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<東京怪談ウェブゲーム 神聖都学園>


卒業式には心からの歌を…


♪音楽準備室にて♪

 2月。寒いんだか温かいんだか中途半端なこの季節になると、
響・カスミには一つの忙しい仕事が舞い込んでくる。
それは来月行われる『合同卒業式』で在校生が卒業生に贈る歌を作ると言う事。
何故かここ、神聖都学園では毎年それが恒例行事になっていた。
 ちなみに卒業といっても、小等部6年はそのまま中等部1年に進学したり、
中等部3年が高等部1年に進学したりするので実質変わらないのだが、
やはり中には神聖都学園を出て行く生徒達もいるわけで…。
「やっぱり思い出に残る曲にしたいわ〜…去年は”遠い日の歌”の替え歌だったし」
「って先生、早く作らないと練習する時間なくなっちゃいますよ?」
「だからこうやってレクリエーション部の部長さん呼んでるのよ〜!」
「”部”じゃないです、”愛好会”です!!」
 人員不足で部に昇格できない愛好会の会長、新堂・愛輔は、
カスミのセリフに心からのツッコミを入れた。
これだけはゆずれないというか、こだわっている個所らしい。
「ねえ新堂くん…みんなから募集してくれないかなあ?歌詞」
「僕がですか?別にいいですけど…できれば…」
「それでね、歌詞を持ち寄ってみんなで作るの!いいじゃない?いいわね!」
 カスミは自分で言っておきながら自分の案に感心している様子で、
何度もうんうんと満足そうに頷いて両手を叩いていた。
「作曲は任せて!だからできる限り多くの人から歌詞を集めてね?お願いね?」
 うふふっと嬉しそうに微笑みながら、
カスミは愛輔に何もかかれていない白紙のコピー用紙をごっそりと渡したのだった。
しかし、レクリエーション愛好会は人手不足な上に知名度も低い。
とてもじゃないが…校内をかけまわって色々な相手から歌詞を書いてもらうなど不可能に近い。
「誰かに手伝ってもらわないと、絶対に無理だよなあ…」
 愛輔はなんだか泣きそうな気持ちになりながら小さく呟いたのだった。


♪レクリエーション愛好会部室♪

「ほんっとーにありがとうッ!!」
 愛輔は、目の前の人物の手をぎゅっと握って何度も上下に振る。
あまりの勢いに、されている側…井上・麻樹(いのうえまき)としてはたまったものではないのだが…
「もうええもうええ!わかったっちゅーに!」
「でも本当に手伝ってもらえるなんて思ってなくて!!」
「いや…まあ俺もバンドマンのはしくれやし…卒業生に花添えたれるなんて、なんかええやん?」
 ニッと笑みを浮かべて、麻樹は愛輔の手から自分の手を丁寧に引き剥がした。
「あははは!マッキーさりげなく嫌がってるじゃない?」
 そんな麻樹の様子を横で見ていた女性、田中・稔(たなかみのる)は、
金髪の長い髪をさらっと後ろに流しながら元気に笑い声をあげた。
「田中さん…そのマッキー言うのやめてくれへん?」
「いいじゃない?同じ志を持つ仲間として親しみこめてるんだから…
だからマッキーも、田中さんじゃなくて稔って呼んでいいからね」
「いや…せめて稔さんで…年上やし…」
「なに?誰が年増だって?」
「田中さん田中さん!誰もそんな事言ってない…」
 ぽんぽんと進んで行く会話を、愛輔がツッコミを入れて一旦止める。
なんとも会話の弾むメンバーが揃ったな、と愛輔は嬉しく思いつつ二人を見つめた。
 茶髪に近い金髪の神戸弁の男性は井上・麻樹。
インディーズバンドのギタリストをやっていて、今回、愛輔から直接依頼を受けて学園にやってきた。
 褐色の健康的な肌に金髪の女性は田中・稔。
アルバイトで学園に仕事でやってきたところ、偶然、愛輔からこの話を聞いて協力を申し出た。
「それで?どういうことをすればいいの?」
 稔が組んでいた足を組み替えながら、愛輔に問う。
愛輔は徐に白紙のコピー用紙を取り出して二人の前に置いた。
「学園内の…できる限りの生徒さん…とか、先生とか…その他の人とかから…
卒業生に贈る歌の歌詞を集めて来て欲しいんです!単語でも文章でも構いませんから」
「まあそれは了解や…で?その後、集めて一つの歌詞を作るわけやな?」
「そうですそうです」
「専門職の人がいるからそれは任せるわ〜!とりあえず私は歌詞を集めればいいのね?」
「そうですそうです」
「ほんならまあ…仕事は早いに越した事はないからな…早速取り掛かるわ」
「マッキーは校舎のあっち側ね、私はこっち側、新堂ちゃんはそっち側、その他の子は向こう側ね」
 何故かてきぱきと稔が担当区域を決めて、それぞれの方向を指差す。
この場にいる者の最年長だからなのかどうかは知らないが、全員言われるままにそれに従う。
最後に残った稔も、満足そうに微笑むと…コピー用紙を持って担当区域へと向かったのだった。

♪♪♪

 稔が向かった先には、教師職員室や特別活動室が多く並んでいる校舎だった。
それゆえ、あまり生徒の姿を見かけず…大人達の姿が多い。
しかし学校の関係者であれば誰でも良いとの事だったので、
とりあえず手近にある高等部の職員室から歌詞収集をはじめてみる事にした。
「失礼します…」
 遠慮がちにドアを開けて稔が顔を覗き込むと、数人の教師が顔を上げる。
時折アルバイトで訪問している事もあり、稔の顔を知っている者が笑顔で迎え入れた。
「どうしたの?今日はお仕事もう終わったんじゃ…」
「はい。そうなんですけど…レクリエーション愛好会のお手伝いで」
「ああ〜!あの愛好会の!」
「ご存知ですか?」
「存在はね?新堂君でしょ?それで、今回は何を計画しているのかしら?」
「あ…それがですね、卒業式で歌う曲の歌詞を集めるって言う事なんですけど…」
 稔は顔見知りの教師に趣旨を説明して、コピー紙を手渡す。
その教師は職員室に残っている教師全員に声をかけると、稔の前で相談しつつ歌詞を書き始めた。
「田中さん、他の先生方にも連絡入れておくから、行ってみて?」
 不意に、他の教師が稔にそう声をかけて微笑む。
なんだか予想以上に楽に集まるかしら?と稔は少し嬉しい気持ちで頭を下げた。
そして、コピー紙を持って他の教職員室へと向かう。
 向かったのは中等部の職員室。そこでもみな快く歌詞を寄せてくれた。
次に、小等部。同じく、すんなりと歌詞は集まる。
最後に残った大学の教授達も、意外と快諾してくれて持っていた紙は全て配り終えた。
「さて。これで後は時間を見計らって集めればいいわね」
 稔がそう一息着いた時、ちょうど前方に学生食堂があるのが目に入った。
ここでは喫茶店も兼ねていて、来客が休憩に使ったりする事も許可されている。
稔は周囲をきょろきょろと見渡した後…ニッと笑みを浮かべて…学食へと入って行ったのだった。


♪再びレクリエーション愛好会部室♪

「ただいま!」
 稔が両手で抱えるようにしてコピー紙を持ってレクリエーション愛好会の部室に戻ると、
麻樹以外のメンバーは揃っていて、会議机の上に集めてきたコピー紙を広げていた。
白紙だった紙も、今ではそれなりに何かが書き込まれている。
稔は自分で集めてきた歌詞を机の上に置くと、椅子に腰を下ろしてニコニコと微笑んだ。
「お疲れ様でした。お茶入れます?」
 愛輔が部室内に備え付けてあるポットでお茶を入れて稔に手渡す。
熱いお茶を一口のんで、ほっとしているうちに、ガラっとドアを開いて麻樹が疲れた顔をして戻ってきた。
「マッキーが戻ったところで、始めましょうか」
「だから稔さん、そのマッキー…いや、もうええわ…」
「新堂ちゃん、ホワイトボード」
「はい!」
 いつの間にやら稔がしっかりと仕切っていて、愛輔もそれに従っている。
ガラガラガラと、すこし使い古されて汚くなっているホワイトボードを引っ張り出して、
これまたインクの切れかかったペンで愛輔は”歌詞一覧”とタイトルを記入した。
「それじゃあ、とりあえず集まったもの読むわね?」
「俺も読めばええのかな?」
「順番に読みましょう」
 自分で集めたものと、他の者が集めたものを無造作にまとめて稔が微笑む。
麻樹も同じように目の前にあるものをかき集めると、とりあえず簡単に目を通して。
「それじゃあ私から…”さようなら”…まあ、普通ね」
「同じく俺もそれが多かったな…それから”別れ”」
「あ、私で一番多かったのは”笑顔”って言うのもあるわね」
「俺は一番多かったのはやっぱり”卒業”」
「卒業かあ…なんかさ、輪ゴムをさ、びよーんって引っ張ってパッと手を離すとピューッて飛んでくじゃない?
卒業式ってそういうイメージなのよね…きっかけって言うか、とか景気づけ…みたいな?」
 稔は手に持った紙を見つめながら、何かを思い出すようにうんうんと頷く。
実際、彼女も最近田舎から上京してきたばかりで、卒業と聞いてなんとなく郷里の家族や友人を思い出していた。
「稔さん、次読んでくれへんと困るでー」
「――ああ!ごめんなさい!えーっと…次ね…”涙”うん、これもあるわね」
「俺のは”ありがとう”やな…なんかありきたりなんばっかりやな…ごめんなー…」
 麻樹は済まなそうに呟く。
もう少しきちんと集めたい気持ちはあったのだが…あの出来事で時間を取られてそうもいかなかったのだ。
「あのさ…俺、あんまり集められへんかったから、良かったら作曲しよか?」
「本当ですか!?」
 愛輔がホワイトボードから麻樹に視線を向けて目を輝かせる。
麻樹はニッと笑みを浮かべて、徐にテーブルの上に何故かあった電卓をたたきつつ。
「もちろんや!ギャラはこんくらいで…」
 どや?と満面の笑みを浮かべる麻樹を、愛輔は少し引きつった顔で見つめ。
「カスミ先生に…相談してみます…」
 と、小さく呟くのだった。
「なにマッキー!そんな事言わずに一曲くらいぱーっと作ってあげたら?」
「そう簡単に言うけどなあ稔さん…結構、曲作りって大変なんやでー…」
「そうなの?まあ、私は専門外だからよくわからないけどさ…」
「ま、ギャラの話はさておき、早いところ歌詞仕上げようや」
 先ほどから話題がそれまくっている事を心配して麻樹は軌道修正する。
このメンバーだと、話題がずれはじめたらとことんまでずれかねない…そんな気がしたからだ。


 実際、彼のその予感は的を得ていて。
その後も何度も何度も話題が脱線して、予想以上の時間がかかりながらも…
なんとか…それから三日後。ひとつの形となって歌詞は無事に完成したのだった。



♪神聖都学園卒業式♪

 卒業生たちが並ぶ総合体育館の壇上に、声楽部が並ぶ。
そして吹奏楽部がその下に並んで…卒業生たちと向かい合う形になった。
一応、学園の全生徒を収容できるだけの規模だけあって…かなり広いスペースの体育館なのだが、
今回は卒業生とその関係者が揃っている事もあって狭く感じられた。
 その壇上に上がった響・カスミは…一礼をしてマイクの前に立つ。
見守る卒業生たちの視線に緊張しつつ、ひとつ、大きく深呼吸をして。
「皆さん、卒業おめでとうございます。
今年、皆さんへ贈る歌はほとんどの在校生が協力して出来上がった歌詞です…
作曲もとある方に手伝っていただいて仕上げる事が出来ました…皆さんの門出を祝って…贈ります」


卒業生へ贈る歌『未来へ』


さようなら あなたとは遠く離れるけれど
信じるものの近くへ行くよ

ありがとう ふとした時に思い出すあなたは
いつも笑顔で励ますから

ぼくたちも あなたが寂しくなった時のために
涙流す前に笑顔を作ろう

卒業は今までのゴール
そしてこれからのスタート

思い出を希望にかえて今 歩きだそう
限りのない未来へ…





〜Fin〜

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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【2603/田中・稔(たなか・みのる)/女性/28歳/フリーター・巫女・農業】
【2772/井上・麻樹(いのうえ・まき)/男性/22歳/ギタリスト】
NPC
【***/新堂・愛輔(しんどう・あいすけ)/男性/18歳/高校生・レクリエーション愛好会会長】

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■         ライター通信          ■
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この度は、神聖都学園の卒業式企画に参加いただきありがとうございました。
時間の流れのない世界なので卒業と言ってもどうなのだろうか…と思ったのですが、
参加いただけて嬉しかったです。どうもありがとうございました。<(_ _)>
 今回、歌詞を集めてひとつの歌にするという内容だったのですが、
最後に出来上がった歌詞はいかがでしょうか?
集まった単語とフレーズを組み合わせて仕上げました。
個人的に、いい歌詞だなと思って気に入っております。ありがとうございました。

卒業式関係のお話はとりあえず今年はこれで最後ですが(笑)
また何かありましたら皆様にお会いできるといいなと思っております。

>田中・稔様
こんにちわ。はじめまして。ライターの安曇あずみと申します。
この度は参加いただけまして誠にありがとうございました。
歌詞を集めて作るだけのお話で抑揚のないストーリーになってしまったのですが、
楽しんでいただけたら幸いです。
またどこかでお会い出来るのを楽しみにしております。


:::::安曇あずみ:::::

※誤字脱字の無いよう細心の注意をしておりますが、もしありましたら申し訳ありません。
※ご意見・ご感想等お待ちしております。<(_ _)>