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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


Time for hunting
〜 Games 〜

 その日、草間興信所に姿を現したのは、武彦が最も会いたくないと思っている人物のうちの一人だった。

 悪魔の代理人、「N.Maddog」。 
「今日は、一つ面白い話を持ってきました」
 さほど面白くもなさそうな顔で言う彼に、武彦は冷たくこう言い放った。
「お前の言う『面白い話』が、俺にとって面白い話だったためしはない。
 悪いが、俺はお前に構っているほど暇じゃないんだ」
「話を聞く暇すらないほど忙しいとは思えませんね。
 それに、聞いておかないときっと後悔することになりますよ」
 そう脅されても、話を聞いてしまったら否応なく巻き込まれる。
 今までの経験でそのことを十二分にわかっている武彦は、ここぞとばかりに突き放した。
「俺は、聞いて後悔する可能性の方が高いと思うが」
 その言葉に、さすがの「N.Maddog」も少し驚いたような表情を見せる。
(もう一押しで追い返せる)
 武彦がダメ押しの一言を言おうとした、ちょうどその時だった。

「ならば、仕方ありませんね。
 失って初めてその価値に気づくこともある。きっといい教訓になることでしょう」
 その「N.Maddog」の言葉に、武彦はつい反射的に聞き返してしまう。
「失う、だと?」
 口に出してから「しまった」と思ったが、もう遅かった。
「なに、あなたの友人がほんの数人、この世から消えてなくなるだけです。
 別に、お忙しい中わざわざ時間を割いていただくほどの話ではありません」
 何でもないことのように言いながら、薄笑いを浮かべる「N.Maddog」。
 その表情を目にした時、武彦は自分の負けを悟った。
「それは一体どういうことだ?」
「聞きたくなりましたか?」
 質問を質問で返されても、もはや怒ることすらできない。
「ああ、聞きたくなったとも」
 武彦に残された道は、全面降伏以外になかった。





「まず、私は今回あなたに何かを依頼するつもりはありません。
 私はただ、あなたにある情報を提供するだけです。
 また、その情報について、私はいかなる対価も求めません。
 私は、あくまでこの後に起こることを見届けたいだけですので」
 ようやく話を始めても、なかなか本題に入ろうとしない「N.Maddog」。
「もったいぶらずに早く話せ」
 武彦が催促すると、彼は一枚の書類を差し出した。
「これが何か、わかりますか?」
 見ると、その書類には、十五人の人物の氏名、年齢、性別、職業などが書かれていた。
 よく見ると、この草間興信所に出入りしている人間の名前も、いくつか見受けられる。
 しかし、十五人の人物に共通する点や、規則性といったものは、どこにも見つからない。
 住所などは書かれていないのでわからないが、少なくとも、ここに書かれている項目に関しては、本当にバラバラなのである。
 首をひねる武彦に、「N.Maddog」がタネを明かす。
「これは、『獲物』のリストです。明日から始まる『狩り』のね」
「『狩り』? まさか……」
「ええ。裏世界に生きる異能者たちの、自己アピールを兼ねたゲームです。
 いかにして、一週間という期間内に対象を『行方不明』にするか……それを競うんですよ」

 それを聞いて、武彦は全てを理解した。
 この男が、ただの善意でこんな情報を提供してくれるはずがない。
 だとすれば、この男の目的は――。

「別の人物を巻き込んだ場合はもちろん、消えた場所や手口が特定されただけでも減点になりますから、ある程度気をつけていれば守りきるのは難しくないと思います。
 獲物による得点の差はありませんし、低い得点に終わるくらいなら参加しない方がマシですから、皆狙いやすい獲物のみを狙うでしょうし」
 武彦の思いを見透かしたように、「N.Maddog」はぞっとするような笑みを浮かべた。
「言っておきますが、もとを断とうなどという気は起こさない方がいいですよ。
 身の程をわきまえぬ行動は、大惨事につながります」

(お前が望んでいるのは、その大惨事なんじゃないのか)
 その言葉を、武彦はかろうじて飲み込んだ。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 Measure 〜

「で、そのリストに俺たちの名前があったというわけか」
 話を聞いて、双己獅刃(ふたみ・しば)は吐き捨てるように言った。
 その表情を見る限り、彼に恐れはない。
 彼にあるのは、どちらかといえば怒りだった。
「こんな座興の獲物リストに名を載せられるとは、私もなめられたものですね」
 神山隼人(かみやま・はやと)も、やはり同じ顔をしている。
 かと思えば、雪ノ下正風(ゆきのした・まさかぜ)などは、涼しい顔でこんなことを言っている。
「俺も有名になったもんだな、デス・ゲームの獲物にされるとは」
 この様子を見る限り、少なくともこの三人については大丈夫だろう。

(むしろ、問題なのは、ここにいない人たちの方ね)
 宮小路綾霞(みやこうじ・あやか)がそんなことを考えていると、そのことを知ってか知らずか、刃霞璃琉(はがすみ・りる)がぽつりと呟いた。
「僕は……正直、怖いですよ。皆さんほどには、強くありませんから」
 確かに、彼は「ここにいる他の面々」よりも、「ここにいない人たち」の側に近いように思える。
「なら、とりあえずは自分の身を守ることだけ考えればいい」
 獅刃はそう言ったが、あるいは、それすらも難しいかもしれない。
(彼も、重点的にガードする対象に含めた方がいいかしら)
 綾霞がその辺りを検討していると、武彦が怪訝そうに口を開いた。
「で、なんで綾霞さんがここにいるんだ?」

 そう。
 ここに集まった他の面々とは異なり、綾霞の名前は、リストにはなかったのである。
 リストに名前のあった人物のみを招集したつもりの武彦には、綾霞がここにいる理由がさっぱりわからなかったようだ。

「わたくしがお呼びしたんです」
 そう答えたのは、榊船亜真知(さかきぶね・あまち)だった。
 その一言に、綾霞がこう付け足す。
「私の方でも、ある程度の情報は掴んでいましたから。
 さすがに、ターゲットのリストまではまだ入手できていませんでしたけど」
「そういうことか。なんにせよ、あんたが手伝ってくれるなら安心だ」
 安心したように笑う武彦に、綾霞はきっぱりとこう答えた。
「ええ。零ちゃんに免じて、協力して差し上げますわ」

 その後、今後の対策についての協議が行われ、宮小路家の情報部門と亜真知が協力して事件の黒幕について調査し、残った面々が狙われている人々の護衛を担当する、ということに落ち着いた。

 一分の隙もない計画――少なくとも、この時点では、そうであるはずだった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 Forbidden 〜

「綾霞様」
 情報部から連絡が入ったのは、綾霞が本格的な調査の開始を命じてからまもなくのことであった。 
 その声が、あまりにも緊張しているのが気にかかる。
「何かわかったの?」
 よくない報告だな、と思いながらも、それを気取られぬように聞き返す。
 しかし、返ってきたのは、彼女の予想をも超えた報告だった。
「結論から、率直に申し上げます。
 今回の事件には、『アングレーム』の関与が認められます」

「アングレーム」。
 フランス南部のアングレームを拠点とする異能者集団で、メンバーの総数は不明。
 彼らは自分たちのことを「アドヴァンスド」、すなわち「進化した人類」と名乗り、そう名乗るにふさわしいだけの能力を持っているらしい。
 実際、彼らといざこざを起こして壊滅状態に追い込まれた裏稼業の組織や異能者集団の数は十や二十ではない。
 こういった状況下では、絶対に聞きたくない名前だった。

「もちろんご存じだとは思いますが、『アングレーム』を刺激するのは非常に危険です。
 ここは……手を引かれた方がよろしいのではないでしょうか?」
 正論だった。
 相手が、あまりにも大きすぎる。
 とはいえ、ここで手を引けば、狙われている人たちを見殺しにすることにもなりかねない。
 綾霞が悩んでいると、情報部員はそれを察してこう続けた。
「綾霞様が調査を続けることをお命じになるのでしたら、もちろん我々は調査を継続いたします。
 ですが、よほど特別な理由があるのでない限り、これほどのリスクを冒すのは……」
 彼の言うとおり、仮に全面抗争となれば、十人や二十人の人間が死んで終わる話ではない。

 とはいえ、「アングレーム」には、その活動に全くと言っていいほど一貫性がないことから、ほとんど各構成員が勝手気ままに動き回っているだけ、とする説もある。
 その節が真実なら、必ずしも「邪魔をしたから即全面抗争」という事態にはなり得ない。
 それに何より、こちらには亜真知もいる。
(いける)
 全ての要素を考え合わせて、綾霞はそう判断した。
「細心の注意を払いつつ、任務を続行して。
 危険だと思ったら、各自の判断で撤退しても構わないから」
 その言葉に、通信相手の情報部員は一瞬沈黙し……それから、はっきりとこう答えた。
「了解しました。綾霞様も、くれぐれもお気をつけて」
 その声には、もはや迷いはなかった。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 Nightmare 〜

 そして、とうとう『狩り』の日がやってきた。
 警察関係への情報リークから、護衛の手配および派遣まで、打てる手は全て打ってある。
 綾霞自身も、ターゲットとされた人物のうちの一人に、護衛としてついていた。

(それにしても、何でこんな日に限って)
 護衛対象の女性の姿を懸命に追いながら、綾霞はそう思わずにはいられなかった。
 平凡な主婦であるはずの護衛対象が、こんな日に限ってラッシュの中を出かけていこうとしているのである。
(デパートの安売りがあるからって、こんな時間から行かなくても)
 とはいえ、「あなたは狙われていますから行かない方がいいですよ」などと言えるはずもない。
 結局、綾霞は彼女につきあわされる格好でラッシュの人波にもまれるハメになったのである。

 このラッシュというのが、またくせ者だった。
 この状況は、考えようによっては「行方不明」にするのに最適でもあったからだ。
 普通、これだけ人がいる中で消えたりすれば、誰かが見ているものだと思うだろう。
 しかし、ラッシュ時はあまりにも人が多すぎるせいで、人が一人くらい消えたところで気づくことは難しい。
 まして、今回のターゲットのように背の低い女性であれば、他の人の陰に隠れてしまったものとして処理されてしまうことも十分にあり得る。
 それよりなにより、ラッシュの中で周囲の人間一人一人に関心を持っているような人物は、少なくとも綾霞の見た限りでは一人もいなかった。
「心ここにあらざれば見れども見えず」の言葉通り、本当は見えているはずの人にまで、「見えていない」ことにされている可能性も捨てきれない。
(ここは、私が何とかしないと)
 綾霞はそう決意を新たにすると、護衛対象の女性の方にも気を配りながら、ホームから乗り換え通路への階段を上っていった。





 異変が起きたのは、綾霞が最後の一段を上ったときだった。

 突然、人が消えたのである。
 護衛対象の女性だけではない。
 周囲にいた人間、全員が消えたのだ。
「これは……どういうことかしら?」
 あわてて周囲を見回す綾霞。
 すると、一人だけ消えていない人物がいるのが目に入った。
 長い金髪に、真っ白なスーツを着た、目立つ人物である。
 が、その背丈や体型から察するに、彼、もしくは彼女はまだ子供であった。
 これだけの異常事態だというのに、特に動揺している様子は見られず、それどころか、顔には薄笑いさえ浮かんでいる。
(ひょっとして、あの子の仕業なの?)
 そう思って、綾霞がその子供に近づこうとすると、彼(彼女?)は突然顔を上げ、綾霞の方を見て嬉しそうに声を上げた。
「やっと見つけたよ。綾霞お姉ちゃん」
「誰?」
 相手が自分の名前を知っていたことに驚きつつも、反射的に尋ね返す綾霞。
 その問いに、相手は笑顔のままこう答えた。
「『アドヴァンスド』の一人、『プリズム』……と言っても、わからないよね。
 今回の『狩り』の企画者兼主催者、って言った方がいいかな?」
 まさか、黒幕が自分から出てくるとは。
 さすがに、この事態は綾霞の予測を大きく超えていた。
「大元が自分から出てくるとは思わなかったわ。それで、私に何か用?」
 相手の真意も力量もわからない以上、警戒して警戒しすぎることはない。
 身構える綾霞に、「プリズム」は苦笑いを浮かべた。
「ちょっと、報告しておきたいことがあってね。
 警察に情報を流したりしたのって、キミだよね?」
「ええ。警察・公安関係に、広くリークしておいたわよ」
「そういうことは、できればしないでほしかったんだけどな。これじゃゲームにならないよ」
 肩をすくめる「プリズム」。
 だが、その顔に残念そうな様子は全く見られない。
(何か、対策があったとでもいうの?)
 そう考えてもみたが、いったん広く流れた情報をまとめて葬り去るのは、どう考えても容易なことではない。
 考え込む綾霞に、「プリズム」は楽しそうに種を明かした。
「ゲームに支障が出ないように、こっちも対策をさせてもらったよ。
 といっても、この一帯の人たちの精神にちょっと細工をしただけだけどね」
「なんですって!?」
「ちょっと理性のたがをゆるめてあげただけだから、少し凶暴になったり、衝動を抑えられなくなったりするくらいだよ。
 あちこちで凶悪事件を多発させれば、警察もこっちまで手が回らなくなるだろ?」
 綾霞の想像を遙かに超えた、乱暴きわまりない「解決策」。
(そんなの、ハッタリに決まってるわ)
 何とかそう思いこもうとしたが、なぜかそうはできなかった。
「本当はこんなことしたくなかったんだけど、これはこれで面白いかもしれないね。
 ほら、早速何か始まったみたいだよ……」
 その悪魔のような宣告と、断続的な破壊音が聞こえてきたのは、ほぼ同時だった。





 無人の改札口を抜け、大急ぎで表へ飛び出す。
 そこで綾霞が見たものは――まさに地獄だった。

 血の付いた金属バットを持った男が、入りきらないほどのものを詰めた袋をいくつも手に持って店を出てくる。
 が、その男は、数歩も行かぬうちに突っ込んできたワゴン車にはねとばされた。
 路上に散乱した「戦利品」を、車から降りてきた若者たちが回収し始める。
 その隙に、浮浪者風の男たちが一斉にワゴン車に殺到し、中に残っていた青年を路上に放り出すと、あっという間にいずこかへと走り去っていった。

 近くの銀行からは、悲鳴と怒号が絶え間なく聞こえてくる。
 今の状況で金が何かの役に立つとも思えないが、それでもやはり金は欲しいらしい。
 押し入った連中も、居合わせた客も、そして銀行員も、全員が争い合い、奪い合っている。

(こんなことって)
 呆然と立ちつくす綾霞。
 その両肩に、不意に誰かの手が置かれた。

「これじゃ、危なくて銀行になんか入れねぇよな」
「だからさ、代わりに金貸してくれねぇ?」
 左右から聞こえてくる、若い男の声。
 そして、鉄パイプか何かが、コンクリートの地面を打つ音。

 強盗に間違いなかった。

(しまった!)
 一瞬とはいえ、油断したことを悔やむ綾霞。
 しかし、今更そのことを後悔したところで何の役にも立たない。
 それよりも、まずは、今の状況を整理し、打開策を考えるべきであろう。
 相手は自分の背後のごく近いところにおり、少しでも怪しいそぶりを見せれば、即殴りかかってくるに違いない。
 そうなれば、時間のかかる術の類は一切使えないということになるが……さて、どうしたものだろう?

 綾霞が結論を出すために必要だった時間は、おそらくほんの二、三秒。
 ところが、そのわずかな時間さえも、彼女には与えられなかった。

 不意に、二発の銃声が響く。
 それと同時に、肩に置かれていた手が離れ、すぐ後ろで、立て続けに人の倒れる音がする。
 何が起こったかは、振り返らずとも十分理解出来た。

「危ないところでしたね」
 そう言いながら、二人組の警官が歩み寄ってくる。
 彼らが、綾霞を助けてくれたことには間違いない。
 とはいえ、それを考慮しても、このような乱暴なやり方は、とうてい許せるものではなかった。
「いきなり発砲するなんて、一体何を考えてるの!?」
 怒りにまかせてそう口にした瞬間、二人の態度が豹変する。
「何だと? せっかく助けてやったのに、なんて言い種だ」
「こりゃあ、人に感謝する、ってことを教えてやる必要がありそうだよな」
 まずいとは思ったが、今下手なことをすれば自分まで撃たれかねない。
 思案していると、その沈黙を「おびえている」ととったのか、二人の態度はさらに尊大になった。
「おい、せっかく助けてやったんだから、ちゃんと感謝の気持ちを示してくれよ。わかりやすいカタチでな」
「わかりやすい態度でもいいぜ? アンタ、美人だからな」

 こうなってしまっては、後のことなど考えている余裕はない。
 まずは、目の前にある危険に対処する。その後のことは、二の次三の次だ。

「これがキミのやったことの結果だよ」
 その声が聞こえてきたのは、ちょうどその時だった。

「キミが情報を流したりしなければ、ボクもこんなことをせずに済んだのに。
 かわいそうに、もう何十人という人が死んだ。みんなキミが殺したんだ」
「プリズム」の言葉は、彼自身のやったことを棚に上げたものにすぎない。
 だが、はたして、自分はこの人たちの死に何の責任もないと言い切れるだろうか?
 その自分自身への問いかけが、一瞬、無防備な時間を作る。
 その隙をついて、後ろから伸びてきた何者かの手が、綾霞の首を絞めた。
(!!)
「……オマエガコロシタンダ……」
 血まみれの手。
「……オマエガコロシタンダ……」
 おそらくは、先ほど撃ち殺された男の手。
「……オマエガコロシタンダ……」
 必死でふりほどこうとする綾霞に、さらに同じような手がいくつものびてきて、腕を引っ張り、足を掴む。
「……オマエガコロシタンダ……」
 さらに、その様子を黙って眺めていた警察官が、冷笑を浮かべながら銃口を向けた。
「アンタが殺したのか。じゃ……死刑だな」

 そして――再び銃声が聞こえ、綾霞の意識は暗転した。





 次に彼女が見たのは、真っ白な天井だった。
「……ここは?」
 身体を起こして、辺りを見回す。
 どうやら、病院の一室らしい。
 身体には特に異常はなく、特に怪我などはしていないようだった。
(ずっと、悪い夢を見ていたような……)
 夢と呼ぶには、あまりにも生々しすぎた「悪夢」。
 それを頭から追い払おうと、窓の方に目をやったとき。
 横の机の上に、新聞がおいてあるのが目に入った。

 新聞でも、少しは気が紛れるかもしれない。
 そう考えて、新聞を手に取り……そのてっぺんを見て、綾霞は驚愕した。

 そこには、『狩り』の始まった日から、ちょうど一週間後の日付が記されていた――。

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

〜 Over 〜

 綾霞が草間興信所に向かうと、案の定、彼女も「行方不明」になったことにされていた。
 さらに驚くべきことに、亜真知と隼人の二人とも、この一週間連絡がつかなかったらしい。
 二人も自分と同じような目に遭っていたであろうことは、想像に難くなかった。

 そして結局、亜真知たちの帰還により、無事に「狩り」を乗り越えられたのは、十五人中十二人ということになった。
 守りきれなかった相手が三人も出てしまったということは、非常に残念な結果ではある。
 だが、あれだけの大物が黒幕であったことを考えれば、たった三人で済んだ、といえないこともないだろう。

 とにもかくにも、こうして、今回の事件は幕を閉じたのだった。





 綾霞が見せられたのは全て「プリズム」の作り出した幻覚だったらしく、凶悪事件など実際には起こっていなかった。
 しかし、その代わり、「狩り」について覚えているものは、宮小路家にも、情報を流したはずの警察関係者の中にも、一人としていなかった。
 それどころか、調査結果のファイルの類も、一つ残らず消されていたのである。

 綾霞は、これらが全て「プリズム」の仕業だと考えている。
 とはいえ、いくら彼(彼女?)の力が強大だったとしても、これだけの多人数の記憶を同時に操作し、さらに記録にまで手を加えるというのは、到底不可能なことのように思われた。

 その代わりとして、考えられることがもう一つあった。
 本当はこんな「狩り」など存在せず、「狩り」の記憶を持っている者の方が、記憶を操作されているのではないだろうか?
 強力な術者が含まれているとはいえ、これならば、少ない人数への記憶操作のみで済む。
 この説も非現実的であることに変わりはないが、少なくとも前の説と同等程度の信憑性はあるように思われた。

(一体、どちらが真実なの……?)
 その問いの答えは、当分見つかりそうになかった。

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
 1593 /  榊船・亜真知 / 女性 / 999 / 超高位次元知的生命体・・・神さま!?
 2335 / 宮小路・綾霞  / 女性 /  43 / 財閥副総帥(陰陽師一族宗家当主)/主婦
 2263 /  神山・隼人  / 男性 / 999 / 便利屋
 2204 /  刃霞・璃琉  / 男性 /  22 / 大学生
 0391 / 雪ノ下・正風  / 男性 /  22 /オカルト作家
 1981 /  双己・獅刃  / 男性 /  22 / 外法術師

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■         ライター通信          ■
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 撓場秀武です。
 この度は私の依頼にご参加下さいまして誠にありがとうございました。

 今回はPC間に力の差があり過ぎたこともあって、予告通り「もとを断とう」と(多少でも!)考えた方々についてはしっかり迎撃させていただきました。
 コミカルな話なら、別になんの問題もなく共存できるのですがねぇ。
 というわけで、次から、シリアスな話に関しては「推奨パワーレベル(仮称)」でもつけようか、などと考えております。
 そうしないと、今回のようにやたら話が分岐してしまって、自分の首を絞めてしまいますし……。

 ちなみに、「アドヴァンスド」の連中はトランプでいうジョーカーのようなものですので、基本的には「勝てない」と思って下さい。

・このノベルの構成について
 このノベルは全部で五つもしくは六つのパートで構成されております。
 このうち、いくつかのパートにつきましては複数のパターンがございますので、もしよろしければ他の方のノベルにも目を通してみていただけると幸いです。

・個別通信(宮小路綾霞様)
 今回はご参加ありがとうございました。
 少数の相手に対していきなり人海戦術をとられると話が破綻してしまいますので、申し訳ありませんがその辺りは阻止させていただきました。
 一応、相手側も多数にする、という手もあったのですが、それをやると敵方の陽動部隊が暴れたりなんだりで大惨事になってしまいますので。
 ともあれ、もし何かありましたら、ご遠慮なくお知らせいただけると幸いです。