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<東京怪談ウェブゲーム 草間興信所>


 代表取締役、失踪中につき(前編)
 
 その日、草間興信所へ訪れた理由は、なんということはなく、知人から珍しい珈琲豆を譲り受けたから、だった。
 ふと珈琲好きの草間のことを思い出し、その喜ぶ顔を想像した次の瞬間には、出掛ける支度をしている自分がいる。草間を自分のもとへ呼び寄せても良いのだが、そうなると零がひとりで留守番となってしまう。ふたりを呼べば、興信所が留守になる。どうせならふたりに振る舞おう、ついでに器にも凝ってみようと珈琲豆の他にカップやソーサーといった茶会セットを用意し、バスケットに詰めた。……そう、茶菓子も忘れずに。
 それらを持参して草間興信所へ訪れたのだが。
「はぁ、これから依頼人が……?」
 どうやら、これから依頼人が訪れるらしい。それがわかっているのに、カップやらを広げるわけにはいかないし、そもそも急いで飲むのは味気ない。依頼人の話を聞き、そのあとで珈琲を堪能しても遅くはないだろう。
「ああ。で、用件は?」
「いえ、私のことはお気になさらずに。急ぎではありませんから」
 待たせていただきますよとセレスティは続けた。興信所には既に銀髪の快活そうな青年がいたが、そのあとにもうひとり女性が訪れた。彼女は依頼人ではなく、その次に現れた三十代前半から半ば程度と思われる男、それが草間の言う依頼人だった。
 男は、穏やかな、しかし、慣れた調子で頭を下げる。草間は男に対し、軽く会釈をし、ソファを示した。
「仕事が順調なんですよ」
 そんな言葉から草間と男の会話は始まった。その言葉だけでは、何を調べてほしいのかは、わからない。
「私はとある零細企業……いえ、企業と呼ぶにもおこがましい、小さな、本当に小さな会社の経理を担当しています」
「いや、そこまで小さいを強調しなくても……」
 草間は眉を顰めて言う。確かに、謙遜を通り越して卑下しているとまで思えるほどの言い方。相当に小さい会社なのか、それとも何か思うところがあるのか。
「実は、代表取締役が無断欠勤をしていまして。自宅に電話をかけても、留守。数日前からその姿を見たものはいない……」
「なるほど。会社が倒産、夜逃げにも等しい失踪……よくあることです……と、待て。仕事は順調だと言っていたな……?」
 草間は納得がいかないという顔で小首を傾げる。確かに、訪れてすぐさま、男は仕事が順調だと口にしている。
「ええ。彼がいないので」
 にこやかに男は答える。草間はなんとも言えない顔で言葉に詰まった。
「……。それって……」
「彼は、悪い男ではないのですよ。ですが、それが問題で。馬鹿がつくほど正直なうえに、お人好し。しかも、騙されやすい。お涙頂戴な話に弱く、そのせいで傾くわけがない経営をしていたはずが、今にも潰れそうですよ」
 穏やかかつにこやかに語る男は、そうそうと思い出したように写真を取り出し、失踪中の彼ですと差し出した。草間は戸惑いながらもその写真を受け取る。
「いや、そうにこやかに語られてもな……」
「そういうわけで、彼は会社の経営が危ういからとんずらしたというわけではないと断言できます。それと、姿を消す前に、彼はこう言いました。祖父の家を整理してくる。この土地と館を売れば、少しは返済にあてられるかも」
「そして、祖父の館へと赴き、代表取締役の彼は失踪したと?」
 草間の言葉に男は頷いた。
「失踪できるほどに館は広いのか?」
「扉を入り、ホール。正面に階段。その両脇に廊下があり、左側の廊下から中庭へと出ることができます。ホールの右手の扉は応接室へ。左手の扉は食堂。そして、その奥に調理場。階段の右側の廊下を真っ直ぐに行くと右側に扉が三つ、途中で廊下は左に折れ、さらに扉がひとつ。廊下の左側には常に中庭の光景を臨むことができます」
 男の説明を聞き、草間はうーんと唸る。
「つまり、館自体はコの字型をしているということか?」
「そうですね。一階の扉のうちひとつが化粧室。ひとつが浴室。ひとつが物置。廊下を左に折れたところにある扉は遊戯室へと続くものです。二階は客室が四つに書斎と寝室、物置があったと思います」
 それと地下室と屋根裏があったと思いますが、どこに入口があるのか覚えていませんと男は付け足した。
「しかし、失踪できるほどの広さとは思えないな……」
 確かに、ひとつひとつの部屋がそれこそ馬鹿みたいに広かったとしても、話に聞く限りの構造では迷いそうにない。
「ああ、そうそう。ひとつ忘れていました」
 そんな男の言葉に草間の表情が強張る。
「彼の祖父、母はオカルトに傾倒した人だったようです。悪魔を呼び出すだか、異界の扉を開く研究だとかなんとか……正直、私にはちょっとそのあたりはよくわかりません。ただ、反面教師か、彼はオカルトに対し、嫌悪感を抱くというか……否定的です」
「あんたもそうだろうが」
「いえ、否定はしませんよ」
「そうだったな、政府の陰謀なだけだよな……」
 草間が疲れた顔で付け足すと、男はそうですとあっさり頷く。
「とはいえ、根が優しく優柔不断気味な彼ですから、否定というより、認めたがらないだけです。オカルトに遭遇すると、現実逃避傾向がみられます」
「それなら、オカルト万歳な祖父の館で整理をしていて不意に嫌になって逃亡したんじゃないのか?」
 これはあり得るのではないかという顔で草間は言う。が、男は穏やかな表情を微塵にも崩さずに言葉を返した。
「彼の車は庭に放置したままです。それと、そんな館ですから、周囲の人々からの評判はすこぶる悪く、近づく者はいないとか。結構、有名な怪奇スポットらしいですね」
 庭の石像が月夜に飛び回る、肖像画の目が動く、鎧騎士が廊下を徘徊するといった話も聞きましたよと男は付け足す。
「結局、そういう方向に話が進むんだよな……」
 草間はぼやき、嘆くように首を横に振る。結局、人探しではあれど、怪奇系の依頼に分類できそうな内容だった。
「それはそうでしょう。あなたは、怪奇探偵。だからこそ、私はあなたにこの依頼を持ちかけたのですよ」
 とどめを刺すように男は言い、笑う。
「認めたくない……認めたくないが……」
 もう諦めるべきなのか……草間はがっくりと肩を落とし、ため息をつく。それを確認し、男はそれではよろしくお願いしますと頭を下げ、興信所をあとにした。
「なんだか、もう……どうしてくれようという感じだが。とりあえず、依頼内容は祖父の館に乗り込んだまま帰らない代表取締役の行方を探る、だ。依頼者は夜逃げはないと断言しているから、夜逃げの線ではなく、館で行方不明になったという線で調査をするべきなのだろうが……」
 しかし、どう考えても、よほどの方向音痴でも行方不明になろうとしてなれる造りとは思えないんだがなと草間は付け足す。
「どうにもうさんくさい館だが、ひとつ頼まれてやってくれないか?」
 と、言いながら草間は場を見回す。その視線が銀髪の青年で止まった。
「了解です」
 青年は敬礼をしながらにこりと笑う。草間は喜ばしそうにうんと頷いた。次に草間の視線は自分で止まった。セレスティは穏やかな微笑をたたえながら、こくりと頷く。どうやらいつもの如く人手がないらしいし、行方不明になりようがない館で行方不明になる……興味をそそられなくもない。
 そのあとにもうひとりの女性を見つめる。じっと見つめて視線を外さない。やがて、観念したように女性は小さく息をついた。
「館ものって言えば、ホラーが定番よね、そういえば」
 どうやら館の調査にあたる者は自分を含め三人、まずはどこから館へ迫ってみようかと考え始めるセレスティに草間は言った。
「ところで、その手にしているバスケットはなんなんだ?」
 
 実際に館へ足を運ぶ前に、調べておきたいことがある。
 なので、今回、共に調査を行う二人、櫻疾風と田中緋玻には先行してもらった。とりあえず、館の設計図を知りたいと思ったのだが、依頼人は設計図を持ってはいなかった。覚えている範囲で館内地図を書きますかと依頼人は言ったが、それもどうだろう。
 結局、自分で調べることにした。どうせならと現在の館と祖父が持ち主だった頃の館を比べてみたいと思い、調べてみる。
 そういう方面に詳しそうな知人の協力を仰ぐと、大して時間もかからずに必要としていた設計図が手に入った。
「……同じ、ですか」
 手を加えられてはいない。祖父が持ち主であった頃のまま、館は放置されていたらしい。監視カメラといったセキュリティはどうだったのだろうとそちらも調べてみたが、まるでそういったものはなかったらしい。不用心といえば、不用心な話だ。警備や設計については、あまり実のある情報はなかったが、それを調べるうちにひとつ興味深い情報を知りえた。
 祖父は失踪宣告で亡くなったことになっている。失踪して数年の歳月が過ぎ、届け出がされれば、死亡とみなされるということだが、どうやらそれであるらしく、失踪して十年の時を経たあと、そのたったひとり血縁であり、孫である問題の社長が遺産を相続していた。
 そして、今回、館の整理に赴いた社長が行方不明となっている。
 これは偶然なのだろうか。
 もし、祖父が館で行方不明になっているとしたら……それが気になり、ネットで当時の新聞から、失踪についての記事を調べてみる。
「これは……そうですか……」
 画面を見つめ、思わず、呟く。祖父が最後に目撃されたのはその館であったらしい。他の事件に巻き込まれたという可能性もあるが、館で行方不明となったという可能性も多分に考えられる。
 次に館の周囲で特筆すべき事件のようなものは起こっていないかを調べてみた。まずは新聞記事をあたってみたが、新聞に載るような事件は起こっていないらしい。では、観点を変えて、怪奇スポットとしてもそれなりに有名であるらしいから、そちらの方から迫ってみることにした。
 怪奇系、特に洋館についてのサイトを訪問してみると、名前こそ伏せられているが、住所的に問題の館のことだとしか思えない情報が幾つか見つかった。
 それによると、ここ十年ほどは依頼人が言っていたような、鎧が動く、月夜に石像が飛ぶといった目撃談しか寄せられてはいない。ただ、付近住民の口は固く、館について訊ねると逃げてしまうと書かれていることが気になった。
 何か、口にするのも恐ろしく忌まわしい出来事があった……いや、それは今もって続いている、だからこそ、口が重いのではなかろうか……というのは、考えすぎだろうか。
 いや、考えすぎではないかもしれない。
 依頼人の話では、祖父はオカルトに傾倒していたという。悪魔を呼び出すとか、異界との扉を開くとか……それがどのような研究であったのかはわからないということだったが、その研究は、周囲が思うよりも本格的であり、何らかの成果があったでは……?
 そして、その成果と今回の社長の失踪が結びついているとしたら。
 ……急いだ方が良いのかもしれませんね。
 セレスティは愛用のステッキ、そして、館内設計図を手に取ると部屋をあとにした。
 
 社長が行方不明になったという問題の祖父の館へとやって来た。
 二階建ての洋館を囲うものは、蔦の絡まる背の高い壁。開け放したままの門の向こうに前庭があり、そこに背に翼を持つ西洋の悪魔を模したような石像が二つある。その奥に洋館があり、入口の扉が見える。門をくぐり、すぐ右手は背の低い雑草がちらほらとはえた平地で、手入れがされているわけではないが、駐車場というわけでもないそこに、とりあえず停める場所がないので停めておきましたという雰囲気で車が一台だけ停めてある。
 ならば、その隣に車を停めればいいだろうか。セレスティは社長の車であろうその隣に自らの車を停めた。
「さて……」
 二人は既に館の探索を始めているはず。車をおりて館へと向かうには、石像の横を通らなければならない。近づいてみてわかったことだが、台座の上の石像は、どちらも鎖でがんじがらめになっていた。鎖の先端は重厚な錠前がついている。鍵がなければ鎖は外せそうにない。
「……」
 月夜に飛び回るという話は聞いている。鎖は飛ばないために施されているのだろうか。これが悪戯であるならば、随分と凝った話なのだが……。
 気を取り直し、正面の入口へと歩く。
 扉に手をかけ、開く。軋んだ音と共に抵抗なく扉は開き、そっと館のなかを伺う。
 先行している二人はそこにはいないのか、しんと静まり返っている。
「失礼します……」
 誰もいなくても呼びかけることは一応の礼儀。セレスティは小さな声でそう呟いたあと、館のなかへと足を踏み入れる。館内の空気が埃っぽいということはなく、むしろ冷たく、重く、湿っているように思えた。
 依頼人が説明していたとおり、また、自らが用意した設計図のとおり、扉を入ったそこはそれなりに広いホールだった。正面には二人で並んで二階へ向かっても、まだ空間に余裕がありそうな階段が見える。
「緋玻さん、疾風さん、いらっしゃいませんか……?」
 とりあえず、呼びかけ、周囲を見回してみる。
 ホールの左右には扉がひとつずつある。設計図によると、右に見える扉は応接室、左に見える扉は食堂。正面の階段の横にはそれぞれ廊下が伸びていて、ホールからではその奥までは確認できないが、左側の廊下の奥は中庭へ通じる扉へ、右側の廊下はかなり真っ直ぐ伸びたあと、途中で左に折れていることになる。
 とりあえず、ホールで気になるものは、階段の左下にある家具調の大きな振り子の時計だろうか。振り子はまるで動いていないから、壊れている可能性は極めて高い。
 それと、もうひとつ気になるものは、階段の右下の床に転がっている黒っぽいものとその近くにやはり転がっている棒のようなもの。まるで捨ててあるかのように、あまりに無造作に転がっていることが気になる。
 近寄り、なんであるのかを確かめてみる。
 黒っぽいものは、今となっては懐かしい黒電話だった。ただし、何か強い力を加えられたようで、正常な形状は保っていない。見るからに、壊れている。そして、その近くに落ちているものは、水道管のパイプ、所謂、鉄パイプというものだった。
「……」
 近くには電話を置いてあったと思われる台座がある。壁から線が出ているのだが、途中で切断されている。電話から出ている線も途中で切断されていた。
 セレスティは屈み、そっと手を伸ばすと壊れた電話に触れてみた。
 ふっと脳裏に浮かびあがった映像は、何度となく電話に出る青年。依頼人が探してほしいと言っていた社長だ。相手は無言なのか、社長は文句のようなものを口にしたあと、叩きつけるように電話を置く。そして、気がついた。……電話線が切れていることに。
「……はぁ」
 セレスティはため息をつき、電話から手を離した。その後の行動は、読み取るまでもない。目の前にある惨状なのだ。どうやら、社長は逃避するだけではなく、前向きに対処もする(?)らしい。とはいえ、この乱暴な対処の仕方はどうかとも思うが。
 ともかく、社長を探そう。
 まずは、生活するうえで必要だと思われる場所から。設計図によると、ここから最も近いと思われる部屋は、食堂だろうか。暮らしていくにあたり、食はどうあっても外せないだろう。
 振り子時計の前を横切り、食堂の扉へと向かう。途中、簡単に振り子時計を見てみたが、長針も短針も動いていない。壊れているのだろう。
 食堂の扉に手をかけ、開ける。
 一般家庭では、まず使われそうにない長方形のテーブルに、椅子がいくつ並んでいるだろうか。かなりの人数で食事ができそうなそこに、社長の姿はない。だが、食事をしたであろう痕跡を見つけた。テーブルの上にはコンビニの袋、そして、菓子パンとカップラーメンがある。
「メロンパン、クリームパン、アンパンに、激辛キムチ焼きそば……?」
 よくわからない組み合わせだ。並べてあるものを順に読みあげながらセレスティは小首を傾げる。コンビニ袋のなかを覗いてみる。……単二と呼ばれるサイズの電池が入っていた。まだ包みを開けてはいない状態で、使われてはいない。菓子パンの賞味期限を見てみると、まだ賞味期限内で食しても問題はない。
 コンビニ袋のなかをさらに調べると、レシートが入っていた。日付は、一昨日。これで社長は少なくとも一昨日までは買い物ができる状態であったということがわかった。
 ひとつ手掛かりを得たところで、調理室へ行ってみることにした。設計図によれば、食堂から行ける……確かに、ホールへ繋がる扉の他に、もうひとつ扉があった。そこを開けてみる。
 そこそこ広い調理室には、大きめの作業台、わりと大きな水場とやはり大きめな冷蔵庫があった。水場は使われたようだが、作業台は使われた形跡が見られない。食堂にあった菓子パンやカップラーメンといったものから考えても、社長は炊事がまるでできないか、もしくはやる気がない。
 使われた形跡があまりないのでは、調べてもあまり重要なことはわからないかもしれない。セレスティは調理室からホールへと続く廊下へと出た。正面は階段の下にあたる壁、左の奥には中庭へと続く扉があり、右に少し歩けばホールとなる。
「ん……?」
 ホールへ戻ろうとすると、何かを踏んだ。足元を見やると、ボールペンが落ちている。社長が落としたものかもしれない。拾いあげ、手に取る。
 思い浮かぶものは、いろいろと紙に記入している光景。館にあるものを調べては、紙に名前と個数を記入している。どうやら、真面目に館のものを整理していたようだ。
 愛用していたものらしいので、とりあえず預かっておくことにし、ホールへと戻る。階段を何度も昇り降りするのは体力的にも時間的にも無駄なので、一階の探索から終えてしまうことにした。階段の前を通りすぎ、応接室には寄らずに階段の右側に伸びる廊下へと向かう。
 真っ直ぐに伸びる廊下は二人がゆったりと並んで歩けるくらいの広さがあり、右側は壁と扉、左側には大きな窓が連続している。窓から臨む光景は中庭。聞いたとおり、館はコの字型をしているようだった。
 設計図によれば、この廊下にある三つの扉は、手前から小さな部屋、化粧室、浴室となっている。依頼人が言っていた物置というのは、小さな部屋のことなのだろう。物置は生活するうえで必要とは思われないので、通りすぎる。隣の化粧室の扉を開けた。
 大きな洗面台にそれに見合う大きな鏡。個室は奥に二つある。洗面台の上にはドライヤーと電気カミソリがあった。やはり、社長、身だしなみには気を使うらしい。触れて調べるまでもないだろう。その場をあとにし、隣の浴室へと向かう。
 わりと広くとってある脱衣所があり、ガラスの引き戸がある。その向こうはタイル張りの浴室になっていて、シャワー、少し古びた感を受けるが洒落た形ではある浴槽がある。水分は完全に乾いているので、少なくとも今朝、そして昨晩に使われたとは思えない。取り立てて珍しいものはなかったので、浴室をあとにした。
 次に向かった場所は、遊戯室。コの字型をした館の上の部分に位置する場所にある。扉を開けてみると、そこはかなり広い部屋だった。
 全体的に殺風景ではあるものの、ビリヤード台がふたつ、ルーレット、カードゲームなどを楽しむ設備が整っている。壁にはダーツの的もあり、端には小さなカウンターバーのような場所さえ設けられている。グランドピアノも置いてあった。
 入口から最も近いビリヤード台の上に紙が置いてあり、それにはビリヤード台×2、ルーレット台×1……というように、部屋に置かれているものが記入してある。社長が整理を行った証拠といえるものだ。
 全体的に使用されたという形跡はみられない。カウンターバーにあるグラスは年季を感じさせる埃にまみれていた。いくつか置いてあるボトルも、どれも飲めたものではなさそうに思えた。
 とりあえず、これで一階の探索は終わったことになる。あとは二階、寝室と書斎が気になるところだ。
 セレスティは廊下を歩き、ホールへと戻る。途中、上から足音のようなものが聞こえてきた。誰かが二階の廊下を歩いているらしい。そういえば、緋玻にも疾風にも会ってはいない。二人は二階を探索しているのかもしれない。
 館の入口の正面にあたる二階への階段をあがる。わりと広い階段だと思ったが、途中で踊り場にあたる部分から上部は一般的な階段の幅に狭まり、左に折れていた。二階の廊下部分との関係でそうなっているのだろう。
 階段をあがりきり、二階の廊下に立つ。目の前の壁には窓があり、右手は壁で、左手はわりと広い廊下だが、階段がある部分だけは少し狭くなっている。
 設計図によると、まず客室が二つ並び、次に物置らしき小部屋。そこで廊下を左に曲がり、客室が二つ並ぶ。その奥にある扉が寝室で、廊下をさらに左に曲がったところが、書斎ということになる。書斎はちょうど遊戯室の真上にあたるだろうか。広さも遊戯室と変わらないらしい。
 廊下を歩き、寝室へと向かう。かなり廊下を歩いたところで、やっと目的の扉となった。もしかしたら、二人がいるかもしれないと、扉を叩いてから開けてみる。が、二人の姿はなかった。
 広さはそれほどでもない部屋のなかに、テーブルや椅子、クローゼット、飾り棚や書棚がある。書棚に並んでいる本は小説の類で、オカルト関係のものではない。
 ベッドを使っていた形跡はみられるが、社長の姿はやはりない。まあ、ここでみつかるならば、依頼人が興信所に依頼を持ちかけることはなかっただろう。依頼人がその場所を覚えていないと言っていた地下室、屋根裏あたりが怪しいのかもしれない。社長はそこで行われていた祖父の研究の成果に巻き込まれてしまった……もし、悪魔やそういった類のものを呼び出していたのであれば、社長は……いやいや、悪い想像などするものではない。ここは無事を信じて探すべきだろう。
 この部屋で気になるものは……セレスティは周囲を見回す。書棚に並ぶ本のなかに、一冊だけかなり厚みがあるハードカバーの本があることに気がついた。それが少し気になり、そっと手を伸ばす。手に取った本は見た目を裏切る軽さだった。
 本を開く。
 ぱかりと二つに開いた本の中身は、くり抜かれている。そこに不思議な光沢を放つ薄く青みがかった銀色のメダルがあった。手に取り、光に透かす。光に反応し、鮮やかな光沢を放つそれは、美しくはあったが、どこか得体が知れない。
 何かわかるかもしれないと、メダルを軽く握り、探る。思い浮かぶものは、初老の男。その男が普段から身につけていたものらしい。何かしらの仕掛けを動かすための鍵というわけではなさそうで、雰囲気的には加護の願いを込めたもの……護符といったものを漂わせている。だが、何かの役に立つかもしれない。セレスティはこのままメダルを持って行くことにした。
 他にはこれといって気になるものはない。部屋をあとにし、隣の書斎へと向かった。
 
 書斎は設計図上では、遊戯室と同じ広さであり、その上に存在している。
 書斎の扉を叩き、開ける。
 書棚が壁に沿って並び、重厚な造りの机と椅子がある。机の上には持ち運びができる今は懐かしい存在になりつつあるカセットテープレコーダーがあった。そして、奥の書棚の前には疾風と緋玻の姿がある。今、まさに何かをしようとしている状態に見えた。
「こちらでしたか」
 にこやかに声をかける。すると、緋玻もそれに応えるようににこりと笑う。
「あなたもいいところに来たわね」
 そう言った緋玻の隣では疾風が苦笑いを浮かべている。
「?」
 その笑みの正体は、どうやらこれから書棚を徹底的に調べようとしているということにあるようだ……それを悟ったセレスティは、二人をそっと手で制す。こういうものを探すのであれば、自分の力が役に立つはず。
「待って下さい。それならば……」
 セレスティは書棚の本に静かに触れる。誰かが触れた形跡のある本、それは……ぎっしりと詰まっている書棚の本のなかの一冊の前に立ち、すっと手を伸ばすとその本を傾ける。書棚がゆっくりと動き、扉が現れた。
「扉だ! 社長さん発見まであと少し……かな?」
 でも、どうしてわかったんだろうという顔で疾風は自分を見つめている。セレスティは、なんとなくですよと答え、扉を示す。
 扉は鍵がかかっているということもなく、あっさりと開いた。狭い空間に、木製の梯子が屋根裏へと続いている。早速、梯子を使い、屋根裏へと乗り込んだ。
 低い天井のそこにはテーブルと書棚があるだけで、他には何もない。人が隠れられる場所もないので、社長はいないということになる。
「書棚の本は……オカルト関係みたいね……」
 書棚には金額的にかなりのものと思われる専門書の類が並ぶ。それを眺めながら、そのうちの一冊に手を伸ばそうとした緋玻だが、途中でその手を止めた。躊躇うような何かがあったのかもしれない。
「日記発見。なかなか達筆……」
 テーブルの上にあった本を手に取った疾風はぱらぱらとページをめくり、そう言った。しばらくそうやってページをめくったあと、不意に手を止める。
「社長さんの誕生日っていつだろう?」
 本に視線を落としたまま疾風は誰に言うともなく訊ねてくる。
「さあ……わかりませんが……知っていますか?」
 さすがにそれはわからない。セレスティは小首を傾げる。緋玻はどうだろうと見やると、何かを思い出したのか、黒い手帳を取り出した。
「わかった、五月十三日よ。でも……それがどうかしたの?」
 手帳を調べたあと、緋玻はそう答える。どうやら、あの手帳は社長のものであるらしい。どこかに置いてあったか、もしくは、落ちていたか。
「番号は孫の誕生日にするって書いてあるから……この人の孫というと、社長さんだから……あー、でも、他にも孫がいるかもしれないなぁ」
「いえ、いませんよ」
 確信をもってセレスティは答えた。設計図を調べているときに、祖父の孫がひとりであるという情報を得ている。
「じゃあ、五月十三日が番号なんだ!」
「もしかして、あの時計?」
 緋玻が訊ねる。時計といえば……ホールに動いていない振り子時計があったような気がする。あの時計の番号……?
「そう! でも、なんで社長さんの誕生日……あ、それって?」
 疾風の視線は黒い手帳にあった。興味を持ったようで、手帳の中身を覗きこむ。そして、携帯を取り出した。
「社長さん、携帯、持ってるんだ。それなら……あ、圏外」
 社長の携帯番号にかけようとした疾風だが、圏外だと気づき、がっくりと肩を落とす。そのまま取り出した携帯をしまった。
「仕方がないわね。とりあえず、時計の針をあわせてみましょうか」
 
 一階ホールの階段左下にある振り子時計の前へと戻った。
「五月十三日だから……」
 どうやって動かせばいいだろうと疾風は文字盤の長針に指を添えながら、小首を傾げて緋玻と自分とを見やる。
「ゼロ、五、一、三になるのかしら?」
 少し考える素振りを見せたあと、緋玻はそう答えた。
「いえ、五時十三分かもしれませんよ?」
 セレスティは可能性のひとつを口にしてみた。すると、疾風はどちらにするんだと難しい顔をする。それに気づいた緋玻は疾風自身に訊ねた。
「あなたはどう思う?」
「僕は……じゃあ、一、七、一、三にしようかな?」
 その『じゃあ』というのはなんだろうというところだが、とりあえず、意見は揃った。ひとつずつ確かめてみる。まずは、簡単な五時十三分から。かちかちと音をたてながら針が動かされる。五時十三分にあわせられたが、何も起こらなかった。次に、十二時、五時、一時、三時の順に合わせてみる。……何も起こらなかった。次に、一時、七時、一時、三時に合わせてみる。……何も起こらなかった。
「あれー、駄目みたいだ。どうしよう?」
「じゃあ、五、一、三は?」
 緋玻の言葉に従い、疾風は針を動かす。五時、一時、三時。すると、階段の側面にあたる壁がゴゴゴゴゴと低い音をたて、時計が震えた。左側へとまわってみると、壁が動いて通路が現れている。
「やったぁ!」
 階段の側面に現れた通路は、暗い。そのなかを少し進むと、扉があった。そこを開けてみる。ちょうど階段の下の部分にあたるだろうか。どこからか光が差し込むため、うっすらと明るくはあるのだが、やはり、暗い。壁を探るとスイッチがあった。押すと、かちりという音のあと、電灯が点いた。
「これは……」
 狭い空間だった。その床下には赤色で何かが描かれていた。円形に細かな模様のようなもの。魔法陣や魔法円と呼ばれるものに似ている。壁には赤い布、テーブルの上には燭台に蝋燭。そして、ナイフ。怪しげな儀式を連想させる。
「なんか、本格的だなぁ……」
 魔法陣へと疾風が歩いて行く。確かにその言葉どおり本格的だと周囲を見回したあと、再び、疾風の方へと視線を戻す。……いない。
「?」
 通路に戻ったとは思えない。まさか……セレスティは魔法陣を見つめる。そして、そっと足を踏み入れる。と、何か大きな力が働いたような気がした。
 疾風は通路に向かって歩いているところだった。だが、疾風はいるが、部屋のなかにいたはずの緋玻がいない。
 これは。
「あ」
 ふいっと魔法陣のなかに緋玻が現れた。視線がばちりとあう。そのあとで、戸惑うように緋玻は周囲を見回した。
「どういうことなの……?」
「よくはわかりませんが……魔法陣に足を踏み入れたあと……部屋の造りは同じのようですが、微妙に違うような……」
 セレスティは答える。と、通路の奥からゴゴゴゴゴという音がした。暗い通路を覗くと、疾風が壁にあるレバーを引いているところだった。
 疾風に続き、通路を通って外に出る。そこは階段の側面だった。ホールが見える。背後で通路が閉じたことを確認してから、周囲を見回した。
「違う場所というわけではなくて……同じ場所……?」
 緋玻は周囲を見回し、呟く。だが、やはり微妙に何かが違う。全体的に館内が古ぼけているような気がした。しかし、それは陽が落ちかけているせいかもしれない。だが、疑問も残る。長針をあわせたとき、こんなにも夕暮れが近い状態だっただろうか。
「とりあえず、館内を探ってみませんか?」
 この館は今まで探索していた館と形は同じであっても、それ以外は違うような気がしている。あの魔法陣のことを思えば、なおさらだ。あの館を表とするならば、この館は裏……そんな風に思えた。
「そうね……」
 造りは同じ、だが確かに違和感を覚えるそこを手分けして調べてみることにした。が、またもゴゴゴゴゴという低い音が響いた。閉じていた壁が開く音。
 いったい、誰が。
 緋玻も疾風も振り子時計に触れてはいない。
 お互いに顔を見あわせ、開きつつある壁に向かい、身構えた。
 
「あ、皆さん。やっと合流できましたね……」
 少し苦笑い気味の笑みをたたえながら、開いた壁から姿を現したのは背の高い黒髪の青年。確か、名前は柚品孤月。その言葉から察するに、今回の調査仲間ということになるのだが……。
「あなた、どうして……?」
 緋玻に問われ、少し困ったような顔で柚品は言った。
「ええ、実は……草間さんに話を聞いて、少し調べることがあったので遅くなったわけなんですが……」
 柚品の話によると、草間から遅れて柚品が訪れるという連絡が入るはずだったのだが、ここの電話は壊れているし、携帯は圏外。結局、連絡のつけようがなかったということらしい。
「ここへ訪れてみたら、社長さんだけではなく、皆さんもいなくなっていたので、少し、慌てましたよ」
 柚品は言い、改めてよろしくお願いしますと軽く頭を下げる。
「確かに、それは慌てるかもしれませんね。……あ、どこへ行くんですか?」
 祖父が行方不明となり、孫が行方不明となり、それを探しにいった者たちが行方不明となる。次は自分かと慌てるかもしれない。セレスティは柚品に微笑みを見せたあと、正面の入口の方へと歩いて行く疾風に気づき、声をかけた。
「なんか扉が開いてるから、ちゃんと閉めておこうかなって……あれ、車がない……」
 疾風はそう呟くと扉を大きく開けて外へと出て行く。その言葉を聞き、顔を見あわせたあと、扉口から門の方向を眺める。確かに、車はなかった。だが、慌てることはなかった。確信に近い思いを抱いただけだ。
「盗まれた……とは思いがたいわよね……」
 緋玻は呟く。やはりここは似て異なる場所。ふと見れば、石像に鎖はついていない。庭の草はかなり背が高くなり、正面の門は錆びて、片方が外れている。
「足跡があるけど、社長さんのもの……かなぁ?」
 湿りけを帯びた土の上には靴の跡がしっかりと付いている。いくつか乱雑についてはいるが、どれも同じ靴のものであるような気がした。その足跡のひとつを辿ると門の外へと続いている。顔を見あわせたあと、お互いにこくりと頷いた。そのまま足跡を辿るうちに、陽は完全に落ちて周囲は薄暗くなり、そして、うっすらと霧のような、もやのようなものを感じるようになった。
「社長さん、民家のある方へ歩いて行ったみたいだけど……携帯が使えればなぁ」
 楽なのにと疾風は呟く。すると、それを聞いた柚品が言葉を返した。
「洋館の辺りは圏外ですが、町は圏外ではないので……おそらく、この辺りならば使えるかと……」
 もう少し歩かないと無理かなと柚品は付け足す。疾風は携帯を取り出し、眺めた。
「んー、微妙なところ。アンテナ、一本立ったかなー、いや、消えちゃったかなーというカンジ」
 そのまましばらく歩くと、周囲の霧は濃くなり、行く手が見えづらくなってきた。まとわりつくようなその霧は、ただの霧なのだろうが……どうにも鬱陶しい。
「もうかなり町の近くですよね? 先がまるで見えませんが……」
 周囲の霧は一層、濃くなった。乳白色のそれに遮られ、視界が悪い。周囲五メートル程度がなんとか確認できる程度で、距離のある建物は朧気に形がわかる程度だった。
「じゃあ、社長さんに電話をしてみよう」
 その言葉に緋玻は手帳を取り出し、疾風に見せる。疾風は社長の携帯番号を軽やかに押した。呼び出し音が幾度か響いた。
『はい……』
 落ちついた声が疾風の携帯から聞こえてくる。その声を聞き、少しだけほっとした。どうやら社長は無事であるらしい。
「あ! 社長さん?! よかった、助けにきましたよ。ああ、そう、経理さんから頼まれました。今、どこにいるんですか?」
 明るい声で疾風は言う。
『経理……ああ、彼に頼まれて……そうか、よかった、霧が深いから迷ってしまって……それに、なんだかここは……なっ、なんだ、あなたたちは……うわっ』
「え? しゃ、社長さん? 落ちついて、そういうときこそ、落ちついて……せめて、現在位置……あ。切れちゃった……」
 疾風はわりとさらりと言うが、今のその電話の切れ方は、あまり一般的ではない。どう見ても、どう考えても何かあったとしか思えない。
「もう一度、電話をかけてみては?」
 柚品の言葉に頷き、疾風はリダイヤルを押す。呼び出し音が響くが、社長は出ない。社長は無事なのだろうかと思っていると、何か音楽のようなものが聞こえてくることに気がついた。感覚を研ぎ澄ませ、音の方向を探る。
「……こちらの方から音楽が聞こえてくるようです」
 セレスティは方向を示した。微かに聞こえてくるその音楽を頼りに霧のなかを進む。微かな音楽は次第に明確になっていく。携帯の着信メロディであることは間違いない。
「おかしいですよね」
 不意に柚品は呟く。
「もう陽が暮れたというのに……灯が点かない……この辺りには民家がそれなりにあるはずなのに。それに、コンビニも、ガソリンスタンドも……」
 柚品は館の付近のことも調べたのかもしれない。知っているような口ぶりで周囲を見回す。
「あ、誰かいる……」
 音楽がかなりはっきりとしてきたところで、疾風が呟いた。霧のなかに背中が見えてきた。それは地面に転がっている携帯を見つめている。近づくにつれ、同じように背中を屈めて携帯を覗き込んでいる存在が複数であることがわかってきた。
 それは、あまり一般的な光景ではない。地面に落ちて、転がっている携帯電話。危険物ではないのだから、拾ってもいいはずだ。なのに、何も言わずにじっと見つめている。
 嫌な予感がした。
 この場から離れた方がいいような気がする。
 不意に落ちている携帯が留守番電話に切り替わった。疾風の持つ携帯から留守番電話に切り替わった旨を告げる女声が響く。
 途端。
 携帯を覗き込んでいた背中がゆっくりと、だが、示し合わせたように振り向いた。
「……」
 生きている……とは思えなかった。それぞれ違う方向を見ているような眼差し、どこかぎこちない動き。彼らの人数は、自分たちよりも多い。
 やはりこの場は逃げた方がいい。
 他の三人もそう思ったようで、くるりと背を向けている。では、自分も……走るのは……少し辛いけれど。
 だが、ふと不思議なことに気づいた。
 彼らは自分を見てはいない。追撃の姿勢を見せて、追いかけては来るのだが、それは他の三人が対象であって、自分はそれに含まれていないような気がした。
 立ち止まってみる。
 彼らは自分の横を通りすぎていった。完全に自分の存在は無視されている……いったい、これは?
 ともあれ、この場合は別行動はするべきではない。セレスティは三人の背中を追いかけた。
 
 声もなく無言で追いかけてくる彼らをどうにか振り切り(自分はその対象ではなかったが)町から館の方へと続く道へと戻る。
 追いかけてきた彼らは音には敏感のようだが、それほどに動きは早くはない。それに、執念深いと思えるほどに追いかけてはこなかった。
 携帯の傍らに誰かが倒れているということはなかったから、社長はどうにかあの場から逃げだしたのだろう。
「なんか、よく顔を確認できなかったけど……生きているという雰囲気ではなかったような気がするな……」
 疾風は呟く。
「そうですね……生気というものが感じられませんでした……」
 大きく息をつきながら、セレスティは同意した。
「……」
 柚品は無言で何事かを思案している。
「どうしたものかしら……ね」
 緋玻は三人を見つめたあと、霧に覆われている町を見やる。
 確かに、どうしたものか。
 気になることは、彼らが自分を追いかけては来なかったその理由。セレスティはふとメダルの存在を思い出し、取り出した。
「……」
 メダルはセレスティの手のひらの上で、見つけたときと変わらない不思議な光沢を放っているだけだった。

 −前編・完−


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■   登場人物(この物語に登場した人物の一覧)  ■
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【整理番号 / PC名 / 性別 / 年齢 / 職業】

【2558/櫻・疾風(さくら・はやて)/男/23歳/消防士、錬金術師見習い】
【1883/セレスティ・カーニンガム(せれすてぃ・かーにんがむ)/男/725歳/財閥総帥・占い師・水霊使い】
【2240/田中・緋玻(たなか・あけは)/女/900歳/翻訳家】
【1582/柚品・弧月(ゆしな・こげつ)/男/22歳/大学生】

(以上、受注順)

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■         ライター通信          ■
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依頼を受けてくださってありがとうございました。
まずはぎりぎりですみません。本当にすみません。それ以外の言葉がないです。
相関図、プレイング内容、キャラクターデータに沿うように、皆様のイメージを壊さないよう気をつけたつもりですが、どうなのか……曲解していたら、すみません。口調ちがうよ、こういうとき、こう行動するよ等がありましたら、遠慮なく仰ってください。次回、努力いたします。楽しんでいただけたら……是幸いです。苦情は真摯に、感想は喜んで受け止めますので、よろしくお願いします。

はじめまして、カーニンガムさま。
ご参加ありがとうございました。とにかくぎりぎりですみませんでした。深く反省しております(来月は「質を下げずに速度を上げろ」を標語にしたいと思っていますので)
少しでも楽しんでいただけたらと思っています。

今回はありがとうございました。予告したとおり前後編となりましたので、よろしければ後編もおつきあい下さい(後編は4/2の22時頃に開ける予定です)
願わくば、この事件が田中さまの思い出の1ページとなりますように(とはいえ、前編なのでなんだか途中なのですが)