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<東京怪談ウェブゲーム アトラス編集部>


鬼龍の里にようこそ!

【オープニング】

「鬼龍の里……誰を取材に行かそうかしら」

 と、碇麗香が、本日数度目になる溜息を、また漏らした。
 編集長の椅子に浅く腰掛け、形の良い足を組み、片肘は机に乗せて、中途半端に頬杖を付き……ちょっと小首を傾けて窓越しに曇り空を見上げる姿など、どこぞの雑誌の美人写真集にそのまま売り込めるほど、実に、アンニュイな雰囲気を醸し出している。
 もっとも、その姿に見惚れることの出来る人間は、実は、アトラスの実態を知らない者だけに限られるのだが。
 碇麗香は、鬼である。
 少なくとも、ここに籍を置く某平社員は、そう確信している。
 もちろん、面と向かって、それを言えるはずもない。心の奥底で、ばれないように、こっそりこっそりと、主張するのみである。
「三下!」
 不機嫌も顕わに呼びつけられ、某平社員こと三下忠雄は、端で見ていて哀れになるほど、飛び上がった。
「はいぃぃ……」

 ああ、また、自分が、訳のわからない取材に行かされるのだ。
 何て言った? 鬼龍の里? 鬼と龍?? 名前からして、得体が知れない。何だか、和風な化け物がウヨウヨといそうではないか!
 怖いよぅ……。

 三下は、今まで願いを叶えてもらった試しのない神様に、人生何万回目かのお祈りを、懲りもせずに、捧げてみた。
 でも、また、行かされるんだろうな…………きっと。
 諦めモード満載で、がっくりと項垂れた時、不意に、麗香の優しげな声が、頭の上に降ってきた。

「そんなに嫌なら、今回は、行かないで良いわ。三下くん」

 初めて、お祈りが通じた一瞬。
 碇麗香の背後に、間違いなく、後光が差して見えた。

「編集長ぉぉ……」

 他のバイトやら暇人やらを数人呼びつけて、碇麗香が、彼らに、取材の内容を伝え始めた。

「古い伝統文化を大切にしている里でね。そこの人々の素朴な暮らしぶりや、伝わっている伝説なんかを、取材してきて欲しいの。完全に自給自足の村だから、あらゆる物を、自分たちの手で作り上げているらしいわ。染め物、機織り、陶芸、刀鍛冶……。温泉もあるんですって。ちょうど里の重要な祭りも終わって、村人たちにも時間が出来たから、ゆっくりおくつろぎ下さいって、里長が言っていたわ」

 その里長ってのが、これまた清楚な美少女なのよね〜。
 碇麗香の話は続く。
 三下は、自らが、騙されたことを知った。
 そう。
 今回の取材は、幽霊取材ではないのだ。
 古き遺産、伝説の探索。探求。
 素朴な里人たちとの、交流。
 聞けば聞くほど、羨ましい。羨ましすぎる!

「編集長…………ぼ、僕も……」
「馬鹿言ってないで、使い物になる原稿の一つでも、さっさと仕上げて来なさい」

 下っ端の意見は、あっさりと、却下された。
 ご愁傷様である。





【花瀬家の居候】

「祀ちゃん。鬼龍に行くの?」
 家に有象無象に住み着いている妖怪たちの一人が、花瀬祀に問いかける。
 おはよう、と初めに挨拶を交わした、あの小さな妖怪だ。お気に入りの庭の立木に腰かけて、足をぶらぶらさせながら、妖怪は、何故だかひどく嬉しそうに、うんうんと、何度も何度も頷いてみせるのだった。
「あそこは、いい所だよ。とっても、綺麗な所だよ」
「…………って、行ったこと、あるの!?」
 祀が思わず聞き返す。妖怪は、薄い胸を、精一杯、反らせた。
「もう、ずっと昔にね」
「あ、あんたって、一体……」
 玄関の引き戸を開ける音がして、続いて、誰かが祀を呼んだ。同じ学校に通う、橘沙羅だ。今回の小旅行に、二人で出かけることになっていた。本当は、他にも二人ほど、一緒に行きたい友人がいたのだが…………諸々の理由により、同行が叶わなくなってしまったのだ。
「祀ちゃん、早く行かないと! 鬼龍への電車はほとんど無いって、碇さん、言っていたよ。置いてかれたら大変!」
 大きなボストンバッグを抱えながら、沙羅が慌てた声を出す。わかった、と、祀は、こちらもわずか数泊の旅行にしては大きすぎる鞄を、よいしょと背負い直した。
「よーし! 走るよ、沙羅! 急ぐよっ!」
「ま、祀ちゃん、待って! 沙羅、そんなに早く走れないよ!」
 大慌てで、ばたばたと走り去って行く二人の背中に、小さな妖怪が、遠間から声をかけた。
「どうせなら、彩藍(さいらん)染め、見ておいでよ! 鬼龍にしかない、彩藍っていう花の染め物だよ。ものすごく、綺麗だから……出来れば、一つくらい、彩藍の反物、もらっておいでよね!」
 




【刀剣鍛冶師】

 当然と言えば当然の話だが、鬼龍の里には、宿がない。
 元々、外の人間をもてなすつもりなど毛頭無い、自給自足が原則の郷である。お客の寝泊まりできる施設が用意されているはずもなく、今回鬼龍を訪れた十六名という団体様ご一行は、五、六人の組に分かれて、それぞれが、里人の家に居候を決め込むことになっていた。
 橘沙羅と花瀬祀が泊まることになったのは、流(ながれ)という名の、若い刀剣鍛冶師の家だった。
 男の家に居候なんて、と思ったものの、実質的には、この鍛冶師は、一日中家にいなかった。別に仕事場があり、そちらに入り浸りなのだ。
 広い家が、そのため、完全に使い放題である。里長も、主が留守なのを考えて、二人に家を宛ったものであるらしい。
「刀……かぁ」
 極端に物の少ない部屋に、唯一飾ってあるのは、やはり刀。
 沙羅も祀も、本物は、ほとんど見たことがなかった。テレビや雑誌で、何かの折に、ちらりと目にしたことがある程度だ。
 恐る恐る、手に持ってみる。予想以上に、刀は重かった。両腕に、ずしりと重みがのしかかってくる。鞘を抜くと、ぞっとするほど冷たい刃が、ぎらりと光った。
 磨かれた鏡のような光沢。覗き込んだ少女たちの不安げな表情を、そのまま、鋭利な鋼の面が、映し出す。

「触るな」

 不意に、後ろから声を掛けられて、二人は文字通り飛び上がった。
 振り返ると、そこに、見知らぬ男が立っていた。
 この家の主だ。名を聞いたわけでもなかったが、二人はそう思った。慌てて、その必要もないのに、居住まいを正す。鍛冶師は、家に客が上がり込んでいても、何も感じるところはないらしく、ゆっくりして行け、と素っ気なく言い放つと、玄関脇にかけてある上着を取り、身を翻した。
「ちょっと待って!」
 祀が、それを呼び止める。鍛冶師が足を止めた。
「何だ?」
「えーと。あたしたち、一応、取材に来たんだけど」
「適当に見て回ればいいだろう」
「それが出来れば苦労ないってば! 適当って言っても、何をどう見ていいのか、わかんないし。一応、染め物とか見たいなって、二人で言ってたんだけど」
「染め物……か」
「彩藍染めっての、見てみたいんだけど」
 いかにも都会の素人娘に見えた祀の口から出た、「彩藍」の一言に、鍛冶師が、ひどく驚いた顔をした。
「鬼龍でも、彩藍染めが出来るのは、夕紗(ゆうさ)だけだ。だが……今はやめておいた方が良いな」
「なんで?」
「既に先客が来ている。途中で割り込むのは趣味ではないだろう」
 あからさまにがっかりした様子の二人を見て、別に彼自身が悪いわけでもないのだが、刀工は、バツが悪そうに目を反らした。
「俺には彩藍染めは出来んが、彩藍の花なら、見せてやれる。付いて来い。話のネタくらいにはなるだろう」
 刀工が、歩き始める。
 他にすることもない少女たちは、お互い顔を見合わせて一つ頷くと、彼の後を追いかけた。





【彩藍】

 遠目から見ると、湖にも見えた、青い花の連なり。
 草の緑に紛れるはずの青色が、色艶やかに存在を主張する。風に揺れ、生きた波のようにざわめいた。まるで、海の中にでもいるような錯覚に囚われる。
「すご……い」
 彩藍は、一つ一つの花の大きさが、大人の男の握り拳ほどもある。花弁は幾重にも重なり、一枚一枚が薄く、向こう側が透けて見えた。丈は、膝の高さほど。匂いは無く、花の規模と比べると、茎や葉は驚くほど華奢だった。
「この花で染めるの?」
 祀が、鍛冶師に問いかける。
「そうだ」
 刀工は答えたが、実は、それ以上は、彼もよくは知らなかった。彼の専門は刀鍛冶で、染め物ではないのだ。質問されても、困惑するだけである。
「えっと……あたしも、聞きかじった程度の知識しかないんだけど。染め物って、染料一つ作るにしても、色々な方法があるでしょ? この里では、主にどんな方法を使っているの? まさか、生葉を擦り込むわけじゃないよね。そんなんじゃ、上手く染まんないし。やっぱり、発酵法かな? 今、あなたが着ている服も、彩藍でしょ? そんな鮮やかな色、簡単には出ないもんね」
 さすが、老舗の呉服問屋の娘。本人は嫌っていても、その手の知識は、素人よりは豊富にある。尋ねられた刀工は、早速、返答に窮した。返答に窮すると、この男、いつもの無口に、更に磨きがかかるのである。
「知らん」
 実にわかりやすい答えが返ってきた。
「ちょっとぉ! 知らないって、何よ! 知らないって!」
「俺に聞くな!」
「だって、ここには貴方しかいないでしょ! 他に誰に聞けっての!」
「夕紗に聞け! 俺は知らん!」
「だから、夕紗ってのが、どこにいるっての! 今ここにはいないでしょーが!!」
 まるっきり、子供の喧嘩になってきた。
 沙羅が、はらはらと二人を見守る。
「あ、あの、祀ちゃん、喧嘩は……」
 止めに入ったが。
「止めないで、沙羅! 男に負けてたまるかー!!」
 既に取材の意思は頭には無いらしい。どちらかと言うと、父親を含む頑固な男全般に対する、意地のようなものが全面に出ている。何かが違う……と沙羅は思ったが、頭に血の昇った祀を止めるのは、親友の彼女とても至難の業だった。成り行きを見守るしかない。
「なんてうるさい小娘だ……」
 言わなければいいのに、つい、本音が、刀工の口から零れ落ちる。それを聞き逃す祀ではなかった。
「なんて言ったっ!? 今、うるさいって言った!?」
「ああ、言った! 言ったがどうした!!」
「なぁんですってぇ!?」
「祀ちゃん、落ち着いて! 喧嘩は駄目だってばこんな所で!!」
 沙羅が、後ろから祀にしがみつく。祀にしがみつきながら、一番何も悪くない彼女が、謝った。親友より、鬼龍の鍛冶師より、彼女の方がよほど冷静である。
「…………帰る」
 急に頭が冷えたらしく、刀工が、ぽそりと呟く。何だか、ひどく疲れた顔つきをしていた。十代の女の子に振り回されるなど、およそ経験したことがないのだろう。無理もない反応である。
「あの、あの。すみません。お家まで、お借りしているのに」
 沙羅が取りなす。鍛冶師はもういいと手を振った。
「家のことはいい。好きに使え。……どうせ、ほとんど住んでいないしな」
 歩きかけ、ふと、立ち止まる。
 振り返りもせず、不思議な言葉を、一つ、残した。
「間もなく、日が暮れる。橘……と言ったな。歌を歌えるなら、一つ、何でも良いから、歌ってみろ。鬼龍の精霊どもは、歌好きだ。声が届けば、何か珍しいものを見せてくれるだろう」



 鬼龍の里人が去った後、沙羅と祀が、ぽつんと二人残される。
 何だか捨て置かれたような気分になって、一刻も早く帰りたい衝動にかられたが、鍛冶師の残した思わせぶりな台詞が、二人の足をその場に留めた。
 沙羅が、両腕を後ろに組み、一つ、二つ、深呼吸を繰り返す。
 澄んだ空気を胸一杯に吸い込むと、足下から、不思議な感覚が沸き上がってきた。

「うん。気持ちよく歌えそう」

 鬼龍の精霊に、捧げよう。
 間もなく日が暮れる。迎える夜に相応しい、静かな歌を、聴かせてあげよう。難しい古歌など知らないが、想いを込めれば、言葉を越えて、届くはず。
 目には見えない、無数の、小さな小さな、人ならざる者たちに。

 細い声が、少しずつ、質量を増し、茜色に染まりつつある空の中に、吸い込まれて、消える。
 
 花が、ざわめく。初めは、二人とも、風だと思った。
 風が吹いて、ざわめいているのだと。
「え……なに。違う!」
 橙の光を受けて、青い花畑が、紫色に鮮やかに染まる。花が一斉に同じ方向を向き、落日の雫を眩く弾いた。青と茜が混じり合ったその間から、何かが、遠慮深げに、浮かび上がる。
 信じられない。
 少女たちが、呆然と呟く。蛍が、幾つも幾つも、舞っていた。

「うそ……。蛍? 昼間なのに。夏じゃないのに。蛍!?」
 
 声が届けば、何か、珍しいものを、見せてくれる。
 鬼龍の里人が、そう言った。
 あれはこの事だったのかと、呆然とする。蛍の群は、一斉に飛び立って、あっという間に見えなくなった。後には、静寂と、二人の少女が、とり残されるばかり。
「すごい……すごい! 沙羅、届いた! 本当に届いたよ!!」
 祀が、我が事のように、嬉しそうに飛び跳ねる。沙羅が、その場にへたへたと崩れ落ちた。
「あぁ! 沙羅! 大丈夫!?」
「だ、大丈夫……ちょっと、びっくりして」
 
「その様子では、珍しいものを見れたようだな」
 いつの間にか、鬼龍の少し無愛想な鍛冶師が、花畑の片隅に、立っていた。よく考えてみれば、二人の女の子は、ただの客人なのだ。ここに置いてきてしまったら、帰り道がわからない。慌てて戻ってきたのである。
「日が暮れる前に、今度こそ、帰るぞ」
 案内役を先頭に、二人が歩き始める。
 思ったほどは、悪い奴じゃないかも知れないと、ほんの少し、花瀬祀の、鬼龍の職人に対する悪印象が、改善された。





【夜の光に】

「ねぇ、祀ちゃん、今日はびっくりしたね」
 美味しい郷土料理に舌鼓を打って、未成年には目を瞑って、ちょっと酒の味も楽しんで、深夜、ようやく二人は布団に潜り込んだ。
 さっさと寝るのが、これはこれで勿体ない。過ぎゆく時間が、ひどく惜しく感じられる。
 修学旅行を満喫しているような気になって、行燈の儚い光をお供に、いつまでも語り合った。人数が揃っていれば、枕投げ大会なども楽しみたかったのだが……つくづく、二人きりなのが、悔やまれる。
「明日は、何があるかなぁ……」
 開け放しの襖の向こうから、外の明かりが、直接、漏れてくる。
 月がこんなに大きいなんて、知らなかった。星の明かりも、手で掴めそうなほど、はっきりと見える。

「ここは、不思議な場所だね」

 ゆっくりと、目を閉じる。
 また、明日が巡ってくるまで…………一時の眠りに落ちた。





【前夜】

 鬼龍の里の、狭い畦道を縫うようにして、人影が、歩く。
 一つ、二つ、と、確実に、影の数が増えて行く。
 厚い雲に翳る儚い朧月が放つ、わずかな光も避けるようにして、影は、やがて、一つ所に集まった。聳え立つように上へ上へと続く階段を登り切ると、そこには、黒光りする社があり、彼らは躊躇う様子もなく、中へと踏み込んだ。扉を閉めた。
 静寂が、濃く、重く、色を落とす。
「この鬼龍に、また、外の人間が来る」
 唐突に、口を開いたのは、老人。
 集まっている者たちの中では、群を抜いて、彼は、年老いていた。いかにも厳格そうに引き結んだ口元を、怒りとも嘲りともつかぬ強烈な負の感情が、小刻みに震わせている。
「あの娘は、この鬼龍の伝統を、ことごとく汚す気か」
「元来、外の者には見せてはならぬ仕来りの祭儀を、ああも簡単に、開放したからな」
 また別の里人が、肩をすくめる。仕方ない、と、彼は言った。
「あの雁夜(かりや)の、妹だ。素直に見えて、実に反抗的だ。内心、壊れてしまえばよいと、考えているのやも知れぬ。神官の家系に生まれた者の、これは、いわば、宿世だな」
「壊れてしまえばよい、か。恩も忘れて、よく言った」
「私が言ったわけではない。さて、それよりも、客人たちはどうする?」
「一人、二人、来た時と帰る時の人数が違えば、もう二度と、ここに来たいなどとは思わぬだろう」
「それは面白い」
 影たちが、笑った。笑ったが、声はない。無音のまま、唇だけを歪めるような、奇妙な笑い方をした。
 それで良い。通夜よりも陰気なこの場に、明るい声は似合わない。陽気な殺意など、不気味なだけだ。
「この鬼龍を守るためだ。我らに間違いはない」

「そうかな?」

 どん、と扉を蹴破る音がして、全員が、はっとそちらを見た。
「流(ながれ)!」
「やれやれ。愚鈍な長老方が、何やらコソコソと集まっているかと思ったら。客人たちに悪ふざけの相談か。この郷の古狸は、よほど、外の世界が嫌いと見える」
「お前……いつ、東京から」
「ついさっき」
 流、と呼ばれた男は、里人ではあるが、里に半永久的に住んでいるわけではなかった。とうの昔に鬼龍を出て、今は、日本の数多ある都の中では最も乱雑な不夜城に、紛れるように住んでいた。
 故郷にたくさんの客が来る、と聞いて、大急ぎで戻って来たのだ。くだらない事を画策する輩が、一見平和に見えるこの里にも、獅子身中の虫のように蔓延っていることを、彼は、本能でちゃんと知っていたわけである。
「俺だけではないぞ。長老方。采羽(さいは)も戻ってきている。それに、この里では、所詮、あんたらは少数派だ。里には、外の人間に好意的な者の方が遙かに多いのだからな」
「邪魔する気か」
「当然だろう。そのために、わざわざ東京から戻ってきたんだ。俺も、采羽も、決して暇な身ではないというのに」
「鬼龍を見限り、勝手に出て行ったお前たちが、何を今更!」
「見限ったわけではないさ。ここは、俺の故郷だ。たとえ、一年の半分以上は、住んでいなくとも」
「裏切り者!」
「人聞きの悪い。俺は変化には抗わないだけだ。それこそ、神の意志とやらだろう?」
「神を騙るか。お前が。鬼龍に生まれながら、神を信じたこともない、お前が!」
 馬鹿が。
 流が呟く。いよいよ月明かりも消えて真の暗闇となった空間に、乾いた笑い声が、響いた。
「教えてくれ。長老方。神とは何だ。ただ自由でいたい者を、縛るだけの存在か」
「流!」
「今回は、諦めることだな。鬼龍の客人は、鬼龍の美しい部分だけを見て、満足して帰るんだ。お前たちの悪趣味な悪戯は、ことごとく失敗に終わる。忘れるな。里長は真名だ。お前たちじゃない。くだらん手出しをしてみろ。鬼龍の太刀方(戦士)の名にかけて、誓って、貴様らを皆殺しにしてやるからな!」
 扉が、閉まった。来た時と同じく、耳を塞ぎたくなるような、大きな音を立てて。

「くっ……。あれが、この鬼龍の鍛冶師の筆頭とは」
「今回は、見合わせよう。奴のことだ。本当に、何をするかわからぬ」
「どのみち、奴には、時間がないしな」
「ああ……そうだ。そうだった」
 影たちが、笑った。今度は、声のある笑い方だった。

「鬼龍の筆頭鍛冶師で、三十歳まで生きながらえた者は、いない。どうせ、流も、あと五、六年で、いなくなる運命だ……」





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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】
参加PC様
【0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま) / 女性 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務所】
【0381 / 村上・涼(むらかみ・りょう) / 女性 / 22 / 学生】
【0554 / 守崎・啓斗(もりさき・けいと) / 男性 / 17 / 高校生(忍)】
【0568 / 守崎・北斗(もりさき・ほくと) / 男性 / 17 / 高校生(忍)】
【0778 / 御崎・月斗(みさき・つきと) / 男性 / 12 / 陰陽師】
【0921 / 石和・夏菜(いさわ・かな) / 女性 / 17 / 高校生】
【0992 / 水城・司(みなしろ・つかさ) / 男性 / 23 / トラブル・コンサルタント】
【1294 / 葛西・朝幸(かさい・ともゆき) / 男性 / 16 / 高校生】
【1548 / イヴ・ソマリア(いう゛・そまりあ) / 女性 / 502 / アイドル歌手兼異世界調査員】
【1582 / 柚品・弧月(ゆしな・こげつ) / 男性 / 22 / 大学生】
【2194 / 硝月・倉菜(しょうつき・くらな) / 女性 / 17 / 女子高生兼楽器職人(神聖都学園生徒)】
【2226 / 槻島・綾(つきしま・あや) / 男性 / 27 / エッセイスト】
【2489 / 橘・沙羅(たちばな・さら) / 女性 / 17 / 女子高生】
【2528 / 柏木・アトリ(かしわぎ・あとり) / 女性 / 20 / 和紙細工師・美大生】
【2575 / 花瀬・祀(はなせ・まつり) / 女性 / 17 / 女子高生】
【2648 / 相沢・久遠(あいざわ・くおん) / 男性 / 25 / フリーのモデル】
NPC
【0441 / 鬼龍・真名(きりゅう・まな) / 女性 / 16 / 神官】
【0977 / 鬼龍・流(きりゅう・ながれ) / 男性 / 24 / 刀剣鍛冶師】
【0978 / 鬼龍・采羽(きりゅう・さいは) / 男性 / 25 / 奏者】

お名前の並びは、番号順によります。
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■         ライター通信          ■
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こんにちは。ソラノです。
総勢十六名の多人数ノベル、やっと完成しました。
人数が人数なので、必ずしも、皆様の希望が100パーセント取り入れられているわけではないことを、まずは、お詫びいたします。
ただ、現段階の私の持てる力で、精一杯、書かせて頂きました。
途方もなく長くなっている方もいます。まとめ能力のない未熟なライターで、申し訳ありません。

基本的に、プレイングの内容、雰囲気を、重視しました。
純粋に、知人同士で小旅行を楽しみたい方は、グループノベル形式で、終章【前夜】を覗いて、明るい雰囲気を目指しています。
一方、プレイングに、
・ 里長や鬼龍の職人と話す
・ 鬼龍の神や精霊に歌や祈りを捧げる
・ 鬼龍の社、神木が気になる
等、鬼龍に関する事柄を書いて下さった方のノベルには、NPCが登場したり、鬼龍ならではの何らかの不思議現象を目にしたりと、少し、内容が突っ込んだものになっています。(中には、NPCとのツインノベル形式になっている方もいます)
NPCが登場すると、話を進めやすいので、つい長くなってしまいます。その分、読みにくいかも知れませんが、どうかご了承下さい。

あと、色の話です。
すみません。お土産を、と考えていたのですが……これ以上長くするわけにはいかないと、削ってしまいました。
今後、依頼文等でお見かけすることがありましたら、何かの折に使わせて頂こうと思います。

それでは、今回、鬼龍の里へいらして下さった皆様、本当にありがとうございます!
里長一同、心よりお礼を申し上げます♪