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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


Border Ether & Deep Ether 〜Imagination Terrorism 【異界篇】〜

【異界】
影斬はディテクターとエルハンドと、想像者佐山宗治の異界に来ていた。
そこは、銀と灰が混ざった色の地面のない場所で、様々な球体がうかんでいる不可思議な空間だった。
ディープ・イサー〜深層精神界〜
そう、想像者は、此処を拠点に異界を展開しているのだ。
彼の本体は奥深くある。と空間神であるエルハンドが言う。
其れよりもこの空間にうかぶ球体は、現実世界で消滅したイベント開場やおそらく怨霊器で爆破された店であると推測された
「師はどうします?」
「私は虚無の大元が此処で何かしていると予測した。そちらに向かう」
「では俺は…佐山を説得しに行きます」
「俺は、佐山の方に行くさ。大元の方はエルハンドに任せておけばいいだろう」
2人は頷く。そして影斬は
「と言うわけだ…。此処にいるあなた達は師エルハンドか、俺のどちらに付いてきますか?どちらも危険な仕事です」
何らかの理由で空間に紛れ込んだか、IO2の要請で応援に駆けつけた貴方は…、

この世界の奥に想像者の想像の中心がある…それはまるで人を拒むかのように精神の嵐が吹き荒ぶ。それを、遠くで眺めて笑っている女がいた。

―忌むべきは我が力
―誰も認めることなし
―故に牢に閉じこめられる


1. Borderline
IO2の要請で参加している天薙撫子は影斬とディテクターとともに、隠岐智恵美、真柴尚道はエルハンドと同行するという。
「エルハンドさん、異界での行動制約の事忘れているんじゃないですか?」
「このイセリアル界までたどり着いたら、制約はほとんど無い。確かに多少制約はあるな」
尚道の言葉に正直に答えるエルハンド。同じ異界の神として直感である。
「エルハンドさんだけで大変でしょう、私も微力ながらお手伝いをさせていただきます」
隠岐智恵美がついていく。
「イセリアル…エーテル界は歩くことに違和感あるだろうが、気を付けて来るんだぞ」
エルハンドは影斬達に一瞥し、虚無の大元の気配を探すため歩いていった。
影斬とディテクターは、撫子をみて、
「さて、意外な組分けになったものだ」
と、ディテクターが煙草を吸い始める。煙草は彼の思惑を表すかのように色々な形になっている。
「宜しくお願いします。ディテクター様、義昭くん…いえ、影斬様」
撫子は影斬の方を見て顔を赤らめお辞儀した。
「似ても違う存在か」
ディテクターは小声で呟く。
「俺の勘だがな。アイツを説得するのは難しい。いいか?」
ディテクターが影斬に訊いた。
「難易度のことを言っていれば、いままでここに来た意味が無くなる」
即答。何としても説得する意志を表していた。
「わたくしもお手伝い致します」
「決まりか。想像者佐山の説得と逮捕。殺害は最悪の手段だ…」
3人は歩き出した。既に何処に「想像者」がいるのか分かっているかのように。
「―2つ生体反応…いや1つは疑似プログラム。もう1つ…シュラインか?」
ディテクターは探知機をみて驚いた。
「彼女も来ているのか。というか迷い込んだ感じがたかいね」
影斬が言う。
「シュライン様と先に合流する方がよろしいかと思います」
「「同感だ。異議なし」」
2人の男は同意した。

シュライン・エマは、辺りにうかぶ奇妙な空間に呆然としていた。灰色の世界に大小様々な球体。確か自分は、想像者が心霊テロ行為をしていると聞いて慌てて真相調査に乗り出そうとした結果、一緒に巻き込まれた感じだ。
「…巻き込まれたのね」
聞き込みやIO2の知り合いを捜していた最中に一瞬闇に包まれた記憶が残っている。
しかし怪我もなければ、球体に閉じこめられていない。
「ホント不思議…」
彼女は何となくだが、『あたしはこの世界の天井に立っている』と思っていた。

疑似プログラムの正体は貴城竜太郎、強化服ルシファーの投影である。疑似生命体一歩手前なので不安定であるが、既にハッキングしてきた忌屍者三滝のデータを元にしているので不可能ではない。ただ、中に魂がないだけだ。それだけで彼には充分だった。
この光景を現実世界の画面から見て
「すばらしい…本当にすばらしい」
と、心の底から感動していた。
「想像者さん…あなたは素晴らしい。上の上ですよ」
この笑みは己の野望が又一歩近づく確信でもあった。例え想像者がどうなろうとも良い邪悪な笑みだった。


2. Confluence
影斬達はまずシュラインがいる場所を探した。
「導かれたのか…それとも?」
考える影斬、そしてディテクター。
「考えてみれば、想像者はかなり彼女に心を開きかけていたな」
「そうですね」
2人の会話は撫子を無視する形になされている。撫子は少し肩身が狭い思いをしていた。
其れに気がつく影斬…
「あ、済みません天薙さん…どうも癖で…」
「あ、そのお構いなく」
「気にするのは、人間の時と同じだな」
ディテクターは笑った。
「あなたも、シュラインさんが心配なんでしょ?俺も…」
苦笑して言い返す影斬。しかし、昔の事を思い出したのか口をつぐんだ。
撫子は、影斬は何を思っているのか気になって仕方なかった。

シュラインは、音で状況を把握していく。この奇妙な空間にも慣れてきた。
球体の中は時が止まっており、中にいる人物達は死んでいない。
「想像者さんは何をしたいのだろう?」
彼女は空間に浮きながら考える。
「虚無の境界に利用されているのかそれとも…う〜ん。やっぱり本人に訊いてみないことには〜」
眉間に皺を寄せて、あれこれ考えて悩む。
球体に少し触れてみる。弾力のあるシャボン。大小様々でピンポン球もあれば興信所のあるビル一棟分はすっぽり入る大きさもある。一寸した宇宙だ。
何かに流されそうになる球体は必死に其れを拒んでいるように見えた。
「やっぱり両方なのかなぁ」
彼女は思った。
今度はのぞき込んで、いままで想像者と出会った記憶を探すシュライン。其れは容易に出来そちらに向かう。
―もったいないわ
そう思ったのは前にコーヒーを美味しいと想像者が言ったことから引っかかっていたことだ。力があってもあまりにも経験がないのではと?説得の方法など良くは分からない。しかし、今のままで彼は幸せではないはずだ。
不意に足音を耳にした。
「近づいてくる人がいる…3人?1人は…武彦さん?」
方向を変えて少し足早になる。
「あ、撫子さんに影斬さん、それに武彦さん…」
「見付かった…よかったぁ」
影斬はホッとする。
「どうしたの?皆揃って?大体見当はつくのだけど」
事情を確認するために敢えて訊いてみた。
話をまとめたら佐山説得という方向なのだというのだ。
「いっしょに来た方がいい…シュライン」
ディテクターは素っ気なく言った。
「気を遣っているのか無責任なのか分からないわね…相変わらず」
彼女は笑って彼の背中を軽く叩いた。
「でもどうやって説得するつもりなの?」
と、彼女は影斬に訊いた。
「いつもの通り…最悪は封印しての捕縛ですが…ここまで被害が大きくなったら」
「そう…残念」
「しかし…ある『条件』で其れは変わります」
「条件?」
「いまは…ただ…彼はコインの表裏があると言うことです…」
「コインの表裏……」
影斬の言葉に彼女は思案しピンと来たようだ。
彼女はそれ以上何も言わなかった。


3. Lucifer
竜太郎は、想像者の「意志」を探していた。各球体の内容も覗く。
いままで見たことのない世界に
「素晴らしい」
と、竜太郎は感嘆する。心のそこからの感想だ。
しっかりこの情報をメディアに収めている。全て軍事利用、そして自分の利益の為に使うのだ。そうでなければテクニカル・インターフェイスの幹部にまでなることは無かった。彼はエリート意識が強いのである。
浮遊する形で想像者を捜す。距離にして100mも満たない所に光るものがあった。
「アレかもしれませんね」
プログラム・ルシファーはそのまま光る場所に向かう。
それは、屋根のない病院の一室。中央に水晶か透明な結晶が光っていたのだ。
「この者が想像者?」
竜太郎は首を傾げる。
その中にベッドの上でうずくまっている男がいたのだ。
「だ…れだ?」
男はやつれており、竜太郎を見る。
「俺をバカにしに来たのか?帰るがいい。この世界で俺にかなう者はいない」
目に生気はなく、虚ろだ。
「違いますよ、想像者さん」
「どういう事だ?」
「素晴らしい世界、素晴らしい能力…真にエリートに呼ぶのに相応しい」
「おだててもなにも出ない」
竜太郎の声に無感動に言う想像者。
かなり卑屈になっているようだなと竜太郎は思った。過去にどんなことがあったか知ったことではないが、人の心を揺り動かせるカリスマなら自分にはあるのだ。焦らず、彼は話し続けようと試みる。
しかし、結晶の後ろにもう1人想像者がいる事に驚きを隠せなかった。
「2人?」
「影だよ…」
結晶外の想像者はそう言った。
「二元論で言えば、その中にいるのは人に害を与えないため自ら封印した『光』。そして、あんたの話を聞こうと思っているのが『影』である俺だ」
「ふむ、二重人格と言うところですか?」
「正確には違うね、そのようになるスイッチは元からない。異界を構成するときの中心維持と実行を必要とする役割がいるだけ。最初はそうだった。しかし、時間が経つに連れ俺は自我を持ったってところだ」
「成る程、上の上ですよ。あなたは、作られたはずのあなたが自我を持つなんて」
竜太郎は拍手をする。
「話を聞こう」
「まて…」
「消極的なお前は黙っていろ」
『影』が『光』を怒鳴りつけた。『光』は黙してしまった。
『影』が竜太郎を見る。
「貴方が現実世界で認められない理由は簡単ですよ。人間は進化出来ない種だから、力のある者を許容出来ないのです。進化出来ないから『進化してしまった者』を拒むのです。人類は淘汰されません。どんなに劣等な遺伝子の主でも博愛と人道で保護される。しかし、進化には淘汰こそ必要なのです。然るに我々は人為的な進化を模索しているのです。貴方は進化を成し遂げた存在だ。故に貴方が現実世界を訪れるなら我々が歓迎しましょう。」
「成る程、さすがTIJの社長…俺の力を欲したか。現実世界にはいつでも来れる。しかしいまは仕事が先だ」
「どんな仕事ですか?」
「いまの心霊テロの手伝いさ。『光』が邪魔している…本体が光り故、コイツも説得しないことには無理がある。少しだけ『影』の俺が戻ってきているだけだ。」
「そうですか。しかし、今、本体を殺すことは…貴方にも私にも不利益ですね…」
残念な事に、いまのプリグラム・ルシファーに精神影響を与えるプログラムをインストールすることは時間がかかる。今回は挨拶だけが良いだろう。
「では…お待ちしてますよ」
「ああ、うまくいけば会いに行こう」
「必要…なのか?」
『光』が呟いた。
「ええ、先程述べたように感動を覚えていますよ」
竜太郎の言葉に『光』が…反応する
「…口車に乗らないで!」
女性の声が響き渡った。


4. Imagination from the Other Side
シュラインは影斬達と合流してから、耳を研ぎ澄ませていた。
「誰かと会話している…」
「…どんな会話?」
「しっ」
空間内にノイズはないが、やはり遠い為に聞き取りにくい。
内容は、想像者を褒め称え、現実世界に呼び出そうとする者だった。その男声には聞き覚えはない。ただ、何かヤバいと感じた。
この世界では善悪という概念は有耶無耶にされてしまう。そう言った探知は不可能。誰を信じるのかは自分次第。また、世界法則は想像者に委ねられている。実際呪いを受けたことは調査上ないらしい。おそらく、虚無の境界のメンバーが受けて強化されたか、この中に潜んでいると推測されているだけだ。
影斬は千里眼でも使ったのだろうか、
「…疑似プログラム…TIか」
と、呟いた。
「TIってあの…TI?」
シュラインが訊く。
テクニカル・インターフェイス。様々な科学技術を有するが、影では遺伝子操作で軍事産業をしている武器商人である。影斬は、頷いて先に進む。
撫子は、神斬を抜刀した。
ディテクターはそのまま動かない。
「あ、このままじゃ…」
―取り返しのつかないことに。想像者がTIと手を取ると、今以上の悲劇が予想される。
シュラインは声を張り上げ
「その男の口車に乗らないで!」
この声が届いて欲しかった。

「シュ…シュラインさん?」
『光』は手を止めた
「っち、影斬が来たか…TIの社長さんよ、俺は現実世界の仕事を先に片付ける」
と『影』消えた。
そのかわり『影』が残したモノは…
「な、なんと…」
同じ強化服…黒いルシファー100体だった。
―面白い。
解析すると、この疑似プログラム通りではなく現実世界の其れに酷似していた。
「楽しいですね…。久々に血肉沸き踊る」
竜太郎は、この黒きルシファーを動かし…敵に差し向ける…。
その時、結晶の中にいる『佐山』は…何かを呟いていた。

―忌むべきは我が力
―誰も認めることなし
―故に牢に閉じこめられる
―心弱くなる我を恥じ
―強くならんと念じるも
―誰も受け入れず
―誰も信じられなくなる
―想像の力発想の転換
―我の力の世界を作ろう
―すばらしい架空の世界を我は作ることが出来る

―想像は我の外から入ってくる

この呟きが…現実世界にも影響している。そしてこの世界にも。
周りの空気が重くなってきた。
「想像者が、異界構成の能力を発動した…」
「異界の中に?」
IO2の2人は身構える。
驚くべき事が起こった。
戦いの荒野が想像者のいる地点から光の速さで『想像』から『創造』されたのだ。そして、完全に退路を断つかのように、周りが炎に包まれた。
天は暗く、周りは乾いた大地。
何を思って、想像者はこの世界を作ったのだろうか?

「来た!」
黒い影が恐ろしい速さで向かってくる。
「此は強化服!?」
ディテクターはシュラインを庇い、影斬は一体を斬り伏せ、撫子を庇った。
「TI社ルシファーを想像したか!」
影斬は歯ぎしりした。
数はいまで99、今度は5体が突撃、5体が砲撃を開始した。
ディテクターの『紅』が3体撃墜、影斬が突撃してきた1体を『水晶刃』を斬り、剣圧で後ろの4体を破壊した。撫子は、神斬で1体を倒した。
「向こうの攻撃力も上の上…流石にコピーは粗があったようですね」
竜太郎は、このプログラム・ルシファーではかなわぬと知るや、
「想像者…貴方の力を頼りにしておりますから…。では…」
と言って、異界から出ようと試みるも…プログラムが消えなかった。
「ロックされている!?」
「…既に貴方もこの精神界に留めたのだ…真意を知りたくてね…」
『佐山』が呟く。
貴城にはこの状況は好ましくなかった。ルシファーについて殆どのデータがIO2に漏れてしまう。
何としてでも、あの4人を殺さなければと思った。

「皆、下がって!」
影斬は、水晶刃を構え叫ぶ。
刃は呼応するかのように、光を帯びた。
「数は今まで倒した者を含め…100…ならば!」
「わたくしも加勢いたします!」
影斬は『天空剣究極奥義天魔断絶』を、撫子は『神斬』に霊気を込め、絶真技『神魔封滅斬』を同時にこの荒野に放った。
光の帯は様々な方向に飛び交う。地を穿ち、空を斬り裂き残ったルシファーを消し去った。
両方とも対神、対軍、対城など全てを斬り裂く技の最高奥義である。
しかし、荒野は依然として残っている。少し裂け目が出来ただけのようだ。
「お前と撫子2人で十分じゃなかったか?」
ディテクターは皮肉を言う。
「これで、昔の【神でなかった俺】より以下の力ですよ…こっちに来るのに制限かかってますし…」
と、水晶刃を「消し」一息つく。
「神でない…まさか」
撫子はキョトンとする。技にしても行動にしても面影があったから…。
「そう、もう気付いているでしょうけど俺は、未来の『織田義昭』です」
そう言った彼。
「そんなことより、行きますか…」
「影斬様…」
何かを捨てた悲しみが影斬の背中が語っていた。

「……」
データを取ったが、今の光は測定不能だった。原理も、効果も今までの取ったデータのサーバーを数台壊したのだ。咄嗟の判断で行ったデータ転送だったが、TIにとって甚大なる被害である。
竜太郎は狂気の笑いを起こす。
「は、ははは、出鱈目だ…出鱈目すぎる!」
もし、この疑似プログラムのみでデータ回収すれば、竜太郎に何らかの障害を与えただろう。
「ふ…神の力…素晴らしいですよ…化学を今もなお越えるとはね…」
三滝の力と比べてみた。桁違いだった。三滝が欲するのも無理もない。竜太郎は理解した。
結晶の中の佐山は
「真意は分かった…貴方は俺を利用しているだけだ」
―分かり切っていたことだ。
と、佐山は思った。誰も「自分自身」を必要としていないのだ。
全てはこの能力のみにあるのだ。
「…」
竜太郎は自分の意図を見抜かれたが平然としている。
「しかし、もったいないではないですか?ま、良いでしょう。貴方が心変わりすることを期待していますよ」
竜太郎は、先ほどの光で斬り裂かれた空をみて今がログアウト出来るチャンスと知った。
佐山は何も気にせず…彼を見逃した。
「急激な人為的進化は…いつか身を滅ぼす…」
誰も聞こえない声で佐山は呟いた。


5. Freedom
荒野を歩き、想像者が閉じこもっている結晶にたどり着いた。
「…」
シュラインは沈黙している。
「何があったのですか?」
撫子は心配そうに語りかける。
「…説得に来たというなら帰ってくれ…」
素っ気ない想像者の返答。
「いえ、其れは出来ないわ」
シュラインが割り込んだ。
「…シュラインさん…」
「あなたも知っているわね?今現実世界でどういう事が起こっているか?詳しく話してくれるかしら?」
暫く、沈黙する想像者。
シュラインの目は真剣である。
「…知っている。全てを話すよ」
虚無の境界に入った経緯は簡単だった。虚無の境界の大元である巫神霧絵自身に誘われたという。人を憎むことで生まれた『影』を操り、一応の世界安定と、力の提供をしていたが、異界構成がこの段階に入ってから、霧絵がテロの行動を中に潜んでいたメンバーに指示を出した。最初は断ったが、『影』が賛同してこの事件を発生させたというのだ。
「全て俺の所為である…それは覆されない」
結晶の中で呟く。
「…でも、貴方は、本当は人を心底恨んでないんじゃない?」
シュラインが訊く。
「どうして?今影は…」
「前にコーヒー美味しいって言ってくれた事が気になったの…本当は外でいっぱい色々なことを感じたいんじゃないかって」
「そうですよ、佐山様、前にお会いしましたよね?天薙撫子です」
「…あ…」
自分の力が暴走しその手助けをしてくれた女性がいた(その時「過去の影斬=織田義昭」は後ろで何故か倒れていたが)。
「全てが本当なら、罪を償って下さい。あの時の純真な心を持っておられるなら…」
「そうよ、それに今回の虚無のテロに加担したとはいえ、あの球体は、貴方が守っているそうでしょ?」
シュラインの質問に頷く佐山。
「さぁ、怖がらずに…皆がいます」
「そうよ、怖がらないで…」
「挫折を何回も味わってものが人生だ。まだあんたには道があるんだ」
撫子、シュライン、影斬が彼を誘う。
結晶が割れて、粉々になった。そのきらめきと同時に、荒野の風景は解かれる。
「…まだ、怖いけど…俺は…信じる」
佐山がふらつきながらベッドから降りた。かなり精神力を使っていたか、食事を取っていなかったのだろう。影斬が彼に肩を貸し、シュラインが彼の手をとった。
「心が…暖かい…」
「よかった…通じて」
シュラインは安堵した。佐山は、忘れていたいや体験したことのない感動に涙している。
「影が暴走したというのは分かった…しかし其れは罪だ。いいか?」
ディテクターが煙草を吸って言う。
「構わない…」
「なら、決まりだな…佐山、影とのリンクを破壊し、お前を『現場』に移転する地点は何処だ?」
異界の消滅と帰還方法は一つでもある、入り口の創造。
今までならば主である想像者が扉を作る。しかし其れだと今暴れている影はまだ残る。それは防がなければならない。『紅』で影が異界に戻る道を破壊し、向こうで仕留めなければならないのだ。
想像者は自分の胸を指さした右の肺である…。
厄介なところだ…と苦笑するディテクターだが、同時に紅を発砲していた。
「武彦さん!」
「心配するな……」
影斬が瞬時に止血治癒していた。しかし穴はそのままだ。
二人して壊れた『穴』に向かって念じた。

―そのままとどまれ『影』!

その数分後、影の断末魔が『穴』から聞こえる。
想像者は、徐々に消えていく。
「先に俺は影がいたところに向かうよ…脱出する方法は簡単だから…」
「想像者…いえ、佐山さん。必ずまたコーヒー届けてあげるから」
「わたくしも御菓子もって行きますから」
シュラインと撫子が約束する
想像者の最期であり、佐山宗治が本当の人生を歩み始める瞬間だった。
その表情は笑顔と感謝で満ちあふれていた。

消えた所に、穴が徐々に大きくなる。そして周りの異界が音もなく消え去り、イセリアル界の深層部の景色をはっきりさせていた。上には現実世界がかすむように見えているが、この地点では殆どが灰色だ。そして、今まで浮かんでいた球体も無くなくなっている。
残るはこの『穴』だけだった。
徐々に大きくなる穴を、影斬が出口として起動させ、暫くの異次元旅行をした後…IO2の東京支部にたどり着いた。


現実世界に戻ったときに、この事件は終わった事を直ぐに理解した。
影を消滅させ、佐山の心を開かせた者達の手により解決したのだ。
あとは、佐山自身が己を克服する治療が待っている。ヴィルトカッツェや彼と親しい人物は見舞いに来るそうだ。そのたびに、彼はとても喜んでいるという。
思い出した様に彼は呟いた。

―もう1人じゃ無いんだ。

End




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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【0086 シュライン・エマ 26 女 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員】
【0328 天薙・撫子 18 女 大学生】
【1865 貴城・竜太郎 34 男 テクニカルインターフェイス・ジャパン社長】
【2158 真柴・尚道 21 男 フリーター(壊し屋…もとい…元破壊神)】
【2390 隠岐・智恵美 46 女 教会のシスター】

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■         ライター通信          ■
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滝照直樹です。
Border Ether & Deep Ether 〜Imagination Terrorism 【異界篇】〜に参加していただきありがとうございます。
4ヶ月程度のBorder Ether & Deep Etherの、想像者佐山との話はおわりました。
同時進行である【現実世界】他の方の【異界篇】ではどのようになっているかご覧頂ければ幸いです。

では、又の機会がありましたらお会いしましょう。

滝照直樹拝