。
2人は、このあやかし荘の庭に溶け込んでいた。

ある平和な朝の、心地よい思い出。
其れは永遠に残ることだろう。


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0428 鈴代・ゆゆ 10 女 鈴蘭の精】

【NPC エルハンド・ダークライツ 年齢不詳 男 正当神格保持者・剣聖・大魔技】


※エルハンドから伝言
今回参加ありがとう。そしてゆゆ、ホットチョコ作ってくれてありがとう。この味は忘れない、決してな。
また、ゆっくり話が出来る事を楽しみにしているよ。