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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


幽霊達の卒業式

○恒例行事?
 神聖都学園にも卒業式を迎える季節となった。
 学校内は新しい学期に備えての準備や進級、編入、新入学手続きなどで忙しい最中。学園の教師達はもうひとつの事で頭を悩ませていた。
 ここ神聖都学園は怪奇現象が起こるということで巷の噂になっている。そのためか、卒業式など人が集まる時に限って霊現象が活発化するのだ。
 彼らに大人しくしてもらうため、学園では毎年鎮魂祭と称した霊の浄化の儀式を行うことが例年の行事となりつつある。今年も授業の合間を縫って、準備がすすめられていた。
「先生、まだ卒業式は先なのになんで体育館で式の用意をしてるんですか? それに……壇上に神棚とかあるし……」
 何も知らない1年生達が不思議そうに問いかける。教師達は脅えさせないよう言葉を選びながら、彼らに事情を説明した。
「この学園にいる以上、幽霊達も立派な生徒でしょ。彼らもちゃんと卒業式をしてあげなくちゃ不公平だわ。そのための準備をしているのよ」
 霊の存在を信じない者にとっては何とも奇妙な話にしか聞こえないが、この学園でそれを疑問に思うものは少ないだろう。問いかけてきた生徒達もなるほど、と興味しんしんに会場を眺めていた。
「私達も協力していいですか?」
「ええ、勿論。当日のお手伝いをしてくれるととても助かるわ。でも、くれぐれも注意してね……霊達を興奮させすぎたりしたら、あなた達の命が危ないかもしれないから」

●お手伝いします
「えっ、今日卒業式?」
 卒業記念のお菓子を売り込みにきていた相澤・蓮(あいざわ・れん)は思わず自分の耳を疑った。
 確かこの学校の卒業式は明後日だったはず……確かに体育館には座席がずらっと並べられていたし、生徒達も忙しそうに右往左往している。これは日にちを間違えたか、と蓮はがっくりと肩を降ろした。
「それじゃあ……今さらこの菓子を売りにきても……意味ないか……」
「いえ、そんなことはありませんよ。卒業式といっても、この学園にいる霊達の、です」
「霊!?」
「……この学校にきていらっしゃる業者さんなら……知ってると思ったんですが……」
 この学園にまつわる不可思議な現象は蓮も耳にはしているが、それを当たり前のように学園が受け止めているとまでは気付かず、蓮は驚きを隠せないでいた。
「今人手が足りないんです。もし良かったら手伝ってくれませんか?」
「あ、ああ……いいとも! それにしても霊達にも卒業式をしてあげるとは泣ける話だねぇ」
 すっと蓮は涙を拭い取るそぶりをする。結構涙もろい質らしい。
「私達だけというのは不公平ですし、定期的に一気に浄霊してしまえば学園の安全も守れる……先生はそうおっしゃってましたよ」
「よし! 俺で良ければ何でも手伝うぜ! どんどん言ってくれ!」
 とん、と胸を叩き、蓮は頼もしい笑顔でそう言った。

□安らぎのピアノを奏でるために
 ポーン……
 清らかなピアノの音が、広い体育館の中に響き渡る。
「ふぅ……これで完璧ね」
 鍵盤用のクリーナーを含ませた布で丁寧に鍵盤を拭き、硝月・倉菜(しょうつき・くらな)は満足げな顔で笑顔を浮かべた。
 式の準備は殆ど終わっている。卒業生(?)を除いたリハーサルは前日済ませていたし、後は本番を待つばかりだ。
 ざわざわと人の気配を感じ、倉菜は丁寧にピアノの蓋を閉めた。
 本当はもう少し練習をしていた方がいいのだろうが、これ以上ここにいるのは逆にスタッフに迷惑となるだろう。
 作業の邪魔にならないように注意を払いながら、倉菜はそっと裏口の控え室へと向かっていった。
 
□式の準備
「新卒業生はこちらの門を抜けていってくれ。ああ、そこの装束姿のあんた、入り口はこっちだ。皆からはぐれるんじゃないぞ」
 三つ編みにスーツ姿の出で立ちをした真柴・尚道(ましば・なおみち)はてきぱきと「卒業生」達に指示をいれていく。
 彼らは術者達に導かれて鳥居で作られた会場入り口へと順番に入っていった。ふわりふわりと鳥居の門を通り抜けていく様は異様な光景に思えるだろう。もっとも、霊達の存在を目視出来なければの話ではある。何も見る事も感じる事も出来ない生徒達の目には、この光景は「無気味に並ぶ鳥居に向かってぶつぶつ言っている集団」としか見えないのだから。
 一応、鳥居でつくったトンネルで卒業生達が迷わないようにしているものの、尚道のようにはっきりと霊を認識できる者は少ないため、整理は困難を極めている。
 駄々をこねる霊を案内している尚道の方にぽんと手が乗せられた。
 振り返る尚道に蓮が缶コーヒーを手渡しつつ、さり気なく言った。
「そろそろ交代の時間だ。向こうで休憩してきてくれ」
「まだ疲れちゃいないぞ。それに……こいつらの世話をやれるのか?」
 尚道のいらだちが霊を敏感にさせているのか、早くも霊達の列が乱れはじめていた。尚道はすぐさま、霊達に意識を集中させて、迷子が出ないよう指示を始める。
「まだ疲れてないし、あんたは他の奴と交代してやってくれ。俺はもうちょっとここにいるよ」
「分かった。あんまり無理しないようにな!」
 背中を軽く叩き、蓮はかけ足で会場の中へと入っていった。
「中の事を考えると……休憩してる余裕ないよな」
 ここが終わったら蓮の後を追いかけるか、と思いながら。尚道は再び担当の仕事に意識を集中させた。

□卒業式
 会場内は外程の大きな混乱もなく、入場は静かに行われていた。
 倉菜の奏でるピアノの音楽が優しく場内を包み、入るまで暴れていた霊達もピアノの音を聞いた途端に大人しく着席していった。
 全員が着席したことを確認し、浄霊役の生徒会長が式の始まりの宣言を告げる。
「これから平成15年度神聖都学園卒業式を行います」
 今回卒業生として参加している者は、毎年やってくる常連を含めて40名。そんなに多くはない。そのため、1人1人の名前を呼び、きちんと手渡しで卒業証書を渡してあげられた。
 証書を持つ事が上手く出来ず戸惑う場面もあったが、在校生として参加していた生徒達に助けられ、式そのものは順調に進められていた。
 証書を受け取った霊達には、蓮の計らいで小さなポン菓子が配られた。冥土を旅する道中、腹が減らないように、また今日と言う記念すべき日のお祝いを込めているのだという。淡い桃色に染められた半透明の不織布に包まれ、まるで桃の花がそのまま菓子になったような愛らしさの菓子を大事そうに受け取り、卒業生はそれぞれの懐にそっと納めていた。
 
□招かざる客
 式が半分程すぎた頃だ。そろそろ退場の準備をするために、尚道と蓮は席からさりげなく離れた。
 不意に調子外れのピアノ音が響き、突然演奏が止まった。
 ざわめく会場内を静めようと、生徒会長が案内のアナウンスを始める。その隙に尚道と蓮が倉菜の元へ急ぐと、彼女は左腕を押さえたまま、ピアノの前でうずくまっていた。
「どうした!?」
「……腕に……誰かが……」
 見ると彼女の腕は紫色に腫れ上がり、無気味に鼓動している。まだ自由のきく右手で演奏続けようと試みるも、鍵盤を打つ度に痛みが彼女の全身を走り抜けた。
「じっとしていろっ……! 無理はするな!」
 尚道は倉菜の腕を取り、そっとはめていた指輪を患部に触れさせた。バチッっと青い閃光が走り抜け、何かがこげる嫌な匂いとともに、真っ白い何かが倉菜の腕から飛び出してきた。
「そいつを捕まえろ!」
「え、ええいっ!」
 蓮は持っていたお菓子の袋ですっぽりと白い雲状の物を包み込んだ。暴れ出ないようしっかりと口をしぼり、やれやれといった風に大きく息を吐きだした。
「式の邪魔でもしようとしたんだろうが……あいにくだったな」
 暴れる袋をじろりと睨みつけ、尚道はそう言葉を吐き捨てた。
「びっくりしたわ……急に入ってくるのだもの」
 倉菜はまだ少ししびれる左腕をしきりにさすっている。憑かれたのがほんの一瞬だったため、身体には殆ど影響は無い。しびれさえ取れれば、また演奏は出来るだろう。
「これ、どうする?」
「このまま置いといたらまた暴れるかもしれないしな。こいつだけ先に成仏させておくか」
 卒業生の席を見たところ、全て席は埋まっている……恐らく、人間の活気に引き寄せられてどこからか迷い混んだ浮遊霊か精霊の類いなのだろう。ここに置いていては他の霊達に影響を及ぼすだろうから、混乱が起きないうちに処理しておくのが先決だ。
 そう判断し、会場の真ん中にある社へ持っていこうとした蓮の腕を倉菜が引き止めた。
「待って。その子も……この学校の関係者じゃないの? それだったら式に参加させてあげるべきよ」
「こいつはお前を襲ったんだぞ。今は大人しいかもしれないが、また誰かに取り憑くかもしれない。そんなのを一緒にさせたら他の霊達が迷惑するだけだ!」
「分かってるけど……無理矢理追い出されるよりは、自主的に昇天したほうが良いはずよ。ほら、生徒会長さんも気にしてるわ。早く席に着かせて、続きを始めましょ」
 そのこの面倒をお願いね、と言葉を付け加えて、倉菜はピアノの伴奏を再び始めた。
 再び、会場を清浄な気と穏やかな雰囲気が包み込む。ホッと安堵の息をもらして、生徒会長は再び式の再開の挨拶をマイク越しに全員に伝えた。
 お互いの肩をすくめて、蓮と尚道は視線を交わし合う。
「ま、あと10分だし、それぐらいなら……この布ももつかな」
 こういう場面も想定して、蓮は菓子袋の内側に封印の札を貼付けていた。それが本当に役立つのに嬉しい反面、少し複雑な気分だった。
「もし抜け出したら……俺が取っ捕まえてやるよ」
 じろりと袋を睨みつけつつ、尚道はさらりと言う。その言葉の中に含まれた殺気を感じたのか、暴れていた袋は途端に大人しくなった。
「よし、その袋はあんたに任せた。俺は鳥居の出口の手伝いに行ってくるよ」
 言うが早いか、尚道は素早く裏口から会場の外へと飛び出していった。
 今日の儀式の本当の目的である、浄霊作業の下準備を手伝うらしい。大量の霊を一気に浄霊するのだから準備にそうとうな手間がかかる。もし、術からもれた霊がいた場合、残さぬよう集め直さなければならない。そのためにも霊を目視できる尚道は貴重な存在だ。
「やれやれ、面倒な事になったな」
 参加させてはと言われたものの、こんな袋に入った状態では参加させようがない。
 ごそごそと動く袋をとりあえず抱え直し、蓮は自分の仕事の待つ、舞台裏へと向かっていった。

□退場行進
「それではこれにて卒業式を終了致します。在校生の方は卒業生を拍手でお送り下さい」
 朗々とした生徒会長の声が体育館内に響き渡る。一斉に拍手がわき起こり、桜の花びらにそっくりな紙切れが天井から舞い降りてきた。
 
ー……ああ、これで思い残すことはない……ー

 1人、また1人と霊達はひとつの光となって空に昇りはじめた。彼らを縛り付けていた、この学校に残留していた想いが昇華され、いよいよ天へと召される時が訪れたのだ。
 それでもなお、その場に留まっている霊達は何人かいた。彼らは物理的に力をぶつけて浄化するしかない。鳥居の門をくぐらせ……その先に待っている術師達の手によって昇天してもらおうという計画だ。
 生徒達に導かれて、霊達は赤い鳥居の並ぶトンネルへと案内されていく。
 彼らの表情には卒業式をしてもらった喜びと、この学校から別れを告げなくてはならない哀しみが入り交じったような色が見えていた。せめてその先にある浄霊術で痛みが起こらぬよう……生徒達は鳥居に吸い込まれていく霊達を見送りながら、心の中でそっと祈らずにはいられなかった。
 
□事故と逃亡者
「これぐらいでいいかー?」
 蓮は大きなざるを抱え、ゆっくりとそれを左右に振っていた。ざる一杯に入れられた桜の花びら……に切り取った桃色の紙切れは、はらはらと下の会場へと降り注いでいる。
「あ、もうちょっと降らしてもいいですよ」
「了解……っと」
 もう少しバランスを整えるために、と体制を変えようとした蓮は、逆にバランスを崩して危うくその場から転がり落ちそうになった。
「あ、アブねー……」
 何とかざるを抱え直し、蓮は再び作業に取りかかった。
 ふと、傍らにおいていた物がないことに気付き、一瞬にして顔を青ざめる。
「ま、まさかっ!」
 蓮の予感は当たっていた。先程捕まえていた浮遊霊を詰めた袋はゆっくりとした速度で天井から落ちていた。固く締められたひもがほどけ、中に詰められていた霊がするりと飛び出して来てしまった。
 霊は少しの間宙をさまよっていたものの、仲間の気配を感じたのか、一気に鳥居へと飛んでいった。
 異常に気付いた倉菜はピアノ演奏を止め、素早くバイオリンを具現化させて音を奏ではじめた。
 高らかに激しい音色が体育館内に響き渡る。それと同時に霊の動きが止まり、その場に凍り付いたかの如く身動きひとつしなくなった。
「最後のチャンスよ……還るべき場所へ戻りなさい!」
 曲調を少し柔らかくさせ、倉菜は優しい微笑みを浮遊霊に向けた。
 それを察したのかは不明だが、霊はくるりとその場を一回転した後、宙へ溶けるように消えていった。
「ごめんなっ! 大丈夫だったか!?」
 桜の花びらを体中につけた蓮があわてて駆け降りてきた。
 息を切らす蓮とは対象に、倉菜は落ち付いた笑顔でにっこりと蓮を迎えた。
「ええ、もう大丈夫です」
 
□霊達の卒業式を終えて
 その後、尚道達が担当していた浄霊術も無事に終わり、今年も霊達を無事に成仏させることが出来た。
 清めの儀式を行い、体育館を清浄にした後、すぐさま本当の卒業式の会場へと設置が替えられてた。
「落ち付かないな……1日2日ぐらいそのままでも良いんじゃないか?」
 机を軽々と持ち上げながらも、尚道は不満そうな言葉をもらす。
「そうもいかないわ、だって卒業式まであと1週間もないし、リハーサルだって行わなくちゃならないんだもの。さ、文句を言ってないで体を動かす!」
「はいはい……」
「そこのお二人さーん、お茶の差し入れがはいったので、休憩にしませんかー」
 椅子を丸く囲んで、座談会状態になっている輪から蓮の声が聞こえてきた。
 輪のすぐ傍らに大きな段ボール箱が見える。恐らく卒業式に出すお菓子の品評をしてもらっているのだろう。
「ま、休みも必要だよな」
「しょうがないわね……」
 机をその場に置き、2人は蓮と生徒達の元へと急いでいった。
 
 寒い季節がようやく終わりを迎え、暖かい風と共に花の香りが学園内を駆け抜けていた。
 時は3月。
 出会いと別れの季節である。
 
 おわり
 
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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 2158 /真柴・尚道/ 男性 / 21 /フリーター
                      (壊し屋…もとい…元破壊神)
 2194 /硝月・倉菜/ 女性 / 17 /女子高生件楽器職人
                      (神聖都学園生徒)
 2295 /相澤・ 蓮/ 男性 / 29 /しがないサラリーマン
 
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■         ライター通信          ■
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 大変長らくお待たせ致しました。
「幽霊達の卒業式」をお届け致します。
 〆きりぎりぎりになってしまい、申し訳ございませんでした。段々書く早さが鈍行列車になってますね……はは……(汗)
 
・相澤様:ご参加有り難うございました。お望み通り使いっ走りにさせていただきました(笑顔)裏方というは……地味だけれど重要なお仕事なんですよね……ちゃんとお菓子の売り上げもあったので、会社には怒られませんよ、きっと。

 学園ものはこれからも時折、季節の行事に絡めて依頼を出そうと思います。
 もし、見かけましたらその際は、どうぞよろしくお願い致しますね。
 
 それではまた別の物語にてお会い致しましょう。
 
 谷口舞拝