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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


最悪ばれむたひむ

------<オープニング>--------------------------------------
ある日のプラントショップ『まきえ』。
今日もそれなりに人がやってくる店舗に…。
「ハッピーバレンタイ―ン!」
ばーん、と大きな音を立てて扉を開きつつ、一人の男がやってきた。
その声を聞いた聡は、てっきり希望がやってきたものだと思って振り返る。
「あ、希望さんいらっしゃ…い…って…どちら様で?」
しかし、振り返った聡の目の前にいたのは…希望ではなく、空色の髪にオレンジ色の目、更にはピアスやらシルバーアクセやらをじゃらじゃらつけ、制服らしきシャツを着崩した少年。
全く見覚えのない顔と姿に不思議そうに首を傾げた聡に、少年はちっちっち、と顔の前に立てた人差し指を左右に振る。
何を言うのかと聡がきょとんとしていると、少年が急にくわっと目を見開いて詰め寄ってきた。

「…そう言う時は『希望さんだと思ったのに、騙すなんて酷いです!!よよよ…(泣き崩れ)』ってゆーのがセオリーだろ!?
 その程度じゃ全く面白味もなんもないわー!!」
「訳分かりません!!」
聡、思わず即ツッコミ。
と言うか、先ほどの希望そっくりの声とは全く違う声になっているような…。
「うん、今のツッコミは中々だったぞ」
「いや…あの、ホントに誰ですか?貴方…」
満足そうに頷く少年に困ったように返す聡に、少年は今更気付いたような顔で口を開く。
「あ、そうだったな。
 俺はアポロ十一号が月に行った時にサイヤ星からやってきた『プリティー☆キューティー♪ミサッキーv』と申す者でして」
「お約束の如くとんでもない嘘八百並べるのは止めて下さい」
真顔で意味不明なことを言い出す少年に更に真顔で返す聡。
それに呆れたように頭を抱えて深々と溜息を吐く少年。
本当にどんどん収集がつかなくなっていくこの会話に、ようやく終止符が打たれた。

「さっきから何やってんだ?兄貴。五月蝿いぞー」
「そうだぞ。昼寝出来ねぇじゃんか」
「…貴方達…お手伝いしてくれるんじゃなかったんですか…?」
ふあぁ、と欠伸を噛み殺しながら出てきた葉華と希望。
きちんと店のエプロンをつけている割には全く働く気がない様子の2人に、聡ががっくりと肩を落としながら溜息を吐く。
その2人を見た瞬間、少年が目を見開き、希望を指差して叫んだ。
ちなみに、人を指差すのはマナー違反ですのであしからず。
「…あーっ!のぞっちってばこんなトコにおったのけー!!」
「「『のぞっち』??」」
その前にいきなり発生した奇妙な語尾に関しては誰もツッコまないのだろうか。
不思議そうな聡と葉華に対して、希望は不思議そうに少年を見つめた後、ぽむ、と手を叩いた。
「おー、崎じゃんか。3日ぶりだな」
「「『みさき』?」」
「オーイエース!3日ぶりだべさー!!」
更に首を傾げる聡と葉華に対し、崎と呼ばれた少年はぐっと親指を立てて返事を返す。
また変な方便が発生していることに関しては、相変わらず誰もツッコミを入れないらしい。
「ホラホラ、きちんと自己紹介しないと駄目だろー?」
「おっとこりゃ失礼」
イマイチ自体が飲み込めていないらしい聡と葉華を見て、笑いながら希望が崎の肩を叩く。
それにぺちりと自分の額を叩いてから、崎がにこりと笑って振り返った。

「俺の名前は『秘獏・崎(ひばく・みさき)』。
 『私立青春謳歌学園』なんつームテキ・ステキ・ムッキムキー☆な学校の中等部に所属しております!
 ふわり花咲く十五歳♪只今恋人募集中でありまーす☆」

「……」
「なんだか物凄く余計なことを言うのが好きなヤツみたいだな、アイツ」
ぽかんと口を開けたまま固まった聡に対して、呆れたような顔で呟く葉華。
その姿を見て後ろで希望が爆笑していたのは…敢えて伏せる方向で。
「…で?お前はどうして此処に?」
「あ、そうそう。
 のぞっちが此処でお世話になっているって聞いてさー。
 折角のバレンタインだし、この息子さんにバレンタインプレゼントをねー」
「えぇっ!?ぼ、僕ですかっ!?」
「そこまで勢いよく逃げ腰にならなくてもいいだろー?」
驚きと嫌な予感に後じさろうとする聡の襟首を鷲掴みにして止める希望。異様に爽やかな笑顔が眩しい…。
「…それでだねー。
 折角なんで、素敵ーvなデートをセッティングしてさしあげよーと思いましてー」
こんなん用意してみましたー、と言いながらドアを差す崎。
瞬間、ギギギ…と大きく戸が軋む音を立ててドアが開かれる。
聡と葉華が何事かと其処を向き…固まった。

「今回俺がセッティングしたデートのお相手はー!
 草間興信所より数十メートル離れたオカマバーにて働いていらっしゃる国子ちゃん(仮名)もとい、本名加藤・政国君でーっす☆」
「うふっvよろしくねーんvv」

やけに楽しそうに崎がどどーん、と大きな効果音を伴って指した先には…ムキムキマッチョのオカマ。
くねくねと身体をくねらせる姿が物凄く怖い。世の中のオカマに失礼だが、かなり気味の悪い空間が発生してる感がいなめない。
「「……」」
「ぶはっ!…ぶはははははっ!!崎、おま、マ・ジ、サイッ、コー…!!」
真っ青になって固まっている聡ときょとんとしている葉華、更に笑いすぎで突っ伏しながら大爆笑している希望。
何だか物凄く異様な光景だ。

「うふふ、アタシのデートのお相手は、ど・な・たぁん?」
「ひっ…!」
ぐるぅーりと店内を見渡しながら笑う国子ちゃん(仮名)に聡が短く悲鳴を上げながらあとじさろうとするが…希望がまたもや爽やかな笑顔で妨害。
そして聡の襟首わしっと掴み、放り投げる構え。
「さぁ…幸せなバレンタインデートに行っておいで!」
「いやああぁぁぁぁあああっ!!!!」
ぽーい、と軽々と投げられた聡はそのまま宙を舞い、見事国子ちゃん(仮名)の腕の中にゴール・イン☆
「つっかまえたぁーv
 さぁ、一緒に遊園地デートに行きましょぉーん♪」
「だ、誰か助けてえぇぇぇぇ――――――…!!!」
見事に国子ちゃん(仮名)の腕に抱えられた聡は、叫びにドップラー効果をつけつつ、そのまま小脇に抱えられて爆走する彼女(?)に連れられていった…。
今この瞬間を目撃した場合、きっと拉致の瞬間と勘違いされることだろう。…あまり変わりはない気がするが、気にしてはいけない。

「さーて♪俺達もいきましょかーのぞっちv」
「オッケー崎☆
 あ、そうそう。とりあえず草間興信所で話伝えて行こーぜ♪」
「りょうかーいv」
その姿を満足げに見送ってから、崎は素早く衣服を着替えて女性の格好になると、希望と腕を組んで店を出て行った。
勿論、この後話を聞いて草間が頭痛を起こして突っ伏したのは言うまでもなく。
代理と言うか…見届け人として零が同行することになるのだが…まぁ、その辺はまた別のお話。

「……」
そして誰もいなくなった店にぽつんと残された葉華。
今日はまきえも出かけていて誰もいないわけで。
だけど、聡と国子ちゃん(仮名)のデートの行方も物凄く気になるわけで。
―――どっちを選ぶか、色んな意味で究極の選択。

「―――こんな面白そうなことほっとけるか―――っ!!」
葉華はエプロンをばっと脱ぎ捨て、素早く店の扉に「CLOSE」の札をかけると、急いで後を追う事にした。
…ちなみに。後片付けは全部ボブが請け負うことになったのは言うまでもなく。
その辺もまた、別のお話ではあるのですが。


―――いざ、遊園地へ。


●バレンタインに(ある意味)告白。
「…ボブ…ごめんなさい」
桜木・愛華は、店舗に着いて1人(?)寂しく片づけをしていたボブの頬にキスをした後、いきなりこう切り出した。
『は…?』
戸惑うボブを他所に、愛華は1人で盛り上がっていく。
「愛華ってば…ボブというものがありながらボブより好きな人が出来ちゃったの…。
 カッコイイけど凄く意地悪な人んだけど…やっぱり、好きなの…」
何気に酷い事を言いながらくすん、と可愛らしく泣く姿は心ときめくものではあるが、いきなり話し出されたボブからすれば戸惑いの種でしかない。
『いや…あの、愛華殿…?』
「…だけどっ!」
戸惑ったように声を出すボブを遮るように大声を出した愛華に、ボブはびくりと身体(?)を震わせる。
そんなボブに気付いているのかいないのか、愛華は大きく手を広げながら叫ぶ。
「愛華のボブへの愛は変わらないわっ!単に恋愛対称から外れただけでっ!!」
…それって充分愛が変わったと言うのではなかろうか…。
『えーっと…』
「…ってことで、ボブに愛華のラブラブチョコレートケーキをお届けv」
どうすればいいのか分からなくなってきたボブに、愛華はにっこりとやや大きめの箱を差し出す。
『あ…えーっと、有難う、で…御座る…』
とりあえず渡されるままに受け取ったボブは、チョコレートケーキの入った箱を頭の上に乗せて礼を言う。
「ボブ…本当にごめんね…?」
本当に申し訳なさそうに上目遣いで謝る愛華に、ボブは(多分)苦笑して、こう言った。
『いや、拙者は気にしておらんで御座るよ。
 拙者よりも好きな御方が出来たと言うのはとても良い事で御座るからな。
 愛華殿が幸せになってくれることを、拙者も祈っているで御座る』
「ボブ…!」
潔く且つ優しさに溢れた台詞に、愛華はじーん、と感動して目を潤ませる。
『これからは、良き友として、よろしく頼むで御座るよ』
「…うんっ!やっぱり愛華、ボブの事大好きっ!!」
そう言って抱きつく愛華に、ボブも嬉しそうに(多分)微笑むのだった。
実に心和む光景である。
―――が。そんな時間が長続きする訳もなく。
「…ん?なんかやけにお店ががらんとしてない?」
ふと店内を見回した愛華が、不思議そうに首を傾げる。
『…それが…』
その言葉を受け、ボブが困ったように事情を説明し始めた。

『…と言う事で御座る』
「えぇっ!?」
事情を説明し終わったところで、愛華から驚きの声が上がる。
ボブは一瞬「ボブに押し付けるなんて酷い」などの労わりの台詞が出ると思ったのだが…。
「愛華が知らないところでそんな面白いことが起こってたなんてっ!!!」
『……』
…やはり、無駄な期待はしないに限るのかもしれない。
「これは愛華も急いで見に行かないとっ!
 ボブ、来て早々で悪いけど、愛華はその遊園地に行って来るね!!」
『え!?あ、愛華殿っ!?』
「どうなったかはきちんと連絡してあげるから心配しないで!
 じゃあねっ!!!」
しゅたっと手を上げると、ボブの返事を待つ間もなく大急ぎで店を飛び出していく愛華。
後に残されたのは…ボブ。
『…トホホ…結局拙者が1人で片付けねばならぬので御座るな…』
実際は流れる訳はないのだが…この時だけ、ボブの目に涙が浮かんだように見えたのは…言うまでもない。

結局、店舗はまきえが帰ってくる頃にはボブの手によって綺麗に片されていたそうな。

●目指せ!愛のキューピット!?
ボブを放って一目散に遊園地へやってきた愛華は…困っていた。
「うぅーん…きたはいいけど…2人はどこにいるんだろ…?」
遊園地一帯を見回して、困ったように首を傾げる愛華。
ただデートをしている遊園地しか知らない愛華には、聡達の居場所を特定することは出来なかったのだ。
「…あ…」
おろおろと辺りを見回していた愛華だったが、不意に何かに気付いたような動きを見せ、そのまま止まる。
ぼーっと遊園地を見つめていた愛華がぽつりと言葉を漏らす。
「この遊園地って…あいつと来た…」
ふっと頭の中に浮かんだのは、ボブに告げた『ボブより好きになった人』の顔。
一瞬ぽーっと遊園地を見つめていた愛華だったが…はっとして自分がぼんやりしていた事に気づくと、一瞬にして顔を真っ赤にする。
「って、感傷に浸ってる場合じゃあないっ!
 そうよ、あいつのことなんて全然考えてないんだからっ!!」
ぶんぶんと頭を振って必死に考えを否定し、慌てて真っ赤になった頬を手で挟む。
「そうよ、今は聡さんと国子ちゃんの事を考えなきゃ…うん、そうよ。そっちを考えなきゃ…」
ぶつぶつとぼやきながら頬の火照り冷ます愛華。
傍から見ればかなり異様な光景ではあるが…本人が気付くわけもなく。
遊園地に入ってすぐの所で頬を挟んで呟き続ける美少女は…周りから浮きまくっていた。
…ところで、不意に後ろから声がかかる。

「…あれ?愛華姉ちゃん?」
「ふえ?」
声をかけられた愛華が間抜けな声を出しながら振り返ると…ソフトクリームを舐めながら不思議そうに首を傾げる葉華の姿。
…一瞬、葉華が普通に親に連れられてやってきた子供に見えたという事は…伏せて置いたほうがいいのだろう。愛華と葉華、御互いの為に。
「…よ、葉華?何でこんな所に…」
「それはこっちの台詞だよ。…彼氏は一緒じゃないみたいだし」
「だっ、だから彼氏は関係ないってばー!!」
「…葉華。からかうのはそこまでにしとけよー」
あわあわと両手を振る愛華を楽しそうに見ている葉華の背に、呑気そうな声がかかる。
愛華が振り向いた先にいるのは…勿論、希望。
その隣には腕を組んで微笑んでいる妖艶な美女が1人。
「…あ、希望さん…。…と…」
「あ、どもどもー。俺様は崎サー☆」
不思議そうに首を傾げる愛華ににっこりと…先ほどまでの妖艶さが微塵もないお調子者っぽい笑い方を向け、美女…もとい崎は顔につけていた特殊マスクを外し、カツラを取る。
「あ!ボブが言ってた人…!!」
その容姿はボブが話していたワケの分からない事を口走っていたと言う人間の特徴と一致していて、愛華は思わず声をあげる。
「なんだ、ボブから話は聞いてたのか」
「まぁ、断片的に、だけど…」
「そんじゃ、改めてコンニチハしときましょv
 どーも始めましてv
 ある時は三大美人をも凌ぐと言われる超グラマーでナイスボディな美女!!!
 またある時はものすっげーこっぱずかしい名前の学校に通ってる素敵な中学生!!!!
 しかしてその実体は…」
わけのわからない口上を述べながら、バサァッ!とどこからともなく出した大きな布を翻す。
そして、一瞬美女な崎の姿が見えなったと思った次の瞬間には、既に制服姿の崎が立っていた。
「…『世界を股にかけるスペシャルでビューティホーでデンジャラーな美少年変装師』秘獏崎たぁ、俺様のことサー!!!」
そして、ビシィッ!と偉そうに自分を指差しながら、ワケの分からない称号なんぞ叫ぶ崎。
「……さ、桜木…愛華、です……一応、高校生…」
そんな崎の意味不明なオーラに気圧されたらしく、愛華はたじたじになりながら何とか自己紹介をする。
「あ、そんじゃ俺より年上なのね。ほんなら敬語はいらないよ。
 これからよろしくな♪ラブっちv」
「…ら、ラブっち…?」
手を差し出しつつ爽やかにさらりと変な名前を口にした崎に、愛華は思わず口元を引き攣らせながら何とか手を握り返す。
「だってほら、名前が『愛華』だから、『愛』からとって『LOVE☆っち』vって事でv」
「…なんか、今何かが可笑しかったような…」
「気のせいv」
にっこり笑ってこれ以上の追求を許さない崎に、愛華は困ったように笑い…流すことにした。

「えーっと…国子ちゃんと聡さんのデートの様子は見なくていいの?」
「あ、そうそう。おいらもついさっき2人を探し回ってる途中で希望達と会ったんだよな」
愛華の問いかけに賛同するように頷いた葉華に、希望はにやりと笑って、ポケットから小さな球体を取り出す。
「…これ見てみ」
「「?」」
きょとんとしてその珠を見る2人の目の前で、その珠は急に発光し、ふわりと浮き上がった。
「きゃっ!?」
「うわっ!?」
「大丈夫だって、変なモンじゃないから」
そしてその珠は愛華と葉華の目線の間くらいにぴたりと停止。
くつくつと笑う希望が指を鳴らすと、その珠の中に映像が浮かんで来た。

『うふふvたのしーわねぇ聡さんv』
『は…ははは…そーですねー…』

「あ、聡」
「国子ちゃんもいるみたい…」
その中に浮かんできたのは、聡と国子の姿。勿論音声も込みだ。
「式神に2人を追跡させてるんだよ。
 で、この珠も式神の一種で、追跡してる式神と対になってるんだ。
 で、追跡してる式神の見ている映像と音声を映すことができるわけ」
だから俺らは必死こいて探す必要なく行き先がわかるだよ、とけらけら笑いながら言う希望に、愛華と葉華は感心したようにその珠を見た。
ふわふわと浮く珠はただのちょっと大きな水晶かガラス球ぐらいにしか見えない。…のに、そんな不思議な能力があるとは…と半ば感動すら覚えているようだ。
映っている映像には、国子の逞しい腕に片腕を抱え込まれ、半ば強制的に引きずりまわされている聡の姿が。
…まだ一時間と少ししか経ってない筈なのに、やけに聡がぐったりしている気がする…帰ってくる時まで生きてるだろうか、この男。

『さぁ、聡さんv次はお化け屋敷に入りましょーv』
『…うっ、うっ、うっ…!!』

だくだくと滝のように涙を流す聡が必死でもがくが、国子自体がかなり逞しいため、ビクともしてない辺りなんともはや。
そうして2人は、お化け屋敷の中へと入っていく。式神もついていって入ったらしく、映像が黒で塗りつぶされた。
「…なんか…聡がかわいそうになってきたんだけど…」
「えーっと…」
最初は国子の手助けをするためにやってきた愛華だったが、今にも死にそうな聡の姿を見てると…ちょっと同情してしまう。
…が、愛華はぐっと拳を握り、しっかりと立ち上がる。
「で、でもでも!
 愛華は恋する乙女の味方をするって決めたんだもんっ!!」
「……『乙女』……?」
ぽつりと呟いた葉華の声を必死に聞き流す愛華。
「だから、ごめんね聡さん…国子ちゃんの恋の成就のため、犠牲になって!!」
「一応犠牲って自覚はあるみたいだねー☆」
「完全に聡を見捨てることにしたみたいだな」
まるで泣くような仕草をしながらきっぱり言い切った愛華に、崎と希望が感心したように頷く。
「確かお化け屋敷に入ったんだったよね!
 よぉーし、頑張って2人…国子ちゃんに幸せをプレゼントするんだからー!!」
気合い満々に叫びながら、愛華はぐっと握り拳を作る。
…完全に開き直った人間とは、此処まで非常になれるものなのだろうか…。
そんな疑問をその場に残しつつ、愛華は全力でその場を走り去って行った。
「…さーて、俺らもそろそろ行くかー」
「そだね。やっぱり面白いことはできるだけナマで見るに限るべサー☆」
その愛華の後を、にこにこ笑い合いながら追いかけていく希望と崎。
置いていかれないように慌てて走って追いかけながら、葉華は胸の前で小さく十字を切った。
「(…聡―――――成仏しろ)」
――――葉華も、見捨てる気満々だったみたいです。

愛華達がお化け屋敷の出口に着いた時、既に2人は外に出ていた。
…と言うか、近くを浮遊していた式神の実況中継によると、聡が怯えまくって叫ぶわ逃げるわの大騒動。しまいには壁に激突して気絶したのを、国子が抱えて(勿論俵持ち)でてきたらしい。
―――その時、キレた国子がお化け役のスタッフを5、6人ほど張り倒してたセットを破壊してたような音や声が聞こえたが…そこはあえて言及しない方がいいのだろう。
…例え国子の腕や服に血痕が付着してよとも!やけに晴れやかな顔をした国子がお化けの使ってたっぽいカツラを持ってたとしても!!

ベンチに寝かされている聡の額に濡れたハンカチ(ピンク色でヒラヒラレース付(国子も持ち物))を乗せて休ませている状態の2人を発見した愛華は、国子に急いで駆け寄った。
「国子ちゃん!」
「え?…あらぁ、どちら様?」
不思議そうに首を傾げる国子に、愛華は簡潔に事情を説明する。
そして全てを説明し終わったあと、愛華はぎゅっと国子の手を握った。
「…愛華、国子ちゃんの恋を応援してあげる!」
「ホント!?」
嬉しそうに顔を輝かせる国子に、愛華はにっこりと微笑みながら頷く。
「勿論!愛華にお任せ!!」
どん、と男らしく胸を叩いた愛華は、国子に耳を貸すように指示する。
そして、国子に小声で作戦らしきものをぼそぼそと話すと、国子がぱぁっと顔を輝かせた。
「…って、ワケ。わかった?」
「えぇ、わかったわ!」
「じゃあ、後でねーv」
「へ?」
「えぇ、後で!!」
きょとんとする葉華を他所に、国子は嬉しそうに愛華に向かってその逞しい腕をぶんぶん振りながら、何処へと去っていってしまった。
「…あ、愛華姉ちゃん…一体何を話したの?」
「え?それは勿論…国子ちゃんに幸せを届けるためのさ・く・せ・んv」
にっこりと笑う愛華の姿に、一瞬葉華の背にぞくりとうすら寒い何かが走り抜ける。
そのままどんどん顔を真っ青にしていく葉華をさらりと無視し、愛華はそれはもう楽しそうに聡を揺り起こす。
「聡さん、聡さん。起きて?」
「うぅ…き、筋肉が…オカマが迫ってくる…!!!」
「あっははは!随分イイ夢見てるみたいだァねー☆」
「聡のどこ見てどの寝言を聞いてそう感じるのか物凄く聞きたいんだけど」
「相っ変わらず崎の視点は180度くらいズレてるなー」
真っ青な顔で宙をもがくように掻きつつうなされている聡の姿を見てにっこりと崎が言い、葉華がツッコむ。そしてそれを見て希望がははは、と笑うと言う図が何時の間にか完成していた。
「もー!聡さん、起きてってばー!!」
ガスッ!
「うわあぁああっ!筋肉オカマが等身大チョコレート小脇に抱えて走ってくる――――ッ!!!!」
愛華の渾身の叫びに、意味不明だが恐ろしい内容の叫びをあげながら飛び起きる聡。
それに安心して笑う愛華と、「相当怖い思いしたんだな…」と思わずほろりと涙する葉華。
「…聡さん」
ぜぇはぁと肩で息をする聡の肩をぽん、と叩き、愛華はにっこりと笑いながら、こうのたまった。
「―――聡さんのこと、逃がしてあげるv」
「…は?」
「え?」
葉華と聡が、同時に間抜けな声をあげる。
先ほど国子に言っていた台詞とは見事に正反対ではないか。
「…ほ、ホント…ですか…?」
ぱぁぁ…と顔を少しずつ輝かせる聡に、愛華は優しく微笑んで、肩をぽむ、と叩く。
「愛華は聡さんの味方だもんv
 …さ、国子ちゃんが飲み物買いに行ってる間に、早く行こ!」
「は、はいっ!!」
手を引いて走り出す愛華にそれはもう物凄く嬉しそうについていく聡。
「あっ!ちょ、2人ともっ!!
 …愛華姉ちゃん、何考えてんだ…?」
首を傾げながらも、前を走る2人に置いていかれないように後をついていく葉華。
その後ろに、更に希望と崎の2人がついていく。
こうして、愛華は聡の手を引きながら、ある場所へ向かったのだ。

そこは――――観覧車。
「聡さん、こっちこっち!」
「え?あ、あの…こっちは出口とは正反対じゃ…」
「こっちでいいの!すぐに出口に行ったら国子ちゃんに見つかっちゃうでしょ!?」
流石に何かおかしいと気づいて声を出す聡だったが、愛華はもっともな事を言ってぐいぐいと聡を観覧車の方へ引っ張っていく。
――そろそろ夕方になり始めていると言うのに、何故人気が少ないのだろうか。
聡がそんな疑問を抱いている間に、愛華は聡を観覧車の前へと連れてくる。
「ほら!此処に入って暫らく時間を潰すの!
 その間に愛華達が誤魔化しておいてあげるから!!」
観覧車の1つが目の前に近づいてきた瞬間に手を離し、するりと自分の背後に回りこんだ愛華に、流石に聡も気づいたのか声をあげる。
「え!?あ、あの、ちょっと愛華さん、なんかさっきからおかし…!!!」
「レッツゴー!!」
聡の声を遮るように叫びながら、どーん!と勢いよく聡の背中を押す愛華。
「うわぁっ!?」
丁度目の前に入り口が来ていたこともあり、聡は見事に中に押し込まれる。
ずべしゃぁっ!と派手な音を立てて床に顔をぶつけた聡の背中に、バタン!!とドアが閉まる音が無情に響き渡る。
「…あいたたたた…」
顔を抑えて痛そうに起き上がる聡の前に、逞しい手の平が差し出された。
「あ、これはこれはどうも…って、え…?」
何故、目の前に手が?
と言うか…こう、目の前に見える手に…見覚えがあるような…?
だらだらと冷や汗を流しながら、聡はゆっくりと顔を上げる。
そこにいたのは―――――嬉しそうに身体をくねらせる…国子。
「うふふっvこれで2人っきりよ、ダ・ァ・リーン☆」
「―――――っ!?!?!?」
――――――直後。
聡の心の底からの絶叫が、観覧車だけではなく…遊園地全体に、恐ろしいほど木霊した。

「なるほどなー。
 味方になったと見せかけて、国子に前もって待機させておいた観覧車に押し込める、と」
これでもかというほど上下左右に力強く揺れている観覧車を見ながら感心したように呟く希望。
「あっははは!中々非人道的な作戦をとるねーラブっち☆
 これできっと帰って来た時にはさっちゃんは干し肉だネ!!」
「えへへー、これできっとばっちりだよねvvv」
楽しそうに笑いつつ、にこやかに、且つさりげなく恐ろしいことをのたまう崎と、照れたように笑いながら嬉しそうに微笑む愛華。
「ばっちりとゆーかなんとゆーか…。
 …うぅ、お前を助ける勇気のないおいらを許してくれ…聡…」
そして―――聡の身を案じつつも、なんだか中がどうなってるのか見てしまうのも、国子に恨みを買うのも怖くて助けに行けなくて懺悔するように祈るポーズを取る葉華。
この4人は、真っ白になった聡とやけに幸せそうな国子の2人が降りてくるまで、ベンチに座り談笑しながら待ったのだった。

●後日談。
それから数日後。
愛華が葉華達に会う為に「プラントショップ『まきえ』」にやってくると、カウンターに真っ白になって上半身を伏せている聡が一番に目に入る。
そのあまりの真っ白さ加減にとてつもなく心配になった愛華は、同じように心配そうに聡を見ている葉華に小声で話し掛ける。
「…聡さん、一体どうしたの?」
「……それが、さ…」
問い掛けられた葉華は、気まずそうに手に持っていた葉書を愛華に手渡す。
それを見た愛華は、思わず絶句した。
ウェディングドレスを着た国子と―――タキシードを着た、見知らぬボディービルダー風の男。
その下に、「今までお世話になりました。私、この人と結婚しましたvv」と丸文字で書かれた文章。
「…あの後も散々アプローチかけられた挙句が、これ。
 流石の聡も、ショックだったみたいで…」
「……はぁ……」
葉華と愛華、2人揃って聡に気遣わしげな視線を送ると、聡はしくしくと涙を流す。
「…一応、男として貞操は何とか守り抜いたんですけど…!!
 ……なんだか、とてつもなくやりきれない気分でいっぱいなんですよぉ……!!!!」
えぐえぐとしゃくりあげる聡を見て、愛華と葉華は困ったように笑い合う。
「…聡さん、元気出して?国子ちゃんにフラれたからって凹んじゃダメよ!!」
「男は国子1人じゃないって!!」
「…そこは問題じゃないんだけどなぁ…!!!!」
一生懸命励まそうとしているものの、どこかズレた励ましに、聡は益々涙を流すのだった。


―――その後。
   聡がなんとか浮上するまでに、数日かかったのは…言うまでもないだろう。


終。

●●登場人物(この物語に登場した人物の一覧)●●
【2155/桜木・愛華/女/17歳/高校生・ウェイトレス】
【NPC/山川・聡】
【NPC/緋睡・希望】
【NPC/葉華】
【NPC/ボブ】
【NPC/秘獏・崎】
【NPC/国子ちゃん(笑)】

○○ライター通信○○
大変お待たせいたしまして申し訳御座いません(汗)異界第六弾、「最悪ばれむたひむ」をお届けします。 …いかがだったでしょう?
どうぞ、これから崎とをよろしくしてやって下さい(ぺこり)

愛華様:御参加、どうも有難う御座いました。今回はシングルノベルのような感じになりましたが…如何でしたか?
    ノリもギャグならキャラもギャグ。なんだかちょっと危ないネタも混じってるような気がしますが…気にしちゃいけません(待て)
    大分ハジケて頂いたのでキャラ壊れてますが…どうでしょう?(をい)でも書いてて楽しかったです。物凄く(爆)

色々と至らないところもあると思いますが、楽しんでいただけたなら幸いです。
それでは、またお会いできることを願って。