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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


シルバー・ブレット

 IO2本部。
 受話器とパソコンを同時に操りながら、手早く指示を出す。
「何故押さえておかなかった! もう手遅れ、そんな事聞きたくない」
 怒鳴りつけながら書類をデスクの上に叩き付ける。
 そこに書かれた名は鬼鮫。
 IO2でも行動が問題になっている男。
 狙いは……ナハト・S・ワーシュネー。
 今まで問題にならないようにナハトの存在は隠していたのだが、どうやら嗅ぎつけたようなのだ。
 ナハトの扱いに不満を懲らす反対派の仕業だ。
「今はどうなってる!? 接触した、戦ってる!? 全力で止めろ、被害も隠せ!」
 手に負えないとの部下の悲鳴。
「なんでも良い、なんとか出来るやつを連れてこい。向かってる。だからどうしたさっさと応援向かわせろ」


 都内某所。
 狭い路地裏を走りながら目指すのはIO2本部。
 走っているのは盛岬りょうと肩を支えられるようにして走る渦中の人物ナハト。
「こうなったら応戦……」
「ダメだ、絶対にダメだからなっ、ややこしくなるっ!!!」
「怒鳴るな聞こえてる」
「俺は聞こえねーよっ!」
 鳴り響く銃声で。
 すぐ背後まで鬼鮫は迫ってきている、ナハトを消すために。
 油断していたのは事実だ。
 だが家に乗り込んで来るなり足を切り落とそうなんて尋常じゃない、やはり鬼鮫は噂通りの……それ以上の人物である。
「くそっ」
 毒づいてからここでナハトだけでも先に行かせたいところだが……自分も特異能力者だ。消されかねない。
「馬鹿な事考えるな」
「ならどうしろって言うんだ!」
 刀に特殊な効果でもあったのか、ナハトの傷はなかなか治らなのだ。逃げる事も出来ない状況である。
「こっちだ!」
 ぐっと腕を引っ張られ、変わりに鬼鮫の前へと飛び出したのは夜倉木で、腕を引いたのは草間だ。
 助けがきた事にホッとする。
「平気か?」
「なんとか……」
 そしてすぐ近くでは目眩がするほどの強い殺気。
 夜倉木と鬼鮫がにらみ合っている。
「そこをどけ」
「それは、出来ません」
「殺し屋風情が出しゃばるな」
「……あんたには言われたくないですね」
 温度が一気に数度下がる。
「俺と何が違う、金が目当てなら後でいくらでもくれてやるからとっとと失せろ」
「………俺は、アレを狙う奴は消せと言われてる。その対象に入ってる事を忘れるな」
 まさに一発即発。
 張り詰めた糸のような状況を前に、三人はただそれを見ていたが……思い出したようにナハトがりょうと草間を引きずってIO2本部へと向かった。

■城田・京一

 電子音を鳴らす携帯を取り上げると着信が一件。
 相手は草間からの物だ。
「もしもし?」
 どうやら相手は走っているらしく、ただごとでは無いという雰囲気だけ伝わっていた。
 相手が草間という人物で無ければ切っていただろう。なにしろ京一は録画してあった深夜映画を見ている途中なのだから。
「切るよ?」
 一言断るべきだろう。
『ま、まてっ! 今ちょっと慌ただしくって!!』
 突然怒鳴られ、電話を僅かに耳から離す。
「何があったんだい?」
 話を聞けば今回も揉め事に巻き込まれているらしい。
 説明をするが、幾つか同時進行でこなしているらしく話は途切れ途切れだ。
「草間君……」
『何だ?』
「同時進行は良くないよ」
『説明しろってっ! と、とにかく詳しい事は興信所で聞いてくれ』
 結局見れなかった映画を止め興信所へと向かった。
 ブザーを鳴らし、扉を開く。
 中をザッと見渡すといつもの顔ぶれ、シュライン・エマと零が書類を広げていた。
「何時も大変そうだね、ここは」
「ありがとう、助かるわ。今事情を説明するから、とにかく座って」
「所で草間くんは?」
「今ちょうど出てる所よ、すぐに戻ってくめと思うわ。怪我とか無ければいいんだけど……」
 まだ帰っていないらしい。
 ソファーに腰掛けた京一にお茶を出してから、シュラインと零もファイルを開きながら説明を始める。
「今解ってるのは鬼鮫さんが動いてる事で、とにかく危険人物みたいね」
「怪我ぐらいなら見てあげられるけどね」
「そうね、助かるわ」
 もちろん死ななければの話だ。
 ファイルを手にとって読んでいると零が顔を上げる。
「何か来ます!」
「えっ!?」
 シュラインは驚いて零と同じ方向……つまり入り口を見ると何もなかった空間にトンと、綾和泉汐耶とメノウが降り立つ。
 スッと目を開いた汐耶はシュライン達に気付いたらしい。
「どっから……?」
「えっと……」
 予告無しの登場だったから驚いたのだが、零が気付いたらしく小さく説明を入れてくれた。
「メノウさんの術みたいです」
「そう言う事ね」
 汐耶も簡単に補足する。
「外の行動は控えたほうがいいですから、可能だというので飛んできたんです」
「オリジナルアレンジの呪文ですが、上手く行ってよかったです」
「ありがとう、メノウちゃん」
 とりあえず小さく会釈してから、靴を履く。
 二人とは対照的に、京一はすぐさま適応して見せた。
「こんにちは、今ちょうど事件の話していた所だよ」
 そう言って何事もなかったようにコーヒーを一口。
「驚かせて済みません、話を進めてください」 汐耶の言葉に、シュラインと零もやるべき事を思い出したようだ。
「じゃあ今解ってる事だけど……」
「念のため、結界を張っておいたほうがいいですね窓と……」
「窓だけでいいと思うよ、まだ入ってくる人が居るだろうし物理的に防げばいいのは窓からの狙撃だからね」
 京一の言葉にうなずいてから、窓の方へと近寄るメノウに声をかける。
「気を付けてね」
「大丈夫です、すぐ終わりますから」
「もしもの時は私も居ますから」
 確かに零が居るなら銃弾程度はどうにかしてくれるだろう。何事もなく、呪札を貼り付け戻ってきた。
「お疲れさま」
「はい」
 ここはこれでいいとして。
「ここに書かれてる鬼鮫が問題だと思うんだけどね」
「そうね、鮫のおじさんに関してはいい話は聞かないし」
 ため息を付きつつ何度も読んだ書類には嫌になるような事はかりが書かれていた。
 人を越える能力に超常能力者への殺戮行為。それから余談だが極度のタバコ嫌い。
 追いかけられているりょうとナハトにとっては、まさに天敵以外の何者でもないだろう。
「私はまだ普通の人に紛れる事も可能ですが……二人の気配はとてもわかりやすいものですから」
「それにとても目立つしね、りょうさんとナハト……隠しようがないわね」
「本当に……鬼鮫さんを焚きつけたのは何処の誰なんだか?」
「彼を押さえるのは大変そうだねぇ」
 フムと考え込む京一に、シュラインが立ち上がり電話を手に取る。
「万が一の事を考えて、クスリを押さえておこうかと思うの」
「クスリ? あっ、ここですね」
 書類にはっきりと書かれている。
 ジーンキャリア、強力な能力をえる変わりに、定期的なクスリの投薬が義務づけられると言うのだから、それも一つの手だろう。
「お願いします」
 繋がった電話で何時も顔を合わせる管理官に、その事を伝えてからシュラインが電話を置く。
「間に合うといいんだけど……」
「だったらわたしの方でも手を考えておくよ」
「そうですね、手は多いほうがいいですら」
 京一の言葉に頷きながら、汐耶も言いたい事をまとめておく。
「……誰か来ます」
 メノウの言葉に一斉にドアを見つめる。
僅かなタイムラグの後、大きすぎるブザーの音。
 扉が開き、雪崩れ込むようにして入ってきたのはここの主の草間と渦中の人物のりょうとナハト、そして斎悠也の四人。
「っは! 疲れたっ!!」
「あー、生きてて良かった」
「手当てしたほうがいいですよ、ナハトさん」
「済まない」
 一気に人数が増えたが、まだこれでも全員ではない。
「お帰りなさい、武彦さん」
「ああ、た、ただいま」
 差し出されたコップの水を煽りようやく一息吐く草間がタバコに火を付け、それを見て思い出した様にりょうもタバコを吸い始める。
「死んだらタバコ吸えないしなぁ」
「そうだなー」
 同意する草間に、京一がトントンと肩を叩く。
「非常時にタバコはどうかな? 早死にするんじゃないかね」
 事件の事を一瞬でも忘れているかのような時の行動だから、この場にいる全員の代弁でもある言葉だ。
「そうよ、武彦さん」
 スッと灰皿を差し出され呻く草間に、りょうだけはタバコを死守する。
「俺は、あれだ! タバコがないと能力が使えない」
「ズルいぞ盛岬!」
 醜い言い争いは一瞬で中断し結局タバコは没収された。
「いい加減にしてください、二人とも」
 汐耶に深々とため息を付かれ、言葉に詰まったようだった。
 当然だ。今は遊んでいる場合ではないのだから。
「ーーーっと!?」
 唐突にビクリと体を跳ねさせた草間に何事かと視線が集中した、どうやら忘れかけていた携帯が鳴ったらしい。
「もしもし、はい、はい!」
 電話を切ってから、思い切り眉を寄せ顔を上げる。
「IO2のほうで動きがあったらしい、呼び出された」
 グイッとシュラインを引き寄せてから何かを囁く。
「頼んだぞ」
「……解ったわ、気を付けてね」
 言うが早いか何とも慌ただしく出て行ってしまう。
「どういう事です?」
「彼も色々大変なのよ」
 軽く頭を抱えたシュラインに、何があったのかを聞く前に残りが全員、光月羽澄と天薙撫子と夜倉木が揃い今度こそ話をまとめる事になった。
「鬼鮫さんの対策は取ったんだけど……時間が立たないと少し厳しいわね」
「何したの、シュラインさん」
「……草間様はどちらに」
 羽澄と撫子の問いに、
「ちょっと手回しして……武彦さんは他の用があるのよ」
「………ああ、きっと俺も関係していると思いますから出かけます」
 納得したように夜倉木も席を立つ。
「夜倉木さんもですか?」
「そうです、話を進めててください。必要なものがあればそろえますから、携帯に連絡をお願いします」
 静かに閉められる扉。
 僅かに顔を見合わせてから、きっと話せと言った所で言わないだろう。
 あっさりと思考を切り替え、悠也がナハトの傷を京一がりょうの肩にポンと手を置く。
「治療したほうがいいですね」
「君も細かい傷がたくさんあるようだ」
 ナハトの足の傷はどう見ても適当に傷をしばってあるだけだし、りょうも所々銃弾による傷が残っている。
「……そりゃナハトのは特殊な怪我だからあれだけど、俺のは適当に力で何とか」
「それは良くないね、簡単に治せるから怪我をするんだよ、少しは痛みを学んだほうがいい」
 それもまた道理で有り、納得できる事実だ。
「そうね、治療に専念して貰って……」
「痛い! 染みるって!!」
 わざと乱暴にしているとしか思えない。
「でも盛岬さんには聞きたい事があるからここにいて貰わないと」
「あー、腕は縫ったほうがいいね。鞄から針と糸取ってもらっても?」
「これでいい?」
 羽澄が差しだした縫合用の針と糸を受け取り礼を言う。
「ありがとう、助かるよ」
「間違ってないかそれ! 麻酔も無しかよ!」
「静かにしてください、盛岬さん」
「男でしょ、我慢したら?」
「麻酔使うほどじゃないよ、少し押さえててくれるかな?」
「解ったわ」
「お、おに………」
 その横では、引きつったような表情でナハトがそれを眺めている。
「怪我が治らないのは銀の所為ですね」
「ん、ああ」
「前は傷口が広がっていましたから、何かしましたか?」
「……りょうの力を借りたんだ」
「それでですか」
 銀の効力を押さえ、ナハトの回復力を増幅させたのだろう。
「どうぞ」
 撫子が差しだしたぬれタオルを受け取り、傷口を拭ってから悠也は術を用いて治療をほどこす。
 深い傷だったから、術じゃないと治らないのだ。
「……回復力は流石ですね、銀の効力さえなければ治りが早い」
 既に傷一つ残さず怪我は治っている。
 ナハトの治療も終えた頃には、りょうが極端に無口になっていたが状況なだけにさして考慮されなかった。
「先ほどわたくしが職員の方からお聞きしたのですが……この事件の発端は……」
 言いにくそうに眉を伏せてから、説明できる人間がこの場に撫子しか居ない事に気付き顔を上げる。
「反対派の方は、りょう様とナハト様とメノウ様の三人がいると『虚無』に狙われるからだとおっしゃっておりました」
「―――っ!」
 りょうは能力故に、ナハトとメノウは元そこにいたという過去から……その可能性は十分にあり得る事だ。
「だから、だからこんな事件を起こしたって言うんですか。メノウちゃん達を見捨ててまで助かりたいなんて」
 本気で怒っている汐耶に、悠也も小さくため息を付く。
「困った方々ですね」
 撫子が哀し気に肩を落とす。
「……私がお会いした方だけは解ってくれたと信じたいのですが、可能ならお話しできる機会を設けたいです」
 根底にある保身の感情、それは人間故のものだが……もっと別の解決方法があったはずだ。
「虚無まで関わってくるとなると、本当にきちんと話し合うしかないわね」
「……聞きたい事があるの。話してくれるわよね、りょう」
「………?」
 真剣な口調に、無言のまま目線を逸らす。
「隠し事があるなら、いま言って」
「……もしかして、虚無の事と関係があるの」
 さっきの治療で抵抗する気がなかったのもあったのだろう、そこで羽澄とシュラインに問いつめられあっさりと自白した。
「………俺等が狙われるのは知ってたから、ここにいたんだ」
「どういう事ですか、盛岬さん」
 汐耶の言葉に気押されされ僅かに後ずさる。
「この事は私にも関わる事ですよね、どうしてこんな重要な事を黙ってたんですか?」
「………危ない目に遭わせたくなかった」
「余計危ないんじゃないですか、黙ってたら」
 要領を得ない答えだが、それなりに筋道を立てて話そうとはしているらしい。
「始から説明させてくれ、出来るだけ手短にまとめるから」
 時間がないかも知れない時だが、今興信所には結界が張ってあるし少しなら大丈夫だろう。
「そうね、IO2ならここに攻撃を仕掛ける事がどういう事か解ってるはずでしょうし」
「鬼鮫さんもまだ大丈夫そうですから、どうそ」
 視線を巡らせた悠也がニコリ微笑む。
「キッチリ話してください」
 視線が集まる中、バツが悪そうな口調で説明を始めた。
「あの事件の後、俺は能力の所為でIO2に籍を置く事になったし、ナハトが自由でいられたのは恩を売っておくためでもあるな。側に置いとかないと俺が使い物にならなかったから」
「どういう事?」
「んー……俺の能力の解放のやり方がおかしかったらしくてな、霊的防御とかが出来ない状態だから、ナハトの力でそれを補ってるからこうして自由に出来てた訳だ。最低限の自己防衛は出来るようにって事だろうな」
 別の手段としてりょうとナハトを別々にしておけば、完全にりょうをIO2に置く事は出来るだろうが……それをしたら反対意見が出ると知っての苦肉の策だったのだろう。
「待って、それじゃあ今ナハトのIO2の扱いは?」
「俺とナハトでワンセット扱い。ナハト単体の扱いだったらかなり宙ぶらりんだな」
「それでこんな事が起きたのね」
 しっかりと扱いを決めていないのだから、意見が分かれたのだ。
 目的のために置いておこうという人間とそれは危険だという人間に。
「それが、先ほどわたくしがお聞きした事に繋がるのですね」
「一枚岩ではないと思ってましたけど……どうしてこう馬鹿げた事をしでかすんだか」
「その事なんだけど、反対派は全部で31人。聞いた話じゃもう統率が取れなくなってるみたいだから、結局は鬼鮫を押さえなきゃ駄目みたい」
 簡単に説明すると、IO2本部内では主犯は取り押さえたが、鬼鮫が動き出した辺りから個人で動き出したらしい。
「それもどうにかしないとね、掛け合ってみるわ」
 とにかくと、シュラインが携帯で連絡を入れる。
「メノウちゃんはどういう扱いなんですか」
「どっちかというと、メノウの方が安定してるな。綾和泉が預かるって言ってくれたから、メノウも普通に紛れる事が出来るし……問題なかったはずだったんだよ」
 深々とため息を付くりょうの言い回しに始に気付いたのは羽澄だ。
「無かったって事は……何かしてたの?」
「ああ、出来るだけ俺達に注目が集まるようにしてたんだ」
「……もしかして」
「そこで『危ない事』に繋がるんですか?」
 頷くりょうに、汐耶が深々とため息を付く。
「どうしてそんな事……」
「だってよ、メノウの事は俺も気付くべきだったんだ。それなのに綾和泉が言ってからそうだなって思って……だからせめて普通に暮らせるようにって思な」
 色々考えてはいるらしいが……。
 僅かな沈黙。
 そして、
「前から思ってたけど本当にバカよね」
「どうして隠すのかしら」
「困った人です」
「カッコつけたがりだねえ、きみ」
 呆れるしかないと言った言葉が次々とあげられる。
「なっ、なんだよ! 俺は俺みたいな奴を増やしたくなくてだな……」
「盛岬さん、侮らないでくださいね。これでも私こういう事には慣れてますから、何かあるとしてもそれはメノウちゃんを引き取る時に覚悟してる事です」
「うっ……」
 釘を差され呻くが、自分一人で背負い込めばいい何て考えてるのは得てして本人だけだ。
 気持ちは解らないでもないが、褒められた事でもない。
 もし何かあった場合、心配するのは周りなのだ。
「りょうさんに何かあった場合こうして巻き込まれる訳ですから、最初から言ってればよかったんです」
「そうよね、迷惑かけるの何ていつもの事じゃない」
「……!!!」
 トドメとばかりの悠也と羽澄の言葉に撃沈。
 まあ、自業自得である。
「まあ……反省してるみたいですから、可哀相ですわ」
「それにそろそろ話してる時間もないだろうしね」
「そうね、これからどうするか決めないと」
 大体の事は解ったから、後はどう動くか決めるだけだ。
 それもそれぞれの提案や持っている能力等も考慮して作戦が組み立てられていく、手際の良さは場数を踏んでいるだけ有って実に無駄がない。
 作戦としては、りょうの気配で鬼鮫をおびき寄せシュラインと羽澄と撫子で交渉。何かあった場合は羽澄とりょうと撫子で応戦。
「でもそれだけでは危険ではないでしょうか?」
「危険なのはお互い様よ、みんなそれぞれ無茶してる訳だしね」
「援護はするから、安心していいよ」
 そして悠也と京一と汐耶とメノウとナハトが周りにいる職員を取り囲んで妨害し背後にいる人間を追い詰める。ナハトとメノウがこっちなのは、鬼鮫を刺激しないためだ。
 中でも最も無茶だと思えるシュラインの提案だったが、京一とナハトが援護も兼ねる事とで何とかまとめる事になった。
「とりあえずりょうはぎりぎりまでタバコ禁止ね」
「解ってる」
 出来る限り刺激したくない。
「そろそろ時間ですね」
「……慎重に鮫のシッポをつかみに行こうか」
 それが始まりの合図。



 おびき寄せるのはIO2本部の裏手にある駐車場。
 その場所なら相手にとっては大きく出れない場所だが、自分たちにとっては命一杯動ける場所でもある。
 例え周りの車や建物に被害がでても、それはこちらの関与する事ではない。
 鬼鮫を押さえたとしても、まだ反対派が居る。それを集めるように誘導し、一気に捉えるというのが作戦だ。
「そう言う事ですから『多少』の怪我を負わせたとしても、そちらで処理してくださいね」
「……解った、努力しよう。殺すのは出来るだけ避けてくれ」
 澁い顔で管理官が釘を差すが、曖昧な表現は最大限に利用させて貰うとしよう。
 向かうのははIO2本部から500メートルほど離れたビルの屋上。
 そこからなら気付かれることなく周りの様子が観察できる。
 途中何もない空間から軽い音と共に現れたのは二人の少年と少女。
 悠也の式神の悠と也だ。
「ごめんなさーい」
「逃げられてしまいました〜」
「変な白い煙がぶわっと」
「動けなくなったのです〜」
 煙幕か何かの類だろう。
「ご苦労様」
 微笑んでから、裕也が管理官へと振り返る。
「何か、ご存じなんでしょう?」
「力を落とす結界か何かだろう、煙幕も兼ねて居るものだ」
「そう言う事ですか、向こうも交渉が始まったようですね」
「急いだほうがいいすね」
「上手く行けば、だけどね」
 京一がほのめかしたとおり、屋上に到着して幾らも立たないうちに後から数人の黒服がやってくる。
「なっ、ナハトだと!」
「くそっ!」
 相手にとってもここが監視しやすい場所だと踏んだのだろう。
 臨戦態勢にはいるのを見るやいなや、汐耶は前を見据え力強く一歩を踏み出す。
「あなた達は、何を考えてるんです! 組織でよってたかって個人を追い詰めるなんて、常識という物を知らないんですか?」
「我々は危険を排除しなければならない」
「排除? 虚無に対抗するためでこんな事をしているのなら、組織としての器が小さいんじゃありません?」
「ーーーっ、ナハトの罪はどう償う? 元犯罪者と虚無にいた人間だ、何時裏切るか解らない様な人間をどうして置いておける」
 ナハトとメノウに向けられた言葉。
 それが、一部の人間の本心だ。
「どうして解らないんですか、人と違うから、疑わしいから認めない? それってナハトがやった事の原因と何一つ変わって無いじゃないですか」
 これは……まさに魔女狩りだ。
 遠く昔から、なにも変わっていない。
「そもそも元を辿れば悪いのはそうして人と違うからと迫害してきた結果ですよね」
「それとこれとは話が違う」
「どう違うんです、ご意見があるならお伺いしますよ」
「そいつは罪を犯したんだぞ!」
「だとしたら、ナハトへの償いはどうするんですか」
「そんな物は時効だ!!」
 言うに事を書いて、話にならない。
 本質が、違うのだ。
 相手は自分と法律を守っている。
 そして自分たちが護りたいのは人と感情なのだ。
「どうしてそんな事が言えるんです?」
「規則と治安を持ってこそだろう」
「それも人が有っての事です……これ以上は平行線ですね。今すぐ辞めさせてください、そうしないとこちらも強攻策をを取らなくてはならなくなります」
 時間が立てば立つほど被害は増し溝は深まるばかりである。可能な限り、引いてもらい熱くなっている事を押さえて貰わなければならない。
「彼はもう気にしなくて良さそうだよ」
 京一の言葉に、携帯を閉じながら管理官が深々とため息を付く。
「許可は、降りた」
「……ナハトさんが個人で、正式に職員として登録されたそうです」
「なっ!?」
「……それで、いいんですか?」
 ナハトへと視線が集まる。
 今まで事の成り行きを見守っていたが、はっきりと頷く。
「構わない、俺も……ここで死ぬ訳には行かないんだ」
「そんな事が許されると……っ!!」
 京一に銃口を向けられ、先頭に立っていた黒服が手を挙げた後ずさる。
「決まりだね。ナハト君も死にたくない、死なせたくないと言うなら助けよう」
「ナハトさんはペットで家族ですから、手出しさせる訳には行きません」
 いつの間にか背後に回り込んでいた悠也も、当たり前のようにそう言って微笑した。
「……引いてください」
 もとより、ナハトに勝てる見込みがないから鬼鮫を出したのである。それがこれだけの人数が揃っていては、勝てるはずもない。
 無言のまま手を挙げた。


「交渉が始まったようですね」
 念のため彼らには屋上の片隅で眠って貰っている。
「上手く行くでしょうか」
「賭としては、確立は低いと思います」
 相手は鬼鮫だ。
 そう考えるのも無理はない。
 結局背後で寝ている彼らは統率が取れて折らず、反対派という器の中で動いていただけなのだ。
 鬼鮫は後押しされ動き出しだけで、鬼鮫を直接止めなければならないところまで来ていた。
「もしもの時は、これを使うしかないね。大抵は動けなくなるはずだ」
 スコープを覗きながら、ゆっくりと狙いを定める。
 京一が持ち出したのはスナイパーライフル。最後の手段だと言ったが、その手はいつでも引き金を引けるようになっていた。
「………あの、お医者様ですよね?」
 どうしてそんなに様になっているのか?
「もちろん、わたしは医者だよ」
 気にはなったが、それ以上は聞かずに汐耶は視線を移す。さっきから口数の少ない二人が気になっていたのだ。
「メノウちゃんは当然ですが、ナハトの事も友人だと思ってるんですよ」
 汐耶がメノウの髪を撫で、ナハトを見上げる。
「ありがとう、お姉さん」
「すまない……」
「当然でしょう」
 くすぐったそうな、そんな表情。
「そろそろ始まったようだよ」
「周りも、集まってきたようですね」
 京一と悠也の言葉に場の緊張感が高まる。
 会話を傍観していたナハトが、ハッと息をのみ右目を押さえる。
「まずい!」
 交渉決裂。
 直後に始まった小競り合い。
 近くに密集しすぎていて、距離を取って貰わないと撃つのは危険だ。
 眼を細めた京一がチャンスを待つ、飛びかかったりょうが殴り倒され離れた瞬間、引き金を引く。
 銃声。
 スコープの中の鬼鮫は、頭に銃弾を受け壁へと崩れ落ちた。
「どうなったんですか?」
「周りを押さえたほうがいい、急ぎましょう」
「……俺は先に行く、人以外の血が流れているならなら再生しかねない」
 踏み出しかけたナハトに京一も手を挙げる。
「わたしも同行しよう」
「解った」
 京一を背負い、ナハトがトンと屋上から飛び、建物の飛び石のように跳ねながら本部の駐車場へと一直線に向かう。
「とうして再生すると?」
「俺もあの程度なら死にはしない。動きは著しく制限されるが、無理すれば動けるかも知れないし……りょうが心配だ」
「殴られていたのは頭だったね」
 確かにそれは危険だ。
 降り立った二人を、ギョッとした視線が迎える。
 一人を除いての話。
「ディテクター……」
 ナハトは確かにコートを着た男に向かって、そう呟いた。
 素早くディテクターが銃を構えたのに続き、京一も建物の影に向かい威嚇の発砲を放つ。
「まだ終わっていない!」
 声と、何かが地を蹴る音が重なった。
 反射のみでの行動が狙ったのは羽澄とりょう。
「ーーーっく!」
 二人を庇うように立ったナハトが刀を受け止める。
「羽澄、りょうを頼む」
 だが……。
 伸ばされた二本の手に、グッと引き寄せられ後ろへと下がらせられた。
「下がってるのは……」
「ナトハだろう」
「………!?」
 何かを言うより早く、撫子の放った妖斬鋼糸が鬼鮫を絡め取り、無力化させる。
「……今度は、大丈夫のようですね」
 元々頭を半分吹き飛ばされたのだから、最後の抵抗だったのだろう。
 倒れた鬼鮫を連れていこうとする職員に気付く、ここで逃がしたらまた来る可能性がある。
「まだ残っている様だから、そっちも何とかしてこよう」
 銃で応戦していた京一が、逃げる人影を追い走り出す。
「わたくしもお手伝いします」
「……そうね、ここはお願い」
「お、おい!」
 怪我人はここに残ったほうがいい、そう判断し後を追う。



 後はディテクターに任せればいいと思ったのだが、あの場で銃撃戦をするよりは移動したほうがいいと考えたのだ。
「城田さん……」
「なんだい?」
 二丁拳銃で、行く手を阻む職員達を的確に撃ち抜いていく。
 その手際は一朝一夕で出来るものではなく、容赦のかけらもない。
「お医者様、ですよね」
「もちろんだよ」
 羽澄と撫子はそれ以上は聞かずに周りに専念する事にした。
「もちろんだよ」
 それ以上は聞かずに周りに専念する事にした。
 鬼鮫が動けない今なら、能力に制限はない。
「――――っ」
 振動が届く範囲全てにきらめき降りそそぐ光のかけら。奏でる歌が銃弾を防ぎ、触れる物を無力化させた。
 途中で二手に別れたが、鬼鮫はディテクターに任せ別行動を取り、足止めをしようとする相手を次々とうち倒す。
 出てきた相手を京一が撃ち抜き、撫子が拘束していく。
「何事も引き際が肝心だよ」
 冷静な口調のまま京一は、クリップで殴りつけもう一人が立つ方を見ることなく引き金を引く。
「……くそっ!」
 どうと地面に倒れ込んだのが、こっちに逃げた最後の一人。
 辺りにはもう敵意を持った気配がないのだから、そうだろう。
「鬼鮫様は?」
「ディテクターが追ったみたいだから、きっと大丈夫よ」
 ここまでやったのだって、大サービスだ。
 戻ってきたディテクターに気づき、振り返る。
「助かった。鬼鮫も反対派も……後は全てこちらで処理しておく。早く戻ってやってくれ」
「解ったわ」
 元居た場所に戻ると、別行動を取っていた者も集まり始めているのは解るが、見た事のない男が一人が鼻を折られ倒れている。
「この人は?」
「一応IO2でそれなりの権限を持ってる人間だ」
 夜倉木の説明にりょうが付け加える。
「この事件煽ったのこいつだって言うから、思わず殴った」
「そう言う事」
「なら仕方ないね」
「……いいんでしょうか?」
 僅かに首を傾げた撫子に、全員で頷いた。
「これぐらいは大したこと無いわ」
 まあ当然の報いだろう。
「りょうは大丈夫なの?」
「そうですわね、先ほど頭を怪我なさっていたようで」
「それなら大丈夫」
 断言するりょうに、京一がトンと肩を叩く。
「何かあったらいつでも来なさい、わたしは整形外科だから見れないが、良い医者を紹介しよう」
「……医者?」
 返り血に僅かに引いたあと京一に本日三度目の質問が繰り返されたのは、ご愛敬だろう。



 事件の裏でも色々な人が動いていたようで、鬼鮫が引き上げた事を切っ掛けにピタリと事件は治まった。
 反対派と言われていた31人は、現在処分をなされ資格を剥奪されたり休職中であったりと言うことになっている。
 これが多いか少ないかは判断は出来ない。
 関わった人数もいれれば、きっともっと多いはずだろう。
 ただ解るのはこの事件が人だから、感情があるが為に起きたのだと言う事だ。
 自分を護るため。
 誰かを護るため。
 利己的な感情に、甘さや弱さ。
 不安と恐怖。
 出来るのは、自分や人を貫き通す信念。
 今回は、相手に目を向けるという行動が足りなかったのがこの事件の大きな要因だ。
 そして話し合わなければならないのは、これからがどうなるかという事。
「もう二度とこんな事がないようにお願いします」
「その点については無いとお約束しましょう」
 本部の一室に場所を移した一同が、それぞれの疑問をぶつける。
「その事は当然だとして、これからのりょうさんとナハトの扱いはどうなったの?」
「反対派がどうなったかもキッチリ知らせて貰わないとね」
 シュラインと羽澄に尋ねられた影が鼻をさすりながら書類のコピーを差し出す。
 やけに物分かりがいいのは、反省したとかではなくこうしないと納得しないと踏んでの事だろう。
 本来ならこんな事納得何てしたくはなかった。
 だが……そうせざるをおえないような、そんな状態にさせられていたのである。
「今回の件で、大幅に職員が減ったり謹慎処分だったりしているからねぇ、虚無が動き出すかも知れない」
「ーーっ!!」
 このごたごたはしばらくの間続くだろう。そしてそれは影の言う通りである。
 今ここを離れれば狙われる危険があるのだ。
「職員として権限もバックアップも惜しむつもりはないですよ〜、だから盛岬さんとナハトさんには残って職員として登録していただきたいと思います?」
 断る気がないと踏んでの事だろう。
 だがこのままではあまりにも納得がいかない。
「じゃあこうしませんか、このままでは誰も納得しないと思いますから」
 立ち上がった悠也が、MDプレイヤーを渡す。
「これは?」
「調べさせていただいた結果の一部です、色々なさってますね」
「……それはまた」
 内容を確認しようとイヤホンを耳にした影が安っぽい笑顔のまましばらく沈黙する。
「……何をなさったのですか?」
 小声で問いかける撫子に、悠也が笑顔を返しながら微笑する。
「彼も、叩けば埃が出ると言うことですよね」
「何がお望みですか」
「どうせなら、罪滅ぼしで色々と保証して貰おうと思ったんです」
 目の前で行われる『交渉』に京一が苦笑する。
「やるねぇ、きみ」
「それほどでも」
「……それで、ご要望は?」
「相ですね、ゆっくり考えさせていただくつもりですが……何かあります?」
 視線を巡らせた悠也に、手を挙げたのはりょう。
「じゃあ、今回事件に関わった31人がどうなるか、俺に決めさせてくれないか?」
「は?」
「弱みは握ってるんだ、あっさりと首を切るより……動かせる人間は多いほうがいいだろ?」
 ニッと笑うその表情は、誰かを彷彿とさせた。
 あえて名前は指摘しなかったが。
「あくどいわね……」
 踊らされるだけ何て許すはずがないのだ。
 だから今は、表面上だけでも痛み分けと言うことにしておこう。




     【終わり】

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0164/斎・悠也/男性/21歳/大学生・バイトでホスト】
【0328/天薙・撫子/女性/18歳/大学生(巫女)】
【1282/光月・羽澄/女性/18歳/高校生・歌手・調達屋胡弓堂バイト店員】
【1449/綾和泉・汐耶 /女性/23歳/司書 】
【2585/城田・京一/男性44歳/医師】

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■         ライター通信          ■
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シルバー・ブレットに参加していただきありがとうございました。

一つの物でも視点が違えばまったく違う物になります。
タイトルの銀の弾丸もナハトにとっては危険なものであり、
魔術的な意味では魔除けでも有るそうです。

今回のプレイングも読んでいて嬉しくて仕方なかったり。
頼れになる人で一杯です。
りょうもナハトも
敵が多かったり抱えている物も多かったりしますが、
これだけ味方になってくれる方がいれば大丈夫かなと思ってみたり。
本当にいつも感謝しております。

今回の分け方としては。
■オープニング大体6コ(長さに差が有りますが、全員分)
■興信所の打ち合わせは合同。
■作戦中前半
 シュラインさん。羽澄ちゃん。撫子さん
 汐耶さん。悠也君。京一さん
■作戦中後半
 シュラインさん。汐耶さん
 羽澄ちゃん。京一さん。撫子さん。
 悠也君
■最後は合同。
と言う分け方です。
他の方のノベルに影響が出ている場合もあります。

それでは、本当にありがとうございました。