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<東京怪談・PCゲームノベル>


剣を取ったらファンタジー?〜中編〜

■MAINMENU

 東京の一角にある未来型テーマパーク。
特殊な装置を使ってリアルすぎるほどのバーチャル空間でゲームが出来るそこで、
参加者が意識を失ったままログアウトできなくなる事件が起こった。
 解決する為には、ゲームの世界の中のどこかにある、
”魔王の剣”という物を手に入れなければならないという。
名乗り出た数名の者達が調査の為にゲーム世界に入り調査は開始された。
調査の結果、”魔王の城”がある都の前まで来た彼らは、
都のどこかにいる”聖女”を探す事が魔王を倒す鍵になると知る。
 しかし突如、『強制排除』プログラムが働いて、
探索に向かった全員は一度強制ログアウトされてしまった。
担当者達は急遽、修正プログラムを実行してなんとか再ログイン可能になった。

とりあえず、今回ログインした者は”聖女”を探す事からはじめる事になった。


■START

「待っていたわ!魔王を倒す為に選ばれし勇敢なる勇者達よ!」
 全員がログインし、都の前に到着した途端…都の手前にあった大きな岩の上で、
長いヴェールを被り…紫の衣装に身を包んだ占い師風の女性が高らかに声をかけてくる。
一瞬、身構えた全員だったのだが…。
「あたしは”諭しの『エリ』”さあ!皆の者よ…私の後に続くが良い!」
 どうにも敵意があるとは思えないその様子に、全員揃って顔を見合わせた。
「もしかしてNPCかしら…?」
 ふと、黒服銃士の『エン』がぽつりと呟く。言われてみれば、確かにそんな様子に見えない事もない。
しかしそれにしてはどうも背後を感じることが出来るような動きをしているのだが…。
「とりあえず何か聞いてみましょ?」
「そうですね」
 薄桃で可愛らしいイメージの衣を纏った召喚士『イヴ』と薄青のローブを纏った僧侶の『みなも』が前に出て、
岩の上のエリに声をかける。エリはなにやらポーズを取り掛け声とともに砂の上に飛び降り…顔面から見事に着地した。
「大丈夫かエリちゃ―――ん?!」
「なんて事だ!女性にとって顔は命なのに!!」
 それを見た瞬間、中華風の衣装の武術士の『ヤト』と西洋風な武闘家の『ライ』が猛然とダッシュで駆け寄る。
「あの様子ですと…NPCではないようですわね」
「あれもなんつーの?プログラムってヤツだったら、ある意味凄いよな…」
 さらにその様子を見て、露出度の極めて高い衣装の女剣士『デルフェス』と道化師のような服の遊び人『レンレン』が呟く。
「俺はああいう大人にはなりたくないな…」
「大丈夫ですよ。あなたは女の子なんですから」
 思わずこぼす弓使いの小柄な黒髪の少女『シズカ』に、
フード付きの白いローブを纏った白魔法使いの『リュート』が微笑みながら返した。
「どちらにせよあのエリさんって方が何かを知っているかもしれませんね」
「そうだな…とりあえず話を聞いてみた方がいいだろうな…」
「ええ、僕もそう思います」
 にぎやかに騒いでいる前衛から一歩引いた場所で、
薄緑のローブを着た白魔法風使いの『ウタタ』と、同じく青をベースのローブの白魔法使い『セリ』、
そして動きやすいように最低限の防具を身につけた魔剣士の『セイ』が冷静に会話していた。
 地面に顔面着地したエリはというと…ヤトとライに助け起こされて恥ずかしそうにしつつも、
全員の視線を集めている事に気付くと慌てて咳払いをしてその場を取り繕おうとし…。
「よくぞ集った!えーと、1、2、3、4………12人の勇者よ!」
 一人一人を指で指しながら数えてから声を張り上げた。
「それはさっき聞いたわ?その勇者って言うのは何なのかしら?何か知ってるのなら教えてくれない?」
「わかっています。えーと…い、イヴさんでしたっけ?あたしは占い師であり予言師である…
ここに皆が集う事も、どのような者がやってくるのかという事も、あたしにはしっかりとわかっているのです」
「疑うわけじゃないけど、どうも胡散臭いよな…」
「なに言ってるんだシズカちゃん!女性に失礼だよ?
それにそんな言葉遣いをしていると、せっかくのキミの可愛さが半減しちゃうだろ?」
「つーか、ヤトさん、あんた動き早っ…!さっきまでエリってヤツのとこに居たのに」
「可愛いコが居ると俺のレーダーは常にバリ3なんだよ♪」
「バルサン?」
「ってそれじゃあゴキブリ退治になっちゃいますよ」
 シズカとヤトの会話を聞いていたみなもが苦笑しながらツッコミを入れる。
ヤトは嬉しそうにその手を取ると、にこやかに「ナイスツッコミだね」と微笑みを向けた。
「静粛になさい!あたしの話を聞くのです!」
 そんなやり取りを、エリは遮って自己主張をする。
再び、全員の視線が自分に集まった事を確認すると満足そうに杖を持っている手を掲げて。
「あたしはこの世界が変わり行く様を見てきました…全てお話ししましょう!そして勇者たちに導きを…」
「見てきた…って事は、もしかしてエリさん…」
「やっぱりNPCじゃなくて…取り残されたプレイヤーさん…?」
 声を張り上げるエリを見ながら、リュートとエンが小声で話をする。エリはそれをさらりと聞き流し。
「さあ!あたしの占いの能力をもって…導きを!」
 声を高らかに張り上げると、手にしていた杖を砂の上に立てた。
そして、もっともらしい呪文のようなものを口元でもぞもぞと呟いたかと思うと、
「えい!」と言う、掛け声とともに杖から手を放した。
杖は一瞬そのまま制止したかと思うと、ゆっくりと…右方向へと倒れていく。
全員が静かにその様子を見つめる中―――エリはその倒れた杖を拾い上げて、堂々とした声で叫んだ。
「さあ!我々の行くべき道は右側つまり、都に突如出現した”駅前”ですっ!!」

ゴ―――――ン…。

エリが叫んだと同時に、都に広がっていた石化の霧が晴れる事を示す鐘の音が鳴り響いたのだった。


■Search:The park in front of a church〜教会前の公園〜


「やっぱりエリさんの御告げに従うべきでしたかねー?」
 リュートが迫り来る長くぬめっている、吸盤のついた触手を殴り飛ばしながら叫ぶ。
「まだわからないですわ!これを倒すと何かあるかもしれませんわ!」
 同じく、触手を剣で切りつけながらデルフェスがそれに答えた。
「とりあえず今は目の前の危険回避が最優先ですね…皆さん、気をつけて」
 同じように剣を振るい、セイは切り落とされた触手にとどめを刺すように上から踏みつける。
実体化した彼の持ち霊である、狼霊の吹雪がさらにそれに噛み付くと…まるで灰になるように消えた。
と、その反対側で攻防をしていたリュートの頬を、触手がかすめて鮮血が飛ぶ。
「リュートさん!!」
 すかさずそれを見たみなもは、回復の魔法をリュートにかけてすぐに治療する。
先ほどから、こういったコンビネーションの連結でさしてダメージも受けずに、四人は、ある物体と戦っていた。
 ある物体…それは…



 エリの棒倒しという古典的で、しかし胡散臭い占いには従わず、
それぞれの公園推測から教会前の公園の探索をする事にした四人は相談しながら公園に向かう。
「わたくしが思いますのは…きっと魔王は自分への唯一の脅威になる”聖女”様が、
教会で祈りを捧げ終わり安心したところを石に替えて…
住民たちへの見せしめにそのまま放置している可能性があると思いますわ…ああ、おいたわしや…」
 デルフェスが切なそうに瞳を揺らして祈りを捧げるように両手を組む。
「そうですね…あたしもそう思います…教会と聖女…繋がりがあると思っていいと思うので」
 みなももそれに同意して、僧侶のローブを揺らして杖を握り替えた。
「石化の解除方法は、エリ様から預かったこの薬草の他に、”お姫様からのキス”もあるようですわ」
「お姫様…ですか?王子様じゃなくて?」
「ええ。バグのせいで王子様からお姫様に代わってしまったようですわ!」
「あの…少し、現実世界の話をしても良いでしょうか?」
不意に、セイが少し躊躇いがちに声をかける。
ゲーム世界で現在は聖女探しをしている最中ゆえに、現実世界の話題は少し躊躇われたのだが…。
「そうですね。今回の事件に関して、現実世界での事ももう少し考えておきましょう」
 リュートがにこにこと緑茶を飲みながらそれに同意する。のんびりお茶を飲んでる場合か…と思われそうだが、
このお茶には知覚パラメータを上昇させる薬を調合してあり、のんびりとしているようでいて、
実は全神経をしっかりと張り詰めてて、聖女を探しているのである。
まあ、そんな事は言わなければわからない事なのだが。
「セイ様、どうぞお話ししてくださいですわ」
「わたしも少し思っていることがあるので…」
「…では…。実は、僕はあまりこういった事に詳しくは無かったんですが、前回ログアウト後に、
こういったものに詳しい息子からRPGやプログラムに関して色々と聞きましてね…ちょっと思ったんですけれど…
前回の事と言い、今回と言い、どうも何かの作為的なものを感じるんですよね…
プログラムではない、生きてるのか…死んでいるのか定かではないけれど…確かな人間の意思による作為を…」
 ゆっくりと静かに落ち着いた声でセイは自分の考えを話す。黙って聞いていた三人も、同じ意見だった。
「あの…あたしも、ログアウトしてから…少し調べた事があるんですけど話していいですか?」
 セイの話を聞いていたみなもが、小さく手を挙げて問う。
学校の授業ではないのだが、デルフェスが教師のように「どうぞ」と微笑みながらみなもを指し。
「主任さんが事故死しているとの事で、その事を新聞記事やネットや業界筋から色々と調べてみたんです…
まあ、関係者の皆さんは何も話してはくれなかったんですけれど…気になることがあって」
「気になること?」
「―――普通、こんな大きなプロジェクトの主任さんが亡くなったら多少は記事になりますよね?
だけど、新聞やネットで調べてもそれらしい事柄が一切見つからなかったんです…これっておかしくないですか?」
「おかしいですわ…あやしさ大爆発ですわね」
「私は現実世界に関しては調べてはいないんですが、前回、みなもさんから借りた攻略本を読破したんですよ。
それで思ったのですが、このゲームにはそもそも”魔王”も”聖女”も居なかったようですね?
つまり、バグが発生した後からこれらの設定が出てきたと言う事になる…」
 リュートは真っ白なローブの懐から、攻略本を取り出して隣にいるセイに手渡す。
セイはすぐに本を開いて隅々まで目を通し始めた。
「わたくし、皆さんの話を聞いて少し思ったことがあるんですの…宜しいですか?」
「ええ。どうぞどうぞ」
「バグと言ってますけれど、バグにしては話の筋がしっかりと通っている気がしますわ…
”魔王”の発生がバグだとしても、その”魔王”に対抗するための”聖女”がちゃんと存在している…」
「…そうですね…最初からまるでシナリオがあったかのように…」
 セイが、読み終わった攻略本を閉じながら言う。
元々図解が多かった事もあるが、それにしてもかなり速読と読解力の能力に長けているようだった。
「あの…あたし、何かの原因で主任さんの霊が全てを支配しているんじゃないかって思うんですけれど…」
「事故死した事や、それが伏せられている事と何か関係がある…と?」
 リュートの言葉に、みなもは黙って頷いた。
今までの話を考えてみると…確かに、その可能性はかなり高い。
「事故死したのが事実だとしたらそうですわね…もしかしたら、”魔王”と言うのはその主任様の霊で…」
「”聖女”さんはその主任さんの恋人や奥さんかもしれないとも思うんです」
「”魔王”や”聖女”自身がPL…つまりゲーム参加者かもしれないという可能性もありますね」
「…そうだとしたら主任さんは何故こんな事を…」
「事故死の原因にその秘密があるんじゃないでしょうか?」
「そうですね…ですが僕は前回から一つ考えている可能性があるんです…
もしかしたら今回起こったといわれているこの事件自体が…」
 セイが何かを言おうとした瞬間、四人の目の前の風景が一気に変わる。
まだ少し先に見えていたはずの教会の建物が自分から近づいてきたかのように一気に迫ってきたのだ。
一瞬にして、教会前の公園へと移動する四人。
「おやおや…何か核心でもついてしまったんでしょうかねえ?」
 リュートは飲んでいたお茶を片付けて、動きやすいようにと戦闘態勢を取る。
「そのようですわね…あるいは、公園を選んだ事がそもそも罠(トラップ)だったのかもしれませんわ…」
 小柄な人間の身長ほどもある剣をすらりと抜き放ち、デルフェスも構えを取る。
「ますます作為的なものを感じますね…皆さん、怪我はしないようにお気をつけ下さい」
 こちらも剣を抜き放つと、セイは自らが使役する狼霊・吹雪を実体化させて脇に控えさせる。
「大丈夫…怪我をしてもあたしが必ず治療しますから!」
 みなもは杖を手にして、三人の動きをすぐに追えるような位置へと動く。
戦闘専門ではないので、なるべく後衛に控えて、足手まといにならないように、と。
「さあ、お出ましのようですよ…」
 教会の屋根の上にある十字架の影が、石畳の公園の中央へと移動する。
公園の真ん中に石で描かれた絵に同じような十字架があり、影はゆっくりとそれに重なった。
と、同時に。まるで公園自体が召喚魔法陣であったかのように地面から光が放たれる。
 足元からの攻撃にも備えて、全員が精神を集中させる中―――
公園の真ん中がゆっくりとせり上がるようにして、なにやら赤くぬめりのある物体が姿を現す。
それは最初は球体のようであり、しかしやがて長く伸びた八本の手…いや、足だろうか?を見せ…
「―――って…これって…」
「……タコ?!」
「まあ。こんな大きいタコ…タコヤキ屋さんが喜びますわ」
「食べられないと思いますけど」
 四人の目の前に現れたのは、誰が見てもそれとわかる…
―――すっかり茹で上がった後の真っ赤なタコそのものだった。




「はっ!」
 バゴッ!ガゴスッ!!…と、聞くからに痛そうな音をたてて、リュートの鉄拳が炸裂する。
素手だと言うのにすさまじいまでの攻撃力で白魔法使いはタコの顔面にとどめの一撃を喰らわせた。
その瞬間、まるで砂で作られた模型ようにさらさらと崩れ去って行くタコ。
「リュートさんって白魔法使いさんなのに…」
「武術士並みの戦闘力ですわね」
 戦闘を終えて、みなもに回復をしてもらいながらデルフェスが言う。
「普段のイメージとはまた違いますしね」
 セイも剣を仕舞いながら、みなもの元へやって来る。
大して大きなダメージがある訳でもないが、一応は回復魔法をかけてもらい、次が来る可能性に備える。
「いやあ…タコなのに骨のある方でしたねえ…」
 リュートはにこにこと微笑みながらそんな三人の元へ来ると、
徐にお茶セットを取り出し、てきぱきとお気に入りの湯のみに煎れて、ずず〜っとすする。
そして幸せそうに微笑みを浮かべてほっと息を吐くのだった。
「さあ、とりあえず落ち着いたようですし、周辺を探索してみますわ」
「そうですね。時間もかかってしまいましたから…早くしないと」
「では僕は教会の中を探してみる事にします」
「じゃあ私はその周辺でも見てみますね」
 四人は互いに探索する場所を分担して、改めて”聖女”の探索にかかることにする。
そして個々に散って行った、その時―――

『見ーつーけーたーぞ―――!!』

 どこからともなく、レンレンの叫び声が聞こえてそちらに顔を向ける。
叫び声と同時に…まだ薄っすらと都に残っていた霧や、
魔王の城を覆っていた濃い霧がさっと晴れていったようにも見えた。
「今の、聞こえました?」
「ええ!レンレン様はどちらに探索に向かわれていました?」
「確か…コンビニに…」
「まさか”聖女”はコンビニに!?」
 そのようですわね、とデルフェスはセイに苦笑いを向けて走り始める。
それと同時に、他の三人も駆け出し、四人揃って横に並ぶようにコンビニへと向かったのだった。


■Encounter

 霧が完全に晴れた都のコンビニで再び、駅前に向かった三人以外が集まって”聖女”を囲んでいた。
彼女の目覚めと同時に霧が晴れたことを考えても、彼女が”聖女”には違いないようなのだが、
”聖女”は、ある特定の事以外は自分の事もその他の事も何もわからないらしく、
NPCなのか、その後ろにPLがいるのかも、見た限り話した限りでは知る事は出来なかった。
以前関係者が言っていたNPCには自社ロゴが入っている…と言う話も、
こうあちこちバグだらけでおかしくなっているとそれもどうだかわからないものがある。
 ただ、彼女の記憶の中にある話によると、魔王を倒してしまわない限りは夜になると再び石に戻ってしまい、
その夜の間は聖女の力も薄れて”石化の霧”もまた都全体に発生してしまうとの事だった。
「限定的な話題しか出来ない点を考えると…NPCという可能性が高いのでは…?」
「わかりませんよ?PLの意識を支配しているかもしれないですから」
「一度ログアウトしてみて調べてみるしかないでしょうね…」
 セイとウタタが互いに自分の推理を話し合う。
「聖女さんを都から連れ出したとしても同じ事なんでしょうねえ…」
「わかりません。けれど私はここから外に出てはいけない気がするのです」
「まあ…危ない橋は渡らないに越した事はないからね?俺は薦めないよ」
「そうですわね…わたくしもそう思いますわ」
「んー!それにしても聖女ちゃんがコンビニに居たなんてなあ〜!チッ!」
 ”聖女”を囲んで話す、リュート、ライ、デルフェス、ヤト。
「イヴさん達はどうしたんでしょう…姿が見えないんですが…」
「そうだよな?今、セリとエンちゃんが見に行ってるけど…お、来た来た」
 心配そうに眉を寄せるみなもとレンレン。二人の視線の先には、セリとエンの二人の姿があった。
「駅前には誰の姿も見えなかったよ」
「マジで!?どこ行ったんだ、イヴちゃんたち…駅の中は?」
「あの、それが中には入れなかったんです…シャッターが閉ってて」
 二人からの報告を聞いて、その場の全員が心配そうに顔を見合わせる。
もしかして三人に何かあったのかもしれないと、最悪の事態が一瞬その脳裏を過り―――
『心配には及ばないわ!』
 どこからともなく聞こえた聞き覚えのある声。なんとなく、最初の展開を思い出し…
すぐ近くに見える一番高い建物へと自然と全員の視線が流れて行く。
その先には案の定、エリを真ん中にして、戦隊モノのようにポーズをとるエリ、イヴ、シズカの姿があった。
「イヴちゃんエリちゃんシズカちゃーん!」
 ヤトが嬉しそうに叫んで三人に手を振る。イヴはヤトに手を振って答えると、
エリとは違い、軽やかにジャンプして綺麗に着地する。シズカも同じく、身軽に飛び降りる。
最後に残ったエリはと言うと…しっかりとイヴにクギを刺されているらしく、ちゃんと階段を使っていた。
「やあ、イヴちゃんエリちゃんシズカ君。どこ行ってたんだい?」
 にこやかに言うライ。一人だけピンポイントで”君”と呼ばれたシズカは少し固まる。
ライの顔を見ると、『俺の女性を見る目は本物だよ』と言っているようだった。
「それが、駅から電車に乗ってみたら強制ログアウトされちゃったのよね…
まあ、詳しい事は長くなるから置いといて…ついさっき再ログインして来たところよ」
「うわあ〜駅に行ってたらそんな事になったんだ…」
「あの…全員揃ったところで”聖女”さんからもう少し詳しいお話を伺おうと思うのですが…」
 少し控えめに手をあげて発言をするセイ。
全員に異論があるはずもなく、揃って”聖女”に視線を向けた。
「私の記憶にある限りでお話します。私は魔王に唯一対抗し得る力をあなた方に授ける事が出来ます…
その力をもって魔王を倒し、この世界に平和を授けてください…でなければ霧が世界を支配してしまう」
「失礼、私、セイと申します…お聞きしますがそれは具体的な武器のようなものをいただけるんでしょうか?」
「いいえ…倒す事の出来る力を授けるだけです」
「おそらく魔王への攻撃を有効化するプログラムのようなものでしょうね」
「って事は、聖女ちゃんに力を貰えば誰でも戦力になれるって事だな?オッケー!ヤト様に任せとけ♪」
 ウタタの言葉を聞いて、グッと指を突き出すと同時にウインク一つのヤト。
「あたしで何か力になれるのなら…」
 みなもは少し控えめにそう告げて聖女に微笑む。
「聖女さんの為にも、俺は協力を惜しまないつもりだよ?だから安心して…ね?」
 優しく手を取り、口付けながら微笑むライ。
「そうですわ!わたくしが必ずこの世界に平和をもたらしますわ」
 両手を組んで祈りを捧げるように言うデルフェス。
「僕にも何か出来るようでしたら、やらせていただきたいと思います」
 セイは丁寧に聖女と、そして集まっている面々へとあ弾を下げた。
「ま、乗りかかった船だし?わたしも本領発揮させてもらうわね♪」
 明るく元気に微笑んで、イヴが言う。
「何が出来るかわかんねーけど、俺も頑張るからな」
 長い髪を少し鬱陶しそうに後ろに送り、シズカは笑う。
「僕はそんなに力が無いですが…全力で皆さんをお守りする事にしましょう」
 その場にいる全員の顔をゆっくりと見つめながら、ウタタ。
「俺も俺の力を必要としてくれるのなら…喜んで」
 静かに、しかしはっきりと力強くそう言ったのはセリ。
「よーし!なんかこういうのっていいよな!俄然やる気出てきたぜ!」
『ケッ…遊び人がどんな戦力になるってんだ』
「こら!やめなさい、ノイ!」
 どこか弾んだ調子で言うレンレンに、エンとその人形がツッコミを入れる。
「私は最後に皆さんでゆっくりとお茶が出来ればと思っていますので…お付き合い下さいね」
 にっこりと微笑みながら、リュートは頭を下げた。
「…もー!こういうの大ッ好き!さあ皆の者、我が御告げを聞いて旅立つが良い!
聖女が繋ぐ…旅の仲間だ…――あー!言ってみたかったの!これ、言ってみたかったのー!」
 なにやらはしゃぐエリ。最初と違い、もう誰も彼女を怪しんだりツッコミを入れる者はいなかった。

 全員の気持ちが盛り上がり、月並みな言葉ではあるが心一つになる。
このままなら、確実に魔王に勝てそうな、そんな予感が全員の心に宿っていた。
しかし…。
「皆さん、もうすぐ夜が来ます…夜の間は霧は晴れません…私も再び石になってしまいます…
魔王の力は夜に強くなります、ですから”魔王の城”へ行くのは夜明けまで待って下さい…」
 今にも踏み込みそうな勢いをそいだのは、他ならぬ”聖女”の言葉だった。
確かに、ゲームの中ではあるが時間は流れて西の空を見ると日が暮れはじめている。
「確か…一度だけなら自分の意志でログアウト出来るって言ってたわよね?」
「ええ、一度だけ」
「イヴ様のお考え、わたくしにはわかりましたわ」
「俺にもわかります…夜のうちにゆっくり考えましょう」
「え?え?悪ぃ…俺にはわからねぇんだけど…良かったら説明…」
「もしもの事もありますから、ログアウトしたいならしていいよ、って事です…よね?」
『エン、先に言ってとくけどボクはエンと一緒だからな』
「…では皆さん、夜明けまでじっくり考えて…ここに集まりましょう?私はお茶を飲みながら過ごします」
「じゃあ俺は誰と一緒に過ごそうかな♪シズカちゃんにしようかな♪」
「俺は女性となら誰とでもご一緒したいね…女性となら…ね」
 皆、口々に話し合って今後の行動を決める。
誰かと一緒に近くの村で過ごす者、一人で過ごす者、この場に残る者…
まだわからないが、ログアウトする者もいるかもしれないだろう…そう思いながら散って行く面々。
 
 やがて来る次の夜明けと共に、
果たしてどんな者達がここに再び集うのだろうか…。





■セーブ■

〓continue〓or〓finish〓

<次回予告>
見事に”聖女”を探し出す事が出来た仲間たち。しかし時間は夜を迎えてしまった。
夜明けと共に、ついに”魔王の城”へと乗り込むことに!
しかしそこに待ち受けていたのは意外な者だった――?!かどうかは定かでは無い…

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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◆泉の広場探索パーティ『ヤト様とエンちゃんとその他約1名(仮名)』
エン:銃士
【1431/如月・縁樹(きさらぎ・えんじゅ)/19歳/女性/旅人】
ウタタ:白魔法風使い
【2328/鈴森・転(すずもり・うたた)/539歳/男性/鎌鼬壱番手/ゲームマスター】
ヤト:武術士
【2348/鈴森・夜刀(すずもり・やと)/518歳/男性/鎌鼬弐番手】
◆教会前の公園探索パーティ『緑茶・THE・カルテット(仮名)』
みなも:僧侶
【1252/海原・みなも(うなばら・みなも)/13歳/女性/ 中学生】
デルフェス:女剣士
【2181/鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)/463歳/女性/アンティークショップ・レンの店員】
リュート:白魔法使い
【2209/冠城・琉人(かぶらぎ・りゅうと)/84歳/男性/神父(悪魔狩り)】
セイ:魔剣士
【2412/郡司・誠一郎(ぐんじ・せいいちろう)/43歳/男性/喫茶店経営者】
◆駅前の探索パーティ『美少女戦隊vオトメンジャー(仮名:エリ命名)』
イヴ:召喚士
【1548/イヴ・ソマリア(いヴ・そまりあ)/502歳/女性/アイドル歌手兼異世界調査員】
シズカ:弓使い
【2320/鈴森・鎮(すずもり・しず)/497歳/男性/鎌鼬参番手】
エリ:占い師兼予言師
【2395/佐藤・絵里子(さとう・えりこ)/16歳/女性/腐女子高生】
◆コンビニ探索パーティ『ライと愉快な仲間達(仮名)』
セリ:白魔法使い
【2259/芹沢・青(せりざわ・あお)/16歳/男性/高校生・半鬼・便利屋のバイト】
レンレン:遊び人
【2295/相澤・蓮(あいざわ・れん)/29歳/男性/しがないサラリーマン】
ライ:武闘家
【2441/西王寺・莱眞(さいおうじ・らいま)/25歳/男性/財閥後継者/調理師】

※あくまで全員、現実世界のPLが誰であるかはまだ知らない状態です。
※パーティ名はライターによる創作です。実在のものとは関係ありません。(笑)
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■         ライター通信          ■
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 こんにちわ。ライターの安曇あずみです。
この度は「剣を取ったらファンタジー?〜中編〜」に参加いただき誠にありがとうございました。
総勢13名の方にご参加いただけて、実に嬉しく、そして楽しく執筆させていただきました。
せっかく多くの方に参加していただいたので話をじっくりと考えさせていただこうと思い、
少し納品がギリギリになるまでお待たせしてしまいましたが楽しんでいただけたら幸いです。
 今回、途中参加の方も数名加わってくださり、前回よりも仲間が増えております。
展開の都合上会話ができなかった方もいらっしゃいますが、執筆していないところで交流があった…
という事で楽しんでいただけたらな、と思います。(笑)
 また、探索の部分のみパーティごとに別々の話となっておりますので、
他の方々がどんな探索を行ったのか興味がありましたら覗いて見て下さると面白いかも…です。
 ちなみに、『緑茶・THE・カルテット(仮名)』『美少女戦隊vオトメンジャー(仮名)』
…の皆様のエピソードにて、現実世界での事件の話題に少し触れております。
こちらも興味がおありでしたら読んでみていただけると嬉しいです。
 長くなりましたが、今回も本文が実に長くなりまして申し訳ありません。
ゆっくりと休憩を挟みながらのんびりと読んでいただければ…と思っております。
 
 というわけで…次回で完結になります。
力不足で随分と矛盾点やおかしな点が多々出てきてしまっておりますが、やっと魔王との戦いになります。
また宜しければご参加いただけると嬉しいです。

>みなも様
こんにちわ。この度は前回に続いてのご参加ありがとうございました。
今回は戦闘と謎解きという形の構成で執筆させていただきました。
戦闘では回復をお任せできて大変助かりました。
楽しんでいただけていたら幸いです。
また宜しければ次回もご参加いただけると嬉しいです。


:::::安曇あずみ:::::

※今回、個人宛てメッセージはログイン名で書かせていただきました。
※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>