コミュニティトップへ
高峰心霊学研究所トップへ 最新レポート クリエーター別で見る 商品別一覧 ゲームノベル・ゲームコミックを見る 前のページへ

<東京怪談ウェブゲーム あやかし荘>


地下へ誘う石階段
●オープニング【0】
「ねえっ! 庭から変なのが出てきたんだけどっ!」
 子供の妖狐・柚葉はそう言って、あやかし荘の管理人室へパタパタと駆け込んできた。
「変なの?」
「来て見てみれば分かるよっ!」
 管理人である因幡恵美は、柚葉に手を引っ張られて庭へ向かうこととなった。するとそこにあったのは――。
「石の階段?」
 目をぱちくりとさせる恵美。庭にあったのは地中へ続く石階段と、掘り返してこんもり山盛りになった土。
「穴掘り勝負してたら、こんなの見付かったんだよっ!」
 柚葉が石階段を指差して言った。……というか、穴掘り勝負って何ですか?
 その場に居た他の者たちに話を聞くと、妙な物が見付かったので勝負を中断して掘り返してみたら、これが見付かったのだという。
 石階段はおよそ3メートルの深さまで続いており、突き当たりには石の扉があった。石の扉には別に模様だとかは彫られておらず、お札だとかそういった類の物もない。
「でも何でこんな物があるのかな?」
 恵美が首を傾げる。けれどもそれを知る者はこの場には居ない。
 結局、調査隊を組織して中を調べてみることに決まった。
「ところで、誰が行くんですか?」
 恵美が周囲を見回した。……行ってみる?

●議論・野次馬・下調べ【2】
「えっ!? 待ってよぉ……祀ちゃんっ」
「あー、ほらほら沙羅、そんなに怯えなくても大丈夫だって」
 石階段について議論が交わされていたあやかし荘の庭に、学校の制服姿――セーラーのワンピースにベレー帽だ――である少女が2人入ってきた。ともに鞄を手にしているということは、下校途中であったのだろう。
 『祀ちゃん』と呼ばれた赤毛のポニーテールの少女(ちなみにこちらはベレー帽を被っていない)が、『沙羅』と呼ばれた小柄で少しウェービーなロングヘアの少女の手を引っ張っているという図だ。
「でもぉ……本当に行くの?」
 小柄な少女――橘沙羅がやや涙目になって、もう1人の少女に訴えた。
「大丈夫! 沙羅はあたしがバッチリ守ってあげるからね〜☆」
 会話からも分かるように、乗り気なのはポニーテールの少女――花瀬祀の方であることは明白だった。
 この2人が何故ここへやってきたのか。それはたまたまあやかし荘の前を通りがかった時、住人たちが石階段の話をしているのを耳にしたからである。で、興味を覚えた祀がそのまま沙羅を引っ張ってきた、という訳だ。
 庭では議論を交わす者やら、とりあえず石扉を調べてみようという者やらが集まっていた。もちろん中には単なる野次馬も居るのだが。
「あらあら……妙な物が出てきたものですねえ……」
 議論を交わしている者たちの輪に混じり、おっとりとそう言ったのは、教会のシスターである隠岐智恵美だった。40代くらいだからか、それとも職業ゆえか、落ち着いて穏やかな雰囲気を持っている女性だった。
 手に菓子折と玉露の茶葉が入った茶筒の袋を携えていた所からすると、たまたま訪れた時にこの騒動にぶつかったのであろう。
「ええ、本当に。子供たちがお世話になっているので、戴き物のお裾分けに伺ったのですけれど……それ所じゃない様子ですわね」
 ほう、と溜息を吐いたのは着物姿の美しき黒髪の女性、天薙さくらだった。見た所30歳前に見えるが、これで智恵美とn歳(nは自然数)しか違わないというのだから恐れ入る。
「そうなんですか。私も似たような所です。息子が迷惑をかけていますから」
 さくらの言葉を聞き、呼応するように智恵美が言った。しばし、ほのぼのとした会話が交わされる。
「んー……嬉璃ちゃんに聞いてみれば、何か分かるのかしら」
 シュライン・エマが、さくらと智恵美のほのぼのとした会話に割り込むように言った。
「嬉璃ちゃんは中?」
 恵美に尋ねるシュライン。しかし何故か恵美は苦笑いを浮かべた。
「あのー……言いにくいことなんですけど……留守なんです」
「はい?」
 シュラインの目が丸くなった。申し訳なさそうに恵美が言葉を続ける。
「ですから。朝会ったきり、どこにも居なくって……。歌姫さんも居ないし……どこ行ったのかなあ」
「あら、まあ」
 それに驚いたのは智恵美だった。
「どうしましょう、このお茶……」
 いや、心配する所が微妙にずれてます、智恵美さん。
 さて一方、石扉を調べている者たちはというと――。
「な、なんだこの穴ッ!? 階段ッ!? ……へぇ、階段があるってことは、きっと何か凄いものが隠されたりするんだろーな」
 穴を覗き込み、驚いたり感心したりしつつ、調べている者たちの周囲をぐるぐると回っているのは、営業スーツに身を固めたサラリーマンである相澤蓮だった。見た目は妖艶でクールさがあり、なかなかいい男である。
 手には営業鞄とお菓子が詰まったコンビニ袋。いつものようにあやかし荘に遊びに来て、今回の騒動に出くわしたのである。……とゆーか、仕事はいいのか、営業マン。
「罠はなさそうだし、呪いが施されている様子はないが……そっちはどうだ?」
 石扉をあれこれと調べていた真名神慶悟が、別のことを調べていた九尾桐伯へ尋ねた。
「そうですね。隙間からガスが漏れている様子はありませんね。もっとも重いガスであれば、入ってみないことには分かりませんが」
 そう答える桐伯の手には、携帯型ガス検知器が握られていた。ガスが漏れていれば検知器が反応するはずだったが、今の所は反応していない。
「入る、か……。階段があり、戸がある。つまり出入りは可能。しかし、3メートルというのは結構浅い気がするんだが……何があるんだろうな」
 首を傾げる慶悟。石扉の大きさは人間はもちろん、ちょっとした大きさの荷物なら十分通りそうだ。いったい中はどうなっているのだろう。
「物置……?」
 ぼそっとつぶやいたのは、慶悟と桐伯の作業を穴の外から見守っていた少女、榊船亜真知であった。慶悟の顔に笑みが浮かび、桐伯の笑みが大きくなる。
「はは、物置だったら何も問題ないな」
 石扉をコンコンと叩いてみる慶悟。聞こえてくるのは鈍い音。それなりの分厚さはあるようだ。
「確かに。けれど、あやかし荘ですからねぇ……何が待ち受けているものやら」
 そう桐伯が言うように、ここはあやかし荘。何が出てきても不思議ではなかった。もしかすると、封印された妖怪かもしれないのだし――。
「ねえねえ、早く開けようよっ!」
 亜真知の隣に居た柚葉が、急かすように言った。誰も開けないんなら自分で開けてやる、暗にそう言っているようにも聞こえた。
「まあ待て。石の戸があれば、怪力がこじ開けるは神代の頃からのお約束……だったな」
 柚葉を窘めてから、慶悟は式神を召喚した。召喚したのは式神十二神将のうち、土縁に通じる勾陣と六合の2体だ。
 そして皆に穴から離れるよう告げて、慶悟は勾陣と六合に石扉を動かすよう命じた。特に何も仕掛けが施されていなければ、難なく開くはずである。
 事実石扉は難なく開いた。勾陣が隙間に手をかけると、そのまますっと石扉が横へスライドしたのである。拍子抜け、と言ってしまえばちょっとあれだが。
「ボクいっちば〜ん♪」
 石扉が開いたのを見て、一目散に駆け出す柚葉。真っ先に中へ飛び込もうと思ったのだろう。が、そうは問屋がおろさなかった。
 中からぬっと、顔を出した者が居たのである。
「ひゃあっ!!」
 びっくりし転んでしまう柚葉。中から顔を出したのは、戸隠ソネ子であった。
「……開イた……」
 ぼそりとつぶやき、辺りをきょろきょろ見回すソネ子。どうも誰も気付かぬうちに、中へ入っていたようである。
「扉……中カラ開ク……ミたイ……」
 中から這い上がり、ソネ子はそう言った。石扉が中から開くことが出来るということは、この中はやはり出入りするための場所なのだろう。

●地下世界へいざ行かん【4A】
「ガスは貯まってないようですね。それに……結構深いですよ、この中」
 鋼糸に括り付けた携帯型ガス検知器をするすると引き上げながら、桐伯が皆に言った。
「深いってどのくらいかしら?」
「少なくとも10メートルは」
 石階段の幅やら何やらを調べていたシュラインの質問に、さらっと答える桐伯。ちなみに石階段には、何か刻まれたり記されたり擦られたりした跡はなかった。
「ええっ、10メートルもっ? じゃあどうやって降りるのっ!」
 素頓狂な声を上げたのは祀だった。確かに10メートル以上の距離、どうやって降りるのか祀ならずとも心配になる。
「10メートルって……ロープなのかな……」
 祀はそうつぶやき、気遣うような眼差しを隣の沙羅へ向けた。沙羅はというと、とても不安げな表情であった。
「梯子……あっタカラ……」
 そんな祀に、先程まで中に居たソネ子が言った。
「梯子あるの?」
「鉄の梯子ありますよ。そばには……滑車でしょうかね、それが通るような溝が左右に1つずつ。荷物を降ろす時にでも、使用したのでしょうかねえ」
 桐伯が皆に聞こえるように言った。
「ともあれ、降りて捜索する前に安全の確認だな」
 そう慶悟が言い、勾陣と六合を先に中へ潜らせた。何か異変があれば、即座に慶悟に伝わる。
「捜索? そりゃ大変だな、頑張れ☆」
 他人事のように蓮は言い、慶悟の肩をぽんと叩いた。微妙に表情が強張っていたのは、気のせいということにしておこう。
 が、直後から蓮は思案に入った。何か思う所でもあるのだろうか。
「あやかし荘の歴史に詳しい方、嬉璃さんの他に居られますか?」
 蓮が思案している時、さくらは恵美にそんな質問をしていた。断片的な情報でも得られないかと考えたのだ。
「えっと……講談師の方なら、詳しいかも」
 少し自信なさげに答える恵美。それでもさくらはその講談師の部屋を教えてもらい、そちらへ向かっていった。
「ねぇ……祀ちゃん」
 沙羅が祀の制服の背中を、軽くくいくいと引っ張った。
「ん、何、沙羅?」
「沙羅こういうの苦手なんだけどな……本当に行くの?」
 ぎゅっと祀の制服を握り締める沙羅。親友の制服なり何なりを握ったりしていないと、不安で仕方ないのだろう。
「うん、行くよ。こんな面白そうなもの、見逃せるはずないじゃない♪」
 一方の祀の方は、楽しみにしているように見受けられる。そんな祀をじっと見つめる沙羅。そして何か決心したように、こう言った。
「祀ちゃんが行くって言うなら……沙羅も行くよっ!」
 祀を信じてついてゆこう、沙羅の言葉からはそう感じられた。感じられたのだが――。
「……本当に守ってくれる、よね?」
 それでも不安は拭い切れないようで。
「大丈夫☆ 何度も言ってるじゃない、沙羅はあたしが守ってあげるって」
 祀はそう言って、沙羅の頬を撫でるように軽くポンポンと叩いた。
「うん……そうだよね」
 えへ……っと沙羅が笑みを浮かべた。
 と、こんなやり取りがあった間に、蓮の思案も終わりを迎えていた。
「はっはっは、このお兄様も探索、付き合おうじゃないか☆」
 蓮は再度慶悟の肩をぽんと叩いて言い放った。先程の他人事の様子は、綺麗さっぱりと消え去っていた。
 その後、中の降りた所の安全が確認され、話を聞きに行ったさくらを残して、恵美や柚葉を含む総勢11人が中へ降りていったのだった。

●通路の印象【5A】
 一番下まで降りると、そこは石造りの通路が左右に広がっていた。左右各々、突き当たりで角に曲がる造りであった。
 通路の幅は3人が横一列に歩いても十分余裕があるほどだ。床から天井までは3メートルほどあり、狭いという印象はない。
 気温はというと、暑すぎず寒すぎず適温といった所。石造りにも関わらず、何故かほっとする温かさの漂う空間であった。
 そして何より不思議だったのは、通路が明るいのである。といっても、別に照明があるのではない。通路自体が、ほのかに光を放っていたのだ。おかげで用意してきた各種光源を、使用せずとも歩ける状態だった。
 一行は2つのグループに分かれ、通路の奥を調べることに決めた。その、右へ進んだグループの様子を見てみよう。
「あのね、祀ちゃん……」
「何、沙羅?」
 背中にしがみついて歩いていた沙羅のつぶやきに、祀は足を止めて振り返った。2人の前には慶悟とシュラインの、後ろには恵美の姿があった。
「……祀ちゃんも本当は怖かったりして……」
「……え? あたし?」
 勝ち気そうなぱっちりとした瞳を、ぱちぱちと瞬きする祀。戸惑いの表情を浮かべる。
「だって……さっきから祀ちゃんの心臓の音すごく早いよぉ?」
 心配そうに祀の顔を見上げる沙羅。
「あ、あたしは怖くなんてないよっ! き、きっとわくわくしてるからそうなってるんだって!」
 間髪入れずに祀が答えた。それを聞き、シュラインがくすっと笑った。
「なっ、何笑ってんですかぁっ!?」
「あ、ごめんなさい。よーく観察してるなって、思って……ね」
 祀の抗議の声に、シュラインが笑いながら謝った。それからすぐに表情を引き締め、手にした方位磁石に目を落とした。
「それにしても、ぐるぐると回ってるわねえ……釣り糸足りるかしら」
 いざという時に辿って戻れるよう、シュラインは梯子の所に釣り糸を結び付けておいたのだ。
「一本道だからまだいいけど。たぶんこれ、とっくにあやかし荘の真下に入ってるわよ?」
 方位を確認しながら歩いていたシュラインが、そうつぶやいた。通路がぐるぐると入り組んでいたため、多少位置感覚はずれてしまったが、今あやかし荘の真下を歩いているであろうと推測していた。
「妙だ」
 先頭を歩いていた慶悟が不意に口を開いた。傍らには勾陣と六合も控えている。
「何がですか?」
「この通路は霊的に安定していて……穏やかで敵対心がない。まるで何かを護るための……」
 恵美の問いかけに慶悟はそこまで答え、今度は逆に質問を投げかけた。
「あやかし荘の先人が何か……色んな意味でとんでもない物を隠した、とか。そういう話は聞いていないか?」
「いえ。あたしは何も聞いてませんけど……」
 首を横に振る恵美。
「嬉璃ちゃんが居れば、その辺の事情も分かるんでしょうけど。どこ行ったのかしら」
 溜息を吐くシュライン。本当に、嬉璃はどこに行ったのやら。

●9×9【6A】
 さらに5人が一本道の通路を歩き続けていると、ようやく部屋らしい所へやってきた。扉はなく、通路を抜ければすぐに部屋という状態だ。
 しかし、部屋の奥には扉があり、床は何故か9×9の升目に区切られていた。しかも、升目によっては何やらお札のような物が置かれている。
「入る……んですか?」
 部屋を指差し、恵美が誰ともなく尋ねた。お札が気になって仕方ないのだろう。
 そこでまず、慶悟の傍らに控えていた勾陣と六合だけを、先に部屋の中へ行かせることにした。2体が入っても、部屋に異変は起こらない。お札もそのままだ。
 慶悟はそのまま、2体に奥の扉を開かせようとした。が、2体がかりでもびくともしない。力技だけでは開かないのだろうか。
「……ね、聞こえない? 奥から歌声……女性かしら……」
 ふとシュラインがつぶやいた。シュラインの耳に、女性の歌声が聞こえてきたのだ。でも他の者には聞こえない。
「ちょ、ちょっと……冗談はやめようよ。あたし、何も聞こえないし……あははっ」
 乾いた笑いの後、一足先に部屋の中へ入ってしまう祀。当然、沙羅が後に続く。それでもお札に変化は見られなかった。
「何もないのかな……」
 続いて恵美も部屋へ足を踏み入れる。3人入ってしまえば、残された慶悟とシュラインも入るしかない訳で。
 だが異変は5人全員が部屋に足を踏み入れた瞬間に起こった。何と全てのお札が、一瞬にして鎧武者に変わってしまったのである!
「わあああああっ!!」
「きゃぁぁぁぁっ!!」
 突然の出来事に、思わず悲鳴を上げてしまう祀と沙羅。沙羅の瞳には涙が浮かんでいた。
 祀は沙羅の手をぎゅっと握って、沙羅を庇う形で逃げようとしたのだが……何故か、足がびくとも動かない。2人だけではない、他の3人も同様だった。
 慶悟はすぐに勾陣に命じて、鎧武者たちに攻撃させた。しかし、鎧武者たちがダメージを受けた様子はない。それ以前に、鎧武者たちは攻撃をしてこようとはしなかった。
「これは……?」
 鎧武者たちの行動を訝しむ慶悟。だが、すぐにはっと気が付いた。お札から鎧武者に変わったということは――。
「式神か! 恐らく侵入者が部屋に全員入った段階で、変化するよう術が施されていたんだろうな……」
 なるほど、それなら筋は通ってる。けれども、攻撃を加えてこないのはどうしてなのか。
 その時、沙羅があることに気付いた。
「ぐす……あれぇ……? 祀ちゃん、その右手の甲……」
「えっ?」
 沙羅に指摘され、祀は自らの右手の甲を見た。そこには『金』という文字が浮かび上がっていた。
「何だろ、これ。……あっ、沙羅の手にも!」
 祀だけではない。沙羅には『銀』、慶悟には『飛』、シュラインには『角』、そして恵美には『桂』の文字が、各々の右手の甲に浮かんでいたのである。
「これって……まさか将棋?」
 眉をひそめ、シュラインが頭に浮かんだ考えを口にした。だが、将棋にしては駒の数があまりにも足らない。では、この駒の数でも可能な将棋とは?
「……詰め将棋か」
 慶悟が1つの結論を出した。相前後して、あることに気付いた祀が叫んでいた。
「あーっ! 鎧にも、同じ風に文字がある!」
 そう、鎧武者にも『歩』だとか『銀』などと、文字が記されていたのである。そして5人との一番の違いは、鎧武者たちには『王』が居るということだ。
「これ、詰めばいいんですよね?」
 確認するように恵美が言った。恐らく詰んでしまえば、先へ進めるような仕掛けになっているのだろう。
 5人はああでもない、こうでもないと相談を重ね、何とか相手の『王』を詰むことに成功した。ここに至るまで、31手の攻防であった。
 案の定、詰んだ瞬間に奥の扉が開かれて、5人は自由に歩けるようになったのだった。そして5人はさらに奥へと進み――。

●嬉璃との遭遇【7A】
「ええと。どうしてここに居るのかしら?」
 シュラインが困惑した様子で、目の前の2人に尋ねた。目の前の2人とは1人は嬉璃、そしてもう1人は歌姫であった。
「お主たちこそ、どうしてここに居るのぢゃ」
 平然と切り返す嬉璃。手にはお手玉が握られていた。歌姫も同様である。
「……歌? 歌……」
 そこそこの大きさである部屋の中と外を交互に指差しながら、祀が歌姫に尋ねた。こくこく頷く歌姫。
「わぁ……祀ちゃん見て見てっ! 可愛いお人形さんがいっぱいだよぉっ♪」
 地下へ潜ってからでは初めてだろうか、沙羅の明るい声が聞こえてきた。部屋の隅に置かれていた蓋の少し開いた木箱を覗いたら、中に和洋問わず人形が入っていたのである。さっそく1体取り出して、祀に見えるよう手にする沙羅。
「物置……か?」
 部屋の中を見回し慶悟が言った。部屋には箱が所狭しと積まれていたからだ。
「こんな所があったなんて……」
 恵美は驚きっぱなしといった様子だった。本当に知らなかったようである。
「どなたか居られますかー」
「居るんやったら返事しーやー」
 その時、部屋にさくらと天王寺綾の声が聞こえてきた。よく見れば部屋の隅には鉄の梯子があり、ぽっかりと天井に穴が開いている。
「あそこから入ったのか」
 ちらっと梯子に目をやってから、嬉璃に視線を向ける慶悟。そして一言。
「どういうことだ?」
「……外に出てから話した方がよさそうぢゃな」
 やれやれといった様子で、嬉璃がつぶやいた。

●謎がいっぱい山積みに【8】
「見付けたのはたまたまぢゃ」
 地上に戻ってきた皆を前に嬉璃が言った。
「この間から開かずの間の1つで物音がしておってな。今日調べてやろうと思い立ったのぢゃ」
 嬉璃が言うには、開かずの間の隣の空き部屋に穴が開いていたのでそこから開かずの間に入ったのだそうだ。そして地下への梯子を見付け、中へ降りていったとのこと。
 その行動を歌姫が見ていたらしく、嬉璃の後を追って地下へ降りていったらしい。そして慶悟たちのグループが部屋に入ってくるまで、2人で部屋にあったおはじきやお手玉などに興じていたという。
「はいっ、しつもーん」
 ここまで嬉璃が話した所で、祀が手を挙げた。
「何ぢゃ」
「結局……あれ何なの?」
 確かに気になる所である。地下室は何のための物だったのか。
「倉庫か物置ぢゃろ」
 さらりと答える嬉璃。まあ、そうとしか答えようはないか……。
「……誰が造ったんですかぁ?」
 祀の後ろからひょこっと顔を出し、沙羅が尋ねた。
「知らぬ」
 きっぱり答える嬉璃。
「誰が何のために造ったのか、さっぱり分からん。逆に教えてほしいくらいぢゃ」
「目に見えない方……いえ、意志がお造りになられたようですよ」
 嬉璃の言葉が終わってすぐ、いつもの口調でふと思い出したように智恵美が言った。驚きの視線が、智恵美に集中した――。

【地下へ誘う石階段 了】


□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
□■■■■■■□■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0332 / 九尾・桐伯(きゅうび・とうはく)
                / 男 / 27 / バーテンダー 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 0645 / 戸隠・ソネ子(とがくし・そねこ)
           / 女 / 15 / 見た目は都内の女子高生 】
【 1593 / 榊船・亜真知(さかきぶね・あまち)
  / 女 / 中学生? / 超高位次元知的生命体・・・神さま!? 】
【 2295 / 相澤・蓮(あいざわ・れん)
            / 男 / 29 / しがないサラリーマン 】
【 2336 / 天薙・さくら(あまなぎ・さくら)
          / 女 / 43 / 主婦/神霊治癒師兼退魔師 】
【 2390 / 隠岐・智恵美(おき・ちえみ)
               / 女 / 46 / 教会のシスター 】
【 2489 / 橘・沙羅(たちばな・さら)
                  / 女 / 17 / 女子高生 】
【 2575 / 花瀬・祀(はなせ・まつり)
                  / 女 / 17 / 女子高生 】


□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
■         ライター通信          ■
□■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■□
・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全14場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・お待たせいたしました、『東京怪談ウェブゲーム』としては高原初となりますあやかし荘でのお話をここにお届けいたします。ゲームノベルの方では何度かあやかし荘でのお話を書いてはいたんですけれどね。
・今回のお話ですが『何ですか、そのオチは……』と脱力された方も居られるかと思いますが、今回の傾向は『コメディ:3』でしたからね。あれこれ大騒ぎした挙句、特にたいしたことでもなかったという話は実際よくありますし。ただ、結局誰が何のために……というのが分からない所が、ある意味あやかし荘らしい所ではないかと思います。今回のオチについて、あれこれと想像していただけると高原としては幸いです。
・シュライン・エマさん、71度目のご参加ありがとうございます。方位磁石用意したのは正解だったと思います。それで実際、あやかし荘の真下に入っていることが分かった訳ですからね。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。