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<東京怪談ウェブゲーム 界鏡現象〜異界〜>


黒色の色紙:マーダー・ゲーム



------<オープニング>--------------------------------------

 「EUREKA」のドアに掛けられた「準備中」の文字。
 それが外される時が、きた。
 代わりにドアに掛けられたボード。
 そこに踊る言葉は――『無計画なゴッコ遊び』
 今回のD.Dのことである。

 風が吹いている。
 叩くのではなく、包むのでもなく、ただ流れていく風。
 その風の中で――綾辻祷は足を止めた。
(ここは――)
 続いていくアスファルト。
 自分の靴音。
 柔らかく揺れた黒髪。
 風、風、風――。
 見知らぬ場所に祷はいた。
 どうやってここへ来たのかも覚えていない。当然帰り方はわからない。引き返した方がいいのかもしれない。
 だが祷は焦ったりはしなかった。
 ……そんなこともあるさ。
 一度訪れたのなら、それなりに楽しんでいけばいい。
 目の前には「EUREKA」とかかれた店。
 祷はドアに手を伸ばした。動いた拍子に、ほのかに甘い香りがする。
 ……アークロイヤル、か。
 慣れた筈の匂い。今更この香りを意識するのは、先ほど通り程通りかかった店のせいだろう。

 その店の中はアークロイヤルの匂いで満たされていた。
 アンティーク品を無造作に並べ、コルクボードには小さな紙切れが留められている。眺めてみると今店内に流れている曲の楽譜の切れ端だった。
「俺の手書きだよ。一番好きなフレーズなんだ」
 そう説明する店主。
「そう。……俺も音楽は好きだよ」
 祷はコルクボードを眺め、訊いた。
「ここは何の店なのかな?」
「さぁ、俺にもわからん」
 店主は煙草の煙をゆっくりと吐いた。
「まぁ、良かったら眺めていってくれ。あんただって、せっかく来たんだ。楽しまなければつまらないだろう?」

 ……その通りだね。
 祷は店内に足を踏み入れた。

 未来はソファーに座り、人が来るのを待っていた。
「今回のD.Dは石塚佳織:二十歳:女性です。これから内容を読みます。以下の文はこの女性から見た、夢の世界の様子です」

 私は四人の友人と一緒に、マーダー・ゲームをしている。
 ――言葉の通りの意味ではなく、大掛かりな推理ゴッコのことだ。
 犯人役と被害者役を決めて、被害者を殺害(の真似をして)犯人は身を隠す。ただ一つ、事件の謎を解く暗号をおいて。探偵は暗号だけを見て犯人を当て、探す。事件が解決されるまで、被害者は現場に倒れて死体になりきる。……そういう遊びだ。
 ちなみに被害者役は私。
 より面白くするために、被害者役の私も身を隠すようなルールにした。勿論、実際にそこに隠れる訳ではない。事件が解決されるまでの間、私はお風呂場で身を潜めているだけだ。
 ――出来上がった設定とは、こうだ。

 私は自分の夫を殺した。殺害した夫を家の敷地内のどこかに隠し、私は普段通りの生活をおくっていた。
 だが私が事件を忘れかけた頃になって、四人の内一人が私の仕業だと気付いてしまった。その人物に私は絞殺され、どこかに隠される。そこは、私が夫の遺体を隠した場所だった――。

 私たちに暗号を作る才能はない。だから普通の文でヒントを書く。これを読めば私がどこに隠されているか判るように。

 1:ここは木造の古い庭付きの家。けれど、家は頑丈で、内部も含めてどこも壊れてはいない。
 2:私の遺体が隠されているのは次の三つの内のどこか。
   ――庭の人目につかぬ場所の土の中。
   ――庭の人目につかぬ場所にある古井戸の中。
   ――家の床下。
 3:その他の説明。
   ――庭には紫陽花が植えられている。その殆どが咲いていて、色は美しい青。
   ――古井戸に水はなく、土が入っているだけ。緑もなく、枯れ果てている。
   ――家の手入れは特にされていない。たまに私が壁紙を変える程度。

 ここへ来て大変なことが解った。私たちは探偵役を決め忘れていたのである。今更決めようにも、みんな事件の真相を知っているのだ。どうしようもない。だが私たちはこれで遊びたいのだ。仕方なく誰かがくるのを待っている。

 探偵の役割は『私の遺体が隠されている場所を見つけて、それが終わった後、四人の中から犯人を当てる』こと。
 場所は上のヒントだけを見て決めること。家や庭から出てはいけない。調査をしてから場所を特定するのは禁止だ。四人に質問をするのもいけない。
 ――私たちがしているのは『犯人が残した文を読んで、推理する遊び』なのだから。
 ズバリ、と当てて欲しい。

 その場所があっていれば、私は風呂場からみんなのもとへ姿を現す。
 それから犯人探し。そのルールとヒントはこちら。

 1:犯人は素手で縄を握り、私を絞殺した。
 2:四人は全員私と同い年の女性である。
 3:部屋の中は暖房がついていないため、寒い。
 4:この時に限り、四人に声をかけることが出来る。質問やお願いなど、何でもいい。けれど探偵一人に対して、声をかけるチャンスは一度きり。いくつも質問をしたりお願いをしてはいけない。
 5:四人に向かってあることを言えば、すぐに犯人は特定される。それは事件に関係した言葉ではなく、簡単な「お願い」である。

 縄は焼かれ、灰は外にまかれた――ということにしておこうか。四人の名はA・B・C・Dとしておこう。ロングが二人(AB)、ショートカットが二人(CD)――まぁ事件とは何の関係もないが。
 さて――探偵役は現れるのだろうか。
『文だけを見て、被害者の隠された場所を特定し、四人にどんな言葉をかけるのか』
 私たちは胸を弾ませて待っているのだった。

「――色紙に書いてあることは以上です。何枚も紙を使ってしまいました」
 未来は水を飲んで一息つき、
「単純に考えた方が良いみたいですよ。この手のことは深読みすると逆にわからなくなることが多いですから」

------<オープニング>--------------------------------------

「と、言う訳ですが……どうしますか?」
「参加させてもらうよ。勿論ね」
 考える様子も見せず、祷は即答した。
 理由は簡単。面白そうだからだ。
(もっとも、俺は推理なんて苦手だけどね?)
 ……それはそれで面白そうだけど。
「でも、設定がちょっと気になるね。ゲームってことを考えても、旦那さんを殺すなんてね」
「確かに……」
 未来は色紙に再度目を通した。
「でも、このゲームをやる以上は、他殺事件を絡めなければいけませんから……」
「いや、やっぱりおかしいよ。だって石塚佳織って人が、殺されている設定だったよね? わざわざ旦那さんまで殺される必要があったのか、俺にはわからないよ」
「それは、旦那さんを殺したことが石塚佳織殺害の理由に繋がっているからではないでしょうか」
「まぁ、そう言われればそうなんだけどね。でもそれだけのために、佳織さんが旦那さんを殺害したっていう設定にするっていうのは、俺としてはちょっと納得がいかないかな。勿論、ゲームの話だっていうのは判っているけどね?」
「そうですね……」
 再度依頼内容を読み直す未来。
「もしかしたら……今祷さんがおっしゃったことは、結構重要なことかもしれません」
「というと?」
「旦那さんを殺害したという設定を作ったのは、別の理由があるかもしれません。……答えのヒントになる可能性もあるかもしれませんよ」
「成る程ね」
 元々調べてみるつもりだったのだ。このことが答えを導き出すヒントになるなら丁度良い。
「で、俺は推理ゲームを終わらせてくればいいんだね?」
「ええ。……ゲームが終了すれば、石塚佳織の魂――焔と私は読んでいますが――が現れます。焔が見つかれば依頼は終了です」
 未来は色紙を両の掌の間に収めると、一気に握りつぶした。
 同時に、祷の視界は黒の光に覆われ――。

 現れたのは、黒の世界。



■黒の世界■

 木造の古い庭付きの家、と未来は言っていたが、その通りだった。
 シュラインたち四人――海原みなも、綾和泉汐耶、綾辻祷――はコタツを囲んで座り、ABCDと名をつけられた女性四人は襖を背にして立っている。
 ヒントに書かれていた通り、部屋は冷え切っていた。そのためか、コタツの上には御丁寧にも四人分のお茶が用意されている。
「妙な図ねぇ」
 お茶を一口飲み、シュラインが呟く。
(確かにね)
 まるでお茶会の雰囲気だ。何となく自分が一番浮いている気がする。それに男は自分一人だけだ。
 もっとも、それは別に気にならない。
(女性に囲まれている状態は、別に不快じゃないしね)
 花に囲まれているようなものだ。
 真剣な表情で口を開いたのは、みなもだった。
「あの、本題に入りますけど……みなさんはどう推理しました?」
 その声に反応したのは汐耶だ。バッグに手を差し入れたかと思うと、手帳をコタツの上に置く。
 開いたページには、何やら文字が書き付けてあった。
「未来さんの話をまとめたものです。これを見ながら話した方が良いですよね」
(メモか)
 ……確かにあった方がいいだろうね。
 それぞれの記憶だけで四人の意見をまとめるのは危険だろうから。
 そう考えながらも、祷の視線は手帳ではなく、襖に注がれている。
 ABCD――四人の表情がずっと気になっているのだ。
 四人はなるべく平静を装って立っているのだが、それでも時折口を押さえたり、微笑んだりしている。
 まるで母親の前で秘密を隠している子供のようだ。
(答えを言いたくて仕方ない様子……か)
 彼女らはナゾナゾの出題者のようなものなのだから、その表情もわからなくはない。
 だが旦那さん殺害の設定がいまいち理解出来ない分、複雑な気分ではある。


■死体はどこか■

 みなもが不思議そうな表情で、自分を眺めている。
 そういえば、話を聞いていなかった。
「ごめん、ちょっと考え事をしていてね。……何の話だったかな?」
「佳織さん……旦那さんもそうですけど、二人の死体が隠されている場所の話です。祷さんは、どこだと思いますか?」
 祷は手帳に視線を落とす。

 1:ここは木造の古い庭付きの家。けれど、家は頑丈で、内部も含めてどこも壊れてはいない。
 2:私の遺体が隠されているのは次の三つの内のどこか。
   ――庭の人目につかぬ場所の土の中。
   ――庭の人目につかぬ場所にある古井戸の中。
   ――家の床下。
 3:その他の説明。
   ――庭には紫陽花が植えられている。その殆どが咲いていて、色は美しい青。
   ――古井戸に水はなく、土が入っているだけ。緑もなく、枯れ果てている。
   ――家の手入れは特にされていない。たまに私が壁紙を変える程度。

(紫陽花の庭――かな)
 ……他の人はどう思っているのかわからないけどね。
「黙っていても仕方ないわね」
 シュラインは軽く息を吐いた。
「最初に意見を言っちゃいましょう」
 それがいい。四人は口を開いた。

「私は井戸だと思うわ」
「私は家の床下が怪しいと思います」
「あたしも井戸だと思うんですけど……家の床下と迷っているところもあります」
「俺は紫陽花が咲いている庭、かな?」

 ――……………………沈黙。



■分かれた意見■

「見事に意見が分かれたわねぇ」
 半ば驚いた表情のシュライン。
「そうですね」
 と相槌を打ち、汐耶は考え込んだ。
「そうですね。単純に考えろと言われると、逆に迷うところもありますし……」
 その声に同調したのは、みなも。
「あたしもちょっと自信がないです」
 祷も少し驚いていた。
 自分の推理は間違っていたのだろうか。
(まぁ、もともとあんまり期待はしていなかったけど――どちらにしろ納得行くまで訊かないとね)
 とりあえず疑問をぶつけてみることにする。
「俺、庭って思っていたんだけど、違うのかな? 人体に含まれるアルミニウムやリンなんかが作用して、紫陽花が青くなったのかなって考えていたんだけど」
 シュラインが「ちょっと待って」と声を出した。
「リンはともかく、花の色を変える程の量のアルミニウムが体内に蓄積していたら、殺される前に脳神経がやられてしまうわ」
「そうなの? それはちょっと困るね」
 みなもは一度頷いて、
「でも、人体の影響で紫陽花の色が変わる――これは本当だと思います」
「そうね」
 シュラインも同じ考えだ。
「その考えは俺と同じだよね。それなのに、答えが逆だ」
 いくつかの考えが頭に浮かぶ。
「ということは、逆に捉えればいいのかな? ――人体の影響で紫陽花の色は赤に変わる」
「そう。庭の紫陽花の色は青。だからそこに人は埋まっていない――」
 シュラインの言葉を汐耶がつぐ。
「おそらくアルカリの影響だと思います。肌は弱酸性ですけど、全体で見れば人間はアルカリ性ですから」
 紫陽花はアルカリ性で赤くなり、酸性で青くなる。人間が埋まっているなら、紫陽花が青いというのはおかしいのだ。
「紫陽花の色は、選択から庭を除外するために作られた設定でしょうね」
「そうだったんだね」
 何にせよ、選択肢は一つ減ったのだ。

 そうか、と祷は思う。
 佳織の夫が殺されたっていう設定が作られた一番大きな理由はここにあるのだろう。
 さっきまで深くは考えていなかったが、石塚佳織が殺害されたのは今日なのだ。体内のアルカリが土に影響を及ぼす、という推理は時間が短すぎて使えない。
 だから佳織よりも前に、誰かが殺される必要がある。そしてその死体は佳織と同じ場所に隠されていなければならない。
 ――その相手が佳織の夫、というのは好都合だ。
 犯人を佳織という設定にしておけば、紫陽花のことに加えて、佳織自身の殺害理由にもなる。誰かが佳織の夫の復讐を果たした、という話を作れるのだから。
 それに夫ということなら、この家のどこかに死体を隠すのも簡単で、わかりやすい。家に住む者が、家の中で殺され、この家の敷地内に隠される――。
 おそらく他の選択肢を削るのにも使われるのだろう。
 つまり、選択肢を絞るヒントに使うため、夫を殺す設定にしたのだ。
(そういうことか)
 ――理屈としては理解出来た。



■井戸か床下か■

 祷が考え込んでいる間、三人は井戸か床下かで話し合っていた。
 以下、その会話――。

「私は井戸で、汐耶さんは床下。みなもちゃんも井戸……でいいのよね?」
 シュラインの問いに、「はい」と答えるみなも。
「ちょっと迷ってもいますけど、井戸かなって思います」
「……二対一ですね」
 汐耶が呟く。
「正直、私も確信が持てないんです。迷いましたけど、井戸の土をどこから用意したのかわからなかったので、床下にしたんですよね……」
「井戸の土は庭から持ってきたんじゃないかしら? 紫陽花のところとか、土はあるもの。井戸に落とした人を覆い隠すくらいの土はあると思うし――それに使っていない枯れ井戸なら、風の影響で自然と底に土が溜まっていくという考え方も出来るわ」
「そういえばそうですね……」
 とすると、床下と井戸、両方とも可能性がある。これから絞り込まなければいけない。
「床下だと、ちょっと手間がかかり過ぎな気がするんですよね」
 自分自身が確認するように、ゆっくりと喋るみなも。
「畳を取って、床板を外して――。ヒントに『家は頑丈で、内部も含めてどこも壊れてはいない』と書いてありますから、床下じゃないんじゃないかなって……。逆に、井戸だと思う理由は、土に草やコケが生えていないのは変だと思うんです。シュラインさんが言ったように、自然に井戸の底に土が溜まっていったのなら、緑があっても良い筈ですから」
「確かに……。普通、土があってそれなりの時間が経過していれば、緑くらいありますね」
 シュラインが口を開いた。
「床下ではない理由がもう一つあるわ。――ここが木造の古い家だから」
 みなもと汐耶はお互いの顔を見合わせた。どういう意味だろう?
「木造の古い家なんて大変よね。何かあるとすぐに虫――シロアリなんかが巣食っちゃうもの」
 二人の表情が変わった。そうだ、この家の床下に死体など埋めていたら――。
「今頃虫の棲家になって、木も全部やられるでしょうね。とても住んでいられないわ」
「じゃあ、決まりですね」
 汐耶は手帳に記した『井戸』の部分に丸印をつけた。
「死体が隠されている場所は、庭の人目につかぬ場所にある古井戸の中」



■一つだけの質問■

 襖が開いた。
「井戸で、正解です」
 立っていたのは、長い黒髪を垂らした女性だった。霊のように色白の肌――石塚佳織は死体役に適任と言えた。細い手首にはうっすらと血管が見えている。
 開いた襖から氷のような風が流れてきて、背中に水をかけられたような感じがした。
 顔色に似合わず、佳織は晴れ晴れとした表情だ。一人風呂場で隠れているのに退屈していたのだろう。
「こんな容姿だから、お前は死体役だってみんなに言われたの。嫌になっちゃう」
 そう言ってABCDの隣に座ると、微笑んだ。
「あとはあたしが誰に殺されたか――ですね」
 それなら、と祷は言った。
「大体判っているよ。他のみんなも、だけどね?」
 四人が同時に声を出した。

「掌を見せてください」



■犯人は■

「どうしてそう思うんですか?」
 佳織は首を傾げた。
 嬉しそうに微笑みながら。
(楽しんでいるね)
 祷は答える。
「掌に跡が残っているから、かな。部屋が寒いお陰で、区別がつきやすいだろうしね。そういう訳だから、見せてもらえる?」
「勿論です」
 四人が揃って手を伸ばし、掌を見せる。
 寒い室内で普段よりも青白くなっている掌の中で、Bだけが違った。
 掌に横一筋、線の跡が走っている。
 ロープの跡、どころではない。紫と赤が交じり合っている跡――。
 Bの掌は内出血を起こしていた。
 心配そうにBを見るみなも。
「大丈夫ですか?」
「ええ。見た目とは違って、殆ど痛くないですよ」
 Bは腕を下ろして呟いた。「完敗ね」
 シュラインはため息をついた。半ば呆れているのだろう。
「女の力だもの。絞殺するには二・三分じゃ済まないわよね。それくらいじゃこんなに跡は残らないもの」
「倍の時間やっても足りないですね。十分近くはしないと。なので、柱にくくりつけた縄をずーっと引っ張っていました」
 そこまでする必要があったのかはわからないが、こだわりは感じられる。
「みなさんが探偵役を演じてくださったお陰で、マーダー・ゲームは終わることが出来ます」
 佳織は笑っていた。
「お楽しみいただけましたか?」
「それなりにね」
 そう答えてから、祷は佳織たちを見渡し、
「旦那さんを殺した理由を聞きたいね。感情的な理由はないんだよね?」
 佳織は少し黙ってから、「ありません」と答えた。
「ヒントを作るために設定した架空の人物と設定ですから」
「だろうね。それがあったら、もっと良かったと思うよ。一応殺害したっていう話にしたんだからさ」
 祷は肩をすくませた。
 ……俺が旦那さんなら、軽く祟るね。

 佳織は笑いながら、言った。
「ゲームはこれで終わりです……」
 言い終わらないうちに、佳織の身体が水飴のように歪む。
 合わせたように、コタツも、柱も――家が、消える。
 残ったのは祷たち四人と、井戸。
 その井戸から柔らかな光が現れた。

 焔――。

 つと、視界が白く滲んだ。



■EUREKA■

「ご苦労さまでした」
 未来は穏やかに四人を迎えた。
「焔と石塚佳織の身体は、あとで保管室に移動しておきます。ありがとうございました」
 そう言って頭を下げる。
(もう戻ってきたんだね)
 実感は沸いてこなかった。元々、向こうへ行った時も実感はなかったのだ。
「推理はどうでした?」
「慣れないことはしない方がいいね。俺は推理ってあんまり得意じゃないから、少し疲れたかな?」
 ……ま、こんな日もあるだろうね。
 祷は窓から外を眺める。日は暮れていた。
 ――さて。
 どうやって帰ろうか?

 ……出来れば楽しい気分で帰りたいけどね。
 


終。


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

 0086/シュライン・エマ/女性/26歳/翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員

 1252/海原・みなも(うなばら・みなも)/女性/13歳/中学生

 1449/綾和泉・汐耶(あやいずみ・せきや)/女性/23歳/都立図書館司書

 2303/綾辻・祷(あやつじ・いのり)/男性/25歳/チェリスト

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■         ライター通信          ■
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 D.D ――夢に囚われた者たち――
 第二回「黒色の色紙:マーダー・ゲーム」へのご参加、誠にありがとう御座います。佐野麻雪と申します。
 この異界の設定上、オープニング部分がそれぞれ個別となっております。
 その後は最後まで四人一緒に行動しているものの、所々個別の文章が入っております。
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 +綾辻祷さま+
 初めまして。ご参加ありがとうございます。
 プレイングと設定からイメージを膨らませて書かせていただきましたが、いかがでしたでしょうか。
 ご満足いただける箇所があれば幸いに思います。
 違和感を感じる個所がありましたら、どうかご指摘願います。
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 ……D.Dの一回目も妙な方向へ進んでいましたが、二回目も似たような結果になりました。
 そんな異界ですが、宜しければまたお付き合いください。

 蛇足ですが、未来は交友関係によって口調が変化しております。PC登録してあるので、気が向いた時にでも相関を結んでやってくださいませ。口調が変化することと裏ストーリーに絡めることくらいしか、利点はありませんが……。