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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


対決



■ オープニング

 合宿のために訪れた一行はバスの転落事故で全員が死亡。彼女たちは全国大会を視野に入れた実力者であったと言う。
 幽霊が出る。それは彼女たちが成仏できないからだ。自然に囲まれた僻地―――川沿いで彼女たちは今日も練習に励む。
「と言う話らしいです。記事になりますかね?」
「…三下にしてはマシなネタを持ってくるじゃない。で、どうするわけ?」
「へ?」
「だから、それをネタにどういう記事を書くの? それだけなら、調査なんていらないし、記事だって調べてればいつだって書けるわ」
「…はあ。どうしましょう?」
 三下が頭を傾けて唸った。
「対決よ…」
「…たいけつですか? それは、どういう?」
「試合をふっかけるのよ。きっと、それが原因で成仏ができないはず…。だったら、戦って負かして成仏させて、それを記事にすればいいでしょう?」
「なるほど、さすがは編集長!」
「一対五かあ…。ふふふ、楽しみだわ」
 編集長、碇麗香の目がキラリと光った。少々、危ない目だ。
「えええええ!? ぼ、ぼくが一人でえええ!!!」
「…冗談よ。さあ、集めてちょうだい。腕の良い調査員をね…。そうね、多少反則技を使っても問題ないわね。相手は人間じゃないし」
 そう言って、碇編集長は編集部内を見渡した。



■ 到着

 現場は偏狭の地だった。山に囲まれ、穏やかな川が流れ、そこが日本だとは思えないほどだ。三下を入れた四人は静穏に包まれた大自然に圧倒された。
 川沿いの砂地にバレーのネットが張ってあった。どうやら、幽霊たちはここで練習をしているらしい。だが、肝心のバレー部の幽霊たちは姿が見えない。
「しばらく待つか」
 真名神・慶悟(まながみ・けいご)はスーツ姿という格好でこの調査に参加していた。単にこういう場に相応しい服を持っていなかったのだ。軽薄な雰囲気で、バレーをやるためにやって来たとは思えない感じである。
「三下クン、相手の情報は分かっているの?」
 そう質問したのは美貴神・マリヱ(みきがみ・まりゑ)だ。長い黒髪と白い肌は対極的に映る。プロポーションも抜群の彼女はファッションモデルを生業としており、暇を見つけては探偵の仕事もやっている。
「バスの転落事故が起きたのは今から一ヶ月ほど前になります。かなり、有力な選手たちだったと聞きます。高さはないけど、守りが徹底しているとか」
「でもさ、バレーの試合なんてふっかけて本当に意味があるの?」
 三人目の参加者、榊杜・夏生(さかきもり・なつき)が三下に訊いた。ジャージ姿の彼女は一番、見た目がそれらしい。
「……編集長がやれと言うので……僕には拒否権が……」
 ブツブツと念仏を唱えるように三下が愚痴をこぼす。
 相当にストレスが溜まっているらしい。
「ま、めったに体験できないし、面白そうだからいいけどねー」
 夏生はケラケラと笑いながら用意してきた三脚とビデオカメラを準備し始めた。どうやら、撮影する気らしい。
「でも、相手が承諾するのかどうかも問題じゃないのか?」
「幽霊ですものね。確かに、交渉するのに骨が折れそうだわ」
 慶悟の意見にマリヱが同意する。
「成仏できずにバレーをやっているぐらいだし、何とかなるんじゃない?」
 夏生がビデオの準備を終えたらしく皆のところへ戻ってきた。
「それもそうか。だが、細心の注意を払うようにしよう」
 全員が頷く。
 それから、数十分後、六人の女性が姿を現した。
 バレーのユニフォームを身に包み、身長も平均より高い子ばかりだ。
 そして、交渉が始まった。



■ 試合開始

 時間にして僅か二秒だった。
『受けて立とうじゃない!』
 そんな、格闘ゲームのキャラクターみたいな返事が戻ってきた。四人は呆気に取られながらも試合開始のための準備を行った。
 相手の中で最も身長が高い女性。恐らくアタッカーだろう。皆から「ヨウコ」と呼ばれていた。どうやら、指揮を執っている彼女がキャプテンらしい。
 六人制のバレーボールだが、こちらは三下を入れても四人。三下がいると足手まといになると言う理由から三人でやることになった。ラリーポイント制で先に25点取った方の勝ちだ。
『三人でやろうなんて甘く見られたものだわ』
 キャプテンのヨウコが、またもやありがちなセリフを吐く。敵意満々と言った感じで、あちらも気合十分のようである。
「で、では、始めてください」
 三下は結局、審判をすることになった。先ほど、ルールブックを丸暗記していたようだが、どうにも怪しい。
『いくわよー!』
 相手側のサーブ。
 何の変哲もないサーブで試合は開始された。
「もう少し後ろよ!」
 マリヱが指示を出す。
 彼女は体内に虫を飼っている。
 それを使った能力「虫の報せ」で落下地点を的確に予想する。
 夏生がレシーブ。
 そしてマリヱがトスして……。
「巽の風よ!」
 最後は慶悟がアタック。
 しかも突風を起こし、玉の軌道を変則的なものにする。
 さすがに、相手も取れずに見事、先取点。
「やるわね!」
 奮起を促す材料となったようで、相手は更に敵意を剥き出しにしてくる。
 女性の力とは思えないジャンプサーブ、力強いスパイク……。
 角度のある強烈な攻撃はこちらが三人ということもあり、やや不利であった。しかも、相手はコンビネーションもよい。アトラスチームは即席のチームであるため、コンビネーションは今一つといった感じだが、徐々にそれにも慣れてきたようだった。
 慶悟は袖を捲くり、ボールを手に取る。今度はこちらのサーブだ。
 風を起こし、軌道を変えることでアクセント加える。
『な、なんて卑怯な!』
 何か喚いているが慶悟の知ったことではない。相手だって霊力を付加させて攻撃している。どうやら、そのことには本人たちも気づいていないようだが……。
「我、汝が在るが様を禁じ落つる事、打つ事を禁ず」
 相手がスパイクを打った瞬間に慶悟が禁術を唱えた。まさに、反則技の極みといった感じの術だ。ボールは空中で静止してしまった。
「よし、チャンス!」
 夏生が叫ぶ。
 が、彼女は静観している。背の低い彼女には届かないのだ。
「私がいきます」
 マリヱが飛んだ。
 瞬時に筋力を増強させ強烈なスパイク。
 見事にポイントゲットだ。
 その後、役割として慶悟と夏生が守備、マリヱが攻撃専門という形になった。
 慶悟は体力に自信がないのか、「穏形法」により自分の姿を消し、「替形法」によって自分の姿に変化させた式神を出現させ攻撃させた。
 人数の少なさも式神の数を増やして対処するなど、反則技にますます磨きが掛かっていった。
『そんなブロック、卑怯よ!』
 四人の慶悟がネット際でブロック。
 だが、コート上には合わせて六人なので問題はないと慶悟は言い張った。



■ 決着

 試合は進んで24対23。あと、1ポイントでこちらの勝利だ。
「えい!」
 夏生のサーブで始まる。
 敵は慎重になっているようだが、さすがに全国レベル。鋼の精神力だ。プレッシャーを感じさせない動きを見せる。
 そして、トスが上がりスパイク。強烈――これは防げないだろうと誰もが思ったが、ラインの外側に落ちてアウト。
「わーい、ラッキー」
 夏生の能力「幸運招来」の所為だ。
 彼女の強運は何度も相手のミスを誘発させていた。
『そ、そんな負けるなんて……』
 勝負はついた。25対23。
 彼女たちは項垂れてしまった。よっぽど悔しかったらしい。
「これで成仏してくれる……のか?」
 慶悟が相手の様子を窺う。最初の頃のような覇気は見られない。
『成仏ですって? 私たちは……一体?』
 ヨウコが顔を上げる。
「気づいていなかったみたいね」
「えーと、カメラカメラっと……」
 夏生が一人カメラを片付け始める。
「実はですねえ……」
 それまで審判をしていた三下が彼女たちに事情を説明した。最初は半信半疑だった彼女たちも、最後には納得していた。
 自分たちの存在意義を知り、そして、結論が出た。
『そう……私たちは死んでいるのね』
 その後、長い沈黙。
 彼女たちは成仏してくれるのだろうか。
『……今度……今度、会ったら覚えてらっしゃいよ!』
「はあ?」
 慶悟が咥えていたタバコを地面に落とす。
 どうやら、彼女たちは成仏する気はないらしい。負けん気が強いのか、それとも我侭なのか微妙だが、とにかく彼女たちは再び練習を始めた。
「……どう……するの?」
 マリヱが呆れながら皆に訊く。
「でもでも、この人たちって害はなさそうじゃない?」
「じゃ、じゃあ、編集長に電話をしてみましょう」
 三下が携帯電話を取り出す。三度のコールで碇編集長が気だるそうな声で電話に出た。
『……何か用?』
「あ、あのですね――」
 用件を伝える。
『なるほど、成仏できないのね……。ところで……三下君、その調査って何だっけ?』
「……はい?」
『最近、物覚えが酷くてね……。ま、いいわ。適当に放置してきて』
「そ、そんな適当な……。
 電話は切れた。
 圏外ギリギリだったこともあるが……。
 恐らく、一方的に切られたに違いない。
「どうするんだ?」
 慶悟が訊く。
「……あわわわわ。ど、ど、どうしましょう」
 三下は困り果てていた。
 背後のコートでは彼女たちが熱心に練習を続けているのであった



<終>



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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0389/真名神・慶悟/男/20/陰陽師】
【0442/美貴神・マリヱ/女/23/モデル】
【0017/榊杜・夏生/女/16/高校生】

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■         ライター通信          ■
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今回は、調査依頼「対決」へご参加いただきまして、ありがとうございます。
やや……ノリがギャグっぽくなってしまったのですが、如何でしたでしょうか。
攻守ともに中々バランスの良いチームでしたので、こちらもワクワクしながら書かせていただきました。
では、こんなところで失礼します。

 担当ライター 周防ツカサ