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<東京怪談・PCゲームノベル>


ある恋の行方

「あかね♪」
「何裕ちゃん?」
妙に仲が良い田中裕介と長谷茜。一緒に手をつないでデートに出かけた。あやかし荘メイド服騒動から数日後のことだ。
わざわざ休日に裕介は彼女に会いに来る。そして茜は彼が来るのを楽しみにしている。時間があれば一緒に出かけたり遊んだりと、言った具合に仲がよい。その中で複雑な気持ちを持っている者は織田義昭だった。なにかあの騒動でどうも茜との関係がぎくしゃくしている。更に兄として親友として慕っている裕介と茜の間が縮まっている感が不快でぬぐえない。
「むぅ。何か気になって仕方ない…はぁ俺も修行不足だな」
ため息をつく天然剣客。
気配を隠して、まるであの事件の逆の行動をとっていた。


要は2人のデートの尾行だ。既に1人は気付いている。メイド魔神で着せ替え魔の田中裕介だ。茜の方はというと、裕介の連れて行ってくれるところにおもしろみを感じて其処に熱中している。
「来ていますね…」
裕介は弟分の視線を感じ微笑んだ。
「何が」
「何でもないよ」
「あ、裕ちゃんこのぬいぐるみ可愛い」
と、茜は屈託のない笑顔で裕介を呼ぶ。
義昭と言えば、何かしら難しい顔をしている。

デートとは言っても、ウィンドショッピングでオシャレッ化のない茜に裕介がブティックなどに連れて行っている程度のモノだ。
他愛のない話の他、茜から
「裕ちゃんはこう言うところなれているんだよね?」
「そうだが?」
「でもね、よしちゃん…苦手なんだって」
少し顔が曇る。
「仕方ないだろ?苦手意識があるのならね」
「でもセンスは裕ちゃんと一緒よ。少し、違うところあるけど」
「どんな?」
「よしちゃんの部屋、実は革ジャンとかある」
「ははは…其れはあっても不思議じゃ…」
「ヘヴィメタル好きだからよしちゃん」
「其れに感化か…Tシャツもその系のプリントものばっかり?」
「そうそう、後は地味なんだよ。デニムとか綿パンとか…服はそんなに流行のカジュアルに拘ってないの」
等々、義昭の事を話していた。
どちらかというと、茜は義昭の話ばかりである。
やっぱり、長年思い続けている幼なじみの事を忘れられないのだなと裕介は思った。

人混みが多い通りに入る。茜と他の人がぶつかりそうな瞬間、裕介は彼女の肩を抱き寄せて其れを防ぐ。茜にしては、既に彼の胸元に引き寄せられる程度は抵抗感もない。ただ、少しだけ…そう少しだけ悲しい顔をしているのだ。其れの理由を知っているのは、常々一緒に遊んでいる裕介しか分からない事だろう。
人混みの中をかき分けるより、彼らの行く道を見渡せる、高いビルに義昭はいた。
彼も又、複雑な心境で彼らのデートを見ていた。


「俺もいい加減、この優柔不断さを克服しないと行けないな」
と、義昭はため息をつく。
確かに茜は好きだ。でも、自分はどうも他の人を好きになったようだ。いままで独りぼっちに感じていたためか、その反動は大きすぎたようだ。和服美人に、瀬名雫、そして幼なじみの茜。喧嘩したり、怪奇仕事解決の時のパートナーでもあったりする茜。別段気取るわけでもなく、漫才している方が楽という関係。ただ、其れではダメだと…そうその問題の決着をしなければならない。
それから逃げて、神の道を行くのは無理だろう。自分の手を見る。他の人には分からないだろうが、神格を使うたびに、身体に負担がかかっている「跡」がある。身体がひび割れているのだ。何とかその「跡」の修繕をしていてもいつかは身を滅ぼすだろう。既に彼が進むべき道は決まっていた。自分の力を完全に昇華させ、正当神格保持者つまりは神になるために…。
「そのためには問題は山積み…しかし、俺は…どうすれば」
神となれば戦いの他にもこの日常がどうなるか不安がある。その日常が師匠や宗家と同じように出来るのだろうかということだ。

茜も義昭が苦しんでいるのは分かっていた。でも、やっぱり口に出せない。
―いつかはよしちゃんは『手の届かない存在』になる。
首を振ってその考えを消す。『手の届かない存在』になる前に彼はどう思っているのか確認したかった。
自分のことをどう思っているか。
巫山戯た漫才で日々過ごしているのも楽しいが、其れはかりそめだ。其れを知っているのか、裕介は暇さえあればこうして遊んでくれている。本当に兄のように慕える裕介(趣味に難ありだが)。無意識に彼に甘えるよう腕を組んだ。
通りがかる人からは恋人か仲の良い兄妹に映っていることだろう。
裕介は、茜が思い悩んでいるのだと分かったので、空いている手で、彼女の頭を撫でてあげた。

人混みから離れ、公園に茜と裕介はやってきた。ベンチに座り、噴水の周りに鳩がたむろしている。のどかな風景。冬というのにもう春らしさを感じる。遠くでは子供達が鬼ごっこをしている声も聞こえる。
「懐かしいな、鬼ごっこ」
茜は呟いた。
「一緒に楽しんでたんだな」
裕介は優しく尋ねる。
「うん…よしちゃん隠れるの上手いんだよ。当然逃げるのも」
茜の視線は空を見ていた。悲しい瞳で。
「あっ」
裕介は茜を抱き寄せる。彼女の不安をぬぐい去れる方法は見付からないせめて「兄貴」として彼女を慰めてやりたかったとっさの行動だった。
「茜、辛かったら…」
「いいの。このままで…裕ちゃん」
はっきりしない義昭もそうだが、やはり彼にはこの事より重大事項がある。それで思い悩むのだろう。裕介は其れで怒りを感じることは出来ない。ただ、出来れば皆から離れた存在になる前に、茜のことを思うなら茜を見て欲しいという考えはあった。
そうでなければ、このデートを尾行していないだろう。僅かな気の揺らぎを感じていたのは裕介だけだった。
裕介は、茜から離れ、
「ごめん。一寸買い物してくる」
「ジュース?」
「そう、待っててくれ」
と、走って姿を消した。
「待っていよう」
子供のようにちょこんと待っている茜。

裕介が向かった先には、いままで尾行していた織田義昭が座っていた。彼の足下には空き缶が3つほどある。そしてホカホカの缶紅茶が3本残っていた。
「裕介さん、最後は長谷神社まで茜を送っていくんじゃ?」
既にバレているのは承知だった。しかし、訊いてみる。
「義昭くん、俺は用事が出来ましたから…後は任せましたよ」
と、義昭の頭をぽんぽん叩いて、缶紅茶の1本をいただき
「じゃ」
と姿を消した。
義昭は、思わず笑ってしまった。
「お節介な兄貴分だな」


茜は驚いた。帰ってきたのは裕介でなく、天然の幼なじみだから。
「よしちゃん」
「寒いだろ、紅茶やるよ」
茜の座っているベンチ。彼は茜と密接するように座った。
「え?よしちゃん」
「どうした?」
「う、ううん。なんでもない」
紅茶を飲む茜。
暫く2人に会話はなかった。
日も暮れて来た頃。
「よしちゃん」
「なんだ?」
「目をつむって」
その言葉が何を意味するか義昭には分かった。
従う義昭。
暗い視界に、唇に温かい感触。
義昭が目を開くと目の前に赤面している茜がいた。
「よしちゃん…」
「ああ、茜も大胆だな」
「そう言うときもあるもん」
―よしちゃんが決められないなら…よしちゃんが私を本当に愛してくれるように頑張らなきゃ…
茜の決意だった。
「さて、帰るか」
義昭は茜の手を取り、一緒に長谷神社に向かう。其れは幼なじみから少し一歩出た親しい関係に見えることだろう。
「世話が焼けますが…結果オーライですか」
裕介は、その姿を陰から見守り、そして笑っていた。

春はもうすぐ…その時彼らは…。


End

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【1098 田中・祐介 18 男 高校生兼何でも屋】

【NPC 織田・義昭 17 神聖都学園高校生・天空剣士師範代】
【NPC 長谷・茜 17 神聖都学園高校生・巫女】


※ライター通信ならぬ、NPC座談会
義昭「…」
茜「…」
義昭「砂糖錬成?」
茜「かな?糖度は読んだ人の感想ね…」
義昭「いや、まぁ正直言えば俺は悩むって言うか…なんというか…ごめん」
茜「いいの。そう言うキャラだもん、よしちゃん。暫く天然で、お姉さんスキーや雫ちゃんに頭が上がらない状態で良いの。その分私が頑張るし、今後もあまり変わらないと思うわ。今回は特別ね」
義昭「何か凄いこと言ってないか?」
茜「そうかな?」
義昭「まあ、裕介さんにはお世話になりっぱなしだ。感謝。しかし、メイド萌えってのはどうにかならない?」
茜「治せない病気だから仕方ないんじゃない?というか、裕ちゃんにとってアレはライフワークよ。此方も相手に順応するのも大事よ」
義昭「うーむ…変わってきたなぁ…おまえ」

これ以上会話が長くなるので無理矢理終了…。