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雪の欠片２
〜オープニング〜
「あらぁ、イイ男が台無しね？ 依頼人にそんな顔をするものじゃないわ」
そんな第一声で麗香が持ち込んで来た依頼は、雪の結晶に関する噂話の検証だった。
「雪の結晶が会いたい人の姿になって死者を悼む…ってのは、ただ単に凍死した人の身体で固まった雪が、たまたま人間の形に見えた事に端を発する伝承らしいの。でも、それを利用して何かを企もうとしている人がいる事は確かよ」
「ウチの三下が、誰かが遠隔操作で雪の結晶を操作し、何かの情報を集めているらしい事までは掴んだわ。その際に、レーダーである雪の結晶が、対象となる人物の心の中身を反映させ、既知の人物の姿を採る事も分かった。でも、ヤツの調査ではそこまでが限界ね。ここからは私の独自の調査よ」
「何が分かったんだ？」
「集めている情報って言うのは、恐らくその対象となる相手の素性。経歴や身の上と言うよりは、持っている能力や力などね。死に瀕すれば、人はその潜在能力を無意識のうちに開放するものでしょう？そしてその対象は主に女性。雪の結晶が会いたい人の姿になる…なんてロマンティックな噂話、オンナノコがほっとく訳ないじゃない？」
「何故、人の能力を測っているかは分からない、今のところはさすがに凍死者も現われていないけど、このままいけば最悪の事態も起こり得るわ」
「ようは、その最悪の自体が起こる前に、俺にその張本人の居場所を探れって言うんだろう？」
「ビンゴ！ 雪の結晶を呼び出す事自体は出来るのよね。三下がその身を持って実験したから。でも、そこからの追跡が出来ないの。だから、何かイイ知恵を搾ってくれないかしら？ 張本人を拘束するとか、それは二の次、状況次第よ。ああ、勿論、三下は好きに使っていいわよ？」
役に立つのならな。武彦が、煙草の煙を天井に向かって吹き上げた。
〜１〜
「やっぱり気になってたのはわたしだけじゃなかったのね。碇さんが注目しててくれて良かったわ。三下さんだけじゃ、心許ないもの」
「…それはどう言う意味ですか……」
イヴの的を得ているとは言え容赦のない言葉に、めそり泣き言を言う三下を、傍らのアトリが慰めるように優しく肩をぽむぽむと叩く。
「大丈夫ですよ、三下さんは三下さんなりに頑張ってるじゃありませんか！時には結果でなく、過程を評価される事だってありますよ」
「…それだと、一生僕は評価されないような気がするんですけど…」
「そうですねぇ、碇さんは如何にも成果重視の実力主義みたいですものね」
「そこは雑誌の編集長としては当然の事でしょうけど。どんなに頑張って取材してくれたとしても、書く記事の内容が空ではねぇ…」
メイカとシュラインは、ただ素直な感想を漏らしただけだったのだが、それは結果的に三下の無能振りを認める事になり、三下は更にがっくり落ち込む事となった。そんな哀れなサラリーマンの傍らに立ち、司録が帽子の影からにやりと白い歯を剥き出す。
「三下サン、余り弱気になっていると、今度こそ本当に雪の結晶に連れられて行ってしまいますよ」
「そうよ、この事件に関しては、三下さんの役割って重要よ？特に、今回は雪の結晶を消してしまわないように追跡しなければならないしね」
「と言う事は、やっぱりまた僕が囮になるんですね…？」
「あ、あの…話によるとその首謀者は女性狙いだそうですから…私が代わりに囮になりましょうか？」
とほほ、と肩を落とす三下が余りに哀れだったのか、アトリがハイ、と片手を上げたのだ。それを聞いたイヴは、首を二、三度横に振ると、真剣な眼差しでアトリの顔を覗き込んだ。
「ダメよ、アトリさん！女は無駄に身体を冷やしちゃ駄目なのよ？それに、相手の目的が何かはっきりしない以上、危険な事は避けた方がいいわ」
「そうですよね、この事件を起こしている人は、一体何が目的なのでしょう？碇さんの話だと、ターゲットになった人が何かしらの能力を有しているかどうかを見極めてる…って事でしたよね？」
「碇サンの推測ですと、そう言う事でしたね。ただ、それが能力そのものを本人が欲しているのかどうかは不明ですが」
「どう言う事かしら？」
メイカにそう言葉を返した司録へと視線を注ぎ、シュラインが胸の前で腕を組む。司録は一つ頷き、言葉を続けた。
「やり方は確かにロマンティックで如何にもな感じですが、結構強引な部分もあるようです。…相手の生死を問うてないような所がね」
「そうですね、雪の結晶は、凍り掛けている三下さんを起こしたりするような気配はありませんでしたから。あのまま放置されれば、確実に三下さんは…」
「こ、怖い事言わないでくださいぃ〜」
アトリの静かな声に、三下がまた泣き言をほざく。ごめんなさいね、とアトリに苦笑され、立ち直ったようではあったが。
「それでもまだ凍死者が出ていないと言うのだから、それは単なる幸運なのか、それともやり方は乱暴だけど、対象者を死なせたくはない意志があるのかもしれないわね」
「対象者を死なせたくない、って事は、その人自身が目的…と言う事かしら？」
尋ね掛けたイヴに、シュラインが頷いた。
「かもしれない、と言う話なだけよ。一体何の為に、こんな事をしているのかが分からないもの、でも、その目的をある程度絞る事で、相手がどこに潜んでいるかの見当が付きそうだと思って」
「確かに、もし対象者そのものが目的である場合、あまり遠い場所で潜んでいては、手に入れる前に本当に凍死させてしまうかもしれませんからなぁ」
くつくつと喉を鳴らすようにして、司録が笑う。
「わたしはまた、誰か特定の、と言うよりは女性そのものを広く対象にしている事から、何か女性に関する研究でもしているヒトが犯人かもとも思ったのよね。で、三下さんみたいに、男性を捕まえちゃったら、そのまま放置しとく、とかね」
そう言うイヴの傍らで、また三下が滂沱していた。そんな三下の頭をよしよしと撫でながら、更にイブが言葉を続ける。
「どっちにしても、そんなんで女性を構う事しか出来ないなんて、きっとモテない男の仕業よね！」
〜２〜
さて、メンバーはまずは例の丘へと向かった。この日も相変わらず、例年より遥かに寒い日で、朝からずっと雪が降り続いている。まだ夜には早い時間なのに、空はどんよりと暗く重苦しい。皆、暖かい格好をしているので寒さは然程には感じないが、それよりは、どこかから観察されているかもしれないと言う思いに、精神が緊張して張り詰めている様だ。
「さて、辿り着いたけど、どうしましょう？どっちにしても例の結晶が現れない事には何もしようがないわね」
イヴが辺りを見渡しながらそう言う。同じように皆が辺りに視線を巡らせてみるが、めぼしい物は何もなかった。そんな中、メイカが皆の顔を順番に見詰めながら静かに口を開く。
「とは言え、このままここで待っていても埒が開きません、それに、結晶が実際に現れてからでは遅いような気もするんです。前回、結構すぐに結晶は消えてしまったような気がしますから。ですから、地理条件などからある程度場所を推測して捜索してはどうでしょう？」
「私もその意見には賛成だわ。ここは開けていて遮る物もあまりないけど、ここを見渡せる場所って言うと結構限られる筈。…勿論、相手が完全に念波的な能力のみでサーチしてたら意味がないかもだけど」
苦笑いと共にシュラインがメイカに同意をした。そんなシュラインへと視線を注ぎつつ、アトリが言った。
「もしそうであっても、ここから凄く遠い場所に居る訳ではないと思うから、全くの無駄にはならないと思うんですけど…」
「そうね、それに能力者が己の能力だけでこれまでの事を操作しているのだとすれば、かなりな精神力が必要だと思うの。そうすると、それなりに地場の力やなんかも利用していると思うのね」
「或いは、結界を築いて力が漏れないようにしているとか、力を増幅させるような印を結んでいるとか…それであれば、気配がしますから、容易に分かるでしょう」
イヴと司録が続けてそう言うと、皆が納得したよう、一つ頷く。
「じゃあ、私とメイカちゃんで周辺のめぼしいところを調べてみるわ」
「では、その間にこちらでは雪の結晶を何とかして呼び出し、何かしらのアクションを起こしてみましょう。そうすれば、そちらでも何か変化があるかもしれませんからな」
「…と言う事は、やはり僕の出番なんですね…」
少々遠い目でそう呟く三下に、全員がまたも力強く頷いた。
〜２´〜
シュラインとメイカは一旦丘から離れ、もう少し高台にある場所へと移動する。そこでシュラインが事前に購入してきた、この辺り周辺の地図を広げてみる。
「電波的なものにしろ、念波的なものにしろ、そう言った波動を一定の強さで発信し続ける為に、もしかしてアンテナのようなものを建てている可能性も考えたのよ」
「そうですね、大規模なものなら目撃者も多いでしょうし、そうでなくても見慣れないものがある…程度にでも覚えている人はいるかもしれませんね。…ですが、もしもそう言った施設を利用する訳でもなく、ただ己の能力だけでこれらの事を行っていたとすると…」
「相手はかなり強大な力を有している、って事になるわね。そうすると、少々厄介ね…」
そう呟くシュラインの言葉に、メイカも同意して頷く。コートのポケットから携帯電話を取り出すと、フラップを開いた。
「ちょっとインターネットの地域情報を調べてみますね。ＧＰＳ機能も付いてますから、それで幾つかポイントを絞って地図にチェックしてみましょう。一覧があった方が、予想も付きやすいですものね」
「お願いするわ。私はこのあたりの事情に詳しい人に話を聞いてみる。最近、妙な工事がなかったか、妙な建造物を見なかったか、って」
シュラインも携帯電話を取り出し、メモリーを呼び出す。二人はお互いに携帯を操作しているが、一人は無言で液晶画面を見、もう一人は耳元に宛がって会話をしている、と言う不思議な光景であったが。
暫くの時が過ぎ、メイカがぱたんと携帯のフラップを閉じる。赤いサインペンで開いたままの地図の一箇所にぐるりと丸を描いた。それとほぼ同時、シュラインが何件めかの通話を終え、同じように携帯を閉じた。
「これで終わり、っと…メイカちゃんの方も、幾つか絞り込めたみたいね？」
「ええ、地理条件から、あの丘を臨める環境にある場所と、何かしらの気が高まっている場所…、そんな感じで検索を掛けてみました」
「私の方も似たようなものね。…で、その結果がコレ、と」
シュラインが改めて地図を覗き込む。メイカもその隣に並んで地図を見た。地図上には、シュラインが描いた青い丸とメイカが描いた赤い丸が幾つか散らばっている。大抵はバラバラの位置なのだが、ひとつだけ、青い丸と赤い丸が重なっている場所があった。
「…ここが一番怪しいわね」
「私の情報とシュラインさんの情報が重なっているところですものね。信憑性がより高いと言う事でしょう。…ここに行ってみますか？」
メイカがそう言うと、シュラインも頷いた。
「そうね。その間に、あちらから何か連絡があるかもしれないしね？」
二人は頷きあうと、地図を畳んでコートのポケットに入れ、その場を後にした。
やがて二人がその場所―――それはあの丘から程近い、一軒の雑居ビルである。一階には何軒かのテナント用になっているが、今は一軒も入っていないらしい。二階より上も、郵便受けを見ると表札が掛かっていない所が多く、これは空室になっているか、或いはおおっぴらには出せないような事をしている者が借りているか、のどちらかだろう。
「どうしましょうね、先に乗り込む訳にはいかないと思うんですが…」
「そうね、どうせなら応援があった方が………あ」
言い掛けたシュラインだが、その時、メイカの携帯から着信メロディが流れたので口を噤んだ。メイカはフラップを開けて通話を開始する。液晶画面には、イヴの名があった。
「もしもし？…はい、……え、雪の結晶が？…ええ、こちらも今は特定した場所に来てます……ええ、……はい……分かりました、じゃあこのまま待ちますね」
「何って？」
メイカは携帯の通話を繋いだままで、シュラインの方を向いた。
「凍り掛けた三下さんの元に、例の雪の結晶が現れたそうです。なので、皆さんこちらに見えるそうです、イヴさんのテレポ能力で」
そうメイカが答え終わる前に、彼女らの目の前で空間が縦に引き裂かれて狭間を覗かせ、そこから三人が姿を現わした。受信したままの携帯の電波を頼りに、イヴが司録とアトリを運んできたのだ。
「うわぁ、…凄いですね、私、生まれて初めてです、こんな不思議な感じ！」
「全くです。いや、長く生きては見るものですな」
異世界干渉による空間移動を体験して興奮気味のアトリと、言葉はそれでも全くそうとは思えない司録に、イヴが軽く声を立てて笑った。
〜３〜
結晶を内へと取り込み、司録が得た情報を元に、皆はビルの最上階へと向かう。そこは完全な廃屋と化しており、扉も蝶番が片方壊れて傾いているような有様だ。廊下には物が散らばって埃まるけ、到底人が居るような感じではないのだが…。
ここね、とイヴが壊れた扉をそっと開けようとする。が、もうひとつの蝶番も壊れていたらしく、少し引いただけで扉は完全に壁から離れ、凄い音を立てて床へと倒れた。もうもうと舞い上がる埃に噎せつつ、皆は床に寝転がった扉を踏み付けたり飛び越したりして、室内へと足を踏み入れる。イヴが、自分が扉を開けて壊した罪悪感？からか、顔を顰めて呟く。
「…ったく、扉ぐらいはちゃんと直しておいて欲しいわね」
「それは申し訳ありませんでしたね」
不意にそう答えが返って来て、皆に緊張感が走る。やがて舞い上がった埃の煙幕も収まり、部屋の真ん中に一つの書籍机と椅子、その傍らに立つ一人の男性の姿が現われた。
男性は、年の頃は二十代後半から三十代前半といったところか。一見すると、取り立てて特徴のない普通のサラリーマンに見えるが、見る者が見れば、彼が発する気のようなものが、渦巻く程に強い波動を持って発せられている事に気付くだろう。しかもそれは、彼が意図的に抑えてその程度、であると言う事も。
「動じないわね。もしかして、ここに居ながら全てお見通しって事かしら」
シュラインが腕組みをしてそう尋ねると、男は口元だけで笑う。一番端のアトリから順番に皆の顔を見ていき、最後に司録へと視線が止まると、急に不満げな表情になった。
「折角の花畑を、土足で荒らされた気分だ。さっきも、妙な男に引っ掛かってしまったが…まさか囮だったとは思わなかったが」
「これはこれは失礼。きっと私の日頃の行いが良かったのでしょう。仕事とは言え、こんな華やかな女性方に囲まれるとは」
「司録さん、冗談言ってる場合じゃないですよ」
わざと恭しいお辞儀などしてみせる司録に、アトリが苦笑いをした。
「何かその口調ですと、やはりあなたの目的は女性を対象にしていたのですね」
メイカの問いに、男はひとつ頷いた。
「基本的に、男より女の方が精神力は強い。したたかであったり強情であったり、いろいろな形はあれど、ね。だから女性を対象にしていたのだが、それ以前に…」
「それ以前に？」
男の言葉を繰り返しすイヴに、男は両手を左右に大きく開くと、満面の笑顔でこう言った。
「ボクが、何より女性が好きだからさ！」
「……………」
思わず絶句したメンバーだが、一足先に立ち直ったシュラインが、眉間に皺を寄せて米神を指先で押さえながら言う。
「……まぁ、あんた男だから、それは至ってフツーの感覚かもしれないけどね。でも、だからってあんな回りくどいやり方で、一体何を求めていたの？」
「回りくどいとは失礼な。あれはあれでも、ボクの美学なんだけどね」
「美学だなんて、それで人が死の危険に晒されたとしても平気だったのですか？」
やや憤った声でアトリがそう言うと、その厳しい表情をじっと見詰めていた男が、ふいにほわんと表情を崩した。
「…やっぱり、美人は怒った顔も美人だねぇ……」
「………は？」
思わずかくりと顎が外れそうになるアトリを、隣のイヴが肩を叩いて慰める。すると、その様子を見ていた男が更に嬉しそうな顔をした。
「美人同士で絡んでるのもいいねぇ…そちらのオネーサンも素敵だし、そちらのお嬢さんも素敵だ。いやぁ、至福の時だなぁ！」
「……………」
どうしようかこの馬鹿、と言うように女性陣が顔を見合わせる中、ここは自分が話した方がいいのだろうと、司録が男の方を向いた。
「…で、どうしてあんな事をしていたのか、説明ぐらいはして貰えるんでしょうね？」
「そうだな。折角ここまで、美人を四人も連れてきてくれたんだから、話してあげてもいいだろう」
女性相手の時と随分態度は違うが、まぁいい、と司録は口端で嗤う。
「死の恐怖は、人を極限まで追い込む。それは、その者が潜在的に持つ力を最大限まで具現化させる事もあるが、だが、恐怖から生まれ出た力は、得てして歪んだものになってしまうことが多い」
男は、デスクに寄り掛かって皆の顔を順番に見た。
「凍死と言うのは、死の中でも一番と言っていい程、楽に死ねる方法だ。だから、人の中に恐怖が生まれる事は少ない。しかも、死の間際、本能的な危機感からか、能力が開放される事があり、それは無意識下で行われる事から歪む事もなく、真っ直ぐで素直な力が見られると言う事だ」
「それで、それを見てどうするつもりだと仰るのかしら？」
メイカが静かな声でそう問い質すと、男はまた緊張感のない表情へと戻ってしまった。
「見て楽しむんだよ、お嬢さん」
「……ふざけて無いで、ちゃんと説明しなさいよ」
シュラインがキツい眼で釘を刺す。怒られた筈なのに、何故か男は嬉しげだ。
「はい、ごめんなさい。冗談デス。…見て楽しいのは事実だけど……」
「…楽しいんですか？」
アトリがふと尋ねると、男がこくこくと頷く。
「霊能力、超能力、果ては並外れた身体能力、歌唱力や演技力。『力』と一言で言ってもいろいろあるんだけどね、それをボクが見るといろんな色でいろんな波長で見えるんだ。それはオーロラのように光り輝くものもあれば、澄んだ湖の漣のようなものもある。…綺麗なんだよー」
「…そ、そうですか」
「で、まぁ本音は、それらの中からボクの目的にあった力を持った人を捜してるのさ」
「目的…ですか？」
それは何、と無言で問うたメイカに、男はにっこりと微笑みかけると、
「ナイショ」
と、一言だけ答える。それを聴いたメイカが、表情も変えずに携帯から得た電子情報を具現化したバリアを作り、男を補完しようとした。が、そのバリアは難なく破られる。と言うよりは中和されたように感じた。
「…今、何を……？」
「ボクの『力』は、他人の能力を見分ける事と、それらを中和して無効化すること。ある意味無敵だけど、だがボクには攻撃力がない。…そう言う事」
分かった？とにこやかに（女性陣に）微笑みつつ、男は空間に、振り下ろした手刀で穴を開けた。
「あ、それと空間移動も出来るかな。あんま得意じゃないけどね」
んじゃねー♪、と投げキスなど贈って、男は姿を消した。裂け目が元に戻り、舞い上がった埃がまた落ち着いた頃、シュラインが溜息を零した。
「…最後の最後までふざけた男だったわね」
「ナイショ、ですって。やっぱりモテない男なんじゃないの？いやーね」
イヴが鼻の頭の皺を作ってそう言うと、メイカがくすりと小さく笑った。
「あれで、目的は世界征服…とか言い出さなければいいんですが」
やれやれ、と司録が苦笑いを口の形で作う。ふと、アトリが立てた人差し指を頬に宛がってぽつりと呟く。
「…そう言えば、三下さん…あの場に残したままですけど、…大丈夫かしら……？」
あ。と皆の口があの字の形になった。窓の外を見れば、更に激しくなった雪が、まるで自棄のように吹雪いていた。
おわり。
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■ 登場人物（この物語に登場した人物の一覧） ■
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【 0086 ／ シュライン・エマ ／ 女 ／ 26歳 ／ 翻訳家＆幽霊作家＋草間興信所事務員 】
【 0441 ／ 無我・司録 ／ 男 ／ 50歳 ／ 自称・探偵 】
【 1548 ／ イヴ・ソマリア ／ 女 ／ 502歳 ／ アイドル歌手兼異世界調査員 】
【 2165 ／ 梅田・メイカ ／ 女 ／ 15歳 ／ 高校生 】
【 2528 ／ 柏木・アトリ ／ 女 ／ 20歳 ／ 和紙細工師・美大生 】
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■ ライター通信 ■
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まずはお待たせしました！雪の欠片２をお送り致します。皆さま、この度はご参加ありがとうございます。ライターの碧川桜です。
と言う訳でシュライン・エマ様、お久し振りでございます、またお会い出来て光栄です！
なんだかすっかり春になってしまいましたが(汗)、まだまだ寒い日が続きますので、そんな感じ（どんな）でお読み頂ければいいかなぁ、と…。少しでも楽しんで頂ければ幸いです。
ではでは、またお会い出来るのをお祈りしつつ、今回はこれにて〜。
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