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<東京怪談ウェブゲーム アンティークショップ・レン>


紅いカプリ・ドレス
●オープニング【0】
 アンティークショップ・レン。そこには曰く付きの商品が数多くあるというのは、ここを1度は訪れたことのある者であれば周知の事実であった。
「ちょっと試してほしいドレスがあるのさ」
 呼んだ者たちを前にして、碧摩蓮はさらりと言い放った。そしてテーブルの上に、ある紅いドレスを広げて皆に見せた。
 カプリ・ドレス……とでも呼ぶのだろうか。胸をX字状に隠す形状となっているドレスだ。しかし肩や背中の露出はかなり高い。
「『女性らしくする』効果があるらしいんだよ。で、具体的にどうなのかあんたたちにレポートしてきてほしい訳さ。ああ、忘れてた。これもセットだったよ」
 と言い、蓮は紅いハイヒールもテーブルの上に乗せた。これはまあ、ごく一般的なハイヒールである。
「悪いけど1晩で調べてもらえないかい、皆で一緒に。謝礼は弾むよ」
 その場に居た全員の顔を見回して蓮が言った。
 1晩は正直きついものがあるが、皆で調べるのなら何とかなるかもしれない。それに謝礼も魅力だし。
「それは構いませんけど、1着しかないんですよね?」
 誰かが蓮に尋ねた。すると蓮はしれっとこう答えたのである。
「ああ、それは大丈夫。ダースであるから」
 『ダース買いかいっ!』――と、思わず突っ込みそうになったが、ぐっと堪える一同。
 何はともあれ調べてみましょうか、徹夜で。

●いいドレス? 悪いドレス?【1】
「悪いけど、ドレス並べてくれるかい?」
 蓮がそばに控えていた20歳手前くらいの若く美しい女性店員に促した。
「はい、分かりました」
 女性店員――鹿沼・デルフェスは蓮の指示に従いゆっくりと、しかし手際よくテーブルの上にドレスを並べていった。
「…………」
 田中裕介は苦笑いを浮かべ、蓮の顔を見た。どうもダース買いした蓮に呆れているようである。言いたいことはなくもないが、とりあえず裕介は並べられたドレスに手を出してみた。それをきっかけに、わらわらとドレスを触り始める他の者たち。
「カプリ・ドレスねえ……」
 ドレスを品定めするように触りながら、藤井葛がぼそっとつぶやいた。手触りはなかなか悪くはない。
「ま、こういうドレスを着る機会ってなかなかないからね」
 表裏、しげしげと見つめる葛。せっかくだから着てみようか、そんな雰囲気が漂っていた。
「あのっ! これ……サイズこれだけなんですかっ?」
 ドレスをぎゅっと握り締め、海原みなもが蓮に尋ねた。みなもがサイズを気にするのももっともで、ドレスの背丈の方は問題なさそうなのだが、胸回りだとかそういった部分が……だったのだ。
「あいにくサイズは1種類しかなくてね。着れなきゃ着れなかったってレポートでもいいさ、しょうがない」
 さらっと答える蓮。
「そうなんですか……」
 蓮の答えに少し落胆するみなも。まあ、ないものは仕方がない。
「……大きく開いているのね……」
 ドレスを吊るすかのように持ち、巳主神冴那がぼそりとつぶやいた。が、すぐさま蓮の突っ込みが入った。
「それ、向き反対」
 そう、冴那は背中の方を前にしてドレスを持っていたのである。しかし、蓮の突っ込みは勇み足だった。
「こっちが背中……でしょう?」
 冴那はちゃんとどちらが背中かを認識していたのだ。苦笑いを浮かべる蓮。
「ああ、悪かったね。まさか先に背中側見るとは思ってなかったからね」
 ちなみに前後反対に着ると、非常に大変なことになるので注意が必要である。いやまあ、世の男性諸君にとっては大歓迎なのかもしれないが……それはさておき。
「結構いい生地使ってるよな」
 裕介が裏生地を見ながら言った。やはり衣装の類には一家言持つだけに、チェックも厳しい。
「そうですね〜。いいお値段なんでしょうね〜」
 そう言ったのはファルナ・新宮である。ファルナはほえほえにこにこと、メイドのファルファに手にしたドレスを何度も何度も当てていた。
「ファルファにも似合いそうですねえ♪」
 ファルナはファルファにも着替えさせる気十分の様子である。
「何か霊的な物は感じますけど……」
 同じくドレスを手にしていた天薙撫子が、何か思案するようにつぶやいた。何か引っかかる所でもあるのだろうか。
「悪影響を及ぼす類ではなさそうだな」
 注意深くドレスを調べていた真名神慶悟が、撫子の後を引き継ぐ形で言った。こくんと頷く撫子。
「ええと、つまりこういうことかしら?」
 少し離れ、ドレスに触れている皆の様子を窺っていたシュライン・エマが口を開いた。
「それなりの生地を使った、値段もそこそこのドレス。霊的な物はあるけれど、それは悪い物ではない。でも、何があるかは試してみないと分からない――と」
 ここまでの発言をまとめるなら、そういうことになるだろう。実際、シュラインのまとめに異論は出なかったのだから。
「えーと。試すって要するに着てみろってーの?」
 シュライン同様に様子を見ていた黒髪の女性、村上涼が誰とはなしに質問を投げかけた。
「そりゃ、普通はドレスは着るものさ。あんたはドレス試すって言われたら、焼いたり食べたりするかい?」
 蓮がくすっと笑って質問に答えた。当たり前といえば当たり前な答えである。
「いや、着るだけでいーなら着るけど」
 涼は一瞬むっとした表情を浮かべたが、すぐにそう答えた。だが、まだ引っかかることがあるのか、釈然としない表情のままだ。
「言いたいことあるなら、言ったらどうだい?」
 やや挑発するかのように、蓮が涼に言葉を促した。涼がまたむっとした表情を見せた。
「なら言うけど。女らしくなるって具体的にどーなんのよ?」
 と、疑問を口にしてはたと気付く涼。
「……ってー、それを調べるのも仕事な訳ね」
「そういうことさ」
 蓮がニヤリと笑った。

●業界事情【2】
「でもさー」
 ふう、と溜息を吐いてから涼は言葉を続けた。
「そう言われても、私元々女なんだし乙女なんだし。これ以上女らしくって言われても困るのよねー」
 肩の所で両手を開くゼスチャーをつけて言い放つ涼。そんな涼を、蓮が何か言いたげにじっと見つめる。
「何?」
「いいや、別に」
 涼の言葉に、蓮はしれっと答えた。
「まあ、確かにこんな大胆なものを着たら嫌でも女性らしくなるだろうが……」
 そこで言葉を止め、思案顔になる裕介。
「女性らしくする……か」
「女性らしく……とはどの国のどの時代の女性らしさなのかしら?」
 蓮の言葉に疑問を感じていたのだろう、シュラインが裕介の言葉を受ける形で言った。
「でも『女らしく』するんですよね?」
 みなもが間髪入れず言う。若干必死さを感じるのは気のせいだろうか?
「いつどこのだか知らないけど、女性らしくするとは聞いてるよ。だいたいどうなるか分かってたら、そもそもあんたらに頼みやしないって」
 笑いながら言う蓮。そりゃそうだ。
「それにしても、『1晩で調べてほしい』って何でそんなに急ぐ必要が?」
 葛が別の疑問を投げかけた。確かに単に調べるだけなら、じっくりと時間をかけて調べる方法もある訳で。
「先方が納品を急かすのさ。名前は出せないけど、某社の社長が……」
「いいえ、社長ではなく会長ですわ」
 蓮の勘違いを、デルフェスが修正した。
「ああ、そうだったねえ。ま、どっちでもたいして違いないさ。その会長が、愛人たちにプレゼントしたいと。そういうことだね」
 淡々と説明する蓮。何となくその会長がどういう感じの男性か、分かったような気がしないでもない。
「このドレスはどちらから仕入れられたんですか? その経緯をお伺いしたいのですが……」
 ドレスを手に思案していた撫子が蓮に尋ねる。だが、蓮の答えは意外だった。
「倒産処分品」
「はい?」
 きょとんとして聞き返す撫子。
「だから倒産処分品」
「差し押さえ、の方がより正確かと思われます」
 蓮の言葉に補足する形でデルフェスが言った。
「おいおい。差し押さえって……どういうことだ?」
 蓮とデルフェスの言葉の意味が、いまいち把握しきれない様子の裕介。
「取引先に、ちょっと魔力を持った服を作ってる所があったのさ。そこが先日、売掛金踏み倒して夜逃げしてね。それで売掛金の代わりに箱ごと持ってきたんだよ。うちだけじゃなく、他にも何軒か来てたかねえ」
 その時の様子を思い返す蓮。不況の影響は、こういう業界にも出ているらしい。
「……どこも大変なのね……」
 ぼそりとつぶやく冴那。ジャンルは違うが、同じく店を経営している者として他人事ではない話である。
「それがこのドレスなのですが、ところがこの一部は夜逃げ前に売り手が決まっていたそうなのです」
「それが、さっき言った会長って訳さ。あたしが持っていったことを聞き付けたらしくてね」
 デルフェスの説明の後、蓮が言った。なるほど、なおさらそりゃ急ぐ必要がある訳だ。

●鮮やかなドレッシング【3】
「事情は分かったけど」
 シュラインが口を挟んだ。
「ええと、もちろん男性陣も試すのよね?」
 シュラインがそう言った途端、慶悟と裕介が視線を逸らした。
「俺が着て調べる訳にも行かないだろう」
 視線を外したまま、苦笑する慶悟。しかし、そこに涼が食い付いてきた。
「そうよ、そう!」
 涼はシュラインをびしっと指差した。
「んなことを女らしい私がするよりなのよ。ここはやっぱり、女らしくない者に着てもらったほうがいいと思うのよね。つまり!」
 指先を慶悟に、それから裕介に向ける涼。
「男に!」
 指差され、明後日の方を向く慶悟と裕介。『冗談じゃない!』という気持ちが、その態度で分かる。
「それで胸が出てきたり、外に蹴り出したら男が群がってきたりするようなら本物じゃないの。それよねうん。それっきゃないわよね」
 1人納得する涼。その顔には笑顔が浮かんでいる。危うし、慶悟&裕介!
 しかし、そこに救いの声が聞こえてきた。ファルナである。
「ファルファ、着替えましょうか〜」
 その声を聞いた裕介の動きは素早かった。どこからか取り出したトランクの中よりシーツを引っ張り出すと、ドレスを手にしていたファルナに、ふぁさ……っと被せたのである。
 そしておもむろにシーツを取ると、そこにはドレスに身を包んだファルナの姿があった。なお、ここまでの所要時間はコンマ3秒。
「わぁ、手品みたいですね〜。ファルファもお願いします〜」
 言われるまま、同様にファルファへもシーツを被せる裕介。ファルファも瞬く間に、ドレス姿へと変わっていた。
「何か……変わった所はありますか?」
 撫子がファルナたちに尋ねる。
「身体にドレスがフィットしていますね〜。ファルファはどうですか〜?」
「……いいえ、特には異常を感じませんが」
 今の所、何の異変もないようである。
「じゃあ、行きましょうか〜」
 ファルファの手を取り、店を出てゆくファルナ。シュラインが慌てて呼び止めたが、一足遅かった。
「残念。レポートの話をしなくちゃと思ったのに……後で連絡しときましょ」
 溜息を吐くシュライン。そして忘れぬうちに、他の皆にレポートの形式について話をする。ある程度項目が揃っていれば、レポートの比較もしやすいし、共通点も見付かりやすい。
「他にもここで着替える者が居るなら、手伝うが……?」
 ぐるりと皆の顔を見回し、裕介が尋ねた。
「あ……あたし、お家に帰って試着してみます」
 みなもはそう言うと、ドレスを紙袋に入れてそそくさと店を出ていった。皆の前でドレス姿を見せるというのは、さすがに恥ずかしかったのかもしれない。
 結局、各自で1晩調べ、翌日またここへ来て報告をするということに、うやむやのうちに決まったのだった。

●不思議な感覚【5C】
 さて、翌日――アンティークショップ・レンに、全員が勢揃いしていた。
「じゃ、レポートを聞こうかい」
 蓮はそう言って、皆の報告を促した。最初に報告したのはデルフェスである。デルフェスはドレスに着替え、普段通り店で仕事を行っていた。
「身体にフィットし、動きにくさもなかったのですが……わたくしにはごく普通のカプリ・ドレスのように感じられました」
 要するに異常なし、ということのようだ。
「あたしもそばで見てたけど、何ら変化はなかったね。まあ、この娘の場合は十分女性らしいからねえ」
 一瞬ちらっと涼を見てから、蓮が言った。そばで見ていた蓮がそう言うのだから、本当に何も起こらなかったのであろう。
「何のご参考にもならず、申し訳ございません」
 頭を下げようとするデルフェス。だが、蓮がそれを制した。
「いやいや、あんたのせいじゃないし。じゃ、次よろしく」
 続いて報告をしたのはファルナだ。ファルナはファルファとともに、街中を歩いてきたという。
「あの〜、実は謝らないといけないことが〜」
 少し申し訳なさそうな様子のファルナ。隣のファルファが、すっとドレスを出してきた。が、1着は何の変化もないが、もう1着がとてもぼろぼろになっていた。もう売り物にはならないというのが一目で分かる。
「あらら、やっちゃったねえ」
 ぼろぼろになったドレスを見て、蓮が眉をひそめた。
「……申し訳ございません」
 頭を下げるファルファ。そんなファルファをかばうように、ファルナが言った。
「ファルファは悪くないんです〜。わたくしを助けようとしてくれたんです〜」
「どういうことだい?」
 蓮に尋ねられ、ファルナが説明を始める。何でも夜になり帰ろうとした所で、何人かの男たちに服装のせいだろうか、絡まれてしまったのだそうだ。そこでファルナを守るため、ドレスがぼろぼろになるのも気にせず、男たちを撃退したという。
「だからファルファは悪くないんです〜」
「……そういう事情なら、仕方がないね。不可抗力だよ」
 事情を聞き、蓮は納得したようだった。
「次は誰だい?」
「……いいかしら?」
 報告の3番手は冴那であった。冴那はドレス姿で1日自分の店、ペットショップ『水月堂』に立っていたのだ。
「どうだった?」
「不思議な感覚……だったわね……」
 冴那は昨日の出来事を思い返した。

「何かこうやって皆で同じドレスを着ていると思うと……いつだかテレビでやっていた『キャンペーンガール』っていう人みたいね……」
 他の皆も今頃同じ格好であることを思った冴那は、ふとそんなことを考えた。まあキャンペーンガールなら、もっと違う衣装になるのだが……。
「確か車に足を? かけて……ポーズをとっていたりしなかったかしら……」
 モーターショーか何かの映像が記憶にあるのだろう、それを思い出しながら真似してみる冴那。無論店内に車などあるはずないから、バケツで代用する訳だが。
「……何か違うかも……」
 ええ、全然違います、冴那さん。
 そんなことをしている所に、客はやってくる。格好が格好、ポーズがポーズなだけに、客はたいそう驚いていた。元から冴那は浮世離れした雰囲気で有名だが、さすがに今回のようなことは想定していなかっただろう。
(……このポーズがドレスの効能に関係ある訳ではないわよね……)
 バケツから足を降ろし、冴那はおとなしく普通に接客することにした。
「私の外見……蛇以外に何か変わって見えるかしら……?」
 『水月堂』の客層はマニアな人からぬるい人まで老若男女問わず。子供だって亀やイモリを買いに来る。その全員に、冴那は先の質問を投げかけたのだった。
 答えはだいたい『いえ、何も』だったが、中には『すっげー、色っぽいっす!』だとか『……そーゆー店に転換したんですか?』なんて答えも混じっていた。まあ、劇的に何かに変化するというようなことはないらしい。
 そして、格好が格好なだけにやってきた客は驚き、冴那に好奇なり好意なりの視線を浴びせ続ける。
 そんな視線を受け、冴那は何故かそわそわとしてしまい、落ち着かなかった。それは閉店まで続いたのだった。

「……あれが恥じらいというもの……なのかしら……?」
 よく分からない、といった様子の冴那。
「着心地はどうだい」
「悪くなかったわ……。少し……暖房の温度を上げたけれど……」
 まだ春前のこの時期、露出が多い服装ゆえに、暖房を強くするのは仕方のないこと。それはそれとして、着心地が悪いということは今の所はないようだった。
 4番手の報告はみなもである。みなもは家の自分の部屋で、試着してみたのだそうだ。
「このドレス、凄いです! 本当に『女らしく』なるんですねっ!!」
 自分の番が来るや否や、みなもは目を輝かせて話し始めた。何でも着て少しして、スタイルが急激によくなったらしい。いわゆる『ぼんっ、きゅっ、ぼんっ!』の状態に。
「そりゃ本当かい?」
「この写真見てください!」
 みなもはそう言って、ドレス姿の自らの写真を蓮に見せた。証拠となる記録写真だ。
「へえ、こりゃたいしたもんだ」
 感心し、他の皆にも写真を見せる蓮。写真の中のみなもは、デルフェスにも引けを取らないほどにスタイルがよく、普段のみなもからは感じられない妖艶な色気まで漂っていた。特に目元の辺りが、どうにも妖し気で悩ましい。
 こうして証拠写真が出た以上、ドレスには何らかの変化を引き起こす作用があると考えてよさそうだ。ただ、変化が起こっていない者が居ることからして、個人差はあるのかもしれないが。
「あのっ! アルバイト料……このドレスじゃダメですか?」
 よほどこのドレスが気に入ったのか、蓮に頼み込むみなも。
「いいよ、報酬とは別であげるさ」
 蓮は笑ってそう答えた。
 5番手の報告は撫子と裕介だった。ドレスに着替えた撫子が街中に出るのに、裕介がくっついていったのだ。
「着替える前は外に出歩くつもりはなかったのですが……」
 若干頬を紅くし、撫子は恥ずかしそうに口を開いた。
「いや……まさか、ああ変わるなんてなあ」
 意外そうにつぶやく裕介。この口振りからして、撫子にも何か変化が起こったようだった。
「何が起きたんだい?」
 蓮が撫子に話を促した。すると、本当に恥ずかしそうに撫子が話し出した。
「……どうしてか、ドレス姿のわたくしを見ていただきたくなってしまって」
 思い返すのも恥ずかしいのだろう、顔が次第に真っ赤になる撫子。
「俺としては、美人の人と一緒に歩くのも悪くはなかったがな」
 思い返すのも嬉しいのだろう、顔が若干にやけている裕介。そんな裕介を、撫子がきっと睨んだ。
「あのわたくしは、わたくしであって、わたくしじゃないんですっ」
「まあ、恥ずかしいんなら文字にして出しとくれ」
 蓮は苦笑して顔の真っ赤な撫子に言った。
 続いて6番手、慶悟の報告である。慶悟は式神たちにドレスをまとわせてみたらしい。
「十二神将中、女性型である大常と天后。それと、念のため男性型である貴人にもまとわせてみた」
 やや複雑な表情で報告を始める慶悟。何かすっきりとしていない様子である。
「何か変化はあったかい?」
「いいや、何もなかった。強いて挙げれば、皆が言っていたようにフィットしていたことくらいか」
 その慶悟の言葉を聞き、シュライン・葛・涼の3人が顔を見合わせた。『そんなはずないでしょ?』という表情だ。
 慶悟によると貴人はすぐに戻し、大常と天后は替形法で今風の女性の姿に変えて、街中を連れて歩いてきたそうだ。
「……じろじろと見られたのはあれだった」
 苦笑する慶悟。傍から見れば、華麗なドレス姿の女性2人に挟まれて歩く青年。そりゃ視線も浴びるだろう。
「報酬はちゃんと出るんだろうな?」
「出すから心配しなさんな。ご苦労さん、色男」
 蓮がそう言ってニヤリと笑った。
 ラスト7番手の報告は、シュライン・葛・涼の3人だ。3人は草間興信所に場所を移して、試着してみたらしい。
「結果はどうだい?」
「私たちは特に何も」
 シュラインが『私たち』の部分を強調して言った。微妙な言い回しである。
「そう、3人とも特に変化はなかった。着心地はさすがあれだ、悪くなかった」
 葛も『3人』の部分を強調して言った。
「そうそう、私たちはねー」
 涼も同様。『私たち』の部分を嬉しそうに強調した。
「……見せた方がいいんじゃない?」
 他の者たちの頭上に『?』が浮かんでいるのを感じたのだろう。苦笑いを浮かべたシュラインが葛と涼に促した。
 すると2人は写真を取り出し、手分けして皆に配り始めた。葛がデジタルカメラで撮った写真である。
 写真を見た瞬間、皆は驚きの言葉を口にした。
「これは……凄いですわね」
「……着たのね……」
「え? あの、これって……?」
「草間が……そうか」
「……草間さん、胸が……」
「化粧までして何をやってるんだ……」
「草間さん似合ってますね〜」
 写真に写っていたのは草間興信所の所長・草間武彦であった。だがその姿は普段のそれではなく、あのドレス姿。他にも色々と変わった所はあるのだが……本人の名誉のため、詳しい描写は避けることにする。が、大方の予想通りであることは言っておこう。
「やっぱり男が着れば、効果は一目瞭然!」
 満面の笑みを浮かべた涼がきっぱりと言った。
「思ったより映えたな」
 うんうんと頷く葛。こちらは写真の出来に満足している様子である。
「あはは、こりゃ分かりやすい。どうりで、真夜中に電話してくるはずだよ」
 写真を手にくすくすと笑う蓮。
「え、武彦さんが電話を?」
 シュラインが蓮に尋ねた。
「そうさ。真夜中にいきなり電話かかってきて、開口一番こうだよ。『このっ……大馬鹿野郎!!』ってね。こういうことだったんだねえ」
 蓮はパチパチと拍手しながら言った。非常に満足げな笑みを浮かべて。

【紅いカプリ・ドレス 了】


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【 整理番号 / PC名(読み) 
                   / 性別 / 年齢 / 職業 】
【 0086 / シュライン・エマ(しゅらいん・えま)
     / 女 / 26 / 翻訳家&幽霊作家+草間興信所事務員 】
【 0158 / ファルナ・新宮(ふぁるな・しんぐう)
              / 女 / 16 / ゴーレムテイマー 】
【 0328 / 天薙・撫子(あまなぎ・なでしこ)
               / 女 / 18 / 大学生(巫女) 】
【 0376 / 巳主神・冴那(みすがみ・さえな)
          / 女 / 妙齢? / ペットショップオーナー 】
【 0381 / 村上・涼(むらかみ・りょう)
                    / 女 / 22 / 学生 】
【 0389 / 真名神・慶悟(まながみ・けいご)
                   / 男 / 20 / 陰陽師 】
【 1098 / 田中・裕介(たなか・ゆうすけ)
              / 男 / 18 / 高校生兼何でも屋 】
【 1252 / 海原・みなも(うなばら・みなも)
                   / 女 / 13 / 中学生 】
【 1312 / 藤井・葛(ふじい・かずら)
                    / 女 / 22 / 学生 】
【 2181 / 鹿沼・デルフェス(かぬま・でるふぇす)
     / 女 / 19? / アンティークショップ・レンの店員 】


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■         ライター通信          ■
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・『東京怪談ウェブゲーム』へのご参加ありがとうございます。本依頼の担当ライター、高原恵です。
・高原は原則としてPCを名で表記するようにしています。
・各タイトルの後ろには英数字がついていますが、数字は時間軸の流れを、英字が同時間帯別場面を意味します。ですので、1から始まっていなかったり、途中の数字が飛んでいる場合もあります。
・なお、本依頼の文章は(オープニングを除き)全11場面で構成されています。他の参加者の方の文章に目を通す機会がありましたら、本依頼の全体像がより見えてくるかもしれません。
・今回の参加者一覧は整理番号順で固定しています。
・大変お待たせいたしました、高原の依頼では初となります『アンティークショップ・レン』でのお話をようやくお届けいたします。初めてということで、ちょっとコミカルの方に走ってみました。……書き終わって予想外の結末になったんで、ちょっとびっくりしています。何で草間がああいう目に遭うんでしょう……謎です。
・今回のお話、非常に分かりにくいと思いますので、こちらで補足の解説を。ドレスには『女性らしくする』作用がありました。男女問わずにです。が、発動するかしないかには条件がありまして。以下に主だった4つの条件を書いてゆきたいと思います。
・まず『女性らしさ』に明確なイメージがあり、受け入れることに積極的な場合。これはほぼ100%の確率で変化はイメージ通りとなります。霊的能力の有無は、ほぼ関係しません。
・次に『女性らしさ』のイメージはあるが、受け入れることについては特に何もない場合。これは発動する判定となった場合、イメージが変化に影響してきます。霊的能力のある場合は、その強さに応じて影響を受けない確率が上昇します。
・そして『女性らしさ』のイメージはあるが、受け入れることについて拒否している場合。霊的能力がなければ、ほぼ100%の確率で変化が起こり、イメージがそれに影響してきます。霊的能力のある場合は、その強さに応じて影響を受けない確率が上昇します。
・最後にその他の場合。霊的能力がなければ、ほぼ100%の確率で何らかの変化がランダムで起こります。霊的能力のある場合は、その強さに応じて影響を受けない確率が上昇します。発動するとなった場合は、何らかの変化がランダムで起こります。
・基本は上の4つですが、例外もあります。今回、その例外に当てはまった方が何人か居られました。あと、身体にフィットするというのはドレスの基本性能でした。
・『アンティークショップ・レン』でのお話はぼちぼちと展開してゆこうと思いますので、どうぞよろしくお願いいたします。……ひょっとしたら、意外な所と関連するかもしれませんけれども。
・巳主神冴那さん、25度目のご参加ありがとうございます。やはりドレス姿での接客はインパクトが大きかったようです。本文でお分かりのように、変化は出ていたりします。
・感想等ありましたら、お気軽にテラコン等よりお送りください。きちんと目を通させていただき、今後の参考といたしますので。
・それでは、また別の依頼でお会いできることを願って。